2012年3月30日金曜日

第284話 貝と鮪と一夜干し (その2)

浅草は雷門にほど近い、
かんのん通りの「志ぶや」でくつろいでいる。
下町の居酒屋や大衆酒場で鮪を食べるとき、
刺身よりもブツが正解というケースが少なくない。
けっこう違った部位がいろいろ混じっていて
ヴァリエーションを楽しめるのもいい。

この店は鮪ブツだろうが、小肌酢だろうが、〆さばだろうが
常におろし立ての生わさびをタップリと添えてくる。
これが何よりもうれしい。
築地の河岸で小さいのをまとめて買えばそうでなくとも
スーパーやデパ地下だと、いまだに非常に高価な生わさび。
これを店主がニセやマゼや粉わさびに切り替えたら
長い間にはその差額が積もり積もって蔵が建つところだ。
それをあえて本物で押し通す心意気を心から讃えたい。
この気概なくしてエンコの街で生き残るのは難しかろう。

毎度のことながらブツはなかなかのブツであった。
そこいらのチェーン居酒屋とはモノが段違いだ。
あっちは匂(にお)うが、こっちは香るのだからネ。
ヒドい店になると臭(にお)うのを出して来やがるものなァ。
奥からオヤジを呼びつけて試食させてやりたいものだよ、ったく。

対面(トイメン)のS倉クンはモグモグとよく食べるが
キリンラガーから移行した菊正宗のせいで
早くも頬を紅く染めている。
ここ数ヶ月、焼酎ロックの代わりに燗酒を飲むようになった。
今年の冬が寒いせいかもしれない。
いや、最近よく観直している仁侠映画のおかげかも。
やたらめったら酒を酌み交わすシーンが出て来るのでネ。

渡世人は焼酎をあまり飲まない。
少なくともヤクザ映画の世界では。
焼酎の出番は傷の手当てで
傷口にブゥッと吹きかけるときくらいだ。
連中は徳利の燗酒を酒盃に注いで飲む。
この際の所作の見事さは高倉健よりも池部良よりも
何たって鶴田浩二でしょうねェ。
思い出すなァ、不朽の名作「総長賭博」を・・・。

当方はこれ以上つまみを必要としないが
相方のために何か取ってやらねば―。
以前は見掛けなかった卓上の品書きを手にした。

厚あげ なす焼 いわし丸干(2尾) 各530円
焼とり 肉・もつ・つくね(各1本より) 210円
小鯛塩焼き 1370円  たらちり 1050円

リクエストを訊ねたら「おまかせしマス」との応え。
ふむ、それではと頼んでやったのがコレである。
                 柳かれいの一夜干し(840円)
会話の内容から鯵や鰯など、
青背のサカナが好みのようだがどうしてどうして
こちらに回って来たのはホンの一箸、
あとは1尾をペロリ平らげた。
口元のほころびから察するに
白身魚の繊細な旨みを堪能したのであろうよ。

「志ぶや」
 東京都台東区浅草1-1-6
 03-3841-5612

2012年3月29日木曜日

第283話 貝と鮪と一夜干し (その1)

リピーターでもないJ.C.が
リピートする数少ない飲み屋の筆頭は
当ブログにもたびたび登場する大塚の「江戸一」。
それなりの理由はあるがほとんど理屈ナシ、
無条件で好きだ。
すぐそばの焼きとん「富久晴」とペアになっており、
大塚の町に来て片方だけというケースはまれだ。

ほかに行きつけというほどではなくとも
ときどきリピートしているのは
上野「味の笛」、神田「三州屋」、有楽町「八起」、
渋谷「富士屋本店」、池袋「ふくろ」、十条「天将」といった、
肩のこらないカジュアルな店ばかり。

出没率の高い浅草となると、
「神谷バー」と「正直ビヤホール」を挙げねばならない。
前者とペアを組むのが「志ぶや」で
後者の場合は「ニュー王将」ということになる。
これが夏場になると1軒目は
是が否でも川向こうの「23BANCHI CAFE」だ。

春まだ遠い、とある夜は
編集者のS倉クンと「志ぶや」の小上がりに差し向かい。
2人だからカウンターがよかったが
あいにく二連結の空席がなかった。
たまに上がって胡坐(あぐら)をかくのも悪くはない。
浅草に来て生モノがほしいときは「志ぶや」を訪れる。
ここはもともと鮮魚店、サカナに対する目利きが違うのだ。

浅草はアサヒビールのお膝元である。
だのに「志ぶや」が置くのはキリンラガーのみ。
プレモルやエビスじゃないのが救いながら
やはりドライか黒ラベが飲みたい。
だからこそ「神谷」ではアサヒ、
「正直」ではサッポロの生ビールの存在が
大きくクローズアップされるのだ。

貝好きのS倉クンのため、つまみはいきなり貝の三連発。
赤貝刺し、焼きはまぐり、とり貝ぬたをお願いした。

ヒモ付きの赤貝刺し

偶然だがサッポロラーメンみたいに
醤油・塩・味噌と、異なる味わいになった。
それにしてもどうして貝ってこんなに旨いんだろう。

菊正宗の上燗に切り替えながらあらためて思う。
ここでは何を食べてもハズレはないなァ。
本わさびにとことんこだわる「志ぶや」だから
貝のみならず、大海を泳ぐサカナを味わっておきたい。
さすれば、鯖か鮪か寒鰤か・・・。
思案の末に鮪のブツを所望した。

ブツはかくあるべし

刺身とはひと味違い、ブツにはブツのよさがある。

=つづく=

2012年3月28日水曜日

第282話 哀愁のヨーロッパ映画音楽

サンタナの「哀愁のヨーロッパ」を聴きながらコレを書いている。
1970年代後半、東京の街にはこの曲が流れていた。
今日は映画音楽、それも欧州映画に絞って懐かしむつもり。
それゆえあえてサンタナに登場を願った次第だ。

文化放送に「ユア・ヒットパレード」という人気番組があった。
1955年の第1回は当時の封切り映画の紹介で
翌週からヒットパレード形式になったという。
そんな経緯もあり、映画音楽が幅を利かせた番組だった。
スクリーン・ミュージックをひとつの音楽ジャンルとして
確立させたのは「ユア・ヒットパレード」の功績である。

かく言うJ.C.も、まだ紅顔の美少年の頃、
中学・高校時代に番組のお世話になった。
おかげで厚顔の初老年になった今も
スクリーン・ミュージックは大好きなのだ。
もっとも最近の封切り映画はほとんど観ないから
オールディーズ、いわゆる懐メロに限りますけどネ。

故・談志家元に倣い、思いつくままに懐かしの名曲を挙げてみる。
ヨーロッパ映画といってもイギリスや東欧はちと趣きを異にするから
北欧・南欧を含む西欧に絞って紹介したい。
年次順に並べたいが歳を取ると何をするのも面倒くさい。
まさに羅列の態で御免こうむりやす。

禁じられた遊び、現金に手を出すな、カビリアの夜、
太陽のかけら、禁じられた恋の島、愛のために死す、
誘惑されて棄てられて、イタリア式離婚狂騒曲、
死刑台のエレベーター、鞄を持った女、個人教授、
地下室のメロディー、リーザの恋人、冒険者たち、
あの愛をふたたび、ひまわり、スウェーデンの城、
サムライ、国境は燃えている、パリのめぐりあい
ザッとこんなところデス。
ほとんどがフランスとイタリアの作品になっちゃった。

そしてとりわけ心に刻まれている曲が
刑事、シェルブールの雨傘、太陽の下の十八才、
太陽がいっぱい、太陽はひとりぼっち、ブーベの恋人、
なのだ。
ちなみに刑事の主題歌は
A・ケッリの歌った「死ぬほど愛して」ですネ。

この6作は音楽だけでなく映画としても好きで
役者にも共通するものが見られる。
C・カルディナーレ、A・ドロン、
N・カステルヌオーヴォの出演作がそれぞれ2本。
あとはスパークとドヌーヴの2人のカトリーヌが1本ずつ。

脇役ながらM・ミシェルも2本に顔を出している。
しかもこの人、どちらも鬼の居ぬ間の女を口説き落とす役。
こういうのがハマリ役の役者もいるんですねェ。
ちなみにその2本の映画をズバリ当てることができたなら
アナタは相当の映画通ですゾ!

