2022年10月31日月曜日

第3135話 冷え込めば 熱い豆腐が 欲しくなる

北池袋を後にして池袋に向かい、歩き始めたら
先日、青山学院のチャペルで聴いた、
ぺギー葉山がまた歌い出すじゃないかー。

♪   南国土佐を後にして
  都へ来てから 幾歳(とせ)ぞ
  思い出します 故郷の友が
  門出に歌った よさこい節を
  土佐の高知の 播磨屋橋で
  坊さんかんざし 買うをみた  ♪
   (作詞:武政英策)

「南国土佐を後にして」は1959年4月の発売。
ほどなく日本中をこの歌詞とメロディーが
席巻することとなり、同年の日活同名映画では
小林旭&浅丘ルリ子が主役を演じた。
北原三枝がまだ現役で
裕次郎とコンビを組む前の若きルリ子が愛くるしい。

歌が古過ぎてよう判らん。
おっつけ大阪の小姑から
また苦情メールが舞い込むこと必至なり。

池袋西口のロサ会館辺りを物色するも
14時ではこれといった飲み屋は見つからず。
ここでこの春、立ち寄った「三福」を思い出す。
カウンターと背後の壁の間が狭いため、
お運びのアチラ系娘たちに
背中をツンツンやられた焼きとん屋だ。

あすこなら、もう開いてるハズ。
直行すると五分の入りで入口から三番目に着いた。
ドライ大瓶にカシラを塩、レバーをタレで1本づつ。
鉄串に打たれたモツは相変わらず大ぶりだ。
J.C.は箸で串から肉を外すのが常。
左手で串を持ったら、郷ひろみじゃないが
アチチ、アチチ! そりゃそうだヨ、鉄だもんな。

黒ビール小瓶に切り替え、煮込みの豆腐のみをー。
冷え込んでくると熱い豆腐が欲しくなる。
若い頃は豆腐なんか見向きもしなかったがネ。
煮込みは昭和31年創業、当店の名代である。
品書き上も特別扱い。

=伝統の煮込み=
もつ煮込み 480円
 創業以来変わらぬ味 塩ベースのもつ煮込み
みそ煮込み 480円
 野菜がたっぷり
なか豆腐 350円
 もつなしのお豆腐だけ

熱々のなか豆腐はまことにけっこう。
きざみ葱の浮かぶつゆまで飲み干した。
腸壁に脂を蓄えたシロコロホルモンが
2片ほど混じっており、これもうれしい。

お勘定は千円札2枚でオツリが十円玉1個。
今日は背中ツンツンもさほどでなく、
快適な昼飲みとなった。

目の前の東武デパートで
マトウ鯛の開きを1枚買って帰った。
仏料理の高級食材、サン・ピエールでありまする。

「三福」
 東京都豊島区西池袋1-27-1
 03-3971-1773

2022年10月28日金曜日

第3134話 初めて飲んだ北池袋

ついこの間、上板橋まで乗った東武東上線に再び。
此度は始発の池袋から一つ目、北池袋下車。
目当ての店があったわけじゃない。
とにかくこの駅前で飲み食いしたことがないため、
初顔合わせを楽しむ算段だった。

大池袋を特大ロースカツに例えれば、
小北池袋はその脇の繊切りキャベツみたいな存在。
いや、いや、そのまた脇のパセリかもしれない。
誰しも素通りしてしまい、途中下車などしやしない。

短い商店街を往ったり来たり。
開いていたのは
そば屋、中華、カフェ、喫茶店の4軒。 
となれば、そば屋か中華に絞られる。

失礼ながら、そば屋はやけに変ちくりん。
craft soba を自ら謳い、屋号は「Choujyuan」。
「長寿庵」なんだろうが、また何で?
チコちゃんじゃないけど、何で?

チャーシューつけそばだの、スパム天丼だの、
思わず勘弁しておくれヨ、
声を上げたくなるモンばっかり。
奇をてらったとしか思えんな。
いや、正気の沙汰じゃないぜ。

消去法で中華「徳栄」に入店。
小皿料理の並ぶアチラ系は得意としないが
ぜいたくなど言ってられやしない。
とにもかくにも北池で飲むことに
この町に身を置くことに意義があるのだ。

ビールは瓶がキリンラガー、生は一番搾り。
中ジョッキをお願いすると、
ザーサイ&干し大根の油炒めがサービスのお通し。
こいつがなかなかイケた。
日暮里駅前の行きつけ中華は毎度ザーサイが
ビールの友だが北池は日暮里を凌駕した。

大陸系と思しきオバさんが接客。
その旦那だろう、厨房にオジさん。
14時近くになっても
近隣のリーマン&OLがあとを絶たない。
人気店なんだネ、ってゆうかァ、
ほかに選択肢がないもんなァ。

330円均一の小皿から腸詰を選択。
ときどきお世話になる腸詰は
美味少量の極みにして救いの神でもある。
山椒は小粒でピリリと辛いが
腸詰は少量でピリリと旨い。

生中をお替りし、会計は1310円也。
何だか悪いみたいだがオバさんの笑顔が
「そんなことないよぉ~」ー
そう言ってる気がした。

「徳栄」
 東京都豊島区池袋本町4-2-1
 03-3982-4591

2022年10月27日木曜日

第3133話 おでんと楽しむ うまソーダ

生モノをぶら下げてることだし、
何処ぞで軽く飲って早めに帰ろう。
東上線で池袋に戻るのも何だしなァ・・・。
駅前発のバスは王子行きのみ。
乗るしかないネ。

揺られながら思いをめぐらせる。
アイデアは二通り。
大和町で降りて旧中山道の仲宿辺り。
終点の王子まで完走。
結局、時間つぶしの意味合いもあって
終点の五つ手前、北区神谷町で降りた。

この春、来たときに忽然と姿を消していた、
王子のランドマーク「山田屋」の様子を見に行く。
再建とのことだったが骨組みくらい出来たかな?
あいや、まったくの手つかずじゃないかー。

近くの「宝泉」に5年ぶりで出向くと完全に満席。
17時開店の17時20分じゃ、空きそうもないや。
それではと、これも近くの「一福」へ10年ぶりでー。
カウンターに先客一人、余裕で止まり木に止まった。
切盛りは女将さん独り、以前の店主が見えない。

