2024年1月31日水曜日

第3461話 洗足池のほとりのビフカツ

前夜、ベッドに入って眠りに落ちるまで
(明日はどこに行こうかな?)
思いを巡らせていた。
そうだ、城南にしよう。
目黒・品川・大田・世田谷あたりが城南である。

JR山手線に乗って五反田。
東急池上線に乗り換え、大田区・洗足池に到着。
駅舎の前に日蓮聖人が足を洗ったという、
洗足池が水をたたえている。

洋食店「クメキッチン」は
駅と池の間を走る中原街道沿いにあった。
カウンターは使われておらず、
テーブル5卓ほどの小体な店舗である。

窓際の2人掛けに座り、
生ビールは有難迷惑のアサヒ熟撰。
仕方なく注文して
普段めったに食べないビフカツをお願い。
何年ぶりか、まったく記憶にない。

首都圏ではポピュラーじゃなくても
関西だと、とてもよく食べられるビフカツ。
浪花の小姑・らびちゃんも日頃、
とんかつ代わりにビフカツを食ってんのかな?

洗足池のビフカツは不出来であった。
デカいばかりでちっとも旨くないんだ。
とんかつのミルフィーユほどではないにせよ、
薄切りを何枚か重ねて揚げられている。
付合せは繊キャベ、きゅうり、トマト、ポテサラ、
ケチャスパで、カツにひたひたのデミグラス。
このソースだけはレベルが高かった。

教訓。
汝、食べつけないものを注文するなかれ。
思いつきで洗足池まで来は来たが
やみくもに遠出する行動からは足を洗おう。
洗足しちゃおう。

食後、せっかく来たので池へ。
ボートハウスの屋上に上がり、全景を臨む。
絶景とはいかないまでも
佳景であることに間違いはない。

池のほとりを歩む。
キンクロハジロとオナガガモが泳ぐが
毎週訪れる上野不忍池に比べたら
数はグッと少なく4分の1程度だろうかー。

洗足池を北に抜け、大岡山駅に向かう。
目黒線で多摩川か、大井町線で尾山台か、
二者択一の心境でした。

「クメキッチン」
 東京都大田区上池台2-30-3
 03-6421-9517

2024年1月30日火曜日

第3460話 ワンコインで名画を3本

文京区の文京シビックセンター(区役所)で
映画上映会があると聞いた。
情報の発信源はオペとも・S田サン。
チケットの発売当日、
12月7日に出向き、2枚手に入れた。

「浮雲」(1955)、「網走番外地」('65)、
「嵐を呼ぶ男」('57)、以上3本をなんと
ワンコインの500円で観ることができるのだ。
それぞれ名にし負う名画ばかりである。

高峰秀子と森雅之を配して
成瀬巳喜男がメガホンをとった「浮雲」は
洋の東西を問わず、評論家やファンの間で
彼のベストと評価が高い。
かく書くJ.C.はそう思わないけどネ。

とにかく暗いんだ。
やたら人が死ぬんだ。
若き日の岡田茉莉子が
加東大介の後妻っていうのも何だかなァ。
とは言え、名画であることは認めたい。

1時間弱のランチ休憩があった。
S田サンを伴ったのは
シビックセンターの斜め向かい「鳥兆」。
その名の通り、夜は焼き鳥居酒屋になる。
当方、まぐろ山かけ定食。
相方、焼き鳥丼を注文した。

ボリュームがあるというか、
ごはんがやたらめったら多い。
小鉢の切り干し大根もたっぷり。
たくあんはちとショボく、
わかめ&豆腐の味噌汁はまずまず。
急いで食べて急いでセンターに戻った。

2本目は石井輝男監督の「網走番外地」。
シリーズ第一作である。
主演はご存じ高倉健だが
何でまた「網走番外地」なのかとも思う。

石井は若い頃、成田の助監督をしており、
その縁なのかなァ。
J.C.は同じ高倉健のシリーズなら
「昭和残侠伝」のほうがずっと好きである。

そして3本目の「嵐を呼ぶ男」。
この一作なくして石原裕次郎は
あれほどの大スターには成り得なかった。
監督、脚本、原作、すべて井上梅次(うめつぐ)。
女優・月丘夢路の夫君は
大ヒットした主題歌の作詞までこなしている。
彼の最高傑作が本作であることに
異論をはさむ者はいまい。

裕次郎映画のマイベストを大スクリーンで堪能し、
ちょいとばかり尻が痛くなったけれど
楽しい一日ではございました。

「鳥兆 春日店」
 東京都文京区小石川2-1-1
 03-3814-6531

2024年1月29日月曜日

第3459話 初めて小津に目覚めた気もする

近頃とみにお世話になっている神保町シアター。
小津安二郎の生誕120年及び、
没後60年記念の特集はすべて白黒映画。
無声の「東京の女」に始まり、「晩春」、
「お茶漬けの味」、「彼女は何を忘れたか」、
「麦秋」、「早春」、「戸田家の兄妹」、
「東京暮色」と計8本も観た。

ほとんどが既観ながら存分に楽しめた。
8本のうちよかった3本は
「晩春」、「麦秋」、「東京暮色」。
「東京暮色」は昔からずっとマイ・ベストだ。
おそらく小津作品ではもっとも暗く、
陰湿でさえあるけれど、好きである。
主役を演ずる有馬稲子のファンだしネ。

小津映画に初めて原節子が登場した、
「晩春」(1949)は心に染み入った。
「麦秋」(’51)、「東京物語」(’53)と合わせ、
”紀子(節子の役柄)三部作”と呼ばれるが
あらためて大きな(でもないけど)スクリーンで
観直して彼女の存在感を実感し、圧倒されもした。

ああそうか、そういうことかー。
小津が彼女を重用した理由が判った。
加えて小津映画に目覚めた気すらしてきた。
自分が若い頃には気づかなかった、
原節子という女優の魅力に触れたのだ。

小津作品のエースで四番は杉村春子。
よく指摘されるけど本当にそうだ。
どこにでも居そうなオバちゃんなんて言われるが
実際あんなオバちゃんはどこにも居ないんだ。
トレードマークの”せかせか小走り”を
心ゆくまで楽しませてもらった。

かつて高峰秀子に「彼女は背中で演技する」と
言わしめ、嫉妬までさせた。
演技力では日本映画史上最高の女優だろう。
もう一人の脇役、浦辺粂子も素晴らしい。
あの声音とセリフ回しは天が授けたものである。
杉村&浦辺抜きで小津を語ることはできまい。

先々週の朝日新聞土曜版、「be 」のアンケート。
”100人に聞きました” みたいなコラムだが
小津と黒澤、どっちが観たい? では
小津 47 vs 黒沢 53 という結果。
どっちも観たい、そんなの決められん、
そんな読者がかなりの数に上ったという。
かく言うJ.C.もまさしくその通り。
最後に二人ののマイ・ベスト3を公表します。

=小津安二郎=
① 東京暮色 ② 晩春 ③ 秋刀魚の味

=黒澤明=
① 椿三十郎 ② 用心棒 ③ 赤ひげ

機会がございましたら、ぜひご覧くださいまし。

2024年1月26日金曜日

第3458話 Zooとも連れて 上野Zoo (その2)

母親のシンシンが中国・四川に帰ってしまったため、
双子のシャオシャオ(兄)、レイレイ(妹)を観察。
「比較的空いてます」ー貼り紙通りにスッカスカ。
平日とはいえ、何でこんなに空いてんだい?
パンダ人気は衰えたのかい?

