2024年3月29日金曜日

第3503話 東京午後三時 @OKUROJI

千代田区・日比谷の昼下がり。
本日の相方はオペとも・S田サン。
美味しいものを食べながら飲もうということで
待ち合わせたのは帝国ホテルのロビー。

近くの日比谷OKUROJIにある、
青森・八戸のアンテナショップ、
「8 base」の話をしたら
興味を示したのでお連れした。

ところがちょうど中休みに入るところ。
時刻は午後三時であった。
ほうら、フランク永井の低音が聞こえてきたヨ。

♪ 真っ紅なドレスがよく似合う
  あの娘想うてむせぶのか
  ナイト・クラブの 青い灯に
  甘くやさしいサキソホン
  あゝ あゝ 東京の
  夜の名残りの 午前三時よ ♪
   (作詞:佐伯孝夫)

「東京午前三時」はフランク最大のヒット、
「有楽町で逢いましょう」と同年、
1957年のリリースである。

おっと、時刻は午後三時だった。
12時間のズレが生じておるな。
「8 base」にフラれ、
迂回したのは同じOKUROJI 内、
「ヨイノクチ」なる店。
テーブルもあるけれど
あえてカウンターに横並びとなった。

当方はサッポロ赤星中瓶。
相方は15~18時限定の昼飲みセット。
ワイン3種3杯に料理が何品も出て来る。
お通しはどちらも小帆立の酢味噌和え。
彼女の料理は、真鯛刺し・おでん・
鳥ハツ焼き・ポテサラ・ローストビーフなど。

J.C.はアラカルトから
海胆クリームコロッケと
真鯛カマのソテー・ポン酢バターソースを。
いずれも水準に達していた。
ニュージーランドのピノ・ノワール、
シレニを1杯いただいて会計は7千円ほど。
まっ、こんなものかな?

OKUROJI をぶらぶらする。
第二のコリドー街を意識して
造られた商業施設ながら
集客に苦労している店舗が多そうだ。
すでに閉業に追い込まれたところもあった。

さて、2軒目は何処に行こうかな?

「酒菜日和 ヨイノクチ」
 東京都千代田区内幸町1-7-1 
 日比谷OKUROJI
 03-6457-9917

2024年3月28日木曜日

第3502話 蒲田から 電車に乗って 大井町

かきフライ&「京都の夜」のおかげで
ウキウキと水門通りを雑色に戻った。
第二京浜を渡り返し、駅前を通り過ぎて
今度は西に走る雑色商店街を歩む。

京浜東北のガードをくぐったら右折。
線路沿いに北上してゆく。
ほどなく現れたのは蒲田操車場である。
松本清張原作の映画の中で
ベストと評価の高い「砂の器」。
映画の冒頭、事件はこの操車場で起こった。
だが昼間だとちっとも感じが出ず、退散。

蒲田で飲み直せばいいものを
そこから電車に乗って大井町へ。
ちょうど1年前もそうだった。
羽田空港に近い穴守稲荷で昼食のあと、
大鳥居、糀谷と歩いて蒲田に到着。
あの日も電車で大井町に移動したっけ。

旧闇市場の東小路と平和小路。
この町に来たらこのエリアは必訪につき、
ぶらぶら流してゆく。
足を止めたのは焼き鳥酒場「一角」の店先だ。

立て看板を眺めていたら中から女性が出て来た。
面立ちにうっすらと見覚えがある。
これは1年前とまったく同じ展開。
あのときも彼女にハントされたのだった。
先刻の「千丸」といい、何だか近頃、
個人的体験がたびたび繰り返される。

「ちょっと近くを一周りしてからネ」ー
言い置いてその場を離れた。
目ぼしい店を見つけたら浮気は必至なれど
律儀なJ.C.のこと、一周後に舞い戻った。

ドライ中瓶を抜いてもらうと
お通しはしらすおろし。
焼き鳥はハツモト塩 レバーたれでお願い。
そうそう、彼女は蘇州の出身だった。
日本語はかなり出来るが、まだまだだネ。

蘇州の東に位置する大都市が上海。
北区・飛鳥山の行きつけ上海料理店、
「豫園飯店」の J.C.担当、
香蘭は上海生まれで日本語ペラペラだ。

ドライをお替わりし、
追加はボンジリ塩、豚バラたれでー。
「もう一人の蘇州の女性は?」
「ヨソの店に居ます」
訊けば、日本人&中国人のオーナー夫妻は
大田・品川両区に8軒も経営していて
スナックが中心とのこと。
このご時世にやるもんだねェ、ジッサイ。

「一角」
 東京都品川区東大井5-3-4
 03-3471-9080

2024年3月27日水曜日

第3501話 水門通りを歩き多摩川 (その2)

六郷水門をあとにして来た道を戻ろうか。
すると、水門近くの団地に目がとまった。
南六郷二団地というらしい。
飲食店が何軒か並んでおり、
せっかくだから一回りしてみよう。

一番手前が食堂「千丸」。
隣りが惣菜屋「末広」。
その先がそば屋「さか本」である。
ん? 「千丸」? 
つい先日の墨田区・京島キラキラ橘商店街。
八幡浜のじゃこ天で飲んだ店が「千丸」だ。
あまりない屋号なのに奇遇だねェ。

「末広」の店先の細いテーブルにラジカセがー。

♪ あなた残した わるいくせ
  夜中に電話 かけるくせ
  鍵をかけずに ねむるくせ ねむるくせ ♪
   (作詞:山口洋子)

中条きよしの「うそ」が流れていた。

「さか本」の品書きには
ラーメン・タンメンなど中華メニューもある。
京島では「千丸」の前にそば屋「浅野屋」で
中華ソバを食べたのだった。
何だか似たようなシチュエーションだけど
今回はそば屋の中華をパスして「千丸」へ。

店主がいきなり気まずそうにささやいた。
「お酒でしょ?」
「いや、ビールですけど・・・」
女将が引き取って
「すいません、ないんですヨ」
「エエ~ッ! そこの冷蔵庫にあるじゃない?」
「いえネ、お昼のお酒は日曜だけなの。
 おそば屋さんにあるからそちらへどうぞ」
「ふ~ん、そうなのかァ、じゃそっちに行くネ」
「ホントにごめんなさいネ」

