2024年2月29日木曜日

第3482話 このたびは 観音裏で 6人会 (その2)

さて、ちょいと遅刻した6人会。
会場の「ニュー王将」に到着すると
すでに全員が顔を揃えていた。
それぞれ好みの酒で乾杯。

待ちきれなかった一同、
何品か料理を通しており、
ママのタエちゃんがさっそく
平目とまぐろの刺身を運んでくる。
続いてカニサラダもー。
J.C.が居なくともちゃんと心得てるネ。
さすがわが弟子たち、感心、カンシン!

全員揃って燗酒にスイッチ。
銘柄は立山である。
蔵元は富山県・砺波市の立山酒造。
そういえば、砺波市出身の老夫婦が
営んでいた千駄木は団子坂の町中華「砺波」。
閉業して久しいが
お二人は今も元気でおらりょうか?

海老フライを愛してやまないお局の差し金か、
1人1尾当てで登場した。
海老にあまり関心のないJ.C.は
フライも天ぷらも自らは積極的に注文しないが
そこは観音裏の名店、
揚げ方に個性あふれて実にマイウ~!。

そして真打ちのメンチカツも1人1個。
タエちゃんがお1人半分づつでも?
いえ、いえ、これだけはゆずれましぇん。
肉汁したたる団子にみな舌鼓をポンポンのポン。

このあたりから飲みものの好みがバラけてきた。
ハイボール、レモンサワーの声が挙がる中、
当方は黒ラベルの生に移行する。
われながらつくづくビール好きなんだねェ。

そろそろ締めである。
カニピラフまで覚えちゃいるが
あとは何だったけなァ?
記憶が曖昧模糊としてきた。

二次会はいつもの谷中じゃ遠いので
せっかく観音裏にいるんだ、
近所のスナックに流れよう。
以前はマイ・ガーデンだった界隈も
すでに20年近い月日が流れた。

ママに相談したらオススメがあると言う。
シェフのヤッちゃんが電話予約してくれ、
向かったのは銭湯「曙湯」の隣りの「S」。
ブラックニッカのハイボール片手に
飲めや歌えの大騒ぎ。
エンコの夜は楽しく更けてゆきましたとサ。

「ニュー王将」
 東京都台東区浅草5-21-7
 03-3875-1066

2024年2月28日水曜日

第3481話 このたびは 観音裏で 6人会 (その1)

ふた月に一ぺんのペースで
定期的に開催している6人会。
此度の舞台は浅草観音裏。
云わずと知れた「ニュー王将」である。

以前はしょっちゅう顔を出していたのに
しばらくご無沙汰した。
それが昨秋、復帰して早くも三度目になる。

と、その前に1人0次会と行こう。
かんのん通りの「ニュー浅草 本店」は丸十年ぶり。
暖簾をくぐって目の前のオネバさんに
「2階に上がっていい?」ー 訊ねたら彼女、
 つれなく首を横に振った。
「ダメなの? 」ー口を尖らせると
「ダメですっ!」ーキッパリとダメ出し。
「 ハッキリ言うネ」ー今度は縦に振りやがった。 

2階はヤケに騒がしい。
若い娘たちの嬌声が降ってくる。
1階の変則的なカタチの相席用テーブルに着き、
黒ラベルの大瓶を通した。

同じ並びの名酒場「志ぶや」はキリンだが
「ニュー浅草」はサッポロ一色。
アサヒの本拠地で商売しながら
2店ともチャレンジ精神が旺盛だ。

あらかじめつまみは霜降り馬刺しと決めていたが
一応、刺身のラインナップを見上げた。
マグロ・カンパチ・真鯛・海老・ブリ・
サーモン・イカ・ホタテ・カジキ
ほかに、〆サバ・タコブツ
あとは、くじら刺し・霜降り馬刺し

刺身の最高値はマグロ・カンパチ・カジキの750円。
哺乳類のくじらと馬刺しも同値だった。
馬刺しを思いとどまり、珍しいカジキに浮気した。  
8切れもあったカジキは白っぽい色合いから
メカジキであることが判る。
マカジキだとオレンジがかった赤みを帯びる。

信州の辛口酒、信濃光の熱燗に移行。
本当に辛いや。
壁の品書きに甘鯛の板わさ(540円)を見つけ即注。
こちらは5切れで来た。
フツーのカマボコとそんなに変わらない。
気泡が散見されて不味くはないけど、
ちと期待外れの感否めず。 

ところが冷たかったカマボコ。
常温に戻ると、ほのかな甘みが感じられ、
さすが甘鯛、美味しくなった。

「ニュー浅草」を出て
「ニュー王将」に向かいながら思った。
「ニュー」から「ニュー」へとハシゴ酒。
ニューヨーク帰りにはまことに相応しい。

「ニュー浅草 本店」
 東京都台東区浅草1-35-3
 03-3841-1272

2024年2月27日火曜日

第3480話 カマスの刺身にゲンゲは丸ごと

てなこって「人形町藪そば」と
「神谷バー」をハシゴしたのだが
帰宅の前に立ち寄った場所があった。
浅草・松屋デパートの鮮魚売り場である。

何かいいモノないかなァ?
都内有数の高級魚を扱う「丸赤」に
肉じゃががあったのには驚いた。
当店が肉モノを扱うのを初めて目にした。
みなさん苦労してるんだねェ。

その隣り、鮮魚のメイン売り場は
「山助」が担当していた。
川崎市宮前区に本社を構え、
神奈川県中心に活躍している。

此処で再び驚いた。
カマスの刺身が売られてるじゃないかー。
めったにお目にかかることはない。
おっと! ゲンゲ(幻魚)のデカいのが
何尾も並んでいるヨ。
カマスは千葉、ゲンゲは岩手の産である。

