2023年5月31日水曜日

第3286話 坊さんのタマゴも御用達 (その2)

 品川区・大崎で平和な昼めしどきを迎えている。
「平和軒」のちぢれ麺は腹を立てているようには
見えなくともプリップリのプリ。
いつまで経ってもノビる気配すらない、
と言うより、ハナからノビる心構えが
出来ていないんだヨ、この麺はサ。

大学生二人組が入店して来た。
そう、そう、書き忘れたが当店は
四人掛け2卓に小上りというか
昭和の茶の間に長テーブルが1卓。
勝手知ったるものとみえ、
二人は上がり込んでいった。

チャーハンも素朴ないい味を出してるねェ。
具材はチャーシュー主体に
玉ねぎとナルトがホンのちょびっと。
上に紅しょうが一つまみ。
たっぷりのチャーシューが昭和らしくないものの
今や豊かな令和の時代、株価も3万円を超えた。

「久しぶりに懐かしい昭和のラーメンをいただき、 
 ごちそうさまでした、美味しかったです」
「ありがとうございます」
深々とお辞儀をされ、
ボーッと突っ立ってたらチコちゃんに叱られる。
当方も深く頭(こうべ)を垂れました。

来た道筋を戻るのは面白くも何ともない。
直進すると、小さいながらも急な石段、
慎重に降りたら目の前に立派な建物がー。
立正大学である。

そうか、さっきの学生も坊さんのタマゴだったかー。
立正大学は日蓮宗の僧侶を養成する教育機関。
仏閣とは似ても似つかぬモダンな建築に虚を突かれた。
南へ上って行く坂は峰原坂。
峰原の地名は古く、江戸開府の以前から
一帯はこう呼ばれていたという。

冷たい麦茶は美味しかったが
そろそろガス欠の症状が現れてきた。
まだ13時過ぎながら戸越銀座なら何とかなろう。
百反通りから国道1号線を経て到着。

東急池上線・戸越銀座駅方面に銀座を往くと
ほどなくあった、ありました。
近頃ちょくちょくお世話になっている、
牛めし屋でドライの中瓶をポチッ。

デショップ台の女性に手渡すと
彼女、スポンと抜栓し、グラスを添えて
「ごゆっくりお召し上がりください!」
「あっ、ありがとう」
思わず発した本日三度目の”あっ”であった。
親切にして丁寧な受け答えに意表を衝かれたのだ。

これもみな立正大学のお導きと思われた。
何でそうなるの? いぶかしがられますか?
だって昔から言うでしょう、
”仏の顔も三度”ってー・

「平和軒」
 東京都品川区大崎3-1-16
 電話ナシ

2023年5月30日火曜日

第3285話 坊さんのタマゴも御用達 (その1)

この日、メトロ南北線を降りたのは目黒駅。
権之助坂を下って行った。
次回、理髪の前に立ち寄る店を物色しながらネ。
収穫はパスタ屋と菜館、このどちらかにしよう。
当日、気が変わりさえしなければ。

坂を下り切り、大鳥神社前でバスに乗る。
渋谷発大井町行きは一路、山手通りを東へ。
本日のターゲットは大崎警察署の裏手にある、
昭和の町中華「平和軒」だ。

同名の店舗は五反田TOCの脇にあるし、
祐天寺にもあったが、こちらは先頃、
閉業してしまった、
互いにゆかりがあるかどうかは判らない。

ちょいと判りにくい場所にあるが
記憶していた大崎3丁目1番地が
山手通りに面しており、
グルリめぐったら難なく見つかった。

うわっ、昭和のいい雰囲気出してるなァ。
西岸良平の世界だねェ。
引き戸を引くと、ワッワ~ワ~、ワが三つ。
さらにレトロと来たもんだ。
こうなりゃ、味なんて関係ねェ!
この空間に身を置けるだけで
シアワセいっぱい、胸いっぱい。

「すみませんがお冷やをご自分でお願いします」
「あっ、ハイ、ハイ」
歳の頃、七十代後半とお見受けする店主。
切盛りは彼一人きりの様子だ。」
言われた通りに冷たい麦茶をコップに注いだ。

「ラーメンと半チャーハンで
 ラーメンも半分にして下さい」
「かしこまりました」
物腰が柔らかい。

こういう受け答えができる人の作る料理が
不味かろうワケがない。
さっきは味なんか関係ねェなどと悪態をついたが
味は良いに越したことはない。

「ビールはないですよネ?」
「置いてないんです、すみません」
「あっ、いえ、いえ」
どうも恐縮シちゃうな。

ラーメンにはもも肉チャーシュー2枚に
シナチクとナルト。
ほのかな甘みを蓄えた懐かしの醤油スープが
身体に染み入り、実に美味しい。
割った割り箸で中太ちぢれ麺をつまみ上げた。

=つづく=

2023年5月29日月曜日

第3284話 カニを蒸したんだガニ (その2)

前々日にしゃぶりつくした背子蟹。
昨晩はその名残りのスープを存分に楽しんだ。
なのにこの日は日暮里駅前のスーパー、
「マルマン」で栗蟹と出会ってしまう。
毛蟹の仲間の栗蟹は庶民に優しい廉価蟹。

おいオマエ、カニは食ったばかりやんけ!
天の声にも「そんなの関係ねェ!」とバチ当たり。
すみやかに、かつにこやかに
クリちゃんはイン・マイ・バスケット。
その夕、また蟹を蒸したんだガニ。

毛蟹より二回りほど小柄なクリ坊。
スティーミング・タイムは10分とした。
しかしながらコイツは当日食べずに
一晩寝かせることにした。
スリーピング・タイムは24時間だ。

そして翌日。
いいネ、いいですネ、よく冷えていてー。
灰色の地味な甲殻は真っ赤に染まっている。
太目の脚を3本ほどやっつけてから
食指を蟹味噌に動かす。

毛蟹には届かぬものの、
じゅうぶんに楽しめる。
これが1尾400円だもの。
まったくもってカニに申し訳ない。
カンニンどっせ。

甘味や生姜風味を好まぬJ.C.は蟹酢を避ける。
生酢に生醤油をホンの数滴落とすのが好き。
子どもの頃から母親がそうしていたので
舌に沁みついている。

酢は京都三条大橋、村山造酢の千鳥。
醤油はキッコーマンのしぼりたて生。
醤油はさほど重要じゃないが
酢は必酢、もとい、必須。
酢のおかげで蟹の甘みが格段に増してくる。

さてさて、蟹の第二の楽しみはスープ。
食べ散らかした甲羅と脚を煮立てる。
溶き玉子を放ってかき玉汁とするのだ。
crab & egg は極めて相性がよろしい、
中華料理における、
芙蓉蟹蛋(カニ玉)の例を見るまでもない。

