2023年1月31日火曜日

第3200話 フラレたうなぎに惚れ直す

昨年末、うなぎ肝焼きが食べたくなり、
出掛けて行った墨田区・石原。
13時15分に到着すると、早くも売切れの憂き目。
近くのお好み焼きに救われたのだった。

ひと月後に再訪した「川勇」。
売切れはごめんにつき、あらかじめ電話を入れ、
13時を過ぎても大丈夫の確約を得た。
本所吾妻橋から三ツ目通りを一直線に南下して到着。

けっこうな大箱である。
席は8割方埋まっていた。
墨田区はアサヒのおひざ元。
ドライの大瓶と小瓶はもちろん大瓶をー。

お通しは油揚げ&切り昆布煮。
これ相当に旨し。
サービスと知ってさらに旨し。
一番小さなサイズのうな重(並)と
肝焼きを1本お願いした。

バランスよろしき新香の小皿が運ばれた。
きゅうり、大根に
白菜は茎と葉が分かれて上々。
すべてJ好みの浅漬けはうれしい限りだ。

肝焼きが登場。
ほ~お、立派だねェ。
しっかりレバー(肝臓)も付いている。
この1本でうな重の出来映えが保証された。

備え付けの山椒がまたいい。
通常の粉山椒のほかに
香り山椒と称する、ミルでガリガリ砕くヤツ。
両者合わせて楽しむ。

うな重はカミがフル、シモがハーフの計3/4尾。
味・量ともにいいネ、いいですねェ。
小ぶりの若いうなぎがまことにけっこう。
うなぎと女房は若いのに限る、ってか?

肝吸いも実に真っ当で
かまぼこ、三つ葉に柚子皮1片。
青地に白く
創業明治40年 下町の味を伝えて 鰻一筋105年
染め抜かれた湯のみで緑茶をいただく。

大瓶750円、肝焼き600円、うな重2300円。
計3650円の会計時に女将さんに訊ねた。
「ご主人は何代目になられるの?」
「ウチで四代目です」
「息子さんが継がれるんでしょ?」
「それが娘ばっかりで・・・」
「じゃ、ムコさんもらわなきゃネ」
「そこまで鰻屋を続けられればいいんですけどー」

一度はフラレたうなぎに惚れ直し、
お店が長く続くことを祈りつつ、ごちそうさまでした。

「川勇」
 東京都墨田区石原3-30-9
 03-3622-5592

2023年1月30日月曜日

第3199話 かき食へば 鐘が鳴るなり 広小路(その2)

かき盛合わせ定食が整った。
揚げ上がりが見るからに軽やかだ。
お見合いはしたことないが
見合い写真でこんなのを見つけたら
即断即決もあり得る。

皿の右手にかき2粒。
左手にヒレかつ2粒。
真ん中にスッと海老1本。
みずみずしいキャベツにぜいたくカットのレモン。
加えてタルタルチックではないタルタルソースも。
ヒレかつを粒で数えるのには抵抗があるが
当店ではそう呼ぶ習わしなのだ。

最初にかきをパクリ。
う~ん、素晴らしい。
きめ細やかなパン粉のおかげでサクリと揚がり、
舌先に快感を呼び込む。

ミディアムレアよりさらにレア。
洗浄がよほど丁寧なのだろう。
かき特有の風味が口中に拡がった。
このかきフライは本年のベストとなるに違いない。
海老が柔らかく、尻尾までパリパリとやった。
ヒレもしっとりジューシー、見事な揚げ切りだ。

二つ目のかきから卓上ののソースでー。
自家製と思しきスパイシーな中濃がまた好い。
タルタルと甲乙つけ難し。
脇役のなめこ赤だし、
野沢菜とキャベツ浅漬けの刻み。
申し分ございませぬな。

先日の江古田の鮭&平目フライとは雲泥。
これを練馬区・江古田と
台東区・上野の差と言っちゃ悪いから
言わないが・ ・・あら? 言っちゃったかー。
練馬区民のみなさん、ごめんなさい。

当店はロースかつ以外のものがいいんだろうか?
いや、そうではなかろう。
揚げ手の技術が格段に進歩したのだ。
それとも料理人が代わったか?
3度目の利用で初めて美味しさを実感した。

昭和23年(1948)創業の歴史は
ダテではなかった。
次回は誰かを誘い、ロースとかきをシェアしたい。

上野広小路でかき食へば、
♪ キンコンカンコン キンコンカンコン ♪
鐘が打ち鳴らされたのでした。
合格ですっ!

「とんかつ武蔵野」
 東京都台東区上野2-8-1
 03-3831-1672

2023年1月27日金曜日

第3198話 かき食へば 鐘が鳴るなり 広小路(その1)

上野仲町(なかちょう)通りと言えば、
界隈では悪名高き(?)ストリート。
アチラ系男女の客引きが
うっとうしいったらありゃしない。

最近はあまり夜の街に出ないため、
定かではないが、商魂たくましき彼らが
にわかに衰退するとも思えない。
まっ、通行人にさほど迷惑かけるでもなし、
J.C.は大目に見とるがネ。

そのストリートをちょいと入ったところ。
上野広小路の裏手に「とんかつ武蔵野」はある。
以前は1Fだったのが
いつの間にやら建物の2Fに移り、
去年また!Fに戻った。

それなりの理由はあろうが
せわしないことこの上ない。
いったい何をやっとるんだ!

今回訪れて真っ先にお運びの女性に
「そのうちまた、2階に引っ越すの?」
「いっ、いえ、それはないですっ!」
真顔でキッパリ否定された。

(冗談だヨ、チミも冗談の判らないコだネ)
もちろん口にはせず、
4席しかないカウンターに着いた。
ほかにテーブルが4卓。
こんな感じだったっけ?
四方を見回すもこみ上げるものはナシ。

おっ、これはいいじゃないかー。
かき盛合わせ(1000円)に目が釘付け。
その陣容は
かき2粒、海老1尾、ヒレ2粒である。

当店は基本的に何でも1000円。
ほかはロースかつ、ヒレかつ、海老盛合わせ。
すべて味噌椀、新香、ごはんが付く。
やさしい値付け(500円)がうれしい、
ドライの中瓶をトクトクトク。

「武蔵野」はこれが3度目。
初回は1F 時代の ’09年。
ロースかつを食べた印象はあまりよくなかった。

2回目は ’20年で2F時代。
肥後あそび豚のロース(小)をいただき、
このときは楽しめた。

とは言え、上野はとんかつ発祥の地。
優良店が目白押しだから
特筆に値するほどではなかった。

ところが今回は・・・。
以下、次話であります。

=つづく=

2023年1月26日木曜日

第3197話 日暮里は シャコとアワビの 舞踊り

日暮里の「又一順」で
仲間と食事会を催したのは昨年末。
最近、そのすぐそばにユニークな中華を見つけた。

上海の南、浙江省の料理を供する。
近々、誰かを誘って来ようと思ったのだが
待てずに独りで訪れたのは土曜日の昼下がり。
ガラス越しにのぞくと、けっこうな入りである。
狭い店につき、ムリかなと思いつつも入店。

いや、ビックラこいたネ。
スゴいんだ、空中を飛び交う中国語がっ!
とにかく店も客も中国一色。
なんてこったい、もうちょっと静かにしろい!