こういう珍魚たちに出逢うと
もう嬉しくて買わずにはいられない。
胸騒ぎまでしてくるんだ。
ほうら、桑田の圭チャンが歌い出したぜ。

♪ 心なしか今夜 並の音がしたわ
  男心誘う 胸さわぎの腰つき ♪

サザンのデビュー曲「勝手にシンドバッド」は
1978年6月のリリース、衝撃的だった。
数多ある彼らの楽曲中、
永遠のマイベストである。

カマスの刺身は超珍しく、尚且つ超美味。
水分を多く含むサカナでありながら
水っぽさを感じさせない。
デリケートな旨みにあふれていた。

薄造りとまではいかないが
かなり薄めにスライスされており、
薄紅色の血合いに
絣模様の皮目のコントラストが美しい。
こうなると、もはや芸術品であります。

一方のゲンゲは北の海に広く分布する深海魚。
ゼラチン質のブヨブヨしたサカナで
海のツチノコみたい。
富山湾の特産とされるが、今日のは岩手だ。

500グラムはあろうかという魚体を
丸ごとブツ切りにしてもらい、
ちり鍋にして楽しんだ。
頭のてっぺんから尾の先まで捨てるところナシ。
食べ切れないので上身を3切れほど煮付けにー。

日本人に生まれてよかった。
つくづくそう思ったことでした。

2024年2月26日月曜日

第3479話 小雨そぼ降る イヤな午後

前日は馬鹿陽気のせいで
群馬の伊勢崎や桐生では25度を超えた。
ところが今日は気温がガクンと下がり、
小雨が一日中そぼ降るイヤな午後となる。

気は進まなかったけれど
家にこもっていても仕方ないので出掛けた。
雨の日は日比谷、銀座、町屋、北千住が定番ながら
都営地下鉄・新宿線を降りたのは浜町。
甘酒横丁の「浜町藪」を通りすがって
一瞬惹かれたものの、思いとどまり横丁を直進。
結局、「人形町藪そば」の敷居をまたいだ。

ちょいとハイソなアチラに対して
コチラはグッと庶民的、J.C.向きである。
一番搾りを飲みながら品書きの吟味。
おかめ or おかめとじで迷ったが
朝食時に目玉焼き(片目)を焼いたのを思い出し、
玉子とじを回避した。 

おかめのキャストは
厚切りかまぼこ・きつね・ゆで半玉・竹の子・
ほうれん草・しいたけ&千本しめじ。
そして柚子皮が一片。
どんぶり自体は小ぶりでも具材が多く、
そばもけっこうな量、腹八分目をオーバーする。

雨はまだ降り続いている。
ブラブラしたくないから駅へ直行。
人形町に来れば、ほとんどと言ってよいほど
そのあとは浅草である。
都営浅草線で4駅だからネ。
歩ける距離の上野ですらメトロ銀座線で3駅だ。

浅草なら当然「神谷バー」。
以前は来るたびに2階へ上がったけれど
ここ2~3年はもっぱら食券制の1階を愛用。
ドライの大瓶と電氣オールドを1枚づつ購入。
この日もご多分にもれず。
ピープル・ウォッチングを楽しみながら味わう。

滞空1時間で退出。
天気が悪いのに仲見世はかなりの人出だ。
インバウンドが目立つねェ。
若い娘の着物姿も少なくない。
いやはや雨の中、ご苦労なこった。

昼のそば屋について帰宅後チェックしたら
「浜町藪」を最後に訪れたのは2010年。
「人形町藪そば」にいたっては2001年だった。

月日は百代の過客にして
行きかう年もまた旅人なり

「人形町藪そば」
 東京都中央区日本橋人形町1-7-2
 03-3666-5922

「神谷バー」
 東京都台東区浅草1-1-1
 03-3841-5400

2024年2月23日金曜日

第3478話 伊予宇和島の鯛めし

この日も神保町シアターへ。
毎度、まずチケットを購入し、
それから昼めしという運びになる。

千代田通りを横断し、
小川町の「萬楽飯店」に来たら
10人ほどの行列が店頭に立ちはだかっていた。
だめだ、こりゃ。

すると、はす向かいに
伊予宇和島の鯛めしを食べさせる店あり。
今まで気づかなかったから、わりと新しいのでは?
ラーメンか広東麺のつもりだったけど
鯛めしならば悪くない。

伊予松山を拠点に京都市内にも3店舗持つ「槇」。
訊けば、小川町店は昨秋11月10日に
オープンしたばかりであった。
サッと品書きに目を通し、
宇和島鯛めし御膳(2200円)を所望した。

ビールは歓迎しないアサヒ・マルエフの生中。
スーパードライ好きのJ.C.に
同じアサヒの熟撰とマルエフは
はっきり言って邪魔者である。

調った御膳の内容はかくの如し。

真鯛お造り・鯛ほぐし身と大根の煮びたし・
玉子の黄身・白菜浅漬け・油揚げ味噌汁・ごはん

お造りは出汁醤油でいただく。
最初はそのまま、途中で黄身を落とせなどと
美味しい食べ方の手ほどきが卓上に1枚。
さっそく食べ始めた。

ん? 出汁醤油ががかなり甘く、
これはこれでアリなんだろうが
銀座「竹葉亭」の鯛茶漬け。
あの胡麻ダレのほうが好きだ。
それでもそこそこ美味しくいただいた。
次回は鯛そば&鯛茶漬けのセットを試したい。

翌週、舞い戻った。
すると、鯛そばはいわゆる鯛出汁の塩ラーメン。
鯛茶漬けは鯛の刺身が付くわけではなく、
残ったスープに飯を放り込めとのこと。
だよなァ、鯛そば+300円だもんねェ。

ごはん茶碗にそばのスープを注いで
サラサラやってたら、
お運びのオネエさんがご親切にも
「どんぶりにごはんをお入れになって
 召し上がってください」
「いや、どんぶりで
 茶漬けを食べる習慣がないもんでネ」
「ホホホ、おっしゃられたら、そうですネ」
平和な午後の神田小川町であります。

「鯛めし 槇」
 東京都千代田区神田小川町3-1-19
 03-6803-3337

2024年2月22日木曜日

第3477話 ” 女優魂 ” を魅せつけられて

このところ映画の話題が多くて恐縮ながら
本日もまた映画であります。
神田神保町のシアターで1月末から
開催されていた " 女優魂 " 。
日本を代表する女優に
スポットライトを当てた特集は当館によれば、

これは女優たちの代表作の特集ではありません。
神保町シアターの独断と偏見で選び抜いた、
女優たちの魂の演技を見るためのプログラムです。

上映されたのは全16作、うち6作を観た。
月丘夢路「乳房よ永遠なれ」、岩下志麻「鬼畜」、
香川京子「近松物語」、藤村志保「怪談雪女郎」、
有馬稲子「浪花の恋の物語」、
山本富士子「濹東綺譚」である。

