2023年6月30日金曜日

第3308話 お替わりしちゃった 十全なす

オペラを一緒に観る友、
いわゆるオペとものS田サンよりメール来信。
(J.C.サン、シンガポール長かったんですよネ?
 田町のシンガポール料理店に
 ご一緒してくださらない?)
(歓んでー)
今回は音楽抜きのおつき合いである。

先日、麻布の「海南鶏飯食堂」を訪れたばかりだが
淑女のお誘いを断ることなどできやしない。
「威南記海南鶏飯 日本本店」の予約は17時半の由。
例によって下地を作りに御徒町の行きつけに立ち寄った。

コロナ禍で深く沈んだ「味の笛」はようやく完全復活。
常連としてはうれしい限りだ。
しかもこの日、うれしさを倍加させたのは
新潟名物、十全なすの存在だった。

季節ともなるとソワソワしてきて
毎年、ありがたく頂戴している。
泉州・岸和田の水なすもさることながら
J.C.は僅差で十全に軍配。
殊に「味の笛」のコレはまことにけっこう。
いつも悶絶しちゃうのだ。

今宵も素晴らしかった。
世の中にかような美味があるだろうかー。
初夏のビールの友としてこれ以上のモノはない。
サザンじゃないけれど

♪   心から好きだよナ~ス 
  抱きしめたい
  酒場の天使を 見つけたのさ   ♪

てなもんや三度笠。
生ビールのお替わりとともに
十全なすまでお替わりしちゃった。
普段はみっともないから
こういうマネは自粛するんだが
今日はガマンできなかった。

練り辛子をちょいと塗って口元に運ぶ。
瞬時にその口元がほころぶ。
つまんではグイッ、
つまんではグイッを繰り返してシアワセ。

JR田町駅は都営地下鉄三田駅と向かい合わせ。
どちらを利用しても大差ないが
ここは車窓から景色の見えるJR山手線。
乗り換えもないことだし・・・。

「味の笛 本店」
 東京都台東区上野5-27-5
 03-3837-5828

2023年6月29日木曜日

第3307話 明神下で昼から暴食

平次親分のテリトリー、
なんだ神田の明神下に出没。
一時期、幾度か利用した「田幸」へ。
昼は定食屋、夜は居酒屋になるが
昼めしどきは初めてだ。

20年ぶりの訪れである。
店内はあのときのまんま、時が止まっていた。
オジさん一人、オバちゃん二人の切盛りは
代わったような代わらぬような・・・。
どうも記憶に自信が持てない。

野菜炒めが一番人気と聞いたが
誰一人食べていない。
みんながみんな焼き魚と肉豆腐のセットだ。
オバちゃんAにおそるおそる
「野菜炒めはできませんか?」
「あらァ、今日はお魚と焼肉豆腐の日なんです」

左右の隣客を盗み見ると、膨大な量である。
J.C.にはどちらか片方でじゅうぶんだ。
急用を思い出したとかなんとか言って
逃げ出したいけれど、思いとどまり、
覚悟を決めた。
こうなりゃまな板の鯉である。

鮭・あじ・たら・いわし・ホッケ・さば文化干し・
赤魚西京などが揃うなか、赤魚塩焼きでお願い。
ただし、常にみんな提供できるのではなく、
焼き物担当のオバちゃんBが
その時そのとき焼き上げた数種の魚から択ぶ。
一度にすべては焼けないからネ。

最初に出たのは目玉焼きみたいなヤツ。
店主が言うには揚げ出し玉子である。
初めて食べるがこれもアイデアだ。

しじみの味噌椀がシュウのイツ。
大粒4個は身もプックリと、
こいつは安くないぜと思わせる。
思わず旨いっ!