そうではなかった。
われわれは裏口入園の池之端門からだったが
上野公園の表門から入った客はパンダの入口が逆。
そっちは何と40分待ちだとサ。

たっぷり写真も動画も撮った鶴はニッコリご満悦。
坂を上って東園に移動した。
最初に出くわすのはサル山である。
われらのご先祖ながら
どうもサルという生き物は好きになれない。
でも、観てるとけっこう楽しいネ。

アフリカ勢はゴリラも部屋の中。
インドゾウまたしかり。
スマトラトラは2頭観られた。
コンドル、オオワシ、カワウソなんぞも観て回る。

鶴の様子がおかしい。
疲れ果ててしまい、
「もう一歩も歩けない」なんて言い出す始末。
表門を出たとこにある「スタバ」に入りたいとサ。
「おい、おい、これから1杯飲るのに
 コーヒーはないだろ?」
「座りたいの」
もうちょいガマンをおし。

結局は薬局、上野駅公園口にたどりついたところで
家に帰って行った。
足手まといが消えて自由到来。
アカデミックな上野のお山から
ゴチャゴチャした上野の谷に降りてゆく。

アメ横の人気立ち飲み「魚草」に到着。
若者のグループと同じ卓の片隅に間借り状態。
青森の田酒の冷たいのと
珍しい穴子の刺身を所望した。

思い出すなァ、釜山の海岸沿いの屋台。
あちらで穴子の刺身は実にポピュラー。
NYで生はまぐりがよく食べられるのと一緒。
何だってわれらが同胞は
穴子やはまぐりの生食を避けるのかネ?
不思議なり。

やっぱり冷たいビールが恋しいが
「魚草」はエビスの小瓶のみ。
滞空10分で御徒町の「味の笛」に移動。
プラコップのドライ生をグググイッと飲り、
晴れて帰宅の途に着きましたとサ。

「魚草」
 東京都台東区上野6-10-7
 03-4400-3264

「味の笛」
 東京都台東区上野5-27-5
 03-3837-5828

2024年1月25日木曜日

第3457話 Zooとも連れて 上野Zoo (その1)

遅ればせながらの新年会を兼ねて
Zooとも白鶴と上野動物園に行くこととなった。
上野駅の真正面、マルイで待ち合わせて
Zoo前の腹ごしらえ。

以前、当欄でも紹介したレトロ喫茶「マドンナー」へ。
単身では行けない地下に初めて降りた。
すると高校生だろうか、総勢10人あまりが
たむろしているじゃないかー。
季節はずれの修学旅行といった景色だ。

当方、豚肉生姜焼きライス。
相方、オムライス。
夕方までランチが食べられ、800円均一。
それにキリンラガーの中瓶を2本。
仲良く飲みかつ食べ始めた。

食後のコーヒーをいただいて会計は3100円也。
帰りがけにまだ上がったことのない、
2階を見せてもらった。
あまりレトロじゃない空間に
タバコを吸う客が壁に向かって数人。
何だかケージに入れられた、
ブロイラーみたいだったな。

いきなり上野のお山の坂を上るのが
イヤだってんで表門を避け、
西郷さんの足元を抜けて石段を下る。
そこにはかつて出口専用で
今は入場も可となった弁天門があるが
スルーして弁天堂の脇を通り、
不忍池にやって来た。

鵜の池、ボート池、蓮池と池は3つに分かれる。
鵜の池は Zooの内側、蓮池は夏はともかく、
冬枯れの季節は見るべきものがない。
よって人々はボート池の池畔を歩むことになる。

面白いもので水鳥はそれぞれに縄張りを持つ。
キンクロハジロ、オナガガモ、ユリカモメ、
多少は混じったりもするが
自分たちのエリアを守っているのだ。
数年前にたくさん居たオオバンは
数を減らしてしまった。

メトロ千代田線・根津駅に近い池之端門から園内へ。
鶴は真っ先に大好きなハシビロコウの元へ。
上野のハシビロはけっこう動く。
この日もノッシノッシと歩いていた。

パンダ、パンダと子どもみたいにハシャぐのを制し、
キリン・サイ・カバのアフリカ三兄弟を観に廻るも
揃って中に入っちまって外に出て来ない。
そんならいいやと無視してパンダに会いに行った。

=つづく=

2024年1月24日水曜日

第3456話 刺身と中華の二刀流

本日は恒例の6人会からのスピン・オフ。
6ー2=4人会と相成った。
舞台は京成本線・メトロ千代田線・都電荒川線、
3本の鉄道が走る町屋である。

荒川区在住の飲み助たちに
「荒川区で一番繁華な町は何処だんべ?」
問い掛けると即答する者、しばし長考に沈む者、
スタイルの違いこそあれ、
結局は町屋の名を挙げる。

城北各区を俯瞰してみれば、
練馬区→練馬、板橋区→大山、北区→赤羽、
足立区→北千住と相場が決まっているが
葛飾区だけは一箇所に断定できない。

亀有・金町・柴又・青砥・立石・
堀切菖蒲園あたりがしのぎを削ることになる。
新小岩も有力な候補だが
あの町は葛飾区と江戸川区が
一卵性双生児みたいに並び立ってるからネ。

てなこって当夜、いや、集合時間が15時だから
もろに昼飲みでありますな。
町屋の隠れ酒場「山三(やまさん)」につどった。
J.C.が当店を利用し始めたのはわりかし最近。
それでも町屋でどこか1軒択べと言われりゃ、
迷うことなく「山三」を推奨する。

この店の素晴らしいところは
豊富な品書きのどこを攻めても
まったくハズレがないところ。
とりわけ刺身と中華が傑出している。

一番奥の特等席を抑えてあった。
4人がピタリ納まる掘りごたつである。
3人は生ビール(黒ラベル)、
後輩のN々だけは何と言ったっけかな?
岡山の清酒の熱燗で乾杯。

お通しはメカブだった。
まずJ.C.が注文したのは寒メジナと
みなみまぐろ中とろの刺身。
それに小肌酢と島らっきょうである。

一同、「まいう~!」の連発。
あとはお局が海老フライ、ともクンは豚生姜焼き、
N々はレバニラ炒めと来たもんだ。
いずれも洋食屋や中華屋のレベルを超えている。
殊にレバニラは都内ナンバーワンじゃないかな?
N々なんかお替わりしてやがんの。
どの世界にレバニラお替わりするヤツがいるんだ?

