2023年12月29日金曜日

第3438話 師走の吉原 ぶ~らぶら (その2)

焼きそばは中濃ソースの味が濃い。
でも、昔のソース焼きそばってこうだった。
中太ストレートの麺に青海苔が掛かっている。
1050円を支払いながらオネバさんと談笑。
さっきのオジさんは店主じゃなくて雇われ人。
オネバさんが経営者で
7年前に亡くなった先代の娘がこの人。

「隣りの『ニューダイカマ』は今日お休み」
「いえ、そうじゃないんです。
 1年前に叔父が亡くなり、息子はいますが
 後を継ぐのが嫌だって、結局、閉めました」
ふ~ん、そうでありましたかー。

さっき歩いて来た道筋を戻り、
見返り柳を抜けて吉原の本丸に入城した。
おや? こんな中国料理屋あったかな?
「蜀食成都」なる四川料理専門店だ。
店頭のメニューに強く惹かれるものがあった。
マコモダケである。
とたんに裕次郎が歌い出す。

♪ 真菰(まこも)の葦は 風にゆれ
  落葉くるくる 水に舞う
  この世の秋の あわれさを
  しみじみ胸に バスは行く ♪
   (作詞:萩原四朗)

「夕陽の丘」は1963年のリリース。
浅丘ルリ子とのデュエット曲である。
作曲が上原賢六で、荻原・上原・石原の勢揃い。
よってチャンバラトリオならぬ、
三原(さんばら)トリオと呼ばれている。

マコモダケはマコモ茸と誤記されることがあり、
キノコの一種と誤解されるが正しくは真菰筍。
肥大化した茎を食べ、種子はワイルドライスとして
アメリカ・インディアンには重要な穀物だ。

豚肉とマコモダケの炒めでビールを飲もう。
出て来た小姐に所望すると、彼女曰く、
「料理は全部あるあるがマコモダケだけないあるヨ」
それはないぜ、セニョリータ!
今さら出てゆくわけにもいかず、
カキの鉄板焼きで妥協した。

アハハ、これにはマコモダケならぬ、
フクロダケ(袋茸)が入ってるヨ。
あとはマッシュルーム、玉ねぎ、ピーマン、
ニンジン、タケノコ、ヤングコーン。
四川なのに唐辛子や花椒が主張するでもなく、
味付けはもっぱらオイスターソースだ。
ぷっくり太った5粒のカキが旨い。
とりあえず溜飲を下げた。

ソープ街のど真ん中を独歩する。
店頭のオニイさんに会釈されたり、声掛けされたり。
「ボジョレ・ヌーボー」なんて店もあった。
ワインバーじゃあるまいし、笑かすねェ。
観音裏辺りでもう1軒寄って帰るとするかなァ。

それでは皆さん、元旦にまたお会いしましょう。
どうぞ、良い新年をお迎えください。

「大釜(だいかま)本店」
 東京都台東区清川1-29-5
 03-3872-0103
 
「蜀食成都(しょくしょくせいと)」
 東京都台東区千束4-31-2
 03-4361-9982

2023年12月28日木曜日

第3437話 師走の吉原 ぶ~らぶら (その1)

歳の瀬になると、浅草が恋しくなる。
インバウンドが戻って来て
観音さまの周りはだいぶ歩きにくくなったけど
この街とは旧知の仲だからネ。
今から半世紀前、寂れに寂れた時期が懐かしい。
あの頃の浅草をもう一度歩きたい。

上野松坂屋から乗った南千住行きのバスを
浅草の奥座敷、吉原大門で降りた。
大門は”おおもん”と訓ずる。
増上寺のある芝大門は”だいもん”と音読みだ。
これは聖と俗を一緒くたにできないためである。

大門入口に今にも朽ち果てそうな見返り柳。
足元の説明書きによると、
京都は島原遊郭門口の柳を模したもので
遊び帰りの客がこの辺りで後ろ髪を引かれ、
遊郭を振り返ったことから見返り柳と呼ばれる。

遊郭はソープランドに生まれ変わった。
一年の垢を洗い流してゆこうかー。
いや、若い娘に身体を
洗ってもらう習慣はないからやめておこう。

こう見えても若いうちはそこそこ遊んだ。
殊に海外ではネ。
女性を抱くこと自体より、
哀愁漂う街角を歩くのが好きだ。

J.C.の知る限り、ワールド・ベストは
トルコのイスタンブール。
セカンド・ベストはエチオピアのアディスアベバ。
逆に味も素っ気もないのはドイツのハンブルグ。
その点、運河があるため、
オランダのアムステルダムには情緒がある。

ソープ街とは反対側の日の出商店街を往く。
吉野通りを渡り、アサヒ会通りをさらに真っ直ぐ。
そこら中にシャッターが降りて
開いてる店はほとんどない。

あれ、目指したカレーの「ニューダイカマ」も休み。
辛くも隣りの「大釜本店」が営業中。
カレーが焼きそばに変わるけど入店した。
まだ食べていないラーメンに誘われつつも
久々なのでやはり焼きそばにしよう。

目玉入りや豚バラ入りもあるなか、
一番シンプルな焼きそば(500円)を
ドライの中瓶(550円)とともに
店主らしきオジさんにお願いした。
中濃ソースたっぷりに具材はキャベツともやし。
肉はただの一片も入っていない。
オジさん奥に消えてオネバさんが厨房に入った。

=つづく=

2023年12月27日水曜日

第3436話 裕やんだんだん西隣り (その2)

東五反田は裕やんだんだんの西隣り、
「小林食堂」のラインナップです。

<前菜>
 鹿児島鮮魚のカルパッチョ
 軽く炙ったサーモンと
  アボカドのタルタル・いくら添え +200円
 鴨肉とドライイチジクのテリーヌ
 ローストビーフのタルタルステーキ +400円
 あさりと菊芋のクラムチャウダー

<主菜>
 豚肉ラグーと蕪の手打ちパスタ    1950円
 生うにのペペロンチーノ・すだち添え 2600円
 ミートソースと
  豆腐・ザーサイ・実山椒のラザニア 2000円
 魚介のドリア・ハリッサ添え     2200円
 鶏肉と野菜のクリーム煮 
  バターライス添え         2000円
 小林食堂のハンバーグ・デミグラス  2800円
 鹿児島鮮魚のアクアパッツァ     2800円
 骨付きラムチョップのカツレツ    2800円

料金に飲みものも含まれ、白・赤ワインもOK。
鹿児島鮮魚は真鯛とブリで食指が動かず、
炙りサーモンにしてみた。
メインはラザニアを所望したが売切れにつき、
鶏肉のクリーム煮を択んだ。
ドリンクはグラスの赤をお願い。

サーモンは半生、仏料理のミキュイなる手法だ。
たっぷりのいくらが歓ばしい。
アサツキと柚子皮があしらわれ、
造り手のデリカシーが食べ手に伝わってくる。

軽い焼き上がりの小さなパンにオリーブ油。
これも繊細、ただし繊細に過ぎて量が少ない。
ワインはイタリア産だろう。
サンジョヴェーゼかモンテプルチアーノだな。

鶏肉のクリーム煮はいわゆるフリカッセで
チキンはゴロゴロながら
溶けたものか、野菜の姿は見えない。
バターライスの上には4粒のクルミ。
フツーに美味しいが、それ以上のものでもない。
ちょいとばかり退屈な一皿だった。

14時を過ぎ、ようやく客が引いてくる。
それにしても師走の平日だというのに
時間を気にせず、優雅なランチを楽しむ女性たち。
ママ友同士なら判りもするが、みなまだ若い。
予算も2~3千円とけして安くはない。

会計はおよそ2500円。
食後の散歩は何処にしようかー。
取り合えず、大崎広小路方面に向かい、
明るい陽射しの中を歩いてゆきました。

「小林食堂」
 東京都品川区東五反田5-21-6
 03-3443-4520

2023年12月26日火曜日

第3435話 裕やんだんだん西隣り (その1)

東五反田は池田山のふもとにJ.C.が
愛情を込めて名付けた”裕やんだんだん”がある。
住まいの近くの谷中の
”夕焼けだんだん”にちなんで付けたものだ。

だいぶ日にちが経ってしまったけれど
そのすぐ西隣りに1軒のレストランが
オープンしていたのを見つけた。
そのうち行こうと思ったものの、
時の流れはまことに速い。

その日の朝。
よしっ! 今日はあの「小林食堂」だ!
朝食のミントティーを飲みながら決断した。
当店は食堂に非ず。
イタリアンにフレンチの香りすら漂う。

JR山手線で五反田着。
裕やんを上り下りしてから店に向かった。
ところがギッチョン。
13時を大きく回ったというのに満席だ。
「外で待ってます」
「最低でも15分はみてください。
 それでもその時にお席の確約は
 できないんですけど・・・」
「いいですヨ、2、30分後に戻ります」
フロア・マネージャーにそう言い置く。

ガードをくぐって山手線の外側へ。
20年以上前に1度だけ利用した、
「スワチカ」を通りすがると、
ここにも順番待ちが2人。
何だか戻るのが面倒くさくなって
目ぼしい店があったら
そこにしようと浮気心につまづく。

出合ったのは何といったかな?
とにかく海軍カレーとタンシチューがウリで
”ハーフ&ハーフはいかがですか?”と
店先の立て看板に一言。
一皿で二度楽しめる献立は好みにピッタリ。