ドライの大瓶とレバーをタレで2本。
此処の焼きとんは2本しばりだから
単身客はあれこれ手を出せない。
ちょいと焼き過ぎで口中モゴモゴしたが
年期の入ったタレは秀の逸。
一朝一夕には出せない奥行きの深さがあった。

壁の貼り紙に”うまソーダ”あり。
スコッチのホワイトホースのハイボールで
白馬のソーダ割りだから”うまソーダ”。
あまりウイスキーを飲まないけど、お願いする。
ホワイトホースは44年ぶりだ。

あれは1978年夏の岐阜県・高山。
ホテルの名前は忘れたが階上のバーラウンジで
ホワイトホースのプレミアム・ヴァージョン、
ローガンのロックを飲んだ記憶がある。
想い出をたぐり寄せながら飲む酒は胸に沁み入る。

つまみの追加。
金目鯛の煮付けもあったが
どんなのが出て来るのか想像及ばず、
無難に目の前で煮えているおでんをー。

好物のツミレなく、スジも不在。
ちなみにJ.C.の好みは牛スジではなく、
サカナの練り物のほうである。

無いものねだりはよくない。
ハンペンとゴボ巻きを所望し、
お替りした”うまソーダ”と楽しむ。
お勘定は2千円とちょっと。

王子でJR京浜東北線に乗り、日暮里下車。
すっかり日の暮れた里のランドマーク、
夕焼けだんだんを下ってゆきました。

「一福」
 東京都北区王子1-15-4
 03-3911-9217

2022年10月26日水曜日

第3132話 遠征は石橋をたたくべし (その2)

家を出てから2時間近く。
未だ飲まず食わずの三度笠。
食わずは我慢できても飲まずはツラい。
今日はうっかりして
1球空振ったあとの2球目を用意し忘れた。

上板橋北口ロータリーにやって来た。
駅前の飲食店は
アイドルタイムも休憩しない店が多い。
立地的に家賃が高いし、人の流れも絶えないから
稼ぐに越したことはないんだ。

ロータリーに面して「大番 上板橋店」があった。
ドライの中瓶だってんで、即カウンターに止まる。
ようやく一息ついてプッファー!
上板橋駅前なのに此処の地番は常盤台である。

餃子でも何でもいいやと思いつつ、
つまみボードを見上げたら
 チャーシューと豚角煮が目にとまった。
この二者択一かな?

壁に当店の一番人気は角煮定食とある。
じゃあ、角煮にしてみよう。
いや、ちょいと待て!
ミニ角煮丼というのがあるゾ。
しかもつまみ皿よりミニ丼が安い。
ということは量が少ないハズ。
ミニ丼をさらにごはん少なめで発注。

届いたドンブリにはコロッとした角煮が4個。
味玉が丸1つに紅しょうが。
中瓶2本にじゅうぶんなアテとなってくれた。
愛想の好い女性スタッフによると
「大番」は区内に何軒か姉妹店があったものの、
現在は独立採算制に移行したという。

晩酌タイムにはまだ間があるため、
線路の反対側、南口界隈をぶ~らぶら。
よさげな鮮魚店に入ってみた。
板橋区とは思えぬ品揃えである。
多彩な刺身はノドグロやカマスまであった。

生モノを引っ下げて飲み歩くのはイヤだけど、
ガマンし切れず小肌の酢〆、
三枚おろしのシマアジの片身を購入。

当夜はシマアジ片身のそのまた半分を刺身でー。
翌日は残りをムニエルにし、小肌の酢〆。
いずれも花マルと来て
上板橋の住人はシアワセぞなもし。

「大番 上板橋店」
 東京都板橋区常盤台4-32-3
 03-3932-5088

「魚屋 成吉」
 板橋区上板橋2-2-23
 03-5399-5233

2022年10月25日火曜日

第3131話 遠征は石橋をたたくべし (その1)

東武東上線を降りたのは上板橋。
沿線の中板橋&成増には長く棲んだのに
ほとんど来ることがなかった。
しかもJ.C.は上板橋一中の卒業生なのだ。
もっとも上一中は中板橋とときわ台の間にあるガニ、
もとい、あるガネ、カニグセがまだ治らない。
カンニンどっせ。

狙いを定めたのは「COPAIN MONTMARTRE」。
すぐそばの「メゾン・モンマルトル」の姉妹店で
パンやケーキを販売するが
「C.M」はイートインも可能。
ネットで見た、立て看板に惹かれての訪れなのだ。

暑い日におすすめ
トルティーヤ&タコス 各324円
ビールと相性抜群

こんなこと書かれちゃ、遠征もやむなし。
ところがこれがつまずきの元だった。
入店して
「ビールとタコスをいただきたきますが
 ビールの銘柄は?」
すると女性スタッフがキョトン。
「ビールはありません、コーヒーでしたら・・・」

それはないぜ、セニョリータ!
言葉のやりとりをして判明したことに
彼女が働き始めたとき、
すでにビールは風と共に去りぬ、だった。
「出直します」ー言い置いて失意と共に去りぬ。

近隣を物色。
こうなりゃ食いもんはどうでもいいや、
という気になっていた。
同じ一画に「長寿庵」なる、
どこにでもありそうな屋号の日本そば屋。
暖簾をくぐり、着席する直前。
ビールケースをのぞくとエビスの瓶が林立。

出て来た店主に
「ビールはエビスだけですか?」
「ええ、そうです」
「ごめんなさい、苦手なもんで・・・」

次に見つけたのは「七兵衛」。
居酒屋みたいな名前だが
どうやらアチラ系中華のようだ。
ビールのポスターはキリン一番搾り。

これなら何とかなるだろうと
ノドをなだめすかしてステップ・インを試みるも
店頭に山と積まれた持ち帰り用のプラパック。
餃子・焼売・麻婆豆腐・炒飯・焼きそば etc・・・。
気勢をそがれてまたもや退散の巻でした。

=つづく=

2022年10月24日月曜日

第3130話 メンチボールをご存じ? (その3)

続いての2軒目は
台東区・根岸、金杉通りの「ふじ」。
なぜか当店も洋食・中華の二刀流なのだ。
これを単なる偶然とは思えぬ自分がいた。

そしてこちらもメンボーとハンバの二段構え。
当然、店主にシッツモ~ン!
店主応えてメンチボールは
丸っこくずんぐりでソースはデミグラス
ハンバーグはやや平たい楕円形の醤油味。

ハンバは未食ながら
メンボーは二度食べた。
粗い合い挽きに、これも粗みじんの
玉ねぎが「グッド・バイブレーション」。

ここでビーチ・ボーイズが歌い出したが
英語の綴りがメンドくさいのでスルーする。
ただし、この曲が彼らの
マイ・ベストであることだけは明記しておきたい。

一度目は五月の連休中に
メンボー単品とドライの中ジョッキ。
添え物は繊切キャベツとケチャスパ。
好かったネ。

二度目はついこのあいだ。
定食仕立ての半ライスに
同じく中ジョッキををお願い。
すると前回は付かなかったお通しがー。
それもこんにゃく炒め煮のデカいのが4個も。
よくよく考えると、これはお通しじゃなくって
定食の小鉢だったのかも?

