2023年7月31日月曜日

第3329話 久しぶりだぜ 男とサシ飲み

ここ数カ月、飲む相手は
何故か知らねど、女性ばかりだった。
それが久々に男とサシで飲む機会に恵まれた。

相方はかつて仕事を一緒にしたO橋サン。
一回りほど年少の彼と
年に一度は酒を酌み交わすが
おそらく当欄に初登場だろう。

彼とはいつも昼飲みになる。
此度も同様、JR日暮里駅で14時半に待ち合わせ。
向かうはマイ・ブレイクルーム、
本格中華の「又一順」である。

2階に上がると客が全くおらず、貸し切り状態。
好みの飲みものに小皿1品が付く、
おつまみセット(890円)を
互いにドライ中瓶と干し大根の玉子焼きで通す。
このセットは何度でも注文可能で
呑ん兵衛にはありがたい。

本日は奮発して紹興酒の10年物をー。
これが税込み4700円也。
相方は好物の麻婆豆腐をパクつきながら
手酌でガンガンいっている。

ビールが飲み足りないと当方は
セットをワン・モア・タイム。
今度は腸詰でお願いした。
此処で飲むときはいつも玉子焼きと腸詰だ。

遅ればせながら紹興酒に移行する。
んん? 期待したほどではないな。
当然、常温で飲ったが
熟成感がイマイチなのだ。
麻婆豆腐と合わせてみたら
多少の呼応は確認できた。

飲食業界に従事する相方は
コロナの波を乗り切って業績が
ほぼ回復した様子、何よりである。
今日はそのお祝いということにしよう。
よって紹興酒をもう1本。

締めのあわびそば(鮑魚湯麺)は
大半を彼に押っつけて
会計は1万5千円弱。
何のこたあない、ほとんどが酒だヨ。
あわびそばが旨かったとみえ、
満面の笑みを浮かべている。

北へ帰る相方を日暮里駅の改札で見送り、
再開を約して手を振った。

「又一順」
 東京都荒川区西日暮里2-18-3
 03-3801-8520

2023年7月28日金曜日

第3328話 銀座になじみが出来ました

E美子の店は8丁目のビルの5階。
カウンター5席にボックスが2卓、
小さな店である。
ロス・プリモスの1曲が脳裏をよぎる。

♪   ご無沙汰しました 三年ぶりね
  ペンを持つ手が 
  震えています 震えています
  このたび 横浜関内に
  小さなお店を もちました
  昔のよしみに おすがりします
  力になって いただきたいの  ♪
   (作詞:星野哲郎)

1978年リリースの「小さなお店をもちました」。
昔のよしみにすがられはしなかったが
オレたちにピッタリの歌詞じゃないかー。

ドアを引いたら先客はボックスに1組。
初老のご夫婦と思われた。
二人とも酒は一切飲まずに歌うだけだという。
そう、此処にはカラオケがあり、
バー「魔里」とおんなじだ。

なるほどカップルの前には仲良く、
コカコーラのグラスが並んでいた。
何でも食事を済ませた階下の店の紹介で
5階まで上がってきたそうだ。
以来、常連さんになった由。

ご祝儀代わりにちょいと奮発して
ヘネシーVSOPのボトルをキープ。
「魔里」でもずうっとコレだったがネ。
あの頃は水割り、今は炭酸割りである。
コニャック好きのE美子は水割りだ。

ほどなくカラオケが始まった。
交代で島倉千代子のナンバーを歌っている。
「ウサギさんチームもどうぞ!」と振られ、
「それでは」とこちらも千代子のデビュー曲、
「この世の花」で応えた。
実はこれしか歌えないんだけどネ。

居心地の好い店で一安心。
後客も一人入ってきた。
「魔里」時代からの常連だというが
タイム・ギャップのせいで見たことはない。

J.C.は当コラムにおいて
バー、スナック、クラブに関しては
つまびらかにすることを避けてきたが
当店だけはベツ。
♪ 力になって 差し上げたいの ♪
てな感じ。

以前のように通えはしなくとも
月に一度は顔を出すことにしよう。
銀座になじみが出来ました。

「Cape jasmin」
 東京都中央区銀座8-5-9 民友ビル5F
 03-3573-5531

2023年7月27日木曜日

第3327話 蘇えっていた「吉宗」(その2)

懐かしの「吉宗」に足を踏み入れた。
だが、ちっとも懐かしくない。
銀座通り時代とは趣きが異なるからだ。
おでん屋の居抜きというわけではないから
それなりの造作が施されてはいた。

初っ端からやらかしてしまう。
ドライの中瓶を発注したのに
届いたのはアサヒ塾撰。
お運びのオバちゃんに指摘すると
ウチにはこれしかないと言う、

仕方なく飲んだがやはり合わない。
苦みが強すぎるのだ。
キリンラガーとサッポロラガー(赤星)の
中間よりもキリン寄りである。

これから飲みに行く前の下地作りだから
重く食べるつもりはない。
名物の茶碗蒸し、蒸し寿司、皿うどんはすべてパス。
これらは女ともだちを誘って
またの機会にしよう。

もう一つの名物、鯨刺しに白羽の矢。
ミンククジラの赤身である。
これが飛び切りの上物。
分厚いのが6切れ、
赤黒くヌメヌメと輝いていた。

皿に添えられたおろし生姜&おろしニンニク。
卓上の練り辛子を駆使して味わう。
ニンニク→辛子→生姜の順で好かった。

どうにか中瓶をやっつけ、さて、何を飲もう。
店一番のオススメに吉宗レモンサワーがあった。
凍らせたレモン丸々1個使用とのこと。
ほおう、コイツはスゴいや、これにしよう。