シアターが選りすぐっただけに全てが名作・佳作
” 女優魂 ” を魅せつけられた思いがする。
J.C.という男の魂に訴えたのは第一に岩下志麻だ。
共演は緒形拳と小川真由美でいずれ劣らぬ名優。
殊に女同士、小川との丁々発止は迫力満点。
思わずうなるほどの見応えであった。

昔の女優さんはスゴかったなァ。
現在の小粒の背比べとは比べようもない。
今の女優たちにはせめて
ピリリと辛くなってほしいものだ。

香川京子の主演映画は初めて。
小津の「東京物語」はじめ、
この人は脇役や準主役が多い。
しかし、本作に限っては
長谷川一夫の向こうを張り、
堂々たる存在感を示した。

有馬稲子も好かった。
こちらは中村錦之助との共演。
この作品がキッカケで二人は結ばれる。
錦之助は稲子と別れて淡路恵子と再婚するがネ。

「近松~」は溝口健二、
「浪花の~」は内田吐夢と監督こそ違えど、
ストーリーはよく似ている。
どちらも悲劇的な愛の道行きで
原作が近松門左衛門だからネ。

かたや、刑場の露と消える運命にある男と女。
こなた、女だけが生き残るものの、
自ら井戸に身を投げようとする。
それを止めるのが劇中、
近松役を演ずる片岡千恵蔵と来たもんだ。

このシリーズも明日で終わり、明後日からは
五所平之助監督特集が組まれている。
明日(天皇誕生日)のプログラムを記しておく。

11:00 濹東綺譚(山本富士子)   
13:30 西鶴一代女(田中絹代)
16:15 浪花の恋の物語(有馬稲子)
18:25 色情めす市場(芹明香)

開映30分前くらいまでチケットは手に入るハズ。
ご興味のある方はお急ぎをー。

2024年2月21日水曜日

第3476話 渋谷にて 死刑映画週間 (その2)

そして翌々日、映画は13時半スタート。
同じ轍は踏むまい。
ボーっと昼めしなんか食っていられない。
ユーロスペースに直行した。

この日観たのは井田探(もとむ)監督による、
日活映画「青春を返せ」。
死刑映画週間全7本中、2本目である。
無実の罪で死刑を宣告された兄(長門裕之)を
救うため、妹(芦川いづみ)が奔走する。

いつも可憐な役柄に終始するいづみチャンが
八面六臂の活躍を見せる異色作で
興味深いのは真犯人と思しき男が藤竜也。
思うにこの共演がキッカケで
二人は結ばれたのではなかろうかー。

長門の母親役は高田由美。
前途を悲観して自死してしまう。
死刑判決をくつがえすための弁護士が清水将夫。
実生活で二人は夫婦である。

J.C.は高田をほとんど知らないが
清水には強烈な印象を受けている。
小学校1年か2年のときに観た、
裕次郎主演の「錆びたナイフ」のラストシーンは
悪の黒幕の清水を倒すため、
裕次郎がジャックナイフを握るのだ。

ほかには三原綱木と所帯を持った田代みどり。
NHKのドラマ「事件記者」で
茶の間の記憶に残る大森義夫。
芦田伸介、大滝秀治も重要な役柄で
脇をしっかりと固めている。

忘れられないのは音楽を担当した山本丈晴。
作曲家にしてギタリストの彼は
古賀政男に指示し、古賀の養子になる。
のちに当時の日本を代表する女優・山本富士子と
結婚して今度は婿養子、山本姓を名乗った。

全編に流れる音楽が強く心に響く。
初めて彼の作品にまともに触れたが
そこは蛙の子は蛙、
古賀メロディーに通ずるものがあった。

使われる弦楽器はいったい何だろう?
大正琴と思われるがスチールギターかな?
ひょっとしたら山本が考案して作り上げた、
琵琶ギターというヤツかもしれない。
実際に聞いたことがないので判らないけどネ。

今一つ主役を張り切れなかった芦川だけに
この映画は代表作と呼べるだろう。
結婚と同時に引退した、
いづみ婆ちゃんも今年で89歳。
浅丘ルリ子の5歳上、吉永小百合の10歳上だ。

6歳下の夫、藤竜也は今も毎晩、
寝るときに妻の手を握るという。
なかなかいいとこある旦那じゃん。

2024年2月20日火曜日

第3475話 渋谷にて 死刑映画週間 (その1)

渋谷の百軒店(だな)近くに
ユーロスペースなる小さな映画館がある。
現在、死刑映画週間が組まれており、
何本か観たい作品があって出掛けた。
死刑映画週間は13回を数えるそうで
何とまあ、死刑に固執する映画館だこと。

1本目はオランダ&ウクライナ合作の「キエフ裁判」。
その前に腹ごしらえに向かった。
およそ20年ぶりに渋谷随一のラーメン店「喜楽」へ。

平日なのに5人並んでいたが
5分足らずで1階のカウンターに着席。
一番シンプルなラーメンを通す。
メニューに中華麺と記載されているものの、
誰もそうは言わない。
厨房のインド人スタッフも
接客のオバちゃんも揃ってラーメンと呼ぶ。  

目の前に懐かしい光景が拡がった。
分厚い肩ロースのチャーシュー2枚、
どっさりのもやし、味付け半玉。
スープには大量の揚げ玉ねぎが浮いている。
これこそが此処のラーメンの一大特徴。
当店のほか、大井町「永楽」など、
大森「喜楽」の流れを汲む店はみなそうだ。

麺は極太のちぢれ。
だけどこんなに太かったかな? 
飲み覚えのあるスープが舌に沁みる。 

ユーロスペースにやって来たら
あれ? おかしいな。
狭いロビーに誰もいないんだ。
前の映画が押してるのかもしれない。

スケジュールを確かめると
15時上映と思っていたのが実際は13時半。
時刻はすでに1450分。
あちゃー、やっちまった。
「ボーっとラーメン食ってんじゃねーよ!」
間違いなくチコちゃんに叱られる。

