2017年4月28日金曜日

第1611話 ラブホ三連荘 (その1)

その日は注文してあったシャツをピックアップに有楽町へ。
ここでブランク永井の「有楽町で逢いましょう」をやったら
ひんしゅくを買うからやめておく。
数ヶ月前に披露したばかりだからネ。

立ち寄った店は地番は有楽町なれど、
一般には日比谷と呼ばれるエリアにある。
よって知る人とて多くはないと推測される、
新川次朗にご登場願おう。

  ♪    雨の外苑 夜霧の日比谷
     今もこの目に やさしく浮かぶ
     君はどうして いるだろか
     あゝ 東京の灯よ いつまでも ♪
         (作詞:藤間哲郎)

数少ない石川県出身の歌手、
新川次朗の「東京の灯よいつまでも」は1964年、
東京五輪の年にリリースされた。
この歌には外苑、日比谷のほかに羽田のロビーが登場する。
やはりオリンピックを意識したのだろうか。

フン、結局はやりやがったな! ってか?
まあ、そうおっしゃらずに―。
歌は世につれ、世は歌につれ、
桃太郎さんはキジをつれ ってネ。
いや、桃さんはキジだけじゃなく、
イヌもサルも鬼ヶ島に連れてったよな。
しかし犬猿の仲同士がよくも素直に同行したものよのぉ。

遅い昼食を取ろうと日比谷界隈をブラブラ。
ガード下の「天米」の店先にたたずんだものの、
天丼はちと重いので思い直した。
はるか昔にお世話になった、
食堂「いわさき」のワカレも同様だ。
ワカレというのはいわゆるかつ煮定食。
かつ丼のアタマとごはんが分かれているのでこの名がついた。

時刻は14時半。
例によって遅い昼めしよりも早い晩酌に切り替えよう、
そう思いついたのだった。
土曜の昼下がりのこととて
銀座7丁目の「ライオン」はゴッタ返しているだろう。
中休みをとらない「三州屋」なら席にありつけようが
先日、蒲田の本店を訪れたばかりだし・・・。

結局は薬局、有楽町から山手線に乗り込んだ。
目指すは御徒町である。
何となればJ.C.のやすらぎの郷、
もとい、やすらぎの酒場がまもなく開店するからだ。

=つづく=

2017年4月27日木曜日

第1610話 ブリにクジラを食べさせた (その7)

エンコの香りと昭和の匂いに満ち満ちた「酒富士」。
偶然隣り合わせた、ア・ガール・フロム・オーストラリアと
ビールを酌み交わしている。
当方の相方も片言の英語で会話に参加してきた。
まっ、何とか意思の疎通はできている様子だ。

かつ丼を食べ終えたあとといえども
ビールだけでは若者に物足りなかろう。
「刺身食べる?」
「ハイッ!」
よいお返事が返ってきて
とりあえずマグロが無難だろうと板サンに訊ねると
今宵はメジマグロだという。
メジは本マグロの幼魚だから脂のノリはなくとも
赤身好きなら誰の口にも合うハズだ。

案の定、豪州娘は舌鼓の巻。
それでも一言、疑問を呈したネ。
「マグロなのに赤くないのネ」
素朴にして率直な質問だったが
「オーストラリアの牛肉だってそうだろうが
 仔牛の肉はピンクだけれど、親牛は真っ赤だよネ」
的確な説明により、すぐに納得したのだった。

彼女の名前はBri。
ブリスベン出身の23歳はただ今休暇中。
今晩浅草に一泊し、明日は里帰りの身だという。
ふ~む、Brisbane の Bri かいな、
浅草の浅太郎みたいなもんだな。
それにしても二十歳そこそこの外国娘に職を提供するとは
わがふるさとも包容力があるものよのぉ。

ところでブリスベンはオーストラリア第三の大都市。
大陸の南東部に位置する港町だ。
本来はブリズベンと発音するが
日本人になじみのあるブリスベーンといったところに
彼女のやさしさと気づかいを感じた。

いよいよ気をよくしたセミ・オールド・ジャパニーズは
もっと珍しいものをご馳走しようという気になった。
まずは海鼠(なまこ)の酢の物である。
ナマコは味というより食感を楽しむ食材ながら
けっして不味くはないようだ。

お次は鯨のベーコンを目の前に置いてやる。
反捕鯨国の出身ながら
初めて試す好奇心に後押しされつつ、
1枚2枚と食べ進むうち、涼しい顔してうなずいたのだった。

そうでしょう、そうでしょう、ベーコンエッグにゃ不向きなれど、
豚のベーコンとはまったく異なる旨みがあるでやんしょ?
Bri にクジラを食べさせて
とても楽しい浅草の夜となりました。

=おしまい=

「酒富士」
 東京都台東区浅草1-6-1
 03-3843-1122

2017年4月26日水曜日

第1609話 ブリにクジラを食べさせた (その6)

浅草1丁目の「酒富士」。
相方とビールを飲みながらつまみの吟味。
アサヒのテリトリーだから銘柄はスーパードライだ。
合いの手には旬を迎えたホタルイカを選ぶ。
良質な富山湾の産である。

スーパーなどで売られている普及品は兵庫産がメインだが
富山産は一味も二味も違う。
内臓がミッシリ詰まってプックリと太り、
食感豊かにして奥深い滋味を併せ持つ。
ホタルいカは富山に限るのだ。

相方はホルモンの煮込みを注文。
煮込みは好物ながら、あちこちで食べすぎた。
よって最近はほとんど頼むことがない。
食傷気味である。

頃合いを見計らい、隣人に声を掛けた。
これまでに彼女は一言も発していないが
何となく英語圏の人種であることが感じられ、
英語で話し掛けたのだった。

「かつ丼が好きなんだネ?」
一瞬、ビックリした眼差しをこちらに向けながら
「ええ、そうなんです」
微笑とともに言葉が返ってくる。

「酒富士」は昭和の酒場でありながら
昭和の食堂も兼ねている。
食事だけの女性客のグループが
けっこう利用する店でもあるのだ。

訊けば、彼女はオーストラリアン。
観光客ではなく日本で働いているそうだ。
「どこで?」
「長野の白馬で―」
「へェ~、白馬でしてるの?」
「ホテルのレセプショニストなの」
「ほぉ~ッ、長野、ボクは長野県出身なんだヨ」
「そうですか、長野は美しいところですネ」