メンボーには前回と同様の脇役。
ほかに大豆入りひじき煮、清湯(ラ-メンスープ)、
ぬか漬けがきゅうり、大根浅漬け&古漬け。
苦手な古漬けには箸を付けなかった。

当店も中華をこなすのでラーメンをいってみた。
ややちぢれ麺は細くも太くもない。
具材はもも肉チャーシューに
シナチク・ナルト・ほうれん草。

スープは「深川煉瓦亭」にも似た、
昭和の中華そば風ながら、
コク味はこちらのほうが深い。
これならこってり系を好む若者の許容範囲だろう。
でも、量がさほどでないからやはりダメかー。
とかくこの世はままならず。

「ふじ」
 東京都台東区根岸4-1-26
 03-3872-4998

2022年10月21日金曜日

第3129話 メンチボールをご存じ? (その2)

てなこって、懐かしのメンチボール。
J.C.の知る限り、
この料理を供する店は都内に2軒のみ。
江東区・森下の「深川煉瓦亭」と
台東区・根岸の「ふじ」である。
順次、紹介していこう。

最初に「深川煉瓦亭」。
森下の交差点と新大橋の間に位置する。
森下は下町・深川の北端に当たる。

当店は銀座の老舗、「煉瓦亭」の暖簾分け。
しかし本家にメンチボールは無い。
メニューにハンバーグもあるので違いを訊ねると
何のことはない、メンボーは煮込みハンバーグ。

好みではないが食べてみた。
なるほど焼く代わりに煮込んだハンバーグだ。
デミグラスがちょいとゆるめにつき、
卓上のソースで補う。

ウスターと中濃の間という感じで中濃に近い。
こういうのは市販されていないから
自家製ブレンドかな? 
だけど、これがいいんだっ中農!

添え物は繊切りキャベツ、レタス2枚、
カレー味のスパゲッティ。
カップのスープは中華味。
炒飯に付く清湯みたいなタイプだ。

そう、深川の「煉瓦亭」は
本家がやらない中華メニューもこなす。
創業者はいったい何処で覚えたんだろう。
ただし、麺類のみの扱い。
=中華の部=ではなく、=ソバの部=とあった。
日本そばはないけどネ。

ものは試しとラーメンも食べた。
固ゆでの中細ちぢれ麺。
もも肉チャーシューが旨い。
シナチク、ナルト、わかめに、ケレン味なきスープ。
アッサリに過ぎて若者にはダメだろう。
「二郎」ファンなど、怒り出すんじゃないかー。

中華飯類はやらないので炒飯がない。
その代わり、というんじゃあるまいけれど、
カレーライスやオムライスと並んで
今や絶滅危惧種のヤキメシがあった。

客の動向を見ていたら
洋食全般と中華ソバがほぼ半々。
オオタニさんじゃないが
二刀流が功を奏しているようだ。
ちなみにメンチボールは単品で900円。
ラーメンは700円也。

=つづく=

「深川煉瓦亭」
 東京都江東区新大橋2-7-4
 03-3631-7900

2022年10月20日木曜日

第3128話 メンチボールをご存じ? (その1)

読者の方々はメンチボールをご存じだろうか?
聞いたことがあるような、ないような・・・。
たぶんそんな感じでありましょう。

最近、耳にしないので念のため、ネットで調べてみた。
あった、あった、レシピがありました。
挽き肉・玉ねぎ・パン粉をまんまるに丸め、
片栗粉をはたき、パン粉を付けて揚げたもの。
言わば丸いメンチカツだった。

ありそうな料理だが食べたことはない。
J.C.が記憶するのはまったくの別物。
ミートボールの一種で中華の肉団子に似ていた。
幼少期を過ごした長野市・横澤町の精肉店では
ごく普通に売られていたのだ。

このメンチボール。
漱石の「吾輩は猫である」に
メンチボーとして登場する。
当時の西洋料理店のメニューに載っており。
明治時代はこう呼ばれていたようだ。
実際の料理は店によってバラつきがあり、
肉団子だったり、ハンバーグだったり。

忘れもしない1958年3月。
御茶ノ水、代々木上原、中板橋と、
バラバラに暮らしていた家族4人が
ようやく一つ屋根の下で
枕を並べて眠ることができるようになった。

引っ越し先は大田区・大森。
最寄り駅は学校裏(現・平和島)だ。
その引っ越し当日、母親に連れられて
夕飯の買い物に寄った精肉店でのやりとり。

「メンチボールはございませんの?」と母親。
「メンチボール? そりゃあ奥さん、
 メンチカツのことだネ」と肉屋のオヤジ。
「いいえ、違うんですのヨ」
母親が買いたかったのは漱石のメンチボーだった。
ここまで覚えてるが、そのあと何を買ったのか
その晩何を食べたのか、記憶がない。

