2023年3月31日金曜日

第3243話 桜の下で 精進しました (その2)

「醍醐」は西暦2000年に建て替えられた。
青松寺の隣りに立派なビルができ、
境内から移転したのだ。
その3年後、真新しい現在の店舗を訪れた。
早いものでもう20年になる。

何やら縁を感じるが此度の法要。
J.C.は何一つ口出ししていないから
偶然の賜物と言うしかあるまい。

部屋の数多く、ほとんどすべてが
和式の庭を臨める造り。
ヴェジタリアンはもとより、
泳いだり駆けたりする生き物を
食べたくない向きに恰好の食事処と言える。

お昼のコースが
クラッシュド・アイスに注がれた、
梅酒でスタート。
一同、目と目でグラスを合わせ、
速やかにビールへと移行する。

先付は独活(うど)&わかめの酢の物。
そして胡麻&よもぎの生麩。
上々の滑り出しだ。
根菜の沢煮椀に浮く油は
じゃが芋を揚げてあるため。
淡白なお椀にコクを与えている。

山かけの手打ちそを
珍しくも練り辛子と青海苔でいただく。
これは心太(ところてん)からの着想かな?
そば打ちの技術は高いものがある。

色鮮やかな八寸だったが
どれがどれやら覚えきれなかった。
本日の主菜と呼ぶべき揚げ竹の子に
熱い白胡麻あんがたっぷりとー。
精進といえども食べ応えじゅうぶん。

締めは出汁を長いこと注ぎ足して
使っているという、なめこ雑炊。
料理はすべてシュウのイツながら
これだけ余計な気がした。
いわゆるヘビのアシですネ。

記念撮影は座敷の床の間をバックに1枚。
玄関先に咲き誇る桜の木の下でもう1枚。
桜の下で精進したかいあって
雨もすっかり上がっておりました。

「精進料理 醍醐」
 東京都港区愛宕2-3-1フォレストタワー2F
 03-3431-0811

2023年3月30日木曜日

第3242話 桜の下で 精進しました (その1)

都営三田線で御成門へ。
向かったのは青松寺の隣りのビル内、
精進料理の「醍醐」。
今日は近しい縁者の法要である。
うちうちの会につき、集ったのは6名。

萬年山青松寺は太田道灌により、
文明8年(1476)に創建された。
当初は現在の千代田区・麹町にあったが
江戸開府とともに、どうする家康により、
港区・愛宕に移築された。

「醍醐」を初めて利用したのは
ちょうど半世紀前、1973年のこと。
当時、至近の東京プリンスホテルで
若き日のJ.C.はアフリカ旅行の資金を
せっせこせっせこ貯め込んでいた。

今はよく知らないが当時、
彼のホテルは宿泊ではなく、
宴会が稼ぎ頭だった。
自民党議員の「〇〇君を励ます会」。
あの打ち出の小槌を初めて催したのが
当ホテルなのだ。

これ堤屋、そちもなかなかの悪よのぉ」

それはそれとして
配膳会から派遣されたJ.C.は
4階宴会担当の常備。
大部屋の2階、中部屋の3階に比べ、
はるかに狭い小部屋ながら
VIPの利用率が高く、
そのぶん料理の質も格段に上がる。
フランス料理の知識はここで学んだ。

半世紀前、4F宴会の打ち上げを
この「醍醐」で開いたのだった。
どうしてまたホテルマンの宴会が
精進料理なのか?

思うに和・漢・仏の美食に
慣れ親しんだわれわれは
さまざまなジャンルの味を
舌に覚えさせねばならない。
そんな発想が生まれたのだろう。

当時の「醍醐」は青松寺の境内にあり、
江戸時代にタイムスリップしたかのようだった。
宴たけなわともなると、
ある黒服はお手盛りの手拍子で
三波春夫の「チャンチキおけさ」と来たもんだ。
カラオケなんかまだ無かった時代である

=つづく=

2023年3月29日水曜日

第3241話 雨のキャットストリート (その2)

そうこうするうち雨足が強まった。
こりゃあかん、かと言って恰好な店がない。
背に腹は代えられん。
どこでもいいやと逃げ込んだのは
「おこめどき」なる、何だかよく判らない店。

入って初めて知ったライスバーガー専門店。
モスバーガーでおなじみのヤツだ。
狭いスペースに先客は若い娘が3人。

ライスバーガーは30年も前に
そのモスの横浜店で食べたきり。
雨さえ降らなきゃ、
死ぬまで縁がなかったろうにー。

チキン南蛮、月見つくね、根菜きんぴら、
ミルフィーユとんかつなど並ぶなか、
生湯葉入り牛すき焼きをお願い。
ライスのバンズは
白米・黒米・十六穀米から択べ、
ほとんどヤケクソで十六夜(いざよい)をー。

肝心かなめのビールは
苦手なクラフトばかりで取りつくシマもない。
結局、渋谷ビールというのにした。

サンクトガーレン有限会社の手になる小瓶は
度数5%で原料が
米国産麦芽、ホップ、マカ、グレープフルーツ。
これじゃ旨いわけないヨ。

すき焼きバーガーには
牛肉&生湯葉のほかに
長ねぎ・白滝・レタス・焼き海苔。
おかず&ごはんでじゅうぶんなのに
なんでバーガーにすんのかな、バーカ!

次第に雨は強くなったが、
すぐそばにコンビニありと聞き、ダッシュ。
ところが雨傘は売切れと来たもんだ。
そこで聞いた2軒目もソルド・アウト。
何がコンビニだヨ、このアンコンビニエンス!

