2019年7月31日水曜日

第2187話 わざわざ練馬で三球三振 (その3)

西武池袋線・桜台駅に至近の「TAPAS桜台」。
なぜか沖縄県産オリオンビールのグラスに注がれた、
サッポロ黒ラベルの生を飲んでいる。

店主が指さした壁の品書きボードには
しらすおろし、オクラ冷奴、みょうがおかかなどが並び、
タパスのタの字とてなく、
バルと早とちりした自分が愚かだった。
これじゃまるで居酒屋だヨ。
いや、居酒屋というより、むしろスナックだネ。

串カツを見つけ、1本通したら今日は無いとのお返事。
それじゃあとハムカツを1枚お願い。
ビーチサンダルの店主が運んだ皿にはレタスが敷かれ、
その上に厚切りのハムカツ。
パクリとやると、どこか奇妙な食感である。

すかさず断面をのぞき込んだが
はっきり判らないので中身をほじくり出してみた。
ハムともソーセージともスパムともつかないピンク色の物体だ。
食っても死にゃあすまいと、タカをくくって嚥下する。
500円玉で支払い、早々に退散した。

わざわざ練馬くんだりに乗り込んで、2軒続けて空振って
J.C.の目利きも鈍ったものよのぉ。
まっ、仲間たちが推す3軒目に期待するといたそう。

歩いて練馬に戻るつもりも、小用を足したくなって桜台駅へ。
すでにビールを1リットル近く飲んでるからネ。
JRにせよ私鉄にせよ、
電車に乗らずとも駅のトイレは借用可能だが
今回はたった1駅なのにわざわざ乗車した。

駅から北へ延びる弁天通り商店街が下町ックでいい感じ。
目当ての「あわび亭」に到達すると、その隣りに
あれっ、何でこんなところに釣り堀が?
店内に小さな釣り堀を備えていたのは
「釣り堀カフェ Catch & Eat 」だとサ。

料金は1時間千円。
時間内に釣り上げたサカナは20尾まで
天ぷらか唐揚げにしてくれるとのこと。
魚種には琵琶湖のホンモロコまで含まれているそうな。
このサカナ、都内じゃなかなか食えませんぜ。

17時ちょうどに入店。
待ち構えていた2人と即刻、乾杯に及ぶ。
こちらアサヒの瓶、連中はエビスの生である。
前菜盛合せの陣容は
かつお&はまち刺し、山芋千切りなめ茸掛け、
梅水晶、うつぼと獅子唐の天ぷら。
J.C.はうつぼ以外にほとんど興味なし。
醜悪な見かけによらず、
ふっくらほっこりと、うつぼは美味至極なり。

=つづく=

「TAPAS桜台」
 東京都練馬区桜台1-6-9
 03-6760-8444

2019年7月30日火曜日

第2186話 わざわざ練馬で三球三振 (その2)

ビールに氷塊を落として飲んでいる。
箸でステアすると炭酸が飛んで気が抜けるため、
もの静かに味わっている。
そんなの美味いのか? ってか?
美味いワケないじゃん!

おっと、この気の抜けた、もとい、
間の抜けた店の名前を書き忘れていた。
「やきとん だいだら 練馬店」という。
練馬店を名乗るからにはヨソにもあるハズだが
調べる気力が抜けてしまった。

択んだ串は、カシラ、レバ、フアの3本。
聞きなれないフアというのは肺臓のことで
一般的にはフワと呼ばれ、フアの表記は初めて見た。
こんなところも間が抜けている。

串はやや大ぶりで、カシラとレバはそこそこ。
フアは牛のそれよりフワフワ感を楽しめる。
ここでやめときゃいいものを
シロとキクをともにタレで追加。
キクはカシラの脂身らしい。

んぐっ、何だこりゃ! シロが噛み切れないヨ。
1串5ピースを持て余し、2個でギヴアップ。
ところが隣りのキクはもっとヒドかった。
シロよりさらに硬く脂っこいから
噛んでいるうちにタレが喉元を過ぎ、
味抜けの不快感が口中に残る。
キクはたったの1ピースでギヴアップ
金1210円を支払い、逃げるようにして退店した

時刻は16時ちょうど、まだまだ余裕がある。
雨もやんだことだし、1駅池袋寄りの桜台へ向かった。
狙いは昼からやってる「TAPAS 桜台」。
店名からしてスペインバルだろう。

初訪の店に徒歩8分ほどで到着すると、
店主らしき人物が表に出ていたのはいいが
半ズボンにサンダル履きときた。
「開いてますか?」
「はい、いらっしゃい、どうぞ」
言われるままに足を踏み入れる。

何だか漫画みたいにヘンテコな店内。
こりゃ、どう見てもスペインバルなんかじゃないゾ。
壁際の席がフロアから一段高くなっていて
近所の常連らしき客がそこへ登って競馬中継に見入っている。
店主と交わす会話も競馬一辺倒だ。

1杯300円の生ビールをお願いしたら、ここもサッポロ。
届いた生は小ジョッキより小さい。
ありゃ、オリオンのグラスじゃないか!
このほど野村ホールディングスと
米投資ファンドに買収された、
オリオンビールの文字がグラスに浮かび上がっていた。

=つづく=

「やきとん だいだら 練馬店」
 東京都練馬区練馬1-1-11
 03-6914-5083

2019年7月29日月曜日

第2185話 わざわざ練馬で三球三振 (その1)

ひと月ほど前にトラットリアで
会食したばかりのメンバーからまたもやお声が掛かった。
4人でアワビ三昧に溺れようという企画だ。
実はJ.C.、アワビにそれほどの魅力を感じない。
刺身にしたって嫌いじゃないけど、好んでは食べない。

仕切り役の女ボスに不都合が生じ、
残された3人が練馬区・練馬に遠征することとなった。
店の名はそのまんま「あわび亭」である。
相当の人気店でわれわれに与えられた時間は
開店の17時から18時45分まで。
後客の来店が19時なんだネ。

例によって独り先乗りの0次会を催そう。
わざわざ遠くに出掛けて1軒で済ますのはもったいない。
池袋で乗り込んだのは西武園行きだったかな?
西武池袋線の準急電車。
練馬駅に着いたのは15時半前だった

この時間に飲ませる店は少ない。
駅周辺を物色し始めたらいきなりパラパラときた。
千川通り沿いにチェーンっぽい焼きとん屋を発見。
雨に降られちゃ選り好みなんかしちゃおれんと、即入店。
先客はカウンターに1人だけだ。
酎ハイだかレモンサワーだかを飲んでいる。

接客の女の子に瓶ビールの銘柄を訊ねると、
サッポロラガー、いわゆる赤星だった。
サッポロなら黒ラベルを好むが、
なぜかここ10年、赤星を扱う店舗が増えた。

温故知新の精神なのか、
本物感を打ち出しているつもりなのか、
ちょいと理解に苦しむけれど、これが現状である。
もしも赤星が黒ラベルより美味いのならば、
製造元のサッポロだって主力を赤星に戻すハズ。
メーカーは黒ラベルのほうに自信を持つのだ。

まっ、ゴチャゴチャ言わずに
大瓶を注文してさっそく1杯。
んぐっ、ぬっ、ぬっる~い!
おい、おい、ぜんぜん冷えが足りないヨ。
気の荒い客ならここで怒り出すところなれど
自称・紳士のJ.C.はぐっとこらえる。

「オネエさん、氷持って来てくれない? ビールぬるいや」
「エッ、エエ~ッ! あっ、はい、すみません」
焼き場で串を焼いているアンちゃんの顔色が変わった。
しばらくおいて女の子に注意しているようだが
叱っているふうではなく、こちらも一安心。