なぜ、時期だけ覚えているのかというと、
これには確固たる理由がある。
実はJ.C.、小学校入学直前の身体検査を
文京区立根津小学校で受けた。

ところが入学したのは大田区立大森第五小学校。
4月上旬の可能性は捨て切れなくとも
おおかた3月だったであろうと推測されるのだ。

何があったのか、子どもの知るところではないが
根津も大森も父親の学友ゆかりの土地。
困窮する一家にオジさんたちが
救いの手を差し伸べてくれたに違いないのだ。

=つづく=

2022年10月19日水曜日

第2127話 ソープ街でリラックス

本日はソープ街・吉原に出没。
いえ、泡にまみれるんじゃなくて泡を飲むために。
おっと、ビールは泡ナシ派でありました。

見返り柳を見返りもせず、
メインストリートの仲之町通りを往く。
ソープランドの数がずいぶん減った気がする。

京町通りへ左折してしばらく、
花園通りにぶつかる手前をまた左、
信楽焼のたぬきに迎えられ、
日本そば屋「梅月」の引き戸を引いた。
十数年ぶりである。

さっそくドライの中瓶を発注すると
めかぶとろろ(お通しは200円)がサーヴされた。
当店の天ぷら単品がうれしく択んだのは
キス(250円)・インゲン・玉ねぎ(各100円)
それぞれに丁寧な揚げ上がり。
粗塩・生醤油・天つゆを駆使して楽しむ。
ヨソのそば屋にぜひ見倣ってほしいアイデアだ。

前回も独り昼酒だったが
たまたま隣りに着卓したのが
明らかに夜勤明けのソープ嬢。
常連らしく店のオバちゃんに
「天ざるぅ~!」ー元気に発声した。

ひとしきりすると同僚らしきコが現れ、
「アンタ、何食べてんの?」
「天ざるだヨ」
「オバさん、アタシも天ざるぅ~!」ー
負けず劣らずの元気ジルシだ。

よほど声を掛けようと思ったが
親しくなった挙句、
「今度、指名してネ」
なんてことになったら出費がかさむ。
まっ、もともと風俗には興味がないしネ。

今日は彼女たちの姿なく、
パラパラやって来るのはオトコばかり。
ビールをもう1本もらい、そろそろ締めよう。
二つに切られた玉ねぎ天の片割れを残してあるので
シンプルなかけそばにする。
以前はそば屋に来ると、もり系一辺倒だったが
ここ数年はかけ系にも食指を動かすようになった。

かけなら普通、薬味の葱だけだが
ピンクの縁取りのかまぼこ1枚、
その上に大きめの柚子皮が1片。
こんなところに店の品格がにじみ出る。
そして白い部分のみのさらし葱が
他店の倍はある。

はたして・・・中太のそばは上々。
つゆも好きなタイプで文句なし。
昼下がりのソープ街で心身ともにリラックス。
吉原の観音さまは拝まずに
浅草寺の観音裏を散策し、家路に着きました。

「梅月」
 東京都台東区千束4-27-12
 03-3872-7588

2022年10月18日火曜日

第2126話 目黒に居ながらサン・セバスティアン

青学をあとにして宮益坂を下り、
渋谷東口のバスタに来た。
大井町行きがヘアサロンのある、
かむろ坂下に停まってくれるのだ。

例によって隣りのスーパーに立ち寄ると
見たことのない真っ赤なロング缶あり。
黒ラベルのエクストラ・ドライだった。
髪を切ってもらいながら試飲に及ぶ。
いや、ホントにドライ、スーパードライ以上だネ。

今宵は目黒駅前の権之助坂で飲むつもり。
飲食店が軒を連ねているから、
気に染まるところが必ず見つかるハズだ。

「ぴんちょ」の前を通りすがる。
このスペイン・バルは4年前の今頃、
のみとも・Fチャンと一度利用した。
店名の「ぴんちょ」は
タパスの串刺し、ピンチョスから。

M子のおもかげを抱き寄せつつ、
スペインつながりで入店。
開店直後の17時過ぎとあって先客はナシ。
オープンキッチン・カウンターに落ち着いた、

ビールは生も瓶も苦手な銘柄のみ。
回避してスペインのカヴァ、マレステを。
当店はスペインの美食の都、ビスケー湾を臨む、
サン・セバスティアンのバルを模している。

1971年春。
J.C.は都のちょい手前、イルンの町に立ち寄った。
ただ、当時はサン・セバの知識が無く訪れず。
いや、あったとしても
8dollars a day の旅人に美食は高根の花。
いにしえの元カノ・M子に遭遇する二日前のことだ。

タパスは最初にウニとうふ、豆腐は使われていない。
冷たいウニのムースをコンソメ・ジュレが覆い、
その上に生ウニがチョコン、実に美味しい。
白に切り替え、ピエモンテのガヴィを。
コルテーゼは大好きなセパージュで
シャルドネ以上かもしれない。

ボケロネス(イワシの酢漬け)を追加した。
本場のカタクチイワシと異なる真イワシが残念だが
鮮度、〆具合ともに良し。
イワシをかたどった青いガラス皿にも惹かれた。

帰りしな、女性スタッフに訊ねた。
「ボケロネスのお皿は日本製?」
「ハイ、そうなんです、かっぱ橋で買いました。
 可愛いですよネ」
「うん、可愛いな、キミほどじゃないけど」
「エッ、マァ、そんな・・・」

帰宅後、ニュースを観ようとTVをつけた。
すると、いきなり平野レミさんが現れた。
TV朝日の「家事ヤロウ」という番組で
ほとんど彼女のワンマン・ショー。
さっきの今に驚きはしたけれど。
これは単なる偶然と思える自分がいました。

前話で1971年7月とあったのは
1972年7月の誤りでした。
さもないときっかり50年前になりませんものネ。
失礼しました。

「ぴんちょ」
 東京都目黒区目黒1-6-13
 050-5593-5412

2022年10月17日月曜日

第2125話 半世紀ぶりのキャンパス

かにチャーハンを宿して
ふくらんだお腹を抱え、南青山をぶ~らぶら。
ふと思い立ち、近所の青山学院大学に向かう。

キャンパスに足を踏み入れるのは二度目だ。
前回は1972年7月、きっかり50年前のこと。
実は学生時代のGF・M子が
当院の学生で二つ年上だった。

彼女との出逢いはその前年の春。
スペインの首都・マドリッドのアトーチャ駅だ。
トレド行きの列車内で
たまたま向かい合わせに座った。
旅は道連れ、トレドの街を一緒に歩いたのが始まり。

訊けば、青学からサラマンカ大に留学中とのこと。
驚いたのは同じ長野県人で篠ノ井の出身。
高校が長野西高と来たもんだ。
J.C.の生家は西高前の坂を下り切ったところ。
善光寺の裏横にあたる。