口には出さず、静かに着卓。
彼らは思ったことだろう。
借りて来た猫みたいなオッサンが入って来たなとー。
ドライの中瓶を通し、メニューを入念にチェック。

想像以上に変わったもの、
というか、本格的な料理が多い。
日本人向けの一般的なのも揃うが
せっかく異界に身を投じたのだ、
おとなしくエビチリなんざ食えるかい!
オッサン猫をなめるんじゃねェゾ。

食べたいモンだらけだけど
一人で立ち向かうには量が多過ぎる。
マナガツオ・ワタリガニ・スミイカ・マテ貝、
果てはウシガエルなんぞも並んでた。
こりゃ大変な店に来ちゃったな。

悩みに悩みながら決断を下したのは2皿。
シャコ5尾にアワビ(実際はトコブシ)3個だ。
殻付きのシャコはけっこうな大きさだが
中身はスカスカ感があり、食べではない。
ニンニク&ネギ醤油の味付けはよかった。
トコブシは柔らかくフックラ蒸し上げられ、
シャコと似た味付けながら美味しい。

中年カップルが去り、
奥から子連れのファミリーが2組出て来た。
連中が騒音の源だったのだ。
一人取り残され、嵐のあとの静けさ。

ビールをお替わりし、
手の空いた浙江省出身のマダムと談笑。
肝心な部分は日本語がちんぷんかんぷんだが
それもまた一驚。
会計は、シャコ2600円、トコブシ1200円、
ビール1000円の計4800円也。

おっと、店名を書き忘れるところだった。
池袋にある「温州坊」の支店で「瓯(おう)味」。
初めて見る区と瓦を合わせた”瓯”の文字は
瓶や鉢のことであります。

「瓯味 温州坊日暮里店」
 東京都荒川区東日暮里5-51-2
 03-6681-3832

2023年1月25日水曜日

第3196話 何故に日比谷に八戸が?

数年前にできた商業施設、日比谷OKUROJI。
先日。通りかかった際に
懐かしい「VAN SHOP」を見つけたので再訪。

気に染まったスタジアム・ジャンパーが8万円。
痛い出費になるなと思いつつも決断。
念のため背後に回ると、
背中に派手なVAN の文字。

これはちょいと着る勇気がない。
落ちぶれ果ててもJ.C.は武士じゃ、
男の散り際だけは知っており申す。

カスタムメイドも可能なようだが
そこまでするのもなァと断念。
経費の削減につながったのでした。
若い頃なら無理してでも買っておりました。

その並びを歩いていて遭遇したのが
「8 base」なる八戸物産店だ。
八戸都市圏交流プラザを謳っているが
ちょっと何言ってるのか判らない。

判らないときはとりあえずステップインがモットー。
するってえと物販品の並ぶ奥に
イートイン・スペースがあった。
いや、れっきとしたレストランがあったのだ。

この手の店は地ビールしか置かないところが多い。
ところが此処には
サッポロ赤星があるじゃないかー。
迷わず着席して即オーダー。

ランチメニューが充実している。
刺身を盛り合わせた八戸港浜定食を筆頭に
前沖鯖の塩焼きと味噌煮、八戸せんべい汁、
美保野ポーク生姜焼き、前沖鯖漬け丼、
青森シャモロック親子丼、田子牛ステーキ丼など、
青森色満載、いや、八戸色満艦飾と来たもんだ。

でもネ、昼からそんなに食べられないんだ。
お運びのオネエさんに訊ねたら
夜のメニューも大体できるとのこと。
お願いしたのは八戸いかメンチ(350円)と
〆鯖棒寿司ハーフ(850円)。

いかメンチはメンチというより、
いか薩摩といった感じでまずまずながら
驚いたのは棒寿司。
とにかく鯖が素晴らしく生臭みなど一切ナシ。
京都は祇園の「いづう」、
あるいは「花折」のソレに勝るとも劣らない。

この店は近いうちに再訪確実。
次回は夜に訪れたい。
詳しいリポートはその後のお楽しみということでー。

「8 base」
 東京都千代田区内幸町1-7-1日比谷OKUROJI
 03-6807-5611

2023年1月24日火曜日

第3195話 またしてもミートボール

傷心の「好々亭」をあとにした。
こぬか雨は止むこともなく降り続いている。
傘はない。
ここで歌い出したのは井上陽水ではなかった。
小柳のルミちゃんであった。

♪   私には傘もない 抱き寄せる人もない
  ひとりぼっち 泣きながら
  さがす京都の町に あの人の面影
  誰もいない心に にわか雨が降る ♪
    (作詞:なかにし礼)

逃げ込むように江古田駅。
池袋には戻らず、練馬を目指す。
都営大江戸線で都心に向かおう。
新宿・六本木をやり過ごし、汐留下車。
ここはほとんど新橋である。

駅前ビルは思いのほか開いてる店が少ない。
そうか、今日は土曜日だった。
久々の訪れは地下続きの「直久」。
大正3年(1914)、山梨県・甲府市で
日本そば・ほうとう・中華料理を商う、
「更科」として創業。
昭和42年には東京・銀座に進出した。

昭和50年ロンドンから帰国したJ.C.は
日比谷の免税店に就職し、
人生初のサラリーマン生活。
当時、今は無き銀座店に幾度となくお世話になった。
現在のTOKYU PLAZA が東芝ビルだった頃だ。

5年前のGW真っただ中、
神奈川県・鷺沼に出掛けた際、
美味しい焼き鳥で飲んだあと、
2軒目の物色中に「直久 鷺沼店」に遭遇。
懐かしさに打ち勝てず、
ツルツルやってしまったことを思い出す。