結局、106分ある映画の25分しか
観ることができなかった。
しかしながら当ドキュメンタリー映画の
クライマックスはラスト5分。

裁かれたナチス戦犯がキエフ(キーウ)の
カリーニン広場(現・独立広場)に引っ立てられ、
集団処刑されるのだ。
広場に集まった大群衆の前で
12人の男たちが宙に吊るされる。
あまりにショッキングな光景に言葉を失った。

=つづく=

2024年2月19日月曜日

第3474話 小上りで 酒酌み交わす 春の宵

1980年2月、J.C.は金融界に身を投じた。
英系マネー・ブローカー、
アストリー&ピアスの門を叩いたのだ。
そのときの同僚、モグからメール来信。
久しぶりに飲むことになった。
彼とは4年半ぶりである。

日本そばの名店「室町砂場」の唯一の支店、
「室町砂場 赤坂店」で落ち合う。
最近は早めの仕掛けが多く、
今月に入ってO橋、N田、モグと
男とのサシ飲みは三者連続。
すべて15時スタートにした。

アイドルタイムにつき、店内はガラガラ。
奥の小上りにカップルが1組のみである。
われわれも手前の椅子とテーブルを尻目に
上がり込んだのだった。

此処のビールの取り揃えは
(大)がキリンラガー。
(小)はサッポロ黒ラベル。
ちょいと理解に苦しむコンビだ。
室町は日本橋という各種企業が混在する
ロケーションからほぼすべての銘柄が揃う。

ラガーを注ぎ合ってグラスを合わせた。
お通しは「砂場」の定番、あさり煮。
これだけでは足りないので
アラカルトのあさり煮を追加。
あとは玉子焼きと焼き鳥はタレでー。

話題は "昔" に集中する。
オフィスのスタッフの面々や
所在地、神谷町界隈の店々だ。
そういえば、J.C.のNY赴任中、
モグはロンドンに居て
お互い出張で行き来したものだった。

菊正の冷たいのに切り替えた。
飲むほどに酔うほどに会話は熱さを増してくる。
徳利を何本空けただろうか?
おそらく6~7本だったと思う。

締めにはもりとざるを各々1枚づつ。
両者の違いは海苔のアルナシではなく、
もりは他店でいうところの二八そば。
ざるは更科である。
どちらも旨いがJ.C.はざるに軍配を挙げる。

さて、そろそろ河岸を変えよう。
溜池→虎ノ門→新橋を経て銀座まで歩く。
かつて何度かおジャマした「G.G」へと
石段を降りてゆく春の宵でありました。

「室町砂場 赤坂店」
 東京都港区赤坂6-3-5
 03-3583-7670

2024年2月16日金曜日

第3473話 黄昏の店で 舌が震えた (その2)

ハナシを元に戻しましょ。
文京区・白山上の「戸隠そば 満寿美屋」。
そば前の野沢菜は衝撃的だった。
すかさず信州の銘酒、大信州を冷やでもらう。
あまり飲めないY本サンもつき合ってくれた。

当方、かけそば&ミニかつ丼のセット。
相方、鴨せいろをお願いした。
戸隠を名乗るからには信州そば。
中太のそばはコシが強めだ。

つゆもしっかりしており、相方の鴨もなかなか。
驚いたのはミニかつ丼。
かえしの効いた味付けもさることながら
かつと玉子と白飯のバランスが好い。
かつは薄くとも、そばのお供にはピッタリ。

初回は気づかなかった当店の利点に
行き着いた感がある。
これからはちょくちょくおジャマするとしよう。
ひょっとしたら池之端に準じて
白山に行きつけそば屋の第2号かな?

帰宅後、「満寿美屋」のレシートを見ると
酒は大信州を注文したつもりなのに
大雪渓と明記されていた。
これじゃどっちを飲んだのか判らない。

どうにも気になって舞い戻った翌週。
いの一番に女将らしきオバちゃんに訊ねると
「たぶん大雪渓をお出ししちゃったんだネ。
 値段が200円違うんですヨ」

ホントだ。
品書きには大信州650円、大雪渓450円。
野沢菜でビールを飲みながら
今度は大信州を冷やで所望した。
「間違えないようにお願いしますヨ」
「ハイ・ハイ」

うむ、大信州はグッと重みが増して
どちらかというと、お燗向きの酒だ。
かなり米々しく感じた。

そばはカレー南蛮。
ふ~む、池之端に比べると
ずいぶんアッサリしている。
アチラの具材は豚肉と玉ねぎなのに対し、
コチラは鳥肉と長ねぎだが
これはこれで美味しい。

かくも佳き店をどうして9年も
ないがしろにしてきたのだろう。
おのれの不明を恥じ入るばかりなり。

「戸隠そば 満寿美屋」
 東京都文京区本駒込1-2-2
 03-3811-7686

2024年2月15日木曜日

第3472話 黄昏の店で 舌が震えた (その1)

定期健診で日医大付属病院へ。
先日、病院に伴った近所の友人・Y本サンが
もう一度連れてってと言うから承諾した。

検診後はまた昼めし。
10分ほど歩き、白山上に来た。
以前利用し、当欄でも紹介した「松下」で
ぜいたく丼のつもりが準備中の札。
時刻はちょうど14時半で
たった今、閉めたに相違ない。

それではと数軒先の「戸隠そば 満寿美屋」へ。
9年前に1度だけ利用し、
そのときの印象はフツーだった。
ドライの中瓶をもらい、何かつまみを。
おっ? 野沢菜があるじゃないかー。
J.C.にとってふるさとの味はコレである。

子どもの頃、季節になるとわが家の裏庭に
近所のオバさん連中が集まり、
野沢菜の樽漬けが始まる。
「今日は岡澤さんちだから明後日は宮澤さんネ」
「北澤さんとこは来週の初めでどうかしら?」
口々にそんな会話が交わされるのだった。

「満寿美屋」の野沢菜を一つまみすると
懐かしさが舌の上に拡がった。
そうだ、そうだヨ、この味、この味。
久しぶりに本物の野沢菜に出逢えた。
竹内まりやも歌い出す。

♪ 食べ覚えのある 野沢菜漬け
  黄昏の店で 舌が震えた
  軽い歯ざわり まぎれもなく
  昔愛してた あの味なのね ♪
   (作詞:竹内まりや)

