2021年4月30日金曜日

第2644話 ザ・ウイメン・フロム・NY&GZ (その1)

よく冷えた寒梅を味わった、その二日後。

再び「味の笛」にJ.C.オカザワの姿を見ることができた。

この日は元ママ・A子、現ママ・H恵と鼎飲の予定だ。

 

日取りを決めたのはひと月前だったが

当日は外飲みが許される最終日。

明日は緊事宣下となる前夜で本当にスレスレの線。

ここで郷ひろみの「How Many いい顔」、

その2番の歌詞がひらめいたが

大阪の小姑から苦情が舞い込みそうでやめとく。

 

H恵とは16時の待合わせ。

翌週、北陸へ移住するA子はかなり忙しく、

なんとか17時には駆けつけるという。

 

駆け込み飲み会でごった返すアメ横のパトロールを終え、

入店したのはフライング気味の15時半、独りで飲み始めた。

前々日同様にドライのあと、

2杯目のハーフ&ハーフを飲み干す頃にH恵が現れた。

さすがに今日は運動靴を履いちゃいない。

 

彼女もドライからH&Hへの流れ。

その間、J.C.は冷酒に移行していた。

二日前は新潟市の越乃寒梅だったから今日は佐渡の北雪。

この酒に初めて出逢ったのはマンハッタンの「NOBU」。

デ・ニーロ等が出資した伝説のヌーヴェル・ジャポネである。

酒は氷塊を敷き詰めた木桶に

突き刺された状態の青竹に注がれてあった。

 

北雪は1杯だけにして阿賀町の麒麟山に切り替えた。

越後の酒で今一番の気に入りはコレ。

生ビールを飲み終えた日本酒党の相方にも勧めると

好みにピッタリの様子、さもありなん。

 

気がつけば話題はいつの間にやらオペラ。

「ん? いつからオペラにハマッたんだい?」

「何言ってるの、オカちゃんに連れられて行ったじゃない」

「あん? いつ頃のハナシ?」

「‘91年の秋、ブゾーニの『ドクター・ファウスト』が初め」

「なんでまたそんな難解なオペラに?」

「H恵は忍耐強いオンナだからコレはオマエしかいない。

 ほかのヤツでは耐え切れないからムリ」

有無を言わせず同伴したんだと―。

 

メトロポリタン・オペラハウスの南に隣接する、

NYCオペラはメトでやったりしたら

オールドファンがケツをまくる、

不人気な演目にも意欲的に挑んでいたのだ。

やはりどうにもつまんなくて苦しみ抜いた由。

 

ところが、ふた月後にちゃんとフォローしたらしい。

H恵のメトデビューはドニゼッティの「愛の妙薬」。

しかも主役のネモリーノがパヴァロッティと来たもんだ。

パヴァロッティを生で聴いたとあっちゃ

仲間とオペラ談義の際は鼻高々だったことだろうヨ。

 

=つづく=

2021年4月29日木曜日

第2643話 思い出すのは 越後の酒よ

「吉池」での買物を前に「味の笛」。

プラコップに注がれたドライをグイッ!

工場直送だから美味いなァ、ビールは鮮度が命なり。

 

つまみはポテトサラダ。

カオマンガイを小サイズに抑えておいてよかった。

2杯目はドライとアサヒ黒生のハーフ&ハーフ。

他店では味わえぬ至福のノド越しである。

 

そろそろ買物と思いつつも後ろ髪を引かれて日本酒。

ついでに鮭とばチップを―。

このとき、はるか昔の記憶がよみがえった。

あれは90年代の始めだったろうか―。

舞台はこれまたニューヨークだ。

 

ゴルフ&麻雀仲間に○○サンがいた。

今や某新聞社にて大飛躍を遂げられ、

イニシャルでも特定されてしまうため、

○○サンでいくしかない。

 

とある土曜日は1R回ったあと○○宅で麻雀の予定。

そんなケースはいつも気の置けない女性に

飲みものやつまみの世話をお願いしていた。

ホールアウト後、シャワーを浴びて出て来ると

フロントに呼び止められ、J.C.に電話だという。

 

○○宅に着いたM紀からだった。

次話にも再登場するH恵がチーママのクラブ「E」で

そこそこ人気を博していたコだ。

 