意想外の展開に驚きながらも
フォリナーにふるさとを美しいとほめられれば
悪い気はしない。
悪い気はしないどころかウキウキしてしまう。

気分をよくしたお調子者が次に発した言葉は
「ビール飲む? オーバー20でしょ?」
うれしいことに豪州娘はニッコリ笑ってうなずいた。
(そうこなくっちゃ!)
「すみませ~ん! ビールもう1本ネ」
「はぁ~い!」
心なしか女将サンの返事も元気いっぱいである。

=つづく=

2017年4月25日火曜日

第1608話 ブリにクジラを食べさせた (その5)

浅草の昭和酒場「酒富士」の店先で
1枚の写真に見入っている。
当時の店主の初代と二代目に女性従業員の面々、
カウンターにはビールを飲む常連客。
いい写真である。
写真から昭和の匂いが立ち上ってくるかのようだ。

壁の品書き札に目を凝らすと、
かろうじて品目とその値段が読みとれる。
とんかつ・かきフライ・サラダが30円。
冷奴・めざし・きんぴら・生玉子が20円。
生玉子を2個とれば、
とんかつやかきフライより高くなっちゃうんだ。
この時代の酒場にサラダがあったんだ。
いや、驚くネ。

面白かったのはめし。
いわゆるライスであるが(大)30円、(小)20円とあった。
めし(小)、冷奴、生玉子の3点セットと
とんかつ&かきフライの2皿が同値だヨ。

想像もつかない世界が昭和33年の浅草にあったのだ。
いや、浅草に限らず、上野・池袋・新宿・渋谷も
似たり寄ったりだったハズ。
ただ銀座だけは、こうはいかなかっただろうヨ。

引き戸を引いて店内へ。
ここ数ヶ月で三度目の訪問である。
前々回は昼過ぎに天丼を食べた。
前回は夜、真鱈の白子ポン酢がすばらしかった。

店内は8割の入りである。
幸いなことにカウンターの一番奥が2席空いていた。
しめしめ・・・。
マギー司郎の言葉を借りれば、
横文字でラッキーということになる。

ふと見ると、奥から3席目にうら若き外国人女性が独り。
おそらくそのうち会話を交わすことになると予測し、
J.C.がその隣りに座った。
言い訳をするつもりはないが
女性だからというわけではなく、男性でも同じこと。
浅草で飲むと外国人に接するケースが多いのだ。

カウンターの隣人の顔はなかなか拝むことができない。
もろに覗いたら失礼だし、
相手に気づかれちゃうからネ。
それでも彼女がかつ丼を食べているのは判った。
ドンブリの脇には日本茶の湯飲みが置かれ、
晩酌ではなく、晩めしであることも判った。

=つづく=

2017年4月24日月曜日

第1607話 ブリにクジラを食べさせた (その4)

浅草(台東区)と本所(墨田区)をまたぐ吾妻橋。
橋の西詰にある交差点角の「神谷バー」から
雷門前を横切り、入館した「カラオケ館」。
そこそこの時間を過ごしたあとはむろん飲み直しだ。

カラ館前のストリート(雷門通り)を
そのまま西に進んでほどなく、
狙いを定めた酒亭「酒富士」の暖簾をくぐった。
気づいてみれば、神谷→カラ館→酒富士と
3軒はみな雷門通りの北側に並んでいる。
エンコ広しといえども、
狭い区域ですべてを済ませることとなった。
エンコをホームグラウンドとする身には珍しい。

J.C.が初めて浅草を訪れたのは1957年。
一家揃って長野市から上京した年だった。
戦災で焼失した雷門が再建される前のことだ。
とある夜、父親の友人のオジさんとともに
鰻屋の2階に上がったのを覚えているが
どうしても店名が思い出せない。

おそらく鰻専門ではなく、
総合和食を供する店で鰻丼を食べたのだろうが
思い出せぬのも無理はない、小学校に上がる前だもの。
たぶん、その店は現存していないだろう。

往時、雷門通りの突き当りには仁丹塔がそびえていた。
たいした高さじゃないけれど、
子どもにはずいぶん立派に見えた。
老朽化して倒壊の危機にさらされ、
取り壊されてから20年にもなろうか―。

「酒富士」は昭和の匂いを残す稀少な酒場だ。
どちらかといえば、未来を夢見るよりも
過去を振り返るほうが性に合ってるJ.C.、
こういう店には心が揺れて騒いで、ホントにヨワい。
エッ、何だって?
そりゃアンタが歳をとったってことだヨ! ってか?
だよねェ、きっとそうに違いない、ご指摘アリガトさんキュー。

「酒富士」の店先に1枚の写真が貼られている。
来るたびに見入ってしまう。
その写真をガラス越しに撮ったので写りが悪いが
思い入れに後押しされながら、あえて披露してみたい。
笑顔、笑顔が微笑ましい
撮影されたのは1958年。
J.C.が小学校に入学し、
長嶋茂雄がジャイアンツに入団した年である。
暗い影つきまとった”戦後”に終止符が打たれたのは
この年だったと確信する自分がいる。

=つづく=

2017年4月21日金曜日

第1606話 ブリにクジラを食べさせた (その3)

浅草1丁目1番地1号はコンパクトなビルディング。
その2階に上がった。
いったい何処なんだ! ってか?
ハイ、浅草におけるJ.C.のやすらぎの郷、
もとい、やすらぎのビアホール「神谷バー」にござんす。
正しくは食券制の1階が「神谷バー」で
2階は「レストラン・カミヤ」になる。