「さか本」に入店したが日本そばでも中華でも
そばを食べたらあとが入らぬ。
何か軽いものを・・・
おっ、かきフライがあって450円。
おつまみサイズだろうが何でこんなに安いの?
もつ煮込み、おでんでさえ550円なのにー。

5つのかきフライは好かった。
キャベツにレモンにマヨと練り辛子。
いいネ、数日前の浅草「水口食堂」より断然。
お通しはニンジン繊切りにツナ缶を混ぜ、
フレンチのキャロット・ラペみたい。
ドライ大瓶を美味しくいただいた。

出て来たら隣りの「末広」のラジカセ。

♪ 祇園の雨に 濡れながら
  シャネルの人を 切なく今日も
  探す京都の夜は ふけゆく ♪
   (作詞:秋田圭)

愛田健二の「京都の夜」だ。
でもネ、この曲は渚ゆう子がベターで
ベストは西田佐知子とザ・ピーナッツ。
甲乙つけ難しとは実にこのことである。

「さか本そば 南六郷店」
 東京都大田区南六郷2-35-1
 南六郷公団住宅ショッピングセンター内
 03-3738-5836

2024年3月26日火曜日

第3500話 水門通りを歩き多摩川 (その1)

十数年ぶりで京急・雑色駅に降り立った。
東京の南のはずれまで遠征したのには
理由(わけ)があった。
多摩川を臨む六郷水門を見たかったのだ。

駅前を走る第二京浜国道を渡ると
そこは水門へと続く水門通り。
フランク永井の「夜霧の第二国道」が
ふと脳裏を掠めたが真っ昼間なのでやめとく。
浪花の小姑もうるさいことだしネ。

そう言えば先週、「月の法善寺横町」を
せっかく紹介したのに小姑のヤツ、
知らねェと来たもんだ。
大阪府民の風上にも置けないヤツだぜ。

水門通り商店街は
店舗の数を減らしたようだが
それでもそれなりの活気があった。
ただし、飲食店はかなり少ない。
ちょいと横道にそれたところに1軒だけ、
順番待ちが数人たむろする町中華があった。
水門を見たあとで此処に寄ろうかな?

六郷水門に到着。
この水門は六郷用水の多摩川への排出と
多摩川の氾濫による浸水を防ぐ目的で
昭和6年に着工、翌7年に完成している。
令和3年には
土木学会選奨土木遺産に選定された。

金森式鉄筋煉瓦という工法が取られ、
その堅牢さは竣工から90年を経過した今も
現役の水門として活躍している。
なるほど立派な姿にしばし見とれた。

前方には多摩川の流れ。
左手に産業道路の大師橋と高速大師橋が
並んで走っているのが見える。
その向こうは羽田空港だ。

小学生時代、大田区の生徒だったJ.C.は
社会科の授業で多摩川の最下流は
六郷川とも呼ばれると習った。
六郷川を眺めていると
子どもの頃に還ったような気がしてきた。
還暦なんざとっくに過ぎてるのにネ。

水門の内側の船溜まりに
1羽のコサギが羽を休めていた。
純白の姿が光の中でまぶしい。

サギという鳥は帰るねぐらは別として
サカナを獲るときはけして群れない。
掛け子だ、出し子だと、群れになって
サギを働くのは人間だけなのだ。
げにあさましい生き物よのお。

=つづく=

2024年3月25日月曜日

第3499話 甘いヤツには 甘さで対抗

後楽園のある文京区・後楽の北西隣りに
水道という町がある。
神田川を挟んだ向かいは新宿区・水道町。
後楽園に戻り、向こう岸の千代田区には
水道を冠した町が無いが
代わりにJR総武線・水道橋駅がある。

とにかく界隈は”水道”だらけ。
これはこの地に古くからあった、
神田上水水道に由来する。
神田上水は玉川上水とともに
江戸の二大上水であった。

この水道の町に「石ばし」と「はし本」。
2軒の老舗鰻料理店がある。
2軒に挟まれるようにして「居酒屋 いずみ」。
文教の街・文京区には珍しい優良居酒屋だ。

神保町で映画を観たあとに訪れた。
開店直後の17時過ぎとあって先客はナシ。
カウンターの一番奥に着き、赤星の中瓶を。
お通しは、玉こんにゃく・竹輪・大根の煮物。
おでんをより甘辛くした味付けだ。

おっと、品書きにウマハギ刺しがある。
紛れもないウマヅラ皮ハギは
板さんに確認したらやはり肝付き。
皮ハギは肝が命だからネ。
国会で気安く”命がけ”なんて
時代錯誤の言葉を口にするアホの命より、
よほど大事な命が此処にあった。

かなりの量の刺身が配膳された。
ヒマに任せて数えてみたら19切れもー。
肝を溶かし込んだりもしながら
ポン酢と生醤油、二つの味で楽しんだ。

信州の清酒、戸隠に移行するとヤケに甘い。
失敗したと悔やみつつも一計を案じた。
お通しの煮物の助けを借りながら
交互に味わうと煮汁の甘さが酒を修正する。
日本酒でもワインでも甘さを感じたら
甘いつまみのアシストが重要。
甘いヤツには甘さで対抗するのが一番だ。

まだちょいと飲み足りないので
茜霧島のロックを所望。
うん、これはいいネ。
スッキリとした突き抜け感があり、
黒・赤・白などのシリーズ中、
茜が一番好きかもしれない。

神田川沿いにポツンと灯を点す「いずみ」。
文京区民として支えたい1軒であります。

「居酒屋 いずみ」
 東京都文京区水道2-4-4
 03-3815-6594

2024年3月22日金曜日

第3498話 浅草橋から 浅草へ流れて (その2)

しばらく大阪には行っていないが
法善寺横丁の思い出は門前のおでん屋「おかめ」。
大阪を訪れるたびに足が向いてしまう。
浪花のおでんの第一感は此の店である。

壁の品書きを見上げてはいつもニヤリ。
凝った当て字につい頬がゆるむ。

美以留(ビール) 毛露九(もろきゅう)
図呂郎(とろろ) 多幸巣(たこす)
夜ッ子(やっこ) 女差(めざし)

