2012年8月31日金曜日

第394話 ふたりの大塚

ひとりで大塚の町をハシゴした夜から
数週間が経った。
早いハナシが先週末のこと。
フィリピンはマニラ在住ののみとも、
H澤サンと一晩、酒盃を交える運びとなった。

都内ならどこへでも出向くと言うので
行く先を一任されたJ.C.が選んだスポットはまたもや大塚。
伴った友人たちがこぞって絶賛する「江戸一」と
「富久晴」にぜひとも案内したかったのだ。

てなこって今回は「ひとりの大塚」に非じ、
「ふたりの大塚」とシャレのめすことに。
もっともオトコ二人じゃ色気はまったくない。
頬よせあって踊るわけにもいかないからネ。

大塚駅改札で落ち合って歩く道すがら
彼曰く、若い頃に大塚へはたびたび来ており、
言わば青春時代の思い出が詰まった町らしい。
訊けば半世紀前に当時の彼女と
前述の両店を一度ずつ訪れたというではないか。
ちゃんと行くべきとこには行ってるんですなァ。

まずは「江戸一」が定石ながら
この夜はからめ手から攻めた。
風格漂う「江戸一」で
つまみをあれこれ並べるのはスマートじゃない。
事前にそこそこの腹ごしらえが必要となる。

「富久晴」ではH澤サンに
もつ&野菜焼きを15本ほど食べてもらった。
こちらは6本でストップ。
小ぶりな串がスイスイと胃袋におさまってゆく。

「江戸一」では
旧知のW辺サンとまたまた再会。
しかも当夜は隣り同士となり、会話も弾む。
いや、楽しきかな。

さっそく冷えた白鷹を。
肴はさんま刺しとチョイ焼きたら子。
さんまは今期初めてだが
鮮度といい、脂のノリといい、非の打ち所ナシ。
青背のサカナは酢〆が好みながら、コイツにはヤラレた。
たら子のほうも毎度変わらぬ美味しさだ。

白鷹のあとはいつものヤツ。
菊正宗の一合瓶である。
若女将が推奨してくれた鯨のベーコンを追加する。
千切りになってはいるが世界最大の哺乳類、
白長須鯨のソレだと言う。
なかなか口に入るものではないからありがたく頂戴した。

酒は2合ほどで切上げる。
店の前でタクシーを拾い、神保町へ。
わがホームグラウンドの「やまじょう」はH澤サンもおなじみサン。
この店のことは過去に何度も紹介したから
本日はこれにで打ち止めといたします。

「富久晴」
 東京都豊島区南大塚2-44-6
 03-3941-6794

「江戸一」
 *昨日のブログをご覧ください

2012年8月30日木曜日

第393話 ひとりの大塚 (その2)

ことあるごとに何かというと
足が向いてしまう大塚にひとり来ている。
サア、どの店から攻略していくか。

初手は2年ぶりとなる「名匠 上木家」とした。
銀座のクラブで働いていた男の子二人が
独立して始めたたこやき店である。
屋号は彼ら上田・木村の苗字から一字ずつとった。 
缶ビールとたこ焼きを5つ、
窓の外を眺めながら楽しんだ。

お次は当ブログに何度か登場している「江戸一」。
大塚といえば真っ先に思い浮かぶのがここ。
案内した友人たちがみな歓んでくれるのもうれしい。
この手の酒亭では東京一、
いや、店名通りに江戸一であろう。

缶ビールを飲んできたから菊正宗の一合瓶を常温で。
めったに頼まない焼き魚のリストをもらい、
これもめったに頼まない生鮭の塩焼きをお願い。
生ならバタ焼きが一番だけれど、
「江戸一」にバタ焼きはないし、ただ漠然と注文していた。

お通しの塩豆、いや、塩は効いていないから
これは何と呼ぶのだろう、いわゆる豆まき用の豆を
つまみながら独酌にいそしむ。
小学三年生のときだったか、節分に食べ過ぎて以来、
見るのもイヤになっていたが、また食べられるようになった。

自著やコラムの読者にして
数年前からおつき合いのあるW辺サンが来店。
はす向かいに落ち着いたので会釈を交わす。
カウンター越しの会話みたいな無粋な真似は
風格漂う店の雰囲気をこわすからもちろんしない。

焼き上がった鮭を見てブッタマげた。
カップルで立ち向かってもよさそうなサイズに
大量の大根おろしが添えられている。
このおろしが実にありがたい。

やはりビールが飲み足りなかったようだ。
エビスの黒の小瓶を所望する。
それに続いたのは泉正宗のぬる燗。
つまみは鮭一品でじゅうぶんだった。
次回から独りのときはチョイ焼きたら子くらいにしておこう。

当夜の3軒目。
南口から北口に廻り、
以前から行こう行こうと、気に掛けていた「天平食堂」へ。
ドンブリものが人気らしいが、飯はもうとても入らない。
大きな鮭のあとでサカナに食指が動くはずもなく、
滋養と食物繊維を同時に摂取できるレバニラ炒めにした。
生ビールにもピッタリであろうし・・・。
ところが1皿500円のこのレバニラ、好みの味にはほど遠い。
こういう料理は大衆食堂より町の中華屋だよねェ。
早いとこ自宅に舞い戻ってキャベジンでも飲んどくか。


「名匠たこ焼き 上木家」
 東京都豊島区北大塚2-28-7
 03-3949-9368

「江戸一」
 東京都豊島区南大塚2-45-4
 03-3945-3032

「天平食堂」
 東京都豊島区北大塚1-34-13
 03-3917-5391

2012年8月29日水曜日

第392話 ひとりの大塚 (その1)

 ♪ 頬よせあって あなたと踊る
   別れに似合いの 新地のクラブ
       泣かない約束 してたのに
       おまえの背中が  しのび泣く
       残りわずかな この刻を
       あゝ抱きしめて
       ふたりの大阪 ラストダンス ♪
           (作詞:吉岡治)


都はるみと宮崎雅のデュエット、
「ふたりの大阪」は1981年にリリースされた。
今も心に残るこの年のベストテンは

 ① サヨナラ模様
 ② メモリーグラス
 ③ ブランデーグラス
 ④ まちぶせ
 ⑤ みちのくひとり旅
 ⑥ ルビーの指輪
 ⑦ すみれ色の涙
 ⑧ セーラー服と機関銃
 ⑨ 群青
 ⑩ ギンギラギンにさりげなく

といった具合。
ほかにも
 長い夜 お嫁サンバ 奥飛騨慕情 守ってあげたい
 恋人よ ジェラシー ハロー・グッバイ
など、数えだしたらキリがない。

ひるがえって都はるみ。
この偉大な女性歌手をJ.C.は好きなのか、
そうでもないのか、自分でもよく判らん。
デビュー当時からずっと見てきたから
彼女のことはよお~く知ってるつもり。
でもネ、いざはるみのベストスリーを問われると、
金メダルの「涙の連絡船」と
銀の「好きになった人」は確定の赤ランプながら
銅が思い浮かばない。

レコ大受賞曲、「北の宿から」も今ひとつだし、
「小樽運河」ならロマンチカの「小樽の人よ」のほうがいい。
考えあぐねた末、「夫婦坂」にしてみた。
もっともこれは1984年、紅白歌合戦の影響ミエミエ。
あの年の都はるみによる大トリは
日本芸能史に足跡を残す大イベントだったもの。

何で「ふたりの大阪」からハナシをここまで引っ張ったのかって?
いえ、とある孤独な夜のことでした。
池袋と巣鴨にはさまれた大塚の町を独りさまよったのでした。
そう、「ふたりの大阪」ならぬ、「ひとりの大塚」なのでした。

=つづく=

2012年8月28日火曜日

第391話 精はしっかりつけたけど・・・ (その2)

若者にも中高年にも人気の散歩スポット、
谷中はよみせ通りの「山ぎし」にいる。
この日の昼めしはぜいたくをしてうなぎ。
といっても金九百円也のうな丼だけどネ。
千円札2~3枚は覚悟の重箱なんか奢ってしまったら
家計のひっ迫は火を見るより明らか、
瀬戸物のドンブリでジッと我慢の子になった。

壁の短冊を見上げながら、うな丼が整うのを待つ。
そういやあ最近、ねづっちを見掛けないなァ。
おっと、ここは根津じゃなくて谷中でした。
夜に来たらつまみに何を注文するかナ?