またカニ玉は天津麺&天津飯の主役。
よってJ.C.はこのスープを天津湯と名付けた。
味付けは塩だけでOK。
刻みねぎを散らしても良い。

3日に渡って蟹を味わいつくしたが
これは渡り蟹ではなく背子蟹と栗蟹。
おっと、産地を書き忘れるところだった、
背子は鳥取、栗は青森でありました。

2023年5月26日金曜日

第3283話 カニを蒸したんだガニ (その1)

アメ横で立飲んだ後、
御徒町駅前の「吉池」で晩酌用つまみを調達。
まずは小海老とヒイカをイン・マイ・バスケット。
シーフード・サラダと
五目かた焼きそばのあんかけ、一石二鳥を目論む。。

ん? 居酒屋の大将かな?
何かまとめ買いしているゾ。
そばに寄ってみたら背子蟹(香箱蟹)、
いわゆるずわい蟹のメスだった。
一緒に数えたら6匹もー。

値札を見てビックラこいた。
何と1尾200円と来たもんだ。
店前の小僧、習わぬ蟹を買う。
つい、3匹買っちゃった。

腹のフタをめくり、塩をしのばせて蒸す。
蟹は茹でちゃいけない、蒸さねばならぬ。
茹でると旨味が湯に流れ出ちゃうんだ。
蒸し器なんてないってか?

そこは簡単。
適当なサイズの鍋に2~3センチほど水を張り、
小皿を逆さにして敷いてやる。
その上に腹を上にして皿盛りした、
蟹を乗せ、中火で蒸し上げる。

時間は背子なら7~8分。 
良型の毛蟹で15分といったところか。
蒸し上がったら鍋ブタを外し、冷まして取り出す。
このとき皿に溜まったエキスをこぼしてはならじ。
高級割烹、一流中国料理店も真っ青、
極上のスープとなるのだ。

小さいから身肉は
上手に食べられないが内子はビッシリ。
コイツをしゃぶりつくす。 
かにシャブは高くつくけれど
かにシャブリなら家計は傷まない。

むさぼったあとの残骸も捨ててはならじ。
もう一度煮立ててスープ(その2)にする。
日本そば屋で言うところの二番出汁。
これもまた美味いんだが
一晩に二度のスープは飲み過ぎというより、
もったいないから(その2)は翌朝、
あるいは明晩に回すのが賢明である。

満足したつもりながら
堪能まではいかなかったんだネ。
その二日後のことだった。
以下、次話であります。

=つづく=

2023年5月25日木曜日

第3282話  ベトナムカレーはサラダかい?

以前、吾輩が棲んでいた、
おっと、漱石は前話で終わったのだった。
その文京区根津1丁目に
小さなベトナム・カフェが出来たのは
3年ほど前だったろうかー。

繁盛している様子が一切なく、
いつまでもつものか
他人事ながら心配していた。

それが先日、行きつけそば屋のあとで通りすがると
短いながらも行列ができているじゃないかー。
虚を突かれた思いで翌日訪れた。
テーブル2卓にカウンター合わせて
14、5席の小ぢんまりとした店内は8割の入り。
そのほとんどが近隣のOLである。

エスニックは彼女たちのパラダイスにつき、
オッサンは居心地がよろしくない。
それでも「そんなの関係ねぇ!」とばかり、
乙女と淑女の間に割って入った。
右側の淑女がチラッと
にらんだような気はしたがネ。

ベトナムといえば、第一感は米粉麺のフォー。
周りはみんながみんなソレである。
あまのじゃくがあえて通したのは
メニューに素っ気なく”カリー”と載った一皿。
紛れもなくカレーそのものだ。

サッポロ赤星を飲みながr待つこと20分。
何だヨ、これ? 何とも華やかなワンプレート。
オペは接客がオネエさん、調理はオニイさん。
息はそこそこ合っている様子だ。

ライスはインディカ米とジャポニカ米のブレンド。
そこに肉無しカレーのソースが掛かり、
生野菜の薄切りが差し込まれている。
茄子・大根・紅芯大根・ビーツなどなど。
そしてキャベ千に香菜(パクチー)も。

辛いのを好む客のために
サテと呼ばれる辛味油が用意され、
試してみたら、こりゃ辛いわ。

赤星のお替わりを所望すると
冷えているのはさっきの1本のみ。
黒ラベルの生に切り替える。
ハナから売る気がないネ。
ただ、小さいグラスの生が600円。
中瓶は960円って高過ぎやしないかい?

それにつけてもカレーを食った気がしない。
サラダじゃあるまいし、
カレーに生野菜はニードレス。
花咲く乙女たちに混じって
独りたそがれるオッサンでした。

「バブ・バル」
 東京都文京区根津1-1-19
 03-5834-7578

2023年5月24日水曜日

第3281話 うさぎ美味し この店 (その2)

接客係の回答は」実に意外なものだった。
「ポテトサラダはロシア発祥なので
 こう名付けたとのことです」
へえ、そうだったんですかい。
てっきり赤いビーツでも入っているのかとー。

ここでふと思い当たったのが
旧い精肉店に以前からある野菜サラダ。
実際はポテトサラダそのものなんだが
なぜか昔からこう呼ぶ習わしだ。

想像するにアレはロシア革命から
日本に逃れて来た亡命者が伝えたのではないか?
もともとロシア料理は
ザクースカ(前菜)が重要な役割を担う。

庶民の口に入る温かい料理はボルシチに
カーシャと呼ばれる、
そばの実の粥ぐらいじゃなかろうか?
温かいものはウォッカに合わないことも関係しよう。

ロシアの呑ン兵衛たちはザクースカに
黒パンでもあれば、延々と飲み続けられる。
アル中が多いわけだヨ。

メニューに表記はないが
じゃが芋&インゲンのバジルペーストとくれば
これはもうジェノヴェーゼ以外の何物でもない。

運んでくれたオネエさんに
「おう、こりゃスゴいネ、
 本場ジェノヴァで食べたのとおんなじだ」
「そうなんですネ」
「パスタだけ違って向こうはショートだけどネ」

ジェノヴァの小さな入り江に面したトラットリアで
食べたこの料理に使われていたのはトロフィーエ。
ねじりを加えたショートパスタだ。
バジリコ、じゃが芋、インゲンの三羽烏もバッチリ。
ただし、何でパスタにじゃが芋が?
不思議な気持ちでフォークを動かしていた。

久しぶりに本格的なジェノヴェーゼを楽しんだ。
うさぎも満足の美味しさだった。
接客の女性はかなり話好き。
界隈の飲食店の動向なども教えてくれる、
並びの日本そば「まつや」は
雨だというのに今日も長蛇の列である。

食後、雨も上がって旧連雀町をぶ~らぶら。
漱石ゆかりの洋食店「松栄亭」の閉業が寂しい。
神田祭の提灯だけが
人気(ひとけ)の失せた軒先にぶら下がり、
揺れていたものの、吾輩は嘆いておる。