期待したほどではないにせよ、
自賛するだけあってスッキリさわやか、
そこそこに楽しめた。

目指すバー「Cape jasmin」は19地開店。
時計の針が19時半を回り、腰を上げた。
支払いは3千円弱。
階段を上って再び夜の銀座に出る。

♪   黒い落葉が 夜の銀座を
  風に吹かれる 暗い街角 ♪

今度は水原弘の「黒い落葉」が口をついて出た。

「吉宗」
 東京都中央区銀座8-7先 銀座ナイン二号館B1
 03-6274-6002

2023年7月26日水曜日

第3326話 蘇えっていた「吉宗」(その1)

今宵は銀座へ出た。
松尾和子&和田弘とマヒナスターズの
「銀座ブルース」を口ずさみながらネ。

♪  今宵更けゆく銀座 たのしい街よ
  ふたり消えゆく銀座 夜霧の街よ ♪

前にも書いたが女性とのデュエットで
「銀座の恋の物語」や「東京ナイトクラブ」を
歌うのは愚の骨頂。
モテないオッサンの典型例となってしまう。
言われてハッと口に手をあてた、
ご同輩も少なくないんじゃないのかな。

その点「銀座ブルース」はバッチリ。
相方の胸に貴方という男が深く刻まれる。
殊にスナックのママなんかには効果的。
彼女は二度と貴方を忘れまい。

それはともかく銀座、座座、銀座、たそがれの銀座。
ここでロス・プリモスなんか持ってきたら
浪花の小姑にこっぴどい目に合わされるのでやめとく。
そう、今宵は先週ご登場願ったE美子ママのお店に
初見参の予定なのだ。

その前の下地造り。
西銀座の8丁目界隈を徘徊するも
なじみだった店は半数も残っちゃいない。
哀しむべし。

銀座ナインに潜ってみた。
すると以前、おでん屋だったところに
トンデモない店舗が入っていた。
旧知の「吉宗」である。
これは「よしむね」ではなく、
「よっそう」と音ずる。

長崎料理店「吉宗」は蘇っていたのだ。
銀座通りに面したビルの地階にあったが
閉店しておよそ3年。
’21年11月に再開したそうだ。

旧「吉宗」はいくたびも利用した。
デートより接待が多かった。
招いたのはほとんど女性ディーラー。
名物料理の茶碗蒸し、蒸し寿司、
皿うどんは女性たちの大好物だからネ。

思わぬ場所で再会をはたし、
一も二もなく
「いらっしゃいませ~!」となりました

=つづく= 

2023年7月25日火曜日

第3325話 入店するまで14年

この日はこのクソ暑い中を
文京区・千駄木から台東区・池之端まで
歩いたのになじみの日本そば屋は
臨時休業と来たもんだ。

ご無体な・・・ガックシ肩を落とす。
このまま不忍池を眺めながら
上野まで歩こうかー。

このときピカリと閃いたのが
根津交差点にある1軒の生パスタ専門店。
「スピガ」は伊語で稲穂を意味する。
小麦じゃなくってお米。
ロンドン時代の若き日は
ずいぶんとイタリア米のお世話になったなァ、

初めて利用する「スピガ」だが
存在は14年前から認知している。
いや、認知どころのハナシではない。
何となればこの店の上、
4階に6年も棲んでいたんだから。

でも、入るのは初めて、
これもみな、行きつけそば屋の
ご利益(りやく)である。

ドライの中ジョッキと
スパゲッティ・アラビアータ(怒りん坊)をお願い。
フレッシュトマトと鷹の爪がふんだんに使われている、
カッカ、カッカと来る鷹の爪が命名の由来だ。
生パスタ特有のモチモチ感を味わえるが
J.C.はどちらかといえば乾麺のほうを択ぶ。

でも、それなりに楽しめた。
もっと早く来ればよかった。
6年もの長きに渡って同居したのに未踏とは
近所づき合いの良いこと、悪いこと。
今更ながら自省するのでした、

パスタソースで一番好きなのはボロネーゼ。
実はこの日も池之端から根津まで歩く間、
頭の中はボロネーゼ一色だった。

ところが入店してみると、
メニューの表記はミートソース。
ボロネーぜとミートソースは似て非なるモノ。
後者は緩くてパンチ不足のケースが多いのだ。

近々、日暮里の昭和喫茶「友露有」で
本物のボロネーゼをいただくとしよう。
取り合えず今日はおとなしく家に帰って
ショパンの「ポロネーズ」でも聴こう。
いや、ショパンなら
「ノクターン」ですよネ、やっぱり。

「スピガ」
 東京都文京区根津1-1-11
 03-3823-0460

2023年7月24日月曜日

第3324話 コリアンタウンのナンバーワン

先日、白鶴を伴った、
東日暮里の昼カラ・スナック「K」。
三河島と鶯谷の間、尾竹橋通りに面してある。
コリアンタウンとラブホ街に挟まれているのだ。
当店で得た貴重な情報があった。

とある昼下がり、フラッと立ち寄ると
先客はオジさんとオバちゃん。
ママを交えて4人で談笑していたら
話題が焼肉に及んだ。

これはいい機会とばかり訊ねてみた。
「三河島で一番旨い焼肉店はどこ?」
一同、異口同音に応えたネ。
「モランボン!」
何だヨ、焼肉ダレのメーカーじゃんかヨ。
でも、これは行かねばと心に決める。

