2015年4月30日木曜日

第1088話 レバをたっぷり食べたレバ (その6)

「喜多八  西日暮里店」の特製煮込み鍋は期待外れだった。
単に煮込みではなく、
ご丁寧に煮込み鍋を謳うのは加賀屋グループの特徴で
どうやら当店はそのグループの流れを汲むらしい。
西日暮里店を名乗るからには
ヨソに本店か姉妹店があってしかるべきだが
板橋に本店があるとのこと。

何かほかにもう一品をと、品書きをチェック。
煮込み鍋もさることながら、フツーの鍋が目についた。
かき鍋・たらちり・寄せ鍋・豚しゃぶ、
これがすべて二人前で金2千円也。
おい、おい、カキもタラもみんな同値かい。
ずいぶんアバウトだな。
今さら鍋を二人前はシンドいし、
相方の意向をうかがうと、やはりここが潮どき、
河岸を変えることで意見の一致をみた。

雨はいよいよ本降りである。
JRで上野へゆき、構内の店舗で妥協の一手かなァ?
鎌倉へ帰るP子にも好都合だろうし・・・。
そのつもりで駅方面に歩き始めると、
すぐ隣りに町の中華屋があるじゃないの。
店頭に貼られた手製ポスターによれば、
ラーメンとレバニラが自慢の様子だ。
ふ~む、レバニラねェ。
わざわざ電車に乗ることもないか。
打診すると、ここもまた意見の一致であった。

雨は間断なく降り続いている。
即断即決に越したことはない。
とにかくダメ元で飛び込んだ。
すると、老夫婦が今まさしく賄いの真っ最中ときたもんだ。
われわれ二人オジャマ虫、
食事のジャマをしちゃったみたいで恐縮してしまう。

それでも二人揃って「いらっしゃいませ!」の元気な発声があった。
狙い通りにビールとニラレバを所望すると
店主は食べ掛けのまま、おもむろに立ち上がって厨房内に入る。

所要時間はホンの数分。
チャッチャッチャと手際よく中華鍋をあおったと思ったら
そのままガスレンジの上に鍋を置いて食事に戻るじゃないの。
おい、おい、オレたちのレバニラはどうなっちゃうんだい?

するとすかさず今度は女将さんが食事を中断、
中に入ってそのニラレバを皿に盛りつけましたとサ。
調理と盛りつけが分業制になっておる。
いや、マイッたネ、これ以上の夫唱婦随がございましょうか。

皿を運んできたのも女将のほう。
だが、運ばれたレバニラを一べつして
われわれは互いに互いの瞳を見つめ合ったのでした。

=つづくー

2015年4月29日水曜日

第1087話 レバをたっぷり食べたレバ (その5)

よりによって、はるか昔の遠きアフリカに翔んだと思ったら
朝令暮改を実践して「モスバーガー」に舞い戻ったりと、
ハナシがちっとも前に進みませんな。
まことにすまんこってス。

そうこうするうち、レバとホルモンが焼き上がった。
西日暮里は「喜多八」のカウンターに横並びだ。
1本120円のレバは焼きとん。
もうちょいレアめのほうが好きだが焼き過ぎでもないし、
さほどパサつかずに柔らかい焼き上がり。

1本180円と5割増しのホルモンは牛だろう。
ハラミかカシラのようだが硬くて奥歯に負担が掛かる。
いや、やっぱり豚のカシラじゃないかな?
それにしちゃ高いネ。
味付けは朝鮮焼肉屋のそれに近い。
ここは下町の伝統が光る、安いほうに軍配である。
サッカーの日韓戦もかくありたし。

二人ともに梅しそ味のバイスサワーに移行する。
ここ数年、台頭してきた大衆酒場のニューフェイスである。
確か、初めて遭遇したのは東京・町田市の老舗馬肉屋「柿島屋」。
第一感は幼少のみぎりによく噛んだ仁丹の梅ぼしガム。
そう、あの味に懐かしさを覚えたのだった。

串を2本づつでは恰好がつかない。
よかったほうのレバをもう2本と、
好みの一致をみた厚揚げ焼きを追加する。
隣りのオヤジさんがつまんでるのを見たらずいぶんデカい。

P子は生まれて初めて口にするバイスに感心することしきり。
「どうだい、初恋の味がするだろ?」
「ぜんぜんしないわ、カルピスじゃあるまいし・・・でも美味しいネ」

相方はバイスをお替わり、当方はビールに戻りながら
何かもう一品を物色するも、すかさず鶴の一声。
「ねェ、次は煮込みが食べたい!」―ときたもんだ。
あっそ! いいでしょう、いいでしょう、お願いしましょう。

しかも品書き札には特製煮込み鍋(380円)とあるじゃないの。
これは都内各地に散在する「加賀屋」グループの名代だ。
常日頃から「加賀屋」の煮込み鍋を愛好する身に異存はまったくない。

ところがコイツが期待を大きく裏切った。
「加賀屋」のレベルには遠く、遠く及ばない。
もつの質が劣るうえ、仕込み時の処理も稚拙で
シロもつに旨みなく、豆腐のみヤケにデカく、
よかったのは白味噌仕立てのつゆだけだった。

ついさっき、”特製”の二文字にツラれた、
いや、だまされたホルモン焼きで失敗したばかり。
まったくもって学習効果ゼロの自分に蹴りを入れたくなりました。

=つづく=

2015年4月28日火曜日

第1086話 レバをたっぷり食べたレバ (その4)

なぜに西日暮里の酒場からアフリカの草原へ
ハナシが翔んだのかというと、
ミャンマーの男とマサイの男に共通点を見い出したからだ。
J.C.的にはミャンマー人はアジアのマサイ族だネ。

それはともかく「喜多八」で最初に注文したのは
レバ焼きとホルモン焼きだった。
レバはそれを食べたがったP子が、
ホルモンは当店特製とあった謳い文句につられたJ.C.が、
それぞれ要望したものである。

串が焼けるあいだ、会話は互いの近況報告。
そしていつしか話題はハンバーガーに及ぶのだった。
前々話でふれた”大見得撤回”がコレだ。
しばらくはバーガーに目もくれないと宣言したのに
P子と会う約束をしたとたん、
モス・チーズバーガーを食べとかなきゃなるまい、
まるで重要なミッションのごとくに反応してしまった。

でもって食っただヨ、
漫画「ポパイ」に出てくる、
バーガー好きのウインピーおじさんみたいに食っただヨ。
注文したのはくだんのモス・チーズと
フライドポテト&フライドオニオンの盛合わせ。
これを店ではオニポテと称する。
センスレスのベタなネーミングだ。
「モスバ」はもちょい洗練されてると思っていたけどなァ。

プラスティックのナンバープレートを持って2階に上がったものの、
無性にビールが飲みたくなった。
バーガーにはいいとしてオニポテにコークやコーヒーは味気ない。
白状すると結局は薬局、近所のコンビニに走ったのでした。

何のために?  もちろん缶ビールを買いにですヨ。
もちろん反則は承知の上、
だって「モス」にせよ「マック」にせよ、
ビールはハナから置いてないんだから仕方がない。
ビールなしでオニポテなんか食えないヨ。