わが人生においてホンの数度目に過ぎない、
ビールのオン・ザ・ロックスを飲りながら
焼きとんの吟味に入った。

=つづく=

2019年7月26日金曜日

第2184話 小肌を超えた翻車魚 (その3)

文京区・湯島の「岩手屋 支店」。
またの名を「七福神 岩手屋」というらしい。
由来は扱う清酒の主力銘柄が岩手の七福神であること。
「シンスケ」は秋田の両関、「岩手屋」は岩手の七福神。
東北6県はまっこと日本酒の宝庫でありますな。

品書きにはひっつみをはじめとして
岩手の気取りのない郷土料理が並ぶ。
ひっつみとは水団(すいとん)の一種で
ルーツは山梨のほうとうにあるという。

飲食を重ねたあとながら酒はまだまだOK。
ところがつまみの収納スペースは
わがストマックに残されていない。
ここは心して掛からねば―。

本日のおすすめをとらえた視線がそこで釘づけとなった。
ん? 何だ、なんだ! 翻車魚とな。
翻車魚はなかなか読めないでしょ?
いえ、ボードにはマンボウと記されてたんですけどネ。

マンボウかァ・・・いや、実に久々の遭遇である。
あれはちょうど10年前の夏。
仲間と1泊で外房・内房をめぐる旅に出かけたが
立ち寄った南房総の港町、千倉のうなぎ屋で
ビールの友としたのがマンボウの湯引きだった。

こうなったらほかのモノは目に入らない。
相方の意向を訊ねるヒマもあらばこそ、
発注に意気込むJ.C.であった。
おい、おい、さっきオメエ、
胃にはもう余裕がないってホザいたばかりだろがっ!
ってか? そりゃ、ごもっともですが
こういう場合はなんかこう、いえ、別腹ってんじゃないけれど、
ホラ、あの満員のバス旅行のときやなんか
補助イスってのがあるでしょ? 
あんなのが出て来るわけなんすヨ。
けっ! ってか? まあ、先にお進みくだされ。

おっと、マンボウ料理が2種類あるじゃないの。
まず刺身、これは酢味噌でやる。
そして皮、こちらは塩を振ってのあぶり焼きだ。
七福神の冷たいのでやって、大きくうなづいた。
珍しさも手伝ってか、翻車魚が小肌を超えて上をいく。
この出会いを僥倖と言わずして何と言おう。

亭主を逆L字で囲むカウンターの客たちと談笑が始まった。
7人ほどの同席者が全員参加だからけっこうな賑わいだ。
その中に今春、
四代目を襲名したばかりの三遊亭圓歌師匠がいた。
店の馴染みであるらしく、常連客とも打ちとけている。
われわれとのハナシにも弾みがついて
ありがたいことに千社札までいただいちゃったヨ。
いずれにしろ、楽しい一夜でありました。
おあとがよろしいようで—。

=おしまい=

「岩手屋 支店」
 東京都文京区湯島3-37-9
 03-3831-9317

2019年7月25日木曜日

第2183話 小肌を超えた翻車魚 (その2)

きつねラクレットをつまみながら両関を味わっている。
「シンスケ」の客入りは6~7割方で思ったより空いていた。
そのうち第二波が寄せてくるのだろう。

品書きにどぜうの丸揚げが見当たらず、
亭主に理由を訊ねると、横にいた倅が代わって応えることには
産地が限られており、どうしても品不足に陥るらしい。
そこから派生して、しばしのどぜう談議。
深川は高橋(たかばし)の名店「伊せ喜」の閉店は
震災で仕入れ元の養殖池が壊滅したためと、初めて聞いた。

本醸造辛口のお替わりとともに
小肌酢〆とこれも名物のいわし岩石揚げを。
小肌は水準に達しているものの、逸品とまでは言えない。
問題はわさびではなく、生姜が添えられたこと。
青背の光りモノは生なら生姜だが酢〆にはわさびだろう。

察するに本わさびを使いたいけれど、コストがかかりすぎる。
かといってニセや粉は避けたい。
苦肉の策として生姜で代用したものと思われる。
10年以上も前のハナシだが当店で
刺身に箸をつけたJ.C.が目の前の女将に
「あれっ、本わさびじゃないんだネ」
つぶやいたところ、バツの悪そうな彼女、
お詫びの印に何かチョコッとしたつまみをサービスしてくれた。
そんな経緯があって、わさび→生姜の件を勘ぐった次第なり。

よく冷えた大吟醸に切り替え、遅れて届いた岩石揚げをつつく。
岩石揚げはその名の示す通り、
粗いいわしのつみれを荒っぽく揚げたもの。
好みの品に非ずとも、相方に名物を味わわせたい親心だ。
視線を流すと、幸いにして旨そうにかじっている。
善きかな、善きかな。

それよりも大吟醸の甘いのなんのっ!
倅曰く、キンキンに冷してあるとのことだが
これはぬるかったら飲めまい。
甘味というものは冷やせば和らぐけれど、温めたら倍加する。
最後の1杯で外しながらのお勘定は2人で1万円と少々。
行きたかった店の訪問を実現したFチャンは再びご満悦である。

天神下と広小路を結ぶ春日通りを歩くこと数分。
南に折れて1本目の裏道に目当ての2軒目があった。
”奥様公認酒蔵”を自認する「岩手屋 支店」だ。
すぐ近所の「岩手屋 本店」を兄が営み、こちらは弟が営む。
ところが2年ほど前に弟が鬼籍に入り、
今は倅が継いでいるとのことだ。

J.C.が最後に訪れたのは2016年の歳末で
先代は板場に立っておられたと思うが
わずかふた月かそこいらで亡くなったのだ。
ちょいとしんみりしながらビールをグラスに注いだ。

=つづく=

「シンスケ」
 東京都文京区湯島3-31-5
 03-3832-0469 

2019年7月24日水曜日

第2182話 小肌を超えた翻車魚 (その1)

この日は忙しいのなんのって・・・。
銀座でランチのあと、自宅に戻って歯を磨き、歯医者へ。
そのままJR山手線に乗り、上野駅・公園口改札を出た。
オペラの殿堂、東京文化会館の左脇を抜け、
上野のお山を下って不忍池のほとり、あじさい遊歩道を歩む。

つい先日もふれたがボート池に浮かんでいるのは
無粋なスワンばかりで手漕ぎは1漕としていない。
ここでふと心づいた。
いくら何でもこりゃ不自然だ。
ひょっとしたら安全上の理由か何かで
手漕ぎは廃止されたのかも?
事務所で確認してくりゃよかったな。

やって来たのは湯島天神下交差点そばの「シンスケ」。
東京を代表する酒場であるらしく、
誰が言ったか、西の「金田」に東の「シンスケ」。
もっともJ.C.はこのご意見に与しないがネ。

時刻は16時45分。
待合せたのみともFチャンはすでに並んでいた。
並ぶといっても先頭から2人目だ。
7~8人の行列は覚悟の上だからこれには少々拍子抜け。

16時55分。
先頭の御仁の相方が現れ、われらの後ろにも4人ほど。
これならカウンターに陣を取れること受け合い。
ほどなく暖簾が出て、亭主の正面に落ち着いた。

ハートランドの中瓶を2本発注。
ビールをそれほど好まぬ相方はグラスに2杯だけ。
あとはこちらの胃袋に収まること必定だ。
突き出しはこんにゃく入りのキンピラで、可も不可もなく。

最初に通したつまみは、生麩の田楽とにしん山椒漬け。
「シンスケ」のラインナップのうち、マイベストはこの生麩。
京都府庁前に本店を構える「麩嘉」のものだ。
京都を訪れた際にもっぱら利用するのは錦小路の錦店だがネ。