 里芋煮260円 肝の佃煮. 鯉こく 上新香 各300円
 鯉のあらい500円 うざく うまき 各600円

ホントだねェ。
店頭にあった貼り紙の通り、かなり安い値付けだ。
見ているうちに里芋の煮たヤツで一杯飲りたくなった。
いや、ここは我慢、ガマン。

 たまにはイタリアン あらいのカルパッチョ 650円

奇抜な一品があった。
鯉のカルパッチョかいな、こりゃイタリア人もビックリだ。
でも少々、気色悪いネ。

運ばれたドンブリはドンブリではなかった。
ちょいとデカめの茶碗であったのだ。
貧相な主役は半尾あるかないか。
大ぶりのうなぎは途中で飽きるから不満はないが
茶碗ってのが引っかかるんだよねェ。
まっ、うなぎ自体は可も不可もナシというところ。

それより2本の肝焼きが巨大。
貧弱な蒲焼きをカバーするかのごとくだ。
レバーや腸管を背びれ+身皮のえり巻きが
グルリ取り巻いて異様な姿をしている。
えり巻きのせいで肝心の肝に直火が当たらず、
香ばしさの欠如をもたらしている。
精力だけはしっかりつけたものの、
策士、策に溺れるの典型例がここにあった。

新香は大根・きゅうり・白菜。
吸い物はわかめと三つ葉。
どちらもおざなり、パッとしない。
そして許しがたかったのはヤワヤワのごはん。
めしをにぎってつぶてを作り、
炊いた張本人に投げつけてやりたくなった。
もっともこんなにヤワくちゃ、
バラケちまってつぶてにならんか・・・ ハア。

「山ぎし」 
 東京都台東区谷中3-13-9
 03-3827-5763

2012年8月27日月曜日

第390話 精はしっかりつけたけど・・・ (その1)

汗だくだくで真昼の寺町・谷中を歩く。
牛丼やかつ丼のつゆだくは大嫌いだが
汗だくは嫌いではない。
ゴルフを断って12年、運動をまったくしないから
歩け歩け運動のほかに何があろう。

夕陽見の名所、夕焼けだんだんは
JR山手線・日暮里駅と
東京メトロ千代田線・千駄木駅の中間あたり。
階段の下から始まる谷中銀座は日暮里が最寄りだろうが
よみせ通りは千駄木が近そうだ。

その日は少々奢って昼めしをうなぎとした。
よみせ通りの「山ぎし」は初訪問。
店先がゴチャゴチャと整頓不行き届きにつき、
ずっと入る気がしなかったのだ。
たまたま店頭に界隈で一番安いうなぎ屋云々とあり、
つい誘われて敷居をまたいでしまった。
はたして吉と出るか、凶と出るか。

数年前、鳥越おかず横丁に同名店があり、
一夜、出掛けて行ったら閉業していて食べ損ねた。
東大農学部前から白山上に抜ける通りにも
やはり同名の小ぢんまりとした店が
こちらは今でもある。
持ち帰り専用店のようだが試したことはない。

さて、谷中の「山ぎし」である。
うな丼が900円と激しく安い。
うなぎの稚魚の不漁に端を発したうなぎ高騰のご時世に
この値付けはまさに「インフレ飛んでけ!」だ。
いや、ご立派。

ただ、不安になったのはこのドンブリ、
店頭に価格表示があったのに
卓上の品書きには裏表ひっくり返しても見当たらないのだ。
おひやを運んでくれたアンちゃんに駄目元で
「うな丼ください」
「ランチのうな丼ですネ?」
「エッ、ハイ!」
てなこって一応、注文可となった次第。
隠すなよな、ちゃんと書いといてくれよな。

同じく店頭に2本で340円とあった肝焼きもお願い。
ところがこの肝焼き、壁に貼られた短冊の値段のところが
張り替えられて500円に改定されている。
今さら1本にしてくれとも言えないし、まっ、いいか。

後学のために品書きをあらためて吟味する。

うな重
 松1400円 竹1800円 梅2000円 桜(フルーツつき)2500円

定食
 きじ焼き 柳川 鯉(あらい&鯉こく) 親子鍋 各1050円
 うな玉鍋1250円

うな重の最安値が1400円だぜ。
900円じゃいったいどんなドンブリがやって来るんだろう。

=つづく=

2012年8月24日金曜日

第389話 焼売・餃子はビールの良き友

五反田で所用を済ませたのが18時ちょっと前。
時間的にはそろそろごたんだ、もとい、ごはんだ。
といっても、わが身は晩めしより晩酌を欲している。
この町には何軒か気に染まった店がある。
でも、当夜は未踏の店を訪ねてみたかった。

昭和22年の創業ながらその歴史どころか
存在すら認知していなかった「亜細亜」に入店。
店名からはアジアン・エスニックを想像しがちだが
終戦直後にそんなのあるハズがない。

「亜細亜」はレッキとした広東料理店で
鮮魚の清蒸と焼売が名物だという。
単独行動でもあるし、
いきなりズドンと真っ向勝負は回避しておきたい。
まずは小当たりに当たって様子を見るのが得策だ。
食いもの屋もオンナもそれがアプローチのセオリーであろう。

したがって初手は無難に7六歩。
いわゆる焼売で参りましょう。
とまあ、何だかんだとゴタクを並べたが
要するにその時点で一番欲しかったのは
何のことはない、よく冷えたビール。
合いの手に最良の一皿が焼売だっただけのこと。
スーパードライの中瓶(550円)に4カン付けの焼売(500円)を。
豚挽き肉と玉ねぎのバランスよかれど、粉々感が強い焼売だ。
評判ほどではないにしても水準には達していた。

壁には蒸し魚のメニュー。
カレイが3000円でカサゴが2800円。
広東風清蒸の王者、ハタの名前はさすがになかった。
清蒸はまっことハタに如くはナシ。

2軒目はちと思いつきがあり、三田まで歩くことにした。
三田といっても「ラーメン二郎」に行くわけではない。
この歳であんなん食ったら死んじまうヨ。

やって来たのは店名のない、学生街の餃子店。
客は仕方なく「餃子屋」と呼んでいるらしい。
谷中は夕焼けだんだんの下に婆チャン独りが切盛りする、
「餃子屋」という名の「餃子屋」があったが、いつの間にか消えた。

三田の「餃子屋」は2年ぶりの再訪。
ここも女将独りの切盛りだがその間に老け込んだように見えた。
品書きは相も変わらず、
水・焼き・野菜の餃子3種(6カンで450円)と、
ジャージャー麺(700円)のみ。
ランチタイムには餃子+ジャージャー麺を1000円で提供する。

一番搾りの中瓶(500円)と焼き餃子をお願いしたら
突き出しに茹でグリーンピースが出て、これは2年前と一緒。
餃子のカタチは丸っこい、ふくら雀タイプだ。
ラー油の効いた醤油ダレが添えられる。
タレには途中から酢を加え、アクセントをつけた。
名もない「餃子屋」の餃子に
特筆する点はなくとも水準はクリアしている。

中瓶2本に焼売と餃子を1皿ずつ。
中国伝来の両者はともにビールの良き友だし、
今宵はこれでおさめるとしよう・・・か。
んなことあるハズないじゃないですか。
乗り込んだ都営・三田線の降車駅は
芝か、日比谷か、神保町か?