主題曲への傾倒はさほどではないが
誘惑されて棄てられて、イタリア式離婚狂騒曲は
もっとも愛する映画のうちの2本だ。
ともに監督は、刑事、鉄道員のP・ジェルミで
主演はS・サンドレッリ。
そしてこのステファニア・サンドレッリこそが
わが人生、最愛の女優である。
機会があったら観てやってくんらまし。

2012年3月27日火曜日

第281話 日曜日の連雀町 (その2)

日曜の、それも正午前だというのに
「かんだやぶそば」の店内は超満員である。
運よく待たずに座れたが入店後、ものの10分と経たぬうちに
あれよ、あれよと行列の尾は長くなるばかり。
これには相撲協会もあやかりたかろう。
連雀町で日曜に開けている優良店は
ほかに「神田志乃多゛寿司」と「近江屋洋菓子店」くらいのもの。
人々が集まり来るのは当然の成り行きであろう。

仕方なく頼んだ(シツコいねェ)エビスの生。
サイズはビヤホールでいう生中と生小の中間くらい、
いや、限りなく生小に近いかな。
これで600円だから、すでに町場のそば屋の値付けではない。
ビールのグラスとともにそば味噌が運ばれた。
通常はこれが出た時点で菊正が欲しくなるところ、
前の晩の酒が少々残っており見送った。

ビールの友はあい焼きである。
「かんだやぶ」でコイツを頼まなかったことはない。
自身の脂でジリジリ焼かれた胸肉もさることながら
脂を吸った相方の長ねぎがその上をゆく。
世の中には鴨より旨いねぎがある。
添えられた粗塩でいただき、何の不満もないけれど、
先刻のそば味噌をチョコンと乗せて口元に運べば、
舌先が敏感に反応してほほが緩むという寸法だ。

品書きに”スープも楽しめ”とあった、あさり酒蒸しを追加する。
小鍋仕立てというにはやや大ぶりの土鍋で供された。
お運びの女性に蒸気抜きの小穴が吹き出したら
ちょうど食べ頃と仰せつかる。
途中、フタを開けてはなりませぬとも―。

でも彼女が去ったあと開けちゃったモンね。
中では大粒のあさりが20粒ほど肩を寄せ合って健気だ。
助っ人役のだし昆布が2片同居している。
この一品もまた、主役の貝自身より染み出ただしが上手かも・・・。

肝心のそばは今が季節の2品をお願いした。
最初は若筍そばだ。
香りと歯ざわりがまことにすばらしく、
バランスのとれたつゆとその熱いつゆにもヘタらないそば、
脇のわかめも一役買い、おもむろにツルツルとやったら
耳鼻咽喉、そのすべてが揃って狂喜するではないか。

続いて白魚の天ぷら&せいろである。
胡麻油が主張する白魚はいかだに揚げられ、
他店にありがちなバラ揚げよりもずっとよい。
パクリとやれば、サックリのホッコリに思わずニッコリである。

ほんのりと緑がかったそばの色をあえて表現するなら利休鼠。
千利休が好み、「城ヶ島の雨」にも歌われたあの利休鼠だ。
歯ざわりより舌ざわりを重視したものか
食感はふんわりとしてシコシコ感には乏しい。
近くの「まつや」、あるいは「室町砂場」とはまったく異なるものの、
これはこれで悪くはなく、むしろほどよい甘みを備えたつゆの旨さが
店の特性をつまびらかにしている。

「かんだやぶそば」
 東京都千代田区神田淡路町2-10
 03-3251-0287

2012年3月26日月曜日

第280話 日曜日の連雀町 (その1)

3月21日、全国に先がけて桜(ソメイヨシノ)が高知で開花した。
東京の開花予想は30日だという。
この週末は暖かかったが
本当にあと4日やそこいらで桜が咲くのかネ。

日曜の朝、ちょいと早めに起き出し、
TVの将棋番組をあきらめて散歩に出掛けた。
年明け以降の3ヶ月というもの、
寒い日が続いたせいもあり、歩行不足もいいところ。
歩くこと以外に運動をまったくしないわが身、
散歩は唯一の生命線でこれを怠るとイマイチ調子が出ない。

九段下から靖国神社、千鳥ヶ淵を散策。
濠端の桜のつぼみはふくらみを見せているが
すぐにほころぶという感じではない。
九段下に舞い戻り、
昭和館で60年も前の映画館用ニュースを何本か観る。
第二次鳩山内閣だの、南極越冬隊などの映像が映し出された。

神保町を経て水道橋に差し掛かったとき、空腹感に見舞われる。
時計を見ると、もう11時過ぎだ。
はて、どうしたものか。
近所のカレー店「メーヤウ」に向かったが日曜はお休み。
カレーにフラれた途端、なぜか日本そばが食べたくなった。
べつにカレー南蛮を連想したわけでもないんだが・・・。

日曜日に開けている真っ当なそば屋は
「かんだやぶそば」くらいしか思い浮かばない。
ちょいと距離があるけれど、歩きついでだ、ここに決めた。
戦災を免れた旧連雀町には「やぶそば」のほか、
同じく日本そば「まつや」、鳥鍋「ぼたん」、
あんこう「いせ源」、甘味「竹むら」と
何軒かの老舗が古く良かりしたたずまいを見せている。
洋食の「松栄亭」にも指を折りたいところなれど、
モダンなビルに建替えられてしまい、往時の面影はない。

到着するとすでに順番待ちの3人連れが店先に。
さいわい奥の小テーブルが1つ空いており、すぐに通された。
隣りのテーブルではカップルがビールを飲んでいる。
同時に「しまった!」と、後悔の念が脳裏を襲った。
「ここはエビスしか置かないのだった」―このことである。
よりによって生・大瓶・小瓶、すべてエビスのみ。
淡白なそばや鮨にエビスはあまりに重過ぎる。
サッポロに固執するのなら黒ラベルを併用してほしい。

土曜の晩に深酒をしており、
ここでいきなり菊正宗というわけにもいかない。
仕方なく瓶ほどアクが強くない生を所望する。
能書きを言うわりにはこれを3杯も飲んじゃったから
結果としてずいぶんエビスのお世話になってしまった。

=つづく=

2012年3月23日金曜日

第279話 趣向を凝らした披露宴 (その2)

目黒雅叙園にて結婚披露宴に出席中。
雅叙園といえば第一感は
和漢折衷のゴージャスな空間に中国料理ということになろう。
宴席の料理もやはり主力の中華であった。

珍しいシャンパン・サーベルのセレモニーが
乾杯の前に執り行われた。
シェフ・ソムリエが手にしたサブレ(サーベル)で
見事にシャンパーニュのボトルのそっ首をコルクともども刎ね落とす。
仏語でサブラージュという特殊技能である。
もともとは中世フランス海軍の艦長が艦の出初め式に際し、
航海の安全と海戦の勝利を祈願して自ら剣をとったもの。

乾杯の音頭は新郎の所属する港区の消防団の団長さん。
偶然の産物ながら、ここで出初め式つながりとはできすぎだ。
いかにもハマリ役で小粋なトークも座を和ませる。
一瞬、「昭和残侠伝 血染めの唐獅子」の挿入歌が脳裏をよぎった。

♪   鳶に命の 三番纏
   ジャンが鳴り出しゃ 捨て身の稼業
   とった火口は 根性で守る
   浅草(エンコ)生まれの 男伊達
   背中(せな)で燃えてる 唐獅子牡丹 ♪
            (作詞:水城一狼)

珍しくも健サンがヤクザではなく、鳶火消しに扮した異色作だ。

ポメリーのシャンパーニュをスーパードライに切り替えてリラックス。
随所に趣向が凝らされた楽しい宴である。
せっかくだから料理メニューをそのまま転載してみよう。

=御献立=

一、特製冷菜五種盛り合わせ
一、中華鮮鯛のワンタンサラダ
一、気仙沼産フカヒレ姿煮込み銀器盛り
   チコリキャビア・コラーゲンボール添え
一、大正海老の簪(かんざし)仕立て 干し貝柱ソース
一、旬野菜と湯葉ステーキの蟹肉餡掛け
一、和牛肉のマコモ茸捲き焼きXOソース アボガドサラダ添え
一、一口五穀米の蓮御飯 子宝水餃子
一、杏仁アイスとマスクメロン”ボン・マリアージュ”
一、コーヒー又は紅茶