にしんの山椒漬けは戻した身欠きにしんを
お出汁に漬けて木の芽をあしらったもの。
名が体を表すとは言い難く、料理名に意義を唱える向きもあろう。
何となくオランダや北欧諸国のマリネをイメージしてしまう。

当店の清酒の取り揃えは秋田の両関のみ。
その本醸造辛口を冷酒でいただく。
ついでにシンスケ名物、きつねラクレットも。
油揚げにラクレット・チーズを忍ばせてあぶり焼いただけだが
ビールにも清酒にもよく合う。
Fチャンは狐につままれるでもなく、ご満悦の様子であった。

=つづく=

2019年7月23日火曜日

第2181話 人妻と昼下がりの〇事

この日は遠来の人妻とツーショット。
昼下がりの情事ならぬ、食事だけどネ。
お相手はマダム・フロム・ニュジャージーのコヅルちゃん。
およそ2年前に旦那のLouともども、
日本橋の「たいめいけん本店」でランチして以来だ。
今回は単身での一時帰国とのこと。 

待合せたのは銀座のランドマーク「WAKO」だが
彼女ときたら「WAKO」を知らず、
「服部時計店」と言い換えても判らなかった。
いや、のけぞっちゃったヨ。
そうだよねェ、彼らが海を渡って
早や30年の月日が流れたもんなァ。

お連れしたのは4丁目交差点に近い「ローマイヤ レストラン」。
銀座コアビルの真裏、あづまビルの2階だ。
確かここは以前、ドイツ色の強いビヤハウスだったハズ。
「ローマイヤ」はいっとき、
新日本橋でレストランを営んでいたが
そこを閉めて銀座に移ってきたのがこの3月だという。

創始者のローマイヤーさんはドイツ海軍の兵士で
第一次大戦中、中国・青島に駐留していたときに
日本軍の捕虜となり、九州に送られた。
食肉加工の技術を取得していたため、
ドイツ人捕虜の食事を担当することになる。
収容所の食事がドイツ兵の口に合わず、
肉と芋にしたらしいが当時の捕虜の厚遇ぶりが判る。

眺めはよくないものの、窓際の広い席に案内されて
2年ぶりの再会に乾杯。
当方、ピルスナーのビットブルガーをマグ(500ml)で。
相方、ヴァイツェン(白ビール)の
トゥーハー・ヘレス・ヘーフェをグラス(330ml)で
ともに樽出しの生ビールである。

仏産のポークソテーやチキン香草パン粉焼きに興味を覚えつつも
当方、ローマイヤソーセージとスクランブルエッグのガレット。
相方、自家製手ごねハンバーグの大葉おろしソース。
すぐにコンソメスープがサーヴされた。
うん、チキンの出汁がよく出て、手造り感がある。

続いてメインディッシュも運ばれた。
色黒のそば粉ガレットの上にソーセージ&玉子。
そのまた上に粗く刻んだトマト&オニオン。
なぜかこれが冷製だから、温かい料理に合うはずがない。
脇のほうれん草ソテーも冷めていた。

皿には大量のサラダが盛込まれている。
キャロット・ラペ風のにんじん、コールスロー風の紫キャベツ、
加えてレタスにパプリカと、一日分の野菜が摂取できるほど。
デミタス・コーヒーで締め、お勘定は4500円。
ランチメニュー、ビールともに千円少々の計算となる。

「軽くお茶でも・・・」
「いや、電話で話したように歯医者の予約が15時なんだ」
続きは来年また帰国の際にということで
かぼそい身体をハグし、ダンナによろしくと手を振った。

「ローマイヤレストラン」
 東京都中央区銀座5-9-17
 03-6263-9360

2019年7月22日月曜日

第2180話 お茶は飲まない喫茶店 (その2)

 喫茶店「蘭蝶」にて
生ビールと日替わりランチをいただいたあと、
その足でくだんのレトロ喫茶に向かった。
千代田線&常磐線の綾瀬駅高架に面しているのに
やはりこの店の地番は東京拘置所のある葛飾区・小菅で
足立区・綾瀬ではなかった。

店名は「TOPS」。
「蘭蝶」に比べると、レトロ度はずいぶん後退する。
入ってみたら意外に明るくて古さを感じさせない。
ちょいとばかり拍子抜けの心持ちである。

見知らぬヨソ者の侵入に
店主と思しきオジさんはビックリした様子。
胡乱な目つきが、いったいコイツは何者?
そう、ささやいているのがひしひしと伝わってくる。
けっして怪しいモンじゃありやせん。
こちらも目で訴えたつもりながら効果はなかった。

この店もオジさん独りの接客だ。
足元が不自由な様子で歩行に時間がかかる。
そこそこの広さがあるから難儀なことだろう。
オジさんの母親だろうか、
ときどき奥から老女の声が聞こえるものの、姿は見えない。

おそるおそるビールのアル・ナシを訊ねる。
応えはイエスでスーパードライのレギュラー缶が500円。
家の外では瓶が望ましいけれど、
瓶でも缶でも味は一緒、もちろん所望に及ぶ。

半月前に懸念したのは当店におけるフード・メニュー。
数年前までオムライスなども出していたようだが
現在はトーストのみで
バター・ジャム・ハム・チーズ・ハム&チーズの5種類。

差し向かいではなくとも
この空間に2人だけは居心地がよろしくない。
ケツの座りが悪いのだ。
BGMがあるでもなく、静けさだけが降り積もる。

どういうわけだろう?
店の真ん中に電話ボックスが設置されている。
わざわざ見に行ってみれば、
中には電話が1台に、なぜかノートパシコンが2台。
理由をを訊く気にもなれず、ボーッとビールを飲んでいた。

そこへ五十がらみの男性客が来店。
救いの神の登場に、やれやれと立ち上がり、
オジさんに500円玉を手渡して退店。
今日もまた懐旧の心につまづいて2軒ハシゴしたものの、
やっぱりJ.C.に喫茶店は向かないや。

「TOPS」
 東京都葛飾区小菅4-11-7
 03-3601-1553

2019年7月19日金曜日

第2179話 お茶は飲まない喫茶店 (その1)

先月の末、足立区・綾瀬の駅そばで
レトロな喫茶店に遭遇したことを書いた。
やはり気になって乗り込んだ東京メトロ千代田線だったが
その前に近所の西亀有に棲む友人にメール。
案の定、彼女はその存在を知っていた。
しかし、どうも話がかみ合わない。
メールじゃもどかしいので電話をかけると、別の店だった。
彼女の知る「蘭蝶」なる店は
レトロ感において界隈随一と聞き及び、こちらにも興味深々。
よお~し、両方ともいてまえ!