もう完全にプッツンしたJ.C.、
ヤケのやんぱち、日焼けのなすび。
渋谷駅のバス停まで歩き通した。
もうビッショリのズブ濡れンコ。

どうにかたどり着いて即、
コリアン・ハズバンドによるシャンプー。
話題はもっぱらWBCだ。
大谷の存在感と日本の投手陣が
本当にうらやましいと言う。

「ところで中国の野球とサッカーは弱いよネ」
「十何億もいるのにどうしてでしょうネ」
「野球・サッカーじゃボールがデカ過ぎるんだ。
 その代わり、小さい球はとてつもなく強いヨ」
「あっ、そうだ! 卓球ですネ?」
「ピン・ポン!」

「おこめどき」
 東京都渋谷区神宮前5-29-10
 03-6803-8956

2023年3月28日火曜日

第3240話 雨のキャットストリート (その1)

最近、ちと予約が取りにくくなったが
とにかく7週に1度の理髪日。
平日の16時半なんてやっかいな時間につき、
自宅でランチ後に出掛けた。

髪を理する前にどこかで散歩をしよう。
狙ったのはキャットストリート。
昔は穏田(おんでん)と呼ばれたエリアである。

都営大江戸線を降りたのは国立競技場。
ん? 何だ、なんだ?
パラパラと人がスタジアムに入ってゆく。

あっ、そうか!
今夜の日本VSウルグアイ戦は国立だったんだ。
キックオフまで5時間もあるのに
気の早い連中がいるもんだ。

キラー通りを抜け、青山通り(国道246)は
外苑前の交差点を右折したとき
ポツポツと振り始めた。
表参道を右折してキャットストリート。
この道筋は旧渋谷川遊歩道。
正式名称を穏田キャットストリート商店会という。

ある人たちに言わせると
現在、東京で一番オシャレなストリートが此処。
古着屋&新し着屋がひしめいている。
そのわりに飲食店は少ない。

歩いているのはヤング・ジェネレーションばかり。
オッサン・オバハンの姿なく、
ましてやジジ・ババなんぞ見かけるハズもない。
この場所を知ってる・知らないで
ヤング&オールドの線引きが出来そうだ。
はて、アナタはどちらかな?

もう一つ特徴的なのは外国人率がヤケに高いこと。
それもツーリストより居住者が目立つ。
犬の散歩なんかもしている。
1匹がJ.C.の足元にまとわりついてきた。
彼らは良い人・悪い人を一目で見分けるからネ。
よし、よし、いいコだ。

渋谷区・穏田なる地番も過去のものになりつつある。
読者の方々もほとんどご存じないだろう。
かつては渋谷川沿いに水田が拓けていた。
この名を初めて知ったのは1970年代初め・
松本清張原作の松竹映画「砂の器」である。

大詰めの捜査会議で丹波哲郎扮する今西刑事が
「本籍、渋谷区・穏田の作曲家、
 和賀英良に逮捕状を請求します」
このセリフ。
以来、しばらくの間、
頭にこびりついて離れなくなったのです。

=つづく=

2023年3月27日月曜日

第3239話 桜の播磨坂、その前に

昨年末に発足した新飲み会、美女軍団+2。
今回は花見の会である。
ところは文京区随一の桜の名所、播磨坂。
桜の下に宴席を設けるのではなく、
坂をそぞろ歩いて花を愛でるスタイル。
花見はスマートにいかなくちゃネ。

よって花の前に酒とした。
集結したのは茗荷谷駅と播磨坂の中ほど、
「馳走ダイニング 文蔵」。

ナントカダイニングなどという店は
避けるようにしているが
幹事の導きだから目をつぶる。
もっとも当店の利用は二度目で
前回も誰かが予約してくれたのだった。

到着した者から飲み始めるシステム。
これを土佐の中村では中村方式と呼ぶ。
はるか昔、NHKの「日本人の質問」でやってた。
J.C.の到着は二番目。
待っていたのは幹事役のお局様。
この女(ひと)は怒らせると怖い。

ビールはキリンのみ。
瓶のラガーより生の一番搾りがベター。
グラスをカチンと合わせた、
突き出しは虎ふぐ皮ポン酢。

わかさぎ&新玉ねぎの南蛮漬けと
ほたるいか酢味噌はどちらもベリー・グー。
三番目が到着して
油揚げ&小松菜の煮びたしを追加する。

ほどなく全員が揃い、あらためて乾杯。
頼んだ料理を列挙すると、まず揚げ物3連発。 
しょうさいふぐ唐揚げ、かきフライ、
山菜天ぷらを2人前づつ。
石がれいと本まぐろの刺身、梅水晶も2人前。

J.C.は富乃宝山のロックに切り替え数杯。
そうしておいて締めは釜めしを3釜。
桜海老、蟹とイクラ、竹の子と地鶏である。
ずいぶん飲み食いしたので
支払いは4万5千円を超えた。

坂上の春日通りから坂下の千川通りへ降りてゆく。
4列の桜並木は八分咲きといったところ。
最寄りの春日駅は東京メトロも
都営地下鉄も走っている。

後輩夫婦の住まいは駅そば。
他の4人はそれぞれ自分の路線に乗り込む。
花を見たのは10分そこそこ。
花よりお酒の会でした。

「馳走ダイニング 文蔵」
 東京都文京区小日向4-5-17
 03-3944-6217

2023年3月24日金曜日

第3238話 ジャスミンライスが魅了する (その2)

タイ国の象さん、チャーンの小瓶を
サービスされたえびせんと楽しむ。
和製の例えば、かっぱえびせんと違い、
かなりクリスピーにしてスパイシー。
主婦や子どものおやつを超えて
オッサンのビールの友に成り得ている。

チャーンを飲み終える前に
タイ米を従え、鶏挽き肉のガパオが登場。
バジルとピーマンも混じり込んでいる。
ほかにきゅうりのスライス2枚。
おすまし風のスープは
玉子の白身がフワフワと泳いでいた。

タイ米、いわゆるジャスミンライスは
理想的な炊き上がり、申し分ナシ。
都内のタイ・レストランのトップ・クラス。
甘みより辛みが主張するガパオもけっこうだ。

帰り際、タイ米ならぬタイ娘に
「ガパオ専門店って、これが店の名前なの?」
「ソッデス!」
「ずいぶんだけど、判りやすくていいよネ」
「アリガット、マス!」
ふふ、笑えるなァ、なごむネ。

翌々日、再訪に及んでしまった。
理由は二つ。
あの素晴らしいジャスミンライスを
カレーと味わいたかった。
いま一つは未飲のタイビール、
レオ(豹)を飲んでみたかった。

豹はライオンと象の中間感じ。
国産でいえば、サッポロ赤星に近いタイプで
これなら今後もつき合っていけるな。
タイのえびせんともバッチリだ。

さて、肝心かなめのグリーン・カレーだが
一さじ口元に運んで、う、うなった。
コイツはかなり旨いゾ。
ジャスミンともピッタンコだ。

具材は皮を残した鶏もも肉と大量のタケノコ。
ナンプラーも相当に効いている。
相性はガパオ以上でちょいとしょっぱいが
その旨さに一瞬、身もだえしちまったくらい。

料理人はいったい誰なんだ?
思わず厨房の奥をのぞくと、
ごくフツーのタイの女性が独り。」
オバちゃん、アンタはエラい!
ジャスミンライス食いたくなったら
また来るヨ。