といった塩梅なのだ。

それはそれとして、浅草橋の「藤芳」。
炒めた玉ねぎをたっぷり乗せた、
ポークソテーを味わい、卓上にあった、
自家製のおかか&白胡麻のふりかけを
つまんだりもしながら中瓶1本で切り上げた。

浅草橋をあとに鳥越神社を抜け、
昭和の情緒を残す新堀通りを北上。
かっぱ橋道具街をかっぱ橋本通りで右折し、
浅草六区にやって来た。

久方ぶりに入店したのは「水口食堂」。
料理はあまり感心しないが
エンコには数少ない食堂で雰囲気も好い。
飲みつけのドライ大瓶を所望すると
お通しは珍しくも焼きかつおが運ばれた。

つまみはタルタルソースにポテサラと
キャベツを従えた4カンのかきフライ。
ん? 広島産かな? コロモが厚くガシガシ。
言わんこっちゃないぜ、
どうもこの店にはイマイチ感がつきまとう。

唯一の逃げ道、下町特有の一品、
炒り豚に逃げればよかったものをー。
炒り豚は豚肉(バラだったり小間だったり)と
玉ねぎを炒めたシンプル極まりない代物だ。
押しなべて塩味とケチャップ味に二分される。
だけどポークソテーのあとに炒り豚はないやろ。

菊正生貯蔵酒 生酛(きもと)300mlに移行。
店内に浅草らしい穏やかな空気が流れている。
冷酒片手にピープル・ウォッチングと参ろう。
若者、中年、初老、カップルがやたらに多い。
偶然かも知れないけれど
外国人が1組も居ないのがどことなく新鮮。

東京でピープル・ウォッチングに最適なのは
一に浅草、二に銀座、三、四がなくて
五に神楽坂でキマリだろう。
まっ、勝手なキメだけどネ。
エニウェイ、浅草の夜は静かに更けてゆきました。

「藤芳 駅前店」 
 東京都台東区浅草橋1-11-4
 03-3865-2144

「水口食堂」
 東京都台東区浅草2-4-9
 03-3844-2725

2024年3月21日木曜日

第3497話 浅草橋から 浅草へ流れて (その1)

以前棲んだ町・浅草橋に来ている。
昼めし・昼飲みを問わず、
手ごろな店を探していた。
めし屋は休憩に入り、飲み屋はまだ開かない。

浅草なら問題ないけれど、
浅草橋ではそうもいかない。
JR総武線のガードそばにとんかつ店、
「藤芳 駅前店」がまだ開いていた。
そろそろ閉める時間だろう。

広くもない店でキリン一番搾り中瓶を発注。
浅草橋は浅草の隣りにも関わらず、
地元のアサヒに背を向けている。
まっ、店それぞれだからいいでしょう。

ここでロースかつ定食なんぞ、
食べたひにゃ夜に禍根を残す。
よってポークソテーを単品でお願いした。

ふ~む、「藤芳」かァ。
ボンヤリ思っていたら
いきなり藤島桓夫が歌い出したヨ。

♪ 庖丁一本 さらしに巻いて
  旅へ出るのも 板場の修業
  待っててこいさん 哀しいだろうが
  ああ ああ 若い二人の 
     想い出にじむ法善寺
        月も未練な 十三夜

  (セリフ)
      こいさんがわてをはじめて
       法善寺へつれて来てくれはったのは
  「藤よ志」に奉公に上った晩やった
   はよう立派なお板場はんになりいやゆうて
   長いこと水掛不動さんに
   お願いしてくれはりましたなあ
   あの晩から わては わては
   恋はんが好きになりました

    (作詞:十二村哲)

「月の法善寺横町」は1960年のリリース。
(歌のタイトルでは横町だが実際は横丁)
藤島桓夫一番のヒット曲となった。
小学低学年だったがリアルタイムで覚えている。

フフフ、小うるさい浪花の小姑も
大阪が舞台の歌なら文句はあるめェ。
どうだ? マイッたか!

=つづく=

2024年3月20日水曜日

第3496話 続いてもぐった 新橋駅前ビル

トーシンビルを出たら目の前にJR信濃町駅。
新宿辺りに流れようか?
いや、天気もいいことだし、少し歩こう。
外苑東通りをテクテク行った。
差し掛かった明治記念館は
今世紀初頭、何度も利用した。

もっぱら夏季限定のビヤガーデンだけどネ。
往時、此処にはタヌキの母子が居て
閉園間際になるとテーブル脇の生垣から
ちょこちょこ顔を出すんだ。
鳥の唐揚げなんかを投げてやると、
ナイス・キャッチ、歓んで食べる。

記念館に保護されて、どこぞのお山。
ゲンコツ山かな? とにかく送り返されたが
父親はとうとう見つからなかったそうだ。
火のない所に煙りは立たぬ、
父のない所に子どもは出来ぬ。
不思議なことがあるもんだねェ。

権田原の交差点を過ぎて青山一丁目。
折よく品川行きのバスが来て乗り込んだ。
下車したのは高輪の魚籃坂下。
魚籃坂を上り、伊皿子坂を下り、
四十七士の眠る泉岳寺に通りすがる。
一礼しても境内には足を踏み入れず、
都営浅草線で新橋に移動した。

今度は地下鉄新橋駅と
地下でつながる駅前ビルにもぐった。
「立ち呑み処 へそ」を思い出したのだ。
黒ラベルの中ジョッキをお願いし、
先日、「ニュー浅草」で食べるつもりが
メカジキ刺身に浮気しちまった馬刺しを所望。
当店は熊本産の赤身である。

うむ、前回と比べたら、ちと落ちるな。
けして不味いワケじゃないけれど、
前回が好過ぎたのかもしれないネ。
それでもジョッキをお替りして食了。

何処かで軽くもう1杯かな?
メトロ銀座線で上野広小路に向かう。
行きつけ店「味の笛」でドライの生と参ろう。
その前に松坂屋の地下にもぐる。
今日は天気が好いのに何だか地下ばっかり。
土竜(もぐら)になった気分だ。 

鮮魚売り場で見つけたのは背子蟹。
いわゆるズワイのメスである。
キレイに取り出された身肉が
キッチリ甲羅に納まっている。

蟹座生まれの蟹好きJ.C.、
看過することとても能わず、
浮き浮きとイン・マイ・バスケットの末、
いそいそと家路についたのでありました。

「立呑み処へそ 新橋駅前店」
 東京都港区新橋2-20-15 
 新橋駅前ビルB1
 03-3289-9380

2024年3月19日火曜日

第3495話 信濃町にも 名店街があった!