焼肉屋は独りでは寂しい。
あまり大勢だと騒がしくなるので
声掛けしたのは
いつもの飲み会のお局と後輩のN々夫妻。
みんな歓んでついて来た。

各自思い思いの飲みものでカンパ~イ!
一瞬、庄野真代のヒット曲が脳裏をよぎったが
浪花の小姑がウルサいのでやめとく。

宴は、白菜キムチ・オイキムチ・カクテキの
キムチ三兄弟で開幕を迎えた。
みんなしてポリポリ、パクパク食べ始める。

通した黒毛和牛はみな二人前づつ。
タンと上ハラミが塩。
上カルビとレバーはタレだが
レバーは夕方遅くにならないと
入荷してこないとのこと。

J.C.はあまり好まぬタンは1枚だけにして
ハラミ、カルビと食べ進めた。
地元の3人が推すだけあって水準は高い。

しばらく待ったものの、レバーは到着しない。
代替として上ロースをタレで追加した。
するとコレが本日のベスト。
キメ細やかな肉質にほど好いサシ。
ロースはパサつく店が多いなか、
「モランボン」のは一級、いや、特級品であった。

締めは冷麺(ネンミョン)。
アッサリとサッパリと仕上げてご満悦の4人。
谷中よみせ通りの行きつけスタジオに
三河島から日暮里までJR常磐線に1駅乗って
向かいましたとサ。

「モランボン」
 東京都荒川区東日暮里3-42-9
 03-3805-0889

2023年7月21日金曜日

第3323話 懐かしい顔と顔

E美子からのメールはこうだった。
(こんばんわ
   Approach ’月28日で締めるそうです)
(閉める前に飲みに行くかい?)
(はーい! お願いいたします)

そうして待ち合わせたのは銀座の名門校、
泰明小学校そばの日本そば屋「泰明庵」の2階。
そばもさることながら刺身や天ぷらが好い店だ。

さっそくドライのグラスをカチン。
積もるハナシは山よりも高い。
E美子の顔を最後に観たのは
震災の翌年だから11年も前。
いや、懐かしい。
人目もはばからず、抱きしめてやりたいくらいだ。

あの時は久々に「Approach」に顔を出したら
チーフのトミーが「J.C.来てるヨ」と
バー「魔里」に電話を入れてくれ、
魔里ママとE美子が駆けつけてくれたのだった。

そのママは2年半前に亡くなっていた。
食堂ガンである。
亡くなる前月まで店に立ち、
E美子は最後まで一緒だったと言う。

そしてそれから3カ月。
彼女は「魔里」のすぐそばに
小さなお店を持つこととなる。
E美子は銀座のママになったのだ。

「泰明庵」のつまみは
平目&本まぐろの刺身。
それに珍魚・ギンポの天ぷら。
相方は出羽錦の冷たいのに切り替え、
当方はこれから強いカクテルを何杯も飲むため、
ずっとビールで通した。

E美子にはごまだれせいろで締めさせて
お勘定は1万円で小銭のオツリが来た。
いざ、7丁目の「Approach」へ。

ドアを開くと
「アッ、J.C.!」
「よぉ、トミー!」
てなもんや三度笠。

E美子曰く、サプライズにしといたとのこと。
3人でグラスを合わせた。
J.C.とE美子はホワイトレディのハードシェイク。
トミーはスコッチかバーボンの水割り。

此処でもハナシは積もりに積もる。
カクテルはサイドカーから
ビトウィン・ザ・シーツへと移行する。
自分の店に戻りゆくE美子の肩を叩き、
二人のオッサンはあらためて飲み直すのでした。

「泰明庵」
 東京都中央区銀座6-3-14
 03-3571-0840

2023年7月20日木曜日

第3322話 銀座で毎晩 飲んだ日々 (その4)


梶山季之の稿のつづき。

1962年の「黒の試走車」で
一躍流行作家の仲間入りをはたした梶山は以後、
45歳で急逝したにもかかわらず、
膨大な作品群を残している。
野際陽子のデビュー作で、
TVドラマ化されて人気を博した「赤いダイヤ」。
ソウルに愛着した作者が
誇り高き妓生(キーセン)を通して
第二の故郷に捧げたオマージュ「李朝残影」。
古本業界に暗躍するプロフェッショナル、
背取りを描いた「せどり男爵数奇譚」。
代表作にはそれぞれ、
梶山ならではのキレ味鋭い才覚が
圧倒的な筆力によって
原稿用紙に散りばめられている。

吉行淳之介が編んだ「酒中日記」、
および「また酒中日記」は酒飲み文人たちによる、
酒飲みエッセイ集のオムニバスなのだが
これでもか、これでもかというくらいに
魔里」が登場する。
この売れっ子作家、「また酒中日記」の文中に
(「初島に行き女を買う。 
 女の部屋でビールを飲みながら取材」だの、
 「九時すぎ恒例の“ドボン大会”。
 草柳大蔵、藤島泰輔、大隈秀夫、村上兵衛、
 渡部雄吉といったメンバー。
 ウィスキーをガブ飲みして
 五千円ぐらい負ける」だの、
 世間をはばかる供述のオンパレードだ)
痛飲・賭博・買春と、
飲む・打つ・買うの三拍子を揃えた上に
友人を密告するオマケまでついて
まさに型破りな無頼漢の面目躍如である。
今どきこんな豪傑、おらしまへん。

そうそう、議員になる前の蓮舫とも「魔里」で飲んだ。
彼女がキャスターを務めるTBSラジオの番組、
「アクセス」に出演してたのが縁である。
番組内でもレンちゃん、
シンちゃんと呼び合う仲だった。
そう、J.C.のファーストネームは
シンイチなんざんす。
これ、本邦初公開。

ひと月ほど前、西銀座に立ち寄った際、
「魔里」に行ってみたらビルに袖看板は
残っているものの、店は閉じており、
営業はしていない様子だった。
ママも歳だから閉業したんだろうな?