首都圏を中心に群馬や福岡にも
支店を展開する「直久」だが
新橋店は何回か利用している。

直久チェーンは全店中休みを取らないので
J.C.のような堕落したヒルノミストには
使い勝手がすこぶるよろしい。
餃子3個、焼売3個、雲吞4個、
おつまみ皿などが揃い、
食事のあとの胃にもやさしい。

今日は雲吞に逃げた。
丸っこいのが4個、スープに浮かんでいる。
メニューには肉玉雲吞とあった。

ん? 肉玉? 早い話がミートボールじゃないかー。
「スーザンズ」、「ヴェネツィア酒場」に続き、
またしてもミートボール。
普段、滅多に食べないものを1週間で3度目。
肉玉クンが仏の顔に見えてきましたとサ。

「麺処 直久 新橋」
 東京都港区新橋2丁目地下街1号ウイング新橋名店街
 03-3574-7279

2023年1月23日月曜日

第3194話 江古田で人気の洋食屋

練馬区・江古田に出没。
かつてはさんざん飲み歩いた町も
近頃はトンとご無沙汰。
「お志ど里」と「和田屋」の閉業が響いている。

江古田で人気の洋食屋「好々亭」。
その噂を聞いたのが遠征の理由だ。
当店は「すきずき亭」と訓ぜず、
「こうこう亭」と音ずる。

小雨のパラつく寒い午後。
池袋発の西武池袋線を江古田で降りる。
店先を通ったことがあるため、徒歩2分で到着。
右手に四人掛けが2卓。
左手の小上りにも同様に四人掛け2卓。
一番奥の厨房前に横座り二人掛けが1卓だけあり、
そこに促された。

メニューが実に豊富で殊に盛合わせが多彩。
択んだのは鮭&平目のフライ定食(800円)。
ごはん少なめで通したが
おひつに入って出て来て軽く1杯よそう。

鮭の紅、平目の白。
卓上は紅白魚合戦の様相を呈している。
鮭はともかく平目を使用しながら
どうしてこんなに安いんだ?

ビールを飲みつつ食べ進むうち謎が解けてきた。
鮭のコロモが分厚く平目の身肉は薄い。
おそらくこれは冷凍オヒョウの解凍だな。^
どちらも旨くないんだ。

油揚げとわかめの味噌汁はそこそこ。
2切れのたくあんもそれなり。
なんか外しちゃった感に見舞われる。

そこへ電話が ♪ リ~ン ♪
出前の注文である。
オバちゃんの復唱を聴いていると実に10人前。
ハンバーグが7つに
スペシャル定食とサービス定食が1個づつ。
最後の1つは聴きそびれた。

そっか、そういうことか。
あいにくの雨で近くの会社の面々が
外出をあきらめ、出前に走ったものと思われた。
何よりも驚いたのはスペシャルとサービスにも
ハンバーグが組み込まれ、
全員がハンバーグ狙いだったのだ。

この連中は定期的に当店を利用する常連だろう。
みんながみんなハンバーグということは
それがイチ推しの証し。
哀れ.C.、注文すべき品を完全に間違えたのでした。

「好々亭」
 東京都練馬区栄町3-9
 03-3991-2574

2023年1月20日金曜日

第3193話 一人酒場で突つく鍋

この日は池袋。
青春の思い出が詰まりに詰まった街である。
行きつけの「三福」の引き戸をガラリと引くと
中にいたオジさんと鉢合わせ。
「あれっ、まだでしたか?」
「2時からです」
時刻は1時半で退散の巻。

「酒場 ふくろ」に回った。
このところ「ふくろ」といえば、
東口の美久仁小路になじんでしまい、
本店には無沙汰をしていた。

すでにきこしめしている、
オバちゃん二人の隣りに滑り込む。
カウンターの中は初めて見るオネエさん。
ドライの大瓶を通しておいて立ち上がり、
壁の品札をチェックする。
お通しはエリンギの炒め煮だった。

最近は温かい汁物に惹かれる。
かき鍋、たらちりと迷った末、
はまぐり鍋に白羽の矢。
前夜、自宅でかきの土手鍋を食べたし、
たらちりだとスープが飲めないからネ。

コンロに鍋が乗せられ、固形燃料に着火された。
はまぐりは4粒。
貝殻にかすり傷がないから国内産のようだ。
ただし、房総産のように光り輝いてはいなかった。

あとは大量の白菜に
サイコロキャラメル・サイズの絹ごし豆腐4個。
長ねぎ・エノキ・春菊は少量。

鍋が沸騰してはまぐりが口を開き始める。
放っておくと身が硬くなるため、
4個ともトンスイに避難させた。
エノキと春菊も同様にー。
白菜と豆腐はよく煮たほうが好き。

黒ホッピーに切り替えた。
外は1本、中は日本酒の1合瓶に入れてくる。
ちょうど2杯分に相当する量だ。

一人酒場で突つく鍋はいいもんだ。
はまぐりの出汁がよくでたつゆが美味。
冷めかけたはまぐりの身を
しゃぶしゃぶして頬張る。
熱燗といきたいところながら
黒ホッピーが意外に好相性。
うん、いいネ。

お勘定は2160円。
帰りに東武デパートの地下に寄り、
ヤリイカのにぎり鮨と
本まぐろの骨付き身アラを買い求め、
無事、ご帰還あそばしましたとサ。

「酒場 ふくろ」
 東京都豊島区西池袋1-14-2
 03-3986-2968

2023年1月19日木曜日

第3192話 はしご酒は本八幡 (その3)

市川市・本八幡の「ヴェネツィア酒場」。
酒も料理も文句ナシ。
ポルチーニにはクリームがピッタリ。
北イタリアはクリームを好むが
南に下ると。トマトの人気が高まる。
イタリア人の宿命はそんなところにあるのだ。

パスタで締めるとしよう。
相方のリクエストはイカ墨だった。
マダムにイカ墨はパスタに打ち込みか、
白いパスタに黒いイカ墨ソースかを訊ね、
後者だったので二人は歓んだ次第なり。
食べた後は鉄漿(おはぐろ)状態必至だけどネ。

細打ちのスパゲッティーニ、
いや、フェデリーニかな?
この一皿もけっこうでした。
生イカがそこそこ主張して好い塩梅だった。

J.C.は仕上げにグラッパを1杯いただき、
会計は1万2千円ほど。
良質のワインが5千円と相当にCPが高い。
これで別れる二人ではない。
とは言え、あと2~3杯のつもりなり。

先刻の「馬越」に向かう途中、
気軽に入れそうな立ち飲み酒場を
見とめていたので立ち寄った。
「立呑 わたらい」は賑わっていた。
9割方オッサン&アンチャンである。