J.C.が1階と2階を利用する比率は
1:9、いや、0.5 :9.5 くらいかな。
とにかく1階は煙草のケムリと
会話のボリュームが半端じゃないからネ。
でも、遠来の初訪問者には
一度だけでいいから1階を除いて、もとい、覗いてほしい。
エンコのエッセンスが詰まってるのだ。

人混みを避けるために迂回したせいで
約束時間に少々遅刻の巻。
当日の相方は、飲む・食う・歌うと三拍子揃ったO戸サン。
すでに着席して特製唐揚げを肴に生ビールを飲んでいた。
混んでるわりには角っこの4人掛けを確保、余裕であった。

こちらも負けじと大ジョッキをお願いする。
(大)はかなりの容量を誇っている。
1リットル弱といったところだろうか。
まことに飲みでがあるのだ。

いつも注文するつまみは串かつとポテトサラダ。
今回はポテサラだけにした。
トマトが添えられているのがいいし、
自家製マヨネーズもまろやかな味、好きだ。
それにしても昼下がりのドラフト・ビアの美味さよ。
タハッ、たまりませんな。

生は1杯のみにして電氣ブランに切り替えた。
それもデンキブラン・オールドのほうだ。
言わば(並)に対して(上)である。
喫煙室を完備した2階の空気は澄み切っていた。
ほどよいざわめきも快適な空間に一役買っている。

2軒目に移動する前に相方の提案で
カラオケボックスに立ち寄ることにした。
「神谷バー」、雷門と同じ並びにの「カラオケ館雷門店」だ。
受付で順番を待っていると、中高年のグループが目立つ。
ほかの街より利用客の平均年齢が高そうだ。

「カラオケ館」のビールはプレミアム・モルツのみ。
嗜好に合わないため、赤玉スイートワインのロックを頼む。
そうしてマイクを握ったわけだが
相方は、テレサ・テン、伊東ゆかり、由紀さおり。
当方は、裕次郎、フランク永井、舟木一夫。
テヘッ、互いに古いよなァ。

=つづく=

「レストラン・カミヤ」
 台東区浅草1-1-1 2F
 03-3841-5400

2017年4月20日木曜日

第1605話 ブリにクジラを食べさせた (その2)

高倉健自らが歌う「唐獅子牡丹」の歌詞を
ご覧に入れたわけだが
レコード版とBGM版の微妙な違いを
ご理解いただけただろうか?

やくざ渡世の歌に文学もへったくれもあるもんか!
ってか?
まあ、そう言われればそうかもしれないんでやすが
このシリーズの根っこにあるのが
”滅びの美学”である以上、
文学的香りを帯びるのは宿命とも言えましょう。

それにしても阿倍のとっつぁんは
国民的俳優に国民栄誉賞を贈らなかったねェ。
国民的作曲家の船村徹の場合もそうだった。
日本を代表する国民的タカ派は
映画も観なけりゃ音楽も聴かねェってか。

もっともあの賞はそんときそんときの首相の胸三寸。
おのれの人気取りに利用するのが常だったから
意外と真っ当な神経を備えているのかもネ。
だけどなァ・・・。

とにかくアメリカオオカミに対するシッポ振りだけは
何とか奏功しているように見えるが
他の外交(とりわけ対ロシア)ではことごとく失敗し、
国会で発したたった一言の勇み足のせいで
自身をがんじがらめにしてしまい、
真実を隠し通すことに躍起となるしか術(すべ)を持たない。
この国のリーダーとしてはまことに情けない。
哀れむべし。

それはそれとしてとある週末、エンコの街にやって来た。

浅草→恩賜公園→公園→エンコウ→エンコ

これが浅草の別名の由来だ。
隣り街の上野をノガミというが如し。
もっとも上野にも恩賜公園があるんだけれど―。
まっ、エンコを紹介するために
「唐獅子牡丹」の歌詞を長々と綴ったわけにござんす。

週末のことだから人出はすさまじいものがあった。
老若男女が入り乱れている。
人種だって和・漢・洋、
その肌の色も白・黒・黄色と咲き乱れ、
どの花見てもキレイだな・・・んなワケないか。

芋っ子を洗うような雷門前を避け、
浅草寺の背後から馬道を南に下り、
台東区浅草1丁目1番地1号に到着したのであった。

=つづく=

2017年4月19日水曜日

第1604話 ブリにクジラを食べさせた (その1)

  ♪   エンコ生れの 浅草育ち
     極道風情と いわれていても
     ドスが怖くて 渡世はできぬ
     賭場が命の 男伊達
     背中(せな)で呼んでる 唐獅子牡丹

     親にもらった 大事な肌を
     墨で汚して 白刃の下で
     積もり重ねた 不孝の数を
     なんと詫びよか オフクロに
     背中で泣いてる 唐獅子牡丹

     白を黒だと 言わせることも
     どうせ畳じゃ 死ねないことも
     百も承知で やくざな稼業
     なんで今更 悔いがあろ
     ろくでなしよと 夜風が笑う

     流れ流れの 旅寝の空で
     義理に絡んだ 白刃の喧嘩(でいり)
     ばかなやつだと 嘲(わら)ってみても
     胸に刻んだ 面影を
     忘れられよか 唐獅子牡丹   ♪

        (作詞:水城一狼・佐伯清)

国民的俳優・高倉健の代表作、
唐獅子牡丹シリーズの挿入歌である。
レコードになった「唐獅子牡丹」の歌詞とは異なって
こちらはレコーディングされていない。

あくまでもBGMといった扱いなのだ。
歌詞そのものがレコード版よりずっとヤクザっぽく、
これぞ極道という感じがよく表現されていると思う。
ドスだの、墨だの、白刃だの、ろくでなしだの、
やくざ稼業のきびしさがリアルににじみ出ている。

エッ、レコードのほうも出さなきゃ、
比べようがねェじゃねェか! ってか?
ヘッ、ごもっともで。

  ♪   義理と人情を 秤にかけりゃ
     義理が重たい 男の世界
     幼なじみの 観音様にゃ
     俺の心は お見通し
     背中で 吠えてる
     唐獅子牡丹


