2023年8月31日木曜日

第3352話 どぜうは真夏に食べるべし (その1)

この夕べはいつもの6人組食事会。
どぜうを強く希望するメンバーの意を汲んで
西浅草の「飯田屋」に集まった。
何たって、どぜうの旬は夏だからネ。

深川・高橋の「伊せ喜」亡きあと、
東京の三大どぜうは当店と
駒形の「駒形どぜう」、
吾妻橋の「ひら井」と相場が決まってる。

雰囲気は駒形、味は吾妻橋だが仲間に一人、
どぜうを得意としないのが居て
みんなが鍋を突ついている間、
うな重でも食わせとけ、
てなもんで3軒中唯一うなぎを供する、
「飯田屋」となった次第なり。
J.C.は「ひら井」が大の気に入りなんだがネ。
一人の身勝手みんなの迷惑とはこのことである。

コロナ以来、短い中休みをとるようになり、
夜の営業は16時半スタート。
その時間に一同、2階に上がった。

窓際寄りの数卓は
昔ながらの畳に胡坐(あぐら)だが
大半は畳の上に椅子&テーブル。
江戸情緒を謳い文句にする老舗にしては
やることが無粋、ほとんどダサい。

まあ、膝や腰の悪い年配者や
外人客も少なくなかろうから
事情は理解できるが
掘ごたつという手もあるじゃないかー。

窓際に落ち着いて淺草銘柄のビールで乾杯。
みんなが品書きをキョロキョロしているスキに
マルとヌキ、2種のどぜう鍋を通しておく。
これは四人前づつ、計八人前を食了した。

メンバーのほとんどはどぜうといえば、
柳川しか食べたことがないと言う。
ヌキ(骨抜き)はともかく、
マル(尾頭付き)はだいじょうぶかな?
危惧したけれど、要らぬ心配だった。
揃いも揃って、旨い、美味しいの連発だ。
まあ、この連中は口に入れば
按摩(あんま)の笛でも食う輩だからネ。

「飯田屋」のオススメらしき純米酒、
福島の笹の川に切り替えた。
速やかに二度目の乾杯を終え、
さあ、二度目の料理の注文と参ろう。

=つづく=

2023年8月30日水曜日

第3351話 今宵の肴はカスベと甘鯛

金3780円也を支払って「吉池食堂」をあとにした。
せっかく来たんだから1Fの鮮魚売り場に顔を出す。
今夜は家めしにしよう。
晩酌の肴を調達していこう。

北海の魚介を堪能したため、生モノは欲しくない。
見初めたのは道産のカスベ(エイ)だった。
それも一般的なヒレではなく、
珍しいホッペタの部分だ。

一も二もなく、イン・マイ・バスケット。
値段は400円とちょっと。
あとは惹かれるものとてなく、
近所の松坂屋に向かった。

ほう、本日の目玉商品は山形産の甘鯛だ。
目元パッチリのほのかなピンクは紅甘鯛だネ。
京都の料理人じゃないから
コレをさばくのはラクじゃないが
適当なサイズの半身があって購入。
550円と高級魚がずいぶん安い。

何かもう1品あるといいな。
冷や奴にしよう。
たまには絹ごしにしてみよう。
松坂屋前から早稲田行きの都営バスに乗った。

皮付き生姜を2片投じて
沸騰させたお湯をカスベにぶっかける。
水・酒・醤油・砂糖を煮たてたところへ
ホッペタを静かに寝かし入れて
煮汁を何度もすくいかけ、
アルミホイルをかぶせたら最弱火で10分。
煮魚は作り立てより、しばらく置いた方が美味しい。
よって晩酌タイムまでそのまま放置する。

さて、一方の甘鯛だ。
こちらは岩塩をガリガリやって4時間ほど置いた。
水分の多いサカナはある程度、
その水分を除去してやらねばならない。

今日は酸っぱいモノが欲しくなり、
サッポロの男梅サワー、レギュラー缶をプシュッ。
甘鯛を焼く間にカスベのホッペの煮付けから。
いやはやとてつもなく美味い。
文字通り片方のホッペが落っこちた。

続いてひと塩の甘鯛。
いや。マイッたヨ、カスベの上をゆく。
さっき落としたホッペタを拾い上げて元に戻し、
今度は両頬のホッペを落とした次第でありました。

2023年8月29日火曜日

第3350話 特上北海飯にしたんだガニ

秋葉原を突っ切って御徒町にやって来た。
通り掛かった「蒙古タンメン」は長い列。
上板橋の本店を含めて食べたことがない。
味噌ラーメンの「えぞ菊」は短い列。
早稲田の本店で食べtsのは学生時代だから
もう半世紀も以前になる。

駅前のユニクロの9階「吉池食堂」に上がった。
昼めしどきは立て混むが
大箱なので回転率は高い。
整理券を取って待つこと5分、案内された。

当店のオススメは北海飯である。
全メニューのうち、これだけが16時までの提供だ。
(並)は1400円なのに
(特上)だと2480円にジャンプ・アップする。
鮭・いくらに、蟹・海胆がプラスされるのだ。
そりゃ、高くもなるわな。

あまりゼイタクは出来ないから
ここはがまんしようカニ? 
と思ったものの、やっぱり頼んじまったガニ。

窓の外の恩賜上野公園を優雅に眺めながら
飲むスーパードライはスーパーテイスト。
格別である。
本日のシアワセを実感する。

日本のビールは美味いからねェ。
クラフト嫌いのJ.C.はその思いを強くした。
アメリカ人が好んで
ジャパニーズ・ビアを飲むのもうなづける。

中瓶をお替わりしたところに
木桶に盛られた(特上)が着卓した。
全面をおおうほぐし鮭は時鮭だろうかー。

その上にドッサリのいくら。
ズワイ蟹も紫海胆もさすが「吉池」、
ケチケチしたところがまったくない。
コイツは食べ出があるぞな、もし。

木桶の脇にはしじみ味噌椀と奈良漬&たくあん。
ワッシ、ワッシと食べ進む。
実に旨いが難点が一つ。
全面シャケだらけだたら
いくら・蟹・海胆の真下はシャケ、シャケ、シャケ。