おしなべて料理はけっこうだった。
鯛は旨みがもれてイマイチだが
大正海老も湯葉ステーキも牛肉のマコモ茸捲きも水準が高い。
杏仁アイスは特筆モノだ。
献立外のウエディングケーキはSKYAMKOのメンバー、
A子&Y里の即興デコレーション付き。
見た目、お味ともに花マル、楽勝で合格点に値した。

しかしながら料理のネーミングにはもう一工夫ほしかった。
”中華鮮鯛のワンタンサラダ”では
内容がダイレクトに伝わらないし、スマートさにも欠ける。
せめて”活真鯛の中国風サラダ 揚げ雲呑添え”であろう。
それにアボガドはアボカドが正しい。
もっと厳密にいえばアヴォカドである。

重箱の隅を突つくのはこれくらいにして
プロ集団が力を結集した華燭の典を振り返ると
和やかな中にも洗練された趣向に満ちて
久々に素敵な披露宴に席を連ねたという感慨が残った。
新郎新婦よ、互いに多少のトウが立っていようとも
手に手を取り合って、行く末永くお幸せに!

「目黒雅叙園」
 東京都目黒区下目黒1-8-1
 03-3491-4111

2012年3月22日木曜日

第278話 趣向を凝らした披露宴 (その1)

一昨日の春分の日。
今年初めて結婚披露宴に出席した。
久しぶりの披露宴である。
年々ジェネレーション・ギャップが拡がってゆくうえ、
わずらわしさから逃れるために
海外で式を挙げるカップルが増えたことも一因だろう。

招待状の代わりにしょっちゅう届くのが訃報だ。
悲しい報せはある日突然やってくる。
悲しみは駆け足でやってくる。

♪ 明日という字は 明るい日と書くのね
  あなたとわたしの明日は 明るい日ね ♪
            (作詞:アン真理子)

馬鹿かオレは!
訃報が舞い込むのはたぶんに歳のせい。
届くたびにため息をついていても始まらない。

宴の会場は目黒雅叙園・飛鳥の間。
われらが偽グルメ集団・SKYAMKOのメンバーの一人、
K子姫が本日の主役なのである。
普段はK子と呼び捨てだが今日はそうもゆくまい。
彼女の勤務先が雅叙園で文字通りのホームグラウンド。
経営陣や管理職のおエライさんも多数出席されており、
サービススタッフに心なしか緊張の色が垣間見える。

披露宴には遅刻スレスレの到着。
地下鉄の車内で原稿を書いていて乗り越した。
この日はたまたま4月から始まる週刊誌の連載第1回の締切日。
ふと浮かんだアイデアを忘れぬうちに書き残すのに没頭していた。

そんなこって駆けつけたのは新郎新婦入場の直前だった。
おかげで招待客中ただ一人、彼らと短い会話を交わせたし、
紋付袴に内掛け姿の”鶴と亀”を拝むこともできたのだった。
急ぎ足でテーブルに向かい、同席の面々に会釈して着席。
そこでオッ!となった。
皆さん乾杯でもないのにシャンパングラスを傾けているよ。
アレッ? 何だ何だ!
箸を上げ下げしてるじゃないか!
見ると目の前に小ぶりな松花堂弁当みたいな前菜も。

ここでJ.C.、思わず膝ポンである。
まことにけっこうなアイデアじゃありませんか。
とてもすばらしいシステムじゃないですか。
媒酌人や主賓の長いばかりでためにならないスピーチを
飲まず食わずで拝聴するのはたまりませんもんネ。
客の気持ちを慮った二人の差配に心から拍手を送りたい。

加えて媒酌人抜きのこの披露宴、
口火を切ったのはほかならぬ新郎である。
簡潔なお礼の言葉と挨拶は爽やかにして
男らしいものであった。
さすが、消防団員の一員である。
主賓お二人のスピーチもそれぞれにユーモアを交えて卓抜。
こいつはいい宴会になるゾ! 
早くも招待客の心に確信をもたらしたのだった。

=つづく=

2012年3月21日水曜日

第277話 今週号の「週刊現代」 その2

当ブログは土・日を除く朝、8時45分にアップしているから
執筆の時間は前日の昼どきであることが多い。
珍しくこの稿は前々日に書いた。
昨日の春分の日は友人の結婚披露宴に出席したため、
おちおち書いている時間などないと思われたからだ。

そろそろ一昨日が昨日になる時間帯。
酒を飲みつつ、音楽を聴きながらコレを書いた。
飲んだのはぶっかき氷をいっぱい入れたレモンハイ。
下町の定番焼酎・キンミヤを市販の炭酸飲料で割った。
目黒のほうにある博水社という、
出版社みたいな名前のメーカー製でサワーフレッシュというヤツだ。
炭酸のガスが強めで甘さは控えめ、
レモン果汁が10%入っており、なかなかに重宝している。

聴いていたのは活動を中止しているダークダックスの名曲の数々。
何だか久しぶりに往年の名コーラスが聴きたくなったのだった。
今かかっているのは「アムール河の波」。
目を閉じるとまぶたの奥でシベリアの大河が
滔々と流れてゆくさまが浮かぶ名曲である。
この曲いついてはまたふれる機会もあろう。

さて「週刊現代」の記事であった。
新聞の紙面に寄付者の名前が掲載されるとなったら
寄付金の額がピーンとハネ上がった一件だ。
中日新聞は全員の名前を紹介したと証言しているが
匿名を希望する人は誰もいなかったのだろうか?

義捐金を送る行為は善行に相違ない。
しかし、その善行が広く社会に公表され、
立証されるという前提のもとに
多くの善行があったことを当の新聞社が答えている。
J.C.が引っ掛かりを覚えるのはこの点だ。

もちろん被災者にとって
善行は大きければ大きいほどありがたいに決まっている。
「それでいいじゃないか、余計な横槍を入れるなヨ!」―
何やらそんな声も聞こえてきそうだ。
斬新なアイデアで義捐金を受付けた新聞社は報道機関として
真摯にその使命をはたそうとしたハズ。
寄付をした人たちも善意に基づいて気持ちをお金に託したハズ。
ともに行為自体はまことに尊い。
ただ、中日と朝日の彼我の差を明白な数字で提示されると
正直言ってJ.C.は少なからずひるんだ。
人の心の中の美醜を同時に突きつけられた思いがしたからだ。

まっ、このハナシはこのへんでやめといて、2つ目の記事。
以前、俳優の杉浦直樹が亡くなったときに当ブログでもふれたが
最近まったく姿を見せなくなった名バイプレーヤーに日下武がいた。
記事は彼の近況を伝えてくれていた。
日下サンは病床にあった奥さんの介護を続けて彼女を看取ったあと、
長年共演していた女優サンと再婚していたとのこと。
結婚から1年以上経っているが
この結婚も前妻の死もこれまでまったく報じられておらず、
いかに二人がひっそりと新婚生活を送ってきたがわかるとまとめている。

今年で81歳におなりだが再び舞台に映画に元気な姿を見せてほしい。
そういえば、先週今週と2週に渡り、コラム休載中の伊集院静サン。
過労で倒れでもしたかと編集部に電話を入れたら
来週には復旧するとのこと、大事に至らずけっこうでした。

2012年3月20日火曜日

第276話 今週号の「週刊現代」 その1

日曜朝の楽しみはNHKエディケーショナルの将棋番組。
一昨日はNHK杯の決勝戦だった。
羽生NHK杯タイトル保持者と
渡辺永世竜王の文字通り一騎打ちとなり、
将棋ファンにはたまらない最高の顔合わせである。
最終版はハラハラドキドキの手に汗握る展開の末、
羽生王者が4連覇を達成して1年間の幕を閉じた。