     親の意見を 承知ですねて
     曲がりくねった 六区の風よ
     つもり重ねた 不孝のかずを
     なんと詫びよか おふくろに
     背中で泣いてる 唐獅子牡丹


     おぼろ月でも 隅田の水に
     昔ながらの 濁らぬ光
     やがて夜明けの 来るそれまでは
     意地でささえる 夢一つ
     背中で呼んでる 唐獅子牡丹  ♪


     (作詞・水城一狼・矢野亮)

こちらのほうがより文学的だ。
殊に3番なんか実にそうである。

=つづく=

2017年4月18日火曜日

第1603話 メロにメロメロ (その3)

そんなワケでなかなかに美味な銀ムツことメロである。
であるが、いかんせん量が多すぎる。
テンコ盛りのメロカマ煮付けを目の当たりにして
みな唖然とするばかりなり。
ただし、約一名を除いてネ。

その一名が最年少のAみであった。
ハタで見てると、もはや摂食というより格闘ですな、アレは。
そうか、食事は格闘技だったのか!
古来より弱肉強食というもんな。

とにかくAみは旨い、美味いを連発して
われを忘れてしまったかのよう。
まさしくメロにメロメロの様子であった。
いや、その若さがうらやましい。

かたや最年長のJ.C.とT子姐さんはといえば、
およそ100gほどいただいたところで
匙を、もとい、箸を投げてのギブアップ。
メロにボロボロにされていた
いや、歳はとりたくないもんだ、ジッサイ。

食べる量は年相応に減ってきたけれど、
飲む量は若い頃と変わることがない。
これってベツに肝臓が胃袋より
丈夫というわけじゃないのだろう。

とまれ、キリンラガーから黒松白鹿山田錦に移行。
300ml入りの瓶に入った冷酒である。
飲み口が軽いからスイスイとノドをすべり落ちてゆく。
けっこうなピッチで盃を重ねた。

メロの大皿が下げられたあとに運ばれたのは
刺身盛合せのこれまた大皿だ。
マグロの赤身と中とろ、白身の何か、サーモン、
それにタコとイカもあったかな?
記憶がおぼろげでよく覚えていない。

二種のマグロを小皿にとり、
白鹿と生醤油を同割りにして即席ヅケを作成する。
しばらくしてその皿を見ると、すでにもぬけのカラ。
隣りの最年少がちゃっかり完食に及んでいた。
やれやれ。

仕方なく大皿に残ったサーモンを一切れつまむ。
普段口にすることとてないサーモン刺身の味気ないこと。
あとは牛ロース焼肉を一枚、焼き餃子を一片、
それにラーメンを一すすりしただけである。

おのおのしたたかに酩酊してお開き。
東西線に乗り込む一同と握手を交わし、
こちらは独り、大江戸線へ。
車内は空いていてシートに着尻するや目を閉じる。

再び目を開けたとき、
電車は牛込神楽坂駅に停車していた。
大幅な乗り越しに酔いも醒めかける。
いや、マイッたぜ。

=おしまい=

「宝家」
 東京都江東区門前仲町1-12-5
 03-3643-4538

2017年4月17日月曜日

第1602話 メロにメロメロ (その2)

門前仲町の「宝家」の2品目。
銀ムツのあまりの量に”七人の侍”が圧倒されている。
「責任者、出て来い!」―
こう叫んだのは、もちろん心の内でのこと。
品行方正なJ.C.がそんな狼藉を働くワケないじゃん。

責任者はハナからカウンターの中で腕を振るっていた。
亭主が調理、女将さんが接客と、
夫婦で切り盛りする飲食店の典型的パターンである。
見たところ夫婦仲はよさそう。
客の目もはばからず、
大げんかを始めるケースをまれに見掛けるが
ああいうのこそ、犬も食わないと言うのだろう。

そんなことより卓上の銀ムツの山である。
女将は
「メロのカマの煮付けで~す」―
そう言いながら大皿を運んで来たような記憶がある。

銀ムツ一般的にメロと呼ばれる。
正式名称はマジェランアイナメという。
マジェランとは16世紀に活躍したポルトガルの航海探検家、
フェルディナンド・マゼランのことだ。

太平洋と大西洋を結ぶマゼラン海峡を
誰しも一度は耳にしたことがあろう。
南米大陸最南端とフエゴ島の間の海峡だ。
フエゴ島は東半分をアルゼンチン、
西半分をチリが統治している。

メロというサカナは上記2ヵ国で主に漁獲される。
マゼラン海峡周辺にもウヨウヨいようし、
遠くは南極海(南氷洋)にも広く分布する深海魚だ。
以前はデパ地下などでフランス産をよく見かけたが
北半球にはいない魚種だから
フランス船が出張って行って漁獲したものと思われる。

見た目はムツや黒ムツに似ていないことはないメロながら
ムツとはまったく別種のため、
現在では銀ムツの呼称が不適切とされている。
よってメロの魚名が定着したわけで
マジェランナイナメなどとは専門家以外の誰も呼ばない。

では、メロとはいったい何ぞや?
ハタ、クエ、アラなどハタ類の総称のスペイン語がメロだ。
南極の深海に棲むわりに食味が優れているのも
ハタに近いと聞けば、何となく得心できよう。
事実、ほどよい脂のせいか若者を中心に人気がある。
J.C.も脂ノリノリの銀ダラよりこちらを好む。

=つづく=

2017年4月14日金曜日

第1601話 メロにメロメロ (その1)

その日は二ヶ月に一ぺんの理髪日につき、渋谷へ。
東京メトロ千代田線・代々木公園駅から
近頃評判の奥シブを通ってヘアサロン「B・H」に到着。
店名をイニシャルでボカしているのは
あまりに豪華絢爛に過ぎて
紹介するほうが赤面を余儀なくされるからだ。