すると、つい先日。
通のメールが舞い込んだ。
「魔里」に居た、E美子からである。

=おしまい=
(サブタイトルを変えてハナシは続きます)

2023年7月19日水曜日

第3321話 銀座で毎晩 飲んだ日々 (その3)

2008年に上梓した「文豪の味を食べる」。
その梶山季之の稿で
バー「魔里」を取り上げた。
かなりの長文につき、
ダイジェストでお届けしたい。

=飲む・打つ・買うの無頼漢= (梶山季之)

それにしても「魔里」なる店名はどうしたことだ。
普通の神経の持ち主ならば、
「魔」の字は使わぬものだが
人里離れた魔界でも暗示しているのだろうか。
ママの本名は茉里子ながら
頑として「魔」の字にこだわったそうだ。
当時は緑魔子なんて女優もいたことだし、
こういうのもアリだったのだろう。

数回訪れているうち「魔里」が
トンデモない店であることが判明してきた。
かっては銀座を代表する文壇バーで
全盛期の昭和40年代に出入りした、
文人・有名人は数知れず。
それも大物ばかりが顔を見せていた。
ザッと挙げてみるだけでも、
柴田錬三郎・吉行淳之介・川上宗薫・
結城昌治・野坂昭如・生島治郎・
長部日出雄・筒井康隆・田辺茂一・
立川談志・リーガル秀才・坂田本因坊、
そうそうたる曲者が並ぶ。
本コラムの主役・梶山季之もそのうちの一人。
というよりも、このバーにおける、
中心人物が彼だった。
そして何を隠そう、梶山の愛人こそが
「魔里」のママだったのである。

こうなるとシメたもの。
当代きっての売れっ子作家は
酒ばかり飲んでいて
いつメシを食うのか不思議に思っていた。
その彼が行きつけた店の全貌が
ここに明らかになる。
なんか吉良邸の絵図面を手に入れた、
赤穂浪士のようなうれしさがこみ上げてきた。

すでに閉店した店も混じっているが列挙すると、
築地「ふく源」、銀座「浜作西店」、
六本木「鳥長」・「瀬里奈」、
代沢「小笹寿司」といったところ。
ソウル生まれのソウル育ちという素性に
トップ屋あがりの猛烈な書きっぷりから想像して
焼肉や鉄板焼きが好物かと思っていたら
意外にも日本料理が中心だ。
肉よりはサカナ、天ぷらよりは鮨を好んだという。
そばも好きだったとみえ、
気に入りの「赤坂砂場」では
昼から板わさで菊正を飲み、
もりかざるをたぐって締めとした

=つづく=

2023年7月18日火曜日

第3320話 銀座で毎晩 飲んだ日々 (その2)

銀座8丁目のバー「魔里」。
「そうだったの? よかったわ。
 あちらヤス子さん」
「エエ~ッ!」
「こんばんわ、長嶺です」
「はじめまして、J.C.です.
 いえ、こちらはレディオ・シティで
 お目に掛かってますけど」
 「ああ、『卒都婆小町』ネ」
 
その日は彼女の満70歳の誕生日。
よって2006年2月13日だったことが判る。
そうと聞いては黙っていられない。
「魔里」の向かいのビルに懇意にしていた、
イタリア料理店があり、電話を入れた。

20分後。
「ハッピー・バースデイ」の歌声とともに
ロウソクを点したバースデイ・ケーキが登場。
声の主は
シェフ、スー・シェフ、マネージャーの3人。

われながらちょいとキザだけど
粋なことをするもんだと思いつつも
ヤス子さんは感動して涙ぐんでいた。
この出逢いがキッカケとなり、
以後、彼女と親交を深めることになる。

「魔里」でたびたび止まり木をシェアしたのは
テラカンこと故・小林亜星さん。
ママとはマブのマブ、大のマブだちだ。

ママは酔っぱらうと、
「亜星、亜星!」と呼び捨てにしては
あの丸い顔のオデコやホッペタをこねくり回し、
仕舞いにゃ頭をバシバシひっぱたくんだ。
巨星はまったくのされるがまま、
いや、むしろ歓んでるフシすらあった。

ママの配下にはE美子というコがいて
当時、三十路に足を踏み入れたばかり。
銀座のオンナとしては極めて珍しく、
計算高いところなど微塵もない。
人懐っこい笑顔がウリで
オトコたちの人気を集めていた

ママとE美子とは実によく飲み歩いた。
もはやのみともの域を超えていた。
「Approach」を紹介したら
彼女たちがハマッてしまい、
自分たちの店がハネると直行。
挙句の果てにゃヒマな夜など
早仕舞いして駆けつける始末。

アリンコに砂糖をまぶす。
そんな結果を招くことになった。

=つづく=

2023年7月17日月曜日

第3319話 銀座で毎晩 飲んだ日々 (その1)

今から20年近く前。
2005年前後の3年ほどは
毎晩、銀座で飲んでいた。
そりゃ仕事もずいぶんこなしたけれどネ。

行きつけはいずれも西銀座の3軒。
オーセンティック・バー「Approach」、
文壇バー「魔里」、
ナイトクラブ「ルイ・ジュアン」である。、

高校の後輩・N々の居た「ルイジュ」には
そうそう行けなかったが
2軒のバーには毎晩どちらかに顔を出していた。

こんなこともあった。
ある宵、人形町の日本そば屋で軽く飲んだあと、
いつものように銀座へ。
都営浅草線は空いており、
ボックスシートに悠々。

銀座に着くと身体がヤケに痒い。
はは~ん、これはシートに
ノミだかダニだかシラミがいたんだな。
あちこち痒いということは
シャツの中にまだもぐり込んでるに違いない。