「ガパオ専門店 本郷三丁目店」
 東京都文京区本郷3-30-7
 03-3868-0370

2023年3月23日木曜日

第3237話 ジャスミンライスが魅了する (その1)

祝 優勝 侍ジャパン!
よくスポーツは筋書きのないドラマというけれど
野球の神様が筋書きを
書いているとしか思えない試合展開。
野球の神様の直木賞に1票である。

ダルのおかげで1点差。
最後は盟友・トラウトとの一騎打ち。
いや、シビれましたネ。
大谷のあのマウンドさばきは何なんだ。
彼の辞書に緊張と重圧の文字は無い。
いや、感服いたしました。

それはそれとして
この日はタイ料理というより、
タイ米が食べたくて家を出た、

日本米と同じくらいタイ米が好き。
まっ、必要にかられれば、
イタリア米でもカリフォルニア米でも
美味しく食べる人生を生きて来たんだがネ。

メトロ丸ノ内線を降りたのは本郷三丁目。
東大のひざ元といえども、しょせん大学は大学。
名店・佳店の類いは少ない。

芥川龍之介ゆかり、
明治4年(1872)創業の牛鍋屋、
「江知勝」も2年余り前に暖簾を仕舞った。
寂しいなァ。

訪れたのはガバオをウリとする、
その名も「ガバオ専門店」。
北区・田端の「ポム タイ料理」といい、
タイ料理屋は名前を付けるのが苦手のようで
トンチンカンなケースが目立つ。
事前にひと言相談してくれりゃいいものをー。

店先の立て看板に
"本物ガパオ食べよう!”
とあるからには自信満々なのだろう。
初回は一番人気だというチキンでお願いした。

ビールは生がアサヒのようだが
タイ米の香りにはタイ産でいこうと思った。
取り揃えは3種類。
シンハ(ライオン)、レオ(豹)、
チャーン(象)である。
何だってタイのビールは動物だらけなんだい?

久々のタイ米だから
クセの強いシンハにしかかって思いとどまった。
レオは飲んだことないし、
いつものチャーンで無難にいこう。
栗山監督だって初戦の格下・中国相手に
大谷でいったじゃないかー。

=つづく=

2023年3月22日水曜日

第3236話 ハゼ天で飲る 雨の午後 (その2)

阿久&亜星の名コンビに目を付けた、
コロムビアはその3年後、
都はるみの「北の宿から」に結実され、
’76年の日本レコード大賞を獲得する。

J.C.的には「昭和放浪記」が
数段すぐれていると思うものの、
実際にレコードを買うのは
ファンの方々だから板し方ナシ。

ハナシが大きくそれてしまった。
いずれにせよ、外は3月の雨しぶき。
グラス片手に品札を見上げる。
遠くて読めないところは起立してスタスタ。

足元のカップルの片割れに
(何なの、このオッサン?)
言われんばかりの冷たい視線を浴びながら。
(オメエもそのうち老眼になるんだヨ)

おっと、ハゼの天ぷらがあるじゃないかー。
キスもイワシもあるけれど、
ハゼには希少価値が生まれる。
いいでしょう、いただきましょう。

中サイズが4尾揚がった。
あとはナスの小片と大葉が1枚。
天つゆもちゃんとついて来る。

塩のみ、生醤油&おろし、天つゆ&おろし、
変化をつけて味わうと、とてつもなく旨い。
安い酒場や食堂にありがちな
揚げ油の劣化などまったくなし。
これならキスもイワシも花マル間違いなしだ。

雨降りの日、東京の北側を攻めるときは
ぜひ、また来よう。
たびたび利用している「幸楽」だが
今回がベストだネ。

週明けの月曜だってえのに
繁盛ぶりは相当のものがある。
アチラ系娘4人がフル稼働で
客をさばいてゆく。
あしらいは丁寧で好感が持てた。

松皮がれい昆布締め、どぜう丸煮、
ハバネロたこ唐揚げなどに惹かれたが
次回のお楽しみとして無難な焼きとんをー。

大瓶の2本目とともに
シロ&レバをタレで1本づつ。
卓上の一味唐辛子を振り、口元に運ぶ。
甘めのタレは好きなタイプだ。

心身ともにくつろいで
お勘定は2千円と少々。
雨足が鈍るのを見計らい、
外に飛び出しましたとサ。

「大衆酒場 幸楽」
 東京都足立区千住2-62
 03-3882-6456

2023年3月21日火曜日

第3235話 ハゼ天で飲る 雨の午後 (その1)

その日は朝から雨模様。
家から濡れずに行けて濡れずに飲めるのは
日比谷・銀座・新橋・町屋・北千住あたり。
照準を北千住に定め、傘も持たずに出動した。

大箱のレストラン街は性に合わないため、
ルミネやマルイには足を踏み入れない。
もっとも地下の食品フロアだけは
しょっちゅうお世話になっているがネ。

ポツポツ来るものの、これなら問題ナシと
通称・せんべろストリートを往ったり来たり。
駅そばの酒場「幸楽」に差し掛かると
突然、雨足が強くなった。

店頭てアチラ系の若い娘がピーチクパーチク。
「いらしゃいませ~、
 もつ焼き、天ぷらいかがでしょうか~?
 空いてますぅ、どうぞいかがでしょうか~?」
渡りに舟と駆け込めば、娘が満面の笑みで迎える。

短いカウンターの左端、
入口に一番近い席でドライ大瓶を発注。
正午近くとはいえ、
午前中から飲むのは元旦以来だ。

オモテを見やると本降りの雨が
アスファルトにしぶきを上げている。
おっと、水前寺清子が歌い出すじゃないかー。

♪   女の名前は 花という
  日陰の花だと 泣いていう
  外は九月の 雨しぶき
  抱いたこの俺 流れ者

  女は数えて 二十一
  しあわせ一年 あと不幸
  枕かかえて はやり唄
  歌う横顔 あどけない ♪

   (作詞:阿久悠)

チータが歌った「昭和放浪記」は
1972年10月のリリース。
彼女のマイベストにつき、2番までお届けした。
作曲は小林亜星。

不朽の名曲と評判が高かったものの、
レコード売り上げは伸びなかった。
クラウンからの発売なれど
作詞・作曲のナイスコンビに
目を付けたのは何故かコロムビアであった。

=つづく=

2023年3月20日月曜日

第3234話 珍魚の宝庫 神楽坂 (その3)