「トラットリア・ラ・テスタ・ドゥーラ」
 東京都千代田区神田須田町1-13-8
 03-5207-5267

2023年5月23日火曜日

第3280話 うさぎ美味し この店 (その1)

♪   兎追いしかの山
  小鮒釣り師しかの川
  夢は今もめぐりて
  忘れがたき故郷  ♪
  (作詞:高野辰之)

珍しく童謡でスタート。
だってウサギが美味しかったんですもの。

この日は激しくはなくとも朝から雨模様。
傘をささずに行ける所を優先したい。
現れたのは古い町並みを残す神田須田町。
戦災を免れた旧神田連雀町である。

新御茶ノ水から地下通路を淡路町へ歩いた。
伊語で石頭、頑固頭を意味する、
「ラ・テスタ・ドゥーラ」は
かつてよく利用した。
デートより接待が多かった。

ランチ営業は金・土曜限定である。
シンプルなメニューを手に取った。

■プリモ・ピアット3種
 豚バラ肉ロースト・イタリア野菜のサラダ
 伊産うさぎ詰め物ロースト・ロシア風ポテトサラダ
 伊産仔牛トリッパ・野菜サラダ

■セコンド・ピアット2種
 ジャガ芋とインゲン、バジルペースト和えリングイネ
 生ハムとマッシュルーム、クリーム和えタリアテッレ

=税込み2200円=

それぞれ1皿づつ択ぶのだが
名うてのうさぎ好きJ.C.は
迷うことなくコニッリオ(仔うさぎ)をー。
パスタもさほど迷わずリングイネだ。

ビールに限らずほとんど800円均一のドリンクは
モレッチではなくスーパードライ。
そりゃそうだヨ、同値であれば
330ml より 500mlに決まっちょる。

うさぎの背肉(鞍下肉)が登場。
これぞJ.C.の大好物。
卯年だからもろに共食いだよネ。
1羽丸々平らげたいが
東京でそれを出す店はまずない。
詰め物もおそらくうさぎ。
滑らかにミンチされてとてもいい感じだ・

添え物のポテトサラダも美味しいが
ごくフツーのルックス。
ロシア風を名乗る所以は何ぞや?
お運びのオニイさんに訊ねた。
「確認してまいります」
言い残して厨房に消えてゆく。

=つうく

2023年5月22日月曜日

第3279話 スリランカのワンプレート

本日は中野区の区役所所在地、
中野へと東中野から歩いて行った。
目指すはスリランカカレー専門店、
「アチャラ・ナータ」である。

到着すると、2階の串揚げ屋は開いてるが
1階は閉まっている。
アチャー! またやっちまただヨ。
あきらめかけたところで小さな立て看板に気づいた。
閉じてる1階は夜営業の居酒屋で
スリランカンは3階だった。
チェッ、紛らわしいな、帰るとこだったぜ。

ランチメニューはワンプレート1種のみ。
チキン or ポークは択べるが
周りを彩る品々はまったく一緒だ、
ポークでお願いし、ドライの中瓶も忘れずに。
仏教徒主体のスリランカはインドと違って
豚肉OKなのがありがたい。

そしてかつお節の一大産地、モルディブが
すぐ西に控えているせいか、
かつお出汁をふんだんに使用する。

おおっ、カラフルな皿が運ばれ来た。
ポークカレーにはほとんどラードの肉塊一つのみ。
インディカ米を真ん中に挟んで豆カレー。
あとはキャベツのココナッツ炒め、ビーツのカレー、
ポルサンボル(ココナッツふりかけ)、
パパダム(えんどう豆の薄焼きせんべい)。

J.C.は食べ物をグチャグチャ混ぜるのを嫌うが
店主の再三の教育的指導に根負けして混ぜた。
結果、個別に食うより美味かった。
アドバイスには素直に従うもんだネ。
でもビビンパの場合は絶対に混ぜ混ぜしないゾ。
もっとも滅多に注文しないけど・・・。

ヨーグルトのシロップ掛けをいただき、
支払い時、店主に訊ねた。
アチャラ・ナータはサンスクリット語で
不動明王のことだった。
ワンオペのマブさんはスリランカの首都、
コロンボのホテルで修業したそうだ。

中野に来たら立ち寄りたい店がある。
錦糸町の行きつけ「vivo daily stand」の本店だ。
生が黒ラベルからハートランドに代わり、
ちと不満ながら、2杯飲んで再び会計時。

バーテンダレスにいきなり、
「オカさんですよネ?」
「エッ?」
「オカさんでしょ?」
「どうして判るの?」

彼女は錦糸町店の山チャンが
休みの金曜・土曜に代打ちするコだった。
一度会っただけなのに物覚えのよいコだこと。

「アチャラ・ナータ」
 東京都中野区中野2-27-14丸越ビル3F
 03-3381-3128

「vivo daily stand 中野本店」
 東京都中野区中野3-35-6
 03-5888-5476

2023年5月19日金曜日

第3278話 かつて明菜は のみともだった (その3)

結局は薬局、ゲームは振り出しに戻った。
ほうら、郷ひろみも歌い出したヨ。

♪   ふたりのゲームは 遊びを越えて
  ジョークと本気 スレスレの線
  たくらむ時には よく気があって
  退屈よりは 危険を選ぶ  
  可愛い顔して 上手の上手
  あなたが好き 
       でも向こうの 彼も素敵だわ ♪
    (作詞:阿木燿子)

「How many いい顔」は1980年秋のリリース。
それはそれとしてゲームは再開された。
とにかくたくらむ時にはよく気があって
よく遊んだ、よく飲んだ、ケンカもよくしたな。

一度なんか別れ際、愛車のドアに蹴りを入れられた。
幸いドアは凹まなかったけど、
歩道を通りすがったカップルが呆気にとられてた。
まっ、悪態つこうが、取り乱そうが
どこか可愛げのある、憎めないオンナではあったがネ。

一暴れも二暴れもしてNYをあとにして行った。
最後に逢ったのは東京出張の折。
遊びに来い! ってんで高輪のマンションへ。
「クルマ拾ったら三田から高輪に
 抜けてく道を真っ直ぐ来て」
「大ざっぱだなァ、そんなんで判るのかい?」
「ワタシが見てるからダイジョウブ」

ホントだった。
バルコニーから上半身を乗り出し、
両手を拡げて振ってやがんの。
「運転手さん、ここで停めて」
「あっ、ハイ!」

急ブレーキでもないけど、半急くらいかな。
タイヤがキキッと音を立てた。
これが交番の真ん前と来たもんだ。
おかげで運チャン、お巡りににらまれてやんの。

一人暮らしにしちゃ、
デカいリビングで余裕の独身生活。
ホテルの代わりにここで居候すりゃよかったな。

その夜は明菜の運転で麻布十番の割烹「H」へ。
いろいろチョコチョコつまみ、当方はもっぱら酒。
相方は無邪気にうに丼なんか食ってやがんの。
芝公園のホテルまで送ってもらい、
ハグして別れてそれっきり。
キャヴィアに始まり、うに丼で終わったわけだ。
あれから半世紀もの時が流れた。

