2022年9月30日金曜日

第3114話 かっぱ橋 今なお続く 洋食屋

今朝は早起き。
軽い朝食を済ませ、散歩は不忍池から。
水鳥がほとんどおらず、
カルガモの番(つがい)を2組見とめるばかり。

恩賜上野公園のお山に上がり、
両大師橋でJR山手&京浜東北線をまとめて跨ぎ、
かっぱ橋本通りを東へ歩く。

此処は厨房用具専門街に非ず。
あちらは合羽橋道具街と称する。
本通りは上野の昭和通りと浅草の国際通りを結ぶ、
七夕祭りで知られるストリートだ。
途中、道具街と直角に交わるけどネ。

本通りが尽きかける頃、
「キッチン 城山」に差し掛かった。
記憶をたどれば、訪れたのは20年ほど前。
ガラス越しに中をのぞくとお婆ちゃんが接客中。
その奥の厨房にはお爺ちゃんの姿があった。
いやあ、お二人とも現役かァ! 恐れ入りやした。

立て看板に本日のランチ。
しょうが焼き ハンバーグ アジフライ 800円
スルーすること能わず、入店に及ぶ。
懐かしさを覚えないのは
記憶がまったくないためだ。

しょうが焼きとドライの中瓶を発注。
プレートには薄めのポークソテーが
2枚重なっていた。
ロースと思しき豚肉がヤケに硬い。
味付けはいいけれど、
咀嚼(そしゃく)に労力を要する。

脇にはキャベツとケチャスパ。
手切りのキャベツは細切りではあるが
繊切りにはほど遠い。
包丁の扱いに苦労したんだろうなァ。
いいヨ、いいヨ、爺ちゃん、
年取ってからの切り傷は治りが遅いしねェ。

煮詰まったような味噌汁は玉ねぎ&わかめ。
ライスは水準をクリア。
美味しさよりも懐かしさ(料理には感じた)を
認識しながら食べ終える。

本通りをなおも東へ。
どぜうの「飯田屋」、
すき焼きの「今半」を行き過ぎる。
国際通り西側の地番は西浅草。
観光客はじめ、外来者が足を踏み入れるのは
せいぜいこの辺りまで。

「城山」に攻め込む、
兵(つわもの)の数はたかが知れている。
爺ちゃん、婆ちゃん、ここまできたら
行けるとこまで行っちゃって下され。
お頼み申す。

「キッチン 城山」
 東京都台東区西浅草3-4-3
 03-3842-7828

2022年9月29日木曜日

第3113話 素顔の巣鴨で ちょい飲み飲み

今日の散歩は自宅スタート。
団子坂を上がり旧白山通りを抜けて千石。
老舗の日本そば屋に入りかけたが
歩き足りないので、さらに巣鴨へ。

ちょくちょく訪れる、
お婆ちゃんの原宿を何となく避けたい気分。
駅北口の飲食店が散在する一画に来た。
にぎやかに飾られたとげぬき地蔵通りと違い、
この辺りは巣鴨の素顔を見せている。
たまにはスッピンもいいモンだ。

以前、何度か利用した「ゆたか食堂」の看板に
ちょい飲みセットを見とめた。
飲みものに軽いつまみが2品付いて600円。
冷奴・キムチ・ロースハム・コロッケなどが
リストアップされるなか、
片目玉焼きにギョッとする。

ギョッとついでに、さかなクンじゃないが
択んだのでギョざいます。
もう1品はしゅうまいにしておいた。
ビールはドライの中ジョッキなんだが
コイツが泡だらけで来た。

接客のオネバさんは不愛想というより、
オルモスト突っけんどん。
余計な注文をつけたらひっぱたかれるかも知れん。
日頃ののリクエストを遠慮した挙句がこの有様だ。
いや、マイッたな。

滞空時間はたかだか15分、尻尾を巻いて退散の巻。
近くの「ほていちゃん巣鴨店」に避難した。
コロナによる営業自粛期間には自粛をしない、
このグループにさんざお世話になった。
その恩をコロリ忘れた罰当たりが
悔い改めて久々の来訪である。

サッポロ赤星大瓶を慎重に手酌し、
勝手知ったるメニューを久々にチェック。
ん? きつね or たぬきのアタマ? 何だコレ? 
ハハ~ン、言わんとするところは理解できた。
いわゆるきつね or たぬきのうどん抜きだネ。

しかるに字が細かくて値段が読めん。
こりゃハズキルーペでも買おうかな?
いや、買ってもその上に尻餅つく気はないし、
だ~い好き! なんてことにはなりそうもない。
やっぱ、やめとこ。

きつねのアタマは意外にイケた。
勘定後、逆算したらアタマは190円。
これにはアタマが下がった。
大瓶と合わせて2軒目も600円だ。
これは単なる偶然と思える自分がいた。

素顔の巣鴨でちょい飲み飲みの昼下がり。
昼から飲める街は左党にとって
かけがえのないものなのです。

「ゆたか食堂」
 東京都豊島区巣鴨2-4-3
 03-3917-0816

「ほていちゃん巣鴨店」
 東京都豊島区巣鴨2-1-5
 03-5972-1666

2022年9月28日水曜日

第3112話 練馬の街角 ポスト・シアター

練馬区・練馬の黄昏れどき。
店々が開くにはまだちょいと早いが
どうにかなるだろう。

あまり酒の飲めないS田サンに振ると
前回同様、居酒屋志望。
またそう来やしたかー。

身体が冷えて温かいものがい欲しいってんで
昨秋、おでんで飲んだ「春田屋」へ。
ところが夏場に休んでいた、
おでんの再開はもうちょい先とのこと。

取り合えずビールで乾杯し、
焼きとんのレバーとシロコロ、
焼き鳥の白レバーをすべてタレで注文。
相方はすぐに黒霧島お湯割りに切り替えた。

一息ついてポテサラが食べたいと言う。
「居酒屋さんのポテトサラダってどんな味かと・・・」
「別段変わらないと思うけどネ」
イカの一夜干しとともに追加する。

店内が騒がしくなってきて退散。
17時、開店直後の中華料理店「小姑娘」へ。
これは”こじゅうとむすめ”ではなく、
”ショウクウニャン”と音ずる。
小姑は浪花のらびちゃんだけでじゅうぶん。

クウニャンは若い娘を意味する。
その店名通りに日本人と思しき店主以外は
姑娘が3人、調理補佐と接客に従事していた。
カウンターにテーブル、
奥には入れ込みのフローリングというレイアウト。
テーブルに着いて
黒ラベルを注ぎ合い、本日二度目のカチン。