川の手通りに面した「蘭蝶」には見覚えががあった。
数年前、綾瀬から堀切へと南下した際、
通りすがってちょいと惹かれた店だったのだ。
ただし、当時は喫茶店というもの自体がアウト・オブ・眼中。
一べつくれただけでスタスタのテクテクであった。

店内は薄暗く古めかしい。
席は8割方埋まっており、あちこちから紫煙が上がっていた。
「蘭蝶」だけにきちんと蝶タイを締めたオジさんが
独りで接客に当たっている。
年季を感じさせて、この人がマスターだろう。
厨房内にはオバさんが2人いた

13時過ぎだからまだランチタイムだ。
当店のフード・メニューは喫茶店のそれではない。
11時から15時までの日替わりランチは2種。
ハンバーグ&鳥唐揚げのA、焼きき魚(鮭)&納豆のBである。
ほかにもカレー、ナポリタン、ミートソース、ピラフ、
海老フライ、豚生姜焼き、ポークカツ、グラタン、ドリア、
ピザ、焼きそばなどなど。

スーパードライの小ジョッキ(450円)とAランチ(680円)を通す。
ドリンクを付けると100円増しでコーヒー・紅茶・ミルクの三択。
このミルクってのがいかにも古い喫茶店らしくていいやネ

10分足らずで整ったトレイには
小ぶりのハンバーグ、唐揚げ3個、千切りキャベツ、きゅうり漬物、
ふりかけ、わかめとキャベツの味噌汁、ごはん。
出来合い風のドミ・グラスが掛かった細挽きのハンバーグは
下世話な味付けながら、そのぶん懐かしさを感じさせる。
唐揚げ3個は存在感があっても食味はフツー。
キャベツはあらかじめサウザンアイランドをまとっている。
きゅうりはキューちゃん風だが真緑の色合いにどん引き。
ふりかけは丸美屋のたまごふりかけと称する小袋で
当社主力商品ののりたまとは異なる。
味噌汁は化調まみれ、ごはんはハナから大盛りだ。

苦闘の末、ごはんとふりかけを半分、
きゅうりと味噌汁のほとんどを残しながらもほかは食べ終えた。
店の雰囲気は嫌いじゃないけれど、再訪はちと考えにくいかな。

=つづく=

「蘭蝶」
 東京都足立区綾瀬2-29-12
 03-3601-5461

2019年7月18日木曜日

第2178話 アサヒを浴びて サッポロに酔う (その3)

銀座7丁目の「ライオン音楽ビヤプラザ」で
ブーツグラスの生ビールをグビッと飲っている。
思い出すのは半世紀の以前、
同じ「銀座ライオン」でも所は池袋東口店だった。
大学に通い始めた頃、たびたび利用したのがここで
現在の「ビヤプラザ」のように毎晩ステージがあり、
ヨソでは体感できぬ、大人の空気が流れていた。

十代最後のJ.C.の誕生日に
高校時代の友人たちがここで祝ってくれたが
若かったんだねェ、みなでステージに上がり、
「人生劇場」をがなり散らしたあと、
バックステージに飾られていたドデカいブーツグラスに
当夜の主役として無謀にもチャレンジする自分がいた。

1.5Lはあったんじゃないかな?
一気に飲み干したものの、いったんは胃袋に落下した泡が
食道を逆流してきて口外に吹き出す始末。
口角泡を飛ばすとはまさしくこのことであった。
ハハ、愚かしくも懐かしい思い出。

運ばれ来たる料理は最初に当店の定番、ニシンのマリネ。
続いてフィンガーズ・プレートと称する揚げもの盛合せ。
ベースのフィッシュ(たら)&チップスにチキンとごぼう、
さらにはガーリックトーストまで盛られている。

18時30分になり、1回目のステージが
「盃(さかずき)の歌」で賑やかに始まった。
6月の歌「夏の思い出」のあとは
「ハッピー・バースデイ」のオンパレード。
ほとんどの客が誕生日がらみなのだ。

S代サンの順番が回って来る前に休憩時間。
テーブルにはムール貝の白ワイン蒸し、
いわゆるマルニエールがド~ンと。
ほかにも何品か到来したが手をつけなかった。
というより、見もしなかったネ。

19時30分からの第2ステージ。
われらが主役への「ハッピー・バースデイ」も無事終わり、
テレながら卓に戻った彼女のためにあらためて乾杯。
先刻のムール貝のだし汁を活用したスパゲッティが運ばれる。
締めとしてちょっとだけいただき、そろそろお開きだ。
リクエスト曲に「夜のタンゴ」と「狂乱の場」を書き込んだものの、
接客係に手渡すチャンスを失い、あきらめていた。

そうこうするうち、第2ステージの最終曲となった。
ソプラノの福士紗希サンが歌ったのは何と「狂乱の場」じゃないか!
ドニゼッティのベルカント・オペラ、
「ランメルモールのルチア」のクライマックスで歌われるアリアだ。

客のリクエストには第3ステージで応えるようだから
この曲は彼女自身が択んだ、自信あふれる持ち歌のハズ。
推察した通り、すばらしい出来映えに心が震えてしまった。
さすがにこぼしはしないが薄っすらと涙がにじんだくらい。
「ブラーヴァ!」
帰宅後、カラスの同曲を聴いたことは言うまでもない。

=おしまい=

「ライオン 音楽ビヤプラザ」
 東京都中央区銀座7-9-21 銀座ライオンビル5F
 03-3573-5355

2019年7月17日水曜日

第2177話 アサヒを浴びて サッポロに酔う (その2)

あまりに長き店名につき、省略してアサヒのビヤバー。
このあとメイン・イヴェントが控えているため、
ここは暴飲暴食などもってのほかで
軽飲軽食に徹しなければならない。

つまみに珍しいフラメンカ・エッグをお願い。
スペインの家庭的な玉子料理は
野菜もたっぷりだから女性受けする1皿だ。
数分後、注文の際の外国女性とは異なる、
マネージャーだろうか、黒服の男性が登場。
「もうしわけありません。
 フラメンカのトマトソースを切らしてしまいまして」

ないものは仕方ないから
代わりに霧島黒豚の肉天・山椒風味を—。
ただ今、霧島黒豚のフェア中なのだそうだ。
せっかくだからガツンとあぶり焼きをいきたいけれど、
前述の理由で見送りの巻。
ついでにじゃが芋のグラタン・ドフィノワを通した。
これはレストランではなく、
JALの機内食でたびたび出会った料理。

エクストラ・コールドをお替わりする。
肌寒い日ではあったが
どこでも飲めるビールじゃないから、つい頼んでしまう。
運ばれた肉天をつまむとこれがイケた。
霧島黒豚ってこんなに旨いもんだったっけ。
ソテーかカツレツにしたら、さぞ美味であろうヨ。

相方が苦手だと言って残したビタースタウトを賞味する。
うわっ、スゴいなコレ!
限りなく苦み走って、ビール界のエスプレッソだ。
真っ黒なギネスも真っ青の苦さは
ギネスブックに乗せてもいいんじゃないかネ。

ソースがゆるいアンチョヴィ風味のドフィノワは
ほうれん草のソテー添え。
じゃが芋自体の火の通し浅く、半生状態だが
これは料理人の意図するところかもしれない。
完飲完食して銀座に移動する。

銀座ライオンのフラッグシップ・ショップ、
7丁目店の5階、「音楽ビヤプラザ」に上がった。
生の歌唱と演奏を聴きながら生ビールを楽しめる、
J.C.にとって夢の殿堂ともいえるホールだ。
ほどなくメンバーが勢揃いし、泡で乾杯。
主役はのちほどステージ上で出演歌手による、
「ハッピー・バースデイ」の洗礼を受ける手筈。

各自、好みのドリンクに切り替えた。
J.C.はサッポロ黒ラベルのブーツグラス。
中ジョッキと大ジョッキの中間だから容量は700cc ほど。
サッポロのブーツを手に取ると、
思い出すのは忘れ得ぬ、あの夜のことである。

=つづく=

「BEER&SPICE SUPER"DRY" KITTE 丸の内店」
 東京都千代田区丸の内2-7-2 JPタワーKITTE 1F
 03-6256-0820

2019年7月16日火曜日

第2176話 アサヒを浴びて サッポロに酔う (その1)