よしっ、此処にしよう。
「小林食堂」に電話して
今日のキャンセルと来週の予約を入れとこう。
「もしもし、先ほど一人で現れた男ですが」
「あっ、お席が空きました」
「おっと、そうですか、それじゃ5分ほどでー」
”海軍”を先送りした。

ほとんど満員で女性のグループが目立つ。
二人掛けのテーブルに促され、メニューを開く。
ふむ、ふむ、前菜&主菜のコース仕立ては
主菜に価格が書き込まれている。
ザッと紹介してみよう。
と、ここまで来て、以下次話であります。

=つづく=

2023年12月25日月曜日

第3434話 入谷の中華の肉団子

この日はのみとも転じてZooともになった、
白鶴と二人で年忘れ。
例によって彼女は早めの帰宅が希望とあって
昼下がりの一飲に及ぶ。
上野動物園は年明けに延ばした。

何も寒い季節に行くことはないんだ。
春になって暖かくなってからでいい。
もっとも近年の冬は昔の春と変わらんけどネ。
そのうち此の国から冬は消えるんじゃないの。
四季じゃなくて三季の移ろい、間が抜けてるなァ。

メトロ日比谷線・入谷駅の1番出口で落ち合い、
向かったのは金美館通りの町中華「栄龍」。
かつて通り沿いに金美館なる映画館があり、
その名をストリートにとどめている。

ここんとこだいぶ飲むようになった相方と
ビールのグラスを合わせた。
つまみはすべて小皿料理から択ぶ。
ファースト・リクエストはモロキュー。
(何も中華で頼むこたあないだろ?)
思ったけれど、異論を挟むのは差し控える。
なんか自分が自民党のアホ議員になったみたい。

続いてJ.C.は好物の腸詰を選択。
相方は肉団子ときた。
これは前日ネットで当店のメニューを
チェックした際、狙いを定めた一品。
意見の一致をみたわけだ。

狙い通りに本日のベストだった。
鶏挽き肉がベースの球形に
甘酢あんが掛かっている。
5粒で580円はサービス価格と言えよう。

3本目の中瓶とカキフライを追加。
広島産大粒と謳うほどにデカくなくちょうどいい。
続いてミニ酢豚を通すと、野菜ばかりが目立ち、
これは肉野菜炒め酢豚味ってな感じ。
先日食べた「目黒菜館」のソレとは
真逆の一皿だった。

話題は今年の反省に来年の抱負。
ウクライナ&パレスチナ問題。
あとは互いの飼い猫と生活環境。
麺&飯はパスして忘年昼飲みはお開き。

残った時間を散歩に費やした。
入谷→鶯谷→根津→不忍池と来て
ユリカモメ、オナガガモ、オオバン、
キンクロハジロをしばし眺め、上野駅まで送り、
「それじゃ、よいお年を!」

「栄龍」
 東京都台東区入谷1-26-1
 03-3872-5918

2023年12月22日金曜日

第3433話 牛タンカツの幸運

この日は深川の北端、江東区・森下へ。
10年ぶりの「キッチンぶるどっぐ」だ。
メニューにザッと目を通し、
当店の人気No2、牛タンカツを通すと、
すかさずマダムが
「ランチですネ?」
当方あまり意味を理解せずに
「えっ? ええ、ハイ!」

ビールはキリンラガーだけってことで
見送ろうと思ったものの、
まっ、いいや、たまには飲む気になった。
何気なく壁のボードに視線を移す。
ん? んん?

★サービスランチ
 やわらか牛タンカツ 
 ライス・味噌汁付き 1200円

ええっ、そういうことか、偶然の幸運である。
何となれば、メニューによると
牛タンカツが1350円でライスは200円。
ランチセットがずいぶんおトクになっている。
もっとうれしいのはサービスランチなら
ポーションが多少控えめになるハズ。
このことであった。

ちなみに人気No1は煮込みハンバーグ。
No3がブルオムシチューで
ぶるどっぐのオムレツシチューの意味だろう。

グラスのキリンラガーを1杯飲んで瞠目。
松田優作じゃないが、なんじゃこりゃあ!
苦みもコクも一蹴されて、まさに別物。
一番搾りはしょっちゅう味変されるが
ラガーにまで劇的な変化が生まれている。
これならJ.C.もOK。
今までツラく当たって来たけれど、
これからときどき飲みまっせ。

現れた牛タンカツは大きな塊が二つ、
デミグラスをまとっていた。
紫キャベツ入りの繊キャベに
きゅうり・トマト・パセリが添えてある。

ナイフを入れたらホロホロと崩れ、
これならフォークだけでじゅうぶんだ。
口内ではさらにホロホロと溶けた。
おっと松島アキラが歌い出す。

♪ はぐれ小鳩か 白樺の
  梢に一羽 ほろほろと
  泣いて涙で 誰を呼ぶ ♪
  (作詞:宮川哲夫)

「湖愁」は1961年9月のリリース。
舟木一夫の歌手デビューを導いたのは
松島アキラである。

それはそうと「ぶるどっぐ」のタンカツは
とても好くて大いに満足。
近いうちの再訪を心に決めたのでした。

「キッチンぶるどっぐ」
 東京都江東区森下1-18-1
 03-3633-1861

2023年12月21日木曜日

第3432話 一番人気に肩透かし

日本そば屋なのに客が日本そばを食べずに
中華そばとカレーライスばかり注文する店がある。
噂は聞いていたが、まだ行ったことがなかった。
つい先日もかつての名マラソンランナー、
瀬古利彦サンが週刊現代のコラム、
「会う食べる飲む また楽しからずや」で紹介していた。

てなこって都営大江戸線・国立競技場下車。
鳩森神社前の坂を下り「ほそ島や」に到着。
此処は将棋会館に近い。
よって、かの藤井八冠もお世話になっているという。

これまた週刊現代の特集記事なれど、
彼が対局中に当店から出前を取ると
本年8月現在の戦績が26勝2敗。
とてつもない好結果をもたらしている。
ほんまかいな? 驚いた。

11時半に入店したら4人掛けが1卓空いていた。
独りで占有するのは悪い気もしたが
女将さんが「どうぞ」と言うのでお言葉に甘える。
誰も飲んでいないし、
外に順番待ちの列ができ始めたのでビールは控えた。
っていうか、存在の有無すら訊かなかった。
食後にどこぞで飲めば済むことだ。

誰しもお願いする中華そば&カレーを発注。
ほどなく中年のオバちゃんと相席になった。
4人掛けに2人の相席だとフツーは
はす向かいに座るんだがこの人は
恋人でもないのに正面に腰を下ろしやんの。
コロ助来襲以降、こんな経験は記憶にない。

どんぶりと皿が同時に運ばれた。
さっそく中華そばから食べ始める。
一口すすったスープの味は好いものの、
かなりしょっぱく、油っこい。
ほどほどにしないと、あとでノドが渇く。

リフトアップした麺は
「ほそ島や」だけに細打ちのややちぢれ。
ほどよいコシでツルツルのツル。
肩ロースのチャーシューは大きめの厚め1枚。
歯ざわりのよいシナチクに、ナルトがなぜか2枚。
ねぎは青いところがいっぱい。
卓上の白胡椒を振って食べ進む。

福神漬けを添えたカレーは豚肉と玉ねぎのみ。
ごく当たり前の味わいながら
ライスの不味さがやるせない。
一番の売れ筋に肩透かしを食らった気分だ。
そして瀬古さんの言うほど
一番人気一色というのでなく意外にかつ丼が出る。

1300円を支払い、青山方面に歩く。
途中、通りすがった「TO THE HERBS」。
これ幸いとカウンターに滑り込む。
一番搾りの中ジョッキを2杯飲んだ。
会計はまたもや1300円也、単なる偶然だネ。
絵画館前のイチョウ並木に向かいました。

「ほそ島や」
 東京都渋谷区千駄ヶ谷2-29-8
 03-3404-0921

「TO THE HERBS 外苑店」
 東京都渋谷区神宮前2-6-1
 03-3404-6699

2023年12月20日水曜日

第3431話 太地喜和子という女優

太地喜和子という女優を覚えておらりょうか?
満50歳を前に不慮の自動車事故で
静岡県・伊東市の海中に没したのは1992年のこと。
生きてりゃ80歳かー。

彼女の主演映画を続けて2本観た。
ところは神田の神保町シアター。
1本目は「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」。
寅さん映画の第17作で舞台は兵庫県・龍野。
宇野重吉が日本画壇の大家・池ノ内青観。
太地喜和子は龍野芸者のぼたん。
注目点はソ連に亡命(事実上失敗)した岡田嘉子。
青観がかつて想いを寄せた志乃役を演じている。

喜和子の小気味よい演技が際立ち、
シリーズ中でも出来の良い作品ながら
監督の山田洋次に一つ文句を言いたい。
志乃家のお手伝いさん役に榊原るみが出ていて
彼女は第7作「男はつらいよ 奮闘篇」のマドンナ。
シリーズ中、最高傑作にしてマイベストなのに
なぜか榊原がノンクレジットと来たもんだ。
何があったか知らんけど、こんな仕打ちはないだろ。