都営新宿線を曙橋で降りた。
四谷三丁目から左門町と歩き、信濃町駅に到着。
幕臣・永井信濃守尚政の下屋敷があったために
名付けられた町であり、駅である。
駅のホームは信濃町と南元町にまたがっている。

信濃町のイメージは第一に慶応病院。
石原裕次郎は此処で亡くなった。
第二はやはり創価学会の存在だろう。
公明党を指す隠語が信濃町なのは
警視庁を桜田門と呼ぶのと同じである。

駅の北側の古ぼけたビルを目にしたのは
半年ほど前だった。
地下への入口に名店街の表示がある。
いや、今までまったく気付かなかったヨ。

ビル地下のレトロな名店街はひと昔前まで
日本橋や銀座でときどき見かけた。
それにしても信濃町に名店街とは!
イメージとのギャップは限りなく大きい。

せっかくやって来たのだ、もぐるだろう。
いつもぐるか? 今でしょ!
そうしてもぐってみたら
名店街には4つの飲食店があった。

日本そば、コリアン、オイスター・バー、
そしてヒマラヤ創作料理である。
ヒマラヤンはネパーリに間違いなかろう。
ここ十数年、ネパーリはインディアンより
多いんじゃなかろうかー。

入店したのは日本そばの「さわや」。
初老のご夫婦の営みのようだ。
古い空間に44426 の全5卓20席。
ドライの中瓶をお願いした。

ビールの品揃えがエラい。
中瓶はキリンラガーとサッポロ黒ラベルも。
生がサントリーモルツと来たもんだ。
飲食店の鑑(かがみ)此処にあり。

ちょいと空腹につき天丼&かけのセットをー。
どちらもハーフ・サイズでまさに渡りに舟。
”信州石臼挽き粉 江戸流 手打ち蕎麦"の貼り紙に
心も弾んだ。

天丼は小海老・椎茸・大葉・茄子・南瓜。
まずまずの出来映えであった。
小鉢は竹の子と結び白滝煮。
新香がきゅうり浅漬け&大根醤油漬け。

ここまでは好かったんだが問題は信州そば。
打ち方のせいかブツブツとやたらに千切れる。
これはいただけないなァ。
お勘定はちょうど千円札が2枚。
明るい陽射しのオモテに出たのでした。

「信濃町 さわや」
 東京都新宿区信濃町34 
 トーシン信濃町駅前ビルB1
 03-5919-1176

2024年3月18日月曜日

第3494話 すっかりハマッた 五所平之助

今月の神保町シアターの特集、
五所平之助シリーズに
すっかりハマッてしまった。

日本初のトーキー映画、
「マダムと女房」(1931)に始まり、
「かあちゃんと11人の子ども」(’66)。
先日、紹介した「花籠の歌」(’37)。
「愛がちぎれる時」(’61)、
「わが愛」(’60)、「白い牙」(’60)、
「愛情の系譜」(’61)と、すでに7本も観た。

今後は「からたち日記」(’59)、
「煙突の見える場所」(’53)、
「黄色いからす」(’57)、
「100万人の娘たち」(’63)に赴く予定だから
全16作中、11本も観ることになる。

こうなるともはや中毒ですな。
今まで五所の作品はベルリン映画祭で
国際平和賞を受賞した「煙突の見える場所」と
井上靖原作の「猟銃」しか観ていないのにー。

最初の「マダムと女房」には少なからず失望した。
録音が悪く聞き取れない部分が多いし、
ストーリーの運びもあまりにトンチンカン。
初のトーキーだから仕方ないのかもしれない。

2本目の「かあちゃんと~」は素晴らしかった。
左幸子という女優をあらためて見直した。
彼女の作品は内田吐夢の「飢餓海峡」の娼婦役、
杉戸八重が深く印象的だが
勝るとも劣らぬ体当たりの演技である。

亭主役の渥美清も好かった。
「男はつらいよ」シリーズが始まる3年前だ。
ほかにも主役クラスがこれでもかと目白押し。
久我美子・十朱幸代・倍賞千恵子・香山美子・
田村正和・竹脇無我・藤岡弘。
松竹大船さん、よくぞ揃えてくれました。

佐田啓二と有馬稲子の「雲がちぎれる時」も心に残る。
佐田は土佐の高知のしがないバス運転手。
断崖絶壁の淵を猛スピードで走るバスは
下手なアクション映画顔負けで
アクロフォービア(高所恐怖症)気味のJ.C.には
かなり心臓にこたえた。
五所はこんな映画も撮っていたんだねェ。

特集は22日(金)まで。
「煙突の見える場所」「黄色いからす」
「100万人の娘たち」「恐山の女」は期間中、
今日から毎日1回づつ上映される。
その後は「映画で辿る 山田太一と木下恵介」の
予定である。

客席数99の小さなシアターですが選択眼は確か。
機会を作り、足に運ばれてみてください。

2024年3月15日金曜日

第3493話 そば屋の中華は よく当たる

日暮里から乗った錦糸町行きバスを押上で下車。
此処はスカイツリーの足元だ。 
足元だが、この手の建造物には
あまり興味がないため素通りする。
子どもの頃は東京タワーが好きだったけどネ。

曳舟川通りを曳舟に向かって歩く。
かつて何度か利用した居酒屋「ほたる」が
無残にも閉業していた。
いい店だったのになァ。

曳舟たから通りを右折して京島へ。
時刻は14時、そろそろ遅い昼めしにしよう。
通りすがった日本そば屋「浅野屋」。
おっ、中華ソバがあるじゃないかー。
そば屋の中華は当たりが多い。
即断即決で引き戸を引いた。