食ってみてマイッた。
いえ、オニポテじゃなくってモスチーのほうだけど、
一口パクリとやった瞬間、ソースは飛び出る、トマトははみ出す、
両の指はベチャベチでら口の周りはベトベトだ。

完食後、手を洗いながら鏡に自顔を映す。
相変わらず、美貌(?)の衰えはないが
口辺にトマトソースの残滓が照り光っている。
しょうがないねェ・・・手洗いついでに顔まで洗ってやったぜ。

=つづく=

2015年4月27日月曜日

第1085話 レバをたっぷり食べたレバ (その3)

西日暮里の居酒屋「喜多八」は宵の口から盛況をきわめていた。
価格設定に経営者の良心を感じ取ったJ.C.、
店主の風貌と動向を探ると、温厚のようでいて仕事には厳しそう。
目下、厨房で弟子を教育中だった。

若い弟子は店主よりずっと背が高い。
細身でひょろりとしており、ヤケに手足が長い。
色浅黒く、どうみても倭人ではない。
われわれのそばにいた接客係のアンちゃんもしかり。
厨房担当とそっくりの面貌と体形である。

そういやあ、ビールと一緒に
突き出しの大根浅漬を運んできた少女も
日本語たどたどしく、明らかにフロム東南アジア。
はは~ん、ことここに及び、ピンとくるものがあった。

折りよくフロア・マネージャーらしき女性が
注文を取りに来たので
実はこの人も東南アジア系なのだが、訊いてみた。
「あなたたちはみんなミャンマーの人?」
「アッ、ハイ、そうです」
予想は的中する。

以前、よく利用した日本橋の居酒屋は
店主以外すべてミャンマー人のスタッフで
彼らの温厚な性格は使用人として打ってつけの国民性なんだと、
その店主から聞いたことがあった。

それにしてもミャンマーの若者は手足が長く背が高い。
女性はタイやマレーシアと大して変わらないのに男はまったく違う。
風貌は東南アジアとインドの中間といった感じだ。

ここでJ.C.、ずいぶん昔のことを思い出した。
あれは42年前、東アフリカを一人で旅していたときだ。
ケニアの首都・ナイロビを基点として
インド洋を臨む東海岸のモンバサとラムー、
さらに隣国のウガンダやタンザニアをバスでめぐっていた。

内陸にあるウガンダの首都・カンパラや
キリマンジャロのふもとのアリョーシャやモシの町を周遊していると、
途中、停留所でもないのにバスがやたらに停まる。
この場合、乗り込んでくるのはまず間違いなくマサイ族だった。
槍1本でシンバ(ライオン)に立ち向かう、
あの勇猛果敢なマサイである。

さすがに槍を携えてはいなかったが
男も女も上半身裸で天真爛漫。
バスの運賃を払わなくてもとがめられない。
ついでに国税も免除されているとのこと。
彼らには国籍がないのだ。

=つづく=

2015年4月24日金曜日

第1084話 レバをたっぷり食べたレバ (その2)

雨にたたられたその夜は荒川区・西日暮里にいた。
のみともにしてめしとものP子と一緒だ。
駅からすぐの横丁は右に居酒屋、左にバルである。

「お好きなほうをどうぞ」―そうは言ってみたものの、
十中八九、敵はバルをチョイスするハズ。
当方の頭の中は早くも赤ワインのアテにどんなタパスを頼もうか・・・
そのことでいっぱいだった。
好物のボケロネス(ヒシコイワシの酢漬)はあるだろか・・・

ところが予想はものの見事に覆される。
なんとヤッコさん、右手の大衆酒場を選んだじゃないの。
実に意想外、おどろき桃の木であった。
ただ同時に感心たことも確か。
今さら気取ってワイングラスを合わせる仲じゃなし、
見かけより実質が大切だものネ。

おおかた酒場好きのこちとらに気をつかってくれたのだろうヨ。
すると、そうでもなかった。
曰く、鎌倉や横浜にバルやカフェはいくらでもあるが
東京の下町みたいに人情味あふれる、
ザッカケない飲み屋はきわめて限定的との仰せ。
ましてやJ.C.がしょっちゅう口にしている、
美味しい焼きとんにありつくなんてほとんどムリ。
そう言って細い眉にシワを寄せるのだった。

そうでしょう、そうでしょう、
三浦半島ももうちょい先の横須賀くんだりまで足をのばせば、
名店・佳店に遭遇することも可能になるけれど、鎌倉じゃあねェ。
せいぜい、世のドヒマな奥様方がありがたがる、
うわべばかりで中身のない和食店が幅を利かせてるだけだもん。
「おまえは、エラいゾ!」―そう言ってほめてつかわした。

入店したのは「喜多八 西日暮里店」。
左にカウンター、右にテーブルが配置されている。
そのどちらも8割、あいや、9割方が埋まっていた。
地元のオジさん、近隣のリーマンに愛されているなら
大きくはずすこともなかろうと安堵したが、ここでハタと思い当たる。
数年前に来てるぜ、ここ! このことであった。
しかも記憶が確かなら、評価はそんなに高いものじゃなかった。

ありゃりゃ、やっちまったかな?
まっ、駄目ならダメで向かいのバルをスペアタイヤとするかの。
安堵のあとに去来した懸念の払拭に成功の巻である。

折りよく2席続きで空いたカウンターの一角に滑り込み、
コップに注いだ瓶ビールで乾杯する。
大瓶が500円とはうれしいじゃないの。
経営者の良心がストレートに表われている。
大衆酒場はかくありたし。

店主のご尊顔を拝するため、店内を見回すと、
いました、いました、カウンター内で
何やら若いアンちゃんに調理の指導中でありました。

=つづく=

2015年4月23日木曜日

第1083話 レバをたっぷり食べたレバ (その1)

二日ほど更新が遅れてしまい、大変失礼しました。
心配してくださり、問い合わせをいただいた、
多くの方々にあらためてお詫びします。
そしてご厚情に対し、深く感謝いたします。

いよいよ長年連れ添ったマイPCと別れのときを迎え、
新しいPCを買い求めたものの、接続が上手くいかず、
今、生まれて初めて都内某所のインターネット・カフェにおります。

ここはマンキツ、いわゆるマンガ喫茶を兼ねていて
なんだか二重の意味で未知の世界に足を踏み入れた感じがします。
いや、これはこれでなかなか楽しいものですな。
ニューPCがワークし始めたら
おそらくネット・カフェに来ることもないでしょうが
次回は「ゴルゴ13」や「のたり松太郎」を
読みに来てもいいかなと思っています。

では遅ればせながらアップしてまいりましょう。

先日、当ブログにてしばらくは
”ハンバーガーなしで生きることに決めました”
なんて、大見得をきってしまったJ.C.、
恥ずかしながら早くも誓いの言葉を撤回する羽目に陥った。

なんとなれば、
その際にいろいろとアドバイスをくれた鎌倉のP子からが連絡あり、
某日、足立区・舎人公園のミッションで上京するから
そのあとどこかで飲もうという誘いだ。
まあ、面倒を掛けたことでもあるし、
一献差し上げるのが妥当でありましょうヨ。