大瓶のビールはここもサッポロ赤星。
本日は赤星三連発と来たもんだ。
20年前はあまり見かけなかったが
ここ10年かなり勢力を拡大している様子。
エビスやプレモルはシンドいけれど、
ドライじゃもの足りないという人々に
支持されているのかもしれない。

二人の話題はNYの思い出。
ここで浮かび上がった人物がいた。
2年前に富山県の氷見に
転居して行ったA子である。

昨秋、メドックマラソンを飲み走り、
楽しかったから今年も挑戦する旨のメールを
ついこの間もらったばかり。
彼女がママだったクラブ「U」に
N美も在籍していたのだ。

「A子に電話してみようか?」
「うん、して、して」
旦那と食事中だったらしいがA子はすぐに出た。
スマフォを手渡すと
たった2年居ただけなのに覚えていてくれて
よほど嬉しかったのだろう。
話すうちにN美が泣き出した。
二人が言葉を交わすのは実に27年ぶりのこと。

電話を切って
「何も泣くことはないだろう、N美」
「そうだけど、なんか涙が出て来ちゃってー」
そう言いながら、なおもさめざめと泣くのでした。

=おしまい=

「ヴェネツィア酒場」
 千葉県市川市本八幡2-15-17
 047-333-9999

「立呑 わたらい」
 千葉県市川市本八幡3-4-16
 047-379-8902

2023年1月18日水曜日

第3191話 はしご酒は本八幡 (その2)

裕次郎の「ブランデーグラス」に乗って
赤ワインを夢とともに揺らしている。
昭和歌謡の連発に
そろそろ浪花の小姑からクレームが舞い込みそうだ。

二人して席をいったん離れ、
チケッティ(つまみ)の並ぶショーケースへ。
イタリアのチケッティはスペインのタパスに当たる。
相方がトリッパ(牛胃)を択び、
J.C.はカルチョーフィ(アーティチョーク)と
ポルペットをー。

何だ、そのカルチョーフィは? ってか?
日本語で朝鮮あざみのことなんすが
エッ? もっと判らないってか?
覚えてるかなァ、半世紀も昔。
ヒデとロザンナがCMをやってたチナールという、
イタリアのリキュール。
あれがカルチョーフィの酒だったんです。

一方のポルペットはイタリアのミートボール。
ポルペッテの表記が一般的でポルペットだと
フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州の
自治体(コムーネ)を指す。
でも、当店はポルペット。
犬猫問わず、ペットが好きだから文句はないけどネ。

料理としては南イタリア、
それもシチリアが本場じゃなかろうかー。
映画「ゴッドファーザー」で
コルレオーネ一家の代貸が
自ら腕を振るっていたネ。

数日前にミッドタウンの「スーザンズ」で食べた、
ミートボールと比べるつもりだったが
結果は「ヴェネツィア酒場」の圧勝。
とても美味しかった。

トリッパもカルチョーフィもまことにけっこう。
ネッビオーロとの相性、悪いわけがなく、
互いに互いを励まし合う。
シナジー効果、ここに極まれり。

ネッビオーロとなれば、
やはり同郷のポルチーニが欲しくなる。
確か、ラヴィオリがあったハズ。
マダムに訊ねた。
この女性、店主をオーナーと呼んだから
ご夫婦ではないかもしれない。

当夜、ポルチーニの料理はなく、
ルマーカ(エスカルゴ)のクリーム煮に
加えるのは可能とのこと、即刻お願いした。
う~ん、いいネ、いいですネ。

=つづく=

2023年1月17日火曜日

第3190話 はしご酒は本八幡 (その1)

てなこって、TUBEの「さよならイエスタデイ」を
口ずさみながらタバコのにおいを逃れ、本八幡へ。
年に数回出掛ける千葉県は松戸と本八幡が多い。

今宵の相方は何度か当コラムに登場している、
NY時代からの盟友・N美。
彼女と逢うのは2年ぶりだ。

JR本八幡駅の改札で落ち合った。
J.C.が開口一番。
「息子は中学生になったかい?」
N美応えて
「うん、この春で二年生」

時刻は16時、前日に電話予約を入れておいた、
「ヴェネツィア酒場」に向かった。
予約は17時ながら立ち寄ってワインの抜栓をお願い。
バルバレスコを指名すると、店主曰く、
「開くのに3日かかります」
「そりゃ判ってますけど3日は待てない。
 せめて1時間先にと思ってー」

しかし、この人は好い人だ。
ネッビーロの特性も良く分かってらっしゃる。
こんな指摘をしてくれた経営者は人生初。
都内はもとより、NYでもかなりの本数を
開けて来たが、どの店も開けちゃえ、
売っちゃえのオンパレードだったもんなァ。

結局、折り合ったのは
ランゲ・ネッビオーロ エリオ・フィリッピーノ’18年。
そうしておいて本八幡に来れば顔を出す「馬越」へ。
カウンターのカドカドに隣り合い、
サッポロ赤星で久々の乾杯。

それぞれ気に染まるものを1品づつ。
当方が小肌酢、相方はモズク天ぷら。
互いの近況を語り合い、
大瓶3本を空けたところで
壁の時計の針が17時を回った。

ビールはタップリ飲んだから
ランゲのグラスを合わせ、本日2度目の乾杯。
ヴェネツィアの酒場ならヴェネト州のワインを
飲むのが筋だがJ.C.は何と言ってもピエモンテ。
ピエ(足)モンテ(山)はその名の示す通り、
アルプスの麓(ふもと)の州である。
州都は17年前に荒川静香が金メダルを獲ったトリノ。
ネッビオーロの一大産地でこのセパージュが一番好き。
ピノ・ノワールは二番。

ワイン好きの相棒が目を細めている。
温度が低いため、ブランデーのように
手のひらで温めてやる。
おっと、裕次郎が歌い出したぜ。

♪   指で包んだ まるいグラスの底にも
  残り少ない 夢がゆれている ♪

=つづく=

2023年1月16日月曜日

第3189話 行き掛けの 駄賃は赤星 明太子

今宵は旧友と千葉県市川市・本八幡で飲む予定。
千代田線・新御茶ノ水から
新宿線・小川町へ乗り換えた。
早めに仕掛けたおかげで時間に余裕がある。

中川の両岸は土地が低いため、車両が地上に出る。
 川を渡りながら左岸の船堀で下車を決めた。
向かうは中休みナシでサクッと飲める「百味家」。
使い勝手が良いので何度かお世話になっている。 

入店は14時半。
飲む客食う客、勢力図は五分と五分だ。
席に着く前に料理の品定め。
当店はカフェテリア方式だからネ。

最軽量の小皿、明太子に手を延ばす。
たら子派だが無いものは仕方ない。
明太は10年ぶりかな? いや、もっとかも?