ドライの大瓶に、これは何と言うのかな?
サラダ油で揚げたおかきみたいなヤツ。
とにかく付いて来たからポリポリやる。

中華ソバ(550円)には、もも肉チャーシュー・
シナチク・ナルト・海苔に加え、ほうれん草。
わかめだとガッカリ、ほうれん草ならニッコリ。
真っ当な店はこうでなくっちゃ。

麺は中細ほぼ真っ直ぐ、ツルツルのクニュクニュ。
スープは色も味も濃いが滋味深い。
かなり旨いじゃん。
日本そば屋の中華はホントによく当たる。

なおも、たから通りを直進。
キラキラ橘商店街にやって来た。
麺がけっこうな量だったから
腹いっぱいなれど、ビールは飲み足りない。

2年前におジャマした、
たこ焼き酒場「千丸」に入店。
生は一番搾り、ドライもあるが缶である。
春バージョンとやらで桃色の缶だった。

前回同様、たこ焼き3粒を所望すると
タネの用意がまだ調っていないとのこと。
四国・八幡浜のじゃこ天を通す。
愛媛県・佐多岬半島の付け根が八幡浜市。

レギュラーを4缶空け、
支払いは約2千円だった。
明治通りのバス停で思案投げ首。
三河島か、亀戸か、
先に来たほうに乗り込むとしましょう。

「浅野屋」
 東京都墨田区京島2-10
 03-3611-3951

「たこ焼き 千丸」
 東京都墨田区京島3-52
 03-6657-123

2024年3月14日木曜日

第3492話 世界 ”最辛” ブータン料理

世界で一番幸福な国はブータン。
指標にはいろいろあって
北欧諸国が上位を占めるものもあるが
相対的にブータンの人々が
幸せを感じていることは間違いなかろう。

ブータンにはもう一つの世界一がある。
それは食べものの辛さで
何せ、唐辛子が主食というくらいなのだ。
あんなものが主食に成り得るのかネ?
これじゃ、コリアンも真っ青だヨ。

靖国神社の南側、地番でいうと
千代田区・九段南3・4丁目あたりだが
フレンチ・ビストロ、トルコ料理店、
アメリカン・ステーキハウスなど、
ユニークな飲食店が散在するエリアがある。

此処で1軒のブータン料理屋を見つけたのは
一昨年の12月、近所の和食店「うお多」で
海鮮丼を食べたあとだった。
近いうちに行こうと思っていながら
1年以上の月日が流れた。

遅ればせながらビルの2階に上がると
そこそこのスペースが広がっていた。
先客は単身の女性2名。
後客3名もそれぞれ単身女性だった。
日本のエスニックは女たちの天国なのだ。

丹念にメニューをチェックし、
当店で最も辛いと明記される、
エマダツィに傾きかかったものの、
今一歩のところで思いとどまった。
後悔するのが目に見えているからネ。

ダツィという料理はチーズ煮込みのことで
”最辛” のエマダツィは青唐辛子とチーズ。
結局、パクシャパのランチセットをお願いした。
パクシャパは豚バラ肉と大根と唐辛子の煮炒め。
ベトナムビールのサイゴンスペシャルを
飲みながら待った。

野菜のコンソメとサニーレタスのサラダを従え、
パクシャパが登場する。
豚バラは下茹でにより、脂を抜いた脂身がトロリ。
たっぷりの大根に小松菜・玉ねぎ・トマトも。
これは中華の豚角煮、
あるいはおでんの大根好きならきっと歓ぶハズ。

ライスはインディカでももち米でもなく、
ごくフツーのジャポニカ米だった。
ブータンだから近隣のバングラディッシュや
ネパールのようにインド料理の色が濃いものと
勝手に想像したが見事に覆された。
東南アジアのように魚醤が使われるでもなく、
むしろコリアンや和食に通ずるものがある。

支払いは1970円也。
次回は ”最辛” のエマダツィに
挑戦してみましょうゾ。

「LASOLA(ラッソーラ)」
 東京都千代田区九段南4-2-3
 九段木田ビル2F
 050-5600-3743

2024年3月13日水曜日

第3491話 連日盛況 おサカナ定食

このところ足繁く通う神保町シアター。
今話もシアターそばの店だ。
先日紹介した「キッチン 南海」の数軒先に
サカナ定食専門店「はせ部」がある。

誰も酒を飲んでいないため、
ビールを頼んだことはないが
夜は品書きも変わり、酒肴も揃う。
とにかく昼は連日大盛況。
ある日の店先の黒板を見てみましょう。

寒ぶり刺身定食(金沢)  795円
本まぐろ刺身定食(大船渡)895円
寒ぶり照焼定食(長崎)  795円
さわら西京焼定食(長崎) 795円
さば味噌煮定食(長崎)  795円
あじ酢定食(長崎)    795円

以上6品がメインの献立だが
いつも2番目のまぐろ刺しの上に
線が1本引かれて、あったためしがない。

13時過ぎに訪れるせいかと思い、
12時に現れたら、そのときも消えていた。
” 看板に偽りあり ” と言わざるを得ない。
それでもほかの定食類が良いので
店の存在価値を認めざるを得ないのだ。

初訪の際は長崎のあじ酢をいただいた。
いい感じに〆られている。
副菜は切り干し大根と高菜漬け。
感心したのは豆腐とわかめの味噌汁で
殊にシャキシャキのわかめがとても好い。
ごはんもよく炊けている。

2回目は愛媛の初がつお刺し。
これまた好かった。
ニンニクが欲しいところなれど
生姜だけで我慢する。

そして3回目。
ひんぱんなシアター通いのおかげで
同じ店に何度も現れる。
当店は寒ぶりを前面に押し出すが
夏場はどうなるんだろう?
もっとも今やぶりは一年中獲れるがネ。

J.C.はぶり刺しを得意としないので
照焼を試してみた。
分厚いのがデーンと皿に鎮座ましましている。
実に食べ出があった。

店頭のボードにはないが
ほかに塩鮭、たら子、野菜煮物の定食あり。
さすれば4回目も
そう遠い先のことではなさそうだ。

「はせ部」
 東京都千代田区神田神保町1-39
 03-3291-6558

2024年3月12日火曜日

第3490話 昔の銀座に目が釘付け


今月の神保町シアターの出し物は
映画監督・五所平之助特集で
この日は昭和12(1937)年の「花籠の歌」。
銀座のとんかつ屋「ミナトヤ」を舞台に
看板娘が田中絹代、その妹に高峰秀子。
オールド・ファン垂涎のコンビである。