「亜細亜」
 東京都品川区東五反田1-13-9
 03-3441-7824

「餃子屋」
 東京都港区芝5-25-2
 03-3451-3661

2012年8月23日木曜日

第388話 一杯のかけそば =夏バージョン=

1989年(平成元年)、
一杯のかけそばブームが日本中を席巻した。
手塚治虫・美空ひばり・松田優作が
相次いで亡くなった年。
日経平均が史上最高値をつけた年でもある。

物語は1972年大晦日の晩の出来事で
舞台は札幌の「北海亭」というそば屋。
サッポロラーメンみたいな屋号の日本そば屋だ。
母と二人の男の子が一杯のかけそばを分け合って食べるハナシは
メディアが煽ったり、国会で話題になったりしてブレークしたものの、
「笑っていいとも」の番組内でタモリが
当時150円あったらカップ麺が3個買えたハズ、
”涙のファシズム” だ! と糾弾してブームは終息に向かった。

あれから23年。
月日の経つのは早いが、株価を見る限り、
失われた23年と言っても過言ではあるまい。

お盆休みでN山クンが九州から上京してきた。
仕事を兼ねているので出張扱いだという。
その日の午後、両国にアポありとのことで
北斎通りの日本そば屋「業平屋」で昼めしを一緒することに。

客と会う先方、飲み疲れの当方、
ビールは大瓶を一本だけにして二人で分け合う。
一杯のかけそばならぬ一本の瓶ビールである。
それでも”そば前”のつまみはあったほうがベター。
そば味噌(120円)と地鶏白レバ焼き(500円)を所望した。
いくらデフレの世の中とはいえ、そば味噌の値付けが泣かせる。

ランチメニューは葛飾北斎にちなみ、ほ・く・さ・いの4種類。
火薬ごはん付きの”ほ”は9月からの提供だという。
別々のを選んで適当に分けることにした。

 く・・・・せいろ or かけ ミニ天丼(海老・野菜) 
      小鉢2品 香の物
 い・・・せいろ2枚(通常のつゆ&胡麻つゆ)

”い”が冷たいせいろ2枚なので、”く”はかけでお願いした。

「業平屋」のそばはしなやかな細打ち。
そばとそうめんの中間ほどの細さだ。
初めて食べるN山クンが目を細めている。
天丼は典型的な下町風。
胡麻油と濃いめの丼つゆが小気味よくシンクロナイズする。
ごはんが特筆でこんな銀シャリにはなかなか出会えない。

しかし何よりもわれわれの心を打ったのは一杯のかけそばであった。
二人でキッチリ半分ずつ、つゆまでも飲み干す。
暑い真夏も何のその、熱さをもって暑さを制するのだ。
こんなに旨いかけづゆにもそうそう出会えない。

そしてしなやかなそばは
熱いつゆにもヘタらず、しっかりコシを残している。
あたかも最後の一線だけは
かたくなに守り通す貞淑な乙女のごとくだ。
古いだの、時代遅れだのと言われようとも女性はかくあるべし。
近頃、こういうオンナがトンと少なくなった。
イージーライダーが多すぎるんだヨ、バカどもがっ!
あっ、いえ、かけそばのハナシでした。
(ウルサ型のオバはんからまた非難のメールが舞い込むな、きっと)

「業平屋」
 東京都墨田区亀沢2-8-7
 03-3622-7978

2012年8月22日水曜日

第387話 夏の日の朝食 (その2)

米を研いだあとは副菜、いわゆるおかずの調製だ。
チキンスープ用に買い置いてあった鳥手羽中を2本、
塩を振ってオーヴンで焼き上げる。
酒のつまみなら塩は軽く、飯のおかずには塩を強めがコツ。
この程度の気配りもしないで旨いものには出会えない。

デカいボールいっぱいにプカプカ浮いてる水ナス浅漬けが
ちょうど食べ頃、これには和がらしを添えて。
茄子紺に芥子の黄が映えて美しい。
新生姜の味噌漬けもまことにいい塩梅だ。
信州上田の長野味噌による蔵の禅を
月桂冠で溶いたところへ新生姜を埋め込んだだけなのに
香り・歯ざわり・味加減、まったくもって非の打ち所ナシ。
デパ地下に出荷したいほどのものである。

こういう小物はいとも簡単、誰でも作れるから
なるべく自分で挑戦することをすすめたい。
第一、ずっと安上がりだ。
たくあん・野沢菜・千枚漬け・奈良漬けみたいに
シロウトが太刀打ちできない特殊なモノはベツとしてネ。

生野菜も摂らにゃあいかんと
プチトマト&きゅうりを塩&マヨネーズで。
天城育ちなる市販のわさび漬け、
自家製茎わさび酢醤油漬け、
同じく自家製しその実醤油漬け、
上記3種を1皿に少量ずつ盛合わせ、
茎わさびには本わさびをおろしてやる。

う~む、だいぶ夏らしくなってきた。
しかしここで手を抜いちゃいけない。
決め手は何であろうか? そう、味噌汁でありましょう。
味噌汁のない朝食なんて
紐の切れた越中ふんどしとおんなじ。
慎重に汁の実を吟味した。

夏の味噌汁となれば、
ミョウガとナスなんてのがすぐに思い浮かぶ。
ナスだと水ナスと重複するからなるべく控えたい。
野菜庫をチェックして選抜したのは
白瓜・キャベツ・新じゃがのトリオ。
出汁はいりこ&昆布である。

そして最後にここが肝心なところで
新生姜の味噌床を使った。
生姜の水分と日本酒のおかげで
トロリとペースト状になってるヤツを溶かし入れたのだ。

いやあ、朝っぱらから飯をお替わりしちゃいました。
いずれ劣らぬ良品のなか、
MVPは新生姜の移り香さわやかな味噌椀でありました。
自分自身に、ごっそサン!

2012年8月21日火曜日

第386話 夏の日の朝食 (その1)

何十年ぶりかでバナナを食べた。
子どもの頃は好きだったが
中学生あたりから興味がなくなり、以来トンとご無沙汰。
此度も食べたかったわけではないのに
つい魔が差して棚に手がのび、1本だけ買った。
銘柄はドーレだか、チキータだか、まったく覚えちゃいない。

帰宅して食べてみたらちっとも旨くない。
風味は嫌いじゃないけれど、なんだかモコモコして
咀嚼(そしゃく)&嚥下(えんげ)にけっこうな労力を要する。
結局、3分の2ほどで途中下車、自分のだらしなさを反省。

夏場に食欲が失せることはありえなく、
つい先日も真ゴチと水ナスを堪能したばかり。
ずっと疎遠になってるうちに
バナナとは別々の道、違う人生を歩んできたらしい。

午前6時に目覚めたある朝。
ちょいと蒸し暑い朝。
久々にハワイアンでも聴こうと思い、
4年前に亡くなった日野てる子の「夏の日の想い出」を。

 ♪ きれいな月が 海をてらし
   たたずむ影は 砂にうかび
   あなたの熱い くちづけが
   つめたい頬に よみがえるの
   夏の想い出 恋しくて
   ただひとりだけで 来てみたのよ
   冬の浜べは さみしくて
   よせる波だけが さわいでた ♪
         (作詞:鈴木道明)

ふと思いついて夏の日の食卓にふさわしい、
和朝食をキッチリ作る気になった。
そういうのしばらく食べてないこともあって
男J.C.、いささか気合いが入った。
アニマル浜口みたいな空回りの気合いじゃなくてネ。

まず米を研ぐことから始めた。
山形県産コシヒカリの袋には
全国食味ランキング特A受賞のラベルが貼られている。
山形米なのになぜか販売者は
山梨県の坂本商事なる株式会社。
流通機構の不思議とでも言っておこうか。

研いだ米は45分ほど水中に寝かせ、炊飯器のスイッチオン。
せっかちな性格につき、いつも早炊きボタンを押す。
はたして20分後、とても上手に炊き上がった。
自分好みの固めである。
外食の際、ヤワヤワの飯に出会うと、まっこと腹タツノリ。
その飯でにぎり飯を作り、炊いたヤツにぶつけてやりたくなる。

=つづく=

2012年8月20日月曜日

第385話 真ゴチと水ナス

マゴチというサカナをご存知だろうか?
漢字では真鯒と書く。
大きなハゼを上から押しつぶしたような魚体は
カレイやヒラメ類みたいだがコチは左右対称のシンメトリー。
カレイたちのようにひん曲がったひょっとこ顔とは大きく異なる。
オスとして成熟し、繁殖後に今度は
雌に性転換して繁殖に参加するという、
”雄性先熟”の特性を持つ、稀有な魚種だ。
旬はちょうど今、刺身や洗いがめっぽう旨い。

電車賃を払ってでもちょくちょく出掛ける北千住マルイの地下、
「食遊館」はJ.C.気に入りのスポット。
野菜・鮮魚・精肉、すべてが揃う。

鮮魚売り場でマゴチの刺身と薄造りを見つけた。
薄造りをポン酢でやるのも悪かあないが
刺身に本わさが旬のコチにはふさわしかろう。
一人前ほどで680円、バスケットにストンと落とす。
「食遊館」の鮮魚売り場はかなり広い。
奥の丸一尾売りコーナーに来たら
何と良型のマゴチが780円とあった。