たまたまその夜はこちらも完全フリー、
二つ返事で誘いに乗った次第である。
舎人公園へは日暮里・舎人ライナーを利用してゆく。
さすれば、待合わせは日暮里、もしくは西日暮里が便利だ。
指定した場所は西日暮里であった。

18時ちょうどにJRの改札を出ると、すでに笑顔の彼女が待っていた。
今までの半生、さしたる苦労もなかったのだろう、
面影に屈託というものがまるでない。
シアワセなヤツよのう。

飲み処にこれといったアテはなかったが
行き当たりばったりでいかようにもなろう。
ところが外に出ると、折悪しく雨。
それも篠つくとまではいかないまでも、かなりの降りである。
駅そばのコンビニでビニール傘を調達すれば、
問題は解決しても雨の中を歩き回るのはイヤだ。

コンビニの代わりに近くの店に飛び込むことにした。
目の前にはスペイン・バルと大衆酒場がちょうど向かい合わせ。
どちらにするか、選択権を相方に委ねたのであった。

=つづく=

2015年4月22日水曜日

第1082話 めざしうれしや麦とろ定食 (その3)

「満寿屋」の麦とろ定食を前にして思わず舌なめずりの巻である。
常温の真澄を味わいながら
真っ先に箸をつけたの戸隠そばだ。
そばはもちろんれっきとした食事になり得るが
酒の合いの手としてもその本領を発揮してくれる。

故・池波正太郎翁曰く、
「酒を飲まぬくらいなら蕎麦屋には入らぬ」―このことであった。
第一、そばはノビるから早めにいただかないとネ。
食味はいわゆる御前そばと田舎どそばの中間といったふう。
特有の噛みしめ感を堪能する。

合い間にめざしを1本やっつけたし、味噌椀にも手をのばした。
椀ものは冷めちゃうからネ。
具は豆腐と水菜、味噌は典型的な信州味噌である。
キメ細やかな白味噌は
豆カスを嫌う信州人のわが身にとってまさしくおふくろの味、
名古屋あたりの人々が三州・岡崎の八丁味噌を愛するのと同じことだ。

そうこうしながら真澄は早くも2杯目、まっこと旨い酒ぞなもし。
よほどつまみに何かもう1品と考えたものの、
目前にとろろ&麦めしが控えているのだ、浮気している場合ではない。
当面の品々への集中が大切で、それがまた食卓の作法でもあろう。

いよいよ麦とろにとり掛かる。
唯一、気になったのは麦めしにおける麦の割合の少なさだった。
パラパラと散見されるだけで
ほとんどが白米では本来の醍醐味に欠ける。
興をそがれるとまでは言い切らないが、粗野な純朴さがほしい。

もっともこれは店側のせいだけではあるまい。
今の日本人、麦めしなんぞに目もくれないのでしょう。
食生活が豊かになる過程において失ったものもまた多いのだ。
かく言うJ.C.、自分で大麦を買い求め、
炊飯する気にまではならないし・・・。

特筆する点はないにせよ、とろろは悪くなかった。
箸休めのしば漬はともかくも
きざんだ白菜漬には紫蘇の実が散っている。
ホンの数粒の”実”なれど、これが”実”に効果的であった。
残り1本のめざしは麦とろ(実際は米とろ)とともに美味しくいただいた。

老頭児(ロートル)にめざしはうれしい。
ノスタルジックな気分にさせてくれるものネ。
帰りに近所の惣菜&乾物屋でついつい、2連のめざしを購入してしまう。
その夜は帰宅後、めざしを焼いて独酌のつづきに及びましたとサ。

青年は荒野をめざし、
老年は今夜もめざし、

ということなんですな。

=おしまい=

「戸隠そば 満寿美屋」
 東京都文京区本駒込1-2-2

2015年4月21日火曜日

第1081話 めざしうれしや麦とろ定食 (その2)

根津の谷と茗荷谷、二つの谷に挟まれた台地は
向丘と白山であり、馬の背のごとく南北に走っている。
その白山上、「戸隠そば 満寿美屋」にいる。

前話で豊富な品書きの一部を紹介したが
さらに加えてこの店の特徴でもある小ぶりのどんぶり、
いわゆるミニ丼の多彩な顔ぶれにもふれておかねばならない。
”おそばとご一緒にミニ丼をどうぞ” と謳われており、
これは全品ご披露しよう。

=ミニ丼=
 かつ丼 鴨丼  以上450円
 麦とろ丼 じゃこ高菜丼 カレー丼 肉味噌丼
 牛丼 ひじき丼 かき揚げ丼  以上350円

ここまで揃ったラインナップを日本そば屋で見るのは初めてだ。
食べ手にとってはまことにけっこうなことではあるけれど、
さすがにひじき丼はやり過ぎで
こんなん誰も注文せんやろ、と思ったものの、
渡る世間は奇人ばかりなりけり。

「アラ、私は歓んでお願いするわ」
「玉子とじにひじき丼なんて素敵な組合わせじゃない」
かように言い放った友人二人。
”こじき”(禁句にして死語であろうか?)が姿を消した今の日本、
代わって”ひじき”が台頭してるんだなァ。

品書きを吟味する間に早くも中ジョッキは空っぽ。
わがふるさと、信州の生んだ銘酒・真澄の吟醸に移行した。
七笑といい、千曲錦といい、信濃の酒は好きだ。
いえ、これはけっしてひいき目ではありませんゾ。

結局、白羽の矢を立てた注文品は
サブタイトルにあるように麦とろ定食。
というのも、店先のサンプルケースをチェックして発見したことに
この定食には2本のめざしが添えられてる。
目黒にサンマあれば、白山にメザシあり。
酒のアテによし、飯の友にまたさらによし。

あの土光サン(古すぎてどなたも判らんか?)が愛しためざし。
麦とろ定食を選択したのは
ひとえにめざしの存在があったればこそなのだ。
普段は晩酌時にいきなり定食など頼まないが
この宵は空腹感激しく、ついオーダーしてしまった。

まずはご覧あられたし。
2尾の小魚に存在感あり
こうしてワンショットに収めると、
主役の麦とろを食ってしまっているではないか!