往時の銀座の光景にJ.C.の目は釘付け。
見逃してはならじと、
つぶらな瞳を 見開きっ放しだった。

昼下がりの外濠は数寄屋橋。
と一度は思ったが、これは三十間堀川のようだ。
さすれば、架かる橋は三原橋だろうかー。
北に向かって豊玉橋、朝日橋など、
今は失われた姿を目に焼き付けていた。

「ミナトヤ」の2階から見える銀座のネオンが
懐旧の思いをかき立てる。
明治チョコレート、クラブ白花、
モンマルトルのムーラン・ルージュみたいな風車。
J.C.の生まれるずっと前だから
見たことなど一度もないのにネ。
店内の貼り紙にも瞠目した。

=本日のスペッシャル=
 満洲汁 ヒレかつ メンチフライ

殊に満洲汁が気になって、気になって
映画に集中できなくなる始末。
これはたぶん豚汁なんだろうな。
メンチカツではなく、メンチフライ。
以前はこう呼んだんでしょうヨ。

看板娘は田中絹代だが店の味を支えているのは
上海生まれの料理人・李さんこと徳大寺伸。
佐野周二、笠智衆も印象深いが
徳大寺は二人を凌駕して余りある。

徳大寺というと、上野アメ横にある、
日蓮宗の寺院を想起するが何の関係もない。
晩年、糖尿病による視力の劣化で
俳優業に見切りをつけた徳大寺伸は
タレント養成所を設立して浅野温子、
久保田早紀などの才能を世に送り出している。

洋子(田中絹代)に失恋して
上海に帰る李さんだが
その李さんに想いを寄せる女給、
おてる(出雲八重子)が、またけなげだ。

いずれにしろ、2.26事件の翌年の銀座を
存分に楽しませてくれる、
貴重な映像がそこにありました。

2024年3月11日月曜日

第8489話 穴天 ねぎま カンパチ煮

この日は東急東横線を都立大学で降りた。
隣りの学芸大学もそうだが
大学自体はとっくの昔に郊外へ移転しており、
駅名だけにその名をとどめている。
西武新宿線の都立家政も同じケースだ。

駅前の日本そば屋「大菊総本店」は20年ぶり。
会社の同僚の細君が急逝され、
告別式の帰りに立ち寄って以来である。
あのときは次々と喪服姿の列席者が現れ、
店員たちが唖然としていたのを覚えている。

二人掛けのテーブルが学校スタイルで並ぶ。
こんな感じだったかなァ?
様子に見覚えはまったくない。
赤星の大瓶と穴子の天ぷらを通した。

穴子丸一尾に茄子としし唐が添えられる。
カリカリのコロモがとても好い揚げ上がり。
天つゆの塩梅もよろしい。
穴子は店によってかなり高価だが
当店は770円と破格、フトコロにやさしい。

焼き鳥を追加した。
タレをくぐらせたねぎま仕立てが2本。
七色を振ってパクリ。
うん、もも肉がプリッと柔らかい。

日本酒がほしくなり、品書きをチェック。
おっと、金婚正宗じゃござんせんかー。
これはめったに飲めないゾ。

志村けんの地元、東村山の豊島屋酒造は
金婚正宗のほかにも
ひな祭りの白酒でとみに名を馳せている。
江戸時代から世に広まった白酒の元祖を
自ら名乗ってはばからない。
金婚の1合瓶を熱めにつけてもらい、
その辛口を存分に楽しんだ。
お勘定は2210円也。

遠方に出掛けると
2軒目は都心に戻りたくなる。
ふと思いついて4日前に行ったばかりの
交通会館地下「徳田酒店」へ。
土曜日とあってみんな飲んでいる。
なぜか若い女性のペアが目立つ。

ドライの大瓶に本日のおばんざいから
カンパチ煮付けをお願い。
馬刺しを通すと、これは売切れ。

ヤケに立て込んで両サイドがキッツキツ。
何だか落ち着かない。
当店は平日の昼下がりに来るのが一番だ。
そそくさと立ち上がり、会計すると
千円札1枚に百円玉1個のオツリがきました。

「大菊 総本店」
 東京都目黒区平町1-25-20
 03-3718-9111

「徳田酒店」
 東京都千代田区有楽町2-10-1
 東京交通会館 B1
 090-3483-6999

2024年3月8日金曜日

第3488話 壺のタレ 守り続けて 120年 (その2)

翌週、舞い戻った「柳下」。
おっと、その前に話を5時間ほど巻き戻す。
実はこの日の昼下がり。
白山上の新しい行きつけそば店、
「満寿美屋」を訪れたのだった。

夜には「柳下」に行く予定。
よってガッツリ食べるのはやめておく。
わさび芋(とろろ)でビールを飲んだ。
信州の清酒、大雪渓に切り替えてもう一品。
来るたびに野沢菜では芸がないので
何かほかのモノにしよう。

ここでウッカリ頼んじまったのが
めざしと来たもんだ。
夜にオイルサーディンだってのに
うっかり八兵衛もいいところ。
最近トンと見ないけど、
高橋元太郎は元気なんだろうか?

結局は薬局、5本の干した小いわしに
マヨネーズを付けたりもしながら
胃袋に収めたのでした。
何をやってるんだ、お前は!