そして西高は母親の母校、M子は後輩なのだ。
J.C.自身も付属幼稚園に通ったから
そのまた後輩と言えなくもない。

翌年、彼女と再会したのが青学の学食。
お茶を飲み、近くで晩めしを食べたはずだが
店の記憶が抜け落ちている。
たぶん、骨董通りだったような・・・。

あれから50年。
正門を入ってすぐ左手の学食に行ってみると
ブックストアになっており、食堂はその地下。
ずいぶん変わってしまい、懐かしくも何ともない。

せっかくだから世に知られた礼拝堂(チャペル)へ。
ほうら、ペギー葉山が歌い始める。

♪   つたのからまるチャペルで 祈りを捧げた日
  夢多かりしあの頃の 想い出をたどれば
  なつかしい友の顔が 一人一人浮かぶ
  思いカバンをかかえて かよったあの道
  秋の日の図書館の ノートとインクのにおい
  枯葉の散る窓辺 学生時代   ♪
    (作詞:平岡精二)

平岡は青学の出身者。
’64年発表の「学生時代」の舞台は当大学である。

広い堂内に先客は白い服をまとった女性一人。
遠くて暗くてよく見えないが学生ではないようだ。
礼拝もせず、トイレだけ借りてきた。
この罰当たりがっ!

学生たちがあふれる広場でチャペルを振り返る。
歌詞にあった、”つた” の ”つ” の字もない。
"つた"なんかちっともからんでないじゃんよぉ。
チャペルにからんだのはJ.C.でした。
この罰当たりめ!

2022年10月14日金曜日

第2124話 誠&レミ夫妻の御用達

この日は理髪日、その前にランチ。
目指したのは表参道にほど近い、
南青山は骨董通りの「ふーみん」。
中華風家庭料理の店は
和田誠・平野レミ夫妻が愛した店だった。

実はJ.C.、10年あまり前、
友人の紹介でご夫妻にお会いしたことがある。
お二人と友人が懇意にしていた、
島田歌穂さんが出演したジャズクラブだったと思う。

そのとき、レミさんに
自著をお贈りする約束をし、実行したら
こちらが恐縮するくらいに丁重な礼状をいただいた。
やはりキッチンを取り仕切る方は何事にも
キチンとしてるなァ、感銘を受けたことでした。

ご夫妻の推奨もあってか、
「ふーみん」はエリアの超人気店。
行く機会に恵まれず、未訪のままだったが
ようやく今年の初め、出向いてみたら長蛇の列。
怖気づいて断念、それ以来の挑戦なのだ。

ところがギッチョン、本日も25人待ち。
だが、ここであきらめたら永遠に来れない。
13時01分の到着で、席に案内されたのは25分後。
しかも名代の豚肉と梅干煮は売切れと来たもんだ。

日替わりは牛肉すき焼き・温玉乗せ定食。
あとは焼豚と葱の辛味麺。
ともに気に染まず、結局は薬局、
アラカルトのかにチャーハンに落ち着いたんだガニ。

ザーサイの鉢がサーヴされ、
黒ラベル中瓶を飲むことホンの5分。
こんもり山のチャーハンが平皿でド~ン!
ジーザス! 他店の1.5倍は軽くある。

たっぷりのズワイガニに焼豚、青小葱、玉子。
美味しいので頑張ったが4分の1を残した。
エラいのは清湯の代わりのワタリガニ味噌椀。
かにチャーハンに限らず、
すべてのご飯ものに付くとのことだ。

客の男女比は3:7。
物議を醸した森元首相じゃないが
男より長っ尻の女性が多いわりに回転は速い。
杏仁豆腐みたいに余計なモノを出さないからかな。

会計時、店主に訊ねた。
「豚肉と梅干し煮は1時過ぎたらもうダメ?」
「毎日10キロ仕込んでますが早いと12時半です。
 争奪戦みたいになっちゃいまして」
ダメだこりゃ。
いつになったら食べられるものやら・・・。
レミさんも罪な人よのぉ。

「ふーみん」
 東京都港区南青山5-7-17
 03-3498-4466 。 

2022年10月13日木曜日

第3123話 靖国神社の玉子丼 (その2)

靖国神社境内の「八千代食堂」。
英霊には申し訳ないが、いつものように
ドライの中瓶を飲みながら待つこと10分。
整った膳にはキラキラ輝く玉子丼に
箸休め程度のつぼ漬けたくあんと
小さなわかめ味噌椀が寄り添っていた。

いきなり玉子丼に箸をつける。
うむ、む、む、む、む・・・
うまぁ~い! 相当にうまい。
This is お世辞抜きでありまする。

トロトロにとじられた玉子は白身の透明感を残し、
追いがつおならぬ、追い白身の功績だろう。
玉ねぎの切り方、火の通し方、
ごはんの炊き上がり、いずれも申し分ナシ。

甘みは砂糖と味醂のW甘味。
とても好い塩梅だ。
どんぶりモノのつゆだくは好まぬが
玉子丼、親子丼の場合は致し方ナシ。
そこを差し引いてもうまい。

生涯ベストの玉子丼であった。
もっとも3回ほどしか食べてないけどネ。
とにかくトメさんの玉子丼は超オススメ。
大空に花と散る前にこのドンブリを食べて
飛び立った若鷲に思いを馳せれば
ありがたみが加味され、余計にうまい。

会計は1750円也。
桜の名所、千鳥ヶ淵に出て
右手に国葬が執り行われた武道館を見ながら
九段坂公園を下りてゆく。

明治以前、坂には九段の段差が設けられており、
これがそのまま名称となった九段坂。
明治以降は段差が取り払われ、
坂となったが、あまりに急勾配で
荷車がたやすく登れるものではなかった。

坂下にはそれを手助けして
いくばくかの報酬を得る、
”立ちん坊”が待機していたという。
勾配がゆるやかになったのは震災後のことである。

菜の花の名所、牛ヶ淵に下りたとき、
いきなり異臭に襲われた。
この辺はいちょう並木で落下した銀杏が
歩行者に踏みつぶされていた。
図らずもここで一句。

銀杏の狼藉(ろうぜき)踏みし九段坂

それにしてもおっ母さんと千代子の母娘は
九段下までどうやって来たのだろう。
JRの飯田橋からはかなり歩くし、
市ヶ谷からでは逆方向で九段坂を上れない。
東京駅から都電だろうネ。