=つづく=

2015年4月20日月曜日

第1080話 めざしうれしや麦とろ定食 (その1)

文京区・本駒込在住のご隠居、
K子老人から、またまた将棋のお誘いあり。
丸々1ヵ月は間が空いたので、うずうずされていた由、
邪険にはできないから都合をつけて出向いた。

この日は嫁いでいった娘さんが帰ってきており、
お茶だのコーヒーだのおやつだの、いろいろと世話をやいてくれる。
勝ち負けいったりきたりの戦いすんで日が暮れて
おもむろにご隠居曰く、
晩めしの支度をさせるからぜひ3人で一緒に食べましょう。
いえ、いえ、それでは娘御に余計な負担がかかる。
固辞してK子老人宅をあとにした。

ときすでに晩酌どき、
遠くへ移動する気にもなれず、どうしても近場で間に合わせてしまう。
将棋はなかなか疲れるものなのだ。

やって来たのはまたもや白山上。
今宵の休息所は日本そば屋である。
屋号は「戸隠そば 満寿美屋」。
信州そばを食べさせてくれるそば処だ。

さっそく生ビールの中ジョッキ(550円)をお願いし、
品書きの吟味に没頭する。
ビールの銘柄はスーパードライだ。

ここは酒も肴もメインのそば類もきわめて多彩な品揃えを誇る。
ザッと紹介してみよう。

=酒類=
日本酒 
 大信州 吟醸 400円  大七 純米 生もと 650円  
 真澄 純米吟醸 700円
梅酒
 頑固おやじの梅酒 400円
焼酎
 (そば) 雲海 350円  天山戸隠 450円
 (いも) 千亀女 350円  山ねこ 600円
 (むぎ) 村正 400円
サワー
 生レモンザワー・生グレープフルーツサワー 各500円

=おつまみ=
 たこわさ 300円  野沢菜 350円  あさり酒蒸し 400円
 めざし 400円  そば屋のシーザーサラダ 450円  
 もつ煮込み 500円  鶏の山賊焼き 700円

=そば・うどん=
 もり・かけ 各500円  玉子とじ 650円  カレーせいろ 750円
 力うどん 800円  梅おろし 850円  天ぷらそば 1000円

=ごはんもの=
 かつ丼・親子丼 各800円  麦とろ定食 850円

実際は披露した品々の3倍はあって
いやはや非常に目移りするぞなもし。

=つづく=

2015年4月17日金曜日

第1079話 ぶらりサンデー・モーニング (その5)

たかだか・・・なんて言い方はショップにもファンにも失礼きわまりないが
「モス」と「マック」のハンバーガー談義を引っ張りに引っ張ってしまい、
今や(その5)まできてしまった。

「マック」といえば、昨日もニュースが伝えていたけど、
売上の落ち込みはとどまるところを知らない。
急坂を転げ落ちる岩石の如し。
ライク・ア・ローリング・ストーンとはこのことだ。
それにしてもチャイニーズ・チキンがここまであとを引くとはなァ。
食品問題は本当にこわい、殊に中国産はネ。

わが身を振り返れば、
一昨日の銀座でチャイニーズの雑踏と雑音にずいぶん悩まされた。
G7の外相会合では我が物顔で公海を蹂躙しまくる中国に対し、
海洋の安保宣言が成されたりもしている。
チキン問題と海洋問題、二つ合わせりゃ、シーチキンじゃないか。

とまれ、「モス」のチーズバーガーを試食したJ.C.、
さっそく、のみとも・P子にメールを送った。

宿題の二人で訪れた「モス」は横浜の馬車道あたりの店舗。
相方の食べたモンは忘れたが
こちらは確か、海鮮かき揚げのライスバーガーを食したハズ。
かれこれ10年以上も前のハナシである。

わが報告では
「マック」のチーズバーガーが133円なのに
「モス」のそれは210円だから
モア・テイスティなのは当たり前とも記した。
すると、P子からすかさず返信あり。

宿題は正解だけど、
私のオススメしたのはシンプルなヤツじゃなくて
モス・チーズバーガーだったのよ

ときたもんだ。
言わば、プレミアム・バージョンらしい。
そんなものがあるとはまったく存ぜぬ当方、
何だか肩透かしを食らったような気分になってめげる。

そこでその旨を反論してみたものの、

これだから世間知らずは困っちゃうな。
今どき「モス」でフツーのチーズバーガーを注文する人なんて
まず、ほとんどいないわ

バッサリと斬り捨てられた。
それはないぜ、セニョリータ!
今さらまた「モス」に舞い戻って食べ直す気にもなれず、
この件はこれで打ち切りとしたい。

読者におかれましてはたいして面白くもない話題に
長々とつき合わされ、ご迷惑なことでした。
あらためてお詫びとお礼を申し上げます。

今年はもうハンバーガーを食べることはないでしょう。
そう決意して心が晴れました。
バーガーなしで生きることに決めました。
大好きな石川さゆりの「暖流」の歌詞とメロディーが
頭の中を駆け巡っております。

=おしまい=

「モスバーガー 巣鴨店」
 東京都豊島区巣鴨1-2-2
 03-5940-5433

2015年4月16日木曜日

第1078話 ぶらりサンデー・モーニング (その4)

あらまァ、昨日の東京の快晴はすばらしかった。
昼すぎには銀座に出て独りランチを楽しんだ。
その後、銀座通り(中央通り)と並木通りを中心に歩くこと1時間余り、
ここ半月のうっぷんを晴らしまくったのでした。
銀座通りを埋め尽くすチャイニーズ・ピープルと
大声で飛び交うチャイニーズ・ランゲージに辟易としながらも・・・。

さてさて「モスバーガー」の一件であった。
P子からの返信メールを紹介してみよう。
あまりに長いので少々割愛しましょう。

へェ~ッ、J.C.が「モス」とはおめずらしい。
一緒に入ったことあるのおぼえてる?
10年も前だから忘れてるでしょうね。
さて、どこの「モス」だったでしょう?
これは宿題です。

私もしょっちゅう行くのではないけど、
ときたま入るからお店の状況は判っているわ。
シンプルなハンバーガーを比較すれば、
「モス」のほうが「マック」より好きです。

主力商品のモスバーガーと比べるなら
価格的に「マック」のベーコンレタスバーガーあたりが対象よ。
トマトVSベーコンレタスの勝負は
好きずきなのでどっちもどっち。
トマト好きの私は前者に軍配です。

お気に入りはチーズバーガーと野菜バーガーで
両方は食べなくてもけっこうだけど、どちらか試してみて、みて。
お上品なお味がすることよ。

朝モスのライスバーガーは玉子と鮭と2種類あります。
でも、おすすめしません。
おそらく世のオジさまたち用、っていうか、
朝はごはんじゃなきゃダメっていうお客さんのために
あえて開発されたのではないかしら?

ほら、「松屋」とか「吉野家」の和朝食が好きなのに
朝の時間を落ち着いて過ごせない人々のために
ゆっくりごはんを召し上がれ! ってカンジだと思う。
J.C.のいうとおり、「モス」はまったりできるもん。

結論として大手チェーンでバーガーをいただくなら
私は「モスバーガー」を選択します。

ハァ、そういうもんでっか。
でもって、さっそくチーズバーガーを召し上がりに
「モス」を再訪したのでありました。
ちなみにくだんの巣鴨と千石のあいだの店は巣鴨店でした。

チーズバーガーとパストラミサンドというのを食べたが
なるほど、チーズバーガーは「モス」の圧勝。
おそらくパティが「マック」のビーフ100%に対し、
「モス」のそれは合い挽きだと思われた。
バンもこちらがマッチベターだ。
ふむ、ふむ、なるほどねェ、老いては子に従えでんな。

=つづく=

2015年4月15日水曜日

第1077話 ぶらりサンデー・モーニング (その3)