こういうときのリアクションはすばやい。
先刻の刺身を元の位置に戻し、
丸一尾を三枚おろしにしてもらった。
当然、アラも持ち帰る。

野菜コーナーでは泉州の水ナスのデカいのが5個198円。
食べ切れそうもないが値段が値段、買わない手はない。
浅漬けの自家製造を決断する。
概して出来合いの水ナスは雑味が多すぎ。
調味料(アミノ酸等)が元凶なのだ。
新生姜の小さなパックと黒豆もやしを1袋買い求めた。

最後に精肉売り場で黒豚の小間切れを120グラム。
これでパーフェクトであろう。

その日の夕暮れ、厨房に立つJ.C.の姿を見ることができた。
ビールを飲みながら華麗なる包丁さばきである。
小1時間後、食卓に並んだのは

 マゴチの刺身・アラ煮・味噌椀
 黒豚&黒豆もやしの塩味炒め
 新生姜スライス
 水ナス浅漬け

マゴチはとても食べきれず、後日用に昆布〆を仕込む。
それでも余ったので軽く塩をし、日本酒を振り掛けて冷蔵庫へ。
これは翌日、バタ焼きかムニエルにするつもり。

本わさと酢橘(すだち)でやった刺身が実にすばらしく、
潮汁の代わりに味噌仕立てにした椀もかなりのものだ。
アラ煮は味がよいものの、鋭い小骨に難渋することしきりであった。

黒豚が不味いわけはなく、もやしはシャキッとした黒豆に限るネ。
新生姜、殊に柔らかい部分は谷中生姜の上をいった。
水ナスはほとんど生(ナマ)の即席漬け。
漬けた溶液は塩水に日本酒と米酢を少々注いだもの。
味付けというより一種の腐敗防止策だ。
水ナスは1/8割り、1/4割り、半割りにして
溶液にプカプカと泳がせておき、小さい順に食べ進むつもり。
完食するまで1週間はかかろうが、何ごともナスば成る。

「北千住マルイ食遊館」
 東京都足立区千住3-92
 03-5244-0101

2012年8月17日金曜日

第384話 北海道のキャラメル (その2)

池袋東口の北海道物産ショップ「もぐもぐパーク北海道」にいる。
ショップが責任を持てない味のジンギスカンキャラメル。
そうだよなァ、この味じゃ苦情が出てもおかしかないもん。
ともあれ一緒に並んでたトマトキャラメルともども買い求めた。
トマトは自分のために、
ジンギスはのちほど友人たちをテストするためにネ。
2つのキャラはこんなふう
ここでは調子こいて富良野の豚ももハム、
さんまの水煮缶(愛猫プッチと山分けするつもり)、
はては利尻の塩水海胆まで奮発しちゃった。
゛他店では5800円のところ特別価格の1500円゛
この殺し文句を鵜呑みにしちゃいないが、
乗せられてしまったことは確か。
塩水海胆なんか持って歩けないので
調達品はショップに預かってもらう。
飲み放題のビールで酔っ払い、忘れやしないかな。

飲み始めるまで時間があるので雑司が谷墓地へ。
誰の墓参りをするでもなく、
目当ては墓地の反対側にある「中華そばターキー」だ。
以前、店先を通り過ぎたときから気になっていた。
”中華そば”、”支那そば”を謳う店には惹かれるものがある。
あっさり系のラーメンが好きなんだよねェ。

ビアガーデンではこのクソ暑いのに
なぜか鍋がセットになっているらしい。
てっきりジンギスカン鍋かと思いきや、
もつ鍋や豆乳鍋、いわゆるグツグツ鍋系だという。
(そんなん、食いたくねェけどな)

よって鍋の前に中華そばを、となった次第。
ただし腹がふくれるとビールがまずくなるから
麺を半分に減らしてもらった。
結果、ベツに訪れなくてもよかったぜ、てなもんや三度笠。
麺・スープ・具材に特徴なく、
化学のチカラだけがあと味として残った。

総勢7名が池袋西武の屋上に集合。
セルフサービスの生ビールはキリン一番搾りだ。
4種類ほどあった鍋からモツ鍋とキムチ鍋を選ぶ。
もともとキムチはあまり好まないのでキムチ鍋は味見しただけ。
一方のもつ鍋は予想したよりおいしかった。
牛のシマ腸が野菜たちによい影響を与えているのだ。

ひとしきり食べ進んだところでJ.C.がとりい出したるジンギスキャラ。
全員に配ったら隣りに座ったY子がのたもうた。
「近頃いろんなキャラメルあるよネ、ジンギスカンとか・・・」―
げっ、いきなりドッキリ、知ってるヤツがいるんだ。

だけどみんな判らなかった。
存在を認知していたY子さえ、まったく気がつかない。
ペンギンみたいなカッコで現れたM柄なんかは
明治クリームキャラメルなんぞと言い出す始末。
どうなってんのヨ、チミたちの味覚は?
だが一同に反論されやした。
「もつやキムチのあとでジンギスカンじゃ判るわけないだろ!」
いや、ごもっとも。

「もぐもぐパーク北海道」
 豊島区南池袋1-21-5
 03-6914-3874

「中華そばターキー」
 東京都豊島区雑司が谷1-24-2
 03-3981-7648

「西武池袋本店 屋上ビアテラス」
 東京都豊島区南池袋1-28-1
 03-5949-6841

2012年8月16日木曜日

第383話 北海道のキャラメル (その1)

練馬区在住の友人、Y実と池袋でランチ。
食後のひとときにヤツがとりい出したのは一粒のキャラメルだ。
「JC、これ何味だか判るかな?」―こうのたもうた。
おい、おい、誰に訊いてんだヨ。
甘いモンは分野じゃないが
キャラメルのフレーバーなどタカが知れてるだろうに。
タカをくくって粒をつまみ上げ、口に放り込んだ。

舌の上で転がし始めてすぐに「何じゃこりゃあ!」―
まるで「太陽にほえろ!」の松田優作になった気分。
肉っぽく脂っこい風味に思わず吐き出しそうになった。
気持ちわりぃ、すんごく気持ちわりぃ。

Y実は両肘ついた両手のひらに
小さなアゴを乗っけてニヤニヤしている。
(ほうら、判んないでしょ?)
両マナコが勝ち誇ってやがる。

ケッ、落ちぶれ果ててもJ.C.は武士じゃ、
予期せぬ味にとまどいながらも記憶の糸をたぐって応じた。
「焼肉キャラメルか?」―自信はなかったけどネ。
「うっ、う~ん」 ―あらら、Y実の目が宙をさまよってやがる。
つうことは当たらずとも遠からずってこった。

「しっかし、こりゃ、相当エグいぜ」
「そうかなァ・・・」
「どこで売ってたんだい、こんなん?」
「北海道の物産屋みたいなとこ」
「エッ、北海道? おう、ジンギスカンか!」
「ピンポーン!」―となった次第。

パッケージには本当に書いてあった、
ジンギスカンキャラメルと。
いったい誰が考えるんかね、こういうの。

後日、といっても数日後。
高校同期の連中とビアガーデンに繰り出した。
場所は池袋西武の屋上だ。
16時スタートを13時半に現地入りしたJ.C.は
東&南池袋界隈を徘徊しながら散策。
そこで遭遇したのが北海道物産館だった。

店頭でアイスコーヒーを振る舞われちゃったから
何か買わなきゃ立ち去れない。
すると目の前にあっただヨ、例のジンキャラが!
何やら但し書きまであった。
゛当製品は風味を楽しむためのものなので
  当店は責任を負いません゛
よく覚えちゃいないが、そんな言い草だった。

=つづく=

2012年8月15日水曜日

第382話 酒に溺れた横浜 (その2)

チャイナタウンをあとにしたわれわれは
トコトコ歩いて桜木町、というより野毛にやって来た。
野毛は大人にも子どもにもよい町だ。
東京の下町を思わせる飲み屋がたくさんあるし、
野毛動物園は入場無料だし・・・。