一升瓶にどれだけ残ってたのか判らんが
岡山の酒はカラになって打ち止め。
J.C.はその後も生をガブガブ飲った。
締めのかたやきそばを突ついて
勘定は一人アタマ6200円也。

さっ、これから谷中はよみせ通りの行きつけ、
「G」で飲み直しを兼ねながら
歌いまくるんざんす。

「山三(やまさん」
 東京都荒川区町屋2-4-10
 03-3800-7057

2024年1月23日火曜日

第3455話 江戸川駅をご存じですか? (その2)

初めて降りた都内で一番淋しい江戸川駅。
まさかこんなとこで知り合いに遭遇するとはネ。
遠くでバッタリ出逢うと親近感が湧きますネ。

蔵前橋通りを横断し、JR総武線をくぐり、
千葉街道を真っ直ぐ南西に向かう。
一里塚交差点を越えたところに「芙蓉」はあった。
駅から5分ほどの距離である。

うなぎの寝床みたいな店内は手前に4人掛け3卓。
その先の厨房前カウンターに5席。
カウンターの奥に落ち着いた。
ビールはクラシックラガーの中瓶のみ。
最近、味変したキリンラガーはOKながら
クララガはいまだに苦手だ。
それでも頼んでやっぱり苦く後悔のホゾを噛む。

”本日の得々メニュー” は豚肉とキャベツの味噌炒め。
いわゆる回鍋肉はセットが通常の70円引きの830円。
セットは料理にラーメン・半ライス・おしんこ付き。
思案の挙句、豚肉とピーマンの細切り炒め。
いわゆる青椒肉糸をセットでお願いした。
ラーメンの麺を半分にして貰ってネ。

いや、それでも食べ出があったが
メインもラーメンも水準は高く、
おしんこの大根&きゅうり浅漬けが実に好もしい。
支払いは1500円とお値打ちだった。

さっき来た千葉街道を一里塚へ戻る。
ここからJR小岩駅に通ずるのがサンロード商店街。
小岩で軽く飲み直すつもりでトコトコ歩いた。

小岩に着いたが14時過ぎでは
適当な店がまだ開いていない。
総武線で隣りの新小岩に移動し、
なじみの立ち飲み「しげきん」に立ち寄ると
以前は13時だったのに15時開店に変更したという。

まだ14時40分、20分も待ちたくない。
はす向かいの「みなと屋食堂」に飛び込んだ。
待望のドライ中瓶にキビナゴの南蛮漬けのお通し。
これでつまみはイナッフだけど何か取らねばー。
インドマグロの赤身3カンがあって
これならすんなり食べられる。

滞空15分で勘定は1600円。
お通しが400円だからネ。
総武線と山手線を乗り継ぎ、
本日の振り出し、日暮里駅に戻った。
御殿坂を上り、夕焼けだんだんを下り、
谷中銀座を抜けて、よみせ通りの「G」へ。

江戸川駅で遭遇した彼女。
「名前は知らないけど、ビールをたくさん飲む人」
そう言ったら一発でママに通じたそうだ。
ママが気をきかせてくれ、
彼女の隣りを空けておいてくれた。

この夜はここからが長いのなんの。
互いに何曲歌ったか数えきれない。
調子こいて千春の「長い夜」まで歌っちまったヨ。
黒ラベルの中瓶を7本も空けちまったし。
ハァ~、やれやれ。

「芙蓉(ふよう)」
 東京都江戸川区東小岩3-20-5 
 03-3658-8719

「みなと屋食堂」
 東京都葛飾区新小岩1-43-1
 03-3653-7864

2024年1月22日月曜日

第3454話 江戸川駅をご存じですか? (その1) 

東京在住の読者のみなさんは江戸川区に
江戸川という駅があるのをご存じだろうか?
ほとんどの方はご存じあるまい。

京成本線・小岩駅の一つ先。
目の前に江戸川が流れていて
も一つ先は千葉県・市川市の国府台である。
日暮里から乗った電車を初めてこの駅で降りた。

実は以前からBMしていた日本そば店「大村庵」に
ようやく出掛ける気になったのだ。
遠征先の肩透かしはキツいから
あらかじめ電話を入れた。

「もしもし『大村庵』さんですか?」
「はい、はい、そうです」
「今日はお店開いてますか?」
「それがネ、去年の秋に止めちゃったんですヨ」
オバアちゃんが申し訳なさそうに言うのであった。

こちとら江戸川に行く気満々。
その思いを止めることができない。
いろいろ調べて「芙蓉(ふよう)」なる、
町中華の存在に突き当たった。

そうしてこうして初めての江戸川駅である。
プラットフォームに降り立つ。
東京23区内にこんな寂しい駅がほかにあろうか?
旅愁すら感じさせた。

しばしたたずみ、江戸川の流れを眺めていた。
川の向こうに市川市の国府台駅が見える。
乗降客数は1日5千人あまり。
都区内にある京成本線の駅では
新三河島に次いで下から二番目だ。

取り合えず昼めし。
改札への階段を降りてゆくと、
前方から歩いて来た女性が目の前で立ち止まった。

「あら? 何でまたこんなところにー」
見覚えのある顔ながら、とっさには思い出せない。
「どこでお会いしましたっけ?」
「ほら、あの『G』でー」
谷中のカラオケ・スタジオである。
「あっ、そうだ、歌の上手な方ですよネ?
 松田聖子なんか歌っちゃう」
「ええ、今日もワタシこれから・・・」
「ボクも行こうかな? それじゃ、あとで」
「ハイ、待ってます」
名前も知らない相手と約束しちゃったヨ。

=つづく=

2024年1月19日金曜日

第3453話 遊座大山のスペイン・バル

東武東上線の沿線では
最も活気あふれる町、大山に出没。
駅前の踏切から西に走るハッピーロードを歩む。
再開発の足音が響くものの、
まだまだ町は姿の原型をとどめている。

川越街道にゆき当たってUターン。
駅前に戻り、踏切を渡った。
線路の反対側、板橋区役所に続く商店街は
遊座(ゆうざ)大山と称する。

ちょいと小路に入ったところに
「Spain Bar はるばる」があった。
立て看板のランチメニューを眺める。

海の幸贅沢魚介のパエリア  ¥1300
ポルチーニ茸と
 ほろほろお肉のボロネーゼ ¥1200
本日のパスタ        ¥1000
(すべてスープ・サラダ付き)

大好きなボロネーゼ。
しかもポルチーニとあらば、
そこに落ち着くのが当然なんだが
此処はスペイン・バルである。
イタリアンよりスパニッシュでいきたい。
パエリアをハートランドの生とともに通した。
ちなみに本日の気まぐれパスタは
豚バラ&キノコのクリームだった。

店はオニイさん一人の切盛り。
先客はゼロである。
オモテを見ていると人通りが少ないながらも
立ち止まってメニューをのぞく人も数人。
でも、誰一人入って来なかった。

ポテトサラダにはパプリカとサニーレタス。
スープは野菜コンソメで黒オリーヴの薄切り入り。
どちらも丁寧に作られている。
これならパエリアもいいんじゃないかな?