「駅」は1987年のリリース。
しかし、この前年、
中森明菜のアルバムに収録されたのが初出。
そう、まりやが明菜のために
書き下ろした楽曲なのだ。

どこまでホントか知らんけど、
明菜の歌唱がまりやの夫の山下達郎を
とてつもなく怒らせた。
歌い方が悲しすぎるというのがその理由。

だけどサ、明菜が勝手に
レコーディングしたのかな?
少なくともまりやは知っていたハズ。
自分の女房が作った曲だからって
亭主が出て来て吠えまくるなんざ愚の骨頂。
オメエは年に1度、クリスマスんときに
しゃしゃり出てくりゃ、それでじゅうぶん。

あの頃は明菜にとって
人生で一番ツラく哀しい時期だった。
代表曲「難破船」にもそれは如実に現れている。
自ら命を絶とうとした女の気持ちを
少しは判ってやって欲しいもんだヨ。

=つづく=

2024年2月14日水曜日

第3471話 映画帰りに飲む秋葉原

この日は映画を2本観たから
終映は19時を回っていた。
神保町から都営新宿線に乗り、
浜町か森下あたりで飲むつもりが
電車が混んでいたため、
隣りの小川町で急遽下車。

池波正太郎翁行きつけの日本そば屋、
「まつや」の前には短い列。
大したことないけど、やめとこう。
昌平橋で神田川を渡り、
来たくもない秋葉原に来ちまった。

都内では際立ってクソ面白くもない街に
唯一、真っ当な酒場「赤津加」がある。
此処で飲むのは3年ぶり。
カウンターの角に着いた。

黒ラベルの中瓶にお通しは
鳥ささみとブロッコリのマリネ。
洋風の味付けだ。
本日のオススメに
石かれい(1370円)の刺身があった。

好きなサカナだし、珍しくもあって即注。
「すみません、売り切れてしまって・・・」
「エエッ! それはないヨ、オニイさん。
 じゃ、しまあじ(1650円)にしようかー」
「ありがとうございます」
そこそこの値付けだけに上物であった。

菊正宗生貯蔵酒(300cc)に移行する。
「赤津加」に来て清酒を飲まない手はない。
久しぶりに当店の名物、
 鶏もつ煮込み(880円)が食べたくなった。

ん? んん? 
ルックスに見覚えがないゾ。
箸で突ついてみたら全てが鶏皮だった。
すかさず先刻のオニイさんに

「煮込みはいつからこうなったの?」
「ずっと前からこうですが・・・」
「何年ぶりかでいただくけど、
 以前はこうじゃなかったなァ」
「私、20年いますが変わってませんヨ」
「いや、前はいろんな部位のもつが入って
 あずき(脾臓)なんかも1粒。
 第一、これじゃ鶏もつ煮込みじゃなくて
 鶏皮煮込みじゃないの?」
「ハア、そうですネ」

あまりからんでも仕方ないけど
五千円札1枚の支払いも相まって
終ってるネ、この店はー。
不満降り積もる、春の宵でした。

「赤津加」
 東京都千代田区外神田1-10-2
 03-3251-2585

2024年2月13日火曜日

第3470話 今宵は盟友と 船ばしご酒 (その2)

JR総武線と京成本線、2つの船橋駅の間。
2本の線路に挟まれた場所に位置する、
「増やま」の止まり木に
2羽のミミズクが止まっていた。

船中八策を2杯づつ飲んだところで河岸を変える。
数分歩いてやって来たのは
11月に千葉市動物園の帰り、白鶴と立ち寄った、
こちらも名酒場の「一平」である。

すると店先に居た妙齢の女性が声を掛けてきた。
ん? 明るいうちから立ん坊の出没かい?
歳の頃はマスクのせいで、ちと判らない。

聞くところによれば、
千葉県選出の有力議員の血縁とかで
経緯は存ぜぬが「一平」から
出入り禁止令を食らった旨、問わず語りに云う。

「どうなるか保証しかねるけどサ、
 取り合えずついておいでな」
男二人の背中に身を隠して滑り込んできた。
別段、店のアンちゃん、気にとめる様子もない。

ドライの大瓶を注ぎ合い、見知らぬ他人と乾杯。
寒空に立っていた女性はHM子と名乗った
還暦を超えたと言うんで
いささか驚きもしたが
マスクを取ったらそれなりに見えないこともない。
ひょんなことになったもんだ。

つまみは前回同様、悩殺のまぐろ脳天刺しと
ホッペタを落とす、まぐろホッペフライ。
M子は焼き魚が食べたいってんで
いわし塩焼きを取ってやる。 

日本酒に切り替え、だいぶ打ち解けてきた。
N田が言い出したか、M子だったか、
定かでないが歌を唄いに行こうとなり、
彼女がよく利用するカラオケ居酒屋「K」に流れた。
今度はドライの中瓶で乾杯の巻。

J.C.は裕次郎「ブランデーグラス」、
N田は細川たかし「北酒場」を唄い、彼女の番。
聖子か明菜だった記憶はあるものの、
ヒドい音痴で完全にアウト・オブ・チューン。
今どきこういう人も珍しい。
このカラオケ居酒屋も出禁になるかと心配だ。

それから何を飲んだのか、何か食べたのか、
まったく覚えちゃいない。
15時に始まった船ばしご酒も
いよいよ終焉に近づいたのでした。

「増やま」
 千葉県船橋市本町4-5-18
 047-425-5586

「一平」
 千葉県船橋市本町4-42-4
 047-422-5122

2024年2月12日月曜日

第3469話 今宵は盟友と 船ばしご酒 (その1)

ん? ” 船ばしご酒 ” って何やねん?
これはですな、
千葉県・船橋ではしご酒のことですねん。
ほうら、不慮の死を遂げた、
藤圭子が歌い出しやしたぜ。

♪ 飲めば飲むほど うれしくて
  しらずしらずに はしご酒
  恋は小岩と へたなしゃれ
  酒の肴に ほすグラス
  よってらっしゃい 
  よってらっしゃい お兄さん ♪
   (作詞:はぞのなな)

「はしご酒」は1975年のリリーズ。
彼女のナンバーでは
ワン・ノブ・マイ・ベストである。

JR総武線で小岩から5つ先の船橋。
15時に南口改札前で待ち合わせたのは
高校同級の盟友・N田クンだ。
しばらく会わない間にずいぶん太った。
訊けば5kg 増とのこと。