そうして参上した滝野川「柳下」である。
例によってドライを飲みつつ、
ふと壁に目をやると
何枚かの貼り紙というか、短冊がー。
その1枚に思わずニヤリとさせられた。
” 酒と女は二合まで ”
まったくもって当意即妙なりけり。

親しい友人に一男五女の末っ子がいるんだが
この人の親父サンがスゴい。
工務店の経営者、いわゆる大工の棟梁で
二号サンがスナック「M子」のママと来たもんだ。
生まれた長女にそのままM子と名付けてしまい、
それがカミさん(彼女の母親)に
バレたもんだからサァ大変。
座敷に皿や茶碗が飛び交ったんだとサ。

” 天橋立 " は極めて美味だった。
途中、2回も玉ねぎを足して温め直してくれる。
けっこうな量につき、当夜の焼きとんは
レバとハツ&タンのミックスを2本づつ。
腹の中がイワシだらけの一日となった。
ほうら、よい子の皆さんの合唱が
どこからともなく聞こえて来たヨ。

♪ イワシの学校は腹の中
  そっとのぞいてみてごらん
  そっとのぞいてみてごらん
  みんなでお遊戯しているよ ♪
   (作詞:茶木滋)

注:オリジナルはすべてひらがなだが
  読みにくいのでアレンジ

イワシ三昧になったものの青背のサカナは
身体にいいからヨシとしましょう。

「やきとん 柳下」
 東京都北区滝野川6-8-2
 03-3916-8043

2024年3月7日木曜日

第8487話 壺のタレ 守り続けて 120年 (その1)

明治通りと白山通りの交差点近く。
大正大学・巣鴨キャンパスの向かいあたりに
「柳下」なる古い赤ちょうちんあり。
八十路の女将一人が切盛りしており、
焼きとんがウリの店だ。

神保町で映画を観たあと、
都営三田線で1本、西巣鴨で降りた。
駅から徒歩1分、暖簾を静かにくぐる。
まだ開店直後の17時過ぎ、先客は誰も居ない。

L字のカウンターに着いて
ドライの大瓶をお願いし、
シロとレバをタレで焼いてもらう。
当店は2本しばりである。

塩でも頼めるが女将は強くタレを奨める。
何せ、屋台で開業して以来、
120年の長きに渡り、
守り続けたタレが震災&戦災を乗り越え、
時代物の壺に納まっているからネ。
コイツはスゲェや。

大瓶をもう1本に今度はカシラを塩。
それと青森産ニンニクを追加した。
ニンニクは焼くのではなく、
チンして味噌を添えて供される。

後客二人組が来店。
ビールと焼きとんのほかに
オイルサーディンを発注。
これは缶詰を開けたその上に
大量の玉ねぎのみじん切りを乗せ、
直火のガスに掛けられた。

てっきりイタリアかスペイン産と思いきや、
驚くなかれ、国産の、しかもあの天橋立で
製造・販売されているものである。
これには苺ミルクの日本酒(前話参照)と
同じくらいにビックラこいた。

日本三景の一翼を担う天橋立で
イワシの缶詰とはねェ。
どうして試さずにおらりょうか。
でも1人で1缶はキツい。
翌週、イワシのためだけに出直した。
ちゃあんと予習をした上でネ。

このオイルサーディンは
京都府宮津市は竹中罐詰の商品。
天橋立オイルサーディン いわし油漬け
その名称で売られている。
使用される油は一般的なオリーブ油ではなく、
綿実油(コットンシード・オイル)なのだ。

=つづく=

2024年3月6日水曜日

第3486話 苺ミルクのような日本酒

ときどき利用する日暮里駅前ビルの「助平」。
昨秋「マジメにスケベな焼き鳥屋」として
当欄にも登場させた。
15時開店と、J.C.みたいなヒルノミストには
極めて使い勝手の好い店だ。

この日も15時半におジャマした。
サッポロ赤星のお通しはほうれん草ひたし。
チェーン居酒屋のつまらんヤツとは全然違う。
味よし、食感よし、身体にもよしの三拍子。

来れば頼むのスルメイカ山わさび醤油漬けを
エクストラ山わさびでお願いしてみた。
いいネ、いいですネ、脇にこんもり添えてある。
この一鉢で大瓶2本は飲めちゃいそうだ。

てなこって、赤星のお替わり。
焼き鳥は、はつ・はらみ・ふりそでを塩でー。
それぞれ、心臓・横隔膜・肩肉のことである。
レベルが非常に高く、とても旨い。

隣りに常連と思しきオニジさんが着席。
オニジはオニイさんとオジさんの合いの子で
彼は赤星の大瓶&ハラペココースを通した。

ハラペココース 1045円
今日のオススメの串6本を順番にお出しします  

メニューにそうある。
健啖家なんだねェ。

オニジが店のアンちゃんに
オススメの日本酒を訊ねた。
問われたアンちゃんが
かざした一升瓶の色に度肝を抜かれた。

何と、どっピンクじゃないか!
まさに苺ミルクそのもので
こんな日本酒ありなのか?
オニジの許しを得て、瓶の裏のラベルを拝見。

英君 miss Cherry 1800ml
この酒はもろみが醗酵中に赤い色素を出す
特殊な清酒酵母を使用した桃色のにごり酒です。
にごり由来のとろっとした舌ざわり、
サクランボやイチゴ等のベリー系果実のような
甘さと爽やかな酸味が特徴で甘酸っぱく、
見た目も味わいもかわいらしい、
新感覚の日本酒です。

当方も苺ミルク酒を1杯いただく。
ラベル通りの味わいに感心はしたものの、
やはりオッサンには似合わんなァ。
若く可愛いコにこそふさわしい。
オオタニサ~ンとこの真美子チャンとかネ。

「真面目焼鳥 助平」
 東京都荒川区西日暮里2-25-1
 03-5615-5140

2024年3月5日火曜日

第3485話 練馬区に たった一つの 宿場町

東武東上線に東武練馬なる駅あり。
駅舎は辛うじて板橋区に収まっているものの、
南口に出ると、そこは練馬区・北町。
かつては下練馬宿、練馬区唯一の宿場があった。

練馬区には区役所所在地の練馬があるが
東武練馬からはずいぶん離れており、
何でまたこんな駅名を付けたのか
ちと理解に苦しむ。

それはそれとして南口の旧川越街道に出た。
創業45周年の町中華「たけいし」へ。
初老のご夫婦だけの営みである。
目を惹いたのは台湾酢豚(600円)。
全体的に値付けは安めだが
酢豚でこの値段はないだろう。
回鍋肉なんかは800円だからネ。

たぶん小皿なんだろうな。
渡りに舟とばかりお願い。
ドライの中瓶をトクトクやりつつ待つ
調った皿には豚ブツ10個、あとは刻みねぎ。
けっこうなボリュームだった。

店主が「けっこう辛いですヨ」と
言うだけあって唐辛子粉がどっさり。
タレではなくヒタヒタのつゆ仕立てだ。
全体として甘辛酸っぱく、けして悪くない。
とんかつ1人前ほどの量を平らげた。