翌々日は同シアターで「男の泣きどころ」。
フランキー堺&藤岡琢也の両優が並び立ち、さすが。
喜和子はストリッパーのベベ・モンロー役。
惜しみなく裸体をさらしまくる。
コンプリートリー・ヌードと言うか、
スターク・ネイクドと呼ぶか、裸一貫の熱演であった。
笠智衆演ずるポルノ映画の巨匠には意表をつかれた。
御前様がいきなりポルノの監督だもんねェ。

愛する三国連太郎を追いかけて
映画「飢餓海峡」のロケ地・北海道まで行ったとか
十八代・中村勘三郎の筆をおろしてやったとか
逸話に事欠かぬ数奇な女優だった太地喜和子。

スナックのママが運転する車が海に転落したとき、
同乗の俳優二人とママ自身は脱出できたが
深酒でベロンベロンのの喜和子は帰らぬ人となる。
彼女らしい死に方と言ったらそれまでながら哀れ。

神保町シアターの特集、
「笠智衆と素晴らしき老優たち」は
今日を入れて残すところあと3日。
スケジュールを記す。

「寅次郎夕焼け小焼け」
 20(水)16:30 
 21(木)14:15
 22(金)16:30

「男の泣きどころ」
 20(水)12:00
 21(木)19:15
 22(金)12:00

チケットは当日販売のみ、10分前の開場。
料金は一般1300円、シニア1100円。
サービスデーの水曜はどちらも1000円。
ご興味のある方はお急ぎをー。

2023年12月19日火曜日

第3430話 犬飯も出す焼肉屋

浅草在住ののみとも・S織と二人で年忘れ。
リクエストを訊ねたら焼肉がいいと言う。
肉体関係もないのに焼肉とは大胆だな。
思いつつも願いをかなえてやることにした。

以前から利用しようと思っていた「まんてん」へ。
台東区・三ノ輪の人気店である。
予約の電話を入れたが、ちっとも出やしない。
最近、電話に出ない店が増えた。
予約はネットでせよ、というところも多い。
これもみなコロ助による悪影響かー。

訪れると小木戸の入口に鍵がかかっている。
中に女将らしき女性と犬が
何匹も戯れているのが見えた。
「すみませ~ん!」
呼んだ途端に犬たちが大喧嘩を始めやがった。
あとで訊いたらメシの時間でエサの争奪戦だとヨ。
当店はペットの持ち込みも可である。

メニューを開いてビックラこいた。
何と、犬飯が100円と来たもんだ。
オマケに犬の飲みものはサービスだとサ。
こんな店もあるんだねェ。

3匹はみなトイプードルでベージュが14歳、
ブラックは7歳と4歳で母娘なんだそうだ。
さっきまでてんやわんやの大騒ぎが
今はわれわれの卓のすぐ後ろで
食後の昼寝(もう夜だけど)を楽しんでいる。
振り向いて頭を撫でたりしながら
ビールを注ぎ合ってカンのパイ。

最初の注文はナムル盛合わせに白菜キムチ。
ナムルはいいんだがキムチは好みじゃなかった。
唐辛子はじめ、いろんなもんが入って味が濃い。
北朝鮮でポピュラーな水キムチが好きなんだ。

焼肉は上カルビとサガリ。
サガリは横隔膜の内側である。
うん、実に旨い、カルビも旨い。
ビールが進みに進み、S織も大いにご満悦。

お互いマッコリに切り替え、
ハラミ(横隔膜の外側)とカイノミを追注。
カイノミはヒレの隣りの部位で極めて美味。
豪州産が比較的安く売られているため、
家でステーキを焼くときはいつもコレだ。
コプチャン(小腸)を追加して腹いっぱい。

犬を2匹連れたご婦人が
二人で来店したのを機にわれわれはお開き。
次は新年会とのリクエスト。
日本という国はなんだかんだと
酒を飲む機会がまことに多い国なんざんす。

「まんてん」
 東京都台東区三ノ輪2-15-8
 03-6458-3329

2023年12月18日月曜日

第3429話 検査の合間のぜいたく丼

白内障の手術も無事おわり、
この日は術後の検査やら何やらで
日医大付属病院に再来。
2時間ほど間が空いたので昼めしに充てる。

本郷通りを歩き、白山上にやって来た。
20年近く前に一度だけ夜に利用した「松下」へ。
大きな袖看板には ”さかな松下” の文字がー。
日替わりの昼定食は
味噌煮・塩焼き・フライとサバ料理オンパレード。
あとは鮭ハラス塩焼きと銀だら西京焼き。

択んだのはぜいたく丼なる一品である。
品書きによる謳い文句は
あわび・うに・いくらの豪華な三点盛りだ。
最初に水菜と椎茸のおひたしが供された。

わりとコンパクトなどんぶりで現れ、
コリコリのあわびは薄切りが7枚。
生うに、いくら醤油漬けもそこそこの量である。
確かにぜいたくではありますな。

ごはんは酢飯ではなく温(ぬく)飯。
ニセワサが添えてある。
香の物はかぶと、赤いのは紅芯大根だろうかー。
お椀はごぼう・にんじん・大根の根菜トリオに
椎茸が加わり、けんちん風の味わいだ。

壁のポスターがアサヒの熟撰だったので
「ビールは熟撰だけですか?」
店主応えて
「いえ、スーパードライだけなんですが・・・」
「そっちのほうがいいんだ、ください」
でも、ポスターははがしといて欲しいな。

それをきっかけに会話が始まった。
彼は現在三代目で
白山上に店を移して60年になると言う。
それ以前は春日町だったとのこと。
これは現在、文京区役所のある春日のことで
白山の南隣りの町だ。

カウンター4席に5人掛けが2卓。
14人でいっぱいの小体な造りである。
夜の品書きには小肌、柳がれいと
J.C.の好物も揃う。
余市産あんきも、国産竹の子焼きなど
産地へのこだわりも見てとれた。

会計は2310円也。
次回は夜に来て飲もう。
そう思いつつ、病院に戻りましたとサ。

「松下」
 東京都文京区本駒込1-1-30
 03-3813-1520

2023年12月15日金曜日

第3428話 酒は出さない大衆食堂

日暮里・舎人ライナーに西新井大師西なる駅がある。
ずいぶんダッチャいネーミングの駅である。
酒は一切出さないけれど、
とても好い大衆食堂があると聞きつけ、
心が動いて身体を動かした。

白内障で右目の手術を受けた丸1週間後、
左目の術、その当日に行ってみた。
何しろ前日から禁酒令が発令されており、
渡りに舟とはこのことだ。

日暮里始発のライナーに乗って到着。
駅から歩いて2分ほど、
「みたけ食堂」は谷在家(やざいけ)2丁目にあった。
昭和の社員食堂みたいな店だ。

勝手が判らず、卓に着くと接客のオジさんが
「あそこにトレイがあるから
 アレに料理を乗っけてネ」
「ハイ、わかりました」
てなもんや三度笠。

ハンバーグ、野菜炒め、生たら子、
味噌汁、ライスを乗せてオバちゃんに
「勘定はどこでするのかな?」
「食べてから、食べてから・・・」

オジさんがハンバーグをレンチンしてくれた。
フロアで動いているのは彼一人、会計も担当する。
ハンバーグは小さめが2個付け。
チンのせいでキャベツしんなりだけど、これも好し。

野菜炒めはニラ入りがうれしい。
生たらこは小さいのが2切れだが100円だからネ。
これもありがたい。
たらこなんてドッサリ食うもんじゃないし。
味噌汁は豆腐とわかめと油揚げ。
ライスは(並)でお願いしたが他店の大盛りに近い。

あれえ! 下げ物コーナーに妙なものを発見。
スーパードライの空き瓶である。
ちょうど千円をオジさんに支払いながら訊ねた。
「ビールもあるにはあるんですネ?」
「うん、ある、ある、日本酒・焼酎はないけどネ」
「それじゃごはん食べないで
 ビールとつまみってのもあり?」
「ハイ、OK、OK!」
「じゃ、近いうちビール飲みに来ます」
「うん、待ってる、待ってる」
言葉を重ねるのがクセなんだネ。
好きだな、こういうオジさん。

4日後、舞い戻って大瓶のつまみは
さば味噌煮、イカフライ、生たらこ。
味噌煮の旨さに舌を巻いた。
シアワセなひとときを過ごし、明るい陽射しのもと、
西新井大師まで歩いてゆきましたとサ。

「みたけ食堂」
 東京都足立区谷在家2-5-2
 03-3890-4421

2023年12月14日木曜日

第3427話 津軽の海を越えて来た (その2)

浪花の小姑が何か言ってきそうなので
ハナシを本題に戻す。

あん肝やとも和えをいただいてから
鍋にしておくれとお願いしたが
お店のアンちゃん、
「まずは鍋をガス台に置かせてください。
 火はあとで点けますから・・・」
との仰せ、異存などあるはずもない。

越後の銘酒、越乃寒梅に切り替える。
近年は獺祭の人気が群を抜くけれど
40年前はこの酒が一番人気だった。
J.C.は愛飲というほど
しょっちゅうは飲まないものの、
今でも好きな酒である。
麒麟山と並び、自分に取って越後の双璧だ。

前菜の品々の中ではやはりあん肝が際立つ。
居酒屋のソレとは一段も二段もコク味が深い。
コレにはポン酢が添えられた。
越乃寒梅との相性もバッチリだった。
とも和えはちょいと臭みが残って口に合わない。
煮こごりも鮫や穴子と比べて
別段の違いが感じられず、まあこんなものかな。