20年近く髪をまかせっきりにしている、
K子チャンはただ今ご懐妊中。
予定日は5月の半ばとのことである。
もうじき店に出られなくなるが電話を入れれば、
出勤に及んでくれる由、ありがたいことである。

いつも通りに髪を理してもらい、
渋谷始発のメトロ・銀座線の乗客となった。
向かったのは下町・深川のメインタウン、
江東区・門前仲町だ。
この町へは大田区・平和島から移り棲んだ。
短期間ではあったけどネ。

当夜はのみ&たべとものA子女史が主催する、
小宴が開かれる予定だった。
初めて訪れる中華料理店は「宝家」。
町の中華屋ながら和食系も手がける店である。
一品一品のボリュームが半端じゃないと聞き及んでいた。
ただし質より量というタイプではないらしい。
それなりの期待を胸に出張った次第だ。

門仲交差点に近い裏路地に店はあった。
一人先着していたのは
先日、谷中は初音小路の焼き鳥屋で酌交したB千チャン。
キリンラガーで乾杯するうちに
三々五々メンバーが集結してきた。

最初に卓を飾ったのはやや小ぶりなフグの丸揚げ。
はて、マフグだろうか、それともショウサイフグか、
高価なトラフグでないことは確かだ。
とにかく小型とはいえ、一人一尾づつのあてがいである。
おい、おい、こんなの完食したらその先が入らんぜ。
いきなり雲行きが怪しくなった。

隣りに座ったのはメンバー最年少のAみ嬢。
これが若さをカサにきてバカスカ食うんだ。
こちらが半分もいかないうちに背骨を残してペロリの巻。
いやはや、若さとバカさがコラボすると
つける薬がありまっしぇん。

続いて銀ムツのカマの煮付けが大皿で―。
コレには一同、目を瞠りやしたネ。
総勢7人だからみんなでとっかかりゃ、
クリア可能と思われたものの、思いは即座に打ち砕かれる。
どう見ても10人から15人前はゆうにありそう。
いったいどうなってんだヨ、この店は!
責任者、出て来いっ!

=つづく=

2017年4月13日木曜日

第1600話 蒲田の本店 はしご酒 (その4)

8年ぶりの「鳥万本店」。
これぞ蒲田の大衆酒場である。
こちらはこちらで好みのタイプの酒処だが
目の前の小肌にいささかとまどいを覚えている。
小肌というサカナは出世魚で

 シンコ→コハダ→ナカズミ→コノシロ

成長とともにその名を変えてゆく。
江戸前鮨の愛好者なら
秋口のシンコの美味さは熟知しておられよう。
もっともポピュラーなコハダは江戸前鮨の花形役者だ。
ヒカリモノの王者と言い切ってよかろう。
それがナカズミとなると、ちょいとシツッコくなり、
トドの詰まりのコノシロは真っ当な鮨屋からその姿を消す。
それが小肌の生きる道なのである。

いや、マイッたな。
これじゃ小肌じゃなくて巨肌だぜ。
相方ともども気を落としながらも箸でつまんで口元に運ぶ。
すると意外にも味は悪くないのだ。
風味をジャマする臭みもなければ、皮目が硬いこともない。
不幸中の幸いに見舞われた感じで
いずれにしてもよかった。

壁の品書きにアメリカンドックを見つけた。
正しくはドッグだが表記はドックであった。
いやあ、こんなん酒場・居酒屋で見たことないゾ。
それにしてもアメリカンドッグなんて
もう何十年も食ってない。
おそらく最後の賞味は学生時代じゃなかったかな?

10年棲んだニューヨークで見掛けたことは皆無だし、
すべて回った西欧諸国でもついぞ出くわさなかった。
これは日本独自の食いものなんじゃなかろうか。
そう思い調べてみたらアメリカ発祥で
原料は少々異なるものの、コーンドッグと言うんだそうだ。
好奇心も手伝い、380円のソレを注文に及んだ。

カメラ不携帯につき、お目に掛けられないのが残念至極。
小ちゃいのが4本付けで登場した。
お運びのオバちゃんのセリフがまたいいやネ。
「ハイ、スモールUSAでっス」―だとサ。
思わず吹き出したわれわれである。
オマケに形状がイチヂク浣腸そっくりなんだもの。

ともかくスモールUSAのおかげで
楽しい一夜となった蒲田ナイトでありました。
詳細は綴らぬが、
このあとのスナックが大ハズレだったけどネ。

=おしまい=

「鳥万本店」
 東京都大田区西蒲田7-3-1
 03-3735-8915

2017年4月12日水曜日

第1599話 蒲田の本店 はしご酒 (その3)

JR蒲田駅東口、ロータリーに面した「三州屋本店」にいる。
残念ながらカウンターがいっぱいで
テーブル席に差し向かいだ。
三州屋カラーとでも言おうか、
この店特有の心安らぐ空間のもと、
つかの間のシアワセをかみしめていた。

かきフライを却下された相方が代わりに海老フライを注文。
いいでしょう、いいでしょう、海老チャンならいいでしょう。
こちらはチョコチョコッとつまんだだけで生から瓶に切り替える。
キリンのクラシックラガーである。
生も瓶も銘柄はキリンなのだ。
先日、紹介した東神奈川の「根岸家」もキリン一辺倒だった。
大田区もまた、キリンの勢力圏かもしれない。

何かもう一品をと卓上の品書きを手にとると、
どぜう三兄弟が目をひいた。

=どじょう料理=
 どじょう丸煮(600円) 
 丸煮柳川(700円)
 柳川鍋(800円)

ふ~ん、どぜうかァ・・・
いや、ちょいと待てヨ。
これからまだまだはしご酒を楽しむ予定、
どうにか思いとどまって早々に切り上げることにする。

蒲田駅のエスカレーターを上って下って駅の反対側、
西口に移動したのだった。
「三州屋本店」のあとは「鳥万本店」、
本店のはしご酒である。
「鳥万」は実に8年ぶりの再訪だ。