焼肉豆腐は焼肉に非ず。
すき焼きみたいに煮てあった。
まっ、すき焼きもすき煮とは言わないものネ。
豚バラ肉と大量の豆腐が鉢を埋め尽くす。

ここでまたおそるおそるオバちゃんBにお伺い。
「お昼はビールは出さないんですよネ?」
「瓶ビールなら」
「銘柄は?」
「キリンラガーかハートランド」
「ハートランドでお願いします」
誰一人飲んでない中、2本も飲んだ。

いや、難儀だった、悪戦苦闘した。
味なんかもう判らない。
昼間っから暴食したせいで
その夜の晩めしは抜きました。
昼にはもう来れない。
夜に来るとしましょう。
肉野菜炒め狙いでー。

「田幸」
 東京都千代田区外神田2-5-4
 03-5295-2900

2023年6月28日水曜日

第3306話 冷製パスタが冷やし中華に

前夜、寝る前。
永井荷風の「濹東綺譚]に目を通したので
その舞台に行きたくなり、
日暮里駅前から乗った亀戸行きのバス。
荷風も通った向島百花園前で降りた。

散策は後回しにしてまずは昼めし。
冷製パスタのシーズンが始まったというので
イタリアン「トムトム」へ。
ん? シャッターが閉じてるヨ。
ケータリングのため、今日は休むんだってサ。

かつてよく出没した町につき、代替には困らない。
荷風ゆかりのいろは通り。
「興華楼」が休業だか閉業で
向かいの「宝来飯店」へ。
平成元年(1889)創業の老舗だ。

この道筋もシャッター・ストリートの気配ひしひし。
寂しさよりも侘しさを感じてしまう。
冷たいパスタを狙っていたため、
此処でも冷たい中華パスタを通す。
ご存じ冷やし中華である。

ドライを飲みながら待つこと5分。
平たいお皿にヒタヒタと、
醤油ベースの甘辛いタレ、これがいいんだ。
中国にはまずない日本の冷やし中華である。

麺上を彩るのは
焼き豚・錦糸玉子・くらげ・きゅうり、
そして硬さを残した春雨だった。

何よりも特徴的なのはこの麺。
極細の上にもう一つ、
”極”の字を重ねたいほどの細さ。
長いこと生きてきたが
人生最細の麺が目の前に横たわっていた。
揖保乃糸より細いんだ。

酢を振ってみたり、
辣油を垂らしたりしながら完食。
中瓶をお替わりし、千円札2枚のお支払い。

お運びさんに
「興華楼は閉めちゃったんですか?」
「いいえ、今日は外壁の塗り直しみたいで
 明日は開いていると思います」
「そうか、良かった」
「だいじょうぶです、ダイジョブですっ!」
オネエさんに励まされた気分。

道路拡張のために
ずいぶん様子が変わった鐘ヶ淵通りを往く。
東武伊勢崎線に乗り、
北千住の行きつけで白身の刺身を肴に
ボール(下町風焼酎ハイボール)を
2、3杯やっつけて帰るとしましょう。

「宝来飯店」
 東京都墨田区墨田3-8-15
 03-3617-9999

2023年6月27日火曜日

第3305話 蟹のパスタと冷たいコンソメ (その2)

冷たいコンソメをこよなく愛したのは
作家の池波正太郎翁。
あれば食べるの必注アイテムがコレ。
数多ある食エッセイにたびたび登場させてもいる。
翁に成り代わって楽しませてもらった。

メインの帆立はごくフツー。
美味しいけれど、それ以外の何物でもない。
オリエンタルソースを謳うが
カレー粉で風味付けしただけだ。

鴨胸肉のローストは火の通し過ぎ。
鮮やかな赤身を期待しただけに
失望の色を隠せない。

何よりもガルニテュールの
かぶ・にんじん・いんげんが帆立と鴨で同一。
下に敷かれた五穀米だか
十穀米までまったく一緒。
これは大きな失点につながる。

もともとメニューの選択肢が限られる中で
手抜きと見られても致し方なかろう。
しかも献立の変化がはほとんどないのだ。

来る日モ来る日も
同じ料理を作り続けて楽しいのかな?
前菜の素晴らしさに救われつつも
客として通うのはためらわれる。

当方はビールを飲み続け、
相方はプリンなんぞを召し上がられている。
会計は8千円と少々。
割高感を感じないのはやはり、
蟹のパスたと冷たいコンソメの賜物と言えよう。