チャッカマンで鍋に着火がなされる。
一同のまなこが釘付けとなる。
土鍋と違い、ステンレス製だから
すぐに煮立ってきた。

俗に”鮟鱇の七つ道具”と言われるが
そのすべてが入っているようだ。
ここでも肝が美味いねェ。
あとはやはり上身だろうな。

永谷園のCMで茶の間におなじみの人間国宝、
六代目・柳家小さんの言葉を思い出す。
「刺身は河豚が旨いが鍋は鮟鱇が旨い」
言い得て妙である。

アンコウよ、よくぞ津軽海峡を超えて来たネ。
おっと、今度は吉幾三の歌声がー。

♪ 津軽海峡 渡る船は
  横なぐり 横なぐりの雨
  も一度 も一度 やり直せるなら
  このまま このまま 引き返すけど
  もう遅い もう遅い 涙の海峡 ♪
   (作詞:吉幾三)

「いせ源」は仲良しこよしの年忘れに
まっことふさわしいお店でありました。

「いせ源」
 東京都千代田区神田須田町1-11
 090-3477-4966

2023年12月13日水曜日

第3426話 津軽の海を越えて来た (その1)

この夜もまた忘年会。
いつもの仲良し六人衆である。
集結したのは奇跡的に戦災を免れた、
神田旧連雀町のあんこう専門店「いせ源」だ。

玄関脇のショウウインドウに鎮座する、
津軽海峡産あんこうの出迎えを受け、
2階に上がり、入れ込みの座敷に坐した。
昭和5年に建てられた木造建築は
この空間に身を置くだけでシアワセな気分。

一同ドライを注ぎ合い、グラスを合わせた。
通した料理はかくの如し。
あん肝刺し、身と肝のとも和え、煮こごり、
そして醤油仕立ての割下で煮るあんこう鍋だ。

当店のあんこうは
下北半島の風間浦で獲れたものが中心。
此処は本州最北端の地である。
はるばる津軽の海を越えて来たんだ。
ほうら、こまどり姉妹が歌い出したヨ。

♪ 津軽の海を 越えて来た
  ねぐら持たない  みなしごつばめ
  江差恋しや  にしん場恋し
  三味を弾く手に  想いをこめて
  ヤーレン ソーラン 
  ソーラン ソーラン
  唄う ソーラン  ああ渡り鳥 ♪
   (作詞:石本美由紀)

「ソーラン渡り鳥」は1961年のリリース。
’61年はヒット曲の当たり年。
ザッと挙げるだけでも

「銀座の恋の物語」(石原裕次郎&牧村旬子)
「君恋し」(フランク永井)*レコード大賞 
「コーヒー・ルンバ」(西田佐知子)
「スーダラ節」(植木等)
「東京ドドンパ娘」(渡辺マリ)
「川は流れる」(仲宗根美樹)
「おひまなら来てね」(五月みどり)
「湖愁」(松島アキラ)

まったくもって枚挙にいとまがない。
坂本九ちゃんの「上を向いて歩こう」も同年だが
年末発売だったため、ヒットは1962年になった。
振り返れば、珠玉の名曲揃いじゃござんせんか。

=つづく=

2023年12月12日火曜日

第3425話 ズワイとクワイで年忘れ

忘年会シーズンたけなわ。
この夜は小ぢんまりと4人で。
カレーのプロのO野チャン、パン専門家のP子、
彼女の元同僚で不動産関係のSりチャン。
このコは初参加ながら
J.C.の大学の後輩と判明、すぐに打ち解けた。

集まったのは神田神保町の交差点に近い、
居酒屋「多幸八」である。
此処では2年前にも似たようなメンバーで
年忘れを開催している。

彼女たちの仕事の関係から19時スタートと
オッサン2人には少々ツラい。
その時間だと身を持て余してしまうんだ。
男はつらいよ、オッサンはもっとツラいよ。

まっ、ほぼ定刻に顔ぶれは揃い、
おのおの生ビールやハイボールでカンのパイ。
O野チャン曰く、必食のシューマイで始まった。
昭和の精肉店みたいにグリーンピースが1粒、
上に乗っかていてレトロ感がある。

あとは鳥の唐揚げともつ焼き。
もつは鳥のいろんな部位のミックスで
単なる砂肝・ハツ・レバーとは異なり、
独特の持ち味が好印象。
ときどき鶏肉専門店で目にするヤツだネ。

品書きに北海道産せこ蟹(2100円)を発見。
せこ蟹は背子蟹が正しい名称。
せいこがにと訓じ、ズワイ蟹のメスである。
これは香箱蟹の別称を持つ。

店の最高値なのでメンバーの許しを得て発注した。
外子もしっかり付き、熱々で登場。
蟹酢が添えられている。
4人で分け合うには絶対量が少ないけれど
みんなして遠慮しながら味わったのでした。

すると女性陣から小くわい素揚げのリクエスト。
小さいながらもなかなかの佳品だ。
オッサン2人もマンのゾクだった。
ズワイとクワイの年忘れ、また楽しからずや。

新潟は長岡の銘酒、吉乃川の上燗に切り替える。
あまり食べなかったせいもあり、
会計は1万2千円とずいぶん安く上がった。
2年前同様に近くのバー、
「しゃれこうべ」に移動した。

連中は J.ダニエルのソーダ割り、
J.C.はサッポロ赤星の中瓶。
時はアッという間に流れ、早くも23時を回る。
仕掛けが遅いと時間に追われてしまう。
次回は早ければ春、遅くとも夏には
顔を合わせることとなりました。

「多幸八」
 東京都千代田区神田神保町2-20-29 
 03-3263-1568

「しゃれこうべ」
 東京都千代田区神田神保町2-12-12
 03-3262-2740

2023年12月11日月曜日

第3424話 観音裏でリユニオン

今宵はかつて早朝のTBSラジオ、
「森本毅郎スタンバイ」にNYから
日替わり出演していた、
メンバーのリユニオン(同窓会)。

会場は浅草観音裏の「ニュー王将」である。 
18時スタートだが料理を手配しておきたいので
ずいぶん早く先乗りした。 

おきまりのメンチカツ、
二人前しか用意がないという平目フライ、
火の通しグンバツのかきバター焼き、
カニとレタスをマヨで和えた、
カニサラダなどを抑えておく。

ヒマなメンバーが多く18時前にほぼ全員出揃う。
次回からは17時に始めようという声も上がる。
取り合えずサッポロ赤星で乾杯。
次から次と出て来る料理を平らげてゆく。

話題はもっぱら
引退後のアルバイトやボランティア活動。
あとは米国年金の受給と日本そば屋の探訪。

この両者には密接なつながりがあり、
年金は年をとらないと貰えないし、
年をとるとやたら日本そばが好きになる。
ラーメンは年寄りの身体に毒なのだ。
中華そばや支那そばならまだいいけどネ。
「二郎」なんぞ寿命を縮めるだけだ。

全員がレモンサワーに移行する。
自分でレモンを搾ってソーダで満たす。
結局は薬局、キンミヤの600mlを3本空けた。
みなさんまだまだけっこう飲むネ。

追加の料理はポークソテー・ガーリックと
締めのカニピラフ。
飲むだけでなく、よく食べるわ、ジッサイ。
一同に評判が好かったのは
かきバター焼きとやはりメンチカツ。
当店のメンチは東京一、いや日本一、
ってえことは世界一なのである。

次回は来年の4月に
神田神保町の寧波料理店「源来酒家」。
10年ほど前に同じメンバーで宴を開いている。
此処の料理は他店とひと味違って
特有の美味しさがある。

そうしてこうしてお開き。
バス組と地下鉄組に分かれて手を振りましたとサ。
老いてなお盛んなり。

「ニュー王将」
 東京都台東区浅草5-21-7
 03-3875-1066

2023年12月8日金曜日

第3423話 京橋の裏通りは今

1丁目から8丁目までの銀座。
その南隣りが新橋ならば北隣りは京橋。
久しぶりに京橋に出掛けた。
かつて毎週のように訪れた街である。

国立映画アーカイブ(旧京橋フィルムセンター)へは
何度脚に運ばれたことだろうかー。
(脚を運んだのではなく脚に運ばれた)
東京でもっとも多くの映画を観たのは此処だ。
それが白内障で視力が落ち、足も遠のいていた。

アーカイブが面する鍛冶橋通りから1本南側の裏筋。
大阪を根城とする老舗から暖簾分けした、
うどんすき「美々卯」の立派な建物が残存するものの、
閉業して早や3年半、
コロ助がもたらした災厄というほかはない。

並びに何度か利用した「きむら」がある。
店内は板場に面してカウンター5席。
左手には壁に向かって4席。
かつては真ん中にテーブルが
置かれていたのに今は1卓もない。
料理は和食全般を扱っていたが
昼のメニューを眺めると
とんかつ中心の揚げ物に特化した気配だ。

豚ロース&ヒレかつ、大海老&ミックスフライ、
地鶏唐揚げなどのラインナップは
1000~1600円といった値付け。
サービス・ランチのとんかつ定食(1000円)は
値段からしてコンパクトに相違なく、発注した。
デカいとんかつは身体に毒だからネ。