♪   あれが あれが 九段坂
  逢ったら泣くでしょ にいさんも ♪

「靖国八千代食堂」
 東京都千代田区九段北2-1-4
 03-6256-8225

2022年10月12日水曜日

第3122話 靖国神社の玉子丼 (その1)

都営新宿線を市ヶ谷で降りた。
靖国通りのゆるやかな坂を上ってゆく。
一礼はしたが参拝はせず、拝殿に背を向けた。
このとき、心に流れ来るのは島倉千代子の歌声だ。

♪   やさしかった 兄さんが
  田舎の話を 聞きたいと
  桜の下で さぞかし待つだろ
  おっ母さん
  あれが あれが 九段坂
  逢ったら泣くでしょ 兄さんも ♪
   (作詞:野村俊夫)

「東京だョおっ母さん」は1957年3月のリリース。
夢破れて故郷を追われたJ.C.一家4人が
東京に出て来た頃である。
亡父は母子3人に
「東京だョ皆の衆」とは言わなかったがネ。

’55年のデビュー曲、
「この世の花」に次ぐ大ヒットとなったが
不可解なことに紅白で歌われたことは一度もない。
35回も出場しているのにだ。

NHKの作為がひしひしと伝わってくる。
おそらく二重橋(皇居)、九段坂(靖国神社)が
歌詞にあるので皇室と戦没者に配慮したためだろう。

それはそれとして
この日ののランチは靖国神社境内の「八千代食堂」。
当店は玉子丼&会津そばをウリとしている。
両者を組み合わせたセットもあるけど
そんなには食べられない、よって玉子丼をー。

日頃、かつ丼はよく食べる。
もっともアタマだけをつまみとするケースが多い。
親子丼はめったに注文しない。
玉子丼ときたひにゃ、
生涯3度目くらいじゃなかろうかー。

これには理由があった。
「八千代食堂」の玉子丼にはルーツがあり、
特攻の母 鳥濱トメの 親子丼
がソレ。

鹿児島県・知覧特攻基地の軍指定食堂でもあった、
「富田食堂」を開いたトメさん。
特攻隊員に母と慕われた彼女の味が
今に引き継がれているのだ。
トメさんの曾孫にあたる方が手造りする、
割り下を週2回取り寄せる由。
店のHPにはこうあった。

私ども靖國八千代食堂は
「かつて戦塵に散った英霊の想いや、
 国に殉じた方々、また彼らを送り出し、
 支えた人々の愛を伝える場所」
コンセプトの食堂です。

聞いたからには食べたくなるのも人情。
自分は謹んでありがたく、いただきます。

=つづく=

2022年10月11日火曜日

第3121話 「すみません」と「ありがとう」(その2)

池之端(最寄りは根津駅)のそば店のつづき。
当店の接客担当は
バイトの女の子一人と
店主の調理を補佐しながら
彼女のアシストもこなす女将さん。

ちょいと店内の実況中継をしてみましょう。
「もつ煮込み、お待たせしました」と女の子。
「ハイ、ありがとう」とJ.C.。

「たぬきそば、お待ちどうさま」と女将さん。
「あっ、すみません」とJ.C.。
早い話が女将さんに向かって
「ありがとう」とは言えないんだ。
これは差別じゃなくて区別ですネ。

女将さんへの「すみません」は
もちろん Thank you の意。
ビールのグラスを
ひっくり返したときの「すみません」は Sorry 。
「そば湯お持ちしましょうか?」
対しての「すみません」は Please だ。
「すみません」はとてつもなくく便利。

英会話における3つの重要語に続く、
4番目は何でしょう?
ここは Excuse me でキマリ。
「すみません」はこれすらもカバーする。

電車に乗ってて降車駅に着いたのに
前がふさがれているときの声掛けは
東京 metro なら「すみません」。
ロンドンの tube や NY の subway は
「Excuse me」となりましょう。
ちなみに可愛いツレがいる場合は
「Excuse us」がよりスマートです。
(ちょいとキザだけど)

誰に対しても使える「すみません」。
目上、年上の人には使いづらい「ありがとう」。
後者が前者に取って変わるのは
どう考えても不可能。
「ありがとう」にこの役目は荷が重すぎるのだ。

相川教授はともかくも
このことに集団で思いが至らなかった、
朝日新聞記者サロンの方々、
一度立ち止まり、深く掘り下げて欲しかった。
さもないと、”浅日新聞”になっちゃいますヨ。

最後に教授へのお詫び。
せっかく提唱していただいたのに
話の腰を折ってしまい、
どうも、すみませんでした。

2022年10月10日月曜日

第3120話 「すみません」と「ありがとう」(その1)

最近、目にしたのは
東京学芸大名誉教授の相川さんが提唱する、
「すみません」から「ありがとう」へ運動。
教授に共鳴した朝日新聞は
「人づきあいを少し楽にするためのソーシャルスキル」
と題してオンライン記者サロンを開催したりもした。

でも、J.C.はこの発想に強い違和感を覚えている。
これはムリなんじゃないかな?
いや、ほとんどミッション・インポッシブルだ。

なぜか?
「すみません」と「ありがとう」では
言葉としての重要度、利便性がまったく違うからだ。
判りやすい例を挙げてみたい。
唐突ながら英会話における、
最も重要な3ワーズは何だろう?