駅から歩いて2分、最初の店は
この街で3本の指に入る名酒場「増やま」。
千葉県最大の飲み屋街は船橋だから
平日の15時だというのに
暖簾を出す店は5~6軒どころではない。

一方、台東区・上野は東京最大の飲み屋街だが
京成本線でつながる船橋は
上野の出張所的な存在と言えなくもない。
いずれにしろ、呑ン兵衛が浮かれる街である。

コの字カウンターのカドカドに着き、
当方、サッポロ赤星、
相方、焼酎の湯割りで乾杯。
つまみは牡蠣南蛮風おろし。
当店のつまみは1人前づつの小盛りで
取り皿は出さないから2つお願い。

相方のお替わりを見ながら
J.C.はにごり酒に切り替えた。
かなりの甘口につき、
これなら韓国のマッコリの方がいいな。

ホタルイカ酢味噌と紅生姜かき揚げを追注。
ホタルはちょいと匂った。
紅しょうがはずいぶんしょっぱい。
久しぶりの訪問だが以前はもっと良かったような。

二人して船中八策の冷たいのに移行する。
坂本竜馬の新国家構想、
船中八策にちなむ銘酒は司牡丹の人気銘柄。
切れ味鋭く舌上を転がり、
ノドを滑り落ちてゆくのであった。

=つづく=

2024年2月9日金曜日

第3468話 無理はよそうぜ 体に悪い

雨がみぞれに変わり、ついには小雪となった午後。
「鬼畜」を観に、またもや神保町へ。
開場の1時間半前には
チケットを購入して、ふと左手を見たら、
いつも長蛇の列の「キッチン南海」に
誰一人並んでいない。

へえ~っ、こんなこともあるんだネ。
もう一つの行列店「ラーメン二郎」は
悪天候にもかかわらず、およそ30人。
これは利用者の年齢層の成せる業で
「二郎」は若者主体だが
「南海」はオッサンやジイサン少なからず。
身体の冷え方がまったく違うからネ。

けっこうなボリュームの「南海」だから
J.C.には無用の長物、無視し続けてきた。
けれど、死ぬ前にもう一度食べてみなヨ。
天の声が聞こえたのだ。
その一方で、おいおいムリムリやめときなヨ。
地の声もささやいた。
ほうら、村田英雄まで歌い出したぜ。

♪  無理はよそうぜ 体に悪い
  洒落たつもりの 泣き笑い
  どうせこの世は そんなとこ
  そうじゃないかえ 皆の衆 ♪
   (作詞:関沢新一)

「皆の衆」は前回の東京五輪が開催された、
1964年のリリース。
三波春夫の「東京五輪音頭」の向こうを張って
大ヒットを記録した。

さて、「キッチン南海」。
ムッチーの諌言に耳を貸しかかったが
こんなケースは二度とない。
ちょいとばかり気が早いけど、
冥土のみやげに入店の巻である。

店先を何度も行き過ぎてるから
メニューは頭に入っている。
唯一気になっていた、
ひらめフライ&しょうが焼きの盛り合わせを即注。
半ライスの指定も忘れずにネ。
それでも定食屋の並盛り、
気取った洋食屋の2倍はあった。

メインプレートがまたスゴいのなんのっ! 
繊キャベがマッターホルンか、
アコンカグアの如くにそそり立つ。
てっぺんにはキリマンジャロの雪よろしく、
貝割れが降り積もっていた。

ケチャスパはマヨ入りの冷製。
デカいひらめは四つ切り。
玉ねぎたっぷりのしょうが焼きもこんもり。
食っただヨ、ギャル曽根みたいに食っただヨ。

結果、その日は固形物がノドを通らなかった。
盟友・麦酒だけが疲れた胃袋を
いたわってくれたのでした。

「キッチン南海 神保町店」
 東京都千代田区神保町1-39-8
 03-3219-1616

2024年2月8日木曜日

第3467話 みんな歓ぶ 町屋の「山三」

のみとも・O橋サンと半年ぶりの酌交。
舞台は先月4人会を開いた町屋の「山三」だ。
刺身と中華の二刀流が冴えわたり、
誰を連れて来ても一様に絶賛の嵐。
いい店である。

黒ラベルの中ジョッキをガチンと合わせ、
初っ端に通した赤貝セットに箸を付けた。
赤貝の刺身4切れにひもきゅう巻が1本。
深飲みのスタートには絶好の一品である。

店を指定したら、相方はネット検索していて
名物の釣りアジフライを即注に及んだ。
内房の黄金アジはフワッフワ。
満面の笑みでかぶりついている。
J.C.が追加したカキフライは
アジほどではないにせよ、これもまた美味。

あまりお目に掛からない生ホッピーに切り替えた。
なんだかサラッとし過ぎてあまりパッとしないなァ。
中ジョッキ1杯にとどめ、キンミヤのボトルに移行。
黒ホッピーの瓶もお願いしておく。

いやァ、よく飲む人だO橋選手。
焼酎の注ぎ方が半端じゃないぜ。
そいつを生ビールみたいに
ガブガブいくもんだからついツラれる。
この御仁と飲むときはいつもこうなるんだ。

そうしてJ.C.のイチ推しレバニラ炒めを通した。
普段、ニラレバと呼んでいるが
メニューにレバニラと明記されているので
郷に従った次第なりけり。

その後も何か食べた記憶があるが
酔っ払っちまって覚えちゃいない。
気がつけばキンミヤ600ccが2本空いており、
その後も沢の鶴だったかな? 
熱燗に手を出した。

15時スタートであったが予約の際に
「3時間でお願いします」と釘を刺されており、
17時半にはお開きにした。
誰を連れてってもみんな歓ぶ「山三」である。

どこか歌の歌えるところか、
ホステスさんのいる店に行きたいってんで
谷中よみせ通りの行きつけ「G」へ。

ここで先日、京成本線・江戸川駅で
バッタリ会ったA美チャンに再会。
客が少ないもんだから
歌の順番がすぐ回って来ちゃう。
「酔っ払い、ヨッパライ!」と
からかわれながらも頑張ったのでした。
やれやれ。