「オカザワさん、今ネ、お料理始めたら

 キッチンに日本酒がなくって・・・

 お部屋に一升瓶があるけど開いてないの、

 使っちゃっていいものかしら?」

「ああいいヨ、構わんヨ、開けちゃいな」

 

ほどなく4人の男たちは雀卓を囲んでいた。

キッチンから肉じゃがのいい匂いが流れてくる。

クラブでランチを食べたのでつまみ類はまだ先だ。

 

トイレに立った○○サンがあわてふためいて戻った。

「オカちゃ~ん、勘弁してヨ」

「何、ナニ、どうしたの○○サン?」

「オカちゃんがいいって言ったから

M紀は酒開けたんだってサ」

冗談じゃないヨ、いやマイッたなァ」

 

その日本酒こそ今J.C.の前にある越乃寒梅でありました。

何でも大事な広告主に頼まれて

東京からの出張者が運び込んだばかりとのこと。

 

抜かれたものは元に戻らない。

結局、ポン・チーやりながらみんなで飲んじまった。

図らずも開けられた一升瓶は

その日のうちに空けられました。

 

「味の笛 御徒町店」

 東京都台東区上野5-27-5

 03-3837-5828

2021年4月28日水曜日

第2642話 相盛りのカオマンガイ

1980年代半ば、シンガポールに4年ほど駐在した。

地元のビール、アンカーかタイガーを毎晩飲んだ。

あとはヘネシーやレミーのコニャック水割り。

シンガポールではウイスキーよりブランデーがポピュラー。

日本とは真逆で飲み続けるうち、すっかりブランデー党に―。

 

料理では何といっても海南鶏飯(ハイナンジーファン)。

インディカ米の香りや香菜(シャンツァイ=パクチー)を

まったく受けつけない人にはムリだが

フツーの味覚の持ち主は慣れると必ずハマる。

 

その日の午後、JR神田駅近くにいた。

外出の際は13時過ぎがマイ・ランチタイム。

以前、「FRIDAY」だったかな、昼めしの連載で紹介した、

「東京カオマンガイ」を久々に訪問。

カオマンガイはタイ風海南鶏飯である。

 

おっと、タイのビール、シンハの生があるヨ。

前日、沖縄のオリオンの生を飲んだばかりで今度はタイ。

即刻お願いした。

此処はチキンを蒸し鶏・揚げ鶏・相盛りから択べる。

今は知らないが当時のシンガポールで

揚げ鶏を見かけることはまずなかった。

マレーシアには昔からあったそうだ。

 

ここ数年、シンガポール料理店でも

揚げ鶏を供するようになった。

邪道じゃないかな? ヘンな偏見から回避してきたが

この日は違い、ものは試しと相盛りを選択。

うれしいことに大・中・小とサイズも柔軟、小を通す。

 

蒸し鶏は4種のタレから択べる。

赤―タイの甘味噌・タオチオ

黒―タイの甘い黒醤油・シーユーワン

レモン―ナンプラー入り

岩下の新生姜ダレ―ナンプラー入り

赤をお願いする。

揚げ鶏にはデフォでスイートチリソース。

 

ライスはインディカでなくジャポニカ。

すっきり塩味のスープとともにいただいて満足。

ただ、どちらかといえばシンガポールの海南鶏飯が好き。

黙っていても3種のソースが提供されるしネ。

会計は1420円也。

当店は江東区・木場に2号店がある。

 

夜のための買物は御徒町の「吉池」でするつもり。

あそこへ行けば直営店「味の笛」にて

工場直送のドライ生は必至。

高架下の神田ふれあい通りを抜け、神田川を渡り、

秋葉原の喧騒を逃れておよそ20分。

御徒町のマイ・ブレイクルームに到着した。

 

「東京カオマンガイ 神田店」

 東京都千代田区内神田3-7-8

 03-3255-6055

2021年4月27日火曜日

第2641話 沖縄そばとオリオンビール

かねてよりなじみの文京区・根津をぶ~らぶら。

御用達だった鮮魚店の跡地に日本そば屋が入って久しいが

町唯一の大衆酒場「養老乃瀧」がいつの間にやら

アチラ系中華に取って代わられている。

 