はたして贅沢魚介を謳うだけあって具材は豊富だ。
アルゼンチン赤海老が3尾。
ムール貝とアサリが2個づつにイカも数片。
作り置きではなく注文後、調理を始めるようだ。
さすがにライスだけはあらかじめ炊かれている。

美味しくいただいてお勘定。
「1300円になります」
「あれっ、ビールは?」
「あっ、そうだ、1800円です、すみません」
初めから最後まで客一人なのに
チャージし忘れるかネ。

東武東上線で大山から池袋、
あるいは都営三田線で板橋区役所から巣鴨。
どのみち真っ直ぐは帰ることはござらん。

「Spain Bar はるばる」
 東京都板橋区大山東町39-2
 03-6915-5255

2024年1月18日木曜日

第3452話 エゾ鹿と 相性よろしき ガルナッチャ

太陽に向かって歩く旧早稲田通り。
ほどなく早稲田通りにぶつかり、
進路を東に取った。
警察病院の辺りで回り込む。

此処はかつて陸軍中野学校があった場所だ。
市川雷蔵主演で大映が撮ったシリーズ映画は
とてもデキが良く、時代劇スターの役域を
大きく広げることにつながった。

中野駅前のガードをくぐり、レンガ坂を上がる。
中野で一番雰囲気のあるスポットである。
中野に来ればほとんど毎度顔を出す、
「vivo daily stand 中野本店」へ。

都内に数ある「vivo」は女性限定で
ドリンク2+デリ1、
あるいはドリンク1+デリ2の3点セットを
¥1210で提供するが
本店だけは男性客もOK、ソレをお願いした。

「vivo」は常にどこかに行く前か、
行った帰りに立ち寄るため、
J.C.的にはドリンク3+デリ0が
ありがたいけれど、そいつは不可。

ハートランドの生とエゾ鹿のパテを所望した。
英語名はヴェニスン・パテ。
鶏肉がチキンで豚肉がポークなら鹿肉はヴェニスン。
胃に負担のかからない海老のビスクにしよう。
一瞬、そう思ったものの、
エゾ鹿に惹かれるものがあった。

うわっ、けっこうデカいのが
粒マスタードを従えて供されたヨ。
量的には「らせん屋」の仔羊バーグくらいある。
さっきのバーグはあまりラムラムしくなかった。
ところがこれは強烈に鹿々(しかじか)しい。
つい、赤ワインが欲しくなった。

スペインのガルナッチャ(仏のグルナッシュ)をー。
すると野性味あふれる1杯は
オー・マイ・ディアー(dearじゃなくてdeerだネ)!
鹿クンと相思相愛、ピタリ寄り添うじゃないかー。

壁に1枚の木札が掛かっている。

=ビーボのマナー=
 スケベ 厳禁  久遠 寄贈

ハハ、笑かすなァ。
こういうところはナンパ師だらけなんだネ。

いろいろ楽しんで会計は前記の通り1210円。
現金で支払おうとするとバーテンダレス曰く、
「キャッシュレスで電子マネーのみの受付けなんです」
「そういうの苦手なんだよネ。
 じゃ、USドルでー、おっと、これも現金かー」

スイカを差し出しながら
「前からこんなだったっけ?」
「いいえ、本店と都内ではあと2軒がここ最近」
「ハハ~ン、従業員が悪いことしちゃったんだネ」
「アハハ、けっしてそんなワケじゃ・・・」
カウンターに並んだほかの客たちも
いっせいに笑い声を立てたのでした。

[vivo daily stand 中野本店」
 東京都中野区中野3-35-6
 03-5888-5476

2024年1月17日水曜日

第3451話 舌に響いた 仔羊バーグ

西武新宿線を下車したのは杉並区・下井草。
時刻は12時半を回ったところである。
飲食店が少ない土地ながら
洋食の「らせん屋」が人気と聞いた。

洋食と書いたものの、
いわゆる ”にっぽんの洋食” とは異なり、
日仏伊の混合トリプルスといった感じ。
ランチメニューをザッと紹介しておこう。

新鮮野菜と豚しゃぶのサラダ   ¥1100
アサリのボンゴーレ・ビアンコ  ¥1100
ラム肉と野菜のカリー      ¥1380
ビーフハンバーグ・ステーキ   ¥1780
仔羊のハンバーグ・ステーキ   ¥2180
仔羊のメンチカツレツ      ¥2400
スズキのポワレ バジル・トマト ¥1980    

仔羊のハンバーグをお願いする。
チーズ&デミグラス、又は
南欧風(バジル&トマト)の2択。
サザン・ユアロップを択んだ。

そうしておいてビールの銘柄を訊ねると
好みの銘柄の生で、接客係の女性に
「泡のぶん目減りしても構わないから
 泡ナシでお願いできるかな?」
「ハイ、かしこまりました」

1分後に戻って来た彼女。
「こんな感じでいかがでしょう?」
見れば、完全泡抜きが
ジョッキにほとんどイッパイ、いっぱい。
「ありがとう、サイコーだヨ」
「良かったです」
喜色満面のJ.C.、すぐにお替わりしたのでした。

彩り豊かなサラダは上々、期待値が高まる。
主菜のラムバーグはその期待に応えてくれた。
さほどラムラムしくはないが旨味が舌に響いた。
マッシュドポテトとブロッコリのガルニが好く、
クリスピーなバゲットも🌸マルである。

よそのテーブルに小さなカップが運ばれる。
「あれはエスプレッソ?」
「いいえ、サービスのホット・ティーです」
コーヒーのあとにJ.C.にもサーヴされた。

飲んでみると、何かのフレーバーが香り立つ。
あまり口にしたことがないから
当てずっぽうで訊いてみた。
「紅茶はカモミールかな?」
「いいえ、違います、マンゴーです」

会計は3600円ほど。
晴れ晴れとした気分で腹ごなしの散歩。
旧早稲田通りを南下して行った。
目指すは中野区・中野であります。

「らせん屋」
 東京都杉並区下井草3-39-16
 03-5310-4804

2024年1月16日火曜日

第3450話 病院帰りに分け合う昼食

お待たせしてすみません。
PCの設定を間違えました。
遅ればせながらお届けします。

住まいの近所の知り合いで
ときどき言葉を交わすY本サン。
彼女も白内障の自覚症状があるそうだ。
根津の眼科を紹介したら
そこで診察を受け、やはりそうだったとのこと。

J.C.が今もときどき通う日医大付属病院。
その定期健診に連れて行ってほしいと言う。
いろいろ慣れておきたいらしい。
その帰途、一緒に昼めしを食べることにー。

病院のはす向かいにある「つつじ屋」に入店。
以前は「夢境庵」なる日本そば屋だった店だ。
近くの根津神社にちなみ、権現そばがウリだったが
いつの間にやら和食も供する茶店に生まれ変わった。
こちらの屋号もつつじの名所、根津神社に由来する。