しかし羽生善晴の強さ、しぶとさは神の領域に達している。
タイトル獲得にはトーナメント戦で最低5勝は必要。
4連覇の意味はこの4年間、無キズの20連勝ということなのだ。
若手の台頭、ことにNHK杯のような早指し戦では
彼らの活躍が著しいけれど、今年で41歳になる棋界の第一人者が
大きな壁となって立ちはだかっている。
いや、実に頼もしい。

明けて月曜日。
毎週月曜発売の「週刊現代」を買いに近所の書店へ。
帰宅して目を通すと、興味をそそられた記事が2つ。
読者のお目にもかけたいので
例によって編集部には無断で紹介してみたい。
1つ目の記事は一部中略つきで転載する。

=義捐金トップは中日新聞社=

1位・・・中日新聞 2位・・・朝日新聞 3位・・・読売新聞。
もちろん、発行部数の話ではない。
なんとこれ、各新聞社が東日本大震災でどれだけ義捐金を
集めたかを調べた結果である。
中日が約86億円を集めたのに対し、2位の朝日でも約33億円。
倍以上の差である。
窓口となった中日新聞社会事業団社会奉仕部に聞いた。
「読者が中日新聞を信頼して預けてくださったおかげだと感謝しています。
伊勢湾台風で全国から義捐金が集まったため、
年配者にはその恩返しと考えた人も多いようです。
企業では1億円、個人では1千万円が最高ですが
たとえ1円でもいただいた方は全員お名前を紙面でご紹介しました。
それが、これほどの金額が集まった理由だと考えています」
同様にすべての寄付者の氏名を掲載した神奈川新聞、
上毛新聞なども10億円以上集めている。
「地方紙は読者との距離が近く、
名前が載ることは地元の人にとってステータスになる。
このような手法は地元紙が生き残るためにいいアイデアだと思います」
(門菜直樹・立教大学名誉教授)

記事を読んでなるほどなァ・・・と思った。
しかしすぐに何だかなァ・・・とも思った。
人間の心に同居する善意と我欲のアンチノミーを
目の当たりにした感があった。
知らなかった裏事情をたまたま知ることができたわけだが
いま少しこの事実を考えてみたい。

=つづく=

2012年3月19日月曜日

第275話 再び部下と飲みました (その2)

都営新宿線・住吉駅前の「山城屋酒場」にいる。
南砂町にある同名店は縁戚筋だ。
何年か前に建替えられた住吉店は砂町店に比して
レトロ感では劣るものの、スッキリ感では優っている。

大島の「ゑびす」でビールを飲んできたので
生は1杯だけにして燗酒に切り替えた。
ガラス瓶入りではなかったが、ここにも菊正宗があった。
僥倖と言わねばならない。
乙女たちは順調に生中のお替わりをしている。

元部下でビールが好きなA子の呑ん兵衛ぶりは前回実証済み。
コニャック娘のR美のほうは未確認ながら
A子によれば熱燗が大好きなのだと―。
ふ~ん、珍しいネ。
大のオトコをもいきなり沈没させる破壊力を秘める日本酒を
よりによって24歳のギャルがこよなく愛するとは―。
過去に一つや二つの酒による大失敗があるんじゃないか・・・
そう勘ぐりたくなるのもむべなるかな。

選んだ初っ端のつまみは名物・とんから。
豚ロース肉を油で揚げた、いわゆる豚の唐揚げで
パン粉をつけない小ぶりのとんかつといった風体である。
これが350円とあってはほとんどの客が放っておかない。
豚へ豚へとお客もなびく・・・当然の帰結であろう。

一切れ口元に運んだ乙女たちの眼がパッと輝いて異口同音に
「おいっし~い!」
そうであろう、そうであろうとも。
しょっちゅう居酒屋チェーンに行ってる連中が
下町酒場のレベルの高さを実感した瞬間であった。

おあとの注文は二人に任せた。
すると、しらすおろしに月見とろろを選ぶではないか。
こちらはウェルカムだが、ずいぶんとジジむさい2品だねェ。
糖尿病でも患ってんじゃないのかい?

割り箸でとろろをコネコネして
「これは山芋じゃなくて大和芋だわ」なんてホザいてる。
ほう、判ってるじゃないの。
おっと、二人は料理教室の講師なのでした。
もっともコニャックのほうはパン専門らしいがネ。

熱燗に切替えた牝猫ともどもしこたま飲み、
隣り町の菊川にタクシーで移動する。
お次は「みたかや酒場」なる”婦唱夫随”のユニーク店。
女将サンは町の天然記念物に指定されてもおかしくない人物で
気はいいけれど、けっこうおっかない。

ここでは三者揃ってビールに集中した。
店に2本だけ残っていたサッポロ赤星は瞬く間にカラになり、
続いてのキリンラガーも4~5本は空いただろうか。
あれ、あれ、ふと気がつけば、
酔いの回った牝猫たちが女将にタメ口をたたいているヨ。
いやはや、ナントカ、蛇に怖じずとはこのことである。

しまいにゃ締めに頼んだソース焼きそばが余ったんで持ち帰るなどと、
こちらがハラハラ、ヒヤヒヤしちゃうぜ、まったく!
ところが普段は認可されないはずのテイクアウトが許された。
一体全体、どうなっちまったんだか。
2匹の猫に虎タジタジの景色がそこにありました。

「山城屋酒場」
 東京都江東区住吉2-7-14
 03-3631-1216

「みたかや酒場」
 東京都江東区森下4-20-3
 03-3632-4744

2012年3月16日金曜日

第274話 再び部下と飲みました (その1)

昨日、当ブログに初登場した元部下のA子。
あれからしばらくして、またメールが届いた。
また香港に行ったので、またみやげを買って来たという。
何とまた「鏞記酒家」で晩餐会を催したのだ総理、
もとい、のだそうだ。

宮城在住ののみともR子は「福臨門」専門だが
新しいのみともA子は「鏞記」にぞっこんじゃないか。
どうして日本のオンナはこうも一途(いちず)なんだろか。
まっ、恋愛も行きつけも一途なほうが
余計なトラブル回避に好都合ではあろう。

でもって、こたびは江東区・住吉界隈に案内した。
A子曰く、講師仲間の女性を一人同伴したいとのこと。
オトコはともかくオンナなら異存はない。
二つ返事でOKと応じた。

当日は独り早めに江東区入り。
都営新宿線・大島駅に降り立つ。
この大島は”おおしま”ではなく”おおじま”と濁る。
彼女たちとの一次会会場は
同じ新宿線・住吉駅前の「山城屋酒場」だが
その前に1軒立ち寄りたい酒場が大島にあった。

目当ての「ゑびす」はコの字カウンターだけの小店。
大塚「江戸一」にレイアウトは似ていても雰囲気が異なる。
あちらはホワイトカラー中心、こちらはブルーカラーが主体。
流れる空気が違っていても呼吸の仕方ひとつで
ともに酒飲み天国と化すところが名店たる所以であろう。

葛飾区・四つ木にも同名の「ゑびす」があるが
両者の相互関係は知らない。
と、ここまでで「ゑびす」の紹介はやめておく。
ただ今15日の16時過ぎ。
実はコレを書き終えたら今夜もそこへ出掛けてゆくのだ。
したがってアップはまた近いうちにあらためて―。

大島―西大島―住吉と2駅ぶん歩き、乙女たちに合流。
「山城屋酒場」の下町チックな暖簾をくぐり、
さっそく生ビールで乾杯。
生中を2杯やっつけてきたのに
小半刻歩いたから、まだまだビールが旨い。
同じ生中でもここのは「ゑびす」よりワンサイズ大きめだ。

さて、紹介されたA子の同僚・R美嬢は若干24歳ときたもんだ。
二人には10歳近い年齢差があるものの、
妙に気が会い、絶好ののみともなのだという。
その日は水曜だったがすでにその週、一緒に飲むのは3夜目とのこと。
(コイツら馬鹿じゃねェの!)
思わず心の中でつぶやいた。

聞けばR美の父親はコニャックのレミー・マルタンが大好物。
それゆえ自分の娘をR美と名付けたのだと!
彼女の本名がバレちゃったけど、娘が娘なら親も親で
二人とも馬鹿じゃねェの!