満洲焼きが名物の「庄兵衛本店」に到着。
一番搾りの生で乾杯する。
ヤンキースに移ったイチローが
数年前からCMに出ているキリン一番搾りが旨い。
最初に頼んだ馬刺しがグンバツ
長野市生まれのJ.C.は
子どもの頃から親しんでいるケトバシだもの。
M鷹サンが表情を崩して頬張っていた。
おい、おい、あんまり食うなヨ。

串焼きは互いに好物を注文し、1本ずつ分け合う。
あちら鳥手羽先の塩
こちら豚レバのタレ
どちらも水準に達している。

生ビールからアサヒの大瓶に移行して名代の満洲焼き。
ところが酔いが回ったワケでもないのに
写真がピンボケでご覧にいれられないのが残念。
エッ、どんなんか見てみたいってか?
う~ん、ミスショットはあまり載せたくないのよネ。
まっ、いいでしょう、いいでしょう、お見せしましょう。
満洲焼きは味噌風味の豚カシラ

勘定を済ませ、3軒目の物色に野毛をさまよう。
なるべくなら未踏の店に落ち着きたい。
相方はどこも初見参で興味しんしんながら
当方は新規開拓を目指したい。

そこで入ったのが「田舎屋」という居酒屋だ。
オバちゃん二人きりの切盛りで
TVが巨人VS横浜の野球中継を映していた。
いままでずっとビールだったからレモンサワーをお願いすると、
焼酎がめっぽう濃く、並みの飲み助なら2杯でベロベロだろう。
つまみをはんぺんバタ焼きだけに抑えて2杯ずつ飲んだ。

ベロベロとまではいかぬが半ベロ状態で夜の町へ。
締めくくりはなぜ入ったのかよく判らんカフェバー風の店。
店名が「クックパック鶴岡」とかなりユニークだ。
あとで調べたらステーキとスペアリブが主力で
創業40年にならんとする古参だった。

サッポロの生を飲みながらミックスピザを食べた。
ピッツァではなく昔ながらの日本のピザ。
ジンだかラムだかがベースのカクテルに切り替えたものの、
記憶喪失の兆候が出始め、よく覚えちゃいない。

桜木町からJRに乗った記憶はあっても
どこで相方と別れたのか、まるで忘却の彼方。
4軒はしごして酒に溺れた横浜の夜でした。

「庄兵衛本店」
 神奈川県横浜市中区野毛町1-9
 045-231-7117

「田舎屋」
 神奈川県横浜市中区野毛町2-66
 045-242-8070

「クックパック鶴岡」
 神奈川県横浜市中区野毛町1-43
 045-261-9989

2012年8月14日火曜日

第381話 酒に溺れた横浜 (その1)

 ♪ 波止場を離れる あの船に あなた
    想い出残して 私を残して
   夕陽が傾く 横浜桟橋
   海鳥鳴いてよ 私と一緒に
   あぁ あぁ あぁ・・・海よ
   あぁ あぁ あぁ・・・憎い
   国を越えて ことば越えて
   愛に溺れた 横浜・・・   ♪
        (作詞:吉幾三)

吉幾三の埋もれた名曲「横浜」である。
なぜこの曲が不発に終わったのか不思議でならない。

以前、日本の歌謡界にはジンクスがあり、
”横浜”の2文字をタイトルに含む曲は
絶対に流行らないというもの。
この呪縛を解いたのが
いしだあゆみの「ブルーライト・ヨコハマ」だった。
当時、”横浜”ではなく”ヨコハマ”が勝因だといわれた。
だから吉の「横浜」にはジンクスが残ったのか・・・。
「雪國」や「酒よ」よりコレだと思うんだけどなァ。

吉幾三のマイ・ベスト3は
① 横浜  ② 海峡  ③釜山
すべて港や海を舞台に女心を切々と歌った曲ばかり。
ああ見えても彼は女性の繊細な気持ちが判るんだネ。

ある日、のみとも・M鷹サンと横浜・関内で待合わせた。
明るいうちからはしご酒に立ち向かうのである。
”恋に溺れる”代わりに”酒に溺れる”つもりだ。
最初は中華街をブラブラ。
はしごだから努めて重いものは避けたい。
したがって大楼に登ったら一発レッドである。

訪れたのは餃子がウリの「山東(サントン)」。
丸5年ぶりの再訪となった。
浅い時間だから店内は空いている。
餃子は1人前でけっこうなボリュームだが
大の大人が1皿を分け合うのは何だかケチ臭い。
水餃子(10カン・735円)だけでじゅうぶんなのに
あえて焼餃子(8カン・840円)も注文した次第。
やれやれ、軽く済ませるつもりが何のことはない。
ほどなく運ばれた水餃子
むっちりふくらんで食欲をそそる。
タレをかけてやると・・・
この店はココナッツの果肉入りタレがイノチ。
だからこその水餃子なのだ。
続いて焼餃子が登場 
それぞれが分離独立している。
サッポロ黒ラベルを飲みつつ、
両者食べ比べて水餃子が断然。
本場では”焼”より”水”が一般的だが
さもありなん。

=つづく=

「山東」
 神奈川県横浜市中区山下町150
 045-212-1198

2012年8月13日月曜日

第380話 過ぎ去りしロンドンの夏

終わりましたネ、終わりました。
五輪とW杯は大好きなので
終わると同時にもう次に思いを馳せている。
不思議なのは終わったときに
さびしさを伴うのは五輪だけ、W杯にはそれがない。
東京オリンピックの閉会式の様子が
心象風景としてずっと残っているせいかもしれない。

振り返れば、日本が獲得したメダルの数は38個で史上最多。
だけど悲しいかな金が足りないんだなァ、金が!
国別メダル獲得数ランキングだって金の多い順番だしネ。
かつて銀メダルを取ったバタフライの女のコが
「めっちゃクヤし~い、金がいいですゥ!」って叫んだが
その気持ちよく判る。
観てるほうだって、めっちゃクヤし~いんだからサ。

深夜というより夜明けのなでしこVSアメリカは
かなりの高視聴率だったそうだ。
なでしこが女性サッカーファンの獲得に
はたした功績ははかりしれない。
決勝まで進んでの銀メダルは賞賛に値する。

それに引き換え、男子サッカーは尻すぼみ。
予選リーグにピークを持っていっちゃった感否めず。
永遠のライバル、韓国に0ー2はガックシである。
サッカーの基本中の基本、
スリーS(スピード、スタミナ、スピリット)のすべてにおいて
韓国に大きく水をあけられていた。
加えて単純なミスと無駄なファウルの連発では
到底かないっこない。

男子サッカー同様に韓国と銅メダルを争ったのが
女子バレーボールだった。
こちらは迫田の大活躍で
ふがいないサッカーのリベンジをはたしてくれたカタチ。
日本中が溜飲を下げることとなった。
大統領選対策でイ・ミョンバクが竹島に電撃上陸した矢先、
否が応でも日韓のナショナリズムが煽られた時期だけに
そうコロコロ負けるワケにはいかんもん。
しかしかつてのお家芸のメダルが
28年ぶりとは隔世の感ありけり。

格闘技では不振をきわめた男子柔道とはうらはらに
男子ボクシング、それも重いミドル級の金は尊い。
ケレン味のない村田の笑顔がさわやかだった。
相手の警告がなければ惜敗のところ、天は彼に味方した。

男子レスリング・フリースタイル66kg級の
米満には度肝を抜かれた。
けして軽くはない階級の決勝であの豪快な勝ちっぷりは
柔道のフラストレーションがたまってただけに痛快。
日本人にもあんな勝ち方ができるんだねェ、いやお見事。

男子フェンシング・フルーレ団体の銀、
女子卓球団体の銅、女子バドミントン・ダブルスの銀、
野球とソフトボールが正式種目から消えた今、
それぞれに貴重なメダルだった。

水泳陣も健闘したが金メダル・ゼロはいささか淋しい。
それにしても陸上では身体能力の高い黒人選手が
水泳ではさっぱりなのが不思議でならない。

終わってみればアッというまのロンドンの夏だった。
これで毎晩グッスリ寝られる。
室伏の選挙違反問題が影を落としているなか、
東京招致はいったん水に流して広島・長崎両市が
共同開催で手を挙げてくれないものだろうか。

2012年8月10日金曜日

第379話 ゴイサギ参上! 動物園こそわが楽園 Vol.1

吉田グレート! 危なげナシ。
なでしこ残念! 1点が遠かった、
2点目が痛かった、一度同点にしておきたかった。
五輪は以上!