そりゃ、シャケといくらは親子の間柄につき、
相性の好さを見せるけれど、
鮭と蟹はあんまり合わない。
いや、全然合わずに喧嘩してしまう。
さるかに合戦よりはマシなれど
さけかに合戦もまた、困ったものでした。

「吉池食堂」
 東京都台東区上野3-27-12御徒町吉池本店ビル9F
 03-3836-0445

2023年8月28日月曜日

第3349話 ランチ求めて アキバを縦断

オペラシティの立ち食いそばを
教えてくれたS織より来信。
(にしんそばはいかがでした?)
(あの値段であれは立派だネ)
(でしょう? ところで今月、お誕生日が来るの)
(そりゃ、オメデト)
(それだけ?)
結局は薬局、どこかへ連れていくこととなった。

スペインバルがうれしいってんで
心に当たる店が1軒あった。
いつの間にか旧神田連雀町に
出来ていた「SALAMANCA」である。

まずはランチを試そうと思い、平日の午後訪れたら
シャッターが降りている。
夕刻になって電話を入れると
厨房のガスレンジの具合が悪く、臨時休業の由。
近々リベンジに出向こう。

すぐそばの「まつや」は相も変わらず長蛇の列。
イタリアンの「テスタ・ドゥーラ」のランチは
金曜・土曜限定。
インドカレー「トプカ」は最近、
味を大きく落としており、再訪はない。

駿河台下、神保町方面に戻る気になれないし、
いっそのこと行きたくない街、秋葉原を攻めてみよう。
昌平橋を渡り、とんかつ「丸五」へ。
おっ、珍しくすいてるゾ。

店頭の品書きをつぶさに眺める。
なんか人の気配を背後に感じて振り返ったら 
ワ~オ! 20人近い行列と来たもんだ。
ほとんどの人間はスマホをいじくっているが
うち数人の険しい目線とガッチンコ。

オッサン! 早いとこ後ろに並べヨと言わんばかり。
こちとらオメエらみたいにヒマじゃねェんだ!
心の内でつぶやいて立ち去る。
犬のションベンみたいに後ろ足で砂掛けたろか、エッ?

酒亭「赤津加」に廻ると列はないものの、
店内に立ち待ち客の背中が見えて回避した。
牛丼「サンボ」はすぐ入れそうだが
スパニッシュから牛丼じゃ、シャレにならない。

山形ラーメンの「田中そば店」も
10人以上がとぐろを巻いていた。
パソコンのトラブルでしか来ない街に
昼めし食いに来ちゃ、トラブル必至だぜ。
こうなりゃヤケだ。
生まれて初めてメイド・カフェに
突入してやろう。

2023年8月25日金曜日

第3348話 全員揃ってネパール娘

オペラシティから乗った渋谷行きのバスは
すぐに山手通りを右折し、南下してゆく。
代々木八幡の下を通り抜けた。
此処に来ると、いつも吉永小百合にまつわる、
エピソードを思い出す。

岡田太郎氏との結婚を両親に猛反対されるが
折れた母親がせめて式を
代々木八幡の神前で挙げて欲しいと切望する。
小百合はその願いすら聞き入れようとしなかった。

まっ、それはそれとして渋谷から何処へ行こう。
そうだ、目黒区・東山がいいな。
渋谷で大井町往行きに乗り継ぎ、大橋で下車。
すると246沿いに都内あちこちでお世話になる、
牛めしのチェーン店があった。

立ち食いそば屋では
ぬるいお冷やに口をつけなかったから
ノドはカラッカラのカラ。
水を得たサカナの如くにジャンプ・インの巻。

中瓶2本を飲み干し、そぞろ歩く東山商店街。
かつて近くの祐天寺に棲んでいた元カノと
よく歩いた道筋ながら
さほど懐かしさを覚えなかった。

ほどなく短い商店街は尽きる。
住宅街を歩いてもつまらないので山手通りに出た。
あとは中目黒に一直線だ。

東急東横線の高架沿いに昼飲み可能な居酒屋があった。
「たこや」という。
桜の名所、目黒川のほとりに「大樽」なる、
居酒屋の大店(おおだな)があり、此処はその支店だ。

時刻は15時半。
「いらっしゃいませ~!」
2人のお運びに迎えられた。
先客は2人連れが2組。
生搾りレモンサワーを通す。

ヒマなせいもあって彼女たちと言葉を交わす。
「キミたちは何処から来たの?」
「ネパール人です」
「カトマンドゥ?」
「そです」
どことなく人懐っこい。

つまみはチーズ包み揚げ。
フツーの酎ハイを追加し、残ったレモンを搾り込む。
次から次と出勤して来て総勢5人。
全員揃ってネパール娘と来たもんだ。

お替わりはサントリーの翠を使用するジンソーダ。
ケラケラ嗤う彼女たちの声を聞きながら
カラカラ氷を転がして味わいましたとサ。

「たこや」
 東京都目黒区上目黒3-7-1
 03-3794-1941

2023年8月24日木曜日

第3347話 立ち食いなのに にしんそば

先日、千駄木のみちのく酒場で一献傾けた、
浅草在住のS織からまた情報が寄せられた。
「オペラシティの前の立ち食いそば屋さんに
 にしんそばがあってスゴく美味しいの。
 行って食べてみてー」

オペラと立ち食いそばの落差を
埋められないまま出掛けた。
都営大江戸線の新宿五丁目から
山手通りを真っ直ぐ南に歩く。

ホントだ。
オペラシティーの脇、
甲州街道に面した角に「加賀」はあった。
にしんそばなら第一感は京都だが
加賀百万石と来やしたかー。

冷やしにしんそば(670円)をポチッ。
さて、ビールはとー。
ないネ、ビールどころか飲みものは何もない。
あるのは自分で注ぐお冷やだけだ。
これがまたぬるくてどうしようもない。
季節はずれの水ぬるむ、ってヤツだ。

ずっと見ていたらにしんもよく出るが
一番人気はかき揚げだった。
どうせこれからどこかに寄るため、
そばは半分にしてもらう。

上乾とまではいかないけれど
身欠きにしんはなかなか上等。
わりと大き目の半身が横たわっていた。
とても立ち食いそば屋で目にする景色ではない。

ドンブリにはほかにワカメのみ。
刻みねぎは卓上の容器に用意され、
使い放題だった。
粉わさびより七色がいいので振った。
そこそこ美味しくいただいた。
半量だからストマックにはまだ余裕がある。