当方、豚の生姜焼き定食(1030円)。
相方、つつじ屋御膳(1480円)。
中瓶のハートランドを注ぎ合い、
カチンとグラスを合わせた。

豚肉はロースが6枚、玉ねぎとともに炒められて
貝割れ大根が散っており、脇には繊切りキャベツ。
横長の白い皿にはポテサラ、ひじき、
厚揚げ&切り昆布煮が盛られている。
刻んだ万能ねぎだけでほとんど具ナシの味噌椀。
そして茶碗に盛りの少ないごはん。

一方の御膳はお盆に所狭しと小鉢が並んでいた。
デザートのわらび餅も含めて全8種もあった。
主菜の焼き魚は3種から択べ、
鮭塩焼き・鯖塩焼き・赤魚粕漬の陣容。
彼女は鯖をチョイスしたが
こいつがデカいのなんのっ。

仲良く二人で分け合った。
御膳のおかずの玉子焼きと茄子の煮びたしが好い。
ポテサラの食感が変わっている。
彼女曰く、卯の花のパウダー入りとのこと。
へえ~っ、そんなのあるんだ。

あちらは日本茶に移行したが
こちらはまだ飲み足りない。
生ビールはアサヒのマルエフ。
近頃、TVのCMで盛んに流れる、
「おつかれナマです」
アレですな。

泡のぶん目減りしても構わないからと
泡ナシでお願いしたら
ホントにゴッソリ空間ができていた。
おい、おい、そこまで減らすんか?
ちと癪に障ったが自分の口から出た言葉。
文句は飲み込み、
生ビールも飲み込んだのでした。

「つつじ屋」
 東京都文京区弥生1-6-4
 03-5615-9377

2024年1月15日月曜日

第3449話 最初はグーな串かつで

日暮里駅のロータリーに面する「又一順」は
以前ほどではなくともちょくちょく寄る中国料理店。
その裏手にとんかつ屋があるのは認知しており、
未踏だったため、訪れてみた。

「とんかつ専門店 しみず」は
手前に湾曲したカウンター。
奥に4卓ほどのテーブル。
単身者はカウンターに促される。

本日のランチは串かつ定食。
コロッケやメンチかつなど1000円の定食が
ランチになると50円引きの950円となる。
本日のランチをドライ中瓶とともにお願いした。

ビールにはきざみタクアンがホンのちょっと付く。
皿にはわりと小ぶりの串が2本。
繊キャベに加え、トマト・きゅうり・レタスも。
あとは大根・にんじん・ごぼうの根菜トリオに
賽の目に切った豚バラがたっぷりの豚汁。
そしていかにも自家製の白菜漬け。

丁寧に作られた串かつがとても好い。
殊に少食派にはネ。
驚いたのは豚汁の豚肉の柔らかさで
どんなシゴトを施したのか、口どけがよろしい。
白菜漬けも漬かり加減が最高。
この2品だけをおかずに
ごはんがペロッと食べられるくらいなのだ。

翌週、ロースかつ定食(1200円)のために再訪。
悪くはないけれど、串かつが好すぎた。
でも、当店の一番人気はやはりこれで
客の半数が注文している。
このとき近くの客が通した、
かきフライが実に美味しそう。

そのまた翌週、3度目の来店。
狙いはもちろんかきフライ定食(1400円)。
揚げられる様子をつぶさに目撃していた。
かきを2個づつ抱き合わせ、
生パン粉をまとわせて油に投入。
遠目にもカラリと揚がっているのが判る。

フライは5つ盛られていた。
コロモがサクッと立ってグンのバツ。
いつも通りのキャベツ・トマト・きゅうり・レタスに
カットレモンが1片、そしてタルタルではなく、
特製マヨネーズが添えてあった。

最初はグーな串かつで始まった ” しみず通い ” 。
晩秋から早春にかけてはかきフライ。
そのほかのシーズンは串かつでキマリだ。
ただし、次回はオムレツ定食(1000円)に
トライする腹積もりでいる。

プレーンオムレツなんだが
豚汁と白菜漬けがあるから
独りで食べてもこわくない。

「とんかつ専門店 しみず」
 東京都荒川区東日暮里6-60-10
 03-3806-6678

2024年1月12日金曜日

第3448話 びっくり下谷の神社裏

おそれ入谷の鬼子母神
びっくり下谷の広徳寺
どうで有馬の水天宮

昔の人は無駄口の洒落のめしを楽しんだ。
現代のお笑いにはないセンスの良さを感じる。

てなこって、今回の出没は下谷。
昔は上野に対して下谷。
台東の地では上野に匹敵するほどの、
権勢を誇った下谷だが
今となっては根岸と入谷の間の狭い区域に
1丁目から3丁目があるだけだ。

広徳寺も練馬の外れに追いやられ、
跡地には台東区役所が建っており、
台東区に乞われて土地を明け渡したとのこと。
ちなみに地番は下谷から
東上野に改称され、何とも味気ない。

区役所のはす向かいに浅草通りを挟んで
立派な鳥居を構えた下谷神社がある。
都内最古の稲荷神社で
日本最初の地下鉄、銀座線の稲荷町は
この神社に由来する駅名だ。

神社の裏手にあるのが「レストラン・ベア」。
エリアのOL&リーマンの支持を得ている。
料理を2品盛合せるのが当店の常套手段。
J.C.は何度も利用しているが「生きる歓び」で
紹介するのは初めてじゃないかな?

昼の訪れが圧倒的に多く、その日もランチ。
サービス定食(B)の内容は
かきフライ&豚肉生姜焼きに
ワカメの味噌汁とライス。
ドライの中瓶を忘れずにー。

取り立てて旨いというんではなくとも
いつも満足感にひたれる。
昔ながらの洋食は過不足を
感じさせないところが静かな魅力だ。
地元にしっかり根付いていて
13時を過ぎても客足は衰えない。

今回、久しぶりに訪問して気になったのは
フロアとレジを取り仕切っていたオヤジさんの不在。
「オヤジさんはどうしたの?」
訊けばそれで済むことながら
こういうのって訊きにくいものなんだ。

ライス少なめでお願いしたが
ボリュームのある料理が残ったため、
ビールをもう1本追加した次第です。

「レストラン・ベア」
 東京都台東区東上野2-2-9
 03-3831-6430

2024年1月11日木曜日

第3447話 人世 ” 最硬 ” の焼き鳥

今宵の晩酌は墨田区・菊川。
目当ての店があったのだが到着してみると
コース料理主体でサクッといけない感じ。
よって近くの「まつば屋 心平」に移動。
こちらはグッとカジュアルな居酒屋である。

止まり木に止まると先客は一人のみ。
妙齢の女性がお銚子を手酌で飲んでいた。
ドライの中瓶を通し、品書きを吟味する。
メインは焼き鳥のようだが
刺身もそこそこの品揃えだ。

最初に目についたのは ” 小肌とガリ ”。
” ガリ ” が ” がり ”に見えてしまい、
” 小肌とがり ”じゃ、いったい何のことやら?
ずいぶんとんがってんじゃん、
と思ったものの、小肌と漬け生姜なんだネ。