記憶をたどれば当店のとんかつはかなりのレベル。
好印象が残っている。
けれどもどんなとんかつだったのか?
記憶はあいまいだ。

運ばれ来たる皿にはやはり小型の薄めが1枚、
キャベツを従えていた。
ごぼうサラダときゅうり唐辛子漬けの小鉢。
わかめの赤だしに茶碗のごはん。
全体のバランスは整っている。

とんかつを1切れつまんで首を傾げた。
こんなんだったかなァ。
肉質にも揚げ切りにも不満が残る。
思い返せば10年もご無沙汰している。

駒込アザレア通り「ときわ」のSPF豚でハズし、
今回もハズレの部類に入れざるを得ない。
旨いとんかつが食べたい。
頭の中で数軒の候補店を思い描いておりました。

「きむら」
 東京都中央区京橋3-6-2
 03-3561-0912

2023年12月7日木曜日

第3422話 昔の部下と酌み交わす

かつての部下、T村クンから電話あり。
同僚のK田クンともども
「久しぶりにお会いしたい」
というので、もちろん快諾。
土曜の夕べ、アメ横に繰り出した。

界隈の気に入り店「かのや」は週末の予約不可。
ただし、回転はすこぶる速く、
あまりお待ちいただかなくとも
席のご用意ができるとのこと。

約束の17時半に2階に上がると、
2人は席が空くのを待っていた。
店内は満員の盛況ぶりだが
混雑というより、ごった返していた。
さすがに上野は東京一の飲み屋パラダイスだ。

そして驚いたのは客の年齢層。
ザッと見回して50人ほどだが
ほとんどすべてが若者である。
オッサンは1人として見かけない。
独り呑みの孤独なオッサンはみな、
1階のカウンターで手酌酒なんだ。

♪ 一人酒場で 飲む酒に
  帰らぬ昔が なつかしい ♪

てな感じ。

ドライの大瓶を注ぎ合って乾杯。
最初に通したのは必食アイテムのミナミマグロ。
赤身・中とろ・大とろの3点盛りだ。
これは合い盛りにせず、
1人前づつ3台に分けて3人前お願い。
そしてこれまた必注のカニクリームコロッケは2人前。
あとは焼き鳥のモモとレバーとつくね。

T村とは6年ぶり、K田とは10年くらいになるかな?
思い出話は尽きることがない。
T村は8年前に会社を辞して今は大手海上火災勤務。
K田は会社をずっと離れずに現役のバリバリである。

「かのや」を2時間で追い出されて二次会。
湯島の奥様公認酒場を自称する、
「岩手屋支店」に流れた。
当店の主力銘柄、七福神の冷たいのを大徳利でー。
つまみは穴子の白焼きのみ。
こちらもずいぶん混み合っていた。

若い頃と違い、お開きは早い。
「岩手屋」の閉店が早いこともあるけどネ。
帰りは3人揃って御徒町からJR京浜東北線。
J.C.ー日暮里 K田ー川口 T村ー大宮
それぞれ1本で帰れるところは偶然の一致なり。

「春になったらまた飲もう」ー
約しながら握手し、別れましたとサ。

「かのや本店」
 東京都台東区上野6-9-14
 03-5812-7710
 
「岩手屋支店」
 東京都文京区湯島3-37-9
 03-3831-9317

2023年12月6日水曜日

第3421話 バス停の 前に開いた カレー店 (その2)

バス停の前に開店した南インドカレー店の名は
「Spice Books PRAyER」。
”スパイス本の信奉者”という意味だろうか。
ほぼ食べ終える頃にビールをお替わりすると

「あれ1本きりなんです」
「ん? ってことは自分用?」
「いいえ、先週パーティーがあって
 その余りだったんです」
「そうかァ・・・ドライだったら毎週来るのに」
「ぜひぜひ、ちゃんと用意しときますから」

以来、毎週顔を出す羽目に陥った。
日本そば「新ふじ」、洋食「JACK」に続いて
近所に3軒目の行きつけ店ができてしまった。

2回目は約束のドライとともに
鶏むね肉のアジアン蒸しに
チキン・ティッカの2品を味わった。
う~ん、カレーと比較したら
一品料理にはもう一段の工夫が求められるかな?
まあ、水準には達してるけどネ。

そして3度目は4種あるうち、
残りの2種のカレーのクリアである。
Bの鮭ハラスとCの海老に挑戦。
ところがAがキーマから
ゴロゴロマトンに変更されていた。
鮭を次回に回してA&Cにする。

Aは確かにメニューの通り、肉がゴロゴロ。
中に2つ3つヤケに硬いのが混じっており、
入れ歯の人はかなり苦労しよう。

Cの海老は大き目2尾入り。
火の通し軽くプリプリでソースはさらさらタイプ。
あまりカレーらしくないが美味しくいただいた。

副菜にも変化が生じており、
ピクルスの卵はそのままだが
野菜類がセロリ・サラダ大根・皮付きレモン。
口内をさっぱりさせてくれる。
ダルも豆だけでなく大根が散見された。

前回と同様、最後に小さなデザート。
シナモン風味の柿にラム酒が香った。
ポツポツ常連客がついてきて
開店休業の憂き目だけは免れるだろう。
若き店主の肩をポンとたたいて励まし、
「それじゃ、また来週ネ」
「ハイ、お待ちしてます」

前夜は猫が季節はずれの運動会を始めやがって
ほとんど眠ることができず、
まっすぐ帰宅しておよそ2時間、
めったにしない昼寝に勤しみました。

「Spice Books PRAyER」
 東京都文京区千駄木2-44-1
 電話:今のところナシ

2023年12月5日火曜日

第3420話 バス停の 前に開いた カレー店 (その1)

二カ月ほど前、早稲田ー上野松坂屋を結ぶ、
バスの停留所、千駄木2丁目の真ん前に
1軒のインドカレー店がオープンした。
店頭のメニューボードはいかにも本格派。
ライスは長粒のインディカ米、
バスマティライスと明記されていた。

開店後、ひと月を経たあたりで訪れた。
てっきりインド人(あるいはネパール人)の経営かと
思ったが、あにはからんや、
切盛りするのは日本人の青年1人。
以前、日本橋高島屋の地下にあった、
南インド料理店で腕を振るっていたとのこと。
よって当店のカレーは南インドのスタイルである。

カウンター4席に2人掛けが2卓。
8人で満員のコンパクトな店舗だ。
「このお店の前は何が入っていたんだっけ?」
「不動産屋です」
「ヘエ~ッ、そうだっけ? 記憶にないなァ」

カレーは4種類。

Aーマトンキーマ  Bー鮭ハラス
Cー海老      Dームール貝

1種ー1100円 2種ー1400円
3種ー1700円 4種ー2000円
と判りやすい。
A&Dでお願いした。

ビールの銘柄を訊ねると、もっとも苦手なもの。
先ごろ亡くなった伊集院静サンが愛飲したヤツだ。
よってここは見送りの一手。
するとキッチンから青年がこれもあります。
手にするのはスーパードライの中瓶じゃないかー。
初手から出してくれい!
歓び勇んで即注に及んだ。

調ったプレートは豪華絢爛。
2種のカレーのほかに
ダル(豆スープ)・卵ピクルス(半熟)・
パパド(緑豆せんべい)・かぼちゃポリヤル・
さつま芋トーレン・にんじんラペ・
バスマティライスといった面々。

パクチーがあしらわれ、
お好みにより青唐の用意もあるというので
もちろんリクエスト。
キレイに楽しく平らげた。

=つづく=

2023年12月4日月曜日

第3419話 ブクロのハシゴは西東 (その3)

やって来たのは美久仁小路。
何度も紹介しているが
だいぶ月日が流れたので
軽くおさらいしておこう。
では青江三奈サン、よろしくお願いします。

♪ 美久仁小路の 灯りのように
  待ちますわ 待ちますわ
  さよならなんて
  言われない 夜の池袋  ♪
  (作詞:吉川静夫)

「夜の池袋」の2番だが3番に出て来る、
♪ お酒で忘れる 人生横丁 ♪
とともに池袋の二大飲み屋街だった。
”だった”と書くのは人世横丁が消滅しちゃったから。
(実体は歌詞と異なる人世横丁)

美久仁小路のNo1酒場、
「ふくろ」の止まり木に止まった。
ドライの大瓶に、お通しのキンピラがうれしい。
ていねいに作られ、味付けも上品。
東口本店はもうちょっとザツなんだ。

松茸の天ぷらが780円と破格の値付け。
オネエさんに何処から来たのか
訊ねたら中国産とのこと。
ダメ元で通してみた。

すると、けっこうなボリュームに
立ち上る香りは紛れもなく松茸のもの。
へえ~ッ、カナダ産よりいいんじゃないの。
もっともここ数年、口にしてないけどー。
4粒付いた銀杏もありがたい。

塩でよし、天つゆでまたよし。
意外な佳品に頬が緩む。
美久仁小路店に来ちゃうと
本店に行く気がまったくしなくなる。
トビがタカを生むというのはこういうことを言う。