いつか逢ったら思い出話に花を咲かそうと思うが
そうはいかない事情もある。」
明菜の里親にしてJ.C.の親友、
マイケル・シーマンは9.11の直撃を受け
還らぬ人となってしまった。
今もWTCの下に眠っている。

もし逢って語ればあの悲劇に言葉が及ぶのは必定。
避けて通ることはできない。
互いにそれが何よりもつらいのだ。

聞けば、彼女はこれから活動を活発化させる由。
明菜、J.C.はオマエを温かく見守ってるぜ、頑張れヨ。
ちなみに彼女のマイ・ベストは「十戒」であります。

=おしまい=

2023年5月18日木曜日

第3277話 かつて明菜は のみともだった (その2)

どうして明菜が親友のマイケル宅に?
事情はこうであった。
彼の顧客に或る邦銀のマネー・ディーラー、
I上氏がいて、J.C.もよく知る人物だが
彼の奥様が明菜のスタイリストのお友だち。

明菜の渡米に当たり、適当なホームステイ先を
紹介してほしいと依頼があってお鉢が回って来た由。
なるほどそういうことかー。
その夜はそのあと「ブルー・ノート」か
「ヴィレッジ・ヴァンガード」でジャズを聴いた。

ここからあるときは通訳、そして週に一度はのみとも。
そんな関係が築かれたのだった。
明菜、J.C.とファーストネームで呼び合う仲も
異国の街で出逢ったからこそ。
もしこれが東京だったら、こうはいかなかったろう。

あちこち連れ回したが
食事は和食と同じくらいにタイ料理を好んだ。
トムヤムクンやパッタイを前にすると
やおらハンドバッグから
チリパウダーを取り出し、料理にかけまくる。
辛い物を食べてれば太らないと信じていた様子だ。、

一番歓んだのはハーレムのジャズクラブ。
日本の娘が簡単に行けるところじゃないからネ。
素晴らしいドラマーがいて
彼のソロには二人とも心底惚れ込んだ。

こんなこともあった。
マイケル家は妻と娘の三人暮らしなんだが
5歳くらいだったかな?
娘のロジーナが降ってわいたように現れた、
ライバルにヤキモチを嫉き始めた。

アメリカ人の子どもには身体の小さい日本人は
自分と変わらない年頃に見えるのだろう。
助けてくれとの要望に応えて
クイーンズの外れまで出張って行き、
どうにか宥めすかして一難去ったように見えたが
あまり効果はなかったらしい。

その後はロジーナに明菜と両親が一緒にいるところを
なるべく見せないように腐心したそうだ。
仲の悪い猫同士を別々の部屋で育てるようなもんで
どうにもニャらなく、ニャンともし難いねェ。

半年ほど経ったかなァ、明菜は東京へ帰って行き、
J.C.にも平和で穏やかな日々が戻って来た。
すると驚いたねェ。
2、3カ月もしたら台風の目がまた来襲しやんの。
いや、マイッたな。

=つづく=

2023年5月17日水曜日

第3276話 かつて明菜は のみともだった (その1)

浪花の小姑・らびちゃんが早く書け、早く書けと
せっつくので中森明菜の思い出話 in NY。

あれは1993年のとある午後。
金融マーケットが閉まる時刻だった。
オフィスの同僚・マイケルが出し抜けに訊いてきた。
「J.C.、アキナ・ナカモリを知ってるか?」
「ああ、知ってるヨ」
「彼女は有名かい?」
「有名だよ、何だい、いきなり?」
「いや、いいんだ」

その翌日からJ.C.は東京出張。
2週間ほどして帰米し、出勤に及ぶと再びマイケル。
「アキナは有名なのか?」
「有名だって言ったじゃないか」
「ベリー・フェイマスか?」
「ああ、そうだとも、ベリー。ベリーな」
「実は彼女、今オレんチにいるんだ」
「ハァ~!?」

てっきり誰かに明菜のポスターでももらって
部屋に飾ってあるんだろう、くらいに思ったが
ヤツはいたって真面目、どうやら真実らしい。

「明日の土曜は何してる?」
「お前も知ってる桃子の店でヘアカット」
「店はどこ?」
「カーネギー・ホールの横に
 『ロシアン・ティールーム』あるだろ?
 57th St を挟んで真ん前の2階だヨ」

そして土曜の夕刻。
予告もなしにマイケルがサロンに現れた。
携帯なんかまだない時代だからネ。
こちとら上半身をビニール・マントに着替え、
シャンプーの直前だった。

「ちょっと、こっちに来て」ー
誘われて窓際に立ち、下の車道を見下ろすと
彼の車の助手席に女性の姿あり。
顔は見えなかったが小さな膝小僧が二つ。
「アレ明菜だヨ、
 キャヴィァを食いたいって言うんだ、
 つき合ってくれないか?」

ヘアカットは中断、いや、まだ切り始めてもいない。
「桃チャン、てなわけだからカットは明日だ」
「うん、判ったわ」
男たちはそそくさと階下へ。

これが明菜との出逢いだった。
三人はワシントン広場のアメリカ料理店へ。
キャヴィアとブリヌイ(そば粉のパンケーキ)に
あと何だったけな? 

おそらく蟹肉たっぷりのクラブケーキに
メカジキ好きのマイケルはそのグリルだったハズ。
シャンパーニュのグラスを傾けながら
事のいきさつを聞かされたのだった。

=つづく=

2023年5月16日火曜日

第3275話 かぶりついたぜ 骨付きとんかつ

とんかつを食べに日本橋人形町へ。
ひと月前に散歩していて見つけた「富士㐂」は
骨付きとんかつをウリにしている。
11時20分に到着したら
アンちゃんが一人、店頭で開店を待っていた。

界隈をぶらぶらして11時50分に戻ると、
ややっ! 1階は満席、奥に4席ある、
カウンターが二つ空いてが
危ない、危ない。
まっ、2階があるからいいんだけどサ。

特撰林SPF豚だの、三元豚だのあるうち、
狙いを定めた骨付き(2400円)をー。
ご飯セットは別途350円。
それにドライ中瓶が750円。
ビールとともに運ばれた薄切り大根醤油漬け旨し。

スペアリブみたいに肉付きのよい骨が
1本切り離されてキャベツの上に鎮座。
とんかつは7片に切られていた。
皿には練り辛子とカットレモン。

塩の用意はなく、代わりにソースが2種類。
但し書きが付いている。
甘口は野菜と果物でコクを出し、
辛口はリンゴ酢でスッキリ仕上げたとのこと。
どちらも丹念に造られている。