「モスバーガー」の店内に居ながらにして
「マクドナルド」のハナシもないものだが
もう一点だけ苦言を呈しておこうかな。

3週間ほど前の早朝、「マック」で朝食を食べた。
メニューはホットドッグとコーヒーである。
「マック」のドッグは美味しい。
ポークソーセージがまことによろしい。
ハンバーガーやチーズバーガーより好きだ。

ドッグが出来上がるまで右手に一歩どころか
三歩も”ズレて”待機に及んだ。
時間つぶしに壁のメニューを眺めていると、
ほう、100円ぽっきりの安価な品々がけっこうあるものよのォ。
ハンバーガー、チキンクリスプ、アップルパイ、コーヒー、みな100円だ。
チーズバーガーでさえ133円、Wハンバーガーは198円。

何気なくWチーズバーガーに目がとまった。
これが340円である。
あれれ、チーズバーガーを2個買っても266円なのに
ダブルになるとだいぶ割高なのはなぜだろう。
これはパティの質や厚みが違うのだろう。

そう思って、ズレろガールに訊いてみた。
意表を衝かれた彼女、
目だけは見開いたものの、しばし絶句の巻である。
意地悪婆さんならぬ、意地悪J.C.、
ことここに及び、してやったりと溜飲を下げまくったのでした。

やっとこさ口を開いたズレろガール、
「そうですよネ、パティが同じなのにヘンですよネ、すみません」―
ペコリと頭をさげるじゃないの。
こうなると、この娘が不憫な気がしていじらしくなってくる。
べつにアンタが悪いわけじゃないサ、本部が無頓着なんだろうヨ。
簡単な足し算だから、それこそ白鵬じゃないけど、
小学生が見ても判ると思うんだがねェ。

とまれ、朝モスである。
玉子のライスバーガーは美味しくなかった。
きざみ沢庵もダメ。
豚汁だけは具がたっぷりで及第点を上げられるが
これとて他のチェーン店の豚汁よりベターとは言えない。
ただし、店内の居心地はとてもよく、長居しても文句は言われないし、
のんびりと1時間を過ごしたのであった。

その日のうちに若い友人にメールを送る。
ことの顛末を伝え、反応を訊きたかったからだ。
15分と経たないうちに返信があった。
鎌倉在住のP子はかような意見を述べてきたのだった。

=つづく=

2015年4月14日火曜日

第1076話 ぶらりサンデー・モーニング (その2)

どうでもいいけど、いや、よくはないんだが
この四月は急に寒の戻りが来襲したかと思えば、
季節はずれの長雨のせいで気が滅入ることしきり。
寒さはどうにか許せるとして
例年の梅雨以上に降りまくるレインにはお手上げの巻である。

英米ではエイプリル・フール、もとい、エイプリル・シャワー、
それに続くメイ・フラワーなどと称され、
四月の雨が五月の開花を促すものと信じられているが
ひるがえって日本、殊に今年はまったく逆。
散った桜が寒気と氷雨を呼び込んでいる。

エニイウェイ、日曜の午前、
文京区・千石&豊島区・巣鴨の中間にある「モスバーガー」の二階に独り。
窓際のシートにゆったり座り、
白山通りを行き交うクルマを眺めながらサンデー・ブランチを楽しんでいる。

玉子のライスバーガーが豚汁と沢庵を従えて運ばれた。
ウエイトレスの所作が「マクドナルド」とはずいぶん違う。
どっちがいいかって?
そりゃもちろん、「モス」にきまってるじゃん。

マニュアル通りの「マック」と違い、
「モス」には「モス」の個性がそこかしこに表れている。
いつか言おう、いつか書こうと思っていた「マック」に対する不満を
この機会にあからさまにしてみたい。

常連じゃないのでエラそうなことは言えないけれど、
「マクドナルド」で注文を済ませて支払いを終えた瞬間、
自分の娘、いえいえ、孫みたいな少女に
「ハイ、こちらにズレてお待ちください!」―なんて指示されちゃうんだ。

この言葉を初めて耳にしたのは
記憶が確かなら10ヶ月ほど前だったと思う。
”ズレろ!”・・・いったい何て言い草だい。
少なくとも客商売において店が客に投げ掛ける言葉ではあるまい。

中国の鳥肉騒動以来、大幅に売上を落としている「マック」だが
真心のこもらぬマニュアル通りのセリフしか口にできないスタッフが
最前線の業務に携わっていてはまず回復は見込めまい。
マネージメントの感覚そのものも日本人の常識からズレているのだ。

事実、久々に訪れた「モスバーガー」でその違いを実感した。
店内の雰囲気からして「モス」には「マック」のざわつきがない。
来客数が少ないからかもしれないが
穏やかな時間がゆったりと流れている。
”As Time Goes By” ってなカンジかな?

=つづく=

2015年4月13日月曜日

第1075話 ぶらりサンデー・モーニング (その1)

昨日の日曜日、2週に1度の掃除に
Cオバさんがやって来るため、午前中に家を出る。
3時間ほど散歩その他でつぶすつもりでだ。

スタートはたまたま降り立ったJR総武線・水道橋駅。
はて、東西南北どちらに進路を取ったらよかんべサ。
東へ戻れば御茶ノ水、西に進めば飯田橋、
北上すると春日、南下なら神保町である。
つい、このあいだにもこんなシチュエーションがあったっけ・・・。

ちょいとばかり北風が吹いている。
まだまだ若い者には負けぬJ.C.、
年寄りの冷や水といわれようがなんだろが
向かっただヨ、風に向かって北へ、北へと―。

春日の交差点を過ぎ、西片の交差点を抜け、
真っ直ぐ進む道は白山通りである。
千石の先に来てしばらく、
ブレクファーストもブランチも食べてないことにあらためて気づいた。

左手に「Denny’s」が見える。
でもねェ、この手のファミレスは好きじゃないんだわ。
はす向かいに牛めしの「松屋」。
1年くらい前に素材の牛肉をグレード・アップして以来、
値段も上がったが味もグンとよくなった。
だけど日曜のブランチにふさわしいかと問われれば、
さに非ずと応えるしかあるまいて―。

さらに北上して出くわしたのが「モスバーガー」。
振り返れば1年と数ヶ月前、
やはり家を追われた日曜にお世話になった記憶あり。
素通りもなんだから店頭にたたずみ、
しばしメニューをながめてみた。

あれェ・・・なんか内容がずいぶん変わってるではないの。
「朝モス」などと謳って、新鮮な、いやある意味、斬新な、
いえ、いえ、よくよく考えりゃ奇妙な、
おっと、ハッキリ言って陳腐な朝食セットが並んでおった。
洋系はともかくも和系はなかなかに個性的だ。
何せ陳腐なくらいだからネ。

「モス」お得意のライスバーガーを主役にすえた、
DセットとEセットがソレ。
前者は玉子かけごはん風、後者は塩じゃけごはん風。
十数年前からキンピラや海鮮かき揚げのライスバーガーを
発売し始めたことは存じている。
でもネ、いくら「朝モス」だからって玉子かけとか塩じゃけとかは
”策士、策に溺れる”結果を招かなけりゃいいんだけどなァ。