そう思い込んで「Approach」に駆け込む。
チーフのトミーの下にバーテンダレスの玉子、
名前は忘れたが可愛い娘がおり、
彼女にひとっ走りお願いして
キンチョールを買って来てもらう。

トイレで裸になりシューシュー。
ところがコレはまったくの無駄打ちだった。
三越前の小池医院の小池先生によれば、
食物アレルギーとのこと。

ハタと思い当たったのはそば屋のとりわさだ。
生の鶏肉は時としてわざわいをもたらすからネ。
アレルギーは後にも先にも人生、あの一回きり。
好い娘だったが今頃どうしているのかな?
とうにお嫁に行ったるう。

「魔里」ではいろんな出逢いがあった。
ある晩、フラリ立ち寄ると、
先客がカウンターの隅に独り。

「J.C.はフラメンコの長嶺ヤス子さん知ってる?」
ママに問われて
「ああ、知ってるヨ。
 NYで彼女の公演観たもの」と応じたら
突如、彼女の瞳は輝きを増すのだった。

=つづく=

2023年7月14日金曜日

第3318話 タンメンに化調はつきもの

谷中銀座を抜けて夕焼けだんだんを上り、
しばらく行くと左手に「花家」が見えてくる。
甘味と食事の二刀流は恰好のお休み処で
界隈の人気を集めている。

すぐ隣りの「あづま家」と並んで
”谷中の双生児”さながらだったが
そちらが最近、閉業してしまい。
売上が倍増したかどうかは存ぜぬものの、
人気に拍車がかかったことは確かだ。

2年に1度くらいのペースで利用しており、
先日は初めてタンメンをいただいた。
鶯谷駅前の行きつけ中華のタンメンは
野菜の量が半端じゃなく持て余す。
その点「花家」のソレは手ごろにして手軽。
子どもやお年寄りにもジャストのサイズだ。
もの足りない若いリーマンは
餃子をプラスすればよい。

実はこの餃子が当店の一番人気。
日暮里餃子定食(880円)は
”あらかわ満点メニュー”と称し、
荒川区のの女子栄養大学短期学部とのコラボ。
中華料理屋を中心にこの合同作業はよく見かける。

さて、そのタンメン。
サイズはよくとも食後に残る化調感が気になった。
以前、ラーメンを食べた時に
そんな感じはなかったから
タンメンに限ったことなのか
それとも店の味付けが変わったのか、
判断に苦しむこととなった。

気になって翌週再訪し、ラーメンのつもりが
値段に惹かれてワンタンメン。
なぜかラーメン・ワンタン・ワンタンメンが
みな同値の650円と来たもんだ・
こんな店はほかに記憶がない。

化学の力に頼らず、とても美味しかった。。
殊に青みの絹さやがまことにけっこう。
J.C.はラーメンの青みに相当敏感。
わかめ=失望 小松菜=納得
ほうれん草=欣喜 絹さや=雀躍
となってゆくのだ。

好みのアッサリ系ラーメンが食べたくなったら
「花家」に来ることにしよう。
やはり化調はタンメンに限ったものだった。
一件落着に一安心の巻でした。

「花家」
 東京都荒川区西日暮里3-2-2
 03-3821-3293

2023年7月13日木曜日

第3317話 ラム食って 腹ふくラム

その日の明け方、ウトウトしながら夢をみた。
札幌のビヤガーデンにて
仲間とジンギスカンを食っていた。

御徒町の「ラムちゃん」にでも行ってみようかー。
いや、昼間っから独りでジュウジュウ焼くのもなァ。
ハタと思い当たったのは先日、
チリ・クラブのあとでオペとも・S田サンと流れた、
日比谷ガード下の北海道酒場「きたぎん!」だ。
土曜は通し営業、さっそく向かった。

黒ラベルの中ジョッキで
お通しの一口ねぎとろごはんを味わい、
ジンギスカン(1280円)を通す。
当店の道産ラムは
炙りレバーしか食べていないが
とても好かったので期待はふくラム。

早くも2杯目をあおっていると、
これは何と言うんだったかな?
そうだ、卓上コンロだネ。
それに乗っかった鉄鍋には
ラム・玉ねぎ・もやしがあふれんばかり。

お運びの女性に
「5分ほどこのまま焼いてください」
「子連れ狼」の大五郎よろしく、
ジッとガマンの子であった。

ラムは思ったほど旨くなかった。
かなり歯応えがあってホントにラムかな?
マトンじゃないのかえ?
タレの味濃く、ライスが欲しくなる、

味噌汁・生たら子・きざみたくあんの付いた、
ごはんセットを追注する。
「きたぎん!」のウリは生たら子で
平日のランチなんざ、
食べ放題の大盤振る舞いと来たもんだ。

いや、キツかった。
半ライスにしとけばいいものを
たら子がそこそこあるので
そうもいかないんだ。

結局は薬局、
ジンギスカンのラムは食べ切れなかった。
ライスも少し残した。
たくあんに至ってはほとんど手付かず。
ラムだけのせいじゃないけど、
ラム食って腹ふくラムの巻でした。

「きたぎん!」
 東京都千代田区有楽町2-1-7
 03-6205-8887

2023年7月12日水曜日

第3316話 白鶴 ”のみとも”に挑む (その2)