あれっ、こんなところに沖縄料理屋が―。

此処は確か馬肉料理店だったハズ。

先日、ザ・カップル・フロム・ONとの酌交が思い出され、

ふらっとステップインしたのは「ぬちぃぬ島」。

 

おう、オリオンビールの生があるじゃないか―。

さっそく中ジョッキ(650円)をお願いしてメニューを手に取る。

沖縄そば、軟骨ソーキそば、タコライスなど定番のほかに

ランチメニューとして

鳥からカレー、からあげ定食、まぐろユッケ丼も―。

オーソドックスに沖縄そば(850円)にした。

オリオンビールはサッポロ赤星と黒ラベルの中間てな感じ。

 

そばはうどんにも似た細めのちぢれ麺。

コシはあるものの歯に抵抗しない。

ゆで豚厚切り2枚、白ちくわ、紅しょうが、小ねぎが浮かぶ。

おだやかな味わいのスープが秀にして逸。

豚バラ肉もよく、これでチャーシューメンが食べたいな。

 

途中、卓上のこーれーぐすを加えて味変を試みる。

島とうがらしの泡盛漬けだが、かなりの辛さ。

これは入れ過ぎに要注意だ。

とにかくスープが気に染まり、ほとんど飲み干した。

 

接客の女性に訊ねると、

1年前に馬肉専門店をリニューアルした由。

「それじゃ、経営者は同じ人?」

「ハイ、そうなんです」

 

馬肉専門から沖縄料理への変身は

またずいぶんとかけ離れたもんだが

熊本と沖縄はそう遠くはないからネ。

 

根津神社方面に歩く道すがら根津小学校に差しかかる。

実はJ.C.、この小学校を母校とする予定だった。

入学前の身体検査も此処で受けた。

それが急きょ大田区・大森に引っ越し、

根津小はまぼろしの母校と化したのだ。

 

壁沿いに生徒の手になる作品が展示されていた。

1・2年生は揃って葉書サイズのつつじの絵。

3年以上は俳句となり、つつじ、きれいだな、

根津神社のオンパレードと来たもんだ。

無記名ながら6年生に秀句を見つけたので紹介しよう。

 

つつじの井 みつをもとめて とびこんだ

 

なかなかやるもんだねェ、いや、あっぱれ!

 

「ぬちぃぬ島」

 東京都文京区根津1-1-19

 03-5834-2442

2021年4月26日月曜日

第2640話 目赤不動の坂の下

ここ1年、ときたま出向く動坂下の交差点。

文京区・千駄木と本駒込、北区・田端が隣接する場所に

行く理由は一つ、輸入食品専門店「Jupiter」での買い物だ。

この日もそうだった。

 

此処に来ると近所で昼めしか昼酌に勤しむのが常。

前回は「動坂食堂」で中華の五目うま煮をつまみに

熱くて持てないカップ酒だった。

 

今回は地元で人気の町中華「新三陽」を初訪問。

半ラーメン&半チャーハンセット(650円)に惹かれたのだ。

ありそうであまりない半々の組合わせ。

近頃は半チャンラーメンですら重く感じることがあり、

半チャン半ラーくらいの量でちょうどいい。

奥村チヨに「中途半端はやめて」なんて言われそうだがネ。

 

平日の12時半、8席のカウンターは満席。

4席×2卓のテーブルに詰めれば相席可能なれど、

このご時世、無茶はできない。

見てるとほとんどの客がチャーハンか五目チャーハンを注文。

回転が速いからほとんど待たず席に着いたものの、

初老の夫婦二人の切盛り、配膳に時間がかかる。

とてもビールを頼める雰囲気じゃないや。

 

ラーメンは半分ながらチャーハンがスゴかった。

他店のフルポーションに匹敵、いや、それ以上かも?