上手に炊かれたごはんと
シジミの味噌椀がうれしい。
350円もチャージするからには
豆腐とわかめってなワケにもゆくまい。

最後に残しておいた骨付き部分にかぶりついた。
ストリップ小屋の最前列に
陣取ったわけでもないのにかぶりついたのだ。
別段、どうということもない。
特に旨くはない。
それが証拠に他客は誰一人骨付きを頼んでいない。

中瓶をお替わりし、4250円を支払い、
帰りに「志乃多゛寿司」に
顔を出してばらちらしを調達。
まぐろ赤身のヅケをトッピングしてもらった。

都営浅草線で浅草橋へ移動。
池波翁が息を引き取った、
三井記念病院隣りのスーパー「LIFE」に立ち寄ると、
上りガツオのタタキがヌメヌメと輝いている。
コイツは旨いに違いない、確信して手に取った。

にんにくスライス、和辛子、ポン酢でやって
悶絶はしたのだけれど、

初ガツオ マグロもあるのに 無分別

「富士㐂」
 東京都中央区日本橋人形町1-5-14
 03-6667-0559

2023年5月15日月曜日

第3274話 昭和の味の もやしあんかけ

66年前(昭和32年)の夢を見た。
家族揃って上京し、
母親の兄夫婦宅に転がり込んだ頃。
ところは板橋区・中板橋だ。

ある夜、6人で食卓を囲んでいた。
献立はもやしあんかけ焼きそば。
最近はトンと見かけないが
さつま芋をふかすための胴長鍋が
ちゃぶ台の脇にあった。

ふかし鍋というんだろうか?
アレでもって焼きそばを温め、
たっぷりのもやしに豚小間入りのあんを掛けたヤツ。
大人も子どもも大好きだった。

箸を取ったところで目が覚めた。
食いモンの夢はいつもこうなんだ。
その夢を見たもんだから無性に食べたくなり、
いや、探した、探した。
なかなか見つからなかったが、とうとう探り当てたゾ。
団地の町、江東区・東大島の「龍山」である。

人気(ひとけ)のない道を歩いて到着。
真っ赤なパーティションが中華屋らしい。
ん? ソース焼きそばを筆頭に
焼きそばだけで10種類もあるゾ。
オススメは麻婆焼きそばだとー。
食いたくないなァ。

接客はすっかり腰の曲がったお婆ちゃん。
頑張るなァ、元気だねェ。
心に決めたもやしあんかけ焼きそばと
ドライの中ジョッキをお願いした。

あんかけはいい塩梅だ。
もやし主体の野菜オンリーで肉はまったくナシ。
焦げ目混じりの中細ちぢれ麺は
昔食べたふかし麺とは違う。

酢と辛子で美味しくいただいた。
中ジョッキ2杯と合わせ、支払いは1900円。
ドリーム・カム・トゥルー。
夢がかない、幸せな気分で「龍山」をあとにした。

飲み直しはいつものようにアメ横。
都営新宿線を岩本町で降りた。
秋葉原を縦断して往くとものすごい人出。
どこから湧き出したものか、外国人率が高い。

人ゴミを、じゃなかった、人混みを
かき分けかき分け末広町の交差点まで来たが
メイドカフェの立ちん坊はまだ何人もー。
トンデモないコが一人いて掲げるカードに
ひざまくら・耳かき
と来たもんだ。
噂にゃ聞いてはいたがホントにやるんだネ。

そもそも耳かきなんて母親が可愛いわが子に
あるいは新妻が愛する夫にしてやるモンだぜ。
その新妻でさえ、婆さんになったら
もう爺さんの夫にしてやらなくなるヨ。
いわゆる拒否権発動だ。

そんな孤独な爺さんに秋葉原の耳かきを推めたい。
孫娘みたいな若いコのひざに白髪頭を預けて
幸せいっぱい、夢いっぱい。
世の人はこれをメイドのみやげと言う。

「龍山」
 東京都江東区大島8-30-8
 03-3682-3497

2023年5月12日金曜日

第3273話 また行きつけに袖にされ

この日は2日前に長蛇の列で、
袖にされた池之端の行きつけそば屋再訪。
家から歩いて行った。
ところがどっこい、またもや行列のお出迎え。
店に責任はないけれど、まいっちまうヨ。

2~3人ならともかく10人超えはきびしい。
ここは一番、見切り千両の巻。
小さな空き地を挟んで隣りにある、
洋食屋に救いを求めた。

近くに棲んでいた10年前。
たった一度利用したきりである。
そのとき何を食べたのか記憶にない。

黒ラベル中瓶とポークソテー&ライスを通した。
13時で先客はオジさん一人のみ。
商売が成り立つのか心配していたら
男3、女1の4人組が来店。
目の前のテーブルに座った。

聞くともなしに聞いた彼らの注文は以下の如し
生姜焼き、まぐろフライ、カツカレー、
女性がめかじきムニエル。
まぐろやめかじきが揃うのは真っ当な店の証しだ。
近隣のリーマン二人組も現れ、
生姜焼きライスをオ-ダーした。

黒ラベルを飲みながら、おとなしく待っていたら
まず前テーブルの生姜焼きが運ばれ、
まぐろ、カツカレー、めかじきと、続々登場。
結局は薬局、全品向こうが先と来たもんだ。
あっちかい!?

ビールがあるからいいけれど、
無かったらムッとして
お運びのオバちゃんを問い質す場面だ。
しかし、心の友が寄り添っているため、
なあんの問題もない。
どうぞ、どうぞ、お先にどうぞ。
てなもんや三度笠。

さすがにリーマンたちの生姜焼きに
先んじてわがポークソテー着卓。
おおっと、存在感があるなァ。
肩ロースだろうが筋切り不十分につき、
肉全体が湾曲しちゃってるヨ。
ナイフ&フォークを駆使して挑んでゆく。

添え物は千キャベのほかに
トマト・きゅうり。パセリ。
加えてごぼう・にんじんのキンピラに
蓮根も混じっていた。
減量を伝え忘れたライスは皿にてんこ盛り。

おそらくシェフのニックネームと推察されるが
店名「JACK」の由来もついでに訊き忘れた。
最近、物忘れの激しいオカザワ君であります。

「JACK」
 東京都台東区池之端2-8-5
 電話ナシ

2023年5月11日木曜日

第3272話 旧中山道の一球三殺

北区・滝野川は1丁目から7丁目まで
当区有数の広がりを誇る地番である。
しかも北区民、あるいは行政が
この地名を気に入っている様子なのだ。

上中里に滝野川女子学園、
西ヶ原に滝野川警察署と
あちこちに滝野川を名乗る施設が点在して
よりいっそう地域の広がりを感じさせる。
滝野川は練馬・板橋・北の3区を流れる、
石神井川の別称でもあるのだ。

そのわりに訪れる機会に恵まれないのは
飲食店の数が少ないせいだろう。
都営三田線・西巣鴨駅そばの掘割交差点。
明治道りと滝野川銀座が交わる地点から歩き始めた。
此処は旧中山道である。