足立区・北千住の飲み屋ストリート。
「幸楽」の小上りに白鶴と二人。
いや、一羽と一人。
のみともを志願しただけあって
そこそこにグラスをかさねている。

それはそうと、つまみである。
水なすは相変わらずの旨さだが
手に負えないのがどくとるマンボウだ。

マンボウの酢味噌には2種類あって
刺身風の身肉、そしてゆがいた胃袋。
此度は後者であった。

コイツが硬いのなんのって
こんなんかじったら歯を傷めるヨ。
2切れでギヴ、鶴なんざ手を出さなかった。
もっとも鶴に手はないかー。

ボール(焼酎ハイボール)に移行し、
鶴にも1杯飲ませてみた。
すると彼女、季節外れのカキフライを追注。
どうせ、冷凍だろうけど、まっ、いいか。

酔い覚ましに歩く。
千住大橋で隅田の大川を渡る。
芭蕉の「おくの細道」の出発点が此処。
南千住を過ぎて「あしたのジョー」の泪橋。
岡林信康の山谷を抜け、
数日前に来たばかりのソープ街。

相方は目を丸くしているが
真っ昼間の吉原なんかどうってことない。
紐のないふんどし、
柄の折れた肥びしゃくみたいなもんだ。

入谷を経てシモネタつながりの鶯谷。
こちらは昼も夜も大差ない。
初めてのラブホ街は
初めてのお使いより緊張するらしい。

「ちょっと休憩していくかい?」
「何言ってるのバカッ!」
にらんだ瞳が怪しく光るのを見逃すJ.C.ではない。
こりゃ時間の問題だな。
ん? 何がだ! ってか?
いえ、こちらのハナシです。

「どこか行きたいところは?」
「カラオケに行きたい」
「ハア~ッ!?」
2カ月ほど前に開拓した、
東日暮里の昼カラ・スナックに向かいましたとサ。

「幸楽」
 東京都足立区千住2-62
 03-3882-6456

2023年7月11日火曜日

第3315話 白鶴 ”のみとも”に挑む (その1)

 読者は覚えておらりょうか?
(最近こればっかやな)
先日、「新宿中村屋」に伴った一羽の白鶴を。

後日、月に一度の”たべとも”役に任命したが
当人は不満をあらわにした。
それではあまりに役不足。
”のみとも”に挑戦したいと言う。

ちょ、ちょっと待ってヨ、
それは無謀じゃないの?
いさめたものの、強硬姿勢を崩さない。

それではと、落ち合った北千住。
母君の介護があるため、
夕暮れの帰巣を余儀なくされる鶴。
11時半スタートを希望してきた。

となると、飲める店は限られる。
ここはマイ・ブレイクルーム「幸楽」でいこう。
11~23時の営業時間が好都合だ。

いつものようにベトナムっ子が店先で呼び込み。
彼女たちは交代で常に立ち、
けして絶えることがない。
雨の日も風の日も。
これが集客に絶大な威力を発揮するのだ。

おい、おい、どうしたんだい?
テーブル席はすでに満卓。
残るは小上りしかない。
まだ昼前だぜ。

最近の呑み助は靴を脱ぐのを嫌がる。
しかも「幸楽」は脱いだ靴をレジ袋に入れて
持ち込まねばならない。
鬱陶しいったらありゃしない。
気はすすまなかったが二人して上がった。

ドライの大瓶を注ぎあってカチン。
大して飲めやしないのに
昼前飲みとは大したもんだ。

つまみの選択を促しながら、こちらは即決。
好物の水なすと珍しいマンボウの酢味噌である。
相方は海老のサラダと焼き鳥だが
ここの焼き鳥は退屈な部位が4本だから翻意を促し、
焼きとん(当店ではもつ焼き)に変更。
シロとレバをタレで。

大瓶はすぐに空いてもう1本。
名前は白鶴なれど
白鶴の熱燗というわけにはいきますまい。

=つづく=

2023年7月10日月曜日

第3314話 観音裏にて真子がれい

荒川区・日暮里で所用を済ませたのが17時半。
さて、どうしよう?
駅前ロータリーには墨田区・錦糸町行きと
江東区・亀戸行き、2台のバスが停まっている。
早く出るモン勝ちで錦糸町行きに乗車。

浅草で途中下車して飲もう。
そのつもりが浅草の手前、
千束でふと思い出した店があった。
千束通りに面する「ナカジマ」だ。

暖簾をくぐると9割の入り。
オール・ジモティの完全アウェイながら
J.C.とてかつてはジモティだったのだ。
ドライの大瓶をトクトクやってグイ~ッ!
今日も元気だ、ビールが旨い。

遠くて読めないおすすめボードに近寄って吟味。
おっと、真子がれいの刺身があるじゃないかー。
迷わず即注に及んだ。
硬直が解けかかってちょうど好い歯ざわり。
エンガワも1切れ付いており、うれしい限り。

レモンサワーに切り替えて何かもう1品。
おお、そうだ、小肌酢をいってみよう。
確か此処のは単なる酢〆ではなく
きゅうり&わかめを従えて
ヒタヒタのお酢の中にプカプカと浮いてるタイプ。
体内を清めてくれるハズだ。

小肌ってどういうシゴトを施したら
こんなにフックラ柔らかく仕上がるんだろう?
首を傾げつつ、美味しくいただいた。
観音裏には隠れた佳店が少なくなく
「ナカジマ」もそんな1軒である。
お勘定は2540円也。

ほろ酔いで千束通りから花園通り、
吉原に足を踏み入れた。
ソープランドの呼び込みが一人の男を
逃してはならじと執拗に攻め立ててくる。
右に左にいなしながら土手通りに抜けた。