=つづく=

2012年3月15日木曜日

第273話 昔の部下がくれました

日々、ブログを綴っていると
思いもかけない人からメールをもらうことがよくある。
このたびのセンダーは元部下だった。
会社勤めの頃、J.C.はずっと営業畑で
人事とは無縁だったがその日は担当者が不在のため、
自ら面接して採用したK内A子である。
早いものであれから10年にもなろうか。

その後、彼女は同業他社にヘッドハントされ、
突然社内から消えたのだが、今から6年ほど前、
かつて数寄屋橋にあった旭屋書店でバッタリ出くわしたのだ。
短い会話を交わしただけで別れたが、それ以来の音信になる。

せっかくだから一杯飲ろうということになり、
待ち合わせたのが浅草・雷門。
その夜は行きつけの店を中心に4軒もさまよい、
よく飲み、よくしゃべった。
もともと酒はイケるクチだと記憶していたが
まさかここまでの左党とは夢にも思わなかった。
ビール好きで途中いろいろ飲んだとしても
最後はまたビールに回帰するのだと言う。
これはわが意を得たりもいいところ、
二人の酒癖が高じて夜更けのはしご酒となったわけである。

当時はまだ二十歳(はたち)そこそこだった小娘が
現在は三・三のゾロ目になっちまったとぶっちゃける。
幸せな結婚に恵まれ、まさに人生を謳歌している様子だ。
専業主婦に甘んずることなく、
ヒマをみてはクッキングスクールの講師をしているとのこと。
ふ~ん、人間変われば変わるもんだねェ。

趣味は旅行で商売柄食べ歩きも大好きらしい。
この夜は旅先で買ってきたみやげ品を2つもくれた。
可愛いヤツだ。

見るからに本物という感じ

まず香港は「鏞記酒家(ヨンキー チュウチャ)」の極品XO醤。
原材料は、干し貝柱・干し海老・海老子・雲南ハム・
赤唐辛子・乾燥分葱・塩・油。
炊き立てのごはんに乗せてもいいし、
ラーメンや炒飯の薬味としても使える。
干し桜海老の塩焼きそばに加えたらバツのグンであった。

2品目は神戸・有馬温泉にある「川上商店」の松茸昆布。
開業は室町後期だからとんでもない老舗だ。
当時は山椒・山蕗・松茸などを湯治客相手に商ったという。
江戸後期になって北海道の昆布が北前船で運ばれ、
当地の松茸と運命的な出会いを遂げることとなる。
酒によし、飯にまたよし。
おぼろ昆布の吸い物に落としてやると小粋な一椀になった。

さすがに料理教室の講師だけのことはあって
選球眼のよさに元部下・A子を見直した次第である。

「鏞記酒家」
 32-40 Wellington St. Central. Hong Kong
 852-2522-1624

「川上商店」
 兵庫県神戸市北区有馬町1193
 078-904-0153

2012年3月14日水曜日

第272話 酩酊度を検証に再び (その3)

「庚申酒場」をあとにして
とげぬき地蔵こと高岩寺の前を横切りJR巣鴨駅前に出た。
北口広場界隈には気の利いた居酒屋が何軒かあるが
「富久晴」・「江戸一」・「庚申酒場」と酒場ばかりを渡り歩いて
少々目先を変えたい心境につき、
「25時」なるダイニングバーみたいな店に入った。
以前は店名の通り、25時(午前1時)まで営業していた模様。
深夜の客が減ったためか、現在は23時に閉店する。
第一印象は巣鴨という土地に似つかわしくない雰囲気だ。

店名のアタマに無国籍料理を冠しており、
なるほどメニューを見れば一目瞭然なれど、
まあ、和洋折衷といった程度で今の世の中、
居酒屋チェーンでもピザやパエリャを出すからネ。

ドリンクメニューは輸入ビールの取り揃えが豊富。
1本目はフランスのクローネンブールを所望する。
1664年にアルザスのストラスブールに設立された、
老舗メーカーの手になるもので実に350年の歴史を誇る。
米国の東海岸では同じ1664年に
オランダの植民地だったニューアムステルダムが
英国に奪取され、ニューヨークに名前を改めている。

飲みものだけでも問題なさそうだが、それじゃ可愛いくないから
焼き天豆(そらまめ)を注文するとビールの合いの手になかなか。
ゆでれば妙な匂いを発する天豆も焼かれた場合はおとなしい。
でも一番は下町の古い豆屋で売っている炒り天豆。
アレは塩豆や落花生より好きだな。

ビールのお替わりはオランダのグロールシュ。
こちらはクローネンブールの上をゆく1615年の設立で
オランダ最古のビール会社。
オランダビールというと世界的にハイネケンが有名だが
歴史的にはグロールシュが250年ほど先輩に当たる。
飲み口を比べるとハイネケンがサッポロ黒ラベルなら
グロールシュはエビスといった感じ。
タイプが異なるからこそ、両雄が並び立つのかもしれない。

メニューを眺めていて白ソーセージを発見した。
ドイツ語でヴァイスヴルストといい、
バイエルン地方ののミュンヘンが本場。
15年前にミュンヘンの市庁舎そばの確か、
「Dolniz」というレストランで食べたが
本場では蜂蜜入りのハニーマスタードを添えてくるのが常。
ヘッ! と思ったものの、試してみたら相性抜群だった。
郷土料理にはそれなりの裏づけがあるのだ。
北欧ではミートボールに野いちごのジャムを添えるものネ。
残念ながら「25時」では
ありふれたディジョンの粒マスタードで独仏同舟の景色。
悲しい歴史を持つ両国ながら
メルケルとサルコジがけっこう仲むつまじい今日この頃である。

自分の酔っ払い度をチェックしに出掛け、結局4軒もハシゴした。
だが、どんなに酒を飲もうとも
ビールに主導権を握らせておくぶんには心配無用。
まだ13日火曜日の午後3時だが綴ってるうちに飲みたくなった。
冷蔵庫のビール室にはサッポロ黒ラベル、アサヒスーパードライ、
そして最近水代わりに飲み始めた低アルコールにして
糖質ゼロのキリン濃い味が揃ってピックアップを待っている。
今夜は麻雀につき、低アルコールでお茶を濁すとしますかの。
糖質ゼロでフリ込みゼロの楽勝ムードでいきたいものですな。

=おしまい==

「25時」
 東京都豊島区巣鴨3-28-8
 03-3940-4490

2012年3月13日火曜日

第271話 酩酊度を検証に再び (その2)

記憶がおぼろげになるほど酩酊したのに
傍目にはそれほどヒドく映らなかったようで何より。
まっ、天保の剣客、平手造酒に倣えば、

 酔いどれ果ててもJ.C.は酒呑みじゃ
 男の呑み方だけは知っており申す

ということであろう。
いや、あんまり自信はなかったんですけどネ、テヘッ。

大塚をあとにしたわれわれは
都営荒川線のチンチン電車に
つかのま揺られて庚申塚へとやって来た。
庚申塚(庚申塔)や庚申信仰に興味のある方は
ググッてみてください、なかなか面白いですよ。

俗称お婆ちゃんの原宿、
とげぬき地蔵で有名な巣鴨地蔵通り商店街のはずれまで
足をのばしたのにはワケがあった。
狙いに定めし1軒が庚申塚駅のすぐそばにあり、
その名もモロに「庚申酒場」という。

お見受けしたところ、齢八十にならんとする女将サンが
たった一人で切盛りするひなびた酒場。
隅田の水から遠く離れた豊島区に
いわゆる下町でもない巣鴨の町に
よくもまあ、こんな酒場が生き残ったものである。
ちなみに築は昭和30年の大むかし。

腰だけは曲がってしまった女将サンだが
頭脳は明晰にしてしゃべる言葉にいささかのよどみもない。
誰の助けを借りるでもなく、夜な夜な灯りを点している。
暖簾を出すのは19時半と遅めながら
敬服に値する営みと言うほかはない。

女将が、というより、やっぱり婆ちゃんと呼ぶにふさわしいが
みずから串を打ち、焼き上げた焼き鳥とともにビールを飲む。
串は鳥もも肉と豚レバーだったかな?
おそらくその2種だったと思われる。
数本をタレで焼いてもらい、七色をふっていただいた。

ほどなく東大OBのオジさんたちだったかな?
(クエスチョンマーク連発で失礼!)
すでにきこしめしたた4人連れがにぎやかに入店して来た。
こういう場所では知らぬ同士がすぐに打ち解けて会話を交わす。
ときには打ち解けすぎて、論争に及び、
はては口論に達することも日常の茶飯事。
当夜もずいぶん熱い言葉が飛び交ったが
結局は薬局、上手く収まって名刺を差し出した御仁もいた。
酔眼をこらすと、横浜は港南区の税理士サン。
遠路はるばるご苦労様でした。

カウンターだけの狭い店につき、長居は無用と言うより迷惑、
頃合いをはかって河岸を変えねばならない。
庚申だけに後身に席をゆずるワケだ。
フン、つまらんヨ! ってか?
へへ、ごもっとも、I agree with you, Sir!