卓上におすすめセットのメニューがあった。
タンメン・ヤキソバ・チャーハンに
それぞれ手打ち焼き餃子が付き、950円均一。
姑娘もお得だからおすすめと言うため、
ヤキソバセットをお願い。

手打ちは皮が自家製ということだろう。
なかなかの仕上がりだ。
ヤキソバはタンメンと同じ具材に
トロみをつけた、あんかけスタイル。
他店ならこの単品で950円かもしれない。
姑娘のすすめる通り割安である。

カラスのふるさと、
NY・クイーンズのギリシャ人街や
仔羊のパイ包み焼き マリア・カラス風など、
本日の主役にまつわる話題に終始する。

早めのお開きとして
あちら西武池袋線、こちら都営大江戸線、
練馬駅で泣き別れと相成りました。

「春田屋」
 東京都練馬区豊玉北5-15-5    
 050-5596-3888   

「小姑娘」
 東京都練馬区豊玉北5-20-10
 03-3991-5102

2022年9月27日火曜日

第3111話 満開のマリア・カラス (その2)

1958年12月19日夜。
絶頂期のディーヴァ(歌姫)を
あますことなくとらえた、
貴重な映像をあらためて楽しむ。

大きなスクリーンで観ると、
ひと味もふた味も変わってくるものだ。
彼女の存在感に圧倒された。

第17代仏大統領、ルネ・コティをはじめ、
列席するスターの顔ぶれも破格。
ジュリエット・グレコ、ブリジット・バルドー、
ジェラール・フィリップ、イブ・モンタン、
チャーリー・チャップリン、
かくもカラスは愛されたのだ。

ちなみにこのひと月後、
ルネ・コティの後を継いだ第18代大統領が
シャルル・ド・ゴールである。

ガラ・コンサートは2部構成。
1部はアリアが中心。
十八番の「ノルマ」(ベッリーニ)から
「清らかな女神よ(カスタ・ディーヴァ)」。
「イル・トロヴァトーレ」(ヴェルディ)からは
「恋はばら色の翼に乗って」。
「セビリアの理髪師」(ロッシーニ)の「今の歌声は」。

2部は一転して
オペラ「トスカ」(プッチーニ)第2幕の実演。
舞台は1800年、侵攻したナポレオンが
共和派に勝利をもたらせた、その夜。

ローマの悪徳警視総監・スカルピアの執務室は
ファルネーゼ宮殿内という設定だ。
ちなみにこの宮殿は1874年以来ずっと
フランス大使館として使われている。

カラスの歌唱もさることながら
スカルピア役のバリトン、
ティト・ゴッビがすばらしい。
何か細工でもしたんじゃないかと疑いたくなる、
巨大な鷲っ鼻が悪役にドンピシャリ。

その容姿からでもなかろうが
「リゴレット」(ヴェルディ)の
タイトルロールを当たり役ともした。
リゴレットは姿奇怪なせむしの役どころだからネ。

終映は16時。
相方は感動に打ちのめされている。
これではこのまま帰すわけにはいきません。

2022年9月26日月曜日

第3110話 満開のマリア・カラス (その1)

「マリア・カラス 伝説のオペラ座ライブ」
(LA GRANDE NUIT DE L'OPERA)
を観るため、練馬文化センターへ。

この春、銀座で喜歌劇「こうもり」の映画版を
ご一緒したS田サンを誘った。
のみとも・たべとも・うたとも・あるきとも、
友はいろいろいるけれど、
彼女はさしづめオペともということになる。

待ち合わせまで時間があるため、
軽く腹ごしらえ、というかガス注入をしておかねば。
1933年創業の「デンマークベーカリー」に向かう。
ここは有名パン店「アンデルセン」より古いネ。

1Fでオニオンベーコンロールをトレイに乗せ、
2Fのカフェに上がった。
ビールを飲めることは調査済み。
ところがエビスとバドワイザーと来たもんだ。
日米のそれぞれ最も苦手な銘柄である。

仕方なく半世紀ぶりのバド、
すると明らかに味わいが変わっていた。
独特の香料のようなクセが消えてさわやか。
これならスッキリ飲めるわい。

引っかかったのは12角形のタンブラーだ。
Asahiのロゴが入ってやんの。
何てこっちゃい! グラスだけもらっといて
そのメーカーを置かないのは仁義に反するぜ。

練馬駅改札で落ち合い、駅前の文化センターへ。
実はこのライブ版。
NY時代にビデオを持っていた。
したがってすでに何度も観ているのだ。

それが10年ほど前、一大決意のもとに
ビデオをすべて破棄した。
200本はあったんじゃないかな?
48作ある寅さんシリーズだけでも
そのうち30本はあったからネ。

実はこの決断、七代目・立川談志の影響である。
同じ町内の住人だった彼が亡くなる前、
医者通いする姿を近所でよく見かけた
自分の死期を察知したのか
ビデオ・コレクションをすべて廃棄したとのこと。

談志だけに断捨離はお手のものとみえる。
さすればJ.C.、
西施の顰(ひそ)みに倣(なら)うつもりで
談志の断捨離に倣ったのであった。

=つづく=

「デンマークベーカリー練馬店」
 東京都練馬区練馬1-5-7
 03-3994-3741

2022年9月23日金曜日

第3109話 カニ冷やし麺ちゅうのを食ったんだガニ

池袋「GRIP」の翌日。
この日は団子坂下でバスの五面チャン待ち。
都営バスが上野松坂屋行き、
池袋東口行き、早稲田行き。
区営コミュニティバスは
台東区の浅草行きか文京区の後楽園ラクーア行き。

多面チャン待ちにつき、5分と待たずに何かが来る。
最初に来たヤツに乗り込むつもりだが
文京区のBーグルが1番乗り、いえ、乗ったのはJ.C.だ。
かなり遠回りながら、のんびり揺られて後楽園。
近くのJR水道橋駅から神保町へ歩きながら
ランチスポットの物色である。

老舗中華の「北京亭」に通りすがった。
15年以上来ていないが
以前はちょくちょく利用した。
店頭の立て看板とサンプルケースを眺める。

おや? カニ冷やし麺が目にとまる。
こんなの無かったけどなァ。
カニ好きのJ.C.ながら
カニではしょっちゅう失敗している。
女好きの男が女で失敗するのと同じことだ。