セットであるからにしてライスバーガーのほかに
豚汁とたくあんが婦随している。
番号パネルを持たされて玉子かけを待つこと7分。
キャップをかぶったオネエさんが
トレイを持ってしずしずと2階に上がって来たぞなもし。

=つづく=

2015年4月10日金曜日

第1074話 「れもん」という名のお好み焼き屋 (その5)

池袋のお隣り、大塚の「れもん」にて
鉄板を挟み、O戸サンと相対している。
相方はまだまだ食べるつもりらしい。

お次に注文されたのはうす焼きである。
うす焼きは薄焼きである。
通常、東京の下町のお好み焼き屋は
お好み焼きともんじゃの二本立てで勝負する。
うす焼きはきわめて珍しいのではなかろうか。

店主に訊ねると、クレープみたいなものだという。
薄いパンケーキに具材を包んで焼き上げるらしい。
クレープときくと、J.C.は第一にパリの街角を思い浮かべる。
パリのクレープはコンフィテュール(ジャム)や
ショコラ(チョコレート)やシュクル(砂糖のみ)など、
甘いお菓子にカテゴライズされるもの。
ハムやベーコンや玉子を使うブルターニュ地方のそれは
ガレットと呼ばれ、れっきとした食事になりうる。

品書きとにらめっこしていたO戸サンがネギのうす焼きを選んだ。
ある意味、シンプルで賢明な選択だったかもしれない。
手際よく焼かれたねぎうす焼き
うむ、うむ、これはかなり旨そうじゃないかえ?
確かに他店では見掛けぬ容貌をしてござる。
このままでもじゅうぶんに楽しめるが
相方は青海苔やら生醤油やらで化粧を施してから切り分けた。
どことなくオサレな風情
フウフウ吹きつつ、口元に運ぶ。
ふむ、ふむ、J.C.的にはお好み焼きより、うす焼きが好みかな?
薄いほうがよいのは何もスキンに限ったことではないのだ。
おっと、これは下ネタに非ず、医学のハナシをしているつもり。

さすがにお腹がくちくなったらしい。
もんじゃ&焼きそばをあきらめてオーダー・ストップと相成った。
粉モノをつまみにビールを飲むのはやたらめったら胃にこたえる。
とにもかくにも助かった。

手の空いた店主に
飯田橋「れもん屋」との関係を訊ねたが、まったく無関係とのこと。
それではなぜ屋号を「れもん」に決めたのか?
その問いには明確な答えが返ってきた。
三業地のような場所で小粋な和名にすると、
敷居が高くなってしまい、若い女性に敬遠されるんだと―。

かく言う店主は開業にあたり、
屋号を「れもん」にするか「みかん」にするかで悩まれた由。
とにかく可愛いネーミングが必須なのだそうだ。
言われてみればその通り、
得心がいって目からウロコがポロリと落ちたのでした。

=おしまい=

「れもん」
 東京都豊島区南大塚1-54-1
 033941-6838

2015年4月9日木曜日

第1073話 「れもん」という名のお好み焼き屋 (その4)

前話を読まれたY脇サンよりお便りがあった。
北海道・函館市在住の主婦の方である。

「東京のお好み焼きにスゴく興味がわきます。
 J.C.さん、『れもん』のほかのメニューも載せてください」

かようなご要請、確かに承りました。
それではまいりましょう。

=バター焼き=
 いかバター焼 ほたてバター焼 かきバター焼 牛バター焼 各750円
 しいたけバター焼 アスパラバター焼 しめじバター焼 各550円

=おつまみ=
 牛たん焼 牛かいわれ焼 各600円  とうふ焼 500円 
 こんにゃく焼 450円  ポテト焼 ナス焼 各300円

=そば・うどん=
 焼そば 焼うどん 各650円  五目焼そば 五目焼うどん 各750円 

ほかに特記すべきは2品。
 明石風たこ焼き(10ヶ)  600円
 牛ヒレステーキ(100g) 2300円
である。

こんな感じでよろしいでしょうか、Y脇サン?

さてさて、実食に戻ろう。
くだんのれもん焼である。
三つあるうち最初に焼かれたのはイカ焼だった。
ミニとはいえ、けっこうなサイズ
頃合いを見てひっくり返し、
上手く焼けたところを切り分ける。
まっ、美味しそうではありますな
作業するのはすべて
今宵が初対面の相方・O戸サン。
こちらはただただ見てるだけ、あいや、いただくだけなのだ。
スマンのぉ、申しわけないのぉ!

かような調子でエビ&豚も焼かれていった。
いくらコンパクトなポーションとはいえ、
三つも揃えば、かなりの食べ出がござる。
大酒飲みながら食べるほうはもっぱら少食のJ.C.、
早くもお腹がいっぱい、もう排卵、もとい、入らんぞなもし。

ところがO戸サンの腹積りは
もんじゃとうす焼きを経て、それから仕上げに焼きそばらしい。
オー・マイ・ブッダ!
これからどうなることやら、
気をもみつつ、行く末を見守るJ.C.クンでありました。
ヤバいぞなもし。

=つづく=

2015年4月8日水曜日

第1072話 「れもん」という名のお好み焼き屋 (その3)

熱いカキのバタ焼きで冷たいビールを飲み、
いよいよ粉モノの吟味に入った。
大塚は三業通りの「れもん」にいる。
吟味といっても、お好み焼きやもんじゃの類いは得意分野に非ず、
今宵のお相手、O戸サンにお任せである。

それでも一応、壁に貼り出された品書きを見てみよう。
この店の品々は
お好み焼き、もんじゃ焼き、うす焼きの3つに大別される。
かいつまんで紹介する。

=お好み焼= 
 生いかお好み 生えびお好み あさりお好み 牛お好み
 豚お好み ベーコンお好み すじこんお好み 各750円
 ミックスお好み 800円  れもん焼 850円

=もんじゃ焼=
 もんじゃ焼 650円  生いかもんじゃ たこもんじゃ
 明太子もんじゃ カレーもんじゃ そばもんじゃ 各700円

=うす焼=
 生えびうす焼 たこうす焼 ねぎうす焼 しょうがうす焼 各700円

相方が真っ先に興味を示したのはれもん焼だった。
店名を冠したれもん焼はオペラに例えれば
タイトルロール(アイーダ、トスカ、トゥーランドット、フィガロ、オテロなどなど)、
主役を張るからには店の自信作とみてまず間違いあるまい。

れもん焼とはいったい何ぞや?
第一感はラーメン店にありがちな”全部入り”だ。
いわゆるオールスター・トッピングですな。

ところがどっこい、実際はまったく違った。
よく見れば品書きの横に説明があるじゃないか。
そっくりそのまま引用すると、

 ミニお好み3品セット
 お好み焼メニューより3品お選びください

スモールサイズがトリオでやって来る、お食べ得メニューだった。
相方が迷いに迷ってセレクトしたのは生イカ・生エビ・豚の3種。
3点セットのれもん焼き 
いざ焼きましょうという段になり、
ふとテーブルの脇を見やると、
ありゃりゃ、近ごろトンとご無沙汰の御仁が目にとまるじゃないか。
赤いキャップの化調サン
はたしてO戸サンは
化学の力を借りるのであろうか?
固唾(かたず)を飲んで見守るJ.C.でありました。