翌日はまず朝食。
豪華にクラブサンドとしてみた。
クラブハウスじゃありませんヨ、
クラブミートですヨ。

マヨネーズに加え、
美食家のパセリと呼び声高い、
セルフィーユ(チャービル)と和えてネ。
マヨネーズの力を借りて
カニカニしさが出て来た。

そして当夜のメインがマナガツオ。
小麦粉を軽くはたいてムニエルにし、
ディルを散らした。

上品に淡白な白身魚は美味の極致。
平目に勝るとも劣らない。
J.C.的にはマトウ鯛(サン・ピエール)と双璧。
おのずと頬がゆるみ、
一度は落ちたホッペタが
食卓でワンバウンドして戻って来たヨ。

ガルニテュールはズッキーニ&ミニトマトを
ゴルゴンゾーラとともに焼き付け、
黒オリーブを合わせた。
ピエモンテの白ワイン、
コルテーゼ使用のガヴィがすすみにすすむ。

そしてまだ残っていた高脚クンで締めの一品。
好物の蟹炒飯である。
中華鍋にコーン油を熱し、
割りほぐした玉子に火を通す。
化調無添加の鳥ガラスープの素と砂糖を一つまみ。
半熟よりやや硬めになったところで取り出す。

再び中華鍋に油を熱し、
多めの刻みねぎを香りが出るまで炒める。
次に蟹肉と蟹ミソを投じ、
塩・コショウに加え、紹興酒を少々。
仕上げに温(ぬく)い白斑を投入。
冷やめしだと蟹に火が入りすぎるのだ。

結果として高脚クンは炒飯がベスト。
決め手は蟹ミソである。
コレを天津炒飯と名付けることにした。
何となれば、蟹と玉子はいわゆるカニ玉。
甘酢あんかけこそ掛けないものの、
天津飯のアタmと同じ材料だからネ。

天津炒飯は中華料理店に無いので
食べたい方はJ.C.の真似をして
ご自分で作って下さい。

「よしや SainE(セーヌ) 神楽坂店」
 東京都新宿区神楽坂6-11-1
 03-3268-3266

2023年3月17日金曜日

第3233話 珍魚の宝庫 神楽坂 (その2)

その夜のわが家の食卓は花盛り必至。
巷の一足先に花見とシャレこもう。
さっそく鱈場蟹を盛り付け始めて
ハッと気がついた。

てっきり北海道産と思い込んでいたが
どういうワケか千葉産の表示。
千葉で鱈場が獲れるハズがない。
こりゃ何かの間違いだろう。

思いあぐねてもラチがあかない。
仕方なく「SeinE」に電話を入れた。
そうして真相が明かされる。
驚いたことにコイツは鱈場蟹に非ず。
いや、たまげたネ。
なんと、なんと、高脚蟹だったのだ。
道理で安いワケだヨ。

高橋クンは、もとい、高脚クンは
世界最大の蟹にして最古とも目される、
言わば、生きた化石なのだ。
ただし、大味につき、あまり尊ばれない。

近年、西伊豆辺りでは地元の特産として
存在感を発揮しつつあるがネ。
しかし、房総でも獲れるとは知らなんだ。
思いもよらないことでした。

味わうと、やはり水っぽくて旨くない。
鱈場とは雲泥のギャップがある。
けれどミソにはさほどの差はなく、
九死に一生を得た。

J.C.は通常、
生酢に醤油を数滴落として蟹を食べる。
う~ん、物足りないなァ、何とかせねばー。
ケチャップ・ホースラディッシュ・レモン汁で
カクテルソースを作ってみた。

だいぶ良くなったがカクテルソースは
クラブミートよりシュリンプのほうが合うネ。
ちなみにホースラディッシュは生の備えなく、
SBのチューブで代用。

かなり残った高脚クンは翌日に回し、
当夜は玉クエのちり鍋。
その前に大きな肝を甘辛く煮付ける。
これは菊正の樽酒と楽しんだ。
おろし・きざみねぎ・ポン酢で味わう鍋ともども
ハタ科の混血魚を堪能したのでした。

そして翌日、ここからは次話であります。

=つづく=

2023年3月16日木曜日

第3232話 珍魚の宝庫 神楽坂 (その1)

地蔵通りから築地町、赤城元町の坂を上がり、
赤城神社の脇をすり抜けると神楽坂駅。
早稲田通りを東に向けて下ってゆく。

スーパー「よしや」の系列店、
「SeinE」にやって来た。
晩酌の肴を調達するためだ。
当店はシーフードの取り揃えが豊富で
珍魚との出会いも珍しくない。

おう、おう、案の定、
いろいろ並んでいるではないかー。
まず、目を引いたのはバカデカい鱈場蟹、
甲羅に身がギッシリ詰まり、蟹味噌もタップリ。
ただし、脚肉はすべて外されていた。

これが1980円+税。
何だってこんなに安いんだ。
いぶかしみつつもイン・マイ・バスケット。

続いての珍しモノは玉クエである。
ご存じの読者はほとんどおられまい。
この珍魚は鹿児島産の養殖。
ハタの仲間のタマカイの雄と
クエの雌を掛け合わせたサカナだ。

ハタは中国料理で最も愛される高級魚。
不味いワケなどありゃしません。
魚体は高価だったが
アラが1パックだけ残っていて780円+。
買いました。

さて、お次に控えしは大分産マナガツオ。
英名はポンフレット、あるいはポンパノ、
はたまたバターフィッシュと、
さまざまに呼ばれる。

フランス料理でも珍重され、
仏語ではストロマテーデ。
不思議なことにインド料理でももてはやされる。
国内だと、関東より関西で人気だ。
上方の割烹では西京漬けにされることが多い。