しょっちゅう機会を持つわけではないが
この日は飲み仲間、S代サンのささやかな誕生会。
会場はJ.C.の発案で銀座の「ライオン 音楽ビヤプラザ」だ。
人気者の主役が会を一つにまとめると収拾がつかなくなるので
上手いこと小分けにし、誕生会を4回も催すのだそうだ。

例によって行き掛けの駄賃、
独り0次会を楽しむつもりでいたら
「私も一緒に連れてって!」―
もの好きが現れた。

落ち合ったのは東京駅丸の内南口のKITTE。
かつての中央郵便局である。
ここは思い出深い場所で初めて訪れたのは小学5年生のとき。
棲んでいた深川から家族4人はチンチン電車に乗り、
降りた終点が郵便局の真ん前。
入館して父親に買ってもらった切手が2枚あった。
歌川広重による東海道五十三次の「蒲原」と
第何回だったか、アジア大会開催の記念切手。
数年後、切手収集に興味を失って売りさばいた際、
一番の高値をつけたのが「蒲原」だった。

月日は流れ、高校2年の夏休み。
中央郵便局の正面、東京駅にある、
東京ステーションホテル内コーヒーショップでのアルバイト。
初めてのウェイター経験は実に楽しかった。
休憩時間になると、郵便局の大時計を見上げながら一服。
ポケットには自由に使える小遣いがたんまり。
余裕のハイスクール・ライフを送っていたものだ。

数年前に新装なった、その名もKITTEの1階に
アサヒビールが出店したのが
「 BEER&SPICE SUPER“DRY” KITTE 丸の内店」。
名の示す通り、ビヤバーである。

長ったらしいだけでセンスのかけらもないネーミング。
アサヒはこういうことに関して下手、キリンはもっと下手。
ビールのCMを見てるとよく判る。
その点、サントリーは上手だ。
永吉&結子のプレモルは感心しないが
ウイスキーはお手のもの、昔から伝統的にすばらしい。

発注したのは当方、エクストラ・コールド。
相方、隅田川ブルーイング クラフトビール3点セット。
セットの陣容は、ケルシュ(ケルン)スタイル、
吾妻橋ペールエール、そしてビタースタウトである。
気に入りのペールエールを掲げ、にっこり笑う相方と乾杯。
女だてらにこのタイプを好む御仁はきわめて珍しい。
まっ、人それぞれでいいんじゃないかい。

=つづく=

2019年7月15日月曜日

第2175話 流れ流れて多摩川線 (その6)

祝 王座奪回 村田諒太どの

今年のスポーツで一番うれしかったのはこの快挙なり。

それはさておき、東急多摩川線・矢口渡駅前の「甚六鮨」。
切盛りするのは追い回しのアンちゃんを加えた男性3人に
女将さんと娘さんの女性が2人で計5人。
どうやら三世代に渡る家族経営のようだ。
それにしてもみんながみんな容姿に優れ、
銀座の高級鮨店顔負けである。
この一点が店の品格の向上に大きく寄与している。

酢の物を持て余したのでにぎりに切り替えた。
いつものように白身で始めて、まず平目。
時季が時季だからこんなものだろう。
水準には達していた。

続いて光りモノ。
生の光りは苦手につき、酢〆の種を訊ねたら
小肌・あじ・さばとのお応え。
小肌は酢の物にあったため、あじ&さばを—。
平均値より深めの〆具合ながら
いかんせん、酢の物のあと、淡く感じてしまった。
返すがえすも粉わさびが残念なり。

まだ早いが、そろそろ締めにかかろう。
当然、ラストは煮モノで、王者の穴子から。
シモ(下半身)を煮ツメでやると、まずまず。
ツメにはいま少しパワーがほしい。
村田諒太ほどのパンチ力を要らないがネ。

蝦蛄(しゃこ)があると聞き、即お願い。
これもツメで所望すると、
うわっ、カワユいなァ・・・J.C.の小指ほどもないヨ。
香港名物のオバケ蝦蛄みたいなのは望まぬが
それにしても小っちゃい。
そのわりに食味はよく、直ちにアンコールしたくらいだ。

訊けば、愛知の産だという。
愛知なら知多半島の先端、南知多市の豊浜に違いあるまい。
東に三河湾、西に伊勢湾、
豊穣の海にはさまれて、蝦蛄の水揚げ量も半端ではない。
かつての東京湾における小柴港に似た役割を担う豊浜港。
壊滅状態にある小柴の蝦蛄はいつ戻って来るのだろう。

蒲田まで1駅歩き、とうとう多摩川線を完全踏破。
京浜東北線に揺られ、気持ちよく舟を漕ぎながら帰途に着く。
夜食は「三河屋製パン所」のハムカツパン。
厚いコロモに薄いハム、これがノスタルジックでいいのよねェ。

翌朝食べた三色パンの三色は、こし餡、カスタードクリーム、
そしてなぜか、りんごジャムだった。
小学生の頃に棲んだ大田区・大森では
このパンを三つ島と呼んでいたが、りんごジャムは初めてだ。
普段、甘いパンなどまず買わないのに
懐旧の心につまづいた結果がこれでありました。

=おしまい=

「甚六鮨」
 東京都大田区多摩川1-6-19
 03-3758-0226

「三河屋製パン所」
 東京都大田区矢口1-6-1
 03-3759-7468

2019年7月12日金曜日

第2174話 流れ流れて多摩川線 (その5)

矢口渡の駅周辺を一めぐりして絞り込んだ3軒の候補店。
最終的に択んだのは「甚六鮨」だった。
決め手はそのたたずまいにあった。
鮨屋の場合は居酒屋のようなチョコッと使いが難しい。
それなりの注文とそこそこの滞空時間が求められる。
殊に初訪の店で不作法は避けたい。

1軒目の「白鶴」を軽めに仕上げてきたおかげで
酒も肴もまだまだいけるハズ。
おもむろに引き戸を引いた。
つけ場の店主と二番手に単身である旨を告げ、
ビニール傘を傘立てに納めながら
彼らの視線を総身に感じていた。

つけ台の奥に促され、おもむろに着席。
銘柄を確かめたうえでアサヒの大瓶を—。
突き出しはいかの塩辛。
これは自家製に相違ない。
滋味にあふれている。

先客はつけ台に2人、入口近くのテーブルに4人組。
奥の座敷からもさんざめきが流れてくるので
かなりの客入りと思われた。
近所の常連、それも家族連れの利用が多いようだ。
目の前の職人2人は大きな飯台に盛り込む、
にぎりの製造に大忙しの様子だが
使っているのは明らかに本わさびではない。
(心のうちでガッカリ)

季節の白身を少し切ってもらおうか?
それとも平目か真鯛の薄造りをポン酢でやれば
当面のわさび問題はクリアできる。
そう思いつつも品書きに酢の物盛合せを見つけ、方針転換。
鮨店、あるいは鮨職人の力量を推し量るに
好都合な一鉢だからネ。

そうしたら想像を上回る大鉢がドンと来た。
陣容はといえば、
小肌・たこ・いか・海老・青柳・北寄・氷頭、
そして胡瓜とわかめ。
これが1切れづつではなくて
中には3~4切れのものもある始末。
箸をつける前からげんなりしてしまった。
いや、マイッたなァ。

どうにか4分の3ほどクリアして、とうとうギヴアップ。
食べ切れなかったのは主にたこといかだ。
一息ついて芋焼酎・伊佐美のロックに切り替える。
おやおや、これまたかなりの容量のグラスになみなみと—。
「甚六鮨」はなんでんかんでん大盤振る舞いなんだネ。

=つづく=

2019年7月11日木曜日

第2173話 流れ流れて多摩川線 (その4)