1分と経たずに中華料理「華興」に差し掛かる。
今日の昼めしは当店と決めてあった。
主なランチメニューはかくの如し。

1ー麻婆豆腐  2ー五香茄子  3ー油淋鶏塊  
Aー半炒飯・ラーメン・餃子2個
Bー半カレー・ラーメン・ミニ杏仁豆腐

大した量を食べないのに
いろいろ食べたいオッサンはAに挑んだ。
もちろんラーメンも半分に減量してもらう。
半チャー・半ラーが一石二鳥なら
餃子も付くからまさに一球三殺である。

ドライの中瓶を飲んでるところにAセット着卓。
中太ちぢれの醤油ラーメンは
ブットいシナチクとバラチャーシューが主張する。
チャーシュー・玉子・小ねぎ入りの炒飯は
醤油味で仕上げてあり、好みに合わない。
ジューシーな餃子は厚い皮がちょいと気になった。

中国茶が独特の味わいなので
会計時、お姐さんに訊ねると
「ウーロン茶とハーブティーのブレンドで
 ウチのオリジナルなんです」ー
誇らしげに応えたものだ。

旧中山道をそのまま真っ直ぐ往ってJR板橋駅。
駅前にある近藤勇の墓前に一礼し、さてどうしよう。
三田線・新板橋から二つ都心寄りの巣鴨へ。
なじみの「ほていちゃん」だ。

おキマリの赤星大瓶とはちみつクリームチーズをー。
BGMは昭和歌謡だし、
トイレは清潔だし、居心地がとてもいい。
中村雅俊の「心の色」から
中森明菜の「少女A」に替わった。

明菜かァ・・・実はJ.C.、
かつて彼女とはのみともだったのだ。
書き残しておきたいことがあるし、
近々、NYの思い出話を
綴ってみたいと思っています。

「華興(かこう)
 東京都北区滝野川6-9-11
 03-3916-1252

「ほていちゃん 巣鴨店」
 東京都豊島区h巣鴨2-1-5
 03-5972-1666

2023年5月10日水曜日

第3271話 通りすがった 翁行きつけ

秋葉原から上野への道すがら、末広町を抜けていく。
中央通りの1本西寄りの裏道で
「花ぶさ」に通りすがった。
池波正太郎翁がこよなく愛した割烹店である。
腹いっぱいでも店頭の品書きには目を通す。
するとランチの一品に、にしんのお造りを見とめた。

にしんと来たか。
塩焼きなら看過だがお造りかや。
腕組みの思案投げ首である。
にしんのお造りなんて
いつまた食べられるか、知れたものではない。
いつの間にか文章が池波調になっている。

入店を決断。厨房に立つ板長に
「食事は済ませちゃったので
 にしんのお造りでビールはありですか?」
「はい、どうぞお掛けください」

ドライの中ジョッキを飲んで待つ。
茗荷と若布をあしらった、
水だこの三杯酢が供される。
赤かぶ・たくあん・白菜漬けの新香盛りも。

にしんは15切れほどの薄造りだった。
あしらいは、本わさび、紅たで、あさつき、大葉。
舌にやさしく、しかも味わい深い。
酢締めのニシンはときどき見受けるが
生そのものは珍しい。
無理をして挑んだ甲斐があったというものだ。

「花ぶさ」は5年ほど前に
松茸ごはんの昼餉をいただいて以来。
そのときは翁なじみの女将の姿が見えないので
おや? と思ったものの、立て込んでおり、、
お運びさんに訊きそびれた。

此度は帰り際に訊ねたら6年前に亡くなられた由。
娘さんだろうか? 古株と思しき女性は
ありし日の姿を撮した写真を見せてくれた。
まだ元気だった池波翁のスナップも。
たまたまにしんにツラレたおかげで
往時を偲ぶことができました。

「花ぶさ」
 東京都千代田区外神田6-15-5
 03-3832-5387

2023年5月9日火曜日

第3270話 専門店のカツカレー

今日の昼めしは近場で軽く済ませるつもり。
池之端の行きつけそば屋である。
折よく上野松坂屋行きのバスが停まって飛び乗った。
いや、飛び乗ったと言うと聞こえがいいが
実際は「よっこらせ」とステップをまたいだ。

根津駅前を過ぎると次のストップは池之端二丁目。
降車ボタンをポチッ。
降りるすぐ手前で「新ふじ」の暖簾を確かめる。
OK、OK、いや、OKじゃないヨ、店頭に長蛇の列だ。
降車用のドアは開いたが無視、誰も降りなかった。

終点の松坂屋まで行き、向かったのは外神田。
判りやすく言うと、ほとんど秋葉原だ。
大田区・蒲田に本店を構えるとんかつ店、
「檍(あおき)」直営の「いっぺこっぺ」は
かつカレー専門店である。

最初にロースかつカレー(1200円)と
ドライ中瓶(600円)のチケットを買い、
外で数分、入店を待たされ、
カウンターの一番奥にご案内。。

卓上には3種の塩。
ヒマラヤ岩塩ナマック。ヒマラヤンピンクソルト。
メディターレニアンシーソルト。
当店はとんかつに塩を推奨している。
あまり違いはないが香ばしさのあるナマックがよい。

ロースかつはライスの上に避難しており、
カレーが掛かっていないのがうれしい。
これならかつライス、かつカレー、
カレーライスの三段活用が可能となる。

薄紅色の豚ロースが肉汁をたたえてバツのグン。
脂身はほとんどそぎ落とされているのに滋味たっぷり。
カレーの出来もよく、ライスの炊き上がりも上々。
甘さの勝った中濃ソース、
パリつとした福神漬けにも吟味のあとが伺える。
添えられたキャベツのみ硬くて不満が残った。
春キャベツの季節は終わったのだろう。 

カレーなしの定食も人気。
ロースかつ定食が平日昼限定で
1200円のサービス価格になっている。
順番待ちがあとに控えているため、
ビールのお替わりは遠慮した。

上野アメ横は目と鼻の先。
真っ直ぐ向かいましたとサ。

「いっぺこっぺ 秋葉原店」
 東京都千代田区外神田3-5-3
 03-6384-0015 

2023年5月8日月曜日

第3269話 スーダンへ逃れた日

スーダン在住の日本人は無事、
国外に脱出した模様、何よりである。
今話は逆にスーダンへと逃れたJ.C.の体験談。

あれはちょうど半世紀前の1973年9月。
エジプトのカイロにいた。
日中は暑いのでもっぱら滞在していた、
ホテルのバーに入り浸り。

カイロ大学の学生アルバイト、
バーテンダレスのジジと仲良くなって
もしカイロに棲むみついていたら
このコと結婚していたネ、たぶん。

そんな平和な日々が突如として破られた。
第四次中東戦争の勃発である。
カイロに危険が迫っているのではなかったが
隣国のスーダンに脱出した。
あの頃のスーダンは平和でのどかだった。