立派なサイズの切り身が880円+と
破格の値付けであった。
日本各地から届いた海の幸を3種。
何せ蟹がデカいから最大サイズのレジ袋が
右手にズシリと来た。

こうなったらどこぞでもう1杯などと、
ノンキなことはしてられない。
神楽の坂を下り切り、飯田橋から
ゴー・ストレート・ホームの巻でした。

=つづく=

2023年3月15日水曜日

第3231話 台湾生まれの水餃子

神楽坂のメインストリート、
早稲田通りの北側にして神田川の南側に
地蔵通りが走っている・
今日の昼めしはそこ、新宿区・水道町である。
さほど長くもない商店街だ。

小さなビルの2階に
「フジコミュニケーション」を見つけたのは
2カ月ほど前だった。

台湾発祥の水餃子専門店は
台湾で修業を重ねた日本の料理人が始めた由。
奇妙な店名は相方とのコミュニケーションに
おもきを置いたためだという。

厨房の若い男性が店長だろう。
接客の若い娘とのツー・オペ。
カウンターに腰を落ち着けたが
メニューらしきものが見当たらない。

なんと面前のQRコードを読み取って
注文するシステムなのだった。
こういうのが苦手なオッサンは
お嬢の手を煩わせながらどうにか発注。

サッポロ赤星の中瓶と
彼女オススメのマーガオ餃子を通す。
マーガオというのは
台湾産のスパイスで言わば台湾山椒。
中国本土の花椒によく似ている。

餃子は6カン付け。
香港点心のハーガウ(海老餃子)を
一回りふくらませた形状だ。
スープや茹で汁は無く、
黒胡椒みたいなマーガオが砕け散っていた。

うん、実に旨い。
豚挽き肉が主体で、あとは白菜が少々。
生姜の風味に椎茸の隠し味。
造り手のデリカシーを強く感じる。

再びお嬢の手を借りて
蒸し鶏&パクチーサラダ・クミン風味を追加。
これまたとてもよかった。

中華料理にクミンはイメージが
ピンとこないけれど、
北方、西方では羊肉料理の風味付けや
匂い消しに重宝され、
孜然粉(ジーランフェン)と呼ばれる。

2本目は気分を変えてキリン・ハートランド。
サッポロと飲み比べると違いが如実に判る。
赤星はあくまでも日本のラガー。
ハートランドはチェコのピルスナー、
あるいはドイツや北欧の味わいがあり、
ユーロピアン・タイプだ。

会計は2760円。
台湾餃子専門店であらためて
サッポロとキリンの違いを痛感したのでした。

「フジコミュニケーション」
 東京都新宿区水道町1-23石川ビル2F
 03-5579-2712

2023年3月14日火曜日

第3230話 回鍋肉で野菜の補給

ここ数日、野菜不足が続いて
今日は近場の中華で解消を図る心積もり。
久しぶりに千駄木・団子坂下の「杏花楼」へ。
いつ来ても空いているのがいい。
接客に当たるアチラ系オジさんの
ノンビリ感がまたいい。

菜譜を開く。
野菜の摂取には肉野菜炒めあたりが理想だが
当店は町中華に非ず。
本格中華だから野菜炒めはない。
八宝菜にしてみようかー。

と思ったものの、
本日の日替わり定食が回鍋肉と来たもんだ。
白飯との相性はいいし、キャベツもふんだん。
今日はメシの量を減らさず、
ガッツリいってみよう。

ドライの中瓶にすかさず若いザーサイ。
お次のスープは
ワカメ入りの蛋花湯(タンファータン)、
いわゆるかき玉だ。

そしてサラダがなかなかの盛りで来た。
きゅうり・にんじん・玉ねぎ・キャベツと
よくありがちな小鳥のエサみたいなのではない。
ドレッシングだけは市販の胡麻ドレ。
中国人は元々、生野菜を食べる習慣がないから
こればかりは仕方がない。

メインディッシュの回鍋肉と白飯が登場。
たっぷりの豚肉とキャベツにピーマンは少々。
油が大量に使われて
なんかNYで食べる中華料理みたいだな。
心して挑んだ。

小さめの茶碗ながら山盛りの白飯も
せっせせっせと口元に運び、
ものの見事に平らげた。
マイ・ストマックには
まだこんな余力が残っていたんだネ。

追いかけるようにアッサリ味の杏仁豆腐と
熱いジャスミン茶がポットでサーヴされる。
けして素晴らしい味わいとは言えないまでも
この充実した定食が840円とは驚きだ。

野菜補給にはもって来いなので
月に一度はお世話になろうかな。
読者のみなさんも谷根千散策の折には
利用してみてください。

「砺波」と「天外天」が閉業し、
「一寸亭」にかげりの見える今、
中華料理における界隈の推奨店は
「杏花楼」のみとなりました。

「杏花楼」
 東京都文京区千駄木2-33-8千駄木ビル2F
 03-3827-0721

2023年3月13日月曜日

第3229話 わが青春のお茶の水

神田神保町で所用を済ませ、軽く昼飲みをと、
ゆるやかな坂を上がって神田駿河台。
駅近の「お茶の水ビアホール」に来たら
すでに閉業していた。

それならビール&餃子でもいいやと、
界隈きっての老舗中華「山田屋」に回った。
ところがどっこい、30分前に店仕舞い、
卓上に椅子が乗ってやんの。

再び駅前を物色して目に留まったのが
「茜草壺(あかねつぼ)」。
時刻は14時半近くになっていた。
しらす丼&豚角煮丼が二枚看板のようだが
惹かれたのは、ほろ酔いセット。
飲みもの1本 or 1杯につまみが3品付き、
990円は本日の傾向と対策にドンピシャリ。

明るい店内、大きな窓の向こうに
JR中央線が走っている。
高校生の一時期、J.C.は
お茶の水のアテネ・フランセに通っていた。

授業のあと、仲間とよく利用した喫茶店、
「プチ・ヤック(小さなヨット)」は
この辺りにあった。
夢と希望に満ちていた青春時代。

サッポロ赤星中瓶をお願い。
つまみは冷奴・しらすおろし・ミックスナッツ。
絹ごしの奴には小ねぎに花がつお。。
しらすは三重産と明記されているものの、
さほど上物とは思えない。
ナッツのバランスが良く、
くるみ・アーモンド・カシューナッツ。
これで千円以下はまったく文句ナシ。

赤星をお替わりして少量なれど
本日の昼めしはこれにておしまい。
今宵はオージー・ビーフのカイノミを焼くつもり。
ローズマリー&ガーリックで仕上げる
ガルニは絹さやと新ジャガがいいな。

そうだ、ピエモンテの赤を調達していこう。
隣り街・湯島の業務スーパーに立ち寄ろう。
聖橋で神田川を渡り、神田明神の参道から境内へ。
何か催し物があるようで人混みがすさまじい。

急な石段を下り、平次親分ゆかりの明神下を
スタスタ歩いてゆきました。

♪   どこへゆくのか どこへゆくのか 銭形平次
  なんだ神田の 明神下で 
  胸に思案の 胸に思案の 月をみる  ♪

舟木一夫を口ずさみながら・・・。

「茜草壺(あかねつぼ)」
 東京都千代田区神田駿河台2-6-10    
   03-3291-2088

2023年3月10日金曜日

第3228話 われエボ鯛に脱帽せり (その2)

焼き上がったエボ鯛は美しくも可愛い。
小さな瞳をパッチリと見開いている。
一箸入れると皮目の下の白い身はふっくら。
思った通りにバツのグンである。

女将さんが
「ごはんの用意はよろしいですか?」
「ええ、その前にビールをもう1本お願いします。
 ごはんとお椀は声掛けしますネ」
「ハイ、ハイ」

銀ダラ西京の女性が退店してほどなく、
その席にやはり単身女性が来店し、
サバ一夜干しを通した。

右手の男性のエボ鯛も配膳された。
すると奴さん、納豆を追注するじゃないの。
勘弁しとくれヨ。
自分が食うぶんにはいいんだが
隣りで食われると匂いに辟易。
まあ、勝手な言いぐさなんだけどネ。

それがまたスゴいんだ。
箸でグルグル、グルグルやったあと、
醤油を垂らして茶碗のごはんに全ぶっかけ。
それはないぜ、セニョール!