外に出たら近くの停留所にバスが停まっていた。
発車しないように運転席に手を挙げて小走り。
すると若い娘が料金の支払いにてこずっている。
横顔は欧米系の面立ちだ。

よし、よし、この場はオジサンに任せなさい。
仲を取り持って一件落着。
両者に礼を言われて少々テレ気味のJ.C.でした。

♪ 発車オ-ライ!
  明るく明るく 走るのよ ♪

「加賀」
 東京都渋谷区本町1-23
 03-3320-8746

2023年8月23日水曜日

第3346話 またしてもホスピタル

前回は初めてのホスピタルだったが
今回は初めてのPCR検査。
再び日医大病院を訪ねると
12時から13時15分まで休憩と来たもんだ。

それじゃそこを利用して昼めしにしよう。
外に出たらけっこうな雨足の洗礼に見舞われた。
駆け込んだのは病院のはす向かい。
根津神社の並びの「鳥はな」。

以前、一度だけ利用したことがある。
そのときは東京軍鶏の親子丼をいただいた。
当店は東京軍鶏の専門店なのだ。
ところが比較的安価な昼は水郷赤鶏が中心。
軍鶏は親子丼しかない。

耳慣れない水郷赤鶏は千葉県・佐原や
茨城顕・潮来あたりで飼育されているらしい。
そうら、懐かしい花村菊江の歌声が響いてきた。

♪ 潮来花嫁さんは
  潮来花嫁さんは 舟でゆく
  華の都へ ギッチラ ギッチラ 
  ギッチラコ
  別れ惜しむか よしきりさえも
  啼いて見送る 葦のかげ  ♪
  (作詞:柴田よしかず)

「潮来花嫁さん」は1960 年のリリースで
奇しくも橋幸夫の「潮来笠」と同年。
好きな3番を紹介したが
1番の ”月の出潮にギッチラ” 、
2番の ”私しゃ潮来の水育ち” も捨てがたい。

生はプレモル、瓶はハートランドの小瓶。
その取り揃えに不満を抱きながら
よりダメージの軽い小瓶をー。

そうして通した焼き鳥丼。
親子は前回食べてるし、
そぼろ親子や鶏ひつまぶしには
食指が動かなかった。

ドンブリに枕を並べて討ち死にするのは4本。
ささみ(胸?)わさび・もも・ももねぎま・団子。
ささみと団子が塩、もも系はタレだ。

一見したJ.C.、ガッカリ。
何とまあ、退屈な顔ぶれであることよ。
レバー、あるいはハツ、
いわゆる内臓系の不在が痛い。
皮やボンジリを入れろとは言わないが
あまりにも凡庸なラインナップ。

味わいにも特筆するところがない。
これならわざわざ潮来から
嫁入りさせなくてもいいんじゃないの。
やはり此処は東京軍鶏だ。
国技館の前の江戸NORENに支店あり。

肝心のPCR検査はもちろん陰性でした。

「鶏はな」
 東京都文京区根津1-27-1第二高野ビル2F
 050-5868-8666

2023年8月22日火曜日

第3345話 2本のエビの存在感 (その2)

千駄木2丁目の裏路地にひっそり佇む「小松庵」。
ミニかき揚げ丼そば付きが調った。
一番に目を惹いたのは
ミニかき揚げ丼の主役とも言える、
1本の立派なエビ天だった。
ブラック・タイガーだろうか?
ひと昔前なら大正海老と呼ばれたサイズだ。

あとは野菜天が盛りだくさん。
なす・にんじん・ピーマン・蓮根・かぼちゃ。
かき揚げの姿はない。
エビと野菜だけでなぜかき揚げ丼なのか
さっぱりわからない。

そしてエラいのが添えられたお新香。
きゅうり&大根の分厚いぬか漬けが2切れづつ。
そこにたくあんが3切れ加わる。
さすがにミニ丼だからごはんの量は少ない。
J.C.なんか、新香だけでごはんを食べ切れちゃうヨ。

小さなもりそばから食べ始めた。
何の変哲もないごくフツーの味わい。
池之端の行きつけにはそばもつゆも遠く及ばない。
そばを食べ終えてドンブリに挑んだ。

何といってもエビ天がスゴい。
ただ大きいだけではない。
身が締まってミッシリ。
とても良質な海老を使用していることが判る。
このエビ入り天丼だけでも
1100円の元はじゅうぶんい取れよう。

食べ終えて思う。
今日の海老はたまたま良かったんだろうか?
いつもこんなのが出て来るんだろうか?
ミニ天丼にすれば
野菜の代わりにエビ2本となる。
そんなんで元が取れるのか?

確かめねばならない。
これが真面目なブロギストのツラいところで
いい加減なことは書けないのだ。
よって翌週、再訪してミニ天丼そば付きを通した。

よっ、来ました、来ました、立派なヤツがー。
ミニ天丼とは思えぬ迫力で
2本の海老の存在感に圧倒される。
浅草あたりで食べたら
1500円は下らないんじゃないのかな。

海老好きにはたまらんだろう。
大の海老好き、さんとも・O戸サンなんか
欣喜雀躍するに違いない。
2本のエビに1本とられた気がしたものです。

「小松庵」
 東京都文京区千駄木2-47-1
 03-3827-7770

2023年8月21日月曜日

第3344話 2本のエビの存在感 (その1)

日医大病院をあとにして遅い昼めし。
朝から口にしたのはペットボトルの生茶1本のみ。
いくら少食のJ.C.でも
さすがにフィール・ハングリー。
病院前の坂を上った。

和菓子の「一炉庵」が見えてきた。
漱石ゆかりの老舗である。
「吾輩は猫である」のモデルは
此処の猫と言うのが通説だったが
調べてみたらそうではなかった。

漱石邸と「一炉庵」の間に
かつて酒屋があり、其処の飼い猫が真相。
「一炉庵」の店主が言うんだから間違いない。

菓子舗のはす向かいに
「夢境庵」なる日本そば屋があった。
根津神社の近くにつき、
家康にちなみ、権現そばをウリとしたが
数年前に閉業、今はべつの店になっている。

「つつじ屋」という食事&甘味処だ。
これもまた根津神社のつつじ祭りが由来だ。
生姜焼き定食でも食べようかな・・・
いや、思いとどまった。
さっき上った坂を下りてゆく。