=つづく=

「庚申酒場」
 東京都豊島区巣鴨4-35-3
 03-3918-2584

2012年3月12日月曜日

第270話 酩酊度を検証に再び (その1)

いやあ、大塚の酒亭「江戸一」でしこたま飲ったのに
翌日にちっとも残らぬ菊正宗はまっことよい酒でありますな。
ヒドいのになると頭ガンガンだもんねェ。
しかも翌朝は築地の「とゝや」でビールをが飲めたんだから・・・。
J.C.はこれからも末永く菊正とつき合いましょうぞ。
ついでに言うと櫻正宗もなかなかのもの。
彫刻家・高村光太郎が浅草「米久」にて
牛鍋の友としたのがこの酒であります。
葵が枯れたあと、日の本は菊と櫻で持ちまする。

酔いどれた夜から数日が経って
醜態(?)を忘れかけていたある日。
再び頭をもたげてきたのはこのことであった。
やはり早急に現場を訪ね、
当夜の酩酊度を再検証しておかねばならない。

それでもって、行きました。
犯行現場に立ち戻る真犯人さながらですな。
ツレがあったほうがよかろうと、飲みとものT村クンに声を掛け、
待ち合わせはJR山手線・大塚駅に17時半。

その前にJ.C.はミッションをこなしておく。
焼きとんの「富久晴」に独りで出向いたのだ。
17時の開店と同時に縄のれんを分け入ると、
笑顔の店主に迎えられた。
ほかに客がいないこともあり、ごく自然に世間話が始まったが
オヤジさんの様子から懸念するほどのことはなかったようだ。

ホッと一安心で会話にも弾みがつく。
問わず語りに耳を傾ければ、当店は先代が昭和22年に開業。
現在の二代目オヤジは昭和45年に店を引き継いだ。
往時の大塚は都内きっての三業地だったから
今の衰退ぶりからは思いもよらぬ、にぎわいであったろう。

T村クンと合流して、さあ「江戸一」である。
その夜のその時間は珍しく空席が目立ち、
コの字カウンターの右手一番奥に陣をとることができた。
ちょうどお燗番の真ん前でこれは都合がよろしい。

季節のふきのとう味噌と蛍いかを注文しておき、
”あの夜”に引き続き、またもや菊正の上燗をお願い。
客が立て込んでくる前に
お燗番の女性とふたこと、みこと、言葉を交わす。
彼女の醸す気配から感じるところによると
どうやらここでも取り越し苦労にすぎなかったみたい。
やれやれ・・・そしてめでたしである。

酒の味が格段に上がったにもかかわらず、当夜は2合で切上げた。
何のための再検証だかわけが判らなくなるからネ。
ところで追加注文したカマスの一夜干しとマグロブツだが
旨みじゅうぶんのカマスは上々なれど、
ブツは食味の悪いビンチョウでまったく駄目。
名店「江戸一」にしてはまことに稀有なことである。
猿が木から落ちることもあれば、河童が川で溺れることもある。

さて、心も晴れたことだし、ここでお開きにはしたくない。
まだ黄昏のビギンである。
二人はチンチン電車の乗客となり、
大塚駅前から2つ目の庚申塚へと向かったのでありました。

=つづく=

*「富久晴」、「江戸一」のデータは前回を参照してください

2012年3月9日金曜日

第269話 あゝ 酔いどれ天使 (その4)

行儀のよいお客さん揃いの「江戸一」では
酒を飲んでも3本どまりを心がけている。
徳利1本に1合は入っちゃいないだろうから
せいぜい2合半がいいところだ。
当夜は普段の倍以上飲んだことになる。
となれば酩酊ぶりもずいぶんだったに相違ない。

相方と論争したわけじゃないから
会話の音声で隣客に迷惑は掛けなかったつもり。
しかし目の前に7本の空瓶を並べた姿はちと恥ずかしい。
お燗番のオネエさんに白い目で見られやしなかったか。
ひょっとすると大女将のひんしゅくを買ったかもしれない。
思い起こすと冷や汗が出てくるな。

何せ、並んだ瓶の数すら認識できずに
翌日、相方に訊いて初めて判明したくらいだもの。
おぼろげな記憶をたどれば
2軒目は焼きとんの「富久晴」に落ちのびていったような・・・。
大塚に来ると「江戸一」&「富久晴」はペアになっていて
どちらか片方だけで帰ると
後ろ髪を引かれる思いに、いささかの悔いを残すことになる。

ほとんど覚えちゃいないが「富久晴」で飲んだのは
キリンラガーにきまっている。
ここではめったに日本酒を飲まないからだ。
これもまた相方に確かめたところ、
焼きとんは2人で5本しか食べていないという。
飲んだくれが深い時間に現れ、
これでは店のオヤジに迷惑を掛けに来たようなモンだ。
いや、懸念すべきはこの店でも”白い目”であろう。
まったくイヤになっちゃう。

滞在時間は約30分。
夜の町に千鳥足で迷い出ながら
それでも相方を銀座のホテルまで送ろうとしたらしい。
大塚駅前から地下鉄丸の内線が通る新大塚まで
酔い覚ましにフラフラと歩いた。
ところが駅をはるかにオーバーラン。
気づかないんだから、こりゃ相当に酔っ払ってたネ。
そいでもって結局は薬局、茗荷谷の手前からタクッたんだと・・・。
何とか送り届けたものの、何やってんだか、ったく!

翌朝。
さぞかしヒドい二日酔いに悩まされるかと思いきや、
これがとんでもハップン、ニジュップン!
快適なお目覚めを迎えまして
胃袋クンが空腹を訴えておりましたとサ。
それもそうだよ、前夜はほとんど食っておらんモン。

そんなこって出掛けて行った築地市場だったのである。
つい先日、当ブログに記した通りに
焼鳥のサービス丼を食ったり、本物の豆苗を購入したり、
元気いっぱい、夢いっぱいときたもんだ。
J.C.オカザワは街のおどけ者、
とぼけ笑顔で今日もゆくのでありました、ハハ。

=おしまい=

「江戸一」
 東京都豊島区南大塚2-45-4
 03-3945-3032

「富久晴」
 東京都豊島区南大塚2-44-6
 03-3941-6794

2012年3月8日木曜日

第268話 あゝ 酔いどれ天使 (その3)

昨夜はTVを観るのに忙殺された。
【19時】 ひかりTVでヒッチコックの「泥棒成金」
【21時】 NHK・BSで「日本サッカーの50年・・・ 第三夜」
【22時】 フジTVでアルガルヴェ杯決勝 日本VSドイツ
それに加えて
【翌4時半】 NHK・BSでダルビッシュ・デビューのオープン戦

ホントに好きだわ、おかげで寝不足だわ。
ただ、われながらエラいのは
くだらんヴァラエティ番組が見当たらんこと。
スポーツと映画だけである。
報道番組も観ろよ! ってか?
いいの、いいの、
BSがしょっちゅう短いニュースを流してくれてるから。

なでしこは相変わらず見せてくれました。
勝負はときの運・・・っていうかァ、
佐々木監督はアルガルヴェカップとキリンカップで調整して
目標はロンドン五輪に定めているんだからネ。
とにかく楽しませてくれてムイト・オブリガード!
おい、サムライもなでしこを見習えよなっ!