竜泉の町をふらふらしていて
「B」という名のよさげなスナックに遭遇。
これもほとんど迷わずに入店。
先客は皆無でママ一人のお出迎え。

いくらだか忘れちゃったが
最初のセット料金で飲み放題。
ただしビールは2本まで。
「ビール党だから2本飲んだら帰るネ」
「はい、はい、どうぞ」
そう言いながらママがスポンと抜いたのは
キリンラガーと来たもんだ。

浅草でなんでまたキリンなんだヨと
思いつつも仕方なかんべサ。
二人で注ぎ合ってグラスを合わせる。
ママと交互に歌いながら1本追加して
支払いは3千円ちょうど。
およそ1時間の滞空でありました。

「ナカジマ」
 東京都台東区浅草5-37-6
 03-3972-7833

2023年7月7日金曜日

第3313話 タイのレディーと 歩く鎌倉 (その2)

大仏さまの周りを
ハンケチ落としの鬼のように
グルリと一めぐりし、おそばを離れた。
折よく鎌倉駅行きのバスが来たので乗り込む。

夕闇迫る小町通りをそぞろ歩く。
この時間ともなると昼間の喧騒はどこへやら
小町は落ち着きを取り戻していた。

小林秀雄&小津安二郎ご用達、
天ぷら「ひろみ」の階下に差し掛かり、
「あとで晩めしは此処にしよう」
「うん、いいわ」

鶴岡八幡宮のだいぶ手前でUターン。
通りを戻るとアンナが立ち止まった。
店頭の写真メニューに見入っている。
「魚かま 小町通2号店」は
しらす丼と海鮮丼の専門店。
まず自分では入らないタイプだ。

「これ食べたいな」
「おい、天ぷらどうすんだ?」
「ダメ?」
「いや、ダメじゃないけど・・・
 しょうがねェなァ」

久々に両巨匠のよすがを偲ぶつもりが
翠富士並みの肩透かしを食らい、
哀れJ.C.、黒房下に転落の巻。
外国産の生き物のわがままには従うほかはない。

釜揚げしらす・生しらす・甘海老・真鯛・
まぐろなどが盛り込まれた丼を取ってやり、
気落ちして食欲を失くしたオッサンは
しらす&わさび菜の小鉢だけ。

鎌倉はキリンの縄張りなのに
当店は珍しくもスーパードライ。
たちまち生気を取り戻したJ.C.3杯、
アンナ2杯、存分に味わった。

娘のニタと渋谷で落ち合うと言う母とは
横浜駅で別れた。
事前の電話でニタから
「ちゃんと東横線まで送って上げて」

頼まれた通りにしたが
改札の手前から見上げた奥の電光掲示板。
「あの電車に乗るのネ?」
「ああ、うん」
よく見えないので生返事。
ハグして手を振った。

駅そばの名もない酒場で飲んでいると
アンナからのメールが着信。 
(You made a misutake.
   The train for Kikuna.)
あちゃ~、やっちまったかァ。
まっ、外国人のやることだ。
しっかたなかんべサ。

「魚かま 小町通2号店」
 神奈川県鎌倉市小町2-8-4 2F
 0467-50-0022

2023年7月6日木曜日

第3312話 タイのレディーと 歩く鎌倉 (その1)

数日後、東京駅で待ち合わせた二人。
JR横須賀線の乗客となった。
およそ1時間で鎌倉駅に到着。
江ノ電に乗り換えた。

この小旅行のきっかけは
今が季節のあじさいを
アンナが見たいと言い出したため。
あじさい寺なら北鎌倉の明月院だが
鎌倉在住の友人によれば
成就院がおすすめとのこと。
極楽寺駅で下車した。

駅から歩いて数分。
院の裏口から坂を上っていった。
期待したほどのあじさいではなかったが
それなりに楽しめた。
相棒は写真を撮りまくっている。
ついでにツー・ショットもパチリ。

表玄関に降りていったが
階段とスロープをミックスした坂は歩きにくい。
途中でよろけてしまった。
アンナすかさず、
「J.C.、酔っぱらい?」
「何を言うとるんだ、キミは!」

まっ、なつきの良いコだから
釣れ歩いても楽だし、楽しくもある。
ずうっと坂を下りて
大仏のおわす高徳院に向かった。

人の流れに誘われてついていったら
どうも様子がおかしい。
入場券を買い、入ったものの、
此処は長谷寺じゃないかー。

まあ、いいや、ついでだから拝観していこう。
ところがこれが怪我の功名。
本殿脇のテラスが絶景と来たもんだ。
眼下に由比ガ浜が一望に見渡せる。

当方、地元の鎌倉ビール。
相方、瓶のコカコーラで一息ついた。
眺めがいいのと心地よい涼風のおかげで
ビールのお替わりクンと相成った。

あらためて大仏さまのお膝元へ。
何度かご尊顔を拝しているが
初めて訪れたのは小学五年生の春の遠足。
今でもそのときの記念写真があるんだが
雨にたたられてみんな濡れそぼっている。

雨合羽なんかマシなほうで
仲の好かった山口クンなんざ、
和手ぬぐいの頬かむりと来たもんだ。
ハハハ、まるでチビッ子の泥棒だヨ。

=つづく

2023年7月5日水曜日

第3311話 タイの女郎衆と にわか飲み会

読者は覚えておらりょうか?
ちょうどひと月前に
パンやカレーの専門家たちと一緒に訪れた、
本郷のタイ料理店のことを。

その際、接客してくれたタイ娘に
(実は彼女、店のジョイント・オーナー)
「あとひと月したらバンコクから
 お母さんが東京に来るんです」
「ああ、そうなの?」
「会ってくれませんか?」
「ハァ~!? なんでまた?」