そうだ、病院と不忍通りの間の路地に
ひなびたそば屋があるハズ。
利用したことはないが、其処にしよう。
「小松庵」は都内各地で見掛けるが
当店はどこかの暖簾分けで
採算も独立していよう。

扉を開くと落ち着いたたたずまい。
手前左手にカウンター、奥にテーブル席、
そのまた奥に小さな庭が見えた。
庭を背にして四人掛けに着く。
客は1人もいない。

黒ラベルの中瓶を飲みつつ、品書きの吟味。
量が多くて普段はあまり頼まないセットにしよう。
ともに1100円のミニ天丼そば付きと
ミニかき揚げ丼そば付きで迷った末。
かき揚げをチョイスした。

お通しのきざみたくあんをポリポリやりながら
今日を振り返る。
近代的な病院って意外にいいもんだな。
待っていても苦にならないし、
スタッフもみな親切にして丁寧。

そうだ、あそこを
マイ・ブレイクルームにしてやろう、
おっと、そりゃアカンわ。
まさか、病院でビールは飲めんやろ。

=つづく=

2023年8月18日金曜日

第3343話 生まれて初めてホスピタル

最近、視力が衰えた。
殊に真昼の逆光に弱い。
これは白内障の兆しだな。
素人なりに判じて近所のみしま眼科へ。
市中の医院は三越前の小池医院以来。
実に20年ぶりである。

すると女医の三島(?)先生に
やはり宣告された。
大きな病院での精密検査を言い渡され、
紹介状を書いていただき、日医大付属病院へ。
自宅から徒歩10分弱、都合が良い。

J.C.は生まれてこのかた、
大きな病院には行ったことがない。
そりゃ見舞いはあるけど、診療は初めてだ。

いや、驚きやしたネ。
どこから湧いて出たものやら、人、ヒト、ひと。
みなさんどこか悪いハズだから
相当な医療費だヨ、これはー。

相当待たされると思いきや、そうでもなかった。
ただ、検査の種類が多く、
各窓口で待ち時間はさほどでなくとも
結局、丸4時間を要したのだ。

ただ、こういう場所はやはり慣れが必要。
医師や看護師に目を出したり、
腕をまくったりしてるうちはいいが
自分で何かする段になると
まったく無知丸出し。

マイッたのは血圧計。
血圧なんて、もう20年も測ってないゾ。
ましてや自分で測ったことなんかない。
どうしていいものやら、座りすくんでいたら
後ろに並んでたお婆さんが見るに見かねて
ホラ、肘はこの台に置いて、腕はこの穴に通して
再三に渡り、指導を受ける始末。
まるで負うた母に教えられ、の心境でありました。

採決にも驚いた。
1分と経たぬ間に試験管4本も採られたぜ。
他人の血だと思って、まったく。
アンタはドラキュラか。

今回の登院で印象に残ったのは若い看護婦さん。
みんなキレイだったり、可愛かったり、
上玉(失礼!)揃いなんだ。
こりゃ、面接の際に容貌の美醜で
採ったり落としたりしてんじゃないの?
スチュワーデスと同じだネ。
取捨選択するのは当然、
男どもに決まってらい!

2023年8月17日木曜日

第3342話 米っきり 米っきり もう・・・(その4)

飽きもせず、またもや米切りを食いにー。
今回は歩行ルートを変え、
御殿坂から谷中霊園の脇を抜け、
日暮里駅南口改札の前を通って
急な石段を降りていった。
おおっと、百恵チャンが歌い始めたヨ。

♪ 米っきり 米っきり もう
  米っきりですか
  米っきり 米っきり もう
  米っきりですか
  急な石段 駆けくだったら
  今も麺が 食えるでしょうか
  ここは日暮里    ♪

本日の狙いは米切りのカレーつけである。
入店すると店主が申し訳なさそうに
「米切りだけになっっちゃったんですけど・・・」
「いいとも、米切り食べに来たんだもん」
「アッ、そうだ、そうですよねェ」
米切りファンであることを思い出してくれた。
そば切りはどこでも食えるからネ。

いつも通りに一番搾りをトクトクのクイ~ッ!
昼のこの店につまみはない。
夜は来たことないので知らない。

ただ、ゆくゆくは野菜中心のアテを揃えて
そば居酒屋を目指す方針は聞いた。
ビールを好みの銘柄に替えてくれたら
ちょくちょくおジャマするけれど。

カレーつけが登場。
豚バラと南蛮ねぎが浮き沈みして
これは肉つけの具材とまったく一緒。
つゆがかえしベースから
カレーベースに代わっただけのことだ。

うん、これもいいネ。
池之端の行きつけのカレーせいろと比較すると
つゆはあちらが勝るが具はこちらの勝ち。
カレー南蛮は鳥肉よりも
豚肉との相性がよろしい。

いろいろ食べてみて当店のベストは肉つけ。
それも初回なら米とそばのハーフ&ハーフ、
いわゆる夫婦もりを推奨したい。
次回は全部入りだとトゥー・マッチにつき、
温玉かとろろを試してみよう。

さて、ここからは徒歩5分の距離にある、
昼カラ・スナック「K」へ赴き、
ママ&常連さんが推薦してくれた、
三河島のナンバー・ワン焼肉店「モランボン」。
その結果を報告するとしましょう。

=おしまい=

「艶歌」
 東京都荒川区東日暮里5-40-8
 03-3806-9431

2023年8月16日水曜日

第3341話 米っきり 米っきり もう・・・(その3)

米切りにはフラれたけれど
そば切りの肉つけはじゅうぶんに美味しかった。
並の日本そば屋の肉せいろの上をゆく。

さて、一度ソデにされたくらいで
くじけるJ.C.ではない。
翌週、同じ曜日に再訪した。
すると、接客の女のコは別人なれど、
またしても米切りは終わったと、のたまう。
コレを専門用語で異口同音と言う。
再びガッビーン!