気を取り直して今日は新しいシリーズをお送りしたい。
去る5月、上野動物園の年間パスポートを購入した。
電車の定期券同様に毎日利用しようが
日に何回出入りしようがOKで2400円。
入場料が600円(大人)だから
季節毎に訪れたらラクに元が取れちゃう。
上野動物園を舞台にしたシリーズ、
題して「動物園こそわが楽園」の第1回であります。

恩賜上野動物園は1882年の開園。
今年はちょうど130周年の節目に当たる。
JR上野・公園口が最寄り駅の表門(正門)から
入園するとそこは東園、右手にジャイアントパンダ舎がある。
千代田線・根津が最寄りの池之端門から
入園すればそこは西園、正面にフラミンゴの池がある。

弁天堂に近い弁天門は出口専用。
京成上野が最寄りながら上野・不忍口、
銀座線・上野広小路からも遠くはない。
弁天門を出るときはいつも
飛べないオオワシのつがいに見送られる。
園内でもっとも憂いを漂わせるのがこの2羽。
愛しむべし。

グルリ園内を一回りしたあと、
J.C.がたたずむのは西園の鵜の池のほとり。
目の前に”水”があると心が安らぐ。
そばにペンギンがいて気に入りのスポットになっている。

ペンギン池にいつも3~4羽で参上するオジャマ虫がコイツだ。
エサの横取りをたくらむゴイサギ

漢字で五位鷺と綴るこの鳥が好き。
他の鳥が侵入しないよう、ピアノ線が張り巡らされているのに
やすやすとくぐり抜ける知能犯がこのゴイちゃん。
寒冷地を除けば世界中どこでも見られるサギの一種だ。
五位鷺の名前の由来は平家物語にまでさかのぼる。
醍醐天皇の指示により捕獲されたため、
正五位の位階を叙されたという故事にちなむ。

五位と聞くと芥川龍之介「芋粥」の主人公・五位が思い浮かぶ。
名前ではなく位階で呼ばれる人物を芥川はこう記している。

摂政藤原基経に仕えている侍の中に、
某(なにがし)と云ふ五位があった。
これも、某と書かずに、何の誰と、
ちやんと姓名を明にしたいのであるが、
生憎旧記には、それが伝わっていない。

ということ。
ただしこの五位は下級官吏、正五位じゃなく従五位と推測される。
正五位のゴイサギより格下の従五位は
鳥にも劣る芋粥、もとい、芋侍なりけり。

ところで動物園の五位はペンギン宅で何をしておるのか?
これはネ、プールの下に沈んでいる小アジが
ハイスピードで泳ぐペンギンの起こす水流で浮き上がるのを
ひたすらジッと待ち続けているところ。
もぐれぬ五位、浮き上がりを待つの巻なんざんす。

ゴイサギとペンギン、ひょうきんな組合わせでござんしょ?
仲良くはしないが、いさかいも起こさないところが利発だ。
互いにわれ関せずの不感症、もとい、不干渉をつらぬいている。
われら人間もこんなふうに隣人とつき合いたいもの、
鳥たちに学ぶべし。

2012年8月9日木曜日

第378話 さまよえど当たらず

五輪のせいで連夜の半徹夜。
今朝も4時半まで女子レスリングだ。
金メダル欠乏症にまとめて2個の金はうれしいナ。
48kg級の小原は出場していれば
アテネも北京も金が確実だっただけに
万感胸に迫りくるものがあろうし、
伊調の三連覇は国民栄誉賞だろう。
そこに思いの至る心の余裕がドジョウにあるかな。

振り返ってわが身は連日の暑さをものともせず、
というよりむしろ楽しみながら
優良ランチを求めて東京沙漠をさまよっている。
当たり!は非常に少ないけれども・・・。

その日はアメ横近くの「肉の大山」。
評判のメンチカツとコロッケがターゲットだ。
これは夜でも食べられるので夕刻に訪れた。
この店は以前、精肉も扱っており、
30年も前になるがすき焼き用の牛肉を買ったことがある。
現在は立ち飲みと揚げ物販売、
それに洋食居酒屋を営んでいる。
3年前に立ち飲みコーナーで
メンチとコロッケをつまんだものの、感心しなかった。
月日が流れたので再チェックに赴いた次第。

店内のあまりの騒々しさに圧倒される。
グループの酔客が目立ち、みな口角に泡を飛ばしている。
これだけで長居は無用と心に決めた。
生ビールと同時にメンチ&コロッケを注文。
メンチはやみつき(105円)と特別(210円)の2種を試した。
でも、サイズが異なるだけで味は大して変わらない。
そしてメンチ・コロッケともに旨くない。
週刊誌の連載にはとても採用できない。
載せたら読者に張り倒されるかも・・・。
つき合ってくれた相方が所望したハンバーグもダメ。
豪州牛特有の青臭さ・脂臭さにお手上げだ。
ただ良心的な価格設定がワイワイの飲み会向きなのだろう。

翌土曜日は水道橋の日本そば店「杉乃屋」へ。
新潟名物・へぎそばの店である。
つなぎに海藻のフノリを使うのがへぎそばの特徴だ。
土曜も食べられるタレカツ丼定食(997円)が目当てだった。
タレカツもへぎそば同様に新潟名物、
新潟市内には専門店が何軒もある。

午後1時を回ったのにテーブルはかなり埋まっている。
定食の内容はヒレカツ3枚のタレカツ丼、
冷・温選べる杉乃屋そば(なめこ・揚げ玉入り)、
あとは小冷奴ときゅうりのぬか漬け。
カラリと揚がったヒレカツ、冷たい杉乃屋そば、ともに悪くない。
ところがタレカツのタレが甘ったるく、どうにもならない。

カツ丼の亜流だったら
タレカツ丼よりソースカツ丼が好みだな・・・そう思いながら
目の前のポニーテールを何気なしに眺めていた。
お冷やをたびたび注いでくれた接客担当の娘さんである。
急に後ろ髪が振り返り、面(おもて)をあらためて拝むと、
ありゃ、なかなかの美形じゃござんせんか!
食べものに気を取られててトンと気づかなかった。
やれやれ、カツのタレも甘かったがJ.C.の観察も甘かったぜ。

「肉の大山」
 東京都台東区上野6-13-2
 03-3831-9007

「杉乃屋」
 東京都千代田区三崎町2-11-3
 033239-3131

2012年8月8日水曜日

第377話 食べて歩いて 歩いて飲んで (その4)

キリがないけど、またちょっとだけ五輪ネタ。
先刻終わった男子サッカーは完全に力負けだった。
肝心のラスト15分があの調子じゃどうにもならん。
前日のフランス女子を見習ってほしいもんだヨ、まったく。
同じ2-1でも追いつこうとする気迫がまったく違うもの。
あとは日本VS韓国の銅メダル争奪戦を楽しむとしますか。

種目替わってバレーボールの準決勝進出は快挙。
やっとこさ準々決勝の壁を破ってくれた。
中国が強すぎる女子卓球の銀メダルは大健闘で
これは拍手喝采であろう。

さて、話の続きはアサヒ商店街の昼めしである。
懐かしいカレーの匂いに誘われて「ニューダイカマ」に入った。
ここも店主が年配、それも一人だけの切盛りだ。
カレーライス(650円)のライスを半分にしてもらう。
このあと同じ並びの日本そば屋に寄るつもりだからネ。

昔ながらのカレーを食べながら主人と言葉を交わした。
隣接の「大釜本店」は創業100年になるという。
甘味・ラーメン・いなり寿司等を扱っており、
現・三代目店主はこちらの兄さんにあたる。
弟さんが独立してカレー屋を開いたのは40年ほど前のこと。
「大釜(ダイカマ)」の店名の由来は
当時、餡子を煮る釜がバカデカかったから―。
煮釜は風呂釜兼用で幼児期は兄弟揃って入浴したという。