Thank you Sorry Please
以上でまず間違いないでしょう。
驚くことに「すみません」は
そのすべてをカバーすることのできる、
オールマイティーなジョーカーワードなのだ。
今流行りの言葉ならまさしく”神語"ですネ。

「すみません」はていねいな思いが伝わるが
「ありがとう」ではカジュアルに過ぎて
むしろぞんざいな印象を与えかねない。

大切な顧客を会食に招いたあと、別れる際に
「今日はありがとう」ー
これじゃ先方はムッとするだろうネ。
大事な接待が台無しだ。

「本日はどうもありがとうございました」ー
こうでなくちゃいけない。
”どうも”と”ございました”のアシストなしでは
どうにもし難いのが「ありがとう」なのだ。

NHKの音楽番組に「うたコン」がある。
司会の谷原章介は歌い終えたすべての歌手に
「XXさん、ありがとうございましたァ!」ー
一夜の放送で少なくとも10回は連呼するが
 ”ございました抜き” は一度としてない。

私事で恐縮ながら
不忍池のほとり、池之端に行きつけ店あり。
こよなく愛するそば屋さんだ。
此処ではJ.C.、「ありがとう」と
「すみません」をしっかり使い分けている。

相手を差別するわけじゃないが常にそうしている。
詳細は次話でー。

=つづく=

2022年10月7日金曜日

第3119話 さまよえる世田谷・渋谷 (その4)

突如、身に降りかかった職質のつづき。
割って入ってきたのはこれも警察官である。
ただし、ロートルとは言わないまでも年配者。
同じ年恰好のJ.C.をなだめすかすために
急遽、参入した模様である。

「マア、マア、まあ、まあ」なんて言いながら
気安く肩をポンポンたたきやがんの。
アンタに肩をたたかれる筋合いはないんだヨ。
口には出さず、穏便に収める大人の対応に徹した。

鶯谷南口はそばに男女共学の高等学校があるし、
東京藝大に続く道筋でもある。
いわば、女学生の多いエリアなのだ。
よって、若いおまわりは
何用あってオッサンがこんな場所に?
疑念が生じたのだろう。

まっ、大事に至らず、そのままスタスタ立ち去ったが
背後の会話が聞こえてきた。
「オマエ、もうちょっと相手見て声掛けろヨ」
「ハイ、そうでした、トンデモないのに掛けちゃって」
「そうだろ、ああいうタチの悪いのは
 けっこういるんだ、気をつけなきゃな」
聞こえたのは気のせいか? それとも空耳か?
いずれにしろ、こちとらいい迷惑だ。

われに返って女学館前。
長居は無用と、医療センターから再びバスに乗る。
行先は2路線、来た道を渋谷に戻るのはシャク。
恵比寿行きに乗り込んだ。

終点の西口ロータリー着。
そろそろノドを歓ばさなきゃ。
ロータリー前には
サッポロ直営の「銀座ライオン」があるハズ。
ところがいつの間にやら
「恵比壽ビヤホール」に大変身の巻。

サンプルケースに眼をこらすと
エビスのスタンダードとプレミアム、
エーデルピルスに白穂乃香、
果てはSORACHI 1984と苦手軍団オンパレード。
愛飲する黒ラベル、赤星が見えない。
いかりやの長さんじゃないけど、だめだこりゃ!

そこはJ.C.、恵比寿にも滑り止めを用意している。
ちょいと先のもつ焼き「たつや」にプチ移動。
混んではいたが、どうにかカウンターに滑り込んだ。
滑り止めに滑り込んだんだわけサ。

赤星をトクトクやり、温どうふをお願い。
海鮮天盛りのあと、さすがに焼きとんはムリ。
煮込み鍋で温められた豆腐がとても旨い。
白モツが2片ほど混じり込んで、これまた好し。
大瓶2本を軽く飲っつけ、本日も充実の一日でした。

帰宅後、ネットで調べたら
くだんの「恵比壽ビヤホール」。
黒ラベルの生もあるんでやんの。
ちゃんとケースに並べといてくれっての、ったく。

=おしまい=

「たつや駅前店」
 東京都渋谷区恵比寿南1-8-1
 03-3710-7375

2022年10月6日木曜日

第3118話 さまよえる世田谷・渋谷 (その3)

渋谷東口からバスに乗ってほどなく國學院大學。
所在地は渋谷区・東(ひがし)だが
旧名は常磐松町といった。
昔は常盤松町だったが常磐松に改称されたのは
皿は割れやすく、石は割れにくいから。

町名は当地の氷川神社に在った神木、
常磐松に由来している。
源義経の実母、常盤御前が植えたという、
説もあるがかなり疑わしい。

日本史を専科とする國學院大學の地元だから
信憑性は増すものの、
皿の代わりに今度は意見が割れそうだ。

現在、常磐松の名称は小学校と交番に残るくらい。
常陸宮のお住まいだけは
常盤松御用邸と”皿”を守り続けている。
やはり皇室がからむと
そう簡単に変更などできないんだネ。

途中下車はせず、終点の医療センター着。
真向かいは東京女学館である。
國學院と同じ頃に創設された名門校ながら
経営難に陥り、大学はすでに閉学。
今は小・中・高等学校が存続している。

医療センターに用はないし、女子高にも用はない。
ただ、緑深き場所だから散策してみようかな?
いや、やめとこう。
女学校の周辺をむやみやたらに
ウロウロするもんじゃない。
実はイヤな思い出があるんだ。

あれは10年前だった。
下町散歩のあと、そろそろ帰宅しようと
鶯谷駅前を通りすがった。
この駅には改札が2箇所あり、
北口は谷底、南口は高台だ。

その高台で出し抜けに声を掛けられた。
「どちらに行かれますか?」
声の主は若い警官。
立ちふさがるように突っ立っている。

こいつは職務質問、いわゆる職質だな。
ピンと来ると同時にカチンと来たJ.C.、
「ボクはそんなに怪しい人間に見えますかァ?」

想定外の剣幕にたじろいだヤングポリス、
二の句が継げずに唖然、茫然。
このとき、傍らから割って入った闖入者がいた。

=つづく=

2022年10月5日水曜日

第3117話 さまよえる世田谷・渋谷 (その2)

世田谷区最西端の喜多見にいる。
此処から成城学園前まで歩くつもりだ。
上野田橋で野川を渡った。
川の名の由来は存ぜぬが川の真ん中は野原だらけ。
ゆえに野川か?