「山三(やまさん)」
 東京都荒川区町屋2-4-10
 050-5571-7522

2024年2月7日水曜日

第3466話 朝子サンが愛したニラソバ

メトロ千代田線・根津駅のそばに
「BIKA」という中国料理店がある。
町中華ではなく、本格中華の部類に入る。
値付けもかなりお高い。
文京区・根津が最寄りながら地番は台東区・池之端。
J.C.行きつけの日本そば屋と洋食屋に同じくである。

「料理の鉄人」の審査員長をつとめた岸朝子サン。
彼女が「BIKA」をひいきにした。
それを知ったのはわりと最近。
とりわけニラソバを愛したという。
何度か利用しているがニラソバは未食。
出向いてみた。

黒ラベル生のグラスとともに通した。
12時半なのに先客は一人。
空いてるせいか3分で着卓した。
ふ~ん、なかなかの景観である。

細かく切り揃えたニラがどんぶりの一面に。
てっちりのポン酢に浮かぶ鴨頭ねぎに似ている。
中央には挽き肉主体の餡が鎮座ましましている。
中華風ボロネーゼだネ、コレはー。
アッサリした醤油スープに極細ストレート麺。
日本のにゅうめんみたいな味わいである。

ニラソバに思い出あり。
あれは半世紀以上も以前、新橋の雀荘だった。
学生時代のバイト先は芝のシティホテル。
仕事帰りにポン友と4人でタクシーに乗り込み、
「新橋の第一京浜ガード下までお願いします」
ほとんど決まり文句だった若き日々。

雀荘「楽々」は倒れそうなビルの2階にあり、
1階には当時としては珍しいアチラ系中華。
店名は忘れたけれど、名物がニラソバで
われわれは来るたびにすすっていた。
出来上がると中国人のアンちゃんが
「ニラソバ~!」ー叫びながら上がって来る。

思い出されるのはもう一つ。
勤務先はプリンスホテルのフラッグシップ、
東京プリンスだが此処は当世話題の裏金作り。
いわゆる政治資金パーティー発祥の地である。
半世紀以上も前からネ。
「〇〇君を励ます会」と銘打ったパーティーは
実質「〇〇君を太らす会」だったのだ。

それはそれとして「BIKA」のニラソバ。
そこそこ美味しいものの、
裏金の無い身に1430円は高いなァ。
土地柄を考慮しても適正価格は
900円じゃないでしょうかー。

「BIKA」
 東京都台東区池之端4-25-11
 03-3821-3347

2024年2月6日火曜日

第3465話 創業明治45年の町中華

最近、足繫く通う神保町シアター。
この日も小津安二郎を観に赴いた。
切符は当日売りのみだからまず購入し、
それから食事ということになる。
以前は毎週出入りしたエリアながら
ここ数年は足が遠のいていた。
それが映画のおかげで再びなじみの町となった。

ちょくちょく利用するのが「萬楽飯店」。
千代田通りの向こう側で地番は神田小川町。
前回、ラーメンでビールを飲んだから
今回は当店の一番人気、チャーハンに初挑戦。
ラーメンはほとんど注文が入らないが
チャーハンは客の半数がオーダーする。
そんなに旨いんかい?

店内には入れたものの、中で5人待ち。
10分待ってカウンターに座れた。
なぜかビールが飲みたくなくて(ビョーキかな?)
チャーハンだけ通す。
後客もその次もみなチャーハンと来たもんだ。

てっぺんに紅生姜をチョコンと乗せて登場。
ヤケに湿っぽいルックスである。
ちり蓮華で一匙口元に運ぶ。
ん? これは好みじゃないな。

シットリというよりネッチョリ。
J.C.はパラパラ系が好きなんだ
具はチャーシュー・玉子・長ねぎ。
過不足なく、そこはいいんだがネ。
清湯も化調がやや強く、好きになれなかった。

もともと明治45年に日本橋で創業し、
いつこちらに移転したのか存ぜぬが
現在四代目になるとのこと。
此処から400mほど北、
神田川に架かる昌平橋のたもとに
「味の萬楽」なる、やはり町中華があり、
20年以上前に一度だけ利用した。
あちらは当店主の実姉が営むそうだ。
そう聞くと、何だか懐かしくなってしまい、
今度行ってみようという気になった。

「萬楽飯店」の向かいに小さなビルがあり、
袖看板に神田中華料理組合の文字。
眺めていたら人の出入りが相当激しい。
それも中華料理屋の経営者らしからぬ、
サラリーマン風ばかり。

興味をそそられ、ビルの前まで行ってみたら
何のこたあない公衆喫煙所で
中華料理組合が管理していた。
みんな会社を抜け出して吸いに来るが
喫煙者ってまだまだ多いんですなァ。

「萬楽飯店」
 東京都千代田区神田小川町3-5-1
 03-3291-2552

2024年2月5日月曜日

第3464話 6年ぶりだぜ「三州屋」

本日も映画のあとで、めったに来ない六本木に。
まだ宵の口で店があまり開いていない中、
ミッドタウンそばの「三州屋」に入店。
J.C.みたいな呑み助にとって
通し営業はありがたい、感謝すべし。

銀座の「三州屋」は定期的に利用するが
六本木店は実に6年ぶり。
前回はW杯ロシア大会の真っ最中だった。

見覚えのある女将サンに黒ラベル大瓶をお願い。
サービスの突き出しはブリのアラの炒り煮と
針生姜をあしらった大根浅漬け。
こういうのもまたありがたい。 
♪ ありがたや ありがたや ♪
守屋浩が歌い出したが
浪花の小姑がうるさいので長くは歌わせない。

肉豆腐を通すと女将が
「よかったら玉子どうぞ」
卓上のどんぶりに数個の生玉子。
お昼に定食を食べる客へのサービスだろう。
でも、生玉の存在は単なる肉豆腐をすき焼きに
グレードアップしてくれ、これまたありがたい。

白鶴の熱燗に切り替える。
何かつまみをもう1品と壁の品書きとにらめっこ。
うなぎの蒲焼きに目が止まった。
しばらく食べてないな。

うなぎ屋以外でうなぎは経験がないが
「三州屋」は何を注文してもまず外さない。
よおし、いってみようじゃないかー。
はたして・・・。
良質な粉山椒のアシストもあって想像以上だ。
支払いは千円札3枚にコインのオツリが何個かきた。