このコはいったい何を考えてるんだ?
ちょいと手の込んだ美人局か?
そのときはともかく
「うん判った、その頃になったら顔出すヨ」

そしてひと月後、「ガパオ専門店」に立ち寄ると
彼女、満面の笑みを浮かべて
「本当に来てくれたんだァ!」
その隣りにはお母さん。
二人は奥のカウンターで食事中だった。

「初めまして、アンナです」
「どうも、ボクはJ.C.」
娘のニタは接客に戻り、
母のアンナにビールを勧めて飲み始める。

訊けば、昨日東京に着いたばかりとのこと。
日本語がそこそこ上手なので会話も弾む。
話題はもっぱらバンコク。
J.C.は1980年代に二度訪れている。

どうやら美人局ではなさそうだ。
この女(ひと)は純粋に日本が好きなんだネ。
ハナシはだんだん盛り上がって来たゾ。
20時を過ぎて客足も途絶えた。

もうお客さんも来なさそうだから
こっちで一緒に飲もうヨ。
娘のニタとシェフのタイ人のオバちゃん、
(名前は知らない)
みんなでカンパイ!

いや、けっこう飲んだヨ。
殊に効いたのはアンナがタイから持って来た、
マー・ジェイ・ダムなるバナナの酒。
ウォッカに甘みを加えたようなスピリッツだが
かなり強烈で立ち上がったときによろけたくらい。

客が来ないのをいいことに
飲むほどに酔うほどに
にわか飲み会はさらなる盛り上がりをみせる。
挙句の果てに決まったのは
J.C.がアンナを鎌倉に連れてゆくんだとー。
チャンじゃないけど、何でこうなるの?

「ガパオ専門店」
 東京都文京区本郷3-30-7
 050-5492-1419

2023年7月4日火曜日

第3310話 チリ・クラブを食ったんだガニ(その2)

接客係が戻って来た。
「こちらマッドクラブになります」
「どこで獲れたのかな?」
一瞬、返事に詰まったが
「オーストラリアです」

マッドクラブはノコギリガザミのことで
マングローブガニとも呼ばれる。
専用のペンチで叩きつぶし、
指先をべとべとにしてしゃぶりつく。
溶き玉子と合わせたチリソースは
マントウで拭いとってパクリ。

相方にシンガポールはラッフルズホテル発祥の
シンガポール・スリングをすすめる。
久しぶりにつき、当方もおつき合い・
赴任中にそのラッフルズで飲んで以来だから
37年ぶりの美酒である。

このカクテルのベースはジン。
そして重要な役割を担うのが
チェリー・ブランデー
(多くの場合、チェリー・ヒーリング)。
そしていかにも南国、パイナップルジュース。

グレナデン・シロップも使われるが
かなり甘くなるので、どちらかと言えば女性向き、
男には向かない。
もともと男の飲み物ではないがネ。

とにもかくにもチリ・クラブを平らげた。
シンガポール時代から思っていたが
それほど旨いもんじゃないんだ。
やはり蟹は冷たい水域に生息するヤツが最高。
北海道・ロシア・アラスカに限るヨ。

追加料理は外してならない海南鶏飯。
ところがこれが感心しなかった。
鶏もも肉の旨みが足りない。
ジャスミン・ライスはまずまず。
テーブルに据え置きのソース類がおざなり。

ちょうど2週前に訪れた麻布「海南鶏飯食堂」と
どうしても比べてしまう。
あちらの鶏肉はよりジューシー。
薬味の盛り付けもずっと美しい。
居心地とアトモスフェアはこちらが勝る。

田町駅に戻る道すがら
一度お連れしたことのある日比谷のガード下、
北海道居酒屋に行きたいと言うので了承。
いいでしょう、有楽町で飲みましょう。

「威南記海南鶏飯 日本本店」
 東京都港区芝浦3-4-1
 03-5439-9120

2023年7月3日月曜日

第3309話 チリ・クラブを食ったんだガニ(その1)

JR田町駅でS田サンと落合い、
短い距離を歩いていった。
グランパークなるビルの1階。
翠に包まれて「威南記「はあった。
南国シンガポールをイメージしている。
  
テラスとホール、いずれかを選択。
相方の要望はテラスであった。
タイガー・ビヤーで乾杯。

近況を報告し合っていると、
左ひじ辺りが痒い。
右足のくるぶしも痒くなってきた。
やぶ蚊に食われたのだ。
相方もやられていた。

女性の接客係に伝えると
隣りのテーブルの足元から
蚊取り線香を引きずり出して着火。
おい、おい、客を入れる前に着けとけヨ。
遅ればせながら防虫スプレーも。

「歳のせいか、虫に刺されると
 あとがなかなか消えなくてー」
「ああ、モスキート・バイトね」
「何ですか、それ?」

「蚊の食われ跡のこと。
 隠語じゃ首筋に付けられたキスマーク」
「エエ~ッ! そうなんですか?」
「お望みならば、あとで付けてあげましょうか?」
「いいえ、けっこうですっ!」

口ぶりはキッパリなれど、
目元が涼やかに笑みをたたえている。
こりゃ、時間の問題だな。
エッ? 何がだ! ってか?
いえ、こちらの話です。

それはそれとして注文、注文。
協議の結果、あれこれ頼まずに
主役級をハナからズドンといくことにした。

シンガポーリアン・チャイニーズの花形、
チリ・クラブだ。
揚げマントウも忘れずにネ。
本場では常にぶつ切りの食パンだったが
さすがにそれでは
体裁が悪いと考えたのだろう。

「チリ・クラブでございます」
運んでくれた接客係に
「この蟹は何という蟹?」ー訊ねると
「確認してまいります」ー戻って行った」

=つづく=