サカナをつまんじゃ、
納豆めしをワシワシとかっこむ。
食卓の作法などあったものではなく、
欧米人にはとても見せられない。

外食の納豆は朝食限定にして欲しい。
できれば自宅で食ってもらいたい。
こんな苦言を呈するのは少数派だと、
認識してるんですがネ。

カウンターの遠くでミックスフライの注文。
女将さんが揚げているのは小アジとカキ。
もう一つは何だろう、イカかな?
訊いたら一口カツとのことでした。

オジさん帰って平和が戻る。
左の女性のサバ一夜もようやく焼けた。
おや、おや、大急ぎで食べてるヨ。
アッという間に完食して即お会計。

「時間が掛かるものねェ」と女将さん。
「走って帰ります!」とOLさん。
見ていたJ.C.が
「時間の掛からない焼き魚は
 焼き魚じゃないもんねェ」ー
チャチャを入れた。

ごはんをお願いして残りのエボ鯛。
アサリの味噌椀もうれしいなァ。
エボには完全に脱帽である。
おっと、今日は帽子をかぶってこなかった。
まっ半世紀以上、帽子はかぶってませんけど。

こういうときは何と言ったらよかんべえ。
志村けんならさしづめ、
脱帽代わりに脱糞だ!
それでキマリでしょうな。

「ますや」
 東京都中央区月島3-15-2
 03-3531-5246

2023年3月9日木曜日

第3227話 われエボ鯛に脱帽せり (その1)

明治時代中期に東京湾の土砂によって
埋め立てられた人工島・月島で昼ごはん。
いえ、もんじゃ、お好み焼きが狙いではなく、
ターゲットは旨い焼き魚であった。

もんじゃ以外ではおそらく月島一の有名店、
「岸田屋」の角から路地に分け入る。
あっちの岸田はどうしようもないが
こっちの岸田は健在である。
もっともJ.C.はヒトが言うほど
名代の煮込みを評価していないがネ。

暖簾をくぐったのは「ますや」。
BMしていたわりに訪問まで月日を要した。
12時半では待たされるかな?
懸念は払拭され、入口そばに座れた。
逆L字形、正しくは
逆さL字形のカウンターのみの店だ。

卓上に品書きは無く、厨房の天井近くに
小さなボードが1枚掛かっているだけ。
女将さんに
「すみませんが全然読めないんですけど・・・」
「ああ、ハイ、ハイ」
外して目の前に置いてくれる。

焼き魚のラインナップは塩焼きが中心。
鮭・アジ・銀ダラ・カマスなど。
あとは銀ダラ西京とサバ一夜干し。
ほかに刺身盛合わせ、カキフライ、ミックスフライ。

今日は焼き魚に決めて来た。
最高値はキンキとノドグロの3千円。
手が出ないこともないがちと躊躇する。
白羽の矢を立てたのはエボ鯛塩焼き。
これなら半額の千五百円だ。
ドライの中瓶とお願いした。

店主がスッと出してくれたのは
大根おろし・白菜漬け・ポテトサラダの3点セット。
みなそこそこの量があり、
ビールの良き友となってくれる。
とりわけやさしい味わいのポテサラが出色。

左隣りの女性の銀ダラ西京漬けが配膳された。
脂の強い銀ダラはあまり好まぬものの、
美しい焼き上がりが美味しそう。
これを見てエボ鯛への期待がいっそう高まる。

右隣り、入口から最短の席に
常連と思しき男性客が着席。
品書きを見るまでもなく
J.C.と同じエボ鯛を発注した。
よって期待はさらに高まるのでした。

=つづく=

2023年3月8日水曜日

第3226話 あんみつ食べる 二人の女

狭い京成立石の町を歩き回る。
北口のんべえ横丁から南口仲見世へ。
中瓶1本ではとても足りず、
「えびす屋食堂」に来てみると臨時休業。
たまたま重なったのかもしれないが
前回もそうだった。

浅草「舟和」の暖簾分け、「立石舟和」を通りすがる。
すると店頭に大きな
と記した看板。
存在を認知していたが何せ甘味とは無縁の身。
目もくれずに素通りしていた。

店頭のメニューをチェックしていると  
中から若い娘が現る、現る。
誘われるとつい、拉致されるのが悪いクセ。
最近も三軒茶屋・三角地帯の居酒屋店長、
大井町・東小路の蘇州小姐に釣り上げられている。

生がスーパードライ、瓶はキリンラガーとのことで
迷わず生を選択すると
キンキンに冷えており、思わずニッコリ。

ビールだけでは悪いような気がして
何か軽いものをと物色し、
お願いしたのが舟和セット(700円)。
あんこ玉・芋ようかん・お抹茶の3点セットだ。

生をお替わりしながら店内を見渡せば
スリー・オペは揃いも揃って若い娘。
途端にスリー・キャッツの歌声が響いた。

♪   若い娘は ウッフン
  お色気ありそで ウッフン
  なさそで ウッフン 
  ありそで ウッフン
  ほらほら 黄色いサクランボ  ♪
   (作詞:星野哲郎)

「黄色いさくらんぼ」は1959年のリリース。
大ヒットしたものの、NHKは”ウッフン”を卑猥として
放送禁止にした。
テメエたちオヤジのほうがよっぽど卑猥だぜ。
NHKが妨害しなかったら
第1回日本レコード大賞受賞曲は
この曲だった可能性が高いのである。

レンチンされて熱々の芋ようかんをつまみに
生ビールを飲んでいると、女性が二人来店。
注文は揃ってあんみつ。
しゃべり出したらこれが喧しいのなんのっ!