でも、やっぱり気になるなァ。
ジョッキのロゴが愛飲銘柄と確かめた上で入店。
小姐にカウンターを促されて着席。
同銘柄の瓶を選択すると、中瓶が登場した。

フツーの冷やし中華とエビ冷やし麺が900円。
カニ冷やしは1050円だから
それなりにカニが投入されているハズ。
期待に胸弾ませてジッと待つ。

運ばれた皿は麺が隠れるほど
全面に細切りきゅうりがビッシリ。
その上にカニの小山がチョコン。

小山を隅に移動させ、
きゅうりの下の麺を引きずり出して味わう。
うん、冷水でキリッと締められ、旨し。
アッサリめのつゆも好し。

カニに箸をつけた。
ん? んんん? 続けてもうひと箸。
何だよぉ、カニカマが混じってるじゃんかよぉ!
道理で色が鮮やか過ぎるわけだ。

カニ缶は前日と同じ紅ズワイのほぐし身で
カニカマのほうが多い。
まったくもって、何てことをするのカニ。
国破れて山河あり。
カニ破れて缶があり。

でも偽物に目をつぶれば、全体として悪くなかった。
真贋合わせたカニたちの10倍近くある、
きゅうりもさほど気にならなかった。
これは間違いなく、麺とつゆの功績だガニ。

「北京亭」
 東京都千代田区西神田2-1-11
 03-3264-4413

2022年9月22日木曜日

第3108話 脇役が オモテに顔出す スパゲッティーニ

本日のランチの相棒はたべとも・O戸サン。
都電荒川線を雑司ヶ谷で下車し、
東(あずま)通りを明治通りに抜けた角、
ブックストア・ジュンク堂本店で待ち合わせた。

店名はあえて明かしていない。
さっき来た道を戻り歩いていたら
「まさか『GRIP』じゃないでしょうネ?」
「ピンポ~ン♪ 何で判るんだい?」
「何度も行ってるもの」
(ふ~ん、小生意気なヤツめ)
こちとら初訪問なのにサ。

緑に囲まれたイタリアンはかなりの人気ぶり。
近隣のOLが大半を占め、男女比1:9と来たもんだ。
13時を過ぎ、昼休みが終るのにみなさん余裕だ。
早くオフィスに戻りなさいヨ。
大きなお世話ってか?

ビールはハートランドの小瓶。
フレンチやイタリアンはどこでも
大瓶はおろか中瓶すら置かないのが不満だけど
欧米のレストランはみなそうだ。
デカいボトルは日本の固有種と言ってよい。

平日ランチ限定のパスタ相盛り(2名より)を通す。
5種類ほどあるうち、
各自1品づつ択び、合わせてもらう。
当方は
鳴門金時と国産豚のボロネーゼ
相方は
紅ズワイ蟹・島オクラ・つる紫のペペロンチーノ

最初にサラダが供された。
サニーレタス&グリーンカールに
ラディッキオ(日本ではトレヴィス)少々。
大葉と玉ねぎのドレッシングが
名物とのこと、なるほど美味だ。
口当たりやさしく、これならタップリ使える。

パスタはともにスパゲッティ。
いや、より細打ちのスパゲッティーニ、
もしくはフェデリーニが正しい。

リストランテのボロネーゼは百回以上食べてきたが
サツマ芋入りは初体験。
ゴロゴロとまではいかぬがブツブツ入っている。
ペペロンチーノは蟹を抑えて野菜の存在感が圧倒的。
ともに脇役が前面に出て来ている。
やはり当店は女性客に軸足を置いてるネ。

食後のコーヒーを飲みながら
カメリエーレに訊ねたら経営母体はGRIP SECOND。
RACINESグループとも呼ばれているらしい。
都内あちこち、それも一等地に展開し、
この東通り添いだけでも5軒以上。
チェーンとは思えぬハイレベルな料理を提供し、
南池袋の景色を一変させている。

食後の散歩は荒川線と不忍通りを結ぶ弦巻通り商店街。
とっくの昔に暗渠化された弦巻川の上をクネクネと
昭和の匂いが立ち込める。
池袋界隈で一番好きなストリートが此処であります。

「GRIP」
 東京都豊島区南池袋2-11-1
 03-5944-9063

2022年9月21日水曜日

第3107話 奥渋で 鰻と鳥の あいのり丼 (その2)

奥渋・神山町のうなぎ「吉野」。
緑茶を飲みながらの食事は久しぶりだ。
食べ進んだ順序は
焼き鳥1本→長ねぎ→蒲焼き半身→
焼き鳥1本→ピーマン

もっともたっぷりの野菜は
順不同であちこち突ついたがネ。
薬味は鰻に粉山椒、鳥に七味唐辛子。

食べていて思った。
美味しいけれどフツーの美味しさ。
奥行きの浅さを感じるような・・・。
水準に達していても、それ以上には非ず。

1310分、暖簾が仕舞われた。
わりかし早いネ。
ビールの代わりに緑茶では
手持ち無沙汰で仕方がない。
千円札2枚に百円玉のおつりをもらった。

平日だから大したことはなさそうだが
やはり人込みの待つ、
渋谷駅方面に行くのはためらわれた。

代々木公園駅はたびたび利用しているが
公園には長いこと足を踏み入れていない。
たまには緑の中に身を置いてみようかな?
緑茶をいただいたことでもあるし、
今日をみどりの日にしてやろう。

明治神宮を擁する代々木公園は
南参道・西参道・北参道と参道だらけ。
近頃はTVで見ない日がないもんネ。
おっと、それはサンドの二人組でした。

都庁のふもとを抜け、
新宿西口・思い出横丁にやって来た。
3週前におジャマした、
「藤の家」のシャッターが降りている。
焼き鳥はもう食えないが女将に頼んで
ビールを飲ませてもらおうと思ったんだ。

結局は薬局、またもや「丘」に登る。
「ベルク」は毎度、毎度の繁盛ぶり。
ラージサイズ、といっても
ちょいと大きめの中ジョッキだが
立て続けに2杯飲み干した。

ビヤレス・ランチのあとで
パーク・ウォーキングときちゃ、さもありなん。
幸せだなァ、
僕は君を飲んでる時が一番幸せなんだ
僕は死ぬまで君を話さないぞ、いいだろう?