見覚えのある店内は先刻と打って変わって
This is KAMATA!といった風情。
老若男女でゴッタ返している。
どうにかキツキツの卓に相席ですべり込み、
肩を寄せ合った。

ありがたいことにここにはアサヒのスーパードライがあった。
小袋入りの柿の種&ピーナッツとともに運ばれきて
再びの乾杯である。
スッキリしたノド越しに頬がゆるむ。
それにしても立て混んでるな。

つまみは甘海老刺しと小肌酢。
甘海老はまずまずながら
小肌には疑問符が打たれた。
小肌特有のかすり模様がずいぶんと粗いのだ。

=つづく=

「三州屋本店」
 東京都大田区蒲田5-11-10
 03-3731-5647

2017年4月11日火曜日

第1598話 蒲田の本店 はしご酒 (その2)

幼少のみぎり、平和に暮らしていた東京都・大田区。
物ごころついてから丸五年間棲んだ。
ここしばらく訪れていなかったせいか
ふと行ってみようという気になったのだ。

大田区となれば、
第一感はやはりかつての地元、大森である。
続いて蒲田となろうかー。
全国にその名を知られた田園調布にも
以前はたびたび出没したが
あそこは飲むより食べるほうに向いた土地柄と言える。
となると、さすらいのドリンカーには不向きなのだ。

当日の相方とはJR京浜東北線・蒲田駅の改札で落ち合った。
おおよそ京浜第一国道に沿って走る、
京急線の蒲田駅とはかなり離れている。
二つの駅周辺はそれぞれに繁華しているが
どちらかと言えばJRのほうがより賑やかだ。

即刻向かったのは東口の「三州屋本店」。
都内に「三州屋」を名乗る大衆割烹は数あれど、
その源泉はここ蒲田店であるらしい。
ただ、存在はこの目で認知したものの、
入店するのは今回が初めてなのだ。

すべての「三州屋」に言えるのは店先の佇まいと
店内の雰囲気に共通点があること。
さすがに創業半世紀を誇る本家本元、
大衆的な中にも古く良かりし風格が感じられる。
この空間に身を置けること、
そして酒を酌めること、
シアワセ以外の何物でもありまっしぇん。

キリン一番搾りの中ジョッキで酌交開始。
最初のつまみはシマアジの刺身だ。
言わずと知れたアジ類の最高峰である。
マアジのたたきやブリの刺身を好まぬJ.C.ながら
シマアジだけは別格中の別格。
市中にそれほど出回らぬゆえ、見つけたら注文に及んでいる。

案の定、コリッとした歯ざわりに繊細な滋味。
十中八九、養殖モノだろうが
じゅうぶんに舌を堪能させてくれる。
あゝ、これで生のわさびがあればなァ・・・
ないものねだりをしても始まるまい。

相方がかきフライに目をつけた。
本来なら大好きな一品だけれど、この日は違った。
右の掌(たなごころ)を見せて
待った!をかけたのだ。
何となれば前日のディナーで
酢がきとかきフライをたらふく食べていたからネ。

=つづく=

2017年4月10日月曜日

第1597話 蒲田の本店 はしご酒 (その1)

  ♪   人の情けが ひとしずく
     しみて苦労を 忘れ酒
     昔恋しい下町の 夢が花咲く錦糸町
     よってらっしゃい よってらっしゃい お兄さん

     飲めば飲むほど うれしくて
     しらずしらずに はしご酒
     恋は小岩と へたなしゃれ
     酒の肴に ほすグラス
     よってらっしゃい よってらっしゃい お兄さん ♪

              (作詞:はぞのなな)

宇多田ヒカルのお母さん、前川清の元妻、
藤圭子の「はしご酒」が
東京の下町に流れたのは1975年の年の瀬。
あのハスキーボイスにまじって
「シクラメンのかほり」(布施明)、「私鉄沿線」(野口五郎)、
「時の過ぎゆくままに」(沢田研二)、「おんなの夢」(八代亜紀)、
「昭和枯れすゝき」(さくらと一郎)、「ロマンス」(岩崎宏美)、
加えて先月亡くなったムッシュかまやつの「我が良き友よ」。
そんなヒット曲が入り乱れていた。

「はしご酒」は以前にも紹介したけれど、
好きなものは何度でもおつき合い願っちゃう。
歌詞は1番と3番。
はぞのななによる味わい深い詞をお楽しみくだされ。

この曲は後年、五月みどりの妹の小松みどりによって
カバーされ、こちらは舞台を松戸・柏・取手、
はたまた川口・浦和・春日部など
千葉・茨城・埼玉と広範囲に移している。

サブタイトルにあるごとく、
今回、はしご酒に酔いしれたのは大田区・蒲田だ。
ちなみに大田区の区名は
大森と蒲田の一文字どりによる。
小学校五年生の春まで大森の圏内、
平和島で過ごしたのでこのエリアには懐かしさがつきまとう。

当時、京急・平和島の駅名は学校裏だったが
昭和36年に改称された由。
旧名のほうに愛着を覚えるけれど、
いかんせん学校裏じゃ、バス停みたいだから致し方なし。

その学校裏に棲んでいた頃、
往時から大田区きっての繁華街だった蒲田をたびたび訪れた。
まだ庶民の娯楽がTVではなく映画の時代だから
家族揃って京急電車に乗って来ていた。

=つづく=     

2017年4月7日金曜日

第1596話 肝の背肝の姿なく (その2)

最寄りはJR日暮里駅北口となる初音小路。
怪しい店も何軒か・・・
路地の突き当りに近い「鳥真」のカウンターに横並び。
相方は旧友・B千チャンである。

再会を祝してさっそくの乾杯は
当方がキリンラガーの中ジョッキ。
健康上の理由でビールがイケない相方は芋焼酎だ。
銘柄は佐藤の白だったか黒だったか忘れた。

カウンターに貼られた品書きを見つつ、串の注文に入る。
当然のことながらマイ・モースト・フェイヴァリットの背肝だ。
B千チャンもこれを最大の楽しみとして遠征して来た由。
頬をゆるめながら店主にその旨を告げる。
ところが、ところがでっせ、
返ってきた言葉に耳を疑いやしたネ。