オニイさんに赤星中瓶をお願いして着席。 
ん?  ちょいと生臭みを感じた。
こういう時は生醤油を23滴垂らす。
ぬか漬けの匂いがキツい時もこの手でしのぐ。
ホンの数滴が極めて有効、これぞ効果滴面。

本当は日本酒も少々垂らしたい。
自宅では生たら子に必ずそうする。
けれどもホンのチョピリの明太に
わざわざ1合はないだろう。

隣りの卓のオッサン二人が席を立った。
椅子に紙袋がそのまんま。
さっきのオニイさんがそばに来たので
「あれって忘れものじゃない?」
「いいえ、外にタバコを吸いに行ったんです」

それからのオッサンたち、
5分毎にいそいそと連れ立ってー。
かつては喫煙者の身だから
やめてしばらくはスモーカーにやさしい、
ノンスモーカーでいた。

それが最近、気になりだしたネ。
戻って来たオッサンたちの身体から
タバコの匂いがした。
真冬だってェのに、TUBEが歌い出したヨ。

♪   憎んでも恨んでも
  いいから忘れないで
  本気だった 愛してた
  さよならイエスタデイ

  叶わぬ約束は 今でも覚えてる
  少し不良の あなたの背中
  タバコのにおいがした   ♪

   (作詞:春畑道哉)

「船堀食堂 百味家」
 東京都江戸川区船堀3-2-3
 03-3869-6610

2023年1月13日金曜日

第3188話 そば屋カレーに目覚めて

今日は13日の金曜日.
不穏な事件に巻き込まれぬよう。
どちらさんもお気をつけなすって。

ここ2カ月ばかり、
日本そば屋のカレーにハマッている。
舞台は不忍池そばの「新ふじ」。
最寄りはメトロ千代田線・根津。
なじみの行きつけ店である。

昨秋、カレーとそばの両方食べたくなり、
そうだ、カレー南蛮なら一石二鳥じゃないかー。
初めて当店のカレーそばを注文した。
人生で数えるほどしか食べていないメニュー。
かつて旨いと感じたことはあまりない。

ところが「新ふじ」のソレは抜の群だった。
カレーものは10年ほど前に1度、
黄色いカレーライスを食べただけ。
そばつゆとカレーが混じり合っそばは
ライスの上をいきました。

周期的にいただき始めたある日。
壁の品札を見上げながら
ん? カレー丼かァ、生まれてこの方、
ただの一度も試したことがないゾ。
そばつゆ混じりのカレーが
白飯にかかってるんだろう、察しはつく。

初めてのカレー丼登場。
どんぶりは浅いぶん間口が広い。
ほかのメニューに応用が利かない、
カレー丼専用のどんぶりと思われた。

全面をカレーが覆い、
脇には飾り包丁入りナルトの吸い物、
きゅうりぬか漬け&たくあんの新香。
いや、実に美味しい。

豚肉&玉ねぎの具もたっぷりと一発で気に入り、
すでに3回も味わった。
カレー丼にハマッたがハズレを引くのはイヤ。
よって他店ではまだ食べていない。

後日のカレーせいろは
つけづゆがしょっぱく、おすすめ出来ない。
とにかく「新ふじ」のカレーメニューを全制覇。
そば・丼・ライスは豚バラ肉使用。
せいろのみ、鶏モモ&ムネ肉だ。

比べたら南蛮そばと丼が双璧で甲乙つけ難し。
池上正太郎翁同様、そがが好き。
そば屋で飲むのは大好き。
けれどもこの歳になって
そば屋カレーに目覚めるとは
夢にも思わなかった次第です。

「新ふじ」
 東京都台東区池之端2-8-4
 03-3821-3913

2023年1月12日木曜日

第3187話 特大ジョッキに石焼きジャーマン

東京の東側(皇居から見て)は
マイ・ホームグラウンド。
年末年始の老舗めぐりで
要所はほとんだ行き尽くした。
残るは銀座のみである。

訪れたのはライオングループ旗艦店、
「銀座ライオン七丁目店」だ。
現存する日本最古のビヤホールは
もともと新橋寄りにあったが
明治9年(1876)、
本社ビルが完成し、この地に移って来た。

1階のメインホールは往時のままである。
ビールを飲む際、東京にこれ以上の空間は無い。
まだ松の内、演技担ぎで特大ジョッキを所望した。

泡少なめでお願いしたのにけっこう多い。
泡の落ち着きを待って、グイイ~のプファ~!
(この瞬間があるから今日も生きていけるんだ)
深く心に焼き付けた。

つまみは石焼きのジャーマンポテト。
石焼きビビンパみたいなどんぶりではなく、
丸い石板に乗ってやって来た。
サイズは蚊取り線香ぐらい。
真ん中に角切りバターが鎮座して
ホットケーキみたいだ。

バターのおかげで好い仕上がりだが塩味は薄め。
欧米人、殊に米国人は塩を求めること必至。
卓上に塩・胡椒がないからネ。
特大につき、1杯にとどめておいた。

銀座通りからみゆき通り、
数寄屋橋の交差点を経て日比谷。
今宵も小宴が控えており、いったん帰宅する。
ところがメトロ千代田線改札の手前。
ミッドタウン日比谷のフードホールを抜けるとき、
やはり特大といえども
1杯じゃ足りないんだねぇ。

2年半前に1度利用した、
「スーザンズ・ミートボール」で
カールスバーグの小瓶をー。
フードホールだからフードを頼まねばー。
最少の2個をチキンのチリコンカンでー。
前回はビーフのトマトソースだった。

小瓶はノドをうるおしてくれたが
チキンボールがイマイチ。
ソースも喫茶店のゆるいミートソースさながら。

驚いたのは値上がり率だった。
800円以下が1200円以上と、
3年半でゆうに5割増し、こりゃやり過ぎだ。
ミートボールがビーンボールとなって
J.C.のドタマを直撃したのでした。

「銀座ライオン七丁目店」
 東京都中央区銀座7-9-20
 03-3571-2590

「スーザンズ・ミートボール」
 東京都千代田区有楽町1-1-2
 東京ミッドタウン日比谷B1
 03-3519-7311

2023年1月11日水曜日

第3186話 ホルモンはヘルモンでした

熱いスープが飲みたくなった。
それもワンタンメンとか、おかめそばではなく。
あまり食べないコリアンでもいってみるかな?
ちょいと出遅れたその日、1年半前に利用した
近場の「呉宮(オグン)」を思いついた。