「吉野」
 東京都渋谷区神谷山町40-1
 03-3468-8811

「ベルク」
 東京都新宿区新宿3-38-1ルミネエストB1
 03-3226-1288

2022年9月20日火曜日

第3106話 奥渋で 鰻と鳥の あいのり丼 (その1)

朝食のミントティーでくつろぎながら
さて、今日は何処に出没しようかの。

メトロ千代田線を代々木公園で降りた。
渋谷の奥、いわゆる奥渋に向かう。
以前、この道筋は理髪のためによく通った。
今は独り立ちしたK子チャンの店が
渋谷区役所前にあったんでネ。
父君が亡くなったあと、自宅に近い不動前に
よりコンパクトなサロンを構えたわけだ。

本日のターゲットは鰻屋「吉野」。
たまたま当店のあいのり丼の写真をひと目見て
その美しさにコレは食べなきゃならんと思った。

店先を何度も行き過ぎたが
目立たぬたたずまいにまったく気づかなかった。
真向かいの大衆割烹「滝乃家」と
3軒先の日本そば「増田屋」を利用したのにネ。
手前のニュジーランド・レストラン、
「Newzea Platform」では
仲間たちとワイン会まで催したりもしている。

間口の狭い引き戸を引くと
手前にテーブルが4卓ほど。
奥には角の取れた逆L字形のカウンター。
その真ん中辺りに着いた。

「吉野」の売れ筋は3つ。
うな丼(2300円)
 うなぎ丸1尾
あいのり丼(1900円)
 うなぎ半尾 焼き鳥(正肉)2本
 長ねぎ・ピーマン各1本
とり丼(1200円)
 焼き鳥3本 
 長ねぎ・ピーマン・しいたけ各1本
店主の仕事ぶりが手に取るように見える。

一目惚れのあいのり丼をお願いした。
ビールサーバーが好みの銘柄ではないため、
生ビールはパス。
他テーブルに瓶ビールを見とめたものの、
ラベルが見えない。
たぶんハズレだろうから訊きもしなかった。

最初に野沢菜の小皿が登場。
しばらくして豆腐&わかめの味噌椀。
続いて麗しのサブリナならぬ、あいのり丼。
どんぶりの奥に焼き鳥、中央に野菜、
そして手前に蒲焼き、色合いが実に好もしい。

独り炭火の前で黙々と焼き続ける、
店主のセンスが如実に表れていた。

=つづく=

2022年9月19日月曜日

第3105話 都の東に西北があった (その2)

日本橋蛎殻町の「西北拉麺」に独り。
羊肉拌麺を目の前に箸を取ったところだ。
”ただちによく混ぜて食せよ”とのお達しだが
すぐにはそうしないで麺と具材の味見。
納得しながら徐々に混ぜ合わせてゆく。

ふむ、ふむ、こういうものかー。
自家製の辣油・香酢・おろしニンニクを駆使し、
美味しくいただいたが
印象に残ったのは脇役のスープのほうだ。
無色透明なのに深い滋味があった。

出汁はいったい何だろう?
魚介系は使われていない。
牛骨かな?
近いうちに再訪し、拉麺に挑んでみよう。

訊けば当店。
石材店の経営者が石材買い付けのため、
たびたび訪れた福建省厦門(アモイ)で
たまたま出逢った「西北拉麺」がルーツ。

惚れ込んで何度も通い、
どうしても日本にこの味を持ち帰りたい。
彼の地の店主を拝み倒して
ようやく開店にこぎつけた由。

硬い商売の石材から拉麺とは
ずいぶん軟らかくなったものだ。
今この繁盛ぶりを目にする限り、
墓石屋が墓穴を掘ることだけは免れた様子だ。

食後は界隈の散策。
ついでに自宅用の食料を調達しておこう。
浜町のドイツパン店「タンネ」に立ち寄る。

買い求めたのはプレッツェル。
今宵のビールの友とする。
そしてケシの実付きカイザーゼンメル。
オーストリア発祥のロールパンは
カイザーが皇帝、ゼンメルが小麦粉の意。
明日の朝食用である。

次に向かったのは人形町の甘酒横丁。
パンのあとは寿司といこう。
近くに来れば、ほぼ毎回訪れる
「人形町 志乃多寿司総本店」に来た。

先日、日暮里の「羽二重団子」で
志乃多寿司&ミニ団子のセットを
完売のため、食べ損ねてるしネ。

五色巻詰合わせを購入。
五色巻(中太巻)海苔巻(かんぴょう)
志乃多(いなり)の詰め合わせだ。
バッテラ・紅鮭・穴子の三色寿司と迷ったが
それは次回にしよう。

陽はまだ高い。
大川の向こう、吾妻橋の角打ちで
生ビール&陶々酒とまいりましょうかー。

「西北拉麺」
 東京都中央区日本橋蛎殻町2-2-2
 03-6661-9994

「タンネ」
 東京都中央区日本橋浜町2-1-5
 03-3667-0426

「人形町 志乃多寿司総本店」
 東京都中央区日本橋人形町2-10-10
 03-5614-9301

2022年9月16日金曜日

第3104話 都の東に西北があった (その1)

メトロ半蔵門線を水天宮前で降りた。
押上まで延伸される前、長いこと終点だった駅だ。
駅上の久留米水天宮の分社へは
多くの若い夫婦が安産祈願に訪れる。

安産を祈願する立場にないので宮を素通りした。
本日の狙いは蘭州(甘粛省の省都)風ヌードル。
目指したのは
「西北拉麺(シーベイラーメン)」である。
早稲田の杜は都の西北に位置するが
都の東にも西北があった。

中国西北地方は上記の甘粛省に
西省、青海省、寧夏回族自治区、
新疆ウイグル自治区を加えた西北五省区が構成する。
豚肉よりも羊肉が好まれる地域だ。

「西北拉麺」はカウンターのみの店で食券制。
メニューが少なければいいが
選択肢の広い券売機は大の苦手。
背後が気になって仕方がないのだ。
取り合えずビール(500円)のチケットを買い、
スタッフの指示に従い着席。
残念ながら小瓶が現れた。

そうしておいて頭の中を整理する。
ふむ、当店は汁ナシの拌麺(バンメン)と
汁アリの拉麺(ラーメン)の二本立てなんだ。

まぜそばや油そばはまず食べないが
この日はなぜか拌麺の気分。
っていうかァ、このほうがより西北的な気がした。
拌麺は3種あり、牛肉・海老・羊肉。
ここは迷わず羊肉だろう。

麺の形状が細麺・普通・太麺・平麺の四択。
ちょいと迷ったものの、初回は普通でいこう。
券売機に戻り、羊肉拌麺と
ついでにビールをもう1本、ポチッ。

周囲の様子は男女が半々。
拌麺・拉麺の比率も半々。
ランチタイムのピークを過ぎても
来客は引っ切りなし、人気の程が判る。

パクチーのアル・ナシを問われ、
もちろんアリでお願いする。
8分後、横長楕円形の皿に盛られて供された。

ボロネーゼを思わせる羊挽き肉に
刻んだザーサイ&アーリーレッド。
その上にはパクチーが散っていた。
あまりお目に掛からぬ景色が目の前にあった。

=つづく=

2022年9月15日木曜日

第3103話 有名店の陰に隠れて

文京区・根津2丁目の甘味処、
「芋甚」のはす向かいに
「蕎麦 茶のみ処 カワイ」が
オープンしたのは4年前。
以前はカフェバーだった場所だ。

女性二人の切り盛りにより、
レベルの高いそばを供すると
近所の知人から聞いた。
不忍通りをちょいと入ったところで
通りの入口角には界隈の人気そは店、
「よし房 凛」がある。