ただ食べ物が口に合わず、
もっぱら栄養源はフルーツの生ジュース。
首都・ハルツームの街のあちこちに
ジューススタンドがあり、
ずいぶんお世話になったものだ。

町を歩いていて思ったことに
此の国の人々の肌の色の濃さ。
焙煎したコーヒー豆みたいに深い。
世界で一番濃い色の肌を持つのは
スーダン人と断言できる。

旅した経験からついでに言うと、
一番背の高いのはセルビア人。
ガタイのいいのはオランダ人、
電話好き、話好きはインド人である。

郊外のバンガローみたいなユースホステルに
2泊したかな?
エチオピアの首都・アディスアベバに移動した。

生まれて初めてのアフリカを
エジプト・スーダン・エチオピアと3カ国めぐり、
驚かされたのはそれぞれの国の人の容貌の違い。
隣国同士とはとても思えない。

詳しく述べると夜が明けてしまうので
簡略に勤めるが最大の異なりは肌の色である。
判りやすくイタリアの朝の飲み物に例えてみよう。
エジプト人ーラッテ スーダン人ーエスプレッソ
エチオピア人ーカプチーノ
なのである。

その後は東アフリカ3カ国、
ケニア・ウガンダ・タンザニアを回り、
ナイロビ空港から
ヒースローへ飛んだのでした。

2023年5月5日金曜日

第3268話 恋は小岩 カレーも小岩

JR山手線を秋葉原でJR総武線に乗り換え、
小岩にやって来た。
ほうら、さっそく藤圭子が歌い出す。

♪   飲めば飲むほど うれしくて
  しらずしらずに はしご酒
  恋は小岩と へたなしゃれ
  酒の肴に ほすグラス
  よってらっしゃい 
  よってらっしゃい お兄さん ♪ 
   (作詞:はぞのなな) 

東京の下町を歌い継いでゆく「はしご酒」は
1975年11月のリリース。
彼女のナンバーで最も好きな1曲である。

てなわけで小岩に来は来たが
まだ13時、はしご酒には早すぎる。
晩酌ではなく、昼めしに現れたのだ。
下調べして狙いを定めたのは
タイ料理の「いなかむら」。
何とものんきな店名だが旨いらしい。

グリーンカレーが目当てながら
店頭のメニューボードにそれがない。
よくよく見るとゲーンキョウワン(グリーンカレー)。
ふ~ん、そう言うのか、何度か暗唱して覚えた。

「イラッサイマセ~!」ータイの陽気なオバちゃんに
「ゲーンキョウワン、お願いネ」
「ゲーンキョウワン! アハハ、コップン・カー!」
最後の一言はタイ語で、どうもありがとう。
これは女性言葉で
男の場合はコップン・クラップとなる。

「お客さん、よく知ってるネ、タイに棲んでたの?」
「そうじゃないヨ、外の看板で練習したんだ」
「アハハハ、コップン・カー!」
どこまでも陽気だ。

立ち上がってビールの冷蔵ケースを見にゆく。
タイビールが並ぶ中、ドライ中瓶があり、発注。
ゲーンキョウワンは鶏もも肉・竹の子・茄子が主体。
竹の子が柔らかい姫竹で、まいう~。

なぜか赤ウインナーの入った春雨サラダと
野菜が浮かぶ塩味スープ。
タピオカの代わりに餅みたいな粘っこいのが入った、
ココナッツミルクのデザート。

みなそれなりに好いが
主役のグリーンカレーとジャスミンライスが一番。
満足して金1800円也を支払い、
「美味しかったヨ、ごちそうさま」
「コップン・カー!」
そればっかりやん、タイのオバちゃん。

「いなかむら」
 東京都江戸川区南小岩7-26-21
 050-5456-9362

2023年5月4日木曜日

第3267話 みちのく酒場で 飲む酒は (その2)

千駄木「民謡の店 おばこ」は
秋田・山形の酒肴を供する郷土居酒屋。
相方のS織が当店を指名した理由は
「J.C.みたいなお客さんと
 ご主人のやりとりを聴きながら
 お酒を飲みたかったの」なんだが
「居酒屋で聴く大人同士のハナシは面白いわ」
「会話を酒の肴にしやがって」
「ウフッ、そう言われればそうだわネ」

ホヤ塩のあとは
秋田のいぶりがっこと山形の赤かぶ漬け。
日本海沿いの漬物には格別なものがある。
酒を青森の作田に切り替えた。
スッキリとした口当たりに
ふくよかな後味が残り、美味しい酒だ。

店主オススメの鮭ハラスを通す。
「ウチのはあんまり脂っこくないんでネ」
なるほどスーパーで売ってるギトギトのハラスと違い、
身がたっぷりついた、腹身だネ、これはー。

そうして本日のメインは山菜天ぷら盛合わせ。
山形から直送された山菜たちは
ザルにてんこ盛りである。
そいつを女将がていねいに揚げてゆく。

すべて塩でやった。
こごみ・たらの芽・山うど・こしあぶら・
行者にんにく(アイヌネギ)、
まったくもって非の打ちどころナシ。
野菜の天ぷらは好きだが山菜に如くはナシ。

山菜天でお腹がくちくなってしまい、
あとは作田の盃を重ねるばかり。
箸を置いて店主とよもやま話に花を咲かせる。
この人は千駄木の花咲か爺さんだネ。
ちなみにご夫婦、女将は唄と三味線、
旦那は尺八を奏で、いわゆる”婦唱夫随”だ。

料理を出し終わった女将も会話に参加。
話題はもっぱらふるさと納税じゃなかった、
ふるさと秋田の西馬音内である。
風の盆というと、越中八尾のおわら風の盆が
全国的に有名だが近年、こちらも注目を集めている、
風の盆とはいわず、単に羽後町の盆踊りと呼ばれる。

人混みが苦手なJ.C.は祭りがあまり好きではない。
地元に近い三社祭や神田祭でさえ食指が動かない。
ただ、静かでもの哀しい八尾や西馬音内は
いつか訪れてみたいと思っている。

相方のおかげで美味い酒が飲めた。
とても良い店だった。
ご褒美として梅雨が明けたら
生ビールを飲みに連れてゆくこととなる。
手駒がまた1枚増えちゃった。

「民謡の店 おばこ」
 東京都文京区千駄木2-43-4
 03-3822-8411

2023年5月3日水曜日

第3266話 みちのく酒場で 飲む酒は(その1)

読者は覚えておらりょうか?
2か月ほど前に余計な連絡をしてきた挙句、
前話の「CACOM」と同じ舞台の花川戸で
的外れのチキンライスで大きく外したあと、
どうにか鷺ノ宮のかつ丼で名誉回復した御仁をー。