日本そば店「さかえや」に移動すると、ここも古そうだ。
「ニューダイカマ」では我慢したビールをさっそく。
もり・かけ・ラーメンが一律500円と庶民価格である。
意外にもそば屋のラーメンはアタリが多く、
今どきの若者が好む脂ギトギトや魚粉臭いのはないから
安心して注文できるのもよい。
もっとも初訪問の日本そば屋で中華そばもないもんで
ここはフツーにもりをお願いした。

町場のそば屋らしくそばの量は多めにしてコシじゅうぶん。
つゆも下世話な甘さを残した好きなタイプである。
薬味はさらしねぎと粉わさび。
これで500円に文句はないが唯一、
そばの下のプラスチック製スダレは勘弁してほしかった。
しかもケバい緑色じゃあ、興をそぐことはなはだしい。

吉野通りを西に渡ったらアサヒは日の出商店街と名を変える。
界隈の地番は日本堤、ちょうど吉原の入口にあたる。
用とてない吉原を迂回し、竜泉から根岸を経て日暮里に到達。
夕焼けだんだんの石段を下れば谷中銀座だが
降りる手前の「大島酒店」に立ち寄った。
アサヒはアサヒでも生ビールのアサヒでノドを潤したいがためなのサ。
プラコップ1杯が350円也だ。

石段下の谷中銀座にも酒屋があり、
近所の肉屋のメンチカツともども飲み食いする人々がたむろする。
間食はしないタチだし、路上でメンチにかぶりつくってのは
見ていてあまりカッコのいいものではない。
男はともかく、淑女・貴婦人のすることではないだろう。

谷中から池之端に出て、なじみの不忍池のほとりへ。
どうやら浅草から上野へという散歩ルートが定着したようだ。
エンコとノガミ、二つの公園を股に掛けるJ.C.だが
こういうのも二股っていうのでしょうか?

そう、そう、いなり寿司の「ふじ多」へは
翌日出向いて店主から名刺をもらってきた。
お名前は、F田Z之助サン。
驚いたことに住所が旧町名になっており、
台東区浅草石浜町2-10 だとサ。
いったいいつ刷った名刺だよ、コレ?

=おしまい=

「ふじ多」
 東京都台東区橋場1-32-3
 03-3875-0039

「ニューダイカマ」
 東京都台東区清川1-29-5
 03-3873-2584

「さかえや」
 東京都台東区清川1-31-9
 03-3873-3798

「大島酒店」
 東京都荒川区西日暮里3-10-6
 03-3821-4802

2012年8月7日火曜日

第376話 食べて歩いて 歩いて飲んで (その3)

なでしこのおかげで明け方の書き直し。
眠気覚ましに傍らには
ロンドン五輪にちなんでユニオンジャックのロゴの
シュウェップス・ブリティッシュ・レモントニックの酎ハイ。
ベースの焼酎は下町で人気を誇るキンミヤである。

後半10分を過ぎてからは目を覆うばかりのフランス戦だった。
急転直下、課題残りまくりの一戦となってしまった。
2-0にして退き始めたところを立て続けに攻められたうえ、
疲れて足がパッタリ止まっちゃったな。

相手の二つのミスに恵まれたものの、
なでしこたちは勝った気がしていないハズ。
1点目は明らかに相手GKのボーンヘッドだ。
フィスティングで弾かなければいけないのに
安易なキャッチングで墓穴を掘ってくれた。
PKの失敗も天の助けとしか言いようがない。
それにつけても阪口のあのディフェンスはないだろう。
棒立ちで進路ふさいじゃ、相手にPKを献上するようなもの、
よく走り回る選手だが頭のほうは回っていない。

FKはさすがのキャプテン・宮間もパス回しはいま一つ。
攻守のかなめ、澤の急激な衰えも痛かった。
GK福元は相手がペースを握り続けてるってのに
キャッチしたボールをすぐ前線にフィードするかネ。
大儀見も川澄も一息つきたいとこなんだぜ。
まずはゲームを落ち着かせ、ペースを引き戻さなくっちゃ。

ご丁寧に佐々木監督まで采配ミスを犯している。
大野に替えた安藤の投入である。
安藤に恨みはないけれど、この子はなでしこの疫病神。
FWなのに点を取ったところを見たことないもの。
ゴールマウスに嫌われ抜かれているのがその理由だ。
とにかく安藤は走らない、攻めない、気迫がないの三重苦に加え、
あの時間帯に投入された自分の役割すら理解していない。
なでしこジャパンで使ってはいけない選手が安藤である。
個人攻撃は意に染まないが温厚(?)なJ.C.が腹に据えかねた。

この試合を通じて一番驚いたのは
フランスチームのくじけぬ闘争心と尽きぬスタミナだった。
心から彼女たちを賞賛したい。
ひるがえってなでしこの今の状態。
これではまずアメリカに勝てまい。
まっ、そこんところは何とか佐々木サンが立て直すでしょう。

さて、ようやく本題の続きだ。
明治の昔は元老や豪商の別宅が建ち並び、
彼ら御用達の料亭も少なくなかった橋場の地。
そこで見つけた「ふじ多」の
おいなりさんをぶら下げて散歩の継続である。
おっと、その前に昼めし、昼めし。
時刻はとっくに正午を回っている。

橋場・清川の目抜き通りをアサヒ商店街という。
背の高い建造物がなかった時代は
町内の人々がみんなして
隅田川の向こう岸から昇る朝日を拝んでいたんだネ。

=つづく=

2012年8月6日月曜日

第375話 食べて歩いて 歩いて飲んで (その2)

ロンドン五輪は後半戦に突入。
昨夜はフェンシングに魅了されつくした。
準々決勝で中国に圧勝して気分がよいところへ
準決勝のドイツ戦にはまっことおそれ入りました。

最終第9試合の太田VSヨピッヒ。
残り9秒で2点差をつけられて絶望的だったが
残り6秒で1点返し、「止め!」が掛かったときはあと2秒。
これを追いついた太田の頭上には神が舞い降りたのだ。
残り2秒でポイントを取る離れワザは
いやそれよりも残り9秒で2ポイントは世界初じゃなかろうか。

サドン・デスの延長戦を制した精神力に心が震えた。
まだ8月に入ったばかりなのに
2012年のすべてのスポーツイベントの中で
これがベストマッチだと断言してしまおう。
ライヴで観ることができ、本当に幸せだった。

しっかし、フェンシングってのは観ていて
どっちのポイントかまったく判らん。
困ったものよのぉ。
ライトの点滅と選手のガッツポーズで
何となく、ああそうかい、こっちなんかい、てな感じ。

さて清川の隣り町、橋場「山海」のはす向かいに
いなり寿司屋を発見して思案投げ首であった。
どうやら屋号が「ふじ多」であることは判明した。
立ち去るべきか立ち寄るべきか、それが問題だ。
北島を手ブラで帰すわけにいかないように
J.C.も手ブラで帰るわけにはいかないと決断。

人気(ひとけ)のない店の奥に向かって
「すみませ~ん!」と声を上げたら
「ハ~イ!」と返事があった。
出てきたのはかなり年配の店主。
一番小さないなり&のり巻きの折詰めを所望する。

店主が奥に引っ込んでから待つこと15分。
今度は女将さんが現れて折詰めが整う。
確か560円だったかな?
帰宅後開くと、いなりとのり巻きが4ヶずつ。
酢めしが少々柔らかいが、いなりの味はとてもよい。
都内屈指のレベルに達している。
のり巻きも包丁が立って立派な職人仕事が成されていた。
こりゃあ、けっこうな店を発見しちまったぞ、しめしめ。

ところがネットで調べてもまったく取っ掛かりがない。
情報が皆無なのだ。
まっ、翌日は向かいの「山海」に行くわけだし、
直接店舗に出向いて住所&電話番号を訊いてこよっと。

とここまで書いて時刻は0時10分、本日に突入したところ。
あと3時間、他の競技を観戦しながら
フェンシング・フルーレ男子団体決勝を待たねばならない。
まさしくネッスン・ドルマ(誰も寝てはならぬ)である。
取りあえずビールでも飲もうかの。
決勝戦のあとで加筆することになるんだろうなァ、きっと。

でもって3時間半後、健闘むなしくイタリアに敗れて銀メダル。
準決で燃えつきたのだろう、仕方あるまい。
敗軍のファン多くを語らず、またあした。

=つづく=

2012年8月3日金曜日

第374話 食べて歩いて 歩いて飲んで (その1)