「じゃ、日をあらためるネ」ー
われながら引き際は潔い。
去ろうとすると厨房から店主が顔を出した。
前回、長っ話をしたから
ある程度、気ごころは知れている。

「何とか半人前ありそうなんで
 そばと半々でいかがですか?」
もちのろん、異論などあるハズもない。
此度は冷たいつゆで
夫婦もり仕立てにしてもらった。

ほう、これが米切りかー。
そうめんよりはずっと、
冷や麦をちょいと太くした感じかな?
言われなきゃ、誰しもうどんと思うよなァ。
ただ、うどんに比べて
ノド越しのツルツル感が強い。」

でも、店主によれば注文の度合いは
そばが9割、米が1割程度とのこと。
五分と五分くらいでよかろうとも思うが
やはり関東人(埼玉県民を除く)には
そばの人気が根強いんだねェ。

そば湯をいただき、また店主と談笑。
目立たないから気づかなかったが
当店は長い歴史を刻んでいた。
もともとは父親が此の場所で
バーを営んでいたそうだ。

ハ~、なるほどなァ。
確認とるのを失念したけど、
おそらくバーの名前が
「艶」だったのだろう。

何でも米軍キャンプのバーにいたそうで
英会話も堪能だった由。
父親亡きあと、
息子が勝手にそば屋にしたんだネ。
もっともこの場所でバーはないわ。

=つづく=

2023年8月15日火曜日

第3340話 米っきり 米っきり もう・・・(その2)

初めて入る間口の狭い「艶」。
意外にも中は広かった。
4席あるカウンターに着く。
ビールは一番搾りの中瓶。

冷・温そろうそば切りと米切り。
店のイチ推しは冷たい麺に
温かいつけ汁の肉つけ。
ほかには温玉やとろろ、
全部入りなんてのもある。
あとはカレーつけ。

よしっ、おもむろに肉つけを米切りで通した。
すると、お運びの女のコ。
「すみません、今日は米切りが終わっちゃいまして」
ガッビーン! いきなり横っ面を張り倒された。
こちとら米切り目当てで来たんだぜ。

お嬢ちゃん、俺らを
J.C.オカザワと知っての狼藉かい?
あまりの展開に呆然と立ちすくむ。
いや、座りすくんだ。

無いモノをねだっても仕方がない。
「じゃ、そばでいいや」ー
哀れJ.C.、蚊の鳴くような声で通したのでした、

「肉つけでよろしかったですネ?」
だからぁ、そう言っただろろうがっ!
つべこべ言わずに早く持って来い!
完全にブチ切れの巻である。

ほうら、裕次郎が
「風速四十米」を唸り出したぜ。

♪ ぶっち切れてく ち切れてく
  それが定めだよ    ♪

なんてウッソ~。
紳士がそんな暴言を発するワケがない。
ましてや年端もいかない若い娘に。

10分で肉つけそばが調った。
これはいわゆる他店の肉せいろである。
つけ汁には豚バラ肉と
南蛮切りの長ねぎがたっぷり.
一口すすって思わずにっこり。
ほうら三浦洸一も歌い出す。

♪ 素肌に燃える長襦袢
  縞の羽織を南郷に
  着せかけられて帰りしな
  にっこり被る豆しぼり 
  鎌倉無宿 島育ち
  オットどっこい 
  女にしたい菊之助 ♪
  (作詞:佐伯孝夫)

吉田正を加えた、
ゴールデン・トリオによる「弁天小僧」は
1955年リリースの名曲であります。

=つづく=

2023年8月14日月曜日

第3339話 米っきり 米っきり もう・・・(その1)

半年も以前のことになるが
日暮里から鶯谷に向かって
線路の東側を歩いていると
今まで気づかなかった、
小体な日本そば屋を通りすがった。

「艶(えん)」という名のそば屋らしからぬ、
屋号が気になったが、それ以上に惹かれたのは
米切りなる麺であった。

今は昔、そばは団子状のそばがきが
主として食されていた。
麺状の蕎麦切りが世に広まるのは
ずっと後世のことである。

うどんも当初は麦切りと呼ばれた。
その名残りが冷や麦で
あれは冷やし麦切りの略語だ。

そして米切り。
紛れもなく米の麺と推測される。
日本では珍しい、と言うより、
国内ではお目に掛かったことがない。

目をアジアに向けると、あちこちで見られる。
代表格はチャイナの米粉。
あとはベトナムのフォー、
タイのパッタイ、シンガポールのクエティオ。
南に下れな下るほど、米の麺が幅を効かせる。

南方では米しか取れない。
小麦は北の産物なのだ。
よって同じ中国でも
満州あたりは小麦粉圏内だから
主食もマントウや餃子に代わるのだ。

東日暮里で出逢った米切りだったが
日に日に記憶は薄れてゆき、
いつしか忘却の彼方にー。
まったくもって歳はとりたくないものよのぉ。

ところが忘れる神あらば、思い出す神あり。
今日こそは食べてやるゾ。
心に決めて夕焼けだんだんを上って行った。
半年前と同じ道筋を往く。

正岡子規が愛した「羽二重団子」の
立派なビルを過ぎるとほどなく、
「羽二重」とは似ても似つかぬ、
小ぢんまりとたたずむ「艶」が現れた。

=つづく=

2023年8月11日金曜日

第3338話 バスを待つ間に(その2)

てなこって、西巣鴨の韓国家庭料理店、
「韓なら」にやって来た、
「豫園飯店」の二日後である。

扉を引くと、先客はカップル1組に
男女入り混じった5人組。
会話からはハングルが聞こえてこなかった。
4人掛けに促されて着卓。

ビールは生が黒ラベル。
中瓶は黒ラベルとスーパードライ。
ここはありがたくドライをいただく。
ランチメニューをザッと紹介する。

プルコギ丼 イカ丼 豚キムチ炒め丼
ビビンパ 石焼ビビンパ 韓国風海苔巻き
純豆腐チゲ キムチチゲ ユッケジャン
半参鶏湯 ソルロンタンクッパ
韓国辛ラーメン 水冷麺

今日はハナからプルコギに決めてある。
本当は参鶏湯がいいんだが
プルコギの匂いに誘われたのに
それでは何をやっているのか判らない。
ご覧のように牛の焼肉はプルコギだけなのだ。