東急多摩川線・武蔵新田駅前の「白鶴」。
こちらは大箱の駅前店である。
すぐ近くの本店はずっとコンパクトで家庭的だ。
どちらも未訪ながら、中をのぞいたことはあった。
店頭のボードを見ていて惹かれたのは生がき。
宮城産と一筆あるけれど、
製造所の証明書は岩手県の大船渡市・赤崎町のもの。
イージー・ミスだろうが
”三陸産”としておけば、問題はないのに—。

暖簾をくぐり、先客が1人だけのカウンターへ。
テーブルはそこそこ埋まっているものの、
まだ早いせいか、閑散としている。
取るものも取りあえず、アサヒの中瓶を所望する。
ノドを鳴らしてグラス2杯を瞬時に飲み干した。
待った甲斐あって、その美味さは今年のベストなり。

お通しのもずく酢を運んでくれたオネエさんに
1個300円の殻付きかきを2つお願いする。
それにしてもこの時期に真がきが出回っているなんて
ひと昔前には考えられないことだヨ。

ものの5分で届いたそれはかなりのビッグサイズ。
岩がきと見まごうほどだった。
ポン酢・きざみねぎ・紅葉おろしは無視してレモンを搾る。
生がきにはレモンだけでモア・ザン・イナッフ
サイズがサイズだけに味わいは濃厚、しかも繊細。
オイスターバーだったら1個500円の値付けとなろう。

中瓶をお替わりして串焼きを—。
焼きとんのレバ(90円)をタレ、
当店名物の牛ハラミ(300円)は塩、1本づつ通した。
するとレバが意想外に上出来。
鮮度高くして、火の通し、タレの塩梅もよく、
下町の優良店のレベルに達している。
大串のハラミもまずまずながら
価格差を考慮したら、レバ3本を択んだほうが賢い。
しかし、こういった串モノは冷めるとダメ。
旨みが急降下してしまう。

いずれにせよ、この店は当たりだった。
9年前の時点で利用すべきだった。
さすれば、かくも長き空白は生まれなかったものを—。
2400円の支払いにも満足至極。

中瓶2本でいい心持ちとなり、
「飯田酒店」に寄るのをコロリと忘れて
なおも歩みを進める。
隣り駅は矢口渡(やぐちのわたし)。
かつて多摩川べりにあった矢口の渡しが駅名の由来だ。
1949年、多摩川大橋の完成とともに
役割を終えた渡しは消えた。

ふらふらと駅周辺を物色する。
気になったのは3軒。
懐かしの町中華、千客万来の焼き鳥屋、
そして端正なたたずまいを見せる鮨屋だ。
星のない夜空を見上げ、ここが思案のしどころであった。

=つづく=

「白鶴 駅前店」
 東京都大田区矢口1-17-1
 03-3758-2233

2019年7月10日水曜日

第2172話 流れ流れて多摩川線 (その3)

けやきの並木も涼やかな多摩堤通りを横断し、
ものの5分で武蔵新田に到着。
昭和33年に廃業を余儀なくされるまで
城南に咲く一大花街だった土地柄である。
ただし、花街ではなくカフェー街と呼ばれていたそうな。

100人以上の女性がおのおの1室をあてがわれ、
営業していたという。
当地は日本の復興を支えた工業地帯。
彼女たちは縁の下の力持ち的役割をはたした
ほかの色街よりも若い娘が多かったため、
遠来の客も少なくなかったという。

武蔵新田は実に9年ぶりだが
今、町を歩いてみても、往時の名残りを偲ぶよすがとてない。
それでもJ.C.には多摩川線沿線でわりと馴染みのある場所。
角打ち「飯田酒店」、天ぷら店「ころも」あたりで飲んだ。

真っ先に「飯田酒店」に向かうと、店は開いていたものの、
常連らしきオジさんが女将と談笑している。
まだ口明けなのだ。
ここでオジャマ虫が入店したら
漂う空気がガラリと変わってしまう。
あとで寄るつもりでいったん立ち去った。

武蔵新田駅前で目を引く店舗は2軒。
踏切の北側にある「三河屋製パン所」と
南側の酒場「白鶴駅前店」だが、どちらもまだ利用していない。
よしっ、せっかくの機会だ、両方いてまえ!

製パン所といっても単なる町のパン屋さん。
しかしながら、そのたたずまいは
ビッグコミック・オリジナルの誌面から抜け出た如くだ。
そう「三丁目の夕日」ですネ。

さして広くもない店内に先客なく、スタッフの姿もない。
ハムカツ・三色・黒パンをトレーに乗っけて
「スミマセ~ン!」―
奥に肥をかける、もとい、声をかけると
出てきたのはオバちゃんならぬ、若いアンちゃん。
ちょいとばかり虚を衝かれながらのお勘定は420円也。
安っす~ぅ! 
この町が棲みよい町であることを確信した瞬間だ。

踏切を渡りながら思った。
黒パンのせいだろうか・・・パンの袋がズシリと重い。
家へ帰って開けてみると、それぞれに質量が高かった。
製パン所から1分足らずで「白鶴」へ。
早いとこ琥珀色の、あの液体を流し込んどくれ!
渇いたノドがせっつくことしきりであった。

=つづく=

2019年7月9日火曜日

第2171話 流れ流れて多摩川線 (その2)

鵜の木をあとにして下丸子に到達。
沿線では比較的大きな町だ。
起点・終点にあたる多摩川・蒲田駅を除く、
5駅(沼部・鵜の木・下丸子・武蔵新田・矢口渡)のうち、
乗降客数が断トツで多いのは下丸子。
環八通りと多摩堤通りが近くを走り、
東急池上線・千鳥町が近接して交通の便がよいからだろう。

蒲田方面行きの改札脇に
とてつもなくレトロスペクティヴな食堂を発見。
つい先日、メトロ千代田線・綾瀬駅の高架下で
昔ながらの喫茶店に遭遇したばかりだが
この食堂はそれに匹敵、いや、以上かもしれない。

屋号は「喜楽亭」。
建物は戦前のものではなかろうか?
サンプルケースには各種洋食やオムライス、
中華の麺類などが並んでいる。
店頭のメニューボードはロースやヒレのかつ類が主力だ。

時刻は16時40分、夜の営業まで20分待ちである。
いやァ、入ってみたい。
だけどネ、13時過ぎにロースかつを食べてるから
とてもじゃないが食欲は湧かない。
食堂に飛び込んどいてビールだけというのもなァ。
はて、さて、どうしたものよのぉ。

このとき突如として降り出した雨。
それもランチ直後に見舞われたのと同じ篠突くヤツ。
権之助坂のコンビニで買ったビニール傘を
ヘアサロンに置いてこなくてよかったヨ。
それにしても今日は大気が不安定だねェ。
なあんて呑気なことなど言ってられない。
即、避難の巻である。

この一降りがにわか雨に過ぎないことを祈りつつ、
駅舎に逃げ込み、改札口で雨宿り。
幸いにも雨は15分ほどでやんだ。
「喜楽亭」のオープンは間近である。

でもネ、やっぱり入れんかった。
居酒屋ならちょこっとしたつまみでお茶を、
もとい、おチャケを濁せるけれど、
洋食屋ではハナっからムリ。

訊けば人の好い老夫婦が営んでいるらしい。
そんな翁と媼をガッカリさせるわけにはいかない。
淋しい想いなどさせたくないのだ。
これまで徘徊した成果として
面白そうな鮨屋・天ぷら屋・串揚げ屋を見つけておいた。
夏が過ぎて涼しくなったら、またこの町に帰ってこよう。
古き良き下丸子よ、それまでしばしサヨウナラ!