六本木から都営大江戸線に乗る。
門仲か森下でもう1軒の腹積もり。
電車に揺られながら心当たりに思いを巡らせる。
そうだ、森下の「とり満」にしよう。

当店は2年余り以前、のみとも・B千チャンと訪れ、
期待以上の焼き鳥群に舌鼓を打った覚えがある。
まだ18時前で先客ゼロ、カウンターの中央に着いた。

ドライの大瓶にサービスの突き出しは枝豆。
「三州屋」も「とり満」も
しっかりしたつまみがフリー・オブ・チャージ。
愚にもつかぬお通しに500円もボッタくる、
チェーン居酒屋には猛省を促したい。

砂肝&ハツは塩、子みち&ねぎまにタレ。
子みちというのは牝鶏の玉子の通り道。
だけどもコイツが硬くてスカスカ。
他店のちょうちんに及ぶべくもない。

ちょいと不満が残り、2軒目ということもあって
早々に引き揚げたのでした。

「三州屋 六本木店」
 東京都港区六本木4-4-6
 03-3478-3796

「とり満」
 東京都江東区森下1-10-7
 03-3634-0141

2024年2月2日金曜日

第3463話 この空間に夜まで居たい (その2)

尾山台の「オー・ボン・ヴュー・タン」。
卓上のリストをおもむろに取った。
えっ、ええ~っ! こいつは驚いた。
ピノー・デ・シャラントがあるじゃないかー。

日本人でこの酒を知っている方はあまりいまい。
かく書くJ.C.も長いことお目にかかっていない。
最後に飲んだのはいつだっけ?
今世紀でないことは確かだ。
パリかなァ? いや、NY だったかもしれない。

ワインが未成熟なうちにコニャックを足し、
発酵を止めて甘味を残す手法を用いる、
酒精強化ワインである。
アルコール度数は17度が一般的で
欧州だと赤やロゼも流通するが
日本ではほとんど白になる。

クイッ! 懐かしい味が舌に拡がった。
色合いは白とロゼの中間、
いわゆるオレンジワインに近い。
グラスに顔を近づけたらアルコール分が
揮発するのか、目にしみるものがあった。

すぐに飲み干し、もう1杯いこう。
いや、こういうものはガブガブ飲むものではない。
カテゴリーはデザートワインだからネ。
再びリストに見入った。

せっかくこの空間に身を置いているのだ。
今日は、アラ・フランセーズでまいろう。
ペルノーをいってみようじゃないかー。
ちょいと待てヨ、オニイ(オジイ)さん。
リコリス(甘草)を加えたリカールがいいな。

それらはアニス香る酒、パスティス。
”偽物” や ”もどき” を意味する、
パスティーシュ由来の言葉で
製造禁止になったアブサンの代替品として生まれ、
パイやパスタも語源を同じくするらしい。

水割りを所望すると、
クラッシュド・アイス入りの水差しが運ばれた。
オー! これこそ「オー・ボン」の魅力だ。
こんな供し方は銀座のバーでもしやしない。
しかも酒の値段は銀座の3分の1と来たもんだ。

尾山台にプチ・パリがあった。
この空間に夜まで残ってグラスを傾けたい。
もっとも夕方には閉店しちゃうんだけどネ。
それでも
Je suis heureux(わたしはシアワセ)でした。

なんだかビールが飲みたくなり、
前回同様、牛めし屋に立ち寄り、
中瓶を空けて帰宅の途に着いたのでした。

「オー・ボン・ヴュー・タン」
 東京都世田谷区等々力2-1-3
 03-3703-8428

2024年2月1日木曜日

第3462話 この空間に夜まで居たい (その1)

東急目黒線を多摩川駅で乗り換えて
下丸子辺りに行こうとも思ったが
それでは大田区に戻ることになるし、
下丸子の隣りの武蔵新田では
去年の夏の終わりに飲んだ。

そうだ、あのときは大岡山から乗った電車が
てっきり目黒線かと思いきや、大井町線の間違い。
それでもいいや、ええいままよと、
尾山台の「オー・ボン・ヴュー・タン」に
来てみたらあいにくの定休日。
J.C.御用達の牛めし屋にシケ込んで中瓶を飲み、
あらためて武蔵新田に向かったのだった。

よお~し、夏の仇を冬に取ったろうやないかい。
尾山台駅前のハッピーロード商店街、
そのなだらかな坂を上って行った。
ん? ちょっと待てヨ、ハッピーロードといったら
東武東上線は大山駅前のアーケードじゃないかー。

かたや板橋区の庶民の町。
こなた世田谷区のハイソな町。
雰囲気がガラリと変わって
まっ、こういうのも東京らしくていいかもネ。

この日、「オー・ボン」は営業していました。
しかもいつもは立て込んでいるのに
今日の客は少なく穏やかな空気が流れている。
奥のカフェでさっそく1杯といきたいところながら
フレンチ総菜が売切れちまっては元も子もない。

まずはショウ・ウインドウの品定め。
おっと、好物のピエ・ド・コション(仔豚の足)は
最後の1個と来たもんだ。
言わんこっちゃないねェ。

買い求めたのはその豚足のガレット仕立てに
ニョッキ・パリゴーとタブレ(クスクスのサラダ)。
そして、ステーク・デ・シーヌ・ド・ポール。
パリゴーはニョッキを詰めたシュー生地に
フロマージュとベシャメルがテンコ盛り。
オーヴンで焼き温めて食べる。
長ったらしい名前は豚肩ロースの生肉だ。
こちらはガーリック・ステーキにする。

こんなに仕入れりゃ今宵は万全。
てェことは夜の外飲みはナシ。
カフェで軽く飲ったらゴー・ホーム一直線だネ。
グラスを傾けている間、
ご馳走たちは冷蔵保存しておいてもらう。

おや、コロ助の後からかな?
カウンターは使われなくなった様子。
席はみなテーブルになっている。
窓際の2人掛け、窓に背を向けて腰掛けた。

ランチは窓の彼方に洗足池が見えたが
今は環八通りの殺風景な景色。
繊細な神経の持ち主はケース・バイ・ケース。
窓を向いたり、背を向けたり、
ちゃあんと使い分けていますってー。

=つづく=