あちらは玄関の縁台にいつも数人、
順番待ちが腰掛けている。
行列を嫌った客が流れ来るのを
狙ったわけではあるまいが
すでに地元の常連客が定着した模様だ。 

蒸し暑い午後に初訪問。
食事派、喫茶派、まちまちのなか、女性客が目立つ。
3席しかないカウンターに着いた。
接客と調理の分業制だが厨房は見えない。

ビールはドライの生のみ。
せいろ(900)を通し、泡の静まりを待ってクイッ。
姿を見せて調理担当が配膳してくれた。
ざるに盛られたそばがみずみずしい。
量がしっかりとあり、他店の2~3割増しほど。

舌ざわり、のど越しともによろしく、
薬味はさらしねぎ、そして本わさびがエラい。
つゆはほのかに甘さを蓄える好きなタイプ。
ジャズなんか流してる気取ったそば屋に
ありがちな甘み全廃のつゆは苦手だ。
子どもの頃からなじんだ昭和の味が好ましい。

湯桶にそば湯用の猪口が添えてある。
こういう気遣い、心配りは女性ならでは。
そば猪口のつゆ、湯桶のそば湯を完飲し、
満足した午後のひととき。

接客担当と言葉を交わす。
自家製手打ちのそばがなくなり次第、
営業は終了する由。
二人は姉妹でそば打ち、調理はすべて
厨房の妹が担当とのこと。
「私は料理がぜんぜんできなくて・・・」ー
そう言いながら姉は苦笑い。

1580円の会計。
中ジョッキに満たない生ビールの値付けが
少々高めながら、ダラダラ呑ん兵衛対策に
有効な手段と思われました。

「蕎麦 茶のみ処 カワイ」
 東京都文京区根津2-36-12
 03-5842-1196

2022年9月14日水曜日

第3102話 後輩宅に招かれて

先月の初め、15年ぶりに再会した高校の後輩・N々。
そのとき約束した通り、彼女の家におジャマした。
近くへ迎えに来るというから
小石川のこんにゃくえんま前で待ち合わせ。

彼女の運転で到着してみると、
おい、おい、何だヨ、
コンパクトなマンションを想定していたのに
3階建ての一戸建てと来たもんだ。

文京区・小石川は区内屈指の高級住宅地。
銀座でそんなに稼いだのかァ?
一瞬、そう思ったものの、
いや、いや、これはダンナの稼ぎだな、間違いなく。

とにかく上がってダンナのTクンとご対面。
以前、日本橋のイタリアンで
チラッと遭ったというが記憶にないんだ。
同性の顔はあまり覚えようとしないからねェ。

まずはビールで乾杯の巻。
あらかじめ食べものはあまり用意しないよう
厳命したため、つまみは蓮根キンピラ、煮玉子、
あとは竹輪のトマト炒めだったかな?
これでいいんだヨ、N々。

この夜、持参したワインは白・赤1本づつ。
ともに北イタリアのもので
白は、サンタ・マルゲリータ'20年。
セパージュはピノ・グリージョ。
赤が、バローロ リヴァータ'17年。
こちらは言わずと知れたネッビオーロである。

Tクンの勤め先はたまたまJ.C.が昔、
ちょいと関りを持った出版社で
これも何かの縁だろう。
おまけに彼の名前は字こそ異なれど
亡父と同名であった。

アトランティックサーモンの刺身が出て来た。
これから餃子も焼くという。
ワインは空いてビールに逆戻り。

かなり長い時間飲み続けた。
今年も3分の1以上が過ぎ去ったけれど
こういった飲み会は数えるほどしかない。

何時においとましたのか定かでないが
日付が変わる前だったと思う。
二人に春日駅まで送られる。

弱くなったんだねェ、途中フラついて
両脇を両人に抱えられた。
(おい、おい、オイラは容疑者かい?)
年内の再会を約し、手を振りました。

個人宅につき
住所・電話番号は控えます

2022年9月13日火曜日

第3101話 さまよえる葛飾・江戸川 (その2)

何度も来ている立ち飲み酒場「しげきん」。
此処へ来ると気持ちが軽くなる。
中ジョッキも北寄刺しも
あっと言う間にストマックに消え、
酎ハイに切り替えた。

注文はもうしないが品書きを再点検。
自民党の点検なんかよりずっと入念に。
それはそうと
モテそうもない茂木の言いぐさには呆れ返った。
「調査じゃありません、点検です!」
だったら野党は
「それじゃ調査して下さい、点検じゃ甘すぎる」
どうしてそう突っ込まんのかー。

紙面のムダだ、先に進もう。
「しげきん」のつまみはほとんど360円均一。
生モノの取り揃え多種多彩で
いわし、いなだ、まぐろ、かつお、たこの各刺身。
かれい薄造り、すずき昆布じめ、あじたたき、〆さば。 
みな360円なのだ。
サカナの質も高く何でこの値段? 驚かされる。

駅前ロータリーにて今度はバスの行く先を点検。
そろそろ葛飾区から脱出を図ろう。
江戸川区の東端、篠崎にやって来た。
四半刻ばかり駅周辺を物色する。

ございませんネ。
これといった店が見つからん。
1軒だけ「英ちゃん」という立ち飲みがあったが
客層がずいぶん若い。
オッサンのいない酒場は当たりが少ないんだ。

ここでふと浮かんだ店があった。
都営新宿線で一つ都心寄りの瑞江に
好印象のとんかつ屋あり。

自著「J.C.オカザワの昼めしを食べる」において
”ベストランチにあと一歩の優良ランチが
食べられるお店”として紹介した「とんかつ二条」。
15分歩いて隣り町へ。

推奨したのは棒状に揚げるヒレカツとキスフライ。
フルのとんかつはムリにつき、
串カツとイカフライを1本づつ、
キリン・ハートランドの中瓶とお願いした。
キリンのビールではこれが一番好きだ。

繊切りキャベツを従える串カツは
真ん中に包丁を入れられて一刀両断、旨し。
タルタル、レモン、レタスを添えたイカフライは
サイズ大きくとも柔らか過ぎて香りも薄い。
以前いただいたキスに軍配である。