さて、さて、まだ「江戸一」の中途だ。
たびたび当ブログにも登場する名店はその名が示す通り、
東京一の酒亭と言い切っても過言ではない。

Why ? ときましたか。
Because
一、小粋な空間に穏やかな時間が流れている
一、洗練された客たちにバカがまったくいない
一、選び抜かれた酒と肴の取り揃えに過不足がない
一、心のこもった女性たちの接客が無聊を慰めてくれる
まあ、こんなところでしょうか。

季節によって替わるつまみのうちで気に入りは
桜海老おろし、ほたるいか酢味噌、いくら醤油、
酢がき、水茄子、上りかつお、お新香といった面々。
飲むほうは通常、キリンラガーの大瓶で始める。
清酒に移行してからは
かつて褒紋正宗や真澄が主流だったが
最近は温故知新、菊正宗の一合瓶に落ち着いている。
正一合だからどれだけ飲んだか一目瞭然なのがよい。
と言いたいところなれど、当夜はその限りでなかった。

体調を戻した相方と菊正をやり出したところ。
談論風発して箸を休めたまま、もっぱら酒盃を重ねる。
途中、記憶が飛んじまったくらいだ。
あとで相方に確かめたら目の前には一合瓶が7本、
カラになって並んでいたんだと・・・。
しかもヤッコさんは1合半しか飲んでないんだと・・・。
ゲッ、ちゅうことは5合半も飲んだんかいな。
おまけに高清水の徳利も1本やっつけてるし、
こんなに日本酒を摂取したのは何年ぶりだろうか。

=つづく=

2012年3月7日水曜日

第267話 あゝ 酔いどれ天使 (その2)

やって来た4人組に店の行く末を安堵して
心晴ればれ「大提灯」をあとにした。
だが、よくよく考えてみれば
平日の夕方から飲み始めるシアワセ者なんて
世間にそうそういるものではなかろう。
早い時間の飲み屋が空いているのは当たり前、
おのれの自堕落な生活のせいで見当違いの心配をしちまった。

隣りの「富久晴」には及ばぬものの、「大提灯」は悪くなかった。
ただ、時間調整の立ち寄りで大瓶2本は飲みすぎだろう。
まあ、この時点では当夜の酔いどれを
まったく予期しなかったのだから仕方がない。

本命「江戸一」の敷居をまたぐ。
相方の姿はなくともおっつけ現れるだろうと
接客の女性にいきなりのVサインを送った。
いや、これはVサインではなく、2人での来店を告げただけ。
ビールはじゅうぶん飲んできたから高清水の上燗を。
壁の品書きを見上げながら
定番の口なぐさみ、塩豆を口元に運ぶ。

コの字形のカウンターには独酌する男たちが居並んでいる。
ここはせいぜい二人連れまで、
三人以上は奥のテーブル席となるが
そちらへはまだ行ったことがないから
どんな光景が待ち受けているのか知る由もない。

カウンターの内側はやや高床の板敷き。
接客するのはお燗番を兼ねるベテラン女性と
単なるアルバイトなのか、縁戚筋なのか定かでないが
若い娘が一人乃至二人だ。
そしてコの字の一番奥では大女将が常連客と語らっている。
というのが毎度拝む景色である。

相方が到着して、いざ乾杯とと思いきや、
過労からくる体調不良で最初はウーロン茶ときたもんだ。
思いもよらぬ肩透かしながら
弱った身体に無理強いはできない。
どうやら今宵は一人飲みになりそうだ。
それでも酒盃とグラスをカチリと合わせた。

湯豆腐やら鴨つくねやらを食べさせるとヤッコさん、
次第に元気を取り戻し、燗酒をつき合うと言い出した。
無理はするなヨと言いつつも
一人酒より二人酒のほうがいいに決まっている。
これは川中美幸のお姐サンが証明してくれている。

そこで切り替えたのが菊正宗の一合瓶だ。
例のガラス瓶に王冠付きのヤツね。
いつの頃からか、やれ純米だ、やれ大吟醸だと
たいそうな日本酒が大手を振って歩くようになった。
ところがJ.C.、恥ずかしながら
ああいったおエライさんのありがたみが
ちっとも判っちゃおりませんのデス、ハイ。

正宗と名の付く酒がおおむね気に入りで
白鹿・白鶴・白鷹みたいに頭から白いのを冠ったのも好き。
いわゆる昔ながらの普及品が好みだ。
なぜって、子どもの頃に初めて飲んだ酒の味が
いまだにちゃあんとしてるもん。
初めてのオンナは忘れられないというが酒もまたしかり。

=つづく=

2012年3月6日火曜日

第266話 あゝ 酔いどれ天使 (その1)

その夜もまた、出没率の高い大塚の町にいた。
旧知の友人が出張で上京しており、
東京きっての酒亭「江戸一」に案内する腹積もり。
待合わせまで1時間近くあるから
近所の行きつけ店「富久晴」に立ち寄り、
キリンラガーで焼きとんというのが得策だろう。

「富久晴」の縄のれんを目の前にふと考えた。
実は隣りにも焼きとんがウリの居酒屋があって
屋号が「大提灯(おおちょうちん)」。
かねてより存在を認知していながら未踏だった。

試してみようかな・・・そんな思いが頭をもたげた。
この店は面白い造りになっていて
角地にある「富久晴」の左右にそれぞれ入口がある。
どういうことかというと、
往年の映画「キング・コング」を思い浮かべていただきたい。
ヒロインの美女、アン・ダロウが「富久晴」だとすると、
彼女を背後から抱きすくめるキング・コングが
「大提灯」という構図になるのだ。

熟慮もせず「キング・コング」に初入店。
時間が早いせいか、先客はカウンターに一人だけだ。
3席ほど間を空けてこちらも腰を落ち着ける。
のぞくつもりはなかったけれど、何気なしにうかがうと、
初老の客は詰碁の本を片手にゆるり晩酌を楽しんでいる様子。
「大提灯」は「富久晴」のように趣きのある店ではけっしてないが
この客のおかげで店内の時間はゆっくりと流れている。

スーパードライと1本120円の焼きとんをお願い。
カシラは塩、レバとタンはタレ、タンとコブクロが辛味噌と計5本。
品書きには店のオススメは辛味噌と明記されていた。
男として明記と名器(楽器のハナシですぞ!)には従うべし。

店内に流れるBGMはビートルズ。
「悲しみはぶっとばせ(You've got to hide your love away)」から
「ヘルプ!(Help!)」に替わった。
この2曲は同じアルバムに収められているハズ。
するとそのあと「抱きしめたい(I want to hold your hand)」の
ドイツ語版ときたではないか。
久しぶりに聴いて懐かしいことこのうえない。
お次は「シー・ラヴズ・ユー(She loves you)」の
やはりドイツ語版を期待したがなぜかBGMはここでストップ。
いったいどうしちゃったんだい?