あの件がきっかけで一献傾けようと相成ったが
此度も奴さん、店を提案して来た。
友人と谷根千散策の折、
フラリ訪れ、お気に召したとのことだ。

不忍通りからちょいと入った路地裏の「おばこ」は
かつて民謡酒場だったらしい。
何だってまた他人のテリトリーに
足を踏み入れて来るんだと思いつつも
存在を認知していながら未踏のため、素直に従った。
負うた子に教えられてる気分だ・

「J.C.みたいなお客さんと
 ご主人のやり取りを聴きながら
 お酒を飲んでいたいの」
「何だい、われわれは酒の肴かヨ」
こんなやりとりをS織と交わしながらの現地集合。

ドライの中瓶を注ぎ合ってカチン。
いずれも70代のご夫婦の切盛りは
店主が山形県・上山(かみのやま)、
女将は秋田県・西馬音内(にしもない)のご出身。
J.C.の知識では前者が競馬(すでに消滅)、
後者は東北の風の盆である。

ちなみに”おばこ”は彼の地で若い娘のこと。
女将はおばこの時代をとうに超えているし、
ツレのS織にしたってトウが立っている。
まっ、ここは我慢しよう。

真正面の品書きをジッと見つめ、
最初にピンと来たホヤ塩を通すと、
「おっ、お客さん判ってるネ」ー
店主からお褒めの言葉をちょうだいした。
いや、ホヤ塩とは初めて聞く言葉で
新しモノ好きとして刺激されただけのことだ。

ところがどっこい、
これが天下の珍味、本日のMVPだった。
シャリシャリと凍った状態で供され、
鮭のルイベみたいな半解凍ではなく、
言わばシャーベット状、
舌の上に濃密な旨味が拡がる。

訊けば一般的な三陸産ではなく、
道東・根室の赤ホヤだと言う。
こんな状態で出す発想力が素晴らしい。
今度はこちらがほめる番、その旨伝えると、
豆絞りの下に笑みが広がった。

=つづく~

2023年5月2日火曜日

第3265話 ブルターニュ生まれのガレット (その2)

滅多に口にしないコーラ系のクーバ・リブレは
映画「ゴッドファーザーPARTⅡ」を思い起こさせた。
ハバナのカフェでマイケル・コルレオーネの次兄、
フレド・コルレオーネが飲んでいたのだ。
気弱な役どころにふさわしい飲み物と言えよう。

コーラ味は1杯で飽きちまった。
お次はつながりでカクテル、
ゴッドファーザーと思ったものの、
ベースをウイスキーから
ウォッカに代えてもらいゴッドマザー。
どちらも合わせるのは
アーモンド・リキュールのアマレットだ。

皿は順調に進んで塩豚バラ肉のソテーが
3人前運ばれる。
塩ッ気をあまり感じさせないが
女性陣にはおおよそ好評だった。

続いてメイン格のビーフ・ハンバーグ。
こちらも3人前注文してあった。
トッピングが2種あり、目玉焼きかチーズ。
チーズがグリュイエールと聞き、これは大好物。
3枚すべてにWでお願いした。

すると妹の方がもじもじしながら
やって来て耳元でささやいた。
ん? 何だって?
彼女曰く、このスイス産チーズの値段が
コロナ禍下で急騰してしまい、
Wトッピングにしたら
ハンバーグの値段を上回ってしまうんだとー。

玉子が値上がりしてラーメンより、
味玉が高くなったケースだネ、これはー。
しょうがねェなァと思いつつ、
発注に及ぼうとすると、
みんながこっちを見つめてる。

みんなの目玉が目玉焼きにしろ!
そう、訴えかけているのだ。
判りやしたヨ、身の危険を感じたJ.C.、
「ハイ、3皿とも目玉にしてちょうだい」
心なしか一同から安どの吐息がもれ聞こえたような。

グリュイエールは食べ損ねたが
ハンバーグの出来よろしく、
揃ってナイフ&フォークを置いた。
これにて会食の幕が下りたと思いきや、
そうではなかった。

アフォガートだのクレープだのと、
よく食べること、食べること。
開始から丸3時間、ようやくお開きである。

二次会は観音裏のスナックを予定していたが
時間的にまだ早過ぎて協議の結果、
雷門のカラオケ・ボックスに向かったのでした。
さんざ食ったあとは歌だとヨ。

「CACOM」
 東京都台東区花川戸2-15-6
 03-6830-3559

2023年5月1日月曜日

第3264話 ブルターニュ生まれのガレット (その1)

今日はこのところ定例会の様相を呈する6人会。
舞台を浅草の花川戸に設けた。
あの悪夢のチキンライスのネ(第3223話参照)。
例によって独り0次会を催さねばならない。
さすれば、ここは「神谷バー」でキマリだ。

いや、混んどる、混んどる、ほぼ満卓。
どうにか大テーブルの隅に滑り込んだが
ほどなくいっぱいになり、、
数少ない立ち飲みスペースまで客があふれ返る始末。

週末とはいえ、いや、驚いた。
2年前、2階の「レストラン・カミヤ」だったが
最初から最初までJ.C.独りきりなんてこともあった。
エンコの街も完全復活である。

集まりが控えているのでドライの大瓶を
1本だけにして、即退店。
隅田公園沿いに北へ歩いた。
今回はちょいとばかり趣向を変えて
ガレット専門店「CACOM」。

元々はメンバーに誕生月が2人いるため、
銀座7丁目のライオン旗艦店、
5階にある「音楽ビヤプラザ」の予定だったが
2年前に閉業してやんの。
コロ助の仕業以外の何物でもありゃしない。
あんないい店をつぶしやがって困ったヤツだヨ

ガレット(そば粉のパンケーキ)とくれば
同じブルターニュ名物のシードル(りんごの発泡酒)。
こいつを先着のお局と飲み始めた、
ほぼ予定時刻の15時にみな出揃い、
ハートランドの生で乾杯。
偏屈な店だヨ、アサヒのひざ元でキリンだとサ。

家族経営の当店で本日の切盛りは姉と妹の二人。
事前の打ち合わせで料理は決めてある。
スターターはサラダだったが
「枝豆食べた~い!」の声が上がり、通した。
それもフツーの茹でと
ガーリックオイルで炒めたヤツの2種。
アイデアも味もいいんだが指先が油まみれ。

レタス主体のサラダも
シーザーとオレンジ風味のドレッシング2種、
ともに手造り感に満ちてなかなかだ。

ガレットもまたまた2種。
ポピュラーなコンプレット(ハム・チーズ・玉子)と
クワトロ・フォルマッジ(4種のチーズ)。
コンプレットは英語のコンプリートのことで
完全な、完璧の、を意味する。

チーズはゴルゴンゾーラ、グリュイエール、
グラノ・パダーノにあとチェダーだったかな?
こちらにははちみつが添えられる。

シードルは国産のキリンで
飲み続けても飲みごたえがないため、
リストを眺めて珍しくも
キューバ・リバー(クーバ・リブレ)にしてみた、
自由なるキューバは
いわゆるバカディ・コークである。

=つづく=