この日はほとんどカンカン照り。
それでも杉並区・上井草まで一駅歩いた。
何があるでもなく、歩きがいのない町なので
(住人の方々ごめんなさい)
そこから西武新宿線に乗車。

飲む・食う・歌うのさんともO戸サン。
飲み食いは済んだので残るは歌うだけ。
谷中はよみせ通りのカラオケボックスに向かった。
互いに馴染みの店だが
この日は顔見知りがホンの数人。

すぐに順番が回って来ちゃうので
選曲に歌唱に忙しいったらありゃしない。
レパートリーは広い二人につき、
難なくこなしましたがネ。

人間、声が出ているうちが華。
かすれたり、しゃがれたりしてきたら、
人生のゴールはもう目の前であります。

「ビストロ デザミ」
 東京都練馬区上石神井2-29-1
 03--6904-7278

2023年6月26日月曜日

第3304話 蟹のパスタと冷たいコンソメ (その1)

この日の相方は
飲む・打つ・買うと三拍子揃った、
もとい、もとい、飲む・食う・歌うの三拍子。
天下無敵のさんともことO戸サンだ。

待ち合わせたのは
西武新宿線・上石神井のビストロ「デザミ」。
練馬区にしてはなかなかオサレな店構えである。
黒ラベルの中瓶を
ヤケに大きなグラスに注ぎ合ってカチン。

シンプルきわまりないメニューを手に取った。
内容はかくの如し。

■前菜
 ① 蟹とショートパスタのサラダ仕立て
 ② トウモロコシのババロアとコンソメゼリー
 ③ ラタトゥイユ・温泉玉子・生ハム取合わせ
 ④ 豚肉とレバーの田舎風パテ

■主菜
 ① 鴨むね肉のロースト・グリーンペッパーソース
 ② 帆立貝柱のポワレ・オリエンタルソース
 ③ 牛ハラミのポワレ・グリーンペッパーソース

吟味の末に二人が択んだのは
前菜が①と②、主菜も①と②だ。
互いの好みが一致して即断即決と相成った。

蟹はおそらくずわい蟹。
パスタは米粒状のリゾーニ。
舌ざわりがとてもやさしく、
これはグッド・コンビネーション。
いや、ビーチ・ボーイズじゃないけれど、
ほとんどグッド・バイブレーション。

J.C.はこういう前菜が大好き。
主菜並みの迫力で迫りくる第一皿は
御免こうむりたい。

とうもろこしのババロアとコンソメゼリーも
負けず劣らずの繊細なタッチ。
ババロアとゼリーはデセールをイメージさせるが
どうしてどうしてオードブルの一品として
完成度が高い。

業界ではではコンソメゼリーではなく、
コールドコンソメと呼ばれることが多い。
牛骨をジックリ煮出して作られるため、
溶けだしたゼラチン質が冷えて固まり、
ゼリーとなるのだ。

この料理を目にすると、
J.C.はいつも一人の人物を思い浮かべる。

=つづく=

2023年6月23日金曜日

第3303話 上海帰りのラン (その3)

北区・王子の飛鳥山。
1720年に八代将軍・吉宗が桜の苗木を植えさせ、
17年後、江戸庶民に開放された。
以来、300年に渡って桜の名所であり続けている。

飛鳥山のたもとの「豫園飯店」。
見知らぬ男と二人、
大きな円卓に向かい合っている

すると、お運びのランちゃんが
彼の隣りに座り込むじゃないかー。
親しげに話し始めた。
エッ? どういうこと。

上海みやげと思しき品々を手渡している。
親戚かな? いや、若いツバメかも知れんぜ。
想いをめぐらせていたら
彼女こちらに向き直って開口一番。
「息子です!」