=つづく=

2015年4月7日火曜日

第1071話 「れもん」という名のお好み焼き屋 (その2)

飯田橋の「れもん屋(現・もみじ屋)」はさておき、
初対面のO戸サンをお連れした「れもん」の所在地は
豊島区・大塚の旧三業地である。

すでに往時の栄華を偲ぶよすがとてないが
そこはかとなく漂う花街の色香は残っている。
メインストリートに簡素な佇まいを見せていたのが「れもん」だった。
粋なお婆ちゃんが取り仕切る甘味処といった風情は
以前からずっと気にかかっていた。
実態がお好み焼き屋でなかったら
とっくの昔に暖簾をくぐっていたハズだ。

ガラリ・・・引き戸を引いて入店すると、
先客の姿は無かれど、中年の店主が迎えてくれた。
こういうシチュエーションはとりあえずビールで乾杯だろう。
そしてお好み焼きに急ぐ前に何か一品だろう。
まだ、かきの美味しい季節だったし、
ここはO戸サンと意見の一致をみて、バタ焼きを注文した。

まもなく運ばれた粒揃いの生がきに胸の奥で弾けた衝動あり。
コイツをこのまま食べてみたい、生のままで食したい。
店名も「れもん」だし、生レモンなんぞ搾ってネ。
そいでもって訊いて宮下、もとい、みやした。
「オヤジさん、このカキ、このまま生で食べていいッスか?」―
背中を見せて仕込み中の店主に言葉を投げ掛ける。
いや、返答の素早かったこと。
背中がくるりコペルニクス的に180度転回して
「駄目、ダメ、生は厳禁、ゲンキンだからねっ!」―
けっこうな剣幕は即刻の全否定であった。
このあわてぶりがおかしいのなんのって・・・。

そりゃそうだわさ、食べもの商売においては
倒産と同じくらいに恐ろしいのが食中毒だもんねェ。
たじろぎながらもJ.C.、ここは百戦錬磨の勇士、ギャグで返す。
「ですよネ、生ガキは厳禁ですヨ。
 ガソリンスタンドにも貼ってあるもん、カキ(火気)厳禁って!」―
これには店主、唖然にして
ツレのO戸サンは微笑んでいる。

ここでいきなり、店主が厨房から飛び出してきた。
ややっ、手には何やら
凶器を引き下げてるじゃないの。
てっきり引っぱたかれるか、ぶっ刺されると思いやしたネ。

一瞬、観念して目をつぶったものの、
なあ~んのこたあない、店主自らバタ焼きを作り始めてくれたのだった。
鉄板上でカキが小躍りしている
二人は美味しそうな情景に目を細める。
火が通ったところでバターだ
シアワセな気分だぞなもし。

=つづく=

2015年4月6日月曜日

第1070話 「れもん」という名のお好み焼き屋 (その1)

一昨日の土曜日は真冬がぶり返したかのような寒さだった。
その寒気のおかげで思い出した店がある。
かれこれ2ヶ月も以前のことだが
大塚・旧三業地のお好み焼き屋でカキのバタ焼きを食べた。
これがなかなかに美味しかった。

しかし4月の声を聞けば、もうカキとはおさらばサラバ。
秋風吹き始めるまでお預けの巻である。
当初はこの店をすぐに紹介しようと思っていたのだけれど、
あちらこちらと回り道をしているあいだに
すっかりその夜のことを忘れてしまった。
まったくもって歳はとりたくないものよのぉ。

当夜の相方はO戸サン。
世田谷区在住の読者で何回かメールの交換があったものの、
お会いするのは今回が初めてである。
訊けば焼き鳥やもつ焼きなどの肉系よりも
パスタやお好み焼きの粉系がお好きの由、
それでは”粉”の代表格、
お好み焼き屋にまいりましょうか? と相成った次第。

J.C.にとって専門分野ではないお好み焼き。
つらつらと思い浮かべ、案内する気になった候補店は2軒。
一つは西浅草の有名店「染太郎」の真ん前に
ひっそりと暖簾を掲げる「新月」。
ここは昔から気にはなっていたものの、未踏である。
二つ目が思案の末に訪れた今話の主役、「れもん」である。

お好み焼き「れもん」となれば、
当ブログの読者、それも若い女性なら第一感で
飯田橋の有名店「れもん屋」を思い浮かべる向きが多かろう。
と思いきや、ここはずいぶん前に「もみじ屋」と、その屋号を換えていた。

とまれ昔、飯田橋「れもん屋」を訪れたことがある。
JR飯田橋駅南口の改札を出ると、そこはお濠に架かる牛込橋。
出て右に進めば神楽坂下、左にゆけば靖国神社への道筋。
「れもん屋」は左に行って一つ目の角を左折、
すぐ左手の線路沿いにあったハズだ。

フード・ダイアリーをチェックしてみたら訪問は2003年9月だった。
とにかく過去を振り返っても
お好み焼き屋の敷居をまたぐのはきわめてまれなケース。
自分からすすんでは絶対にいかない食べものジャンルだから
出向くときは常にGFのリクエストに応えて重い腰を上げている。

飯田橋の「れもん屋」もご多分にもれず、相方の要請に押し切られた。
別段、旨くも何ともなかったが
銀行のOLだった彼女の見事なコテさばきに
意外な側面を垣間見る思いがしたものだった。

=つづく=

2015年4月3日金曜日

第1069話 花冷えに見舞われて (その2)

上野動物園・西園に隣接する不忍池は3つの小池に分かれている。
西園のすぐ前にあるのが鵜の池。
以前は中ほどの浮き島にカワウがコロニーを形成していたが
いつのまにやらペリカンが居候を決め込んでしまい、
あるじのカワウはその数をずいぶん減らしてしまった。

鵜の池の南東に位置するのが蓮池。
江戸の昔には蓮根の大産地だった由。
その西側がボート池だ。
名前の通りにここだけは手漕ぎ、
もしくは足漕ぎのボートで水面に遊ぶことができる。

N美の抵抗にあって仕方なくボート池を臨むベンチで宴を始める。
バルバレスコ・リヴァータ ’11で乾杯。
う~む、香り高き美酒だぞなもし。
その証拠に相方が早くも相好を崩している。

それにしても寒いぞなもし。
歩いているときには感じない寒気が動きを止めるとすぐに牙をむく。
とにかく松坂屋で調達したオードブルを広げた。
すべて1年ほど前にオープンした「ポール・ボキューズ」の製品である。

売り場の前に立ち、
「好きなモンを3つ選んでいいヨ」―こう伝えると、
彼女のチョイスは
生ハム入りセロリとりんごのサラダ、タコとトマトのマリネ、
ローストビーフとアヴォカトのジュレ寄せだった。
J.C.がそこにチキンのシャリアピン風を加える。