メニューにはスープ付きとあったが
ビールを飲みながら待っていると
いきなり現れたのは小皿三兄弟。
白菜キムチ、豆もやしナムルに
チャプチェまで付いて来たぜ。
しかもそれぞれにけっこうな量。
あたかも韓流宴の独演会である。

続いてソルロンタンみたいに
白濁したスープとプルコギ丼が登場。
丼といっても実際は
カレーライスを盛りつけるような皿を
プルコギとライスが二分していた。

このボリュームにたじろいだ。
こりゃ完食はムリだろう。
とは言え、真っ向から挑んだ。
いずれも味付けは悪くない。

殊に気に入ったのはキムチ。
唐辛子控えめのあっさりタイプ。
好んでは食べない総菜ながら好みにピッタリ。
きれいに平らげた。

スープも飲み干した。
あとに残したのは野菜たっぷりのプルコギとライス。
それにチャプチェと豆もやし。
どんな大食漢にも太刀打ちできる、
立派なコリアン・ランチでありました。
食の神様、カムサハムニダ!

「韓(ハン)なら」
 東京都豊島区西巣鴨4-14-14
 02-4361-7830

2023年8月10日木曜日

第3337話 バスを待つ間に(その1)

リッチな冷やし中華を食べた翌々日。
J.C.はまた西巣鴨の交差点に現れた。

実はやすらぎの「豫園飯店」に行くときは
いつも家を出ると、
すぐそばのバスストップで早稲田行きに乗り、
千石一丁目で都営三田線・千石駅に乗り継ぎ、
二つ目の西巣鴨から
王子方面に向かうバスに乗車する。

三つ先の飛鳥山停留所は店の目の前。
所要時間は家からちょうど30分。
これじゃ行きつけちゃうよネ。

でもって、二日前の西巣鴨。
バスを待っていると
何やらいい匂いが漂ってきた。
バス停の真ん前の韓国料理店、
「韓なら」からだ。
紛れもない朝鮮焼肉のあの甘いタレの匂い。

此処から何度も乗っているが
こんなことは初めてだ。
なぜならこの店は韓流家庭料理が主流。
メニューに焼肉はない。

バスを1台やりすごし、
店頭のメニューをつぶさにチェック。
ハハ~ン、匂いの元はコレに違いない。
プルコギ丼である。

バスを待つ間に
いきなり鼻腔を突き抜けた匂い。
平浩二が歌い出すのも無理はない。

♪  バスを待つ間に 泪を拭くわ
  知ってる誰かに 見られたら
  あなたが傷つく
  何をとり上げても 私が悪い
  過ちつぐなう その前に  ♪
   (作詞:千家和也)

「バス・ストップ」は1972年のリリース。
けれどもこの曲を初めて聴いたのは1987年。
シカゴのジャパニーズ・ラウンジ、
今は無き「しの」でのことだった。

客の商社マンがマイクを握って熱唄。
うん、いい曲じゃないか、と思った。
われわれの世代は「 バス・ストップ」なら
イギリスのロックバンド、
ホリーズのそれが第一感だが
両曲の時間差はたかだか6~7年に過ぎない。

個人的には驚いてしまう。
平浩二ってそんなに古い人なの?

=つづく= 

2023年8月9日水曜日

第3336話 行きつけ中華のリッチな冷やし

この日も暑かった。
いや、クソ暑かった。
若い頃は暑い夏が大好きで
どんなに暑くとも四の五の言わなかったし、
暑さに”クソ”をかぶせるることなどあり得なかった。
ところが・・・そうか、
これが歳を取るということなのか。

いつものように池之端でビールともりそばで
事足りるけど、そうだ、冷やし中華がいいな。
北区・飛鳥山のブレイクルームでは
まだ冷やしを食べていないしネ。

西巣鴨からバスに乗って飛鳥山に着いた。
J.C.担当の香蘭の笑顔に迎えられ、
空いていたので四人掛けに着卓。
何も言わずにドライの中瓶が運ばれ、
「今日はどっち?」
「そうだな、大根にしようか」
「ハイッ」

当店はビールを通すと、
ザーサイか大根の小皿がサービスされる。
これがバカにできず、ともに花丸ジルシなのだ。
上品な薄味仕上げがアチラ系中華と一線を画す。

すでに頭に刻まれた菜譜を手にするのは
将棋で言うところの形作り。
しかも今日は家を出る前から決めてある。
「冷やし中華は美味しいの?」
「うん、美味しいっ」
「ホントかい?」
「ホントに美味しい」
「じゃ、ソレを麺半分で」
「お醤油? それとも胡麻ダレ?」
「醤油でお願い」

暑いもんだから即2本目。
おおっと、香蘭が目の前に置いた冷やし中華。
箸をつける前にしみじみと見つめる。
具材は、焼き豚・錦糸玉子・トマト・
きゅうりと、ここまではフツーながら
加えてクラゲと小海老と来たもんだ。

海老は小海老と呼ぶのをためらわせるほどに
プックリと太ったのが3尾。
中細のちぢれ麺が歯に舌に心地よく、
冷やし中華としてはまぎれもなく一級品。

あらためて豊島区・北区、
ついでに板橋区の若者に推奨したい。
小遣いに困ったら彼女を此処に誘いなさい。
必ずや歓ばれるから。

これでブツクサ言う女なんか
どこぞのリッチだけど
ブチャイクな御曹司にでもくれてやりなさい。
それがこの世の男と女のバランスを
健全に保つ、唯一無二の方策であります。

「豫園飯店」
 東京都北区滝野川2-7-15
 03-5394-99515

2023年8月8日火曜日

第3335話 八十路の店主が 焼く焼き鳥 (その2)

前話のコラムに関して何人もの読者より、
問い合わせがあった。

 ♪ 昔恋しい下町の 夢が花咲く錦糸町 ♪

いったいあれは誰の何の曲ですか?
これは失礼いたしました。
藤圭子の「はしご酒」であります。
1975年リリースのこの曲は
彼女のマイベスト、たまらなく好きです。