中瓶2本、揚げ物2品でお勘定は金2200円也。
葛飾・江戸川両区をさまよい訪れた4軒。
ヴァラエティに富み、楽しい一日が暮れました。

「しげきん」
 東京都葛飾区新小岩1-30-8
 03-5662-8536

「とんかつ二条」
 東京都江戸川区瑞江2-6-20KIビル2F
 03-3679-7005

2022年9月12日月曜日

第3100話 さまよえる葛飾・江戸川 (その1)

「更科ゆたか」でそばを食べずにビールと馬刺し。
このあと何処へ行こうかな?
頭上のTV画面を目で追いながら考えていた。

会計時、親切なオバちゃんに
「青砥駅の周りにバス停ってありますか?」
彼女、オモテを指さしながら
「あそこに信号があるでしょ?
 あれを左に曲がったとこに
 新小岩に行くバス停が・・・」
「ハイ、ハイ、どうもごちそうさま」
「ありがとうございましたァ!」

そうして到着した新小岩東北広場。
すでに15時近くで間に合うかなと思いつつ、
町中華「五十番」へ赴くと、暖簾が出ていてセーフ。
苦手銘柄の中瓶を通したらザーサイが付いてきた。

胃袋に余裕があるのでラーメン(380円)を発注。
ややちぢれ麺は細くも太くもない標準サイズ。
スープは昭和の匂いの鶏ガラ醤油。
具材はももチャーシュー、ナルト2枚、わかめ。
滅多に遭遇しないシナチクレスなれど
値段が値段だし、補うためのナルト2枚なのかな?

食べ終えてあらためてドンブリを眺める。
定番の雷文模様ではなく、三羽の鳳凰が舞っていた。
特注品かもしれない。

平和橋通りを渡り、駅近方面へ移動。
急に飲み屋が増えるなか、
狙いはなじみの立ち飲み酒場「しげきん」だ。
さっそく泡ナシ中ジョッキで生き返る。

頭上の品書きをチェックしたら
本日の特別料理に北寄貝の刺身あり。
前夜の浅草「美家古寿司」では
お通しにヒモ&柱が出たため、にぎりはパスした。

だからというんじゃないが
ラーメン後でも苦にならない軽物を所望。
おや? 北寄の札が外されたヨ。
最後の1個だったんだネ。

すると接客のオバちゃん、
伝票にあった450円を400円に書き換えた。
「サイズが小さいのでお引きします」ー
東京東側の厚い人情を感じる。

西だったらこんなことはないものと思われた。
別に西側が嫌いなわけじゃないけど
やはり都の東が肌に合うんだ。

=つづく=

「五十番」
 東京都葛飾区新小岩2-13-2
 03-3674-0875

2022年9月9日金曜日

第3099話 たこ焼き転じて馬刺しと化す

その日、京成本線を降りたのは葛飾区・青砥駅。
本線と押上線の分岐点だ。
昼めしどきに2軒回るつもりで
まずは狙いのたこ焼き屋で軽く飲り、
次はどこへと決めていない。

たこの引き戸を引いたら
イートイン・コーナーがブロックされている。
「ごめんなさ~い! 今はテイクアウトだけで
 イートインはご予約なんです」ー
ワン・オペの若い店主が、ちと申し訳なさそう。

少々気落ちして町なかを物色するも
周りにこれといった店がない。
駅の東側に日本そば「更科ゆたか」が
あることを思い出し、ガードをくぐり、
続いて暖簾をくぐった。

時刻は13時半、客入りは6割。
オバちゃんに中瓶をお願いし、
品書きを手に取ったものの、
目が釘付けになったのは壁のポスターだった。

熊本産の馬刺しが色鮮やか。
馬刺しの本場・熊本から
捌きたてを取り寄せました
ふぐ刺しのように薄切りが円形に盛り付けられ、
深紅のバラの花びらのよう。

ここでヴィレッジ・シンガーズのヴォーカル、
清水道夫が歌い出す。

♪   バラ色の雲と 思い出をだいて
  僕は行きたい 君の故郷へ
  野菊をかざった 小舟のかげで
  口づけ交わした 海辺の町へ ♪
    (作詞:橋本淳)

敬愛する作曲家・筒美京平との出会いとなった、
「バラ色の雲と」は1967年8月のリリース。
その頃、J.C.、
福島大学経済学部のグラウンドにおける、
サッカー部の合宿でOBたちに
地獄のシゴキを受けていた。
もう二度とイヤだ、アレはー。
も一度やられたら、死んでしまうかもしれない。

それはそれとして日本そば「ゆたか」。
馬刺し好きは即注していた。
ところが一人前1400円の赤身は
ポスターと似ても似つかない。

ニンニク&生姜、粗塩&たまり醤油が添えられた。
卓上の生醤油も試してみたけれど、
一番合ったのはニンニクとたまり醤油だ。
このところ、たびたび馬刺しを食べてるが外れ多し。
それでも今回は外れとは言えない。
バラ色の雲が鉛色の雲に変わっただけでした。

「更科ゆたか」
 東京都葛飾区青戸1-10-3
 03-3697-1519

2022年9月8日木曜日

第3098話 44年が経ちました (その2)

相方と一緒に大関の上燗に切り替えた「美家寿司」。
5番・6番は赤貝と車海老だ。
はまぐり不在のこの時期、赤貝が貝の王者である。
この質感はみちのく閖上の産に間違いなかろう。

車海老もおぼろをカマせて供された。
上品な甘みが口内に拡がる。
江戸前鮨の海老は車の独壇場だ。

真鯛の松皮造りと酢〆の真あじが7番・8番。
ともに江戸前シゴトを施され、美味さ倍増。
真鯛&真あじだけに真っ当であった。

9番・10番は縞あじにかつお。
サカナの目利きの賜物だろう。
モノがいいから味わいに奥行きがある。

にぎりのトリの11番・12番。
これだけはどちらも穴子、2カンづついただく。
まずシモ(下半身)を煮きりでー。
続いてカミ(上半身)は煮つめだ。
「美家古」の穴子に出逢ったとき、
あまりの美味さに身が震えたのを覚えている。

13番は玉子。
腹がふくれてきたため、酢めしなしでお願いした。
カステラ状の焼き上がりは
魚介のすり身の成せる業だが
ひらめかな? 芝海老かな?
わが味覚判じ得ること能わず、まだまだだネ。

大トリの14番は巻きもの。
いつものようにおぼろを巻いてもらう。
鉄火・かっぱ・かんぴょうより、おぼろが好み。
あとは山葵だけというのもいいネ。

初めて当店を訪ねたのは1978年。
長いこと途切れていた、
隅田川の花火が復活した年だった。
すでに名声を大江戸に轟かせていた「美家古寿司」。
心して乗り込まねばと、予習をして出かけた。