この寒いのにすべて冷製の料理。
チキン・シャリアピンは本来、温製であるべきだが
何せ売り場には電子レンジがないんだわ。
コンビニやスーパーでは常に完備されている”チンさん”が
高級デパートの地下にないという意外なる事実。
この程度のサービスしかできないから百貨店は衰退するんだヨ。

オマケにチキンが塊りだから
プラスティックのナイフを所望すると、その準備もない。
結果、われわれは池の水鳥の真ん前で
彼らと同類のニワトリにかぶりつき合ったのでありました。

ワインを飲み干して、チキン以外はつまみもほぼ完食。
結局、あまりの花冷えに耐えられず、
逃げ込んだのがそこから徒歩3分のそば屋「新ふじ」だった。
菊正の熱燗をさしつさされつしながら
もつ煮込みとおでん盛合わせを味わう。
その旨さたるやP・ボキューズの比ではない。
あっという間に菊正宗・正1合瓶が3本空いたものネ。

息子を保育所に預けてきた相方に
仕上げの鴨せいろを食べさせ、早めの帰宅を促してお開きとする。
たとえ短い時間であっても
気心の知れた盟友と酌み交わす酒は身体に沁みわたる。
暖かくなったら横浜に連れてゆく約束をして別れた。

「新ふじ」
 東京都台東区池之端2-8-4
 03-3821-3913

2015年4月2日木曜日

第1068話 花冷えに見舞われて (その1)

昨夜・・・。
振り返れば、ついさっきのように思えるが小さな花見の宴ありき。
プレイボール(一応、宴=ボールにかけてマス)は18時半だった。
午後からずっと吹いていた北風が雨雲を運んできたのだろう、
おりしも降り出した小雨に身は震える、肩先は濡れる。
今朝の快晴が嘘みたい。

集合場所は都内屈指の桜の名所、播磨坂。
花見スポットとしては
マイ・ベストスリーにランクインの美しい桜並木が連なっている。
そもそも恩賜上野公園、浅草の隅田公園、
はたまた王子の飛鳥山などは人がワンサカ集まり、
酔客の奇声飛び交う人混みにして好まぬ、いや、むしろ嫌いだ。

ただし上野公園に限り、お山の上はともかくも山下の不忍池は気に入り。
皇居を取り囲むお濠を別とすれば、
山手線の内側の都心で池らしい池はここしかない。
花影映す水面にたわむれる水鳥を眺めながら飲む酒のうまさよ。
酒呑みでよかった。
まことに大きなお世話ながら、
下戸の人たちに寄せる同情の思い禁じえぬ池のほとりである。

茗荷谷・播磨坂、不動前・かむろ坂、早稲田・面影橋、
佃島・隅田川テラス、都内ではそんな場所が好きだ。
九段・千鳥ケ淵ももちろんけっこうだが近年、人が増えすぎた。
1966年、日本武道館におけるビートルズ公演の直前。
中学三年生だったJ.C.は当時のGFと下見を兼ねて界隈を散策した。
そのときの人出は今の5分の1にも満たなかったのではなかろうか。
あゝ、過ぎ去りし東京よ、帰りこぬ青春よ!

花冷えに見舞われた昨夜の花の宴は盛り上がらぬままに終演、
もとい、終焉、再びもとい、終宴した。

およそ10日前、上野は不忍池の端にいた。
在米時代からの旧友、ママさんN美と数ヶ月ぶりの再会である。
千葉県の内房からやって来る相方の便宜を考慮して
待ち合わせたのは上野松坂屋食品売り場。
時期的に花見には早いけれど、
上野の山ではすでに桜が開花したという情報あり。
半信半疑で行ってみると、懸念したとおり、
咲いていたのは早咲きのオオヒガンザクラだった。

デパ地下で調達したワインと前菜をぶら下げたまま、
山上に身の置きどころを探したものの、適当なスポットが見つからない。
結局は薬局、清水観音堂から石段を降り、
弁財天の脇をすり抜けて不忍池にやって来た。

この時点でチョイスは二つ。
その1・・・池にボートを出し、水上で宴
その2・・・池のほとりのベンチにて宴

こちらは水上を主張したものの、寒気に怖気づいた相方はベンチを選択。
こりゃしゃあないわ、引き下がるしかないわいな。
人影まばらにして空席だらけのベンチに並んで座る。
ニューヨークで一緒によく飲んだ北イタリアはピエモンテの銘醸ワイン、
バルバレスコをおもむろに抜栓したのでした。

=つづく=

2015年4月1日水曜日

第1067話 五反田でレバカツを (その3)

確証がないから単なる自称に過ぎないかもしれないが
元祖レモンサワーの飲み屋、焼きとん「ばん」にM鷹サンと二人。
小さめジョッキの生ビールに見切りをつけ、
くだんの元祖をいただくことにした。
即座に相席のリーマンたちが追随してくる。

われわれはといえば、
彼らが突ついていたレバ焼きが旨そうだったので
今度はこちらが追随のお返しである。
品書きにはレバ半ゴロとあった。
どことなくヤクザな名を持つ一品。

はたして「ばん」のレモンサワーは
半割りの生レモンを自分でスクイーズするタイプだった。
これなら不味いわけがなかろう。
かといって格別の美味というのでもない。
まっ、アベレージのちょいと上程度かな。

サワーを追いかけてきたレバーは
チョイ焼きもいいところで純生度95%といった感じ。
これには相方がギヴアップ宣言である。
そうだよなァ、J.C.にとってもかなりキビしいものがあった。

店内はさらに混雑度を増してきて
とてもとても焼直しを命ずる勇気なんぞ湧いてこない。
ここは一番、目をつむって一人頑張った。

レバーの仇はレバーで討て!
そんな思いにかられ、
さらに注文したのがサブタイトルにもあるレバカツである。
レバーに蹂躙(じゅうりん)されたM鷹サンは
いわしの丸干しなんぞに逃げの一手を打っている。
人間、一敗地にまみれるとどこまでも消極的になるものだ。

ところが、ところがですヨ、このレバカツ野郎が当たりやがった!
レバカツとなれば、東京は銀座の先の築地、
そのまた先で勝どきのお隣りの月島、そこの名物がレバフライだ。
月島はもんじゃだけじゃないんじゃ!

驚くなかれ、「ばん」のレバカツは月島のソレを超えていた。
しかも月島スタイルにならって薄切りカツの一辺に串が打たれ、
小旗仕立てになってるじゃないの。
駅伝走者の激走を激励する読売新聞の紙旗みたいに―。
ただし、ウェイトレス・フロム・チャイナに
カラシを頼んだら焼きとんのカシラが来ちゃったけどネ。

それは笑い話として
レバ半ゴロにゃ白旗を掲げた相方・M鷹サンがここで目覚めた。
ふと気がつくと、小旗にかぶりついているではないの。
唇の周りがウスターソースで汚れてるぞなもし。
”泣いたカラスがもう笑う”とはこのことで
その一部始終を目の当たりにしたJ.C.は
”開いた口がふさがらない症候群”に見舞われておりましたとサ。
やれやれ、マイッたぞなもし。

=おしまい=

「ばん」
 東京都品川区東五反田1-12-9
 03-3473-8080