「背肝がないんですヨ」―すまなそうにひと言。
当夜の肝となるべき背肝がいないとは!
耳を疑ったあとは言葉を失った。
ここんとこずっと入荷がないという。
何でも丸鶏を捌く職人が人手不足で
背肝を取り外せないらしいのだ。

そう言やあ、ときどき食べるローストチキン。
あばら骨の内側の内臓はそっくり抜かれているが
背肝(脾臓)だけは残留していることが多い。
そしてこれこそがJ.C.の大きな楽しみともなっている。

ふ~ん、そういうこってすか。
いや、マイッたな。
相方の落胆もけして小さくはない。
こりゃ近いうちに背肝をたずね、
神楽坂の「駒安」か「酉玉」にでもおツレしなければ―。

気を取り直してオーダーの第一陣。
ハラミ、ハツ、肝の三種をお願いした。
ハラミだけが塩であとはタレだ。
ハツは塩で出す店が多いなか、タレは極めて珍しい。
まっ、これはこれで美味しくいただいた。

第二陣はブツ(もも&胸ミックス)、首ぼん(ぼんじり)、
手羽元せせりである。
もうちょっと稀少部位がほしいところなれど、
店主もあの手この手で苦労しているのが判る。

一串がかなり大きいから小食のJ.C.は以上6本で
腹八分目に到達してしまっている。
中ジョッキを2杯空け、富乃宝山のロックに切り替えた。
続いてトマトの串を1本頼み、あとは飲み続けるのみだ。

しっかしねェ、肝の背肝が無いとはなァ・・・
ハハハ、まだ言ってるヨ。

「鳥真」
 東京都台東区谷中7-18-13
 03-3822-1810

2017年4月6日木曜日

第1595話 肝の背肝の姿なく (その1)

あれは二月の末の頃、
「平和の証しの焼き鳥論争」と題して
二話ほど綴ったことがあった。
その末尾の部分を再び紹介させていただこう。

それにもう一つ、串ぬき容認の理由がある。
焼き鳥はおおむね塩かタレかの二者択一。
塩ならよくともタレのケースは
串からはずさぬとタレをからめにくい。
はたしてそこまで考慮に及ぶ焼き鳥店が
都内に何軒あるだろうか?

なんだかんだと書き綴っていたら
旨い焼き鳥が食べたくなった。
よって今週末、
ノスタルジックな小路にある店の予約を済ませた。

数ある焼き鳥の部位のうち、もっとも好きなのは背肝。
この店の背肝が旨いんだよなァ。
訪問後、ご報告に及びましょうゾ。

そう、その報告であります。
当夜の相方はB千チャン。
かれこれ30年を超えるつき合いになる。
初めて酌交に及んだのは四谷荒木町の「三櫂屋」。
煮立った鍋に豚バラの薄切りを
しゃばしゃばと泳がせながら旨い酒を酌んだ。
この店は今もおなじ場所にある。

そう、そう、このご仁、
J.C.のニューヨーク赴任時にはるばる訪ねて来てくれた。
いや、その際の彼のいで立ちにゃビックリこきやしたネ。
上下の服装はまともだったが
頭に毛皮の帽子をかぶっていたのだ。

訊けば毛皮はビーバーのモノだという。
それもブットい尻尾の付いたヤツ。
時は1836年、アラモの砦で奮戦したデヴィー・クロケットの如し。
映画のオールドファンなら
ジョン・ウェインの雄姿を覚えておられよう。
もっともクロケット帽はアライグマ製。
よって尻尾は縞々模様で虎のパンツと一緒だネ。

やって来たのは先話でもちょこっとふれた、
谷中霊園そばの昼とて暗い初音小路。
その一番奥に位置する「鳥真(とりまさ)」なる焼き鳥店だ。
老夫婦が営む中華そば屋「一力」の隣りに小路の入口がある。
こんな位置関係になる
こうなると昭和30年代どころか
もはや戦前の東京の裏町ですな。

=つづく=

2017年4月5日水曜日

第1594話 慶喜公の墓のそば (その5)

谷中霊園正門前のそば屋で
そばというよりとんかつを食べた、その帰りであった。
三崎坂(さんさきざか)の和菓子店で
団子と桜もちと赤飯を買い込んでしまった。

まれに団子や桜もちは買ったことがある。
しかし赤飯は記憶にないから気まぐれとしか言い様がない。
猫にサカリがつくように
わが身にも何か取りついたのだろうか。
いずれにしても春の珍事だ。

坂を下り切る一つ手前を右折してよみせ通り。
しばらく歩くと左手に何度か利用した鮮魚店が見えた。
店先に立ち止まって考える。
和菓子と赤飯だけの夕食はちとものたりない。
第一、炭水化物ばかりじゃないか。

ガラスのケースには一人前づつ盛り分けられた刺身が数種類。
まぐろの赤身に中とろ、白身は真鯛、真だこともんごいか、
そして帆立貝の貝柱である。
ここは何か一品買い付けておこう。

さて、どの刺身を購入したのでしょうか?
当然、赤飯には鯛でありましょう。
古来より尾頭付きの鯛に赤飯はめでたい席の象徴だ。
鯛の塩焼きはあまり好まぬし、そんなものは売られてもいない。
刺身でじゅうぶんだろう。

真鯛の旬は年明けの一、二月。
桜がほころび始めるこの時期には桜鯛と呼ばれ、
色美しけれど、産卵期に入るために味は少々オチてくる。
とは言いいながら腐っても鯛。
昔の人は実に上手い表現をしたもんだ。
目移りもせず、心迷うこともなく、真鯛の刺身を買った。