箸袋がとても可愛い。
” おなじさくなら あなたのそばで ”
言葉の脇に咲く薄いピンクの花はコスモスかな?
いや、ひなげしだな。
当然、アグネス・チャンが歌い出すが
浪花の小姑が黙っちゃいまい。
「正月早々、何事やねん?」
苦情が舞い込むのでやめとく。

しかも花はひなげしではなかった。
ひなげしはオレンジの花をつけるそうだ。
よってこれはポピーということにまる。
ケシの世界もいろいろあるんだなァ・・・。

小肌とガリは小肌だけのほうが
うれしいけれど、お願いしてみた。
酢〆の小肌の細切りに
きざんだ生姜と大葉がまぶさっている。
それほど期待しなかったわりに悪くなかった。

芋焼酎の一刻者<赤>を所望すると女将さんが
「甕入りもありますヨ」
「へえ~っ、珍しいな、美味しいの?」
「甕のほうがまろやかなんですってー」
「ふ~ん、じゃ、ロックでお願いします」
言われてみれば、まろやかなような気もした。

そうしておいて焼き鳥をー。
ねぎまとハツとを塩、レバーをタレで1本づつ。
うん、じゅうぶんに水準に達している。
珍しくも親鳥正肉があって
その珍しさに塩とタレ、計2本も頼んじまった。

いや、マイッた。
歯は丈夫なほうだが、とにかく硬いのなんのっ。
歯が立たないってのはこういうことだ。
どうにか1本やっつけたが
アゴが疲れて2本目はどうにも食指が延びない。
長いこと焼き鳥を食ってきたけれど
人世最高ならぬ、” 最硬 ” の焼き鳥が此処にあった。
いや、マイッたヨ。

「まつば屋 心平」
 東京都墨田区菊川2-5-7
 03-6327-0416

2024年1月10日水曜日

第3446話 とげぬきで 棘を抜かずに 息を抜く

陽光うららかな昼下がり、巣鴨地蔵通りを歩む。
萬頂山高岩寺、通称とげぬき地蔵前の通りだ。
朝は紅茶だけだったので空腹感はあるが
1軒でガッツリ食べる気にはなれない。
2軒は立ち寄りたい。
とげぬきで棘を抜かずに息を抜くつもりなり。

通りを北上して都電荒川線・庚申塚に到達。
ここでUターンし、目星をつけた店へ戻る。
1軒目は「巣鴨ときわ食堂 庚申塚店」。
高岩寺はす向かいの本店は母親、
こちらは息子が取り仕切る。

ドライ大瓶を飲みつつ、メニューをながめる。
当店の名代でありながら
未食の海老フライ(510円)を1尾だけ通した。
タルタルソース(90円)を付けてもらう。

J.C.はここのタルタルが好きで
そのままつまみにしたり、
味変用にきゅうりの一本漬けにも添える。
初めて食べる大ぶりの海老はなかなかだが
それほどの逸品とも思えない。
タルタルをお替わりし、
ビール1本で切り上げた。

そのまま地蔵通りを南下してゆく。
2軒目は「みょうが屋」。
食堂兼居酒屋である。
ドライ中瓶と3個付けのかきフライを通す。

さっきの海老との食べ比べだが、かきに軍配。
これはどちらが旨いかの問題じゃなく、
単に海老より、かきが好きなだけ。
子どもの頃からずっと変わることがない。

「みょうが屋」の二枚看板は
もつ鍋と半田そうめん。
どちらかいっておきたい。
独り身に鍋は持て余す。
そうめんのすだちぶっかけをお願いした。

半田素麺は徳島県美馬郡旧半田町の特産で
ルーツは奈良の三輪そうめん。
冷や麦ほどの太さがあり、強いコシが特徴である。

どんぶりいっぱいに広がる、
すだちの輪切りを数えてみたら12枚もー。
うち3~4枚は食べちまったヨ。
主役のそうめんも美味しくいただいた。
朝飯を抜いた甲斐があったというものです。

「巣鴨ときわ食堂 庚申塚店」
 東京都豊島区巣鴨4-33-2
 03-3576-2269

「みょうが屋」
 東京都豊島区4-29-1
 03-5944-5900

2024年1月9日火曜日

第3445話 サックスが 奏でる無声の 安二郎 (その2)

房総ポーク煮込みカレーが無いなら
房総ポークカレーにするほかない。
うん、辛さと酸味が調和して
なかなかの美味を生み出している。

ただし、ライスもルウもけっこうな量。
ライス少な目にすべきだった。
大根のピクルスを活用しつつも
途中でちょいと飽きてきた。

切盛りはインド人もしくは
ネパール人のオジさん独りきり。
残したら彼を落胆させるので
かなり頑張ってどうにか完食した。

映画まで時間はたっぷり。
晩酌のつまみを調達し、いったん帰宅した。
しばらく身体を休めて再出発。
開場30分前に到着するとすでにチケットは完売。
先刻買った自分の整理番号は99席中56番。
1番~5番、6番~10番と
5人づつ入場してゆくシステムだ。

サックス奏者は竹内理恵さんという若い女性。
短い音合わせの末に上映開始である。
岡田嘉子と江川宇礼雄扮する姉弟が画面に現れた。
岡田嘉子は年末に寅さん映画で観たばかりだが
「東京の女」はその42年も前の作品だ。

ドイツ人の父と日本人の母との間に生まれた江川は
小津安二郎の初期の作品では
岡田茉莉子の実父、岡田時彦とともに常連。
小津はバタ臭い面貌の男優を好んだ。
逆に女優では常連中の常連、田中絹代をはじめ、
飯田蝶子、杉村春子など醤油顔がお気に入り。

いや、原節子や岩下志麻はそうでもないし、
岸恵子、山本富士子、司葉子、
有馬稲子にいたっては醤油じゃなくて
むしろソースだけれど、稲子の2本以外、
3人はそれぞれ1本づつしか出演していない。

肝心の「東京の女」だがデキはよくなかった。
パンフレットには嘉子が緊張感たっぷりに
主演した絶品サスペンス、とあっても
サスペンスと呼ぶにムリがあるネ。
竹内さんのサックスは効果的で
スクリーンに緊張感を与えていた。

それでも嘉子の美しさは際立っていて
心奪われるものがあった。
恋多き女を待ち受ける過酷な運命。
その悲劇に思いを致すと胸が熱くなる。

一時期、帰国していた彼女は結局、
ソ連での生活を択び、
再び渡航して二度と帰らない。
逃避行の相手、杉本良吉は拷問の果てに
2年後、銃殺刑に処せられた。
嘉子がその事実を知ったのは
ずっとあとのことである。

「カレー食堂 たんどーる」
 東京都千代田区神田神保町1-25-5
 03-6811-0623

2024年1月8日月曜日

第3444話 サックスが 奏でる無声の 安二郎 (その1)