それはそれとして「ひよっこ」。
昼めしが遅かったので空腹感なく食欲もない。
ぼんぼち(ぼんじり)を塩、
レバーをタレで1本づつ焼いてもらう。

犬連れオジサンが出て行った。
犬をほどいて去って行った。
どうやら家は近所らしい。
つれづれなるままに残ったカミさんと
会話が始まった。

てっきり店の常連かと思ったが
訪問は今回が二度目とのこと。
どうしてこんなに仲良くなれんの?
当然の疑問である。

なんでもオヤジさんの気質と
自家製のぬか漬けに惚れ込んだんだとー。
訊けば、店主は御年81歳と来たもんだ。

それにしても訪問二回目ににして
勝手に冷蔵庫を開け、
ビールの栓をスポンと抜いて
「お疲れさまァ」は並の女のできる業ではない。

彼女の名前はEり香と言う。
彼女によると店主はずいぶん前に
女将さんを亡くされ、
バイトの女の子もコロナ禍の状況を
見るに見かねて自ら去っていったという。
泣かせるねェ。
以来、ずっと独りなんだとー。

「あの二人(一人と一匹)きっと帰って来るわ。
 家の鍵持ってないもの」
案の定、帰って来た。
そしてすぐまた出ていった。

カミさんは残って隣りに座り、
小一時間も相手をしてもらった。
何でも豆芝と呼べるのは体重5kgまでで
それ以上は単なる柴犬となり、
これをデカ芝とは呼ばないそうだ。

此処でまた出逢ったときには
よろしくネと握手を交わして
「ひよっこ」をあとにした錦糸町の夜でした。

「ひよっこ」
  東京都墨田区錦糸3-17-4
 03-3623-7080

2023年8月7日月曜日

第3334話 八十路の店主が 焼く焼き鳥 (その1)

 「vivo」をあとにして
なおも錦糸の街をさまよい歩く。
生の穴子を出す鮨屋は閉業した様子。
ガードをくぐって北口方面へ。

何年か前に訪れた焼き鳥屋も玄関を閉ざしていた。
何だ、なんだ、この街は景気が悪いのか?
いっそ浅草まで戻ろうか?
あいや、待て待て、短気は損気。
もうちょいと徘徊してやろう。

今から26年前。
NYから帰国した、まさにその当日。
しばらく錦糸町に居候したんだが
そこの家主とうなぎ屋「両国」で一酌に及んだ。

その店がまだ健在だったので
よほど入ろうかと思ったものの、
いや、待て待て、うなぎはちと重い。
焼き鳥くらいがちょうど好い。

「両国」のある北口目抜き通りを
突き抜けて路地を進んだ。
デカい柴犬を連れたオジさんとすれ違う。
何気なしに振り返ると
オジサン、居酒屋の立て看板に
犬を結わえつけてるヨ。
そうしておいて店内に姿を消した。

犬を愛する御仁が愛する店なら
きっと良店に相違ない。
此処は焼き鳥屋「ひよっこ」。
あとを追うように引き戸を引いた。

「いらっしゃいませ~!」
女将らしき声が聞こえたが
切盛りするのは店主のみ。
声の主は犬連れオジサンと
差し向かいの女性だった。

さっそくドライの中瓶をお願いすると
運んでくれたのはその女性。
「お疲れさまでしたァ」ーグラスに注いでくれる。
ああ、この人が女将さんか。
と思いきや、あとからいろいろ判明してきた。

♪ 昔恋しい下町の 夢が花咲く錦糸町 
  よってらっしゃい 
  よってらっしゃい お兄さん♪

この街にも下町人情が名残っているのでした。

=つづく=

2023年8月4日金曜日

第3333話 止まり木は 男ばっかり

今宵はどこで飲もうかな?
ふと思いついて、あみだくじを作った。
候補地は8か所だけど、ご覧になりたい?
エッ、見たいの?
しょうがない人たちだなァ、甘えてばかりいて。

神保町・人形町・神谷町・椎名町・
信濃町・大井町・東陽町・錦糸町

すべて”マチ”か”チョウ”から選抜した。
十数年ぶりにあみだを引く。
ペンを持つ手が
震えています、震えています。
最近はこればっかりやな。

命中したのは墨田区・錦糸町。
いつ以来だろう?
たぶん、年度末の3月31日以来だ。
あのときは行きつけの「vivo daily stand」で
Wデートのあと、盟友のN田クンと
錦糸町きっての酒場「三四郎」に流れたのだった。

そういやあ、「vivo」もご無沙汰だなァ。
バーテンの山チャンは会いたがってるだろうなァ。
いや、怒ってるかもしれない。
この体たらくじゃ、行きつけとか、
ブレイクルームなんて言えやしないヨ。

時間的余裕があり過ぎたので
日暮里からJRを避け、錦糸町行きのバスに乗る。
途中通る吾妻橋のこれも行きつけ、
角打ち「明治屋」に立ち寄るつもりが
押上まで行ってしまい、
またの機会と押上げた、もとい、仕上げた。

終点の一つ手前、錦糸公園で下車し、直行する。
ガラス戸を開くと一番奥に先客1名。
山チャンと白ワインを酌み交わしている。
こちらも負けじと生ビールのグラスをカチン。

そう、そう、困ったことにvivoグループは数カ月前。
生の銘柄をサッポロ黒ラベルから
キリン・ハートランドに切り替えやがった。
何の許しも得ずにー。

そりゃ、ハートランドは同じキリンのラガーや
クラシックラガーよりはナンボかマシ。
一番搾りと似たり寄ったりなんだ。

続いて入店して来たのは目白のイタリアンで
スー・シェフをしているアンちゃん。
彼とは何度か顔を合わせている。
そしてもう一人、また一人とやって来るのは
なぜか男ばかり。

山チャんって、こんなに人気があったっけ?
マスクを外した顔をあらためて確認すると、
おう、おう、けっこうイケるじゃんかァ。
能ある鷹は爪を隠し、
能ある豚はヘソを隠す、ってか?