量がたっぷりあって、これで二晩は酒の肴になってくれよう。
今晩は刺身で明晩はヅケにして楽しむ。
思い出されるのは故・池波正太郎翁。
翁の好きな食事に真鯛の刺身と温(ぬく)めしがある。
確かに酒のつまみなら平目がよいが飯のおかずには真鯛だろう。

袋を二つブラさげたら急ぐべきは家路。
でも、もう一軒、近所のスーパーに立ち寄った。
自宅にある日本酒は月桂冠の普及品。
鯛と赤飯が揃ったのだ、めでたついでに樽酒といこう。
よって菊正宗の樽酒、1合入りを二つ購入。
本当は櫻正宗といきたいけれど、そう易々と手に入らない。

そうしてこうして大満悦の春の宵、よくぞ日本に生まれけりである。
あっ、そうそう、三崎坂の和菓子屋と
よみせ通りの鮮魚店はあえて店名を伏せておく。
当ブログくらいじゃ大した影響もなかろうが
普段利用している常連サンに迷惑をかけたくないしネ。
それでも興味おありの方はご自分でお探しください。
ともに自信を持って推奨いたしやす。

=おしまい=

「慶喜」
 東京都台東区谷中6-3-8
 03-3827-5717

2017年4月4日火曜日

第1593話 慶喜公の墓のそば (その4)

徳川慶喜公の墓のそばにあるそば屋、
「慶喜(けいき)」で土曜日限定のとんかつ定食をお願い。
もちろんビールも同時に注文した。
中瓶だからものたりないけれど、1本だけにしておこう。

ビールに揚げ塩ピーナッツの小袋が添えられた。
皮付きのまま揚げたところに塩がまぶしてある。
場継ぎと時間稼ぎの一石二鳥は
国際線の機内で飲み物を頼んだときに似ている。
これ幸いにポリポリやりながら
とんかつの揚がるのを待つ。

ピーナッツのあとに小皿に盛られたお新香が到着。
きゅうりと大根の浅漬けである。
彩りを考慮してか、赤いにんじんも一片。
ヌカミソ臭くない浅漬けは好きだからうれしい。

続いてミニ冷やかけが来た。
そばは(冷)・(温)選べ、冷たいほうを選んだのだ。
お椀のそばに冷やつゆがぶっかけられている。
つゆが多くてかなりしょっぱいが、そばそのものは悪くない。

そしてメインのとんかつがキャベツの千切りを従えて登場。
かつはちょいと薄目ながら平たくのばされており、
実際の重量より見た目は大きい。
半分をビールのアテ、残り半分をメシの友とする。
それなりに良き週末のランチといった感じかな。

帰り道。
「慶喜」のはす向かいに小さな和菓子屋を見とめた。
店先に一組の母娘がたたずんでいる。
ツラれるようにこちらも立ち止まり、ショーケースをのぞいた。
みたらしと餡子の団子のほか、
桜もち・草もち・うぐいすもち、あとは栗かんてんなど。
ほかに赤飯や山菜おこわなど、ごはんものが並んでいる。

季節が季節だけに桜もちを買い求める気になった。
先客の母が店員と言葉を交わしている。
何でも文京区・茗荷谷から
台東区・谷中までわざわざやって来たという。
知る人ぞ知る佳店のようだ。

結局、J.C.が購入したのは
みたらし団子1本、桜もち1個、そして赤飯1パックである。
自分の行動に自分で驚いたが
赤飯を買うのはおそらく人生初めてかもしれない。

この日の夕食は自宅でとるつもり。
みたらしでビール、桜もちで清酒を楽しみ、
赤飯を締めとする算段だが
何でこんな買い物をしたのか自分でもよく判らない。
普段のリズムを狂わせる、それが春というものか!

=つづく=

2017年4月3日月曜日

第1592話 慶喜公の墓のそば (その3)

谷中霊園から小さな跨線橋を渡り、東日暮里の町。
線路沿いは行けないので根岸方面へ迂回を図る。
正岡子規が愛でた「羽二重団子本店」は工事中だった。
ドエラく急な石段を上って南側の小橋を霊園側に渡り返した。

再び墓石の中を歩む。
園内地図には徳川慶喜の墓の位置が明記されている。
谷中霊園には近くの寛永寺の墓地も含まれていて
徳川家の墓はそこにある。

徳川家とは何の所縁もないこの身、
ヨソのウチの墓参りをするほど
酔狂じゃないので園外に抜け出た。
二つの橋をちゃんと渡って本日の目的ははたしたてきたしぃ。

界隈の地番は上野桜木。
二ヶ月ほど前にもこの辺りを散策した。
東京芸大を経て御徒町、そこから広小路、不忍池、
根津、千駄木と徘徊したのだった。

そろそろ遅い昼めしにしよう。
やって来たのは三崎坂上で
目の前に霊園の正門がその門を開いている。
坂を下り掛けたところにかつて訪れた2軒の店がある。
町の中華屋と日本そば屋だ。

中華屋は昔ながらのタンメンが美味しい。
そば屋にはランチの定食に酒のつまみまで揃っている。
さて、どっちにしましょうか?
迷うこと数分、此度はそば屋にした。

屋号は・・・ここでビックリしなさんな。
何とその名を「慶喜」というのだ。
ただし、「よしのぶ」ではなく、「けいき」と音読みする。

前回の訪問時、店のオジさんに訊ねたら
「いくら何でも”よしのぶ”じゃ、アンマリだからネ」―
照れくさそうにもらしたものだ。
そこまで言うならオリジナルの名前をつければいいものを。
思ったけれど、黙ってうなづいていた。

前回もやはり昼下がりに友人と訪れ、
板わさ、玉子焼き、メンチカツで昼飲みに徹した。
今日は単身につき、ビールは1本にとどめるつもり、
帰宅後、こなさなければならない案件もあった。

卓上の品書きに

=土曜日限定 とんかつ定食 800円=

というのを見つけた。
ふ~む、とんかつか、しばらく食べてないなァ。
おまけに小さなそばも付いてる由。
ことここに及び、食指が動き始めたのでありました。

=つづく=