さっきの飛び魚アンちゃんが飲んでた、
黒ホッピーに切り替える。
野菜炒めも通した。
玉ねぎ・キャベツ・もやしに混じる、
ニラがポイントだね、これはー。

ホッピーの中をお替わりしてお勘定は3千円ほど。
さあて帰ろかな。
「池袋の夜」を口ずさむつもりが
口をついたのは「潮来笠」の3番でした。

♪ 旅空夜空で いまさら知った
  女の胸の 底の底
  ここは関宿 大利根川へ
  人にかくして 流す花
  だってヨー あの娘川下潮来笠 ♪

そうだ、暖かくなったら関宿に行こう。

=おしまい=

「ふくろ 美久仁小路店」
 東京都豊島区東池袋1-23-12
 03-3985-5832 

2023年12月1日金曜日

第3418話 ブクロのハシゴは西東 (その2)

再び呆気に取られたがアンちゃん、
これでは終わらなかった。
なんと飛び魚をアンコールしやんの。
いったいどんなヤツなのか?
奥の方を見渡すフリして横顔をのぞき込むと
メガネの黒ぶちがデカ過ぎてよく見えないヨ。

世の中、いろんな人がいるもんだねェ。
老兵は死なず、ただ消え去るのみ。
昭和31年創業「三福」のお勘定は2300円。
東口に抜けるガードをくぐった。

ブクロのハシゴはいつも西口から東口。
西の方が早く開ける店が多いためだ。
例えば「三福」は14時、
これから向かう「ふくろ」は16時。
ん? 何処からともなく橋幸夫の歌声がー。

♪ 潮来の伊太郎 ちょっと見なれば
  薄情そうな 渡り鳥
  それでいいのさ あの移り気な
  風が吹くまま 西東
  なのにヨー なぜに眼に浮く潮来笠 ♪
   (作詞:佐伯孝夫)

橋のデビュー曲「潮来笠」は1960年のリリース。
この年、日本全国津々浦々を駆け巡ったのは
井上ひろし「雨に咲く花」、佐川ミツオ「無情の夢」、
西田佐知子「アカシアの雨がやむとき」、
松尾和子「再会」といったところ。

同じヒット曲でもJ.C.のベスト3は
花村菊江「潮来花嫁さん」、
フランク永井「好き好き好き」、
そしてなんといっても赤城圭一郎の
「霧笛が俺を呼んでいる」である。

好きが高じてこの3曲はカラオケでもときどき歌うが
「霧笛が・・・」では歌い出しの

♪ 霧の波止場に 帰ってきたが
  待っていたのは 悲しい噂 ♪

この”悲しい噂”の部分、カラオケの画面では
うら若き吉永小百合の憂い顔がアップになるので

♪ 待っていたのは 吉永小百合 ♪

とやるんだ。
まじめに聴いてくれる人には間違いなくウケる。
ハナシが大きくそれてしまったので元に戻します。
以下、次話でー。

=つづく=

「三福」
 東京都豊島区西池袋1-27-1
 03-3971-1773

2023年11月30日木曜日

第3417話 ブクロのハシゴは西東 (その1)

本日出没した盛り場はブクロ。
そう、池袋である。
近頃はもっぱらエンコとノガミばっかりで
城北と城西にはあまり足が向かないけれど
ジュクに比べりゃ、ブクロはまだ来るほうだ。

この街は東口と西口では丸っきり表情が異なる。
西武デパートを中心とした東口のほうが上品。
東武デパートが主役を張る西口はだいぶ下品。
風俗も断然こちらが多い。
駅の出入口とデパートの東と西があべこべなのは
都会になり切れない池袋の田舎くささと言えよう。

いずれにしろ中学・高校と遊び盛りのJ.C.を
やさしく育んでくれた、
この街に対する愛着は限りないものがある。
東でも西でもよく遊んだ。
西口の付属品みたいな北口は健在ながら
南口は消滅した。

さて、この日。
最初に訪れたのは西口の「三福」。
焼きとんと煮込みがメインだが
生モノのレベルも相当高い。

この日の刺身は飛び魚がオススメだった。
あまりポピュラーではないけれど、
美味しいサカナである。
しかし、このところひんぱんに利用する、
北千住のブレイク・ルームで行くたんびに
良質な白身を肴にしているため、
飛び魚といっても青背は青背、見送った。

寄れば通すのなか豆腐をお願い。
煮込みの鍋にドボンと飛び込んだ豆腐に
煮込みのつゆだけだがとても旨い。
ドライの大瓶にピタリ寄り添う。

左隣りのオッサンはスゴいペースで
焼きとんにかぶりついている。
元々大ぶりなヤツを数種類2本づつ。
どうしても目に入るから呆気に取られてしまう。

ボンベイ・サファイアのロックに移行して
串カツを1本だけ揚げてもらう。
しみったれているようでもストマックのキャパを
セーヴするためには致し方ナシ。

オッサンが引き上げたあとにアンちゃんが座った。
おっと、黒ホッピーとともに飛び魚を注文したヨ。
なかなかやるじゃん、と感心はしたものの、
この御仁もスゴいペース。
じゃんじゃん口に放り込んでパクパクのパク。
おい、おい、刺身って
そんな食い方するもんじゃないだろ、ったく。

=つづく=

2023年11月29日水曜日

第3416話 マジメにスケベな焼き鳥屋

日暮里駅前ロータリーの北側裏に
レベルの高い焼き鳥屋がある。
3~4年前に1度おジャマして
このコラムでも紹介したが利用はそれっきり。
いや、行っても入れないんだ。
これはコロナ禍でも変わることがなかった。

人気の秘密は安くて旨くて早いからだろうが
入れなきゃ物事は前に進まない。
いつしか忘却の彼方に押しやっていた。

とにかく店名があんまりで
「真面目焼鳥 助平」と来たもんだ。
スケベなんざマジメにやるもんじゃないだろがっ!
店主だかオーナーだか
名付け親の顔が見たいヨ、ったく。

まっ、いいや。
或る日の16時過ぎだったかな?
ふと思い出してスケベに会ってみる気になった。
17時開店らしいから誰かスタッフがいるだろう。
電話を入れた。
「今夜の開店は何時ですか?」
「もうやってますぅ!」
「一人だけどこれから行ってもいいかな?」
「待ってますぅ、お名前は?」

到着すると、先客はカウンターに7名。
14~5席あるから余裕だった。
他にテーブルが1卓。
おもてにも以前利用した1卓。
赤星の大瓶を通してトクトクトク。

突き出しはほうれん草のおひたし。
ひたひたの出汁に浮き沈みしている。
けしておざなりなものではなく、
丁寧に作られ、量もたっぷりで
野菜不足の解消になり得る。

さっそく焼き初めてもらった。
プリプリのハツとクニュクニュのハツモトを塩でー。
水準がとても高い。
続いてこれまたクニュクニュのハラミと
しっとりのフリソデをやはり塩。
フリソデは手羽元と胸肉のつなぎ目で快い歯応え。

アバラの周りのハラミは昔っから好きだ。
クリスマスに母親がローストチキンを奮発すると
いつもしゃぶっていた。
キレイに骨が残るまでしゃぶれりつくせり。

酎ハイに切り替え、箸休めとしちゃ、ちと量が多いが
スルメイカ(スルメじゃないヨ、生だヨ)の
山わさび醤油漬けで舌先を転換する。
そうしておいて焼き鳥の仕上げは
血肝とツクネをいよいよタレでー。

大瓶1本、酎ハイ2杯と合わせ、
満足のお勘定は3300円也。
17時過ぎたらいっぱいになるから
次回も早めに仕掛けよっとー。

「真面目焼鳥 助平」
 東京都荒川区西日暮里2-25-1
 03-5615-5140

2023年11月28日火曜日

第3415話 神保町のタコハウス

さっき下った坂を今度は上る。
上りながら考える。
はるばる自由が丘の先まで出張っていって
一雨降られたひにゃことだ。
都心に戻ろう。
目黒駅の地下鉄ホームに潜った。

メトロ南北線、都営三田線、先に来たほうに乗る。
三田線が来た。
ドアのそばに立って思いをめぐらす。
三田駅そばの大衆立ち飲みかな?
日比谷ミッドタウンの高級立ち飲みにするかー。

そうだ、神保町にしよう。
やって来たのはタコハウスである。
「Taco Bell」は東京ドームシティや
渋谷道玄坂など、都内に数軒あるが
利用するのは今回が初めて。
メキシコの国民食、タコスを食べたくなった。

ハンバーガーのマックみたいな造りの店だ。
みんな2階に上がってゆくけど
1階にもイートイン・スペースがある。
数カ月前、店の脇の道を歩いていて
ビールを飲む客をガラス越しに見とめ、
店に入って銘柄を確かめた。
バッチグー!につき、近々寄ろうと思っていた。

ドライの生(580円)はワンサイズ。
うれしいことに中生くらいは楽にある。
プラコップを片手にフォト付きメニューを眺めた。
ブリトーやケサディーヤもいいけど、
今日は初回につき、タコスにしておこう。

一番人気はマックのハンバーガーや
モスのモスバーガーに当たるビーフタコス(580円)。
クランチ(コーン)とソフト(フラワー)、
トルティーヤ2種のセットでこれはグッドアイデア。
でも、中華のあとにつき、ちょいと重い。

そこで択んだのがビーフタコスプリーム(410円)。
スプリーム(最高)とはまた大きくでたもんだが
ダイアナ・ロス率いるスプリームスを想起させた。
こちらはクランチかソフト、タコス1個を択ぶ。
クランチでお願いした。