団子坂下交差点、角ビルの3階に上がる。
1・2階は「ミスタードーナツ」。
コリアンの汁物となると
ユッケジャン、参鶏湯(サムゲタン)、
純豆腐(スンドゥブ)あたりかー。

単身女性の目立つ店内。
メニューを眺め、最も写真映りの良い、
ホルモン純豆腐チゲに決めた。
国産牛ホルモンのプリプリ感を
味わって欲しいのフレーズにも惹かれた。

ドライの中瓶を飲みながらサーヴを待つ。
最初に運ばれたのはお約束のキムチ。
碁石入れみたいな壺に入ってほぼ食べ放題状態。
さっそく小皿に取ってビールの友とする。

グツグツグツ、チゲが煮えたぎって登場。
猫舌クンのJ.C.はしばらく放っておいて
小菜三点盛りに箸を延ばす。
わかめ酢、ナムルもやし、
もう一品は薄いサカナのすり身。
かまぼことさつま揚げの中間みたいなヤツだ。

グツグツの収まりを待ち、純豆腐。
その名の通り、豆腐だらけだがホルモンが少ない。
入れ忘れかな? 
いや、小指の先ほどのコマいのが辛うじて3~4片 。
底から口を開いたアサリが二つ顔を出す。
豆腐は絹ごしである。

赤いスープは見かけほど辛くない。
ちょいとパンチ不足につき、
壺のキムチをドバッと投入した。
ホルモンチゲがキムチチゲに変身した瞬間だ。
貝出汁の出たープの味はなかなか。
小サラダともども白飯を完食した。

満腹ながら再びメニューを開く。
なるほどねェ。
チゲは jjigae と綴るんだ。
実際の発音とアルファベットはずいぶん違う。

それにしても投じられた牛ホルモンの少なさよ。
写真からずいぶん減量されており、
試合前のボクサーなら一発で軽量に成功する・
期待したホルモンは
ヘルモン(減るもん)だったのです。

「呉宮(オグン)」
 東京都文京区千駄木3-37-20 カンカンビル3F
 03-5842-1533

2023年1月10日火曜日

第3185話 卯年の外飲み初め (その2)

喧噪の「吉池食堂」を逃れて「清龍上野店」。
本日のおすすめを眺めている。
おっと、注文、注文。

やって来たオニイさん曰く、
「今日は升酒をサービスしていますが・・・」
「あっ、そう、いただきましょう」
「冷たいのと温かいのはどちらを?」
「冷たいほうで」
さすが蔵元酒場、こんなサービスはうれしい。
埼玉県・蓮田市の清龍酒造は1858年創業。

赤星中瓶、ちょい刺し盛りをお願いした。
周りを見渡すとほとんどの客が
ちょい刺し盛りをつまんでいる。
内容は、真鯛・カンパチ・まぐろ赤身・〆さば
1切れづつだが、それぞれ2切れ分の厚みあり。

感心するのは刺身のつま。
大根の桂むきと大葉はもとより、
オゴノリ・マフノリがしゃきしゃき。
サービス品は手を抜きたくなるものだがエラい。

中瓶をお替わり。
お通しのクラゲ&春雨酢の物があるから
じゅうぶんかなと思いつつ、品書きを物色。
上野店限定のひとくち串揚げ盛合わせねェ。
串揚げより串カツを好むJ.C.はパスして
かきフライを発注。
3カン付けにタルタルソースが添えてあった。

博多のとんこつ焼きラーメン、
長崎の皿うどんがあれども
今宵は友人宅で小宴が控えているためスルー。
昔はこういう九州モノは無かったけどなァ。

昔といえば、年末の巣鴨に続いて高三の夏。
友人たちと豊島園プールの帰り、
池袋東口の「清龍本店」、その2階に上がった。
不自由な小遣いをやりくりし、
高校生の分際でささやかな酒宴を開いた。

食べ盛りに料理は最小限。
2階にはわれわれのほかに
10名ほどのオッサングループがいた。
彼らが退店したテーブルに
2皿の焼き鳥が残り、けっこうな本数がー。

下げられる前にわれわれは決断した。
あの皿を調達するため、ジャンケンポン。
最終敗者がひとっ走り走ることとなる。
それがちょくちょく当コラムに登場する、
あのN田クンと来たもんだ。

旅の恥はかき捨て? 
いやいや、空腹に恥なんか関係ねェってなもんや。
記憶から消したい浅ましき過去ながら
そのくせ思い出すたびに
懐かしさこみ上げる青春の一コマでもあるのです
接客のオバちゃんたちも
見て見ぬふりをしながら笑っておりました。

「清龍上野店」
 東京都台東区上野5-21-8
 03-3831-9373

2023年1月9日月曜日

第3184話 卯年の外飲み初め (その1)

タイガーからラビットにバトンタッチが済んだ。
今話より卯年の飲み食べ歩き開始である。
歳末は正月用の買い物客でごった返した上野界隈も
年が明けて落ち着いたことだろう。
勝手に思い込み、おっとり刀で出掛けた。

あれっ、けっこう人が出てるな。
わが家の御用達、吉池ビルに入館。
のちほど鮮魚売り場に寄るつもりで
エレベーターに乗り、最上階の「吉池食堂」へ。

扉が開くと同時に目が真ん丸。
つぶらな瞳が全開の巻である。
いや、スゴいのなんのっ!
9階フロアに順番待ちが30人はたむろしていた。
六本木でもないのに芋洗い状態と来たもんだ。

だめだ、こりゃ!
怖れをなして降りられず、
そのまま扉の”開”ボタンを押し続け、
客たちの乗り込みを待ってUターン。
いや、エレベーターだからIターンか?
マイッたな・・・鮮魚どころの話じゃないぜ。
くわばら、くわばら、ビルを抜け出した。

避難先は「清龍上野店」。
去年の春、桑名から来たオッサンのみともと
酌み交わしたのが上野2号店。
今日は1号店のお世話になる。

時刻は1415分。
先刻ほどではないが大盛況だ。
このあとも行き場を失った客たちが
続々と詰め掛けてきた。

池袋に本店を持つ「清龍」は蔵元の直営店。
J.C.と本店とは、なが~いつき合いで
そのハナシはまたのちほど。

アクリル板で仕切られた、
単身用大テーブルの一角に落ち着く。
目の前に1/3(火)本日のおすすめがー。
飲み初(ぞ)めにつき、全品紹介とまいりましょう。

おせち重 1380円+
ちょい刺し盛り 500円+
タコぶつ 680円+
明太子おろし 350円+
下仁田ねぎの網焼き 290円+
揚げ出し豆腐 350円+
厚切りハムカツ 360円+
豚肉の小松菜炒め 450円+