三が日はただひたすら飲んだだけ。
いや、能登の大地震とそれに誘発された、
羽田の大事故に釘付けの日々だった。
亡くなられた方々のご冥福を心より祈ります。

かような悲劇で始まったエンター・ザ・ドラゴン。
どんな一年になるのか知れたものではない。
気を取り直したところに神保町シアターで
”フィルムでよみがえる 白と黒の小津安二郎”
その特集が始まった。

さっそく出向いたのは
岡田嘉子主演の無声映画「東京の女」。
珍しくも生サックスの伴奏付きである。
通常の上映とは異なり、
かなりの人気を博すものと想像された。

切符は当日売りのみ。
よって開場の4時間前に窓口にて購入。
そうしておいて腹ごしらえだ。

最近、神保町シアターはほぼ行きつけ。
近くに行列の絶えない店が2軒ある。
てんこ盛りの「ラーメン二郎」と
これまたデカ盛りの「キッチン南海」だ。
どちらもわが身には無用の長物だがネ。
普段から繁盛して儲けているせいか、
正月休みをたっぷり取って、ともにまだ休み。

シアター通いのおかげで見つけた、
「カレー食堂 たんどーる」に初めて入った。
メニューはかくの如し。

★  房総ポーク煮込みカレー ¥1200
🌸 プレーンカレー     ¥ 600
🌸 季節の野菜カレー    ¥ 750 
🌸 国産地鶏カレー     ¥ 800
🌸 房総ポークカレー    ¥ 880

房総ポーク煮込みカレーに謳い文句。

=当店自慢のカレー=
房総ポークのバラ肉を塊で
とろとろ煮込み、仕上げは
独自のマサラとお醤油で !!

ふ~ん、そうなんですネ。
値段からしてかなりのボリュームだろうが
挑んでみる価値はありそうだ。

決断して券売機の前に立ったら
そいつだけ売切れだとサ。
推測するにこれは売切れではなく、
休み明けでまだ仕込みが
間に合わないものと思われた。
自慢の一品から仕込んだらどうなのヨ。

=つづく=

2024年1月5日金曜日

第3443話 歳末の 救いの神は 日本そば

令和5年最後の日、外食納めに出掛けた。
ほとんどの店舗が休業する大つごもり。
救いの神は日本そば屋だ。
まったくもって年越しそばサマサマである。

なるべく人出の少ない町に行こう。
最後の最後に新店開拓もないものだから
かつてお世話になったのに
しばらくご無沙汰している店にしよう。

思いついたのは葛飾亀有。
言わずと知れた”こち亀タウン”だ。
北口ロータリーを突っ切り、北上してゆく。
9年ぶりの訪問になる、
「そば処 花かご」の地番は足立区・中川。

往時、とあるミッションで
隣りの金町にはたびたび、
この亀有にはときどき出没した。

ドライ大瓶のお通しはブリ大根。
そこそこの高さの円筒形が湯気を立てている。
ブリの小片も二つほど、これはうれしい。
チェーン居酒屋なんぞは
逆立ちしてもできない芸当だ。

記憶が確かなら此処はそばよりも天丼が好い。
コロモがとてもユニークで
サクサクの揚げ切りが軽やかなのだ。
迷わず天丼セット(1200円)を通す。
組合わせのミニざるの海苔を抜いてもらい、
ミニもりバージョンでお願いした。

四角い重箱に一緒盛りで登場。
たぐったそばはやはりフツー。
つゆもごくフツーだから
池之端の行きつけとは比べるべくもない。

目当ての天丼の内容は
海老・キス・ナス・ししとう・ピーマン・さつま芋。
記憶通り、コロモが個性的。
海老にはタップリ付いてるが全然気にならない。
それどころか海老本体より、
コロモの方がイケるくらいなのだ。
味噌汁はワカメ&千本しめじ。
香の物がタクアン&しば漬け。

お勘定は1850円也。
ブリ大根付き大瓶が650円は安い。
会計時、女将さんに
イチゴミルク・キャンディーを1粒もらった。
そいつを舐め舐め、
小春日和ならぬ、小夏日和の下を
綾瀬に向かって往きました。

「そば処 花かご」
 東京都足立区中川4-25-6
 03-3629-7529

2024年1月4日木曜日

第3442話 年の瀬の 築地と銀座を ハシゴする (その4)

熱燗にマッチするとも思えぬ蟹サラダを追加。
J.C.的には「三州屋」の必食アイテムがコレ。
原価高騰で今は無き一丁目店(支店)では
品書きから消えた蟹だが
さすがに本店の矜持、変わらず載せている。

大皿にずわい蟹の脚肉6本。
トマト・きゅうり・レタス・パセリに
特徴的なのは大量の玉ねぎ。
いわゆるオニオンスライスより厚めの切り口だが
白玉ねぎにつき、口当たりは柔らかい。
ドレッシングはサウザンアイランド風。

蟹は生酢に生醤油を数滴垂らして食べるのが
J.C.風ながら、立て混む時間に余計な注文は
スタッフのリズムを崩す、努めて自重した。
カタチの良い正肉が6本も付いて
1300円はお値打ちというほかない。

左隣りのリーマンがすべて食べ終えた。
食欲に圧倒されたが彼はまだ終らなかった。
エビス大瓶をお替わりし、
金目鯛煮付け定食でごはん大盛りだとヨ。
先刻からチラチラ横顔を盗み見していたが
今度だけは露骨に直視する。

しかも定食の味噌汁を当店の名代、
とり豆腐に差し替えやがんの。
スゲえ! いや、ものスゲえ!
敵ながらあっぱれ、いや、敵じゃないけどネ。

左ほどではないにせよ、
右隣りのオバアちゃんもよく食べるわ。
大瓶&定食のあとにいわしの煮付けが運ばれた。
かなりのサイズが2尾付けである。

定食を食了したあとでごはんがないのに
いわしだけをムシャムシャムシャ。
このお歳の女性のビール大瓶に驚いたが
デザート代わりのいわしにゃ、もっと驚いた。
ひるがえっておのれの少食ぶりが何とも惨め。
打ちひしがれ、うつむき加減でありました。

会計は樋口一葉1枚にオツリがコインのみ。
宝町から都営浅草線に乗って浅草で下車。
暮れのエンコの人出は大したことがない。
みんなノガミのアメ横に行っちゃってる。

雷門の向かいのスーパーで
立派なわさびを1本調達。
今年は豊漁のおかげで
蟹の値段はずいぶん下がったけれど
わさびの高騰はとどまるところを知らない。

1本2500円じゃ、刺身より高いっての。
脇役が主役を食うとはこのことであります。

=おしまい=

「三州屋本店」
 東京都中央区銀座2-3-4
 03-3564-2758

2024年1月3日水曜日

第3441話 年の瀬の 築地と銀座を ハシゴする (その3)

銀座並木通りの昼下がり、時刻は14時半。
「三州屋」のガラス戸をガラリと引いた。
女性スタッフがカウンターの先客を
左右にスクイーズしてくれ、席を作ってくれる。
お隣りに軽く会釈して滑り込んだ。