うむ、いいネ、いいですネ。
ビーフのほかにチーズ、トマト、レタス、
そしてサワークリームがトッピングされている。

気に染まったので後日、ランチに訪れ、
ビーフタコスとチキンケサディーヤをー。
やはりソフトよりクランチが好みだ。
ケサディーヤはチーズっ子の意味だが
タコスの方がいいな。

帰りに立ち寄ったドームシティの鮮魚店「成田屋」。
シマアジが見るからに見事でイン・マイ・バスケット。
その横でタコが心なしか淋しそうだ。

♪ オジさんあなたは やさしい人ね
  わたしを買って おウチへ連れてって ♪

てな感じ。
情にほだされてコレも籠に放り込む。
刺身にはせず、タコブツで食べた。
わさびはおろさないで
バジル・ガーリック・オリーヴオイルの
ジェノヴェーゼにしてみた。
昼もタコ、夜もタコの一日でした。

「Taco Bell 神保町店」
 東京都千代田区神田神保町1-8-5
 03-5577-6328

「魚市場 成田屋 東京ドームシティ ラクーア店」
 東京都文京区春日1-1-1
 03-6240-0018

2023年11月27日月曜日

第3414話 目黒の菜館 酢豚が美味し

目黒駅前からなだらかに続く権之助坂。
ほぼ下り切って目黒川に架かる目黒新橋の手前に
1軒の菜館を見つけたのはひと月前のこと。
店頭のフォトメニューの上ロース黒酢豚が
やけに美味しそうだった。

気になってはいたものの、
なかなか機会に恵まれなかった。
それがようやく実現。
意気揚々と坂を下っていった。

その名も「目黒菜館」に入店すると
意外にかなりコンパクト。
勝手に大箱と思い込んでいたからネ。
サッポロ赤星の中瓶と
狙いすました黒酢豚を発注。
文学青年ならここで
スタンダールの「赤と黒」を連想するところだ。

ところが昭和歌謡大好き人間の
オッサンは違った。
耳朶の奥で鳴り響いたのは
鶴田浩二の甘い歌声である。

♪ 夢をなくした 奈落の底で
  何をあえぐか 影法師
  カルタと酒に ただれた胸に
  なんで住めよか なんで住めよか 
  あヽ あの人が     ♪
   (作詞:宮川哲夫)

♪ 赤と黒とのドレスの渦に
  ナイトクラブの夜は更ける ♪

そう始まる2番がそのまんまだけれど
より優れた歌詞の1番を紹介した。
「赤と黒のブルース」は1955年のリリース。
この曲も大ヒットしたがこの年、
日本列島を席巻したのは
島倉千代子「この世の花」と
春日八郎「別れの一本杉」であった。

それはそれとして「目黒菜館」の昼下がり。
ビールのお通し(380円+)の
たたききゅうり&蒸し鶏はどちらもなかなか。
これならチャージされても文句は出ない。

黒酢豚も好かった。
上ロースたっぷりに玉ねぎと緑&赤ピーマンが少々。
濃い目の味付けにつき、ライスが欲しくなるけど、
ここはがまんして中瓶を2本飲んだ。

切盛りは中国人のオジさんとオバちゃん。
かれこれ15年のつき合いだというが夫婦ではない。
家庭のあるシェフは重慶出身。
独身の女将はハルビン生まれで二人の会話は北京語。
客が引けたのをいいことにいろんな話を聞かされる。
こういう話好きのチャイナオバちゃんも珍しいわい。
支払いは3500円で小銭のオツリをもらった。

さて、もう1軒は世田谷・尾山台の予定ながら
風が出てきて肌寒いし、雲ゆきもあやしい。
菜館の前で思案投げ首の巻である。

「目黒菜館」
 東京都目黒区下目黒1-5-16
 03-3779-4655

2023年11月24日金曜日

第3413話 サカナは北から南から

文京区・根津の交差点近くに
土佐の高知のうまいもんを食わせる店があり、
先日、藁焼きかつおのタタキ定食が
当たりだったので再訪。

けれども店は閉じていた。
どうやら閉業した気配。
不忍通りを千駄木方面に戻る。
目指したのは数年前に一度訪れた、
和食店「蕾(つぼみ)」だ。

実は前日、店頭の品書きに
煮魚ーアオヒラスを見とめ、気になっていた。
おそらく今日は無いだろうなと思いつつ、
引き戸を引いて入店。

やはり昨日で売り切って無いとのこと。
真っ黒な身体がなぜアオヒラスなのか見当もつかぬが
アルゼンチンやニュージーランドなど、
主に南半球で漁獲されるこのサカナは上品な白身、
食味がすこぶるよろしい。

本日の煮魚はカレイ。
「どんなカレイでしょう?」
「カラスガレイです」
こちらは逆に北の海で獲れ、
アイスランドから大量に輸入されている。
これまた煮魚向きの良品、即注した。
サカナたちは北から南から日本を目指す。

ビールも好みのドライ、歓んで通したら
泡いっぱいの生が来た。
これは確認しなかったJ.C.が悪いや。
飲み始めたらすぐに3点セットが供される。
茄子の揚げびたし、
サラダ(トマト&サニーレタス)、
新香(べったら&きゅうり醤油漬け)は
いずれも手抜きなく、ビールの良き友となる。

カラスが煮上がった。
火の通し加減、煮汁の味付け、ともに申し分ない。
唯一手こずったのは口中に紛れ込む小骨である。
この除去に気骨が折れた。
油揚げとわかめの味噌椀、
白飯も水準に達しており、
お勘定は生中と合わせて2千円ちょうど。

昼の献立はほかに、刺身盛合わせ、
サバの文化干し、カキフライ、海老とキスの天丼。
瓶のビールがあったなら
月に一度の利用は確実なのになァ・・・
そう思ったことでした。

「蕾(つぼみ)」
 東京都文京区根津2-36-2
 03-5832-9968

2023年11月23日木曜日

第2312話 食堂開いて80年

「一平」のお勘定は3400円だったかな?
秋の夜はつるべ落としというけれど
日が短くなったなァ、17時過ぎで真っ暗だヨ。
船橋駅に戻る鶴を表通りまで送り、
「それじゃまたネ」と軽いハグ。
こちらは飲み屋街にとって返す。

よほど「一平」に戻ろうかと思ったが
それじゃあまりに芸がない。
今度またいつ来れるか知れぬ船橋の夜。
探索に励もう。

この店が良さそうだ。
立ち止まったのは「花生食堂」。
さっきは裏路地だったが、こちらは半オモテ通り。
たたずまいに好感が持てた。

引き戸を引くと店内は意外に狭い。
カウンター5席ほどに
相席できそうなテーブルが1卓のみ。
取り仕切るのは初老の女将さん1人きり。

先客はカウンターに2人とテーブルに1人。
みな単身だがカウンターは常連とみえて
言葉を交わしていた。
うち1人が左端を示して
「先輩、どうぞこちらへ」
「ああ、どうも、おジャマします」
こういう店では雪解けならぬ打ち解けが早い。

頭ン中では百恵チャンが
「いい日旅立ち」を歌い出したが
披露は控えておこう。
浪花の小姑がうるさいからネ。
と言いたいところなれど最近、
ウンともスンとも言わないんだ。
コロナかフルーにやられたんかな?

それはそれとして「花生食堂」。
開業80年を超えたそうだ。
飲みものは此処でもドライの大瓶。
つまみは野菜炒めをお願い。

そうこうするうち、
先客はパラパラと帰ってゆき、
後客がパラパラと入って来た。
そして一様に湯豆腐を注文する。
18時を前に暖簾は仕舞われた。

豆腐を突つく客の横顔を見ながら
久保田万太郎の句が思い起こされた。

湯豆腐や いのちのはての うすあかり

苦手な赤貝のにぎり鮨を
無理に飲み込もうとして窒息死した万太郎。
豆腐を食ってりゃよかったものをー。

赤貝や いのちのはての 案内人

「花生(はなしょう)食堂」
 千葉県船橋市本町4-16-30
 047-422-6565

2023年11月22日水曜日

第3411話 悩殺されたり ホッペタ落ちたり

風太に別れを告げて動物公園をあとにした。
さて何処で飲もう。
例によって鶴は早帰りを希望するので
早いとこ決めよう。
帰りの総武線沿いだと船橋だろうヨ。

時刻は16時半。
南口の飲み屋街に直行する。
船橋は何年ぶりだろ・・・
にわかには思い出せない。
思い当たる店とてないが飲み歩きのプロは
スマホなんぞに頼りはしない。
おのれの目を信ずるほかに手立てはないのだ。

すぐに目星はついた。
この店はいいゾ、いいに決まってる。
直感をヒットした。
「一平」は複雑な形の細長い、
カウンターだけの店である。

最近、白内障が進んでしまい、
壁の品書きがほとんど読めない、
すさまじい数の短冊を鶴に読み上げてもらった、
遠い動物園につき合ってくれたお礼だと言う。
これぞまさしく鶴の恩返し。

ドライの大瓶を注ぎ合う。
ラインナップを聞いていて
この店は只者じゃないゾ、その感を強くした。
鯨のカツとテキにも惹かれたが
まぐろの脳天刺しとカマ刺しにはもっと惹かれた。
より珍しい脳天に白羽の矢。

これがとても好かった。
薄くスライスされて見た目は
オックステールをコンパクトにした感じ。
舌に乗せたら濃密な旨味が拡がった。
うん、まことにけっこう。

大瓶のお替わりとともにもう1品いきたい。
まぐろつながりでまぐろのホッペフライを追注。
カスベ(エイ)や真ダラのホッペ肉は
食べたことがあるが
まぐろはおそらく初めてだ。

繊キャベを従えて
円く平ぺったいのが2枚付けで来た。
んん? 何だヨこの旨さ!
シットリとした身肉がフックラ揚がって
サカナのフライとしては超一級。
ホッペにチューしたいくらいだ。

脳天刺しには悩殺され、
ホッペフライにはホッペタが落ちた。
船橋に此処以上の酒場はないんじゃないかァ。
アイ・シャル・リターン! オー・イエス!