こんなラインナップであった。

=つづく=

2023年1月6日金曜日

第3183話 寅年の外飲み納め

寅年の外飲みも今日限り。
浅草は行ったし、歳末の上野は地獄参りも同じこと。
でも前日の人形町に学ばなければいけない。
混雑は避けたいがシャッタータウンもご免被る。

お婆ちゃんの原宿なんかほどよいんじゃないかな?
池袋東口行きのバスを巣鴨駅北口で降りた。
巣鴨地蔵通りを往くものの開いてる店は多くない。
こりゃ、人形町の二の舞かー。

そば屋、うなぎ屋には短い行列。
界隈に3軒もある「ときわ食堂」は前日で終了。
滑り止めを失い.、庚申塚まで歩いた末に
収穫がないままUターン。
来た道を歩いて振り出しの巣鴨北口に戻った。

入ったのは昭和43年開店の喫茶「ポピー」。
実は翌44年、白山通りをはさんで
真向かいの「コージー・コーナー」に
ひと夏お世話になった。
数年前に閉業しちまったけど。

高三当時のGFはとげぬき地蔵脇の米屋の娘。
近くの巣鴨図書館で受験勉強のあと、
「コージー」でお茶するのが日課だったが
間口の狭い地下にある「ポピー」は
完全にノーマークで存在を認知せず。

数カ月前に発見後、そのうち訪ねようと心して
ちょうど良い機会に恵まれたわけだ。
ラッキーなことにビールがあり、
しかもドライ中瓶、ナポリタンとともに通す。
この寅年、最初で最後のナポリタン。

フロアに初老の、いや、中老かな?
ご夫婦と思しき二人。
喫茶の練達といった雰囲気を醸している。
ソファに腰をうずめ、ビールを飲みながら
昔の恋人に再会したような気分に浸っていた。

タバスコ&粉チーズで味わうナポリタンは
そこそこながら、居心地はとても好い。
中途半端なアイドルタイムに
貴重なガスステーションとなるネ、これからも。

掛け時計の針が14時を回った。
すぐそばの「ほていちゃん」が開店してるハズ。
コロナ禍で軒並み酒類の販売を控える中、
都内各地の「ほてい」には本当にお世話になった。

それが何処でも飲めるようになってから
足が遠のいてしまった。
こういうのって苦学生、
あるいは売れない作家や画家が
生活を支えてくれた年上の愛人を
食えるようになったからって
棄てちまうのと同罪じゃないかー。

カウンターに立ち、赤星大瓶&春菊かき揚げ。
やはりこれはイカンぜ、男の恥だぜ。
BGMの「待つわ」(あみん)、
「メモリーグラス」(堀江淳)を聴きながら
今年は「ほていちゃん」をもっと利用するゾ。
深く反省したJ.C.でした。

「ポピー」
 東京都豊島区巣鴨2-1-1
 03-3918-3646

「ほていちゃん 巣鴨店」
 東京都豊島区巣鴨2-1-5
 03-5972-1666

2023年1月5日木曜日

第3182話 牛と豚 呉越同舟カツハヤシ

残りわずかな日数を胸に現れた日本橋人形町。
この町の第一感は”にっぽんの洋食”。
旧花街に洋食が隆盛を誇ったのは
そこで働く女性たちが好んで食べたからである。

甘酒横丁の「来福亭」は前日で年内の営業を終了。
数軒先の「小春軒」もまたしかり。
洋食はあきらめるとするか・・・ん? もしや・・・
そのまま道筋を進んで日本橋小網町。
時刻は13時15分だ。
おお、開いてたヨ、「桃乳舎」がっ!

近頃、時代(とき)が止まったよな酒場や
町中華を訪ね歩いているが
この洋食屋もまさしく。
レトロ感では随一だろう。
空間に身を置くだけで幸福感に浸れる。

明治22年(1889)創業「桃乳舎」は13年ぶり。
ビールがないのは承知の上だ。
見覚えのないウエイトレスに
今まで注文したことがないカツハヤシをお願い。

エエッ? 後客が卓上のメニューにはない、
カキフライを発注したゾ。
いけねっ、カツやフライが並ぶ、
壁のホワイトボードを見落とした。
今日は珍しモノ狙いだったから、まっ、いいかー。

カツハヤシは超廉価(570円)なのに
揚げ立てのトンカツと
ルウには牛肉が点在していた。
牛と豚、一皿に呉越同舟ですな、これはー。
お味のほうは、まあそれなりだったけど。

往時、フロアにいたお婆ちゃんの姿が見えない。
孫娘と一緒だったが
厨房の女性があのときの孫だろうか?
時代が止まったよな洋食屋にも時は流れていた。

完全なるガス欠状態。
近所をあれこれ物色するより、
あの場所に直行したほうが早い。
人形町から都営浅草線に乗り、本所吾妻橋下車。
またまたやって来たのは「桃乳舎」より、
6年早く開業した「明治屋酒店」だ。

さっそくドライの大瓶をゴクゴクゴク。
そうしておいて前回同様、
アルザス リキュール・ド・サパン。
もみの木のリキュールだ。
今回はソーダ割りにしてみた。
ふむ、個性が薄まってしまい、ストレートに軍配。

年内の外飲みはせいぜいあと1軒か2軒。
明日はいずこの町に出没しようか?
おっと、裕次郎が歌い出した。

♪ ままよなげくな いとしいお前
  明日は 明日の 風が吹く ♪

「桃乳舎」
 東京都中央区日本橋小網町13-13
 03-3666-3645

「明治屋酒店」
 東京都墨田区吾妻橋3-7-12
 03-3622-1592

2023年1月4日水曜日

第3181話 年の瀬に 笑み浮かべたり おかめそば (その2)

浅草は雷門通りの「尾張屋本店」。
2階に上がり、さて、何にしようかな?
ここでは天ぷらそば、
かしわ南ばん、しそきりなどを食べた。

そうだ! おかめそばをいってみよう。
ノビないうちにそばをツルツルやって
おかめの顔をつまみとしよう。
着卓したどんぶりが
笑みを浮かべてこちらを見つめている。
うむ、なかなかにカワユい。

眉は結び湯葉、両のまなこはかまぼこ、鼻が竹の子。
どうやらおかめはハスに構えているようだ。
鼻筋がちょいと横を向いている。
したがって手前に位置する右頬は大きい焼き麩、
奥の左頬は小さいナルト。
口元が出汁巻き玉子という配置。
ほかには柚子皮1片とみつばが散っていた。