麺半分でお願いしたラーメンは
中太ちぢれ麺に色の濃いスープ。
具材は厚く大きいバラチャーシュー1枚、
メンマ、もやし、小さな海苔。
大森や渋谷の「喜楽」のソレによく似ており、
揚げ玉ねぎが浮いてりゃ、まさしくである。

この宿場にもう1軒、狙いを定めた店あり。
昭和レトロ喫茶の「ボタン」だ。
入口ではステンドグラスのお出迎え。
ジャズの流れる店内には
お定まりのようにシャンデリアがぶら下がる。
上野の「王城」や「古城」を
コンパクトにしたような感じだ。

レトロ感に触発されて
懐かしのジンフィズをお願いしてみた。
レモン・スライスとマラスキーノ・チェリーを
浮かべたフィズはかなりジンが薄い。
柿の種付きである。

ビールが800円なのにジンフィズは550円
ウーロンハイもレモンサワーも
ハイボールまでも、みな550円。
町場の喫茶店には珍しく、
8時から24時までの営業だ。

大名行列とは無縁の下練馬宿に
旅籠はほとんどなかったらしい。
旧川越街道の北一商店街を
上板橋へと歩いてゆきました。

「たけいし」
 東京都練馬区北町2-36-3
 03-3937-0144

「ボタン」
 東京都練馬区北町2-39-2
 03-3934-2225

2024年3月4日月曜日

第8484話 真鯛三昧 交通会館 (その2)

東京都民のパスポート取得でおなじみ、
有楽町駅前、交通会館の地下に居る。
今でこそ、新宿・池袋・立川でも
旅券を取ることができるが
昔は有楽町だけだったと思う。

「徳田酒店」の鯛皮ポン酢は
大根おろしと大葉に加え、
シャキシャキのわかめが歯ざわり抜群。
ヌルヌルとヤワいわかめは最悪だからネ。
塩辛に負けず劣らず美味しくいただいた。

鯛つながりで鯛の骨酒(こつしゅ)に気が向く。
お願いすると、オネエさん曰く、
「お時間いただきますが・・・」
「構わないヨ・・・あっ、それならその間に
 水尾の冷たいのをもらおうかな?
 あと、鯛の刺身もお願いネ」

奥信濃は水尾山の湧き水で造られる水尾。
 ふくよかな香りを持ちながら
 すっきりとした辛口の酒(+7)
との但し書きがあった。

先日「ニュー浅草」で飲んだ、
同じ長野の信濃光ほど辛口感はないものの、
ふくよかすっきりは看板に偽りなし。
旨い酒である。
おのれの出身地の酒を応援するのは
甲子園の高校野球とまったく一緒。
同郷のよしみ以外の何物でもない。

真鯛の刺し身は5切れ付け。
今朝さばいたのだろう、コリコリである。
醤油の小皿をもう1枚もらう。
卓上にたまり醤油も用意されていたのでネ。

鯛の骨酒は秋田の高清水の200ccカップ。
骨付き中落ちの小片が
ポトンと一つ放り込まれていた。
飲みくちはというと・・・う~ん、
これなら河豚のヒレ酒に軍配だろうヨ。
それでも飲み干し、骨までしゃぶる。

13時半を回り、昼めし派と飲み派が逆転。
J.C.の左右も呑み助たちで埋まった。
スタッフとのやり取りを聞いていると
ほとんどが常連客だ。

二人のコータローのおかげで
初めての利用であったが気に染まった。
3種の真鯛をやっつけ、
酒まで鯛の骨酒だもんねェ。
毒を食らわば皿まで、鯛を食らわば酒まで、
ってか?

「徳田酒店」
 東京都千代田区有楽町2-10-1
 東京交通会館B1
 090-3483-6999

2024年3月1日金曜日

第8483話 真鯛三昧 交通会館 (その1)

台風並みの風が吹き荒れる日。
雨もイヤだが風もイヤだ。
これは昔からTVのCMでもおなじみ。
「風、ヤね」
おっと、あれは風じゃなくて風邪だった。
酒井和歌子のベンザCMが懐かしい。

こういう日は土竜(もぐら)の如く、
地下にもぐりっ放しが一番。
はて、何処に避難しようか?
ふむ、日比谷か銀座辺りだろうな。

この月曜日、たまたまTVで観たのは
二人のコータローが
地下で飲んだり食ったりする番組。
小泉孝太郎&吉田鋼太郎である。
日比谷に始まり、
有楽町や八重洲の地下街をめぐってゆく。

たまたま目にしたのは有楽町駅前、
交通会館地下の「徳田酒店」。
大阪で多店舗展開する大衆酒場は
なかなか感じがよさげにつき、
よお~し、行ったろうやないかい。

横長の暖簾をくぐると、
目の前に横長のカウンター。
間口は広いが奥行きは狭い。
右の奥にテーブル席もあった。

ドライ大瓶を通し、品書きに目を落とす。
おっ! 鯛わた塩辛があるゾ。
大好きだが、まずお目に掛からない。
即注の巻である。
鯛皮ポン酢にも惹かれ、これまた即注。
さすが浪花の人気店、
花のお江戸とはずいぶん趣向が異なる。

塩辛を口元に運んだ。
ん?  嗅覚が生臭さを感知。
実は鯛皮のせいではなく柳箸の成せるわざで
このことはニューヨークから帰国後、
旧花街、柳橋に住み始める前から知っていた。
生の柳の枝は生臭いんだ。

思い出すなァ、あれは四半世紀前の1999年。
当時のGFは大手乳業会社のOLで
彼女と吉祥寺の鮨屋を訪れた。
楽しい食事だったが駅への帰り道。

「美味しかったけど、
 おサカナがちょっと生臭かった」ー
そう、つぶやいた彼女。
「いや、アレはサカナのせいじゃないんだ。
 箸が柳だからだヨ」
「なあ~に、ソレ?」
説明してやったら目からウロコがポロリンコ。
隣りの西荻で飲み直しと相成りました。

=つづく=