=つづく=

2019年7月8日月曜日

第2170話 流れ流れて多摩川線 (その1)

降りしきる雨の中、目黒駅に舞い戻り、
東急目黒線で1駅、不動前のヘアサロンへ。
担当のK子チャンに
「予約リスケの意味なかったネ」―ささやくと、
「でも先週は一日中降ってたけど、
 今日はホラ、明るくなってきましたヨ」―との応え。
ホントだ。

彼女にカットを委ねながら
今後の身の振り方に思いを馳せていた。
いつものように所要時間は45分。
弱い陽射しの下を再び駅へ。

目黒線で向かったのは多摩川駅。
今日は多摩川線沿線をテクテクと踏破するつもり。
途中、飲みたくなったら飲むし、食べたくなったら食べる。
まっ、歩けばすぐに飲みたくなるけど、
昼めしにロースかつ定食をやっつけたあとだから
易々と腹は減らないだろうな。

多摩川駅から隣りの沼部駅へと歩き始めた。
沼部は商店街すら見当たらない静かな住宅街。
それもそのはず、駅舎東側の地番は田園調布本町。
西は田園調布南である。
福山雅治の歌のモデルとなった桜坂は
駅から北東に歩いて2分の距離。
桜の季節でもないから町を素通りした。

鵜の木駅への道すがら、細い水路に遭遇。
かつて六郷用水が流れた名残りで
今は自然湧水が活用されている。
六郷用水の水源は多摩郡和泉村の多摩川。
「岸辺のアルバム」の舞台となった現在の狛江市だ。

鵜の木は小さいながらも商店街が線路と直角に交わり、
沼部より活気があった。
ちょっと駅を離れれば、町工場や木造住宅が残存しており、
典型的な大田区のリトルタウンといえる。
土地の名の由来は古くから鵜(カワウかウミウか不明)が
多く棲みつく”鵜の森”があったことから—。
だけどサ、水鳥の鵜が森に棲むのかネ?

駅前のマルエツで一休みならぬ、一涼み。
冷蔵棚の缶ビールに手が伸びかかったが
すんでのところで思いとどまった。
せっかく馴染みの薄い町を散策しているのに
缶ビールはないやろ。
ここは我慢、ガマンで、もう一歩きとまいりましょう。

=つづく=

2019年7月5日金曜日

第2169話 白い粉にギクリ(その3)

目黒区・目黒は権之助坂の「とんかつ大宝」。
奥にA卓(3人掛け)、B卓(2人掛け)が配置され、
隣客とヒジがぶつかりそうなカウンターは8席。
椅子と壁の間隔も狭く、人が通るたびに背中を撫でられる。
奥から3番目の席にちぢこまっていた。
右隣りでは下着姿の特ロース野郎がサラダを食っている。

そうそう、何気なしに見た小姐の手元にギクリとしたのだ。
盆に並べた10個ほどの椀に
彼女が小匙で投入していたのは白い粉だった。
それもけっこうな量である。

瞬時に頭をよぎったのはMSG。
MSGったって、マディソン・スクエア・ガーデンじゃないヨ。
モノソディウム・グルタメイト、いわゆる化学調味料のことだヨ。
だけどなァ、あんなに入れたら飲めんだろうに—。
この時点で頭の中を占拠したのは
ロースかつではなく味噌汁だった。

入店から25分、隣りのの特ロースがサーヴされた。
狐色の生パン粉に包まれたソレはさすがにデカく分厚い。
バックンバックン食うのはいいけど、
その際に発する咀嚼音が耳障りで仕方ない。
おい、おい、口を閉じて噛みなヨ。
言おうと思った瞬間にロースかつ定食が到着して
教育的指導の機会を失う。

6切れのかつ、山盛りキャベツの上に小盛り紫キャベツ、
櫛切りレモン、以上がメインプレート。
そしてJ.C.の目を釘付けにした味噌椀には豆腐がちらほら。
さっそく椀に口をつけた。

ん? んんん? 
おやっ、あんまり化調、カチョーしてないな。
これならフツーの食堂の味噌汁と変わらない。
どうやら白い粉はMSGではなく、
ましてや覚醒剤やコカインであるはずもなく、
出汁粉の粉末だった模様。
だけどサ、ああいうのは客の見えない所でやっておくれ。
いや、ギクリとしたなァ、もう!

肝心のロースかつである。
ヒマラヤ岩塩、生醤油、とんかつソースに
練り辛子を駆使して食べ進んだ
どうも豚肉本体の旨みが薄い。
そして筋切り不十分で食感がよくない。
11年前とは別店の別物と化していた。
よって評価は真っ逆さまに落ちてデザイヤー。

外は篠突く雨。
幸い「とんかつ大宝」の前はアーケード。
それが途切れる場所に偶然あった、
コンビニでビニール傘をゲットする。
だけどネ、これじゃ、
理髪予約を先送りした意味がまったくないんだワ。

=おしまい=

「とんかつ大宝」
 東京都目黒区目黒1-6-15
 03-3491-9470

2019年7月4日木曜日

第2168話 白い粉にギクリ (その2)

目いっぱいの蟹目を、目いっぱいの引っ掻きで
倍返しされたJ.C.、この蛮行をどうして看過できよう。
憤然として立ち上がる・・・と思いきや、
われわれクラスはやはり理性が先行しますなァ、
今、札入れで引っ掻かれた背中の箇所を
自分の指でいたわるように掻いたのでした。

ところで入口に向かった狼藉者。
電話でも何でもなくて、やおらワイシャツを脱ぎ、
女将に預けて戻って来やがった。
何せ、カウンターは狭苦しいから荷物の置き場なんてない。
こりゃ、着ぶくれした客が押し寄せる冬場は
たまったもんじゃありやせんぜ。

脱衣のせいでツラはしっかり拝んだが
もはや、ツラなど問題じゃない。
シャツを脱いだはいいけどサ、
オメエ、それって下着じゃないの?
いやはや近頃の若いヤツときたひにゃ、
まったく、どうしようもないヨ。

長々と綴ったが、これはほとんど一瞬の出来事。
まだ注文も通していない。
ランチのサービスメニュー(日・祝を除く)は4品。
ロースかつ、ヒレかつ、チキンかつ、メンチかつが
税込みで1050円均一。
迷わず、ロースをお願いした。

すぐに運ばれたのはサラダとお新香。
サラダはレタスとわかめで
見た感じ、センスのかけらもない。
新香は拍子切りの大根醤油漬けだが、これも感心しない。
くだんの隣客はサラダをムシャムシャ食い始めたけどネ。

あらためて店内を見渡すと、揚げ手はアンちゃん独り。
発音からしてフロム・メインランドのようだ。
接客と調理補助のオネエ2人も同国出身だろう。
それを上手に取仕切るのが女将で
八面六臂のご活躍ときたもんだ。
かつて揚げ場に立っていた店主の姿は消え失せた。

繁盛店だから、それなりの財を成し、
後身に道を譲る、というよりは外国の若者を使って
左団扇の日々を送ってるのかもしれない。
まっ、下衆の勘ぐりにつき、悪しからず。

それにしても配膳に時間が掛かる。
客の回転率も悪い。
ごはん&キャベツのお替わり無料(1回限り)が
災いの一因となっているフシがある。

ぼんやりと厨房内を眺めていた。
1人の女性スタッフが味噌椀の準備をしていた。
おやっ、アレは何だろう。
エエ~ッ!
おい、おい、小姐(シャオチエ)、オメッ、何してるだっ!