「vivo daily stand 錦糸町店」
 東京都墨田区江東橋4-21-6
 03-6240-2101

2023年8月3日木曜日

第3332話 年に一度の鮎祭り (その3)

あとふた月もすれば、
松茸割烹と化す深川の鮎割烹「天竜」。
七人の侍が前菜をいただいたところだ。

お次は鮎コースを支えるもう一つの顔、
お造りが目の前に置かれた。
いつものことながら
当店のお造りは多彩にして良質。
下手な鮨屋は裸足で逃げ出すこと必至なり。

内容は以下の通り。
鮎の背越し(骨付き刺身)・真アジのタタキ・
真子ガレイ・真ゴチ・甘海老・白イカ・
本マグロ中トロ。
スゴいでしょう? 食べたいでしょう?

鮎の背越しには酢みそが用意される。
この酢みそでアジのタタキをやったら
これもピタリと決まった、

続いて本日の主役は若鮎の塩焼き②尾付け。
鮎といえば、何たってコレでしょ。
ん? いつ食べるか? ってか?
今でしょ!

指先で身を外し、蓼酢にちょいと浸して
舌の上に放り込む。
あとは黙ってムシャムシャのモグモグ。
この世にこんな美味いモノがほかにあろうか?
あるとしたら、可愛いあの娘(コ)の唇くらいだ。

ようやくJ.C.、日本酒に切り替えた。
所望したのは富山の大吟醸、銀盤である。
これが蓼酢に浮き沈みする、
子鮎の南蛮漬けにやさしく寄り添った。
まるで銀盤の女王だネ。

先週の朝日新聞で見たが
あたかも加山雄三に寄り添う、
松本めぐみの如しなりけり。
幸せだなァ。

続いた稚鮎の天ぷらにも瞠目。
鮎は海xで産卵するため、
稚鮎はほぼ100%、滋賀県・琵琶湖の養殖
これまたとてつもなく美味い、

とうもろこしの天ぷらに
鮎の炊き込みごはん、ぬか漬け・味噌椀と来て
普段、あまり食べないフルーツまでやっつけた、
メロンとスイカとシャインマスカット。
本当にいいモノ出してくれるよねェ。

次回は予定を早めて晩秋の開催。
浅草は観音裏の「ニュー王将」に
集結することとなりました。
オッサンはみな、金は無くとも
ヒマは売るほどあるんです。
誰も買っちゃあ、くれんけどー。

「天竜」
 東京都江東区清澄3-3-28
 03-3630-8850

2023年8月2日水曜日

第3331話 年に一度の鮎祭り (その2)

江東区・深川は清澄の割烹「天竜」。
前菜五点盛りの陣容はかくの如し。
枝豆・アボカト川海苔和え・身うるか・
小鮎衣揚げ・子持ち鮎煮。
いずれも小ジャレた佳品なり。

驚いたのは枝豆である。
素材の質はもとより、
茹で具合、塩加減がともにバツのグン。
久しぶりに美味なる枝豆を食した感あり。

最近、昭和のラーメンを求めて通い出した、
夕焼けだんだん上の「花家」。
あの店はビールを頼むと必ず、
枝豆をサービスしてくれるが、あまりうれしくない。
茹で過ぎなのだ。

遅れて来た中年、いや、老年か、N藤サン到着。
あらためてカンパ~イ!

♪   乾杯モンテカルロ 好きよあなたが楽園
  シルクハットを月に飛ばして 明日は明日よ
  踊ってモンテカルロ 熱いタンゴで夜通し
  割れてしまえ 地球なんか
  恋は狂詩曲(ラプソディ)   ♪
   (作詞:ちあき哲也)

がまんできずに庄野真代の「モンテカルロで乾杯」。
1978年リリースのこの曲は彼女にとって
「飛んでイスタンブール」に続くヒットとなった。
モナコの首都・モンテカルロは思い出深き街なれど
ハナシが大きくそれるので今回は自嘲しておく。

先日、4人で出掛けたコリアンタウン、
三河島の焼肉屋では紹介をこらえたものの、
そうそう浪花方面に遠慮ばかりしていられない。
あちらこちらで乾杯の機会が続く今日この頃、
どこかで一度使っておきたかったんだ。

ここで長渕剛なんかを持ってこないところは
J.C.のセンス以外の何ものでもない。
「乾杯」や「とんぼ」は関西人が好む歌。
首都・東京には似合わない。
らびちゃんには悪い気もするけどな。

J.C.はまだビールだが
各自、清酒や焼酎に切り替え、
宴たけなわの様相を呈してきた。

=つづく~

2023年8月1日火曜日

第3330話 年に一度の鮎祭り (その1)

今は昔、というほどではないが1990年代のこと。
今なお続くTBSラジオは「森本毅郎・スタンバイ!」。
その皮切りのウォールストリート情報を
曜日替わりでNYから担当していたディーラーたちの
リユニオンが現在も年に一度は開かれている。
仲がいいんだネ。

このところ集結するのは
江東区・清澄の割烹「天竜」。
決まってこの時期だ。
その名の示す通り、
当店のウリは天竜川の天然鮎である。
若鮎のピチピチ度たるや
浜崎あゆみなんてもんじゃない。

18時スタートだが
時間つぶしに森下から乗ったバスが
清澄を通過したのは17時。
メンバーのC葉ちゃんからのメールに
車内で気づいたのは着信後30分もしてから。

門前仲町の立ち飲み酒場「ますらお」で
J.C.が飲んでいると思い、
立ち寄ったら臨時休業。
「魚三酒場」に移動したとのこと。

門仲に到着して電話を入れると
彼はすでに清澄方面に北上したあとだ。
クソ暑い中を徘徊してタイム・キリング。
結局は薬局、「天竜」の暖簾をくぐったのは
まだ17時半を回ったところであった。

するとJ.C.の先を越して一番乗りはK原サン。
彼と会うのは実に久しぶり。
互いの近況を語り合っていたら
当店常連のフタちゃんが現れた。

続いて幹事のO田ちゃん。
そして何処でヒマをつぶしたのやら
ようやくC葉ちゃん登場。
現役ディーラーのS積サンが続き、
遅れて来るN藤サンを待たずに
開宴の運びとなった。
もっとも来た順から飲み始めてはいたがネ。

この時点でJ.C.はすでに
中瓶を3本クリアしていた。
今日も元気だビールが美味い。
相も変わらず能天気さは他の追随を許さない、

調った前菜がサーヴされた。
華やかな五点盛りである。
♪ 箸を持つ手が
  震えています 震えています ♪

=つづく=