TVでおなじみの料理研究家、
土井善晴氏の父君、土井勝氏が著したムックに
「本物の味を訪ねて」があり、
当店を詳しく紹介していた。

江戸前鮨の食べ方の最初は白身、そして光り物。
これを実践すべく、
ひらめの昆布〆と小肌で始めた。
目の前には現在の五代目。

背中を向けて玉子を焼いていた先代の四代目が
その注文を聞いてクルリと振り向き、
J.C.の顔を見てニヤリと笑った。
玉子をせがれに任せ、自らにぎってくれたのだ。
美家古通いの始まりはあの夜である。

あれから44年。
多くのことを教えてくれた亡き四代目親方、
内田榮一氏は今もJ.C.の心の師匠。
尊敬してやむことがありません。

「弁天山美家古寿司」
 東京都台東区浅草2-1-16
 03-3844-0034

2022年9月7日水曜日

第3097話 44年が経ちました (その1)

エンコの街にはしょっちゅう来るが
久方ぶりの「弁天山美家古寿司」。
つけ台の真ん中寄りに相方と二人、
陣を張らせていただいた。
こちらから見て左手に五代目、
右手に六代目の両親方がつけ場に並び立つ。

ドライの中瓶を注ぎ合ってカチン。
突き出しはサッとゆがいた北寄貝の柱とヒモの甘酢。
此処におジャマすると、つまみは1品程度にして
すぐににぎりへ移行するのが常だ。

鮨種のケースに今が季節の新イカを見とめ、
「新イカをつまみでもらったら
 無くなっちゃいますよネ?」
「新イカと新子はお一人様1カンでー」と五代目。
新イカはスミイカの幼少期、新子は小肌の幼魚だ。

通したぬたは赤貝のヒモと新イカゲソ入り。
ぜいたくな組合わせは美味くないハズがない。
ぬたとなれば、すし屋通りにあった、
今は無き「三岩」を思い出す。
あちらはまぐろの赤身入りで
下町らしい素朴な味わいがあった。

一昨日、浅ブラしていたら
「三岩」の跡地に「人民公社食堂」なる、
台湾料理屋が営業していた。
スゴい名前を付けるもんだな。

中瓶を追加して、にぎり。
お好みながら二人とも同じものを
2種類づつ通してゆく。
てんでんバラバラでは計算が煩わしく、
親方たちが集中できなくなるからネ。

これは鮨屋における作法で
銀座のホステスみたいな無茶はいけない。
とはいえ、マナーをわきまえたコもいるがネ。
近頃あまりおジャマしてないけどー。

用意、スタート。
皮切りはひらめ昆布〆&新イカ。
44年前、初めて「美家古」で口にしたのも
この昆布〆だった。
はっきり言ってあのときのまま、実に味わい深い。
新イカは柔らかく繊細、旬を食する実感があった。

3番・4番は新子にキス。
新子も季節感満載。
「どこで揚がるんですか?」訊ねたら
「静岡です」と六代目。
「じゃあ、駿河湾かな」
「山じゃ獲れないからネ」混ぜっ返したのは五代目。
可憐な肌合いのキスにはおぼろが忍ばせてあった。

=つづく=

2022年9月6日火曜日

第3096話 五本木の仏和ビストロ (その2)

目黒区・五本木は港区・六本木ほどに
有名ではないが棲みやすそうな町。
五本木交差点そばの「AKIMOTO」にて
文殊の知恵を搾っている。

ビールはクラフトばかりでJ.C.は苦手だし、
他の2名もビール好きというわけではない。
ワインで始めた。

白は山形県置賜郡の高畠バリック シャルドネ ’19。
赤はフランスのラングドック・ルーション、
ドメーヌ・フォン・シプレ ’20。
セパージュはグルナッシュだ。

自家製コンビーフのアミューズが供された。
最中の皮で包んだ一見、マカロン風のもの。
ちょいとスパイスが効いてよい仕上がり。
これからの料理に期待を持たせてくれる。

メニューは、とりあえずの前菜・冷前菜・
温前菜・主菜の4部構成。
マダム曰く、おのおの1皿が2人前ほど。
各部門1皿を3人で分け合うことにした。

まずは、鰹のたたきとラタトゥイユ。
メニューの仕切りは冷前菜だったが
炙った鰹の厚切りは土佐造りと違った味わい。
野菜との相性がよろしい。

次は、とりあえずグループ所属、豚肉の田舎風パテ、
いわゆるパテ・ド・カンパーニュだ。
コルニッション(小きゅうりのピクルス)と
オリーヴを従え、美しい四角形が冴える。
うむ、水準がかなり高いネ。

そして、温前菜の煮穴子と揚げ茄子。
実はJ.C.、二日後に浅草の「弁天山美家古寿司」に
うかがう予定で、あすこの穴子が大好きなのだ。
別段、食べ比べるつもりはないが
純和と仏和の異なりを楽しもうと思った次第。
ふっくら炊き上がった穴子が素材の持ち味を発揮する。

デセールを取らないので締めの主菜は
山形産黒毛和牛(カメノコ)のロースト。
カメノコとは牛の太ももの付け根部分。
サシがほとんど入らぬ、柔かな赤身だ。
これはもう少々レアでよかったかな?
じゅうぶん美味しいけどネ。

六本木のフレンチ「オー・シザーブル」は
4年前に店を閉じたが
五本木に仏和折衷ビストロ「AKIMOTO」が
今年誕生したわけだ。
開業間もないのに早くもほぼ満席の人気ぶり。
シェフの力量とマダムの愛想のW効果だろう。

話に花を咲かせた、
花咲かおぢさん三人組の二次会はナシ。
学芸大の駅に向かい、
いまだ更けやらぬ夜道を歩いて往きました。

「AKIMOTO」
 東京都目黒区中央町2-37-2
 03-5589-5693

2022年9月5日月曜日

第3095話 五本木の仏和ビストロ (その1)

本日の夕食はNY仲間3人で会食。
いつものメンバーのプチ・リユニオンである。
18時スタートにつき、
それまでおとなしくなど、していられやしない。

目的地は目黒区・五本木。
JR目黒駅から歩くことにした。
権之助坂を下り、大鳥神社を左に見て
中町通りで右折、祐天寺(お寺です)の裏を抜け、
東急東横線・祐天寺駅前にやって来た。

かなり蒸し暑い日だから汗ばむし、息は上がるし、
普段は鼻出しのところをしばしアゴ出しマスク。
アゴ出しはラクだネ、アゴ出汁はいいヨ。
味噌汁だって、いの一番よりアゴ出汁が一番だ。

浪花の小姑に
「鼻出しはアカンよ、鼻出しはー」ー
口を酸っぱくされて言われてるが、どうにもならない。
ここでJ.C.、改めて考える。

オッサンの鼻出しマスクは
若い娘のへそ出しルックよりよほど
公序良俗に寄り添った行動だと思うんだがネ。
そのあたりどうなんだい?
エッ? らびちゃんよっ!