スカイツリー開業後は浅草と墨堤を敬遠がちである。
何が嫌いって人混みほど嫌いなものはないですから・・・。
かく言う自分も人混みを構成する一員なので
勝手な言い草だと自覚してますけどネ。
でも、好きなものは好き、ガマンにも限界があった。

でもって現れいでたる言問橋。
古くは在原業平が

 名にし負はば いざこと問はむ都鳥 
 わが思ふ人は ありやなしやと

と詠んだ言問橋である。

時代下ってこまどり姉妹が

 ♪ 何も言うまい 言問橋の
   水に流した あの頃は
   鐘が鳴ります 浅草月夜
   化粧なおして
   エー化粧なおして 流し歌 ♪
      (作詞:石本美由起)

と歌った言問橋である。

だが実際に業平が歌を詠んだのはもっと上流のほう、
橋場の渡しがあった辺りという説が有力。
こまどり姉妹にしても可憐な2羽のロビンが
今じゃ化粧なおすどころか濃すぎちゃって
クマ取り姉妹なんぞと揶揄される始末、哀しむべし。
とは言うものの、J.C.はクマさん、もとい、
コマさんたちを応援してますヨ。
現在も上記の「浅草姉妹」を聴きながら書いている。

浅草情緒満載のこの曲を
浅草を愛した永井荷風に聴いてもらいたかった。
レコードがリリースされたのは1959年10月。
この年の4月に荷風は亡くなっている。
たった半年、間に合わなかったことになる。

言問橋からスカイツリー方面を回避して
吉原に向かい、吉野通りを北上してゆく。
日本堤から清川の町に入った。
清川=ほぼ山谷である。

実はこの翌日に旧知のSおサン、K雄サンと会食する予定。
例によって店選びはJ.C.の役割につき、
会場の「山海」の下見を兼ねた下町歩きだったのだ。
下見といっても店頭の品書きをながめて
おおよその献立を組立てるだけだけどネ。

下見を済ませたとき、
かろうじて店舗の態(てい)を成している小さな店に目がとまる。
店先を往復して中をうかがうも人の気配がまったくない。
ただ、いなり寿司を商う店だということは拝察できた。
今まで何度も「山海」を訪れているのに
店の存在にはついぞ気がつかなかった。
ハテ、どうしたものだろう。
体内に好奇心の芽生えを実感しつつ太陽ギラギラの空を仰ぐ。

=つづく=

2012年8月2日木曜日

第373話 食卓は花ざかり (その2)

上野公園行きのバスに乗ったのにはワケがある。
動物園もしくは不忍池に憩いを求めるいっぽう、
途中、上野桜木にある名店「藤屋」の木綿豆腐を
一丁買っておこうという腹積もり。

ところがガラガラの車内で座ってしまったものだから
当夜のメニュー構成を思案しているうちに大乗り越し。
気がついたら池之端でありんした。
戻るのも何だし、仕方なく「藤屋」の冷奴は断念。

蓮池のほとりを歩む。
薄紅色の蕾が夏の到来を訴えかけてくる。
フフッ、可愛いヤツらよのう・・・。
身体中汗にまみれていても
陽射しをさえぎる木陰に入れば、
涼やかな微風が吹き抜け、うなじに快感を残してゆく。
ボート池前の縁台ならぬ、
ベンチ将棋を観戦したりもして時の流れるままに・・・。

隣り町の根津で一番有名な店、
串揚げ「はん亭」の並びにある「魚松」を訪れた。
奴の代わりにアッサリした白身か貝の刺身がほしい。
ここの〆さばは絶品なれど、
ヒレカツやメンチや手羽中があるのだ、さばでは少々重い。
しばし店頭にたたずみ、赤貝の刺身とたら子を半腹購う。

帰宅後、シャワーを浴びたあと、
パンツ一丁でデイ・ベッドに横たわった。
何じゃそれは? ってか?
カウチ、いわゆるソファのアメリカン・スラングでんがな。
デイ・ベッド=真昼のベッドですな。

日が沈む前から飲み始める。
食卓に並んだ献立はかくのごとしの花ざかり。

赤貝刺し 生たら子 エシャレット 冷やしトマト
キャベツサラダ マカロニサラダ メンチカツサンド 
ヒレカツバーガー 鶏ハツ塩焼き 手羽中塩焼き 

自家製は皆無。
エシャとトマトは前日に買っておいた。

食した感想。
「魚松」の赤貝とたら子の質の高さは実証済み。
「竹松」の2品も気に入りで、変わらぬ旨さ。
問題は初体験の「坂原商店」である。
残念なことにサラダは化学の力に頼り過ぎのため不可。
もっとも子どものときに食べたのはこんなんだったんだろうな。
何せ一家に一瓶、赤いキャップのAのMが
君臨していた時代だものネ。

ところがどっこい、バーガーとサンドが花マルクン。
殊に小ぶりながら分厚いヒレカツの入ったバーガーは
とても140円とは思えず、特筆に値する。
道を間違えたおかげで出会った「坂原商店」。
人間万事塞翁が馬、禍福はあざなえる縄の如しと
いうではないか!
アイ・シャル・リターンを心に誓うJ.C.でありました。

「魚松」
 東京都文京区根津2-11-10
 03-3821-5075

2012年8月1日水曜日

第372話 食卓は花ざかり (その1)

1年で一番好きな月、今日から8月である。
ただ単純にうれしいナ。
ただ今開催中のオリンピックもいよいよ佳境に入ってきた。
正式競技から外された野球だって
セ・パ両リーグはもとより、海の向こうのメジャーに加え、
来週には夏の甲子園が開幕する。
まさにスポーツ花ざかりである。

花ざかりといえば数時間後に男子サッカー、
日本VSスペインを控えた夜のわが家の食卓も花ざかり。
右折と左折を間違えたのが幸いして見つけた、
肉と惣菜の「坂原商店」で夕食用の食品を買ってあった。

「坂原商店」の店頭にてまず目についたのが
精肉の隣りに並んでいたサラダ類。
それもデパ地下に行けば必ずある「RF-1」や
「柿安ダイニング」みたいに今風なヤツじゃなくて
昭和の匂いがプンプンするヤツ。
定番中の定番のマカロニサラダと
野菜サラダ(昔はポテトサラダをこう呼んだ)のほかに
キャベツサラダというのもあった。
これは和風コールスローといった趣きである。
3種類とも一袋170円、内容量の表記はなかった。

どれにも興味はあったものの、一人でそんなに食べられない。
結局、マカロニとキャベツを選択。
それに小さなヒレカツバーガーと
食パン1枚分のメンチカツサンドを購入した。

冷・温分けて袋に入れてくれたので
両手に下げて歩き出したらズシリと重い。
サラダはそれぞれ200gはありそうだゾ。
マカロニとキャベツじゃ愛猫の助け舟は望めないから
まず持て余すだろうな。
バーガー&サンドもナリは小さいくせに質量が高いのだろう。

そうしてかき氷の「初音茶屋」に向かったのだが
実は途中でもう1軒、寄り道をしている。
千束通りの「竹松鶏肉店」である。
聞くところによると創業は1879年。
浅草を愛した文人・永井荷風と同い年なのだ。

ここでは半年に一度くらいローストチキンを注文している。
味付けがシンプルで飽きがこず、ローチキはこの店に限るネ。
当日はさすがに丸一羽はムリだから
人気商品の手羽中焼きを5本ほど。
塩味と醤油味があって、塩をお願いした。
鶏の手羽は胴体に近いほうから
手羽元・手羽中・手羽先とあるが、手羽中がベスト。
それと鶏ハツの焼き鳥をやはり塩で1本。

かき氷のあと、友人と別れたが晩酌にはまだ早い。
合羽橋道具街の図書館に寄って
涼みがてらスポーツ新聞の立ち読みに耽る。
滞在時間はおよそ1時間。
言問通りを走る上野公園行きの都営バスに乗り込んだ。

=つづく=

「坂原商店」
 東京都台東区入谷2-29-8
 03-3872-2709

「竹松鶏肉店」
 東京都台東区浅草3-38-3
 03-3874-4372