2023年4月28日金曜日

第3263話 懐かしの「モス1号店」

かつて5年棲んだ町、板橋区・成増に出没。
町一番の定食屋「やまだや」に来てみると、
シャッターが降りていた。
昼営業は15時までだし、休みは土曜のハズなのにー。

諦めて南口商店街の並びを往くも
開いているのはラーメン屋ばかり。
途方にくれる場面だが、この日は違った。
向かったのはあの「モスバーガー」の1号店だ。

時は1972年夏、その日は駅前のパチンコ屋にいた。
玉がよく出て昼めし休憩、台に”食事中”の札を。
「モスバーガー」が世に生まれて3日目に訪れた。
1号店はパチンコ屋のほぼはす向かい。
ふ~ん、厚いトマトのスライス入りとは珍しや。
いや、旨かった。

八百屋の倉庫を改装した店舗は
半分葦簀(よしず)張りで2階なんか無い時代。
ダサかったあの店がこんなに成長するとはねェ。
20年ほど前にも来ているから今回が3度目である。

注文したのはモスバーガー(440円)と
アイスコーヒーS(250円)。
なんかずいぶん値上がりしたような気がするな。

しっかし、このモスってヤツは実に食いにくいネ。
悪戦苦闘の末に指先も口元もベッチョベチョ。
およそ先進国の人間の食いモンじゃないぜ。
それを今の若いコは実に上手く食う。
ラッピングペーパーに顔突っ込んで
オヤジにあんな芸当はできっこないや。

2階の窓際に座り、かつて何度も往き来した、
駅前の通りを見下ろしていたら
懐かしさがこみ上げて来る。
あのときは昼日なかからパチンコなんて
ホテルのバイトが遅番だったんだ、きっとー。

初回は’72年のいつだったんだろう?
どうにも気になり、
モスフードサービスのお客様センターに
問い合わせたところ、6月ではあるが
日にちまでは判らないそうだ、残念。

「モス」にビールなんかありゃしない。
東武東上線の急行でノンストップの池袋へ直行。
西口の「三福」に駆け込んだ、

ドライの大瓶でレバたれレアをまず2本。
黒ホッピーに切り替えて、なか豆腐は
塩仕立てのもつ煮込みの豆腐&スープのみ。
ホッピーの中をお替りし、本日も満足。

帰りに東武のデパ地下で鮮魚のキンキと
みりん干しのマトウ鯛(サン・ピエール)を
買って帰りましたとサ。

「モスバーガー1号店(成増店)」
 東京都板橋区成増2-15-10
 03-3975-1582

「三福」
 東京都豊島区西池袋1-27-1
 03-3971-1773

2023年4月27日木曜日

第3262話 ベルンの思い出

小田急線・梅ヶ丘駅。
その北側と南側を入念に歩き回った。
ないネ、ございませんな、飲む処が。
まだ15時半、早い店でも17時開店だ。

策を練りながら
この町に来ると、必ず立ち寄る「Y's Mart」へ。
オージービーフのカイノミを買い込んだ。
肉割れした肉質が好きで今宵は
ガーリックステーキを焼こう。
ガルニは昨日のうちに
近所の八百屋で絹さやを買ってある。

いたずらに時を費やしても仕方がない。
小田急線で新宿にまっしぐら。
西口の「ベルク(丘)」に一目散。
梅ヶ丘から丘そのものに移動した。

立て込んでるわりに椅子席にありつけた。
2万歩も歩けば健脚家もさすがに疲れる。
黒ラベル生の大グラスをグイ~ッ!
いやはや、真っ当なビールがたまりません。
まぶたを閉じてしばし今日の日を振り返る。

すかさずお替わり。
並んで順番を待つんだが、この店の難点は
飲むより並んでる時間のほうが長いこと。

隣りの席のオッサンが退店してすぐに
若者二人が着席。
片割れはデカい外人でデカい荷物を抱えている。
ほどなく言葉を交わし始めた。

二人の勤務先はスイスの時計メーカー、オメガ。
日本に従業員が400人もいるんだそうだ。
外人はドイツ語圏スイス人で出張中だと言う。
何でも9日間のお遍路を終えて
さっき羽田に着いたそう。

スイスの首都・ベルンの出身&在住とのことで
若い頃、ベルンに行ったことがあると言ったら
奴さん、俄然乗って来た・
実はJ.C.、ベルンには素敵な思い出があるんだ。

あれは1971年4月下旬、丸52年前のこと。
イタリア周遊を終え、ミラノからベルン入り。
車中、コンパートメントに同席した、
スイス人ビジネスマンと会話をし続け、中央駅着。

「この道をこう行ってあそこで曲がって・・・」
ユースホステルへの道順を教わっていると
一組の母娘が通りすがった。
「ユースでしょ? いいわ、私たちが連れてくわ」
J.C.の身柄は彼から彼女らに託された。
途中、親子の家のそばに来て
「あとは頼むわネ」ー小学1年くらいのコに。

そこから数分、ホステルのゲートに到着。
娘の肩に手を置いて「ダンケ・シェーン!」
彼女ニッコリ微笑んで「サヨナラ~!」
ギョ、ギョ、どうしてこんな小さなコが日本語を?
胸にジンと来て目頭が熱くなったのでした。
スイスはベルンの忘れ得ぬ思い出。

「ベルク」
 東京都新宿区新宿3-38-1ルミネエストB1
 03-3226-1288

2023年4月26日水曜日

第3261話 松陰神社のカフェで一息

目黒駅に戻り、バス停の物色である。
行く先を二子玉川と三軒茶屋に絞り、
思案の末、三茶行きに乗り込んだ。
途中、東急東横線・祐天寺駅前で下車を迷うが
そのまま終点まで行った。