「一平」
 千葉県船橋市本庁4-42-4
 047-422-5122

2023年11月21日火曜日

第3410話 まだまだ現役 風太くん

「さァ、次は何を観るんだい?」
「決まってるじゃないの」
「何がサ?」
「この動物園の一番の人気者」
「だから何だヨ」
「風太くん!
「エエ~ッ!アレって此処に居んのっ?」

がぜんヤル気を出したJ.C.であった。
実はレッサーパンダが大好きなんだ。
上野の人気者、あの熊猫のタンゴよりもネ。

レッサー・コーナーに行ってみて驚いた。
(今日はよく驚く日だ、ジッサイ)
当園はレッサーの宝庫であり、
楽園でもあった。

最初にお目にかかったのは
メイメイとメイタの姉弟。
それぞれに自分の敷地内を飽きもせず、
ぐるぐると歩き回る。

お次がみい&ゆうだったっけかな?
みんな一人暮らしのようで
同じスペースに同居の例は見当たらない。
一緒にしとくと喧嘩を始めるんかい?

そしていよいよ真打ちの登場である。
まってました、風太くん!

この7月15日に満20歳の誕生日を迎えて
ますます元気と言いたいところだが
足腰がだいぶ衰えて
自慢のスタンディング・ポーズは
もう決められない。

あのブームから15年だもんなァ。
それでも一時期は体調不良や歯の治療で
姿を見せなかったことを思えば完全復活である。
絶滅危惧種のレッサーパンダ。
種の知名度を高めただけでなく、
子孫の繁栄にも多大な貢献をしてきた風太だ。

毛皮の茶色がずいぶん褪せてしまったけれど
自分の縄張りを盛んに徘徊してまだまだ現役。
その姿を拝めただけでも白鶴に感謝する。

次回は上野動物園に連れてけってんで
こうなってくると
のみとも転じてZooともだネ、
ハハハ、それもまたいいでしょう。

2023年11月20日月曜日

第3409話 白鶴が ハシビロコウに 会いたがり

新しいのみとも・白鶴より、メールが来診。
千葉の動物園につき合ってくれと言う
なんでもハシビロコウが観たいんだとー。
鶴がハシビロコウを観てどうすんだ?
とも思ったが素直に従った。

JR錦糸町駅の総武線快速の
プラットフォームで待ち合わせた。
駅をいくつもトバすため、
案外早く千葉駅に着いた。
乗っていたのは40分だ。

そこから千葉市動物公園駅まで
モノレールで5駅だったかな?
改札横のコンビニにて
ビール、燻製玉子、コールスローを調達。
ほかに彼女が鮭とばとミックスサンドを
持参して来ている。

千葉の動物園は上野と
ずいぶん趣きを異にしている。
むしろ多摩のソレに近い。
緑あふれて自分らしくないところに
来ちまったなと歩きながら感じていた。

モンキー・コーナーをザッと観たら
ビールがぬるくならないうちに二人小宴会。
前日に買ったプラコップを
家に忘れて来たと言うんで
J.C.が生ビールのカウンターに出向く。

アルバイトらしき女のコに
「モノは相談だけど
 コップだけ2個売ってくれないかな?」
「こちらでよろしかったらどうぞ」
紙コップを只(ロハ)でもらっちゃったヨ。

二人でロング缶を3つ空け、
鮭とばだけは半分残したが、
あとはきれいに平らげた。
太陽の下での飲み食いは旨いもんだ。

そうしておいて動物たちのもとへ。
ライオン、シマウマ、キリン、ダチョウ、
カンガルーと廻り、念願のハシビロコウである。

めったに動かぬこの鳥だが
上野では手を延ばせば
届きそうなところにいた。
ところが千葉では広いスペースの一番奥だ。
しかもこっちに尻を向けている。
いや、ああいうのは尻ではなくケツという。

するともう1羽、隣りにいたヨ。
奥でつながって
互いに行き来できるのかもしれにが
とにかく別居状態。

驚いたことにこっちのヤツは
のそのそ歩き回ってやんの。
こんな規格外のもいるんだネ。
その様子を観て鶴のヤツ、
満面の笑みを浮かべてやんの。

=つづく=

2023年11月17日金曜日

第3408話 北区で飲むと 帰宅が早まる (その2)

赤羽「まるます家」の酎ハイは
プラス100円でモヒート・セットを付けられる。
言わずと知れたライム$ミントである。
こんなオサレなマネをする大衆酒場が
他のどこにあろうかー。

滞空時間40分で切り上げた。
そう言えば席に着いたとき、
オネエさんに
「1時間半でお願いしてます」
一言釘を刺されたんだった。

赤羽からさらに北上すると埼玉県・川口市。
かつてはキューポラのある街の異名をとった。
書き出すと長くなるし、
今日は行かないのでカットする。

実際はテクテク歩いたが
JR京浜東北線で一つ東京寄りの東十条に移動。
駅そばのコの字カウンター、
「杯一」の止まり木に止まった。

時刻は開店間もない16時過ぎ。
ドライの大瓶をもらい、
カウンターに並ばった料理を見に立つ。

メカジキの煮魚と
ウインナー&白菜のクリーム煮、
この2品で迷ったが
居酒屋には珍しいクリーム煮にしてみた。
うん、けっこうなお味。

書き上がった本日のオススメが壁に掲げられる。
メカジキもクリーム煮も入っている。
てえことはどちらも常備菜じゃないってことだ。

黒ホッピーにチェンジ。
クイクイ飲りながら
オススメボードをつぶさに眺める。
そうだねェ・・・
まぐろ山かけいってみようかー。

小鉢と一緒に醤油さしを差し出したオネエさん。
「下味ついてます」
「ああ。ありがと」
そうなんだヨ、山かけのまぐろに下味は必要不可欠。
「杯一」は正しい。

王子・赤羽・東十条と廻って来たが
この辺りはかつての軍都。
大日本帝国の屋台骨を支えて来た。
兵器・武器・火薬をフル稼働で生産したのだ。

大ざっぱにいって24時間を8時間づつの3交代。
夜勤明けの人員も少なからず。
彼らのために朝から飲ませる店も少なからず。
その伝統が今でも残っているのだ。

スタートが早いもんだから
北区で飲むと
帰宅が早まるのもむべなるかな。

「まるます家 総本店」
 東京都北区赤羽1-17-7
 03-3902-5614

「杯一」
 東京都北区東十条4-2-14
 03-3914-6513

2023年11月16日木曜日

第3407話 北区で飲むと 帰宅が早まる (その1)

最近、ふと思うことが多く、
この日もふと思い、北区のハシゴ酒を目論んだ。
後述するが北区には昼から飲める店が少なくない。
朝からなんてところまである。
これでも近年、だいぶ減ったがネ。

スタートは行きつけの飛鳥山「豫園飯店」。
いつものようにJ.C.担当、香蘭の笑顔に迎えられる。
今日はあちこち廻るのでガッツリは食べない。
肉シューマイをお願いした。

ドライの中瓶と一緒に
大根サラダがスッとサーヴされる。
美味いんだなコレがっ!

シューマイは他の料理より時間がかかるため、
彼女がいろいろ気を遣ってくれる。
サラダのお替わりに鳥から揚げまで出て来た。
ありがたいねェ。
ホントにいいコだ、オバちゃんだけれども。

われわれがまだ子どもの昭和30年代。
町の肉屋のシューマイはてっぺんに
緑のグリーンピースがチョコンと一粒乗っていた。
当店は代わりに小海老が一尾乗っている、
横浜の某有名店とは比べようもないほどに旨い。

香蘭に今月、白内障の手術する旨伝えると
今年亡くなった彼女の母君も白内障だったが
手術後よく見えるようになって
ハハハ、翌日から麻雀三昧と来たもんだ。
麻雀かァ、しばらく囲んでないなァ。

中瓶2本にとどめ、手を振った。
音無親水公園をそぞろ歩き、
王子駅前から赤羽駅行きのバスに乗った、
赤羽となれば、目指すは街のランドマーク、
「まるます家」である。

すんなりカウンターに着くことができた。
赤星中瓶と玉ねぎフライを通す。
これがあったら必ず通す。
ビヤホールや居酒屋で
よく串カツを注文するのはある意味、
豚肉より玉ねぎ狙いと言えなくもない、
好きなんだよなァ。

そうしておいてホヤ塩辛を追注。
イカ塩辛だと時として生臭みに閉口するが
ホヤはそのリスクがないからいい。
飲みものは酎ハイに移行する。
当店の酎ハイには
シャレた趣向が用意されているのだ。

=つづく=

「豫園飯店」
 東京都北区滝野川2-7-15
 03-5394-9951