マスクはともかく、ガス欠だ。
おっと、駅前ロータリーに
最近ちょくちょく羽を休める牛めし屋あり。
飛び込んで中瓶のチケットを
バイトのアンちゃんに手渡しながら訊いてみた。

「ビールだけのお客さんってけっこういる?」
「ええ、夜だとたまにいらっしゃいます」
心なしか安心しました。

かつて、たびたび出没した祐天寺。
ガス注入後、界隈を徘徊し、学芸大方面へ。
そうして到着した「AKIMOTO」である。
フレンチと和食のコラボを謳う店だ。

今宵のメンバーはフタちゃんとB千チャン。
フタちゃんのNY時代の同僚の方の
姪御さん夫婦が営まれており、
そのご縁でおジャマした次第。
カウンター9席ほどにテーブルが2卓。
二人での切り盛りの限界に近い。

18時前には3人揃い、カウンターの角々に位置し、
お店の厚意のウェルカム・スパークリングで乾杯。
メニューを見ながら検討に入った。
三人寄れば文殊の知恵、
そのことわざを実践に移したわけである。

=つづく=

2022年9月2日金曜日

第3094話 世界一美味しい そば屋カレー

以前、中居正広が自分の番組で
世界一美味しいそば屋のカレーと
紹介したカレーがあるという。
台東区・竜泉の「東嶋屋」のライスカレーだ。

浅草に出かけるときはバスを利用する。
池袋東口ー浅草寿町、日暮里ー錦糸町の2路線。
錦糸町行きは「東嶋屋」の脇を通ってゆくので
建物を何度も目撃している。

そば屋の中華そばは当たりが多いが
そば屋のカレーライスはまず当たりを引かない。
とにかくものは試し、行ってみた。

右手にカウンターが6席ほど。
奥に四人掛けが4卓だったかな? TVもあった。
カウンターに落ち着き、ドライの中瓶を通して
壁の品書きに目を通す。
あった、あった、ありました。

当店名物「ライスカレー」
”黄色い塩カレー”
東嶋屋でしか味わえない人気メニューです

作り置きではなく、注文が入ってから
ひと皿づつ作るので混雑時には
お待ちいただく旨の一筆もあった。

店主だろうか? 接客は年配のオヤジさん。
娘さんだろうか? 厨房にオネバさん。
今日はカツカレーに挑むつもりで家を出た。
オヤジさんにカツカレーのカレーも
黄色い塩カレーであることを確かめて発注。

やはり少々時間がかかるようで
瓶がカラになり、もう1本。
品書きを眺めて目にとまったのは2品。
たぬきせいろってのは珍しいネ。
揚げ玉入りのつけづゆなんだろうな。

から揚げは創業130年以来の「かえし」を
もみ込んで揚げるという。
ここで初めて当店が
かくも長き営みを続けてきたことを知る。

配膳されたお盆にはウスターソースと
お冷やに落とし込まれたスプーン。
大皿には黄色いライスカレーが並々。
その上に4切れのロースカツ。
脇には真っ赤な福神漬け。
ふむ、ふむ、なるほど塩っ気が強い。
厚みのあるカツはなかなか上等だ。

砂糖は熱を加えると甘みが増す。
塩はその逆で冷めたほうが塩辛い。
よって終盤は次第にしょっぱくなる。
加えてルウの小麦粉が
温度の低下とともに粘っこくなってきた。

奮闘努力の末、完食して腹いっぱい。
そば屋のカレーとして水準を超えているものの、
世界一美味しいとまでは・・・とても思えません。

「東嶋屋」
 東京都台東区竜泉1-29-3
 03-3872-6361

2022年9月1日木曜日

第3093話 昼は豚 夜はチキンの トンチキぶり (その2)

酢豚のあとはJR高円寺駅の南と北を散策。
残る店、消えた店、はたまた近所に移転した店。
悲喜こもごもの様相を呈していた。

今日はすぐに帰宅せず、外飲みの予定。
晩酌までかなりの時間が空いている。
行く先を定めぬままに中央線の上り電車に乗った。

新宿西口の思い出横丁と「丘」が頭をかすめたが
すぐに打ち消す。
そうそう同じ場所ばかり行ってられない。

降りたのは飯田橋。
目白通りを南下して九段下の昭和館にまた来た。
前回観なかった懐かしのニュースシアターに入場。

活躍する漁業指導船(ジャワ)
象も活躍する造船所(ビルマ)ー昭和18年
天皇を迎えた水害の東北 ー昭和22年
臨海学校と林間学校
新油田発見のイスラエル ー昭和27年
初陣の四日市高校優勝 ー昭和30年

ラインナップの一部である。
そんなこんなで時間をやり過ごし、
いまだ宵闇迫らぬが
近々、リニューアル後の開館を控える九段会館から
神保町を抜けて神田錦町に到達した。

山形そばの「河北や」に入店する。
カウンターに案内され、ビールの銘柄を問うと
生はキリンラガー、瓶はナシ、しばし考えて
「じゃ、ホッピーの黒を」
「スイマセン、白しかないんですぅ」
娘よ、キミは九官鳥かえ? とは言わず白をお願い。

酢豚が未消化なので何か軽いつまみを・・・。
”信州名物 塩イカの和え物” があり、通すと
「スイマセン、今日は入荷がないそうです」
ホントに何もない店だな。

彼女のオススメに従い、すぐに整う”葱のせ”を。
ひな鶏ではなく、あえて親鶏を使った、
鶏チャーシューは山形そばの具材にもなる。
薄いスライスの上に刻み葱がこんもり。
うん、味があるネ、旨みが濃いヨ。
もともと親鳥は好きなんだ。
オヤドリー・ヘプバーンの大ファンだもの。

普段は外1・中2のホッピーながら
今宵はビール代わりだ、外も2本のグイッグイ。
無いものづくしで気が引けたのか
お運びの彼女、ドアを引いて見送ってくれた。

今日は昼に豚を食べといて夜はチキンを食した。
われながらトンチキなやつよのぉ。

「河北や」
 東京都千代田区神田錦町1-2
 03-5283-3677