=つづく=

2019年7月3日水曜日

第2167話 白い粉にギクリ (その1)

この日は2ヶ月に1度の理髪日。
1週前の雨を避けて予約を順延したのだ。
ところが、この日の予報も雨模様。
先延ばした意味がないな。

東京メトロ南北線で目黒駅到着。
まだ13時前で店々は混んでいようが
早いとこランチを済ませにゃならない。
サロンの予約は14時だからネ。

小雨パラつく中、権之助坂を下っていった。
しっかし、この坂道にはラーメン屋が多いこと、多いこと。
数えたわけじゃないが、たかだか数十メートルのあいだに
軽く10軒はあるんじゃなかろうか―。
これで共存できるんだから大したものだ。
とゆうより、日本人ってこんなにラーメン好きだったっけ。

「とんかつ大宝」の店先に差し掛かった。
過去に1度しか利用していないが印象はよい。
店内の狭さに閉口したものの、
とんかつの美味しさを記憶している。
よしっ、久しぶりに食べとこう。

あれはいつだったかな?
帰宅後、チェックしてみたら2008年5月だった。
もう10年以上の月日が流れている。
店主も歳を重ねたことであろうヨ。

幸いにも行列はナシ。
女将らしき女性がすぐに案内してくれた。
8席のカウンターは相変わらず狭い。
養鶏場のケージに収まったブロイラーの気持ちがよく判る。
ああいうのは動物虐待の最たるものじゃあるまいか―。

壁のメニューを見上げてほくそえんだ。
この時間ならまだランチタイムサービスを受けられる。
サイズが小さくなるとんかつ屋のランチサービスは
”小食漢”にとってまさしく渡りに舟である。

ほぼ同時に入店した右隣りの若いリーマンが
特ロース定食を通した。
おい、おい、昼間っから特ロースかヨ。
ツラを拝みたいが真横なのでうかがえない。
前を向いたまま文字通り、目いっぱい蟹目にしてみたが
どうしても見えない。
まっ、いいや。

すると、何てこたあない。
「暑いな、脱いじゃおうか・・・」―
ヤッコさん、独りゴチて立ち上がるじゃないか。
後ろを通り抜けて入口方向に向かう際、
ヤツの右尻ポケットに差し込んだデカい財布が
J.C.の背中を目いっぱい引っ掻いていきやがった。
痛くはないけど不快なりぃ!

=つづく=

2019年7月2日火曜日

第2166話 八十分間銀座一周 (その3)

銀座コリドー街の車道にあふれる、
人だかりを尻目に日比谷方面へ。
何のこたあない、八十分間で銀座一周を成し遂げ、
今日もまた振り出しに戻ったわけだ。

こうなれば最後の手段に訴えるのみ。
さっき抜け出た東京ミッドタウンの地下に再潜入した。
ここにはフードコートがあってその名も「日比谷フードホール」。
8店舗が終日営業を続けている。

ベーカリー、スペインバル、オイスター&クラブ バー、
ヴェトナミーズ、野菜カフェなどなど。
フードコートにつき、あっちから1品、こっちから1品、
そんな利用が可能ながら
面倒だし、時間も押している。
ここは1店に絞り込みたい。

選択の条件は3つ。
・ ビール必須
・ ポーション小さめ
・ 行列ナシ

一通り見て廻り、決めたのは「Susan's MEAT BALL」。
ニューヨーク風肉団子をウリにするファーストフード・ショップだ。
ミートボールなんてニューヨーカーはあまり食べないけどなァ。
少なくとも20年前、あの街で肉団子屋なんて見掛けなかった。
もちろんイタリア料理屋にはポルペッティがあった。
映画「ゴッドファーザー」に出て来るアレですな。

メニューはというと、
ライスやサラダと盛合わせたミートボール・ボックス。
パンにはさんだミートボール・ドッグ。
フレンチフライとコンビのミートボール・コンボ。
ほかにスモールサイズのミートボール・スライダーがあって
コイツが決め手となった。
ビールはカールスバーグの小瓶で不満ナシ。

カウンターにて、まずはミートボールの食材選び。
ビーフ、ポーク、チキン、ビーポー合挽きの4種から
ニューヨークっぽくビーフを選択。
続いてクラシックトマト、チリコンカン、マッシュルームクリーム、
インディアンカリーのこれまた4種のソースから
オーソドックスにクラシックトマトを—。
ピクルスのアリ or ナシを訊かれ、アリでお願い。

カールスバーグと合わせて799円を支払い、出来上がりを待つ。
一応、カスタムメイドを謳う「スーザン肉団子店」なのだ。
あれっ、小っちゃいなァ・・・赤ん坊の握り拳くらいしかない。
でも、これがわがニーズにドンピシャだった。
ミートボールはかなりの粗挽きで
そんなに旨いもんじゃないが
小腹が空いたときの継ぎには重宝する。

向かいの日比谷シャンティに移動し、
2階で2枚、3階で1枚、夏物半袖シャツを購入。
帰りにはJR御徒町駅前の「吉池」に立ち寄り、
平田牧場の三元もち豚肩ロースを買いましたとサ。
今宵は手造りイタリアン!

=おしまい=

「Susan's MEAT BALL」
 東京都千代田区有楽町1-1-2 東京ミッドタウン日比谷B1
 03-3519-7311

2019年7月1日月曜日

第2165話 八十分間銀座一周 (その2)

白昼のデモ隊を見送って
いえ、べつに手は振らなかったがネ。
外堀通りを東へ横断。
地番は千代田区・有楽町から中央区・銀座に移る。

立ち食いの「よもだそば」の前にやってきた。
もりそば&インドカレーのセットが
ワンコインでいただける、銀座では奇特な店ながら
ボリュームがありすぎるのが難。
かといってミニカレーのみというのも体裁が悪いし—。

すぐそばの老舗洋食店「煉瓦亭」はお休み。
さらに昭和通りを渡り、東銀座へ。
懐かしの中華そば「萬福」も本日休業。
さまよっているうち、歌舞伎座の裏手に到達した。
シチューの店「エルベ」がいつの間にか近所に移転していた。
オムライスが人気の喫茶店「YOU」も
晴海通りの路面から木挽町通りに引っ込んだ。
ここがまたスゴい行列だけど、
オムライスってそんなに旨いもんかえ?

その晴海通りを南へ縦断し、今度は新橋演舞場前へ。
本日休館の様子で周りの飲食店も喫茶以外は扉を閉ざしている。
ことここに及び、ちょいとばかり焦ってきた。
かれこれ1時間以上フラフラしている。
ディナーとの時間差がどんどん詰まってゆく。
これってヤバくない?

「ライオン 銀座七丁目店」にやってきた。
ビヤホールライオン・グループの旗艦店である。
もうこうなったら生ビールにニシンのマリネか
ホエー豚の串カツでじゅうぶんじゃないか―。
って言うより、それが理想的じゃないか―。

ところが長くはなくとも順番待ちの客の列。
加えて思い出したことには
近々、5階の「音楽ビヤプラザ」で催される友人の誕生会。
まあ、1階と5階じゃ別物の別箱なんだが
やはり見送りの一因になったのでした。

銀座通りを西に戻って銀座ナイン。
ありゃりゃ、地下の食堂街は日曜全滅だとヨ。
デモ隊去りし外堀通りを渡り返してコリドー街。
相変わらず「寿司の美登利」の店先には
ゴミの山、もとい、人の山が歩道からあふれ出している。

十数年前、ものはためしと一度だけ利用したが
ちょいと安いかな? 
と思った程度でサカナも鮨もごくフツー。
というより、むしろよくなかった。
ここに1時間も並ぶくらいなら
そのぶんだけでもデモに参加することをおすすめしたい。
存在理由すらなきアホエモンが何をホザこうともネ。

=つづく=