しなやかな細打ちそばに穏やかなつゆ。
さすがにトップレベルの美味しさである。
荷風の時代はもっと太く、味も濃かっただろうな。
時代とともに洗練され、上品な味わいとなった。

ほとんどの客が天ぷらそばか天重を注文する。
ここまで海老天に集中する店はまれだ。
2階は階段の上がり口と一番奥に小上りが二箇所。
子連れ客が上がり口の畳に座った。
子どものうちから
「尾張屋」のそばが食べられるのはシアワセだ。

「尾張屋」は万延元年(1860)創業。
文学好きなら大江健三郎が思い浮かぶ。
お勘定は2000円ちょうど。
1階の状況を一べつし、
帳場のオニイさんに「ごちそうさま!」。

雷門の前を横切り、この日も「神谷バー」へ。
こちらは明治13年(1880)創業。
荷風が生まれた翌年だ。
久しぶりに2階へ上がりたいが
やはり料理を取らずに済む1階にする。

いつものようにドライ大瓶と
電氣ブランオールドのチケットを購入。
交互にグラスを味わい、
互いのチェイサー役を担わせる。
歳末のエンコの濃密な空気を
存分に吸い込んだわけであります。

「尾張屋本店」
 東京都台東区浅草1-7-1
 03-3845-4500

「神谷バー」
 東京都台東区浅草1-1-1
 03-3841-5400

2023年1月3日火曜日

第3180話 年の瀬に 笑み浮かべたり おかめそば (その1)

年が明けたら参詣客でごった返す浅草。
年内に行っておこうと出掛けた。
いえ、観音さまにお参りするのではなく、
そぞろ歩いて一杯飲れればそれで満足。

数日前に墨田区・石原の甘味処、
「尾張屋」を訪ねたので
その連想から日本そばの老舗、
「尾張屋」が思い浮かんだ。

雷門を挟んで本店・支店が同じ並びにある。
今日は永井荷風ゆかりの本店に赴く。
だいぶ昔のことで恐縮ながら
2003年に上梓した自著「浅草を食べる」で紹介した、
当店をダイジェストで再現してみたい。

=老舗の意外な変わりそば=      
 おすすめ:しそきり 天ぷらそば

’59年3月1日、ここのトイレで
永井荷風が倒れたという噂がある。
荷風最後の店ということでの信憑性は
「アリゾナキッチン」に分がありそうだが
どちらでもいいことで
体裁を気にする当人は草葉の陰で困惑していよう。

何といっても天ぷらそばの海老天が有名。
デカいというより長く、そして真っ直ぐだ。
串でも打たねばとてもああはなるまい。
車海老の天ぷら一尾の特天せいろ(1300円)は
海老の質に問題はないが
コロモの付けすぎで少々重たい。
大正海老二尾の天ぷらそば(1300円)を
大関と合わせてみると、
やはりここの天ぷらはかけつゆに浸したほうが
持ち味が出るようで
燗酒の良きパートナーとなってくれた。

つい最近、ガラスのサンプルケースに
しそ切り(700円)を見た。
ん? 「尾張屋」が変わりそばを? 
レジの女性に訊ねたらもともと
そば懐石や宴会メニューに組み入れており、
あまりに評判がいいので二年ほど前から
一般メニューにも載せているとのこと。
試してみると、
つゆの甘さが気になるものの、なかなかのデキ。
ただし、粉わさびは付けてくれなくて結構だ。

ちなみに最晩年の荷風は
かしわ南ばん(鳥南蛮)ばかりを食べ続けた。
歯が弱っていたのだろうか、
柔かい鶏むね肉がお気に召したようだ。

やはり年の瀬のそば屋は立て混む。
1階は満席、2階に上がった。
ドライの中瓶をクイッと飲り、
付いてきたあられをポリポリかじって
品書きを手に取った。

=つづく=

2023年1月2日月曜日

第3179話 初飲みは越乃寒梅

本年もよろしく申し上げます。
新年を迎え、日本人らしく日本酒で迎春。
と思ったものの、そこはやはりビール党。
夜明けの一杯はいつも通りにドライの缶でした。

それでも1缶にとどめ、冷たい日本酒に切り替えた。
新潟の越乃寒梅、その別撰吟醸酒である。
やれ八海山だ、久保田だ、田酒だ、獺祭だ、
そんな連中が肩で風切る昨今、
寒梅は一時期、人気No1だったのだ。

好きな銘柄だし、お屠蘇代わりに一献。
さて、おせち料理に興味を示さないJ.C.、
卓上に並んだのは北海道産の品々である。
去年も取り寄せて気に入った。
”年越し海鮮福袋”と銘打たれており、
ラインナップはかくの如し。

毛がに いくら醤油漬け 天然ほたて貝柱 
味付数の子 たこやわらか煮 天然甘海老
数の子松前漬け つぶ貝 天然秋鮭西京漬け
するめいかお造り

といった面々である。
松前漬けとするめいかは年末に手を出してしまった。
よって元日の朝、いわゆる元旦は
いくら・数の子・たこを並べた。
隣人からいただいた京人参のなますもー。

ほかには雷門の「オオゼキ」で
鶏もも肉と一緒に買った、
ノルウェー産スモークサーモンの残り。
そして東京風の雑煮を造ってみた。

花がつおと利尻昆布で出汁を引き、
サトウの切り餅に
鶏もも肉・しいたけ・みつば・柚子皮1片。
年の初めだから自分なりにていねいに造った。

酒も肴も実に美味しかったネ。
今年は良い年になりそうだ。
大晦日も元旦もTVはロクな番組がない。
ハナからあきらめている。

そこで今年は根津の「不忍通りふれあい館」で
落語のCDを借り入れてあった。
正月らしく清酒に落語は
われながらグッドアイデアである。

まずは古今亭志ん生の「黄金餅」。
何度も聴いている。
半世紀近く以前、落語の筋書き通りに
上野の下谷山崎町から麻布の木蓮寺まで
歩いたことがあった。

そして林家三平の「源平盛衰記」。
これもDVDで見聴きしているが
アドリブが信条の三平、
噺が一度として同じ成り行きにならない。
此度も自身の声が布施明に似てると言い出し、
いきなり歌い出したじゃないかー。

♪   真綿色した 脱脂綿ほど
  不潔なものはない  ♪

これにはJ.C.、思わず越乃寒梅を
吹き出しそうになったのでした。