昭和20年代。
リアルタイムで観たわけじゃないが
倉金章介の漫画に「あんみつ姫」ありき。
江戸時代のとあるお城を舞台にして
のちにTV化&映画化もされ、
雪村いづみ、鰐淵晴子などが演じた。
騒動メーカーのお転婆ながら可愛らしくもあった。

あんみつ姫ならよかったけれど、
店内の二人は似ても似つかぬ、
あんみつ婆(ばば)なのでした。
あゝ、天は無情なり。

「立石舟和」
 東京都葛飾区立石1-18-10
 03-3694-0270

2023年3月7日火曜日

第3225話 立石にテキサスがあったヨ

日暮里から京成本線に乗り、
降り立ったのは京成立石。
東東京における呑ン兵衛の聖地の一つだ。
町のランドマークの焼きとん屋は
見ただけで意気消沈させる長蛇の列。
君子はこういうところに近寄らない。
  
訪れたのは線路の反対側。
北口商店街の2階にある洋食店「チロル」。
ご夫婦だろう、二人の切盛りである。
立派なメニューを開き、しばし沈思黙考。

ん? えっ、テキサスライス?
「なんじゃこりゃあ!」
おっと、撃たれて叫んだのはジーパンの松田優作で
テキサスは勝野洋でした。
いえ、「太陽にほえろ!」のハナシです。

「テキサスライスってどんなんですか?」ー
接客係の奥さん(?)に訊ねた。
「カレーピラフの上にカツが乗ってるんです」
「ふ~ん、ソレお願いします」
黒ラベルの中瓶を飲みながら待つこと5分少々。

まずコーヒーカップでスープがサーヴされた。
ほのかに鳥ガラの香りが鼻腔を抜ける。
これは化学の力に頼らない手作りだネ。
評価が一段上がった。

おやァ? 炒飯みたいなのが来たヨ。
具材は冷凍のミックス・ヴェジタブルじゃないかー。
添えられた福神漬けともども垢抜けないなァ。
まあ、葛飾区・立石だから仕方ないかな。
おっと葛飾区のみなさん、ごめんなさい。

テッペンには薄く小さいカツが3枚。
よくもまあ、薄く切ったもんだ。
ところがコイツがカリサクの好い揚げ上がり。
掛かっているのはデミグラスとは言いかねるソース。
ほとんど温めただけの中濃ソース、
でも、ゆるいデミよりこのカツにはふさわしい。
ピラフのみだともの足りなくともカツが実に効果的だ。

店内は喫茶店の居抜き風ながら創業は1981年。
初めからこの造作だったのかもしれない。
会計は1400円、ご馳走さまでした。
店を出てのんべえ横丁をさまよう。

いけねっ、テキサスライスの名前の由来を
訊きそびれちまった。
ぶらぶらしていて不図、思い当たる。
そうか、テキサス役の勝野洋。
カツは勝野の”勝”だったんだ。
ハハ、こじつけもはなはだしいってか?

「チロル」
 東京都葛飾区立石4-27-9渋谷ビル2F
 03-3697-3950

2023年3月6日月曜日

第3224話 かつ丼は罪滅ぼしに成り得たか?

この日、 西武新宿線を降りたのは中野区・鷺ノ宮。
実は先のチキンライス。
その発信源に苦言を呈したところ、
汚名挽回と罪滅ぼしを兼ねて
今一度とっておきを紹介するとのたまう。

どうしてエンコの住人のとっておきが
中野くんだりにあるんだい?
しかもオススメが日本そば屋のかつ丼と来たもんだ。
「セイム・アゲインだったら承知しないぜ」ー
悪態をつきつつも半信半疑で遠征した次第なり。

この提案を受け入れた理由の一つは
鷺ノ宮というロケーション。
妙正寺川のほとりに開けた、
瀟洒(しょうしゃ)な町並みが好印象。

「豊年屋」はフロアが4X3、小上りに4X2、
計5卓20席のコンパクトな造り。
接客は女将らしきオバさんと
厨房に店主らしきオジさん。
あとは倅だろうか?
出前要員のアンちゃんが出たり入ったりしている。

珍しい海老かつ丼があり、浮気しかけたが
オススメを蹴とばすわけにはいかない。
初志貫徹のかつ丼を
ドライの中瓶とともに発注した。
ビールにはかっぱえびせんのサービス。

ややっ、どんぶりが錦牡丹じゃないかー。
かつ丼に手をつける前、
あらためて全体像を俯瞰する。
焼き麩・ナルト・わかめの吸い物。
たくあん&白菜漬け、
そしてミニサイズの冷たいそばがうれしい。

胸弾ませてフタに指を掛けるが
丈が低くて上手くつかめないんだ。
陶器の薬味入れなんかでときどき見受けるが
造り手は何を考えてこういう厄介なモンを
世に送り出すのかネ。

うん、なかなかのルックスだ。
どこの店でもそうだが玉子をあまり溶かず、
カツの上に白身が掛かるとじ方。
これこそかつ丼の醍醐味を生む。

4切れのカツは四角いのが2枚。
それを一刀両断して横に並べ、1枚揚げを装う。
肩ロースだろう、適度な脂身が味わいを深める。
割下はかなり甘めだが、これもアリだと思われた。

特徴的なのは玉ねぎの不使用。
代わりというわけでもなかろうが
グリーンピースが4粒散らばっていた。

友人に合格点をつけたら、彼女歓び勇み、
しばらく会ってなかったこともあり、
上野・浅草あたりで1杯おごらされる羽目にー。
まっ、罪は滅ぼされたから、いいんだけどネ。

「豊年屋」
 東京都中野区鷺宮3-15-14
 03-3339-4138

2023年3月3日金曜日

第3223話 花川戸のチキンライス (その2)

やたらに濃い味付けのチキンライスを
完食したものだから、めっぽうノドが渇く。
とてもじゃないが大瓶1本ではノット・イナッフ。

隅田の大川を吾妻橋で渡り、
黄金のオブジェの足元を抜け、
やって来たのは本所吾妻橋駅前。
そうです「明治屋酒店」です。

ドライの大瓶と電氣ブランの40度を
目の前に並べ、交互に味わう。
角打ちなのにリキュール類の品揃えが充実。
つかの間くつろぎ、滞空15分でオモテへ。

ハタと思い当たった。
そうだ、「味吟」のおいなりさんを買っとこう。
曜日が合わなかったり、
営業時間を過ぎてたり、
ここしばらく買えそで買えなかった。
押上までもう1駅歩く。

いなり3・かんぴょう巻き4。
当店最少の折詰を購入した。
煮汁をキッチリ絞ったいなりが好き。
色薄く煮上げたかんぴょうも上品。

再びハタと思い当たる。
いなり&海苔巻きの盛合わせは助六と呼ばれる。
何となれば前述の「助六」。
主人公・助六の恋人が吉原の花魁・揚巻なのだ。

”揚”はいなり寿司の油揚げ、
”巻”は海苔巻きに通ずる。
何とも洒落たネーミング。
江戸の粋、ここに極まれり。
どうだい、らびちゃん?
浪花にゃこんなセンスないやろ?
吉本がせいぜいやろ?