橋の東詰から心臓破りの急な坂。
隣接する二つの町の高低差は半端じゃないネ。
成城をしばし散策して疲労感を覚えた。
あの坂のせいだな。

二子玉川行きのバスに乗り、
揺られること20分、到着すると
ややっ! しばらく来ない間に景色が様変わり。
駅を包み込むようにデカいビルが何棟か建ち、
則物感に満ち満ちている。
長居はよそう、身体に悪い。

駅舎のそばに100円ショップあり。
ふと思いついて入店。
先日、酒場の品書きの字が細かくて
値段が判らなかったことを思い出した。
ハズキルーペの代わりに普通のルーペ、
いわゆる拡大鏡を買う気になった。

広い店内で品出しする女性スタッフに訊ねると
「ご案内します」
そして「こちらでよろしかったでしょうか?」
「大きいな、易者の使う天眼鏡みたいだネ。
 ついでに筮竹(ぜいちく)なんかあるかな?」
「ハァッ?」
「ジャラジャラやって占いに使う竹の束だけど」
「いえ、それは・・・」

固まった彼女、TVのCMでくまどり姉妹、
じゃなかった、こまどり姉妹に乞われて
返事に窮した具志堅用高の如し。
「私たちもリニューアルして貰おうかしら?」
「いや、それは・・・」

駅舎そばで買った易者の天眼鏡。
会計は110円也。
ポケットをさぐり、百円玉と十円玉、
2個の玉で支払う。
おっと、ここは二子玉であった。

都心に近づくバスの本数が少ない。
田園都市線で渋谷に向かった。
東口の地上に出ると目の前にバスターミナル。
日赤医療センター行きが停まっている。

おおっ、國學院大學経由じゃないか!
久しく来ていない、そのエリア。
近々歩くつもりだったので渡りに舟と乗り込んだ。

=つづく=

2022年10月4日火曜日

第3116話 さまよえる世田谷・渋谷 (その1)

この日は朝からTVの天気予報が
絶好の散歩日和を連発してかしましい。
判りやしたヨ、行きゃいいんでしョ、行きゃ!

降り立ったのははるか遠く,
世田谷区の西の果て喜多見。
プラットフォームは
隣りの狛江市にもかぶさっている。

ちなみに23区の最西端は練馬区・武蔵関。
TVにしょっちゅう登場する、
あのスーパーがあるところだ。

駅前商店街の日本そば「丸屋」に着いたのは正午。
店先のリストに記名して待つように告げられた。
人気なんだなァ、いや、マイッたな。
ところが3分待ちでご案内~!
一番奥、壁際の二人掛けに導かれた。

黒ラベルの中瓶でノドを歓ばせながら
多彩な品書きを念入りにチェック。
白羽の矢を海鮮天ざるに立てた。
接客のアンちゃんに海苔抜きでお願いすると
「ハイ、海鮮天もりですネ?」

16人の先客は誰一人として飲んでいない。
まっ、平日のランチタイムなら当たり前か。
天もりは1215分に着卓。
中太に見えたそばは細いのも混じり、
不揃いのおそばたち、ならせば普通だ。
薬味はさらしねぎ・おろし・粉わさび。

豪華な海鮮天ぷらの陣容は
鱧(はも)2切れ、穴子1片、海老・キス各1尾に
野菜が茄子・さつま芋・ピーマン。
おろし・天つゆ・粗塩が添えられる。

そばつゆにきちんと甘みがあり、うれしい。
コシの強いそばは終盤にモッチリ感が際立つ。
食べ応えじゅうぶんの昼餉となり、支払いは2410円。

小田急線の北と南に拡がる喜多見商店街を行き来する。
「丸屋」近くのスーパー「タグチ」に入ってみた。
全日食チェーンの加盟店だ。
豊富な鮮魚売り場の品揃えに驚く。

カイワリ、テングダイ、メダイ、レンコダイ、
イトフエフキ、コチ、ホウボウ、ソウハチガレイ。
御徒町の「吉池」も真っ青だ。

ただし、この日はおろしてくれない。
担当者不在のためだとサ。
名魚揃いだがフツーの主婦にはまずムリだろう。
これを宝の持ち腐れという。

=つづく=

「丸屋」
 東京都世田谷区喜多見8-16-8
 03-3416-5765

2022年10月3日月曜日

第3115話 足立区・鹿浜 「足立屋」の午後

先週の金曜日、いわゆる月末日(つきまつじつ)。
日暮里・舎人ライナーを西新井大師西駅で下車した。
さらに西へ30分歩き、初訪問の「足立屋」に到着。
典型的町中華は足立区・鹿浜3丁目にある。

鹿浜と聞いて多くの人が思い浮かべるのは
伝説の焼肉店「スタミナ苑」だろう。
来てみて初めて気づいたが「足立屋」は
「スタミナ苑」のはす向かいにあった。

さっそくサッポロ赤星の大瓶を通すと
スライスしたさつま揚げがサービスのお通し。
こりゃまた珍しいモンが出て来たヨ。

半チャン・ラーメンを麺も半分でお願いする。
ものの5分で登場した、まずチャーハンは
焼き豚・ナルト・玉子、3種の具材タップリ。
ただし、ありがちな長ねぎは不在だ。
ラーメンには脂身の縁取りの焼き豚(ロースかな?)・
シナチク・ナルト・わかめ。

ともに昭和チックだが塩味のチャーハンは
ナルトのピンクが効いて可愛いルックス、
しっかりした味付けながら上品な仕上がりだ。
麺は細くも太くもなく、ややちぢれのシコシコ。
濃い色のスープはルックス通りに濃い味で
多少の魚介系を感じたが自信はない。

50円値引きされた半ラーメンと
ビール大瓶は計1250円也。
会計後、向かいの「スタミナ苑」の店先に立つ。
中をのぞくと男性が二人、仕込みに打ち込んでいた。

順番待ち用のベンチに早くも若いカップルが1組。
おい、おい、まだ14時半だぜ。
帰宅後チェックしたら開店は16時だった。
ついでに前回の訪問を調べると
今世紀初頭の2001年8月。
げっ、あれから21年かいっ?

往時は日暮里・舎人ライナーの開通前。
西新井大師からGFとずいぶん歩いたっけ。
まだその頃はわれわれも
若い(でもないか)カップルだったがネ。

ブッタマげたのはその夜のこと。
世界バレー女子の「日本Xブラジル」を
TVで観ていて、たまたまザッピングした、
NHKの「プロフェッショナル」。

映っていたのは先刻たたずんだ「スタミナ苑」だ。  
TV番には
予約不可! 3時間待ち
下町のホルモンの神様
失った右手が教えてくれた▽極める焼肉道
とあったがNHKだから店名は不記載。

だけどさァ、
21年ぶりに再会した店舗がその日の夜に
また再び目の前に現れるもんかネ。
これを単なる偶然とは思えぬ自分がいた。
バレーそっちのけで
画面にジッと瞳をこらしておりました。

「足立屋」
 東京都足立区鹿浜3-5-15
 03-3899-5062