これを完食したら晩酌に禍根を残す。

でも、頑張った。

 

するとラーメンスープがやたらしょっぱく、一口でギヴアップ。

調理を補佐するオバちゃん、かえしの量をフルと間違えたネ。

細打ち麺をさっさと食べ終え、

チャーシュー・玉子・長ねぎ入りのチャーハンに挑む。

こちらも塩気強いが味わいはなかなか、人気ぶりが判る。

 

しかし、とうとうノドの渇きに耐え切れず、ビールをお願い。

中華鍋をあおっていた店主、振り向いて

「サッポロの赤星ラガーと黒ラベル、どっちを?」

へえ~、サッポロ一筋で赤・黒の二択は極めて珍しい。

よほどのサッポロ信奉者かスタンダールの愛読者だろうな。

きゅうり&大根ぬか漬けと

一緒に運ばれた黒ラベルの旨かったこと。

 

動坂下の「Jupiter」で

バローロ テッレ・ダヴィーノ‘18とタイ産香り米を購入した。

たまたま路傍の旧町名由来案内で見たことに

動坂町は坂上に江戸五色(ごしき)不動の一つ、

目赤不動があるためと判明した。

 

それなら不動坂町じゃないかと思われようが

いつの間にやら“不”が省かれたんだと―。

だけどサ、こんな省略の仕方ってありかい?

不真面目→真面目、不整脈→整脈、意味が真逆になっちまう。

 

J.C.がふた月に一ぺん通うヘアサロンは目赤ならぬ、

目黒不動のおひざ元、最寄り駅は東急目黒線。不動前だ。

今後あの駅を“動前”と呼んでやろうかな?

 

「新三陽」

 東京都北区田端2-1-18

 03-3823-0434

 

Jupiter

 東京都文京区本駒込4-41-4

 03-3824-2431

2021年4月23日金曜日

第2639話 復刻版 三越前の つたカレー

今は昔、中央通り&江戸通りが交わる室町3丁目交差点近く、

建物全体に蔦(つた)のからまるカレーハウスがあった。

袖看板に「インドカリーライス」とあるだけで店名はナシ。

界隈のOL・リーマンは「つたカレー」と呼んだ。

仕方なしにネ。

 

その復刻版を出す店があると聞いたのは最近。

とある午後の昼下がり、軽い腰をスッと立ち上げた。

向かったのは中央区・新川。

日本橋川・亀島川・隅田川に囲まれた、

中洲のような土地柄である。

 

江戸の昔、日本各地から米俵が集積したのは蔵前。

代わりに酒樽が集まったのはここ新川。

20年ぶりの「ラティーノ」は無事に生存していた。

記憶はうっすら残っていても

店内を懐かしむほど覚えちゃいない。

 

メニューに目当てが見当たらず不安になったが

壁にデッカく張り出されていた。

 

復刻版 つたのからまる 三越前インドカリー

辛口1100円  極辛1200

 

極辛に挑戦してみたいけど、途中で必ず後悔する。

おとなしく辛口をお願い。

 

おう、おう、懐かしいたたずまい。

豚肉・じゃが芋・にんじんがゴロンゴロン。

フォーク&スプーンを手にしたとき、

ペギー葉山の「学生時代」が頭の中で鳴り出した。

歌詞をちょいとアレンジさせてもらって・・・

 

♪   つたのからまるハウスで カレーを食した日

  米多かりしあの皿の 想い出をたどれば

  なつかしい味と香り 一つ一つ浮かぶ

  重い事案を抱えて かよったあの店

  春の日の食卓の ポークとクミンの匂い

  桜の散る窓辺 リーマン時代   ♪

    (作詞:J.C.オカザワ)

 

一匙すくって口元に運べば

ん? 旨いじゃないかァ、似てはいても三越前より旨いくらい。

クラッシュド・チリ(砕かれた赤唐辛子)のせいで相当辛い。

赤い模様がちりばめられ、これは三越前になかった光景だ。

 

コールスローみたいなキャベツサラダが恰好のフォーク休め。

福神漬け、皮付き大根漬け、たくあんもどき。

3種の大根の助けを借りながら食べ終えた。  

 

会計時、店主と言葉を交わす。

レシピをゆずり受けたわけではなく、

思い出し出し復刻させ、かれこれ3年になるという。

だのにこのハイレベル、いやはや、あんたはエライ!

店名の通り、夜にはラテンアメリカ料理を供するという。

 

帰り途、気にするところあって三越前まで歩いた。

つたのからまるハウスは痕跡すらとどめず、

そこには三井アーバンホテルが建っていた。

♪ ナンタ・ルチーア! ♪

 

「ラティーノ」

 東京都中央区新川2-7-7

 03-3206-2726