焼きとんが焼けた。
店がすすめた通り、辛味噌が一番だ。
しかも塩焼きに辛味噌がプラスされるのだから
塩でお願いするのは意味がないし、馬鹿らしくもある。

それにしても17時15分の入店時は
くだんの詰碁オジさんが一人きり。
あとは18時すぎまで来客ゼロである。
(こりゃ、つぶれるぞ!)
危惧するところに4人連れがやって来た。
よかった、よかった、ホッとした。

店側にしてみれば「ヘルプ!」と叫んだ途端に
「ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」てな感じだネ。

 ♪ She loves you Yeah! Yeah! Yeah! ♪

=つづく=

「大提灯」
 東京都豊島区南大塚2-44-5
 03-3941-3030

2012年3月5日月曜日

第265話 築地市場をブラブラと (その2)

築地場内の飲食店の栄枯盛衰をチェックして場外に出た。
テリー伊藤の実家の玉子焼き屋の前には若者たちの小群れ。
TVのチカラは大きいなァ。

おでん種はじめ、練りモノ製品で有名な「築地佃權」、
その隣りの「田所食品」にて紅すじ子を買い求めた。
紅すじ子は紅鮭の腹子。
大きめのヤツ2腹が900円也はデパ地下の半値以下だ。

並びの店では「第二築地製麺所」の細打ち中華麺。
これを塩と醤油のスープとともに購入する。
麺5玉にスープ2袋を所望したら売り手のオジさん、
「スープは2つでいいの?」―その気持ち判るが
「いいの、いいの」と軽くいなし、買物の継続だ。

築地一番の人気を誇るラーメン「井上」の店先は
いつものように黒山の人だかり。
化調を感じさせすぎるスープはどうかと思うが
人々はシコシコ麺とタップリ叉焼が目当てかもネ。

「井上」の数軒先、「豊吉」の店頭で足が止まった。
ここは京野菜など、稀少な青物がウリの店。
足を止めさせたのはコイツである。
神津島産のとうみょう(豆苗)

夕飯の買物をしない男はいざ知らず、
家庭の主婦なら豆苗をご存知のハズ。

ここ十数年、スーパーにも並ぶようになった豆苗は
実を言うと本来の豆苗ではない。
大根の貝割れの如く、えんどう豆の苗だから
ニセものとは言えないけれど、
真っ当な中国料理店が使う豆苗とは別物だ。
本来はえんどう豆の苗ではなく、若芽のことを指す。
それが証拠に香港や台湾の料理屋で
日本の豆苗を出したらクレームがつくだろう。
当然、食味は若芽のほうが数段よろしく、値段もずっと高価。
日本の青果店でホンモノを見たのはこれが初めてだ。
パッケージから出すとこんな感じ

カメラに収めていると何が気に入ったのか
愛猫プッチがムシャムシャやり始めた。
猫にも草食系はいるんですネ

豆苗の料理法はいたって簡単。
油でサッと炒めるだけでよい。
味付けは塩コショウでじゅうぶん。
本場に近づけたい向きは上湯を少々掛け回す。
一般家庭に上湯なんかあるわきゃないから
市販の鳥ガラスープを代用しよう、できれば無化調の―。

小松菜・ほうれん草・青梗菜・空芯菜と
この世に青菜炒めは数あれど、豆苗を超えるものはナシ。
もしもどこかで遭遇したら、迷わず試していただきたい。
魅了されること、保証しましょうぞ。

「豊吉」
 東京都中央区築地 4-8-7
 03-3541-26883

2012年3月2日金曜日

第264話 築地市場をブラブラと (その1)

旧知の焼鳥丼(正しくはサービス丼だけど)と
久々の再会をはたしたあと独り築地の魚河岸を往く。
東京広しといえどもブラブラして楽しい場所は
そうやすやすと見つからない。
浅草と銀座が双璧だろうが
そこへ割って入るのが築地だろうか。

まずは場内(なか)へ。
と言ってもプロが出入りする内の内へは行かない。
彼らが仕入れを済ませたあとで
朝食や喫茶に立ち寄る店舗が並ぶ一画に赴く。
もっともここ十数年で訪れる客は様変わり。
徒党を組んで鮨を食いに来る本邦オバタリアン軍団と
香港・上海あたりから来襲する”民漢人”が激増した。
その結果、地味な定食屋があこぎな廻船問屋、
もとい、けばけばしい海鮮丼屋に大変身を遂げたりもしている。
悲しむべし。

河岸の場内外を問わず、
生モノを扱う店が他のジャンルを駆逐し続けている。
嘆くべし。
J.C.は取材でもなければ、築地で鮨は食わない。
江戸前シゴトの踏み込みが足りないにぎりは
つまんでいて旨くないし、楽しくもないからだ。
酢めしの上に鮮度がいくら高くとも刺身を乗っけだけで
ハイ、鮨でござい! こんな輩は鮨職人とはいえない。
ローマは一日にして成らず!
江戸前鮨もまた一朝一夕にして成らず!

それにしても鮨屋における優勝劣敗の何と激しいことよ。
人気店は長蛇の列がグールグルだが
不人気をかこうところはスッカラカンのカア~で
その違いたるや残酷なくらいにあからさまだ。
日本国民の貧富差の拡大は愚かしき小泉&竹中のせいだが
築地の鮨屋の勝ち負けまで彼らの責任にゃできんわな。

好きだった洋食の「たけだ」がいきなり閉業して久しい。
「たけだ」にちょいと似たタイプの「小田保」は健在だ。
この店の名物、かきバターとかきフライのハーフ&ハーフは
一冬に一度は食しておかんとネ。

「豊ちゃん」のかき丼もユニークだ。
生がきとかきフライを一緒くたにして
玉子でとじたどんぶりは呉越同舟の趣きを漂わせている。
かと思うと、いつぞやはカウンターに隣り合わせた客が
カレーライスの上にデッカいかきフライを5個も乗っけていた。
よほどのことでないと驚かないJ.C.だが
この光景には度肝を抜かれることしきり。
いったいどんなツラをしてるのか拝もうとしたら
あにはからんや、見えそうで見えないのが隣りの客の顔。
ハハハ、これってホントにのぞきにくいもんですな。

=つづく=

「小田保」
 東京都中央区築地5-2-1築地卸売市場内6号館
 03-3541-9819

「豊ちゃん」
 東京都中央区築地5-2-1築地卸売市場内1号館
 03-3541-9062

2012年3月1日木曜日

第263話 春の築地のサービス丼 (その2)

「食通知ったかぶり」の連載が終了して数ヶ月後、
J.C.は欧州から帰国した。
それからである、記載された飲食店を回り始めたのは―。
ただし、目当てが日本各地に散らばっていたため、
簡単に訪れるわけにはいかなかった。
そうこうするうちに閉業した店も少なくない。

それでも岡山「魚正」、京都「大市」、
横浜の「大田なわのれん」と「スターライト・グリル」。
東京では麻布「野田岩」、渋谷「玉久」、
旧連雀町「かんだやぶそば」、赤坂の「四川飯店」と「津つ井」。
こんな店々を歴訪した。

かつて六本木は芋洗坂下のスウェーデンセンターにあり、
今は赤坂見附に移転した「ストックホルム」へも出掛けた。
若い頃、本場ストックホルムで食べたスモーガスボードを思い出し、
懐旧の心にひたったことを覚えている。

立春とは名ばかりの寒い朝、築地場外の「とゝや」に出向いた。
もちろん、くだんの焼鳥丼を食べるために―。
最後の訪問は1999年12月だから12年ぶりだ。
そのときは部下たちを引き連れて忘年会を催した。
年末の宴会につき、焼鳥丼でお茶を濁すわけにもいかず、
豪勢に鳥の水炊きをみんなで囲んだのだった。

現在は夜の営みはやめてしまい、
午前9時から午後2時まで5時間しか営業しない。
築地市場のそばなのに早朝は開かないし、
午後も早い時間に閉めるから、この点は注意が必要だ。

狙いの焼鳥丼はもも肉5片にボン尻が1つ乗って1100円。
それにスープが100円である。
ところがここでサービス丼というのを発見した。
いや、発見というのは当たらない、以前にも食べたからネ。
もも3片とつくね2片にスープと白菜漬けが付いて千円ポッキリ。
量少なめで値段が安いとあっては願ったり叶ったりだ。

待つ間は当然のようにビールだろう。
丸谷サンはエビスだったがJ.C.はスーパードライ。
すると鳥の煮こごりが2切れサービスされた。
あんまりおいしいものではないけれど、
サービス品はいつでもどこでもありがたい。

食べ終えての感想。
残念ながら三十有余年前の感慨はない。
往時はかなりイケると思ったんだが・・・。
自分の舌が肥えたのか、旨い焼鳥屋が増えたのか、
おそらくその両方であろうよ。
とまれ満腹になったことだし、
あとは気ままに市場の徘徊でも始めるとするか。

丸谷サンは「とゝや」の所在地を
築地4丁目と断言したが実際は6丁目。
移転した形跡もないし、地番の変動があったとも思えない。
これは作者の単純な勘違いかもしれないなァ・・・。
店のオバちゃんに訊くのをケロリ忘れちまったヨ。

「とゝや」
 東京都中央区築地6-21-1
 03-3541-8294