10年ほど以前。
女優の石原舞子に伴われて
中村吉右衛門さんの楽屋を
歌舞伎座に訪ねたことがあった。

食事の手を止めて応対していただいたが
食べ掛けの折詰をチラリのぞいて、いやビックリ。
いなりが1個に海苔巻きが数切れ残って
まさしく助六じゃござんせんかー。

歌舞伎の役者さんって実に
それらしいモノを召し上がられるんだなァ。
感心を通り越し、感動した次第であります。

花川戸から歩き始めて押上で助六。
助六をすごろくに例えれば、
振り出しに戻った気分でありました。

「明治屋酒店」
 東京都墨田区吾妻橋3-7-12
 03-3622-1592

「味吟 押上店」
 東京都墨田区業平2-14-6
 03-3623-3950

2023年3月2日木曜日

第3222話 花川戸のチキンライス (その1)

浅草の馬道の東側に花川戸と呼ばれる一画がある。
かつては履き物を扱う店が
密集していたが今はだいぶ減った。

花川戸と聞けば、歌舞伎ファンなら
真っ先に「助六」を思い浮かべるハズ。
市川團十郎のお家芸、
「助六由縁江戸櫻」(すけろくゆかりのえどざくら)に
代表されるが演者が代わるたびに外題も微妙に変わる。

本日の昼めしはその花川戸。
おりょりょ、三浦洸一が歌い出したヨ。

♪  牡丹の様な お嬢さん
  しっぽ出すぜと 浜松屋
  二の腕かけた 彫り物の
  桜にからむ 緋縮緬
  知らざあ 云って聞かせやしょう
  おっとおいらは 弁天小僧菊之助 ♪
    (作詞:佐伯孝夫)

同じ歌舞伎でもこちらは
世に知られた「弁天小僧」である。
何でまた花川戸に弁天小僧かというと
何のこたァない昼めしの舞台が
ぼたん」なんざんす。

以前を言やあ江ノ島で、
おっとこいつは三浦洸一の二番だった。
以前を言やあこの店で
ラーメンを食べたが、あまり感心しなかった。

ところが最近、浅草在住の知人が
「『ぼたん』のチキンライス、もう食べた?
 かなり個性的だけど、私は好き」ー
なんてことを言いなさるんで
気が進まぬままに出掛けた次第なり。

ビールが値上がりしており、
ドライの大瓶が1本900円。
おい、おい、やるねェ、
浅草1丁目1番地1号の「神谷バー」でさえ、
800円なのに、しょうがないなァ。

さあて、目当てのチキンライス。
赤黒いのが炒飯みたいに丸い山で来た。
見るからに味が濃そうなベッチョリ・タイプ。
実際、味は滅茶苦茶濃かった。
ケチャップだけでなく
ソースや醤油も参加しているようだ。

具材は、胸肉・玉ねぎ・ピーマン。
どうにか食べ切ったが、これは仲間と分け合って
二匙、三匙をビールの友とするのが正解だネ。
余計なメールを寄こした知人を
恨むことしきりでありました。

=つづく=

「ぼたん」
 東京都台東区花川戸1-8-1
 03-3841-5040

2023年3月1日水曜日

第3221話 東小路のディープな晩酌 (その2)

日本語・中国語・英語を巧みにあやつる、
淑子に着目したフジTVは
彼女を「三時のあなた」のMCに起用した。
あの頃のフジは元気だった。
現在の凋落ぶりはいったい何なんだ?
新社屋、お台場の方角が最悪だったとしか思えない。

彼女はその間、北朝鮮の金日成と二度も会う、
数少ない日本人となっている。
金日成の好きな日本人は
淑子と渥美清扮する寅さん以外にない。

それはそれとして、大井町の「一角」。
つまみは蟹ミソ甲ら焼き。
おそらく紅ズワイだろうが悪くなかった。
中瓶をどんどんお替わりし、
焼き鳥はレバーとハツモトをお願い。
ハツモトがコリコリと旨い。

立て混んできて当初は5席ほど離れていた、
オネバさんが近づいてきた。
相当酔ってる彼女は一人カラオケで
レモンサワーを5杯も飲んだと言う。

ここへ初老のカップルが来店し、ほぼ満席。
とうとうオネバが隣りに来たヨ。
ニューカマーと言葉を交わし始めたら
二人もカラオケ帰りで
今日が初対面だと来たもんだ。
どっちがどっちをだか知らんけど、
ナンパはナンパだネ、このケースはー。

会話を3人に任せておいて
当方は舞い込んだメールに返信の作業。
すると隣りが騒がしくなった。
初老のオバさんがオネバをドヤしつけている。
それもけっこうな剣幕でー。

オジさんはお手上げ状態、途方にくれている。
仕方ないから割って入ると
矛先がこっちに向いてくる始末。
そうこうするうち、
オネバが突然泣き出すじゃないかー。
客たちはみな呆気に取られている。

「まあ、まあ、手打ちにしようヨ。
 ビールでも飲みなさいな」とJ.C.。
「私にゃ日本酒寄こしなヨ」とオバさん。
まっ、これにて一件落着、と思いしが・・・。

一息つき、蘇州シスターズと中国の話を始めた。
すると落ち着きを取り戻したハズの二人が
やおら立ち上がりやがんの。
何だ、なんだ、取っ組み合いかァ?
さもなきゃ、オモテへ出ろい! かァ?

二人はどうしたと思われますか、皆の衆?
何と、いきなり唇を合わせやしたヨ、
何度も何度もー。
舌先の挿入こそなかったものの、
リップス・トゥー・リップスの
直接フリーキックでっせ。

(オメエら、いったい何考えてんだい?
 バカに付けるクスリはねェな、ったく)
とんでもない晩酌となった、
大井町は東小路の一夜でした。

「一角」
 東京都品川区東大井5-3-4
 03-3471-9080