サッポロ黒ラベル大瓶を通し、
何気なく店内の冷蔵庫を振り返ったら
スーパードライとクラシックラガーが見えた。
「三州屋」はどこでもビールがサッポロ、
清酒は白鶴と決まっているんだ。
早く言ってヨ。とも思ったが
黒ラベルなら異存はない。

左隣りの若いOLサンはカキフライ定食。
右のオバちゃんは、いや、J.C.より年カサだから
オバアちゃんと呼ばせてもらうかー。
同じ黒ラベルの大瓶を飲んでいる。
お通しはひじきと大豆の煮たの。
彼女にもすぐにカキフライ定食が着卓した。

当方は一呼吸おいて皮はぎの刺身を通す。
店内に順番待ちの客が数人でき始めている。
昼食派と昼飲み派が五分と五分の光景が広がる。
隣りとの間隔は狭く、片身の狭い思いをしても
此処へ来ると、なぜか落ち着く。

左隣りのOLがJ.C.に頭を下げて退店。
若いのによくできたコじゃないかー。
うん、キミはいいお嫁さんになれるヨ。
貰い手がなかったら、いつでもいらっしゃい。
タハッ、この年末にオマエはバカか!

彼女のあとに四十がらみのリーマン風が座り、
エビスの大瓶を注文。
なんだ、エビスまで揃ってんのかー。
この御仁のオーダーを聞くともなしに聞く。

いや、驚いたネ。
J.C.と同じ皮はぎの刺身には
フフフ、こやつなかなかデキるな。
ところがいっぺんに
イカ納豆、まぐろブツ、カキフライまで通した。
アンタ、そんなに食えるんかい?
無謀だなァ。

皮はぎ刺しは肝付き。
これこそこのサカナの魅力である。
河豚刺しも美味いが河豚は肝に毒がある。
大分県まで行かないと肝は食えない。
その点、皮はぎは肝OK。
愛媛の松山辺りじゃ、ハギ、ハギと珍重され、
フグより人気が高く、飛び切りの美味さを誇る。

めしとも→のみとも→Zooともと
三段活用を成し遂げた白鶴の白い顔を
目に浮かべながら、白鶴の熱燗に切り替えた。

=つづく=

2024年1月2日火曜日

第3440話 年の瀬の 築地と銀座を ハシゴする (その2)

完全なる難民となったが
あきれてばかりいても物事が前に進まない。
昼めしはともかく昼飲みを開始せねば、
一年間まじめに生きてきた甲斐がない。

ほとんど途方にくれながら
さまよい歩く築地の街。
場外のある5丁目から2丁目、1丁目を経て
晴海通りを渡り返し、4丁目にやって来た。
チラリ万歩計をのぞいたら
この築地エリアだけで8千歩に達している。

此処も人出はスゴい。
何たって新大橋通りの向こうは場外だもの。
これじゃ、ほとんど振り出しに戻ってるヨ。

「すしざんまい」を経営する「つきじ喜代村」。
その本社ビルの周りは「すしざんまい」だらけ。
全部でいったい何軒あるんじゃ?
そこで巡り合ったのが「中国台風」なる、
アチラ系中華料理屋。
藁にもすがる思いで入店した。

すると、周囲の喧騒をよそに
静けさがチャイコフスキーによる、
「白鳥の湖」の出だしみたいな様相。
それもそのハズ、先客ゼロと来たもんだ。
台湾だか本土だか判らんが
初老の中国人夫婦の切盛りである。
女将のほうは日本語がまったくダメである。

ビールはプレモル生でガックシ気を落とすものの、
サッポロ赤星の中瓶があり、命をつないだ。
あとに銀座「三州屋本店」が控えているため、
つまみは努めて軽いものをみつくろった。

通したのは春巻2本と焼売3個。
店主に時間が掛かると言われたが
それほど待たされなかった。
一人淋しく飲んでいると
中年カップルが前後して一組、また一組、
どうにか店らしくなってきた。

オバさんが二組にお通しを出している。
「こちらにはないの?」
訊ねても意味が通じず、彼女は立ち往生。
オジさん引き取って
「独りなのにお通し要るの? 単価上がるヨ。
 300円取られるヨ、 ワッハッハッ!」
「あっ、要らない、要らない」ー即、手を振る。

少々揚げ過ぎの春巻、つなぎ多過ぎの焼売。
まあこんなものかな?
支払いは1320円也。
銀座2丁目を目指してテクテク歩く。

この9月に53年の歴史に幕を閉じた、
「三州屋一丁目店」の跡地を拝み、
並木通りからちょいと奥まった本店に到着。
待ち人とてなく、速やかに引き戸を引いた。

=つづく=

「中国台風(チャイタイ)」
 東京都中央区築地4-4-4
 03-3543-8203

2024年1月1日月曜日

第3439話 年の瀬の 築地と銀座を ハシゴする (その1)

おめでとうございます。
本年もご愛読、よろしくお願いいたします。

さて、一年を振り返る年の瀬。
浅草・吉原方面はすでにクリアしたので
銀座・築地方面をカバーしておきたい。
築地は大晦日でもだいじょうぶ。
問題は銀座だ。

狙いを定めた「三州屋本店」に電話を入れた。
感じの好いオバちゃんが
「大晦日の18時までやってますよぉ」
「ええっ、大晦日まで?」
「そうですよぉ」
「それじゃおジャマしますネ」
「ハ~イ、お待ちしてま~す!」
てなもんや三度笠。
それにしても元気で明るいオバちゃんだ。

よしっ、銀座は確保できた。
まず築地からやっつけよう。
都営大江戸線を築地市場駅で降りた。
早くも何やら不穏な空気が漂っている。

場外市場に足を踏み入れて言葉を失った。
松田優作じゃないが
「何じゃ、こりゃあ!」
今まで何度も何度も訪れている場所ながら
これほどの人混みを目にしたことは
ただの一度もない。

阿鼻叫喚の光景に思い出すのは45年前の夏。
隅田川の花火が長いブランクの末に
復活した1978年である。
あのときの吾妻橋の橋上が
まさにこんな感じであった。

とにもかくにも前に進むのすら困難。
芋を洗うなんてもんじゃなく、
芋と芋とがギッチギチのマッシュドポテト状態。
どうにか築地魚河岸小田原棟までたどり着くが
ここもまた押し合いへし合い。
3階のフードコートに階段で上がったものの、
どの店も長蛇の列である。

早々に脱出を図り、
築地本願寺向かいのエリアに逃れる。
ところがこの辺りまで人は押し寄せていた。
路上にあふれるというほどではないにせよ、
鮨屋・そば屋・とんかつ屋の類いは
すべて列・列・列、これを強烈の三倍増という。

殊に度肝を抜かれたのは食鳥鶏卵店の「宮川」。
みんな何処からやって来たの?
というほどに並ぶ人々の数は200人を超えている。
はるか彼方のイタリアン、
「八十郎」の前にまで達しているのだ。
年末の鶏肉専門店は混み合うが
まさかこれほどとはー。

=つづく=