駅前は地方選の運動真っ只中。
喧しくて街の散策何ぞしてられやしない。
東急世田谷線沿いに脱出を図った。
西太子堂、若林と歩いて松陰神社前。

世田谷通りと松陰神社をつなぐ道筋を
往ったり来たりすると閉店した店が少なくない。
最後に訪れたのは5年前だもんなァ。
そのとき入った町中華「一番」は
シャッターが降りていた。
「一番」と迷った「喜楽」もまたしかり。

飲める場所などまず無い中で
カフェが1軒だけ開いていた。
テイクアウト用の窓口から
カウンターのスタッフに声掛け。
「中でビールだけ飲めますかネ?」
「ハイ、どうぞお入り下さい。

声音もいいけど容姿もけっこう。
目元さやけき美女であった。
J.C.がもうちょい若かったら・・・
いや、さすがに無理だな。
もし息子がいたらその嫁に・・・
孫だろ! ってか? ほっとけや!

銘柄はキリンのブラウマイスターのみ。
重々しくて苦手なんだがノー・アザー・チョイス。
片目どころか両目をつぶって発注に及ぶ。
(乙女よ、キミの笑顔だけが救いなんだぜ)
口には出さず、心の内でつぶやいた。

「大利根無情」の平手造酒よろしく
息を殺して一気に飲んだ。
あと味が鼻腔に抜けるのを防ぐため、
すかさず鼻をつまむ。
何でこんな苦労までして飲まなきゃならんのだ。

メニューに山椒サワーがあり、
どんな代物か期待薄で頼んでみたら
やっぱりダメじゃん。
山椒の粉末が散り、アルコールが弱すぎる。
たぶん焼酎だな。
ワンオペの彼女に会計のとき訊ねたら
いいちことのことだった。

滞空15分で2杯飲み、
一息ついて町をぶ~らぶら。
駅の踏切脇の老舗パン屋「ニコラス精養堂」へ。
当店は驚くなかれ、大正元年の創業である。
前回も此処で買い物をした。
今夜のためにケバーブサンド。
明朝用にクロクムッシュを購入する。

遠くから神社に一礼し、
建て替え中の世田谷区役所と
国士舘大学の間の坂を降り、
テクテク歩いて小田急線・梅ヶ丘駅前に出た。
サァ、飲み直し、飲み直し。
テヘッ、頬が緩みますのぉ。

「CAFE DICT」
 東京都世田谷区若林3-17-7
 03-5431-3518

「ニコラス精養堂」
 東京都世田谷区若林1-19-4
 03-3410-7276

2023年4月25日火曜日

第3260話 真っ赤な スープがよくなじむ (その2)

権之助坂「一輪」。
ビールが半分になったところで辛麺が着卓。
おう、おう、赤いねエ、真っ赤だヨ。
表面にフワフワ浮いてる黄色いのは溶き玉子。
合い挽きと思われる挽き肉が絡み、
翠の野菜はニラである。

一匙口元に運んだ。
いや、いや、辛いけれども滋味にあふれている。
普段は昭和の中華そばを愛してやまないが
たまにはこんな赤いのもいいもんだ。
砕かれた鷹の爪が散っていた。
おおっと、厨房からフランクの歌声が流れ出た。

♪   真っ赤なドレスがよく似合う
  あの娘想うてむせぶのか
  ナイト・クラブの青い灯に
  甘くやさしいサキソホン
  ああ ああ 東京の
  夜の名残りの午前三時よ ♪
   (作詞:佐伯孝夫)

「東京午前三時」は昭和32年のリリース。
J.C.一家が東京に出て来た年である。

それはともかく真っ赤なスープが
細打ち麺にもライスにもよくなじむ。
底のほうから塊のニンニクが3個も出てきた。
ちょいと引いたがエ~イ、いてまえ!

飲み干そうか迷いつつ、スープを見つめていると
今度は荒木一郎が歌い出す。
♪   真赤なドレスを君に
  作ってあげたい君に
  愛しているんだよ 素敵な君だけを ♪
  「いとしのマックス」(昭和42年)

そうしたら三橋美智也も馳せ参じ、
♪ まっかな太陽 燃えている
  果てない南の 大空に  ♪
  「快傑ハリマオ」(昭和35年)

三橋とくればやはり美空だろう。
ひばりも負けじとさえずる、さえずる。
♪   真っ赤に燃えた 太陽だから
  真夏の海は 恋の季節なの ♪
  「真っ赤な太陽」(昭和42年)

てなこって今話は
オヨネーズの「麦畑」(平成元年)よろしく、
♪ 真赤っ赤に そめられて ♪
しまったのでありました。
この乱発にゃ浪花の小姑、
顔を真っ赤にして怒るだろうな。

「辛麺屋 一輪 目黒店」
 東京都目黒区目黒1-4-8
 03-6420-0661

2023年4月24日月曜日

第3259話 真っ赤なスープがよくなじむ (その1)

このところ日常生活が今一ピリッとしないので
辛いものでも食べて気を引き締めようと考えた。
第一感はカレーだけれども
辛く熱いスープが飲みたい。

いろいろ調べてそそられたのは
「辛麺屋 一輪」目黒は権之助坂の中腹にある。
入店すると左右の壁際にカウンター。
客はみな壁を向いて麺をすすっていた。

右手に7席、左手に8席。
真ん中は客とスタッフの通り道。
こんな造りは初めてだ。
誰しもスマホをいじくって待つから
これで済まされるんだろう、不思議。

スタッフは外に一人、中にも一人。
女性だけの切盛りはラーメン店には珍しい。
いや、此処はラーメン店ではない。
宮崎発祥の辛麺屋なのだ。
中華麺・コンニャク麺・うどんから択べる。

博多・熊本・鹿児島など
九州はラーメンを愛する県民が多い。
ところが宮崎だけはうどん県と聞いた。
四半世紀も以前になるが
宮崎を訪れたとき、
辛麺なんてついぞ見かけなかったがなァ。

オーソドックスな辛麺(900円)と
ドライ中瓶(550円)の食券を購入した。
辛さは? と訊かれ、フツーと応えたら
1から5まであると言うので長嶋茂雄をー。
 当然のように裕次郎が歌い始める・

♪   背番号・3 言わずと知れた
  男、長嶋 イカスじゃないか
  打って走って つかんで投げて
  茂よ、頑張れ かっ飛ばせ
  晴れのペナント 飾るまで  ♪
   (作詞:大高ひさを)

長嶋茂雄の大のファン、
裕次郎が歌った「男の友情背番号・3」は
昭和34年7月のリリース。
入団2年目のこの年、
前月にはサヨナラ天覧ホーマーを放っている。

それはそれとして「一輪」の辛麺。
麺量を半分にしてもらい、
普段は辞退する半ライスの無料サービスも
そのまた半分でお願いした。
激辛スープをライスでも試したかったのだ。

=つづく=

2023年4月21日金曜日

第3258話 ガード下で泣き笑い

今日もまた雨だ。
このところ雨の日は北千住や町屋など、
都の北に逃げていたが本日は南へ。
というか、都のど真ん中で勝負した。

メトロ千代田線を日比谷で降りた。
改札に直結のミッドタウン日比谷。
そのフードホールを抜けてゆくと
ものすごい人出だ。
雨天といえども週末とあって家族連れが目立つ。
幼子がいるとフードコートは使い勝手がよい。

有楽町ガード下の道産子酒場、
「きたぎん!」に入店。
スタッフのオネエが
「2時間制となってますが、よろしいですか?」
「2時間も居ないと思うけど・・・」
ヤなオヤジだな、素直じゃないヨ。

逆L字カウンターのてっぺんに座り、
サッポロ黒ラベルの中ジョッキ。
お通しはいつものように
一口ネギトロいくらごはんだ。

そして来れば頼むの山わさび涙巻き。
たっぷりの漬けしょうがとともに
六つ切りで運ばれた。

クウ~ッ! 強烈である。
今までに7~8回は食べているが
今日の山わさびはものすごい。
前回なんか山わさびを増量してもらったが
さほどでもなかった。

もし今回、増量してたら命が危険にさらされていた。
これぞ正真正銘の涙巻き。
不覚にもJ.C.、落涙に及んだ。
それでも涙と鼻水をチンして果敢に挑む。

生のお替わりと、以前から狙いを定めていた、
北のラムレバー炙り刺しをー。
フレッシュではないものの、
おろしニンニク、おろししょうが、刻みねぎに
味付けは塩&ごま油、こいつは美味いや、
思わず笑みがこぼれる。
涙巻きともども必注のアイテムとなった。

結局、中ジョッキを4杯飲んで会計は2726円。
13時過ぎに入って退店は14時20分。
1時間15分の滞在だった。

近々、また来よう。
そのときも山わさびとラムレバーで
泣き笑いの人生を楽しもう。

「きたぎん!」
 東京都千代田区有楽町2-1-7
 03-6205-8887

2023年4月20日木曜日

第3257話 予期せぬ巣鴨のワンコイン (その2)

巣鴨で予期せぬワンコインランチを食べている。
缶の発泡酒がカラになってお替わり。
「ちょっと待って下さい」と店主が取り出したのは
アサヒザ・リッチNew と来たもんだ。
「今度はコレになっちゃうんですが・・・」
「いいヨ、いいですヨ、缶の色おんなじだし・・・」
金麦もザ・リッチもネイビーブルーなのだった。

今年でちょうど「フクノヤ」は
創業60周年を迎えている。
もう8年もご無沙汰したが
当時はオフクロさんが元気だった。

とある夜、訪れると彼女が孤軍奮闘。
「あれっ、息子さんは?」
「昼間はまだいいんですけどネ、
 夜んなるとすぐどっかへ行っちゃうの」
「しょうがない息子だネ」
「ホントですヨ」

改心したらしく
朝から頑張るようになったその息子に
(女将サンはお元気?)
よほど訊ねようと思ってはみたが
(亡くなりました)
そう返されるのが怖くて沈黙を守る。
支払いはちょうど千円。
「ごちそうさま!」
「ありがとうございました」

時刻はまだ11時を回ったところ。
今さら喫茶店もなんだかなァ。
この時間に人目をはばからず、
飲めるのは上野しかない。

三田線&大江戸線を乗り継いで上野御徒町。
アメ横の行きつけ「ほていちゃん4号店」は
まだ開店前だ。
すぐそばの本店格、1号店は開いていた。

赤星大瓶とはちみつチーズクリームを通す。
ライスをたっぷり食べたのでデザート感覚だ。
ランチ後の「ほていちゃん」では
よくお世話になるチーズクリームである。

女性陣の”デザートは別腹”を何となく
理解できる気がする。
デザートを食べる習慣はないのにネ。

帰りにはサカナのデパート「吉池」に立ち寄り、
真ほっけ刺身と真鯛の真子&白子を購入。
コロナ禍以来、早めに仕上げて酒肴を整え、
家飲みに徹する機会が増えた。
そろそろマンションの補修工事も
終了した頃であろう。

「フクノヤ」
 東京都豊島区巣鴨2-9-4
 03-3917-0993

「ほていちゃん上野1号店」
 東京都台東区上野6-10-13
 03-5846-6660

2023年4月19日水曜日

第3256話 予期せぬ巣鴨のワンコイン (その1)

棲んでるマンションに補修工事があって
べつに追い出されたワケじゃないが
自主的に退去した。
時刻は9時半過ぎ、どこサ、行くべェか。

そうだ、数年ぶりに
喫茶店のモーニングをいってみよう。
普段、めったに喫茶店を利用しないJ.C.、
思い浮かんだのは日暮里「友路有」、
上野「王城」、浅草「ブロンディー」の3軒だ。

ここで突如ひらめいたのが
昨年末に出逢った巣鴨のレトロ喫茶「ポピー」。
あすこにはドライの小瓶もあるし、
家の前からバスに乗った。

ところが店にはシャッターが降りていた。
帰宅後、チェックしたら定休日でやんの。
モーニングなんてやりつけないことやるから
バチが当たるんだ。
こんな時間に行く先を失い、what can I do?

途方に暮れて裏道に入ると、
1軒の洋食店に白い暖簾がはためいていた。
かつて何度か利用した「フクノヤ」である。
店先に
本日 10時半開店
日替わりランチ 
メンチカツ・カニコロッケ・目玉焼き
ライス・味噌汁付き ¥500

時刻は10時35分で先客が2名も居た。
捨てる神あらば拾う神あり。
九死に一生を得た心持ちなり。

格安のワンコインランチをお願いし、
ビールをと思ったものの、
当店はキリンラガーしかないのを
知っているため、ためらう。

すると壁に 麒麟淡麗生 250 の文字。
ラガーよりマシやろと発注した。
ところが店主が冷蔵庫から出してきたのは
サントリー金麦春の味  
「コレになっちゃうんですがよろしいですか?」
「ああ、いいですヨ」

メンチもカニコロも小ぶりながら立派なもんだ。
千キャベに加え、ケチャスパとマカサラも付いている。
余りの安さに気を取られ、
量の半減を言い忘れたライスは皿にこんもり。
味噌汁はキャベツのかき玉だった。

パラパラと入店して来る客はほとんどが日替わり。
飲みものは付かないものの、
喫茶店のモーニング並みの値段だものネ。

とにかく一番高いのがビフテキの1000円。
ナポリタンとミートソースのスパゲッティは
ともに500円で並盛・中盛・大盛すべて同値。
朝から繁盛するわけだ。

=つづく=

2023年4月18日火曜日

第3255話 荻窪からバスに乗って 練馬に着いた

JR中央線・荻窪駅の改札前を抜けて
南口から北口に移動した。
飲み屋を物色する前に駅前ロータリーで
バスの行く先を確認すると、
「練馬行き、間もなく発車します」のアナウンス。
身体が自然に反応して

♪ 発車オーライ! 明るく明るく走るのよ ♪

「東京のバスガール」から曲は転じて

♪   荻窪からバスに乗って 練馬に着いた
  ここは飲み屋町 男女が飲んでます
  練馬の男女はお人好し
  いいことばかりを 聞かされて
  黒いカラスに ああ騙される
  ああ騙される 悲願花   ♪

五木ひろしのデビュー第二作。
「長崎から船に乗って」は
一作目の「よこはま・たそがれ」同様に
1971年のリリース。
そして翌年の「かもめ町みなと町」へと続く。

3曲すべて山口洋子の作詞だが
「かもめ町・・・」の作曲は筒美京平。
膨大な数に及ぶ彼の作にあって
唯一無二の演歌である。

10年後の「愛しつづけるボレロ」で
再び五木ナンバーを手掛けるが
こちらは純粋な演歌とは言い難い。

話が大きく脇道にそれた。
とにかく練馬駅に到着。
この街で複数回利用したのは2軒。
牡蠣のシーズンが終わりつつあるので
「よつぼし」を回避し、
焼きとんの「春田屋」へ。
此処はくだらないお通しが無いのも良い。

またたく間にドライの中瓶を空け、もう1本、
豚モツの入荷に支障が生じ、
品切れ部位が目立つ。
さすれば、焼き鳥に迂回しようかー。

いやちょいと待て、
何も串焼きに固執することはない。
コペルニクス的転回で
串揚げにしてみようじゃないかー、

串カツと玉ねぎフライを1本づつ。
これが悪くなかった。
「春田屋」は焼き物よりも
揚げ物のほうがよいくらいだ。

おにぎり屋に無かったせいで中瓶3本を完飲。
練馬駅構内の西友で中華総菜を買い求めた。
今宵は家で独り中華。
花彫紹興酒でも飲むとしましょう。

「春田屋」
 東京都練馬区豊玉北5-15-5
  03-6914-6653

2023年4月17日月曜日

第3254話 若大将と紋次郎 (その2)

杉並区・荻窪は
「さんかく山」のけんちん汁定食。
不満はメインのけんちん汁にあった。
出汁感イマイチの白味噌仕立てなのだ。
けんちんの王道は胡麻油香る醤油だろう。
そして里芋の不在があまりに痛ぃ。

大根・人参・椎茸・山えのき・油揚げ、
あと何だったっけ?
数えたら全部で7種あったが
思い出せないくらいに印象が薄い。
ダメだこりゃ!

そして何よりも気になって
仕方がなかったのが隣りの席の若い娘。
風邪だか花粉症だか知らんが
終始、鼻水をすすり続ける。
(うるせェ、オヤジだな)
そもそも鼻はすするもんじゃなく、
かむもんなんだぜ。

日本人はあまり頓着しないが
欧米で鼻すすりはバッド・マナーの極み。
そばやラーメンをすすり続けてきた民族だから
しょうがないかもしれないけど、
今や何でもグローバル化の時代だからネ。

と、言いながらも最近はあまり見ないものの、
欧米人は何度も鼻をかんで
クチャクチャになったハンカチを
ポケットに忍ばせたりしている。

さすがにアレはゴメンこうむりたい。
太田裕美じゃないけれど
ああいうのを「ゴメンのハンカチーフ」と言う。

荻窪で人気のおにぎり屋だったが
何一ついいことはなかった。
おっと、ただ一つ小さなデザートがよかった。
イタリアンのセミドライトマトみたいな
苺の果肉入りアイスは美味しかった。

さァ、これから何処へ行こう。
北口の飲み屋街なら何とかなるかも?
「さんかく山」は結局、
ゴメンのおのぎり屋だった。

ボクは死ぬまで此処に戻らないゾ。
いいだろう?
あっしには関わりのねェ、
お店(たな)でござんした。
今話は若大将と紋次郎でまとめてみました。

「おにぎりの さんかく山」
 東京都杉並区荻窪5-29-9
 03-5397-1955

2023年4月14日金曜日

第3253話 若大将と紋次郎(その1)

この日は行方を定めず、メトロの人。
国会議事堂前で千代田線から
丸ノ内線に乗り換えた。
終点の荻窪へ行くか、
一つ手前の南阿佐ヶ谷で降りるかー。
終点まで乗った。 

南口方面をプラプラしていて
遭遇したのは「さんかく山」。
おにぎり屋である。
たまあにコンビニで買うことあれど、
専門店にはもう何年も足を踏み入れていない。
ここで会ったが三年目。おジャマしました。

おにぎりが主体なれど、定食仕立てが主流。
豚しゃぶや生姜焼き、
唐揚げやチキン南蛮とのコンビネーションだ。
ビール1本&おにぎり2個で
モア・ザン・イナッフの身には勝手が異なる。
翠富士に肩を透かされたよな気分。

今さらきびすを返すわけにもいくまい。
観念してカウンターに着席した。 
周りはほとんど女子。
イヤな予感を抱きつつ、
「ビールなんてないッスよネ?」 
「ええ、置いてないんですヨ」 

アチャー!
だから言ったじゃないの。
入りつけないとこに
飛び込むんじゃないヨ、ったく。 

おっ、鎌倉は建長寺由来のけんちん汁定食がある。
余計なおかずが付かないのもありがたい。
焼きたらこ、梅干しのおにぎりと
ともにお願いする。

通したあとで不図思い、
けんちんを半分に減らしてもらった。
結果的にこれが正解だったが
それでもお椀はフツーの味噌汁二杯分はあった。

小鉢の3点セットは
ナムルみたいな味付けのほうれん草、
炒り豆腐、ひじき煮。
新香が桜大根。
そして主役のおにぎりがドデカい。

それにしても近頃の女性は実によく食べる。
定食のおかずもけっこうなボリュームなのに
とてもじゃないが、ついてけないヨ。
「アナタについて来ていただきたいの」ー
なんて言われやしないけどネ。

=つづく=

2023年4月13日木曜日

第3252話 昼飲み天国 町屋駅ビル


今日もまた雨かァ。
雨でも出かけるJ.C.は
雨でも濡れずに行けて飲める店を目指す。

メトロ千代田線で千駄木から2駅。
町屋にやって来た。
駅ビル内の「ときわ」は去年の秋以来だ。

入れ込みの小上りに陣を取ったら
即刻、ドライの大瓶をクイッ、クイ。
膨大な数の短冊を見上げ、
遠い所は出向いて行って
本日の傾向と対策を思案した。

日頃あまり口にしない、
珍しい小物を集中的に攻めてみよう。
初めの2品は奈良漬、こまい一夜干し。
8切れと5尾はちと多いが、まっ、いいでしょう。

こまいは添えられたマヨネーズに
卓上の七色を振って、
アタリメみたいに味わうのが正解。

北海道の鵡川(むかわ)に揚がる、
本ししゃもは別格として
カペリン(樺太ししゃも)だったら
断然、こまいに軍配である。

大瓶をもう1本。
同時に山形だしを所望した。
山形の郷土料理”だし”は地方や家庭によって
微妙な違いがあるが
主役はきゅうり&なすに代表される夏野菜。

細かく刻んで
みょうが&しょうがなどの香味野菜と和え、
昆布だしや麺つゆで味を調える。
当店はほとんどきゅうりだけだった。

昼めし代わりの昼飲みにつき、
仕上げにもう1品欲しい。
おっと、初めて気づいたが炒り豚がある。
ん? 奈良・北海道・山形と日本各地をめぐり、
締めは東京の下町を代表する酒場の定番で決める。

豚肉と玉ねぎを炒った(炒めた)つまみは
塩味とケチャップ味があるが「ときわ」は後者。
それもケチャップがこれでもかと
大量に投入されている。

周りを見渡すと、昼めしと昼飲みは半々。
靴を脱いだり履いたりするのが面倒なのか
小上りは人気がない。

14時半となり、ラストオーダー。
そうなんだ、この中休みさえなけりゃ、
「ときわ」は東京屈指の昼飲み天国だけど
ここは片目をつぶりましょう。

「ときわ」
 東京都荒川区荒川7-50-9サンポップ町屋B1
 03-3809-2335

2023年4月12日水曜日

第3251話 霞ケ浦のほとりへ (その3)

てなこって16時ちょうどに入店すると
1分と待たずに相方登場。
逢うのは実に20年ぶりである。

多少はオバハンになってるかと思いきや、
あのときのまんまの姿で現れた。
容姿の衰えはまったく見られない。
不覚にもJ.C.、胸が騒いでしまう。

何はともあれ、再会を祝して乾杯。
ドイツの生、ビットブルガーのジョッキをガツン。
一しきり言葉を交わして一息つくと
天井から裕次郎の歌声が降って来た。

♪   やせたみたいと 眉をよせて
  からだを気づかう 心は変わらない
  そういえばあの頃は
  つれない素振りをしたっけ
  あれからどうしていたのかい
  誰かと幸せでいたのかい
  それぞれの冬を越えて
  めぐり逢えたね 昔の様に

  あれからどうしていたのかい
  素敵な恋をしたのかい
  馴染みの店のカウンター
  今はふたり 思い出さがし ♪

   (作詞:五輪真弓)

五輪真弓が裕次郎のために書き下ろした、
唯一の曲「思い出さがし」は1982年のリリース。
もちろん作曲も彼女自身、好きだ。

ドイツのシュペート・ブルグンダー、
いわゆるピノ・ノワールが切れており、
イタリアのモンテプルチアーノを抜いてもらう。
つまみはラックスシンケン(生ハム)と
ザウアークラウト(酸っぱいキャベツ)のみ。
重い料理は何も取らずに
ひたすらグラスを重ね、2本空けた。

昔はよく銀座のオーセンティック・バーで
飲み明かした二人。
何だって、こんなにイイ女を20年も
放ったらかしにしたんだろう。
バカかオマエは! 
今さらながらに悔やまれる。

J.C.もヤキが回ったとしか言い様がない。
でも、今日からはかくも長き空白を
埋めるがごとくにより永く、
親交を深めてゆくことになろう。
歓ばしき哉、人生!

今話は柄にもなく、つい、調子に乗り、
のろけてしまいました。
おゆるしをー。

=おしまい=

「エルベ」
 茨城県土浦市中央1-13-1
 029-821-1343 

2023年4月11日火曜日

第3250話 霞ケ浦のほとりへ (その2)

亀城公園を一めぐりし、市内の散策。
繁華街にやって来ると、
いかがわしい所が目につくようになった。

「酒乱歩乱」なるカラオケバーは
江戸川乱歩もビックリだろう。
巣鴨信用金庫になぞらえた、
「素股信用金娘(こ)」なんてのもあり、
こちらはモロにフーゾクだ。

ホンの数分の間でソープランドの客引きに 
声を掛けられること三度。
よっぽど好き者に見えるらしい。

冗談じゃないぜ。
こちとらフーゾクは苦手なんだ。
ってゆううかァ、まったく縁がないんだヨ。
若い頃から素人で手一杯だったから(イヤな言い方)。

あちこちほっつき歩いて
16時ちょい前にはジャーマン・レストラン、
「エルベ」に戻って来た。
エルベ川はヒトラーが最初に侵攻した、
ズデーデン地方を源に北海へ注ぐ大河である。

先刻の「亀屋」同様、
「エルベ」も6年前に存在を把握している。
何でまた、土浦にドイツ料理屋が?
強く印書に残ったのだ。

元カノ・F子に当店を提案したとき、
一悶着というほどではないにせよ、
可笑しいことがあった。

「ドイツ料理の『エルベ』で逢おうか」
「エッ? どうして『エルベ』なの?
 美味しくないわヨ、ずっと閉めてたし・・・」
「まあ、いいじゃないか」
「行かなきゃいけない理由でもあるの?」
「理由なんてないサ、ただ飲み食いするだけ。
 何か不具合な点でも?」
「だって、会社の真ん前なんだもの」
「エエ~ッ!」
「会長なんか来ると面倒だし・・・」
「会長来たら、そっちへ伝票回すヨ」
「アハッ、うん、判った。
 アナタが行きたいんなら其処でいいわ」

いや、驚いた。
茨城の片田舎といえども
土浦は人口14万を擁する街、
そこそこの広さはある。
いくらなんでも職場と店が
向かい合わせはあんまりだ。

=つづく=

2023年4月10日月曜日

第3249話 霞ケ浦のほとりへ (その1)

この日は霞ケ浦のほとりの街、土浦へ。
日暮里からJR常磐線で一直線、
終点の土浦まで70分、13時前に到着した。
この街は6年ぶりである。

霞ケ浦の湖岸には立たず、
遠くから一望しただけ。
街中を歩き始めた。

元カノとの待ち合わせは16時。
何か軽くつまんでおこう。
と言いつつもガスの補給ができりゃいいんだ。
車中の缶ビールをずっとガマンの子であったからネ。

以前来たときに亀城(きじょう)公園のそばに
目星をつけておいた食堂がある。
その「亀屋」に向かった。
「亀屋」だけに亀のはく製が1匹、
壁から天井を見上げていた。

ドライの中瓶で一息つきながら
壁の品書きを吟味するも軽いつまみは皆無。
単品料理もボリュームのありそうなものばかりだ。
お運びのオネエさんに伺いを立てるも
妙案がない。

思いあぐねて
「塩ラーメンを麺半分でお願いします」
「それができないんですヨ。
 麺一玉使うんで」
「そうか大盛りが二玉なんだネ?
 すると残すか、捨ててもらうしかないんだ」
「ハイ」
「それもイヤだな」

結局、一番サイズの小さいミニかつ丼に落ち着いた。
箸袋に”茨城県銘柄豚ローズポーク指定店”とあるから
ミニといえども期待できるかもしれない。
着卓したそれはそこそこのボリュームがあった。

トマト&レタスのサラダ、焼き麩&わかめの味噌椀、
きゅうりキャベツ浅漬け&桜大根の新香を従えている。
かつは薄いものの肉質良好、割下の塩梅もよろしい。
だけどネ、2時間半後にはドイツ料理が待っている。
中瓶2本で副菜はクリアしたが
かつとじのアタマ半分、ごはん3分の2を残した。

お隣りの亀城公園へ。
亀城は土浦城の別称。
櫓の数がやたらに多い。
ひょうたん池の前にサルの番いの檻。

おう、おう、居た、居た、りょうた&すみれがー。
6年前と同じカップルだと思われた。
しかし、日当たりの悪い鉄格子の中に
閉じ込められた2匹は幸せそうには見えない。
これは動物虐待にほかなるまい。
ムツゴロウ先生が見たら烈火の如く怒り出すだろう。

=つづく=

「亀屋」
 茨城県土浦市中央-1-13-52
 029-821-1128

2023年4月7日金曜日

第3248話 雅子の白い顔 浮かんで

文教の都、文京区の 東大農学部から
千石に抜けてゆく旧白山通り。
この道筋に「玄奘(げんじょう)」なる、
中華料理屋があるのは前から知っていた。
本格派ではないフツーの町中華だ。

利用した試しがないのは通りすがるたびに
客がまったく入っていないため。
この日は白山上に用事があり、帰りに立ち寄った。

ガラス越しにのぞくと案の定、先客ナシ。
いや、一番奥に女性が独り。
珍しいことがあるもんだ。
でも時刻は正午を回ったところ。
ランチタイムど真ん中に一人はまずいやろ。

二人目になってやろうと入店。
すると先客が歩み寄って来た。
何だ、なんだ、逆ナンパかァ?
近頃の娘は積極的だからなァ。

あん? あらら、早とちりだったヨ。
何のこたあない、お運びのオネエじゃんかー。
客がいなくとも立ってなさいっての。
拍子抜けしながらも
一番搾りの中グラスを通し、品定め。
いえ、娘じゃなくて食事のです。

おっ、ミニラーメンとミニチャーハンが
揃ってるじゃないか。
少食派にはうってつけのコンビだ。
オネエに
「ミニとミニってありかな?」
「ダイジョウブです」
ちゃんとした日本語は
アチラ系ではなくコチラ系。
このコは正真正銘の国産だ。

ミニラーは中太の激しいちぢれ麺。
固ゆでだからバッツンバッツンの食感。
醤油スープはいささかも化調を感じさせない。
厚く大きいバラ肉チャーシューに
シナチクとワカメが浮き沈み。

ミニチャーにはチャーシュー・玉子・長ねぎ。
真っ赤な紅しょうがは余計だが
食べなきゃいいだけのこと。
これでミニかい?と思わせるほどの量だ。
頑張ってはみたものの、少しだけ残した。

さて、この玄奘は
「西遊記」でおなじみの三蔵法師のことだが
三蔵法師は普通名詞で、ほかにもたくさんいる。
固有名詞の玄奘三蔵が正式名称だ。

けれども子どもに親しまれる「西遊記」で
玄奘三蔵じゃ、いかんせんとっつきにくい。
あれほど人気にはならなかったろう。

食事後、天井を見上げてたら
孫悟空のマチャアキとともに
夏目雅子の白い美顔がまぶたに浮かんだ。

目の前のオネエもよくよく見りゃ、
なかなかの美形だ。
また、来るとしますかの?

「玄奘」
 東京都文京区白山1-25-13
 03-3812-4965

2023年4月6日木曜日

第3247 話 桜の谷中霊園、その後で (その2)

三崎(さんさき)坂上の「珎々亭」に入店。
いつものように昭和のタンメンを注文した。
ここのビールは苦手なキリン・クラシックラガー。
WBクラシックは存分に楽しませてもらったが
クラシックラガーはいただけない。
一球見送った。

タンメンが着卓したけれど、
あれェ、スープがこんなに少なかったっけ?
なみなみに程遠く、辛うじてヒタヒタてな感じ。
絶対量が足りないから
すっかり乳化しちゃってる。
味付けは確かにアッサリながら
スープはもっとスッキリが望ましい。

具材は、もやし・キャベツ・玉ねぎ・ニラ・
小松菜・にんじん・キクラゲ、
そしてベーコンみたいな豚バラ肉1枚。
計8種類で言わば、八宝菜麺だネ、これはー。
750円の値打ちはじゅうぶんにあった。

支払い時、女将さんが声を掛けてきた。
「今日は暖かくていいお日和ですネ」
「今、霊園の桜並木を歩いてきました」
「まだ残ってますか?」
「逆七分くらいですネ」
「そろそろ今年も終わりかなァ」
「満開とはまた違って散る桜もいいもんです」
「確かに」

その足で霊園に舞い戻る。
さっき来た桜通りを逆に歩く。
いえ、もう一度桜を見たいんじゃなくて
目指すは日暮里駅。
ガス欠解消を目論んでいるのだ。

乗降客の少ない南改札の前を抜け、
急な石段を降りた。
ロータりーに面するマイ・ブレイクルームで
ビール&点心セットという手もあったが
現状、何も食べたくない。

駅に隣接するビルの3階、
牛めし屋の引き戸を引いた。
牛めしに見向きもせず、中瓶をポチッ。
トクトクトクのグイッ! 生き返った。

食わずに飲むだけ。
こんな芸当は牛めしの「M」だからこそ。
牛丼の「Y」でも可能だろうが、やりにくい。
しょっちゅうガス欠を起こすポンコツ車にとって
「M」は地獄で仏的存在なのです。

珎々亭(チェンチェンテイ)」
 東京都台東区谷中5-1-1
 03-3821-3970

2023年4月5日水曜日

第3246話 桜の谷中霊園、その後で (その1)

散りゆく桜に別れを告げたい気分。
「来年またネ」とー。
夕焼けだんだんを上り、御殿坂を下り、
JR日暮里駅を眼下に見つつ、
天台宗・天王寺の脇から谷中霊園に足を踏み入れた。

桜の隧道として世に名高い、
さくら通りの並木は逆七分咲き。
葉桜も目立ち、もはや余命いくばくもない。

天王寺の五重塔の跡地に来た・
昭和32年7月。 
この塔は心柱を残して焼け落ちた。
裁縫所に勤める48歳の男と
21歳の女の恋情の果てに。

台東区に金が無いのかケチなのか
緑のたぬきが予算を割いてくれないのか
設計図が残っているにも関わらず、
何故か再建がなされていない。

霊園を抜けたらそこは三崎坂上。
今日のランチは
ブルターニュ名物のガレットと決めて来た。
そば粉のクレープである。

以前はガラガラだったのに
最近はそこそこ人気の出て来た、
「ル・コワン」に到着すると、
何てこったい10人ほどが蛇状態・
それも若い娘ばかりなりけり。

最近、多いんだよな、
街に花咲く乙女たちの神をも恐れぬ食い歩き。
街も店も自分たちのためだけにあると
信じてやまない傍若無人ぶり。
おかげでオッサンたちは行き場を失うヨ。

こんなの並んでいられっかい!
こちとらそこまでヒマじゃねえんだぜ。
いえ、実際はヒマなんですけど。
キビスを返して下りかかった坂を逆戻り。

あっさりとした昭和のタンメン
心の和む立て看板が目にもやさしい、
典型的な町中華、
珎々亭(チェンチェンテイ)」。
何度かお世話になっているが
当欄で紹介したことはないと思う。
本日もおジャマしまッス。

=つづく=

2023年4月4日火曜日

第3245話 W・デートの錦糸町 (その2)

「こりゃあ、ヒドいぜ山チャン!」
 とてもじゃないが飲めないヨ」
「あら、そうですか? 
 女性には人気なんですけど・・・」
「女はワインの味、判んないからな」

隣りのA子・その2には
聴こえぬようにつぶやいたつもりが
聴こえちゃったらしい。
心なしか眉が吊り上がった。
ごめんね、ごめんねー。

2本目はスペインの赤、エル・チルコ。
セパージュはガルナッチャ(グルナッシュ)。
断然、こっちだネ。

遅いブランチが消化しきれず、
料理にはフォークを付けなかったが
一同は鶏レバームース、マカロニグラタン、
ミートドリアなどを平らげていった。

この日は開店と同時の16 時スタート。
職場が京橋のW・A子は
午後の半ドン(こんなんあるんか?)で
仕事を切り上げて来たらしい。
19時前に二人はそれぞれ、
調布と川口に帰って行った。

オッサン二人はそうもいかない。
錦糸町では名の知れた酒場「三四郎」へ流れた。
赤星のグラスを合わせる。
今日はサッポロの日だ。
注文をN田に任せ、トイレに立つ。

運ばれたのはまぐろ刺し。
これは中トロ、良質で旨し。
豆腐の入ったもつ煮込みに
炭火の焼きとんは4本来たので2本づつ。
当方の取り分はハツとシロ。
甘辛いタレが場末感に呼応してよろしい。

燗酒に切り替えていた相方のお流れ頂戴。
熱燗がちょいと冷めて上燗になり、いい塩梅。
銘柄は忘れたが、いや、
ハナから確かめちゃいなかった。

二合徳利をお替わりし、
ともに好い心持ちになって夜の街に出た。
「今度は梅雨入り前あたりか?」
「そうだな」
握手を交わして
「それじゃ、また!」

「vivo daily stand 錦糸町店」
 東京都墨田区江東橋4-21-6
 03-6240-2101

「三四郎」
 東京都墨田区江東橋3-5-4
 03-3633-0346

2023年4月3日月曜日

第3244話 W・デートの錦糸町 (その1)

3月初旬のこと。
墨田区・錦糸町の行きつけ店、
「vivo daily stand」の山チャンを訪ねた。
彼女がJ.C.と盟友・N田との
2ショットをインスタにアップしたため、
N田への転送をお願いするためだ。

その旨、彼に電話で伝えたところ、
近いうち「vivo」で飲む運びにー。
するとほどなく隣りの席に
鶴ならぬ鳩が舞い降りたのだ。

こんなケースはいつも山チャンが
仲を取り持つように会話を促すので
言葉を交わすうち、N田との酌交に
彼女も参加することにー。
名前をA子というが、これは一種のナンパだネ。

翌日、彼女からLINEで
女友だちを同伴してもよいかと打診あり。
ウェルカムと応じた。

そうして迎えた月末。
4人がカウンターのカドカドに陣取った。
友人も名前は違えどイニシャルはA子。
結局は薬局、W・A子とW・デートになりました。

サッポロ黒ラベルの生で乾杯。
例によってJ.C.は泡完全抜きである。
先日も隣りに居合わせた若い衆に
「究極の泡ナシですネ!」ー感心されたばかり。

ピッチの速い当方は立て続けに3杯。
他の3名はたった1杯でワインに移行した。
山チャンのオススメにより、
抜いたボトルは今が流行りのオレンジワインで
その名もORANGE、ルーマニアの産と来たもんだ。

J.C.のグラスにも注がれたから
ものは試しと一口含む。
ん? んん? 飲み下して、ん? 
松田優作じゃないが、何じゃこりゃあ!
いやはや、不味いのなんのっ!

3人はどこ吹く風。
馬耳東風の牛耳西風。
すぐに1本開けちゃった。
どういう味覚してんだろうな。

呆れたJ.C.、手招きして
バーテンダレスを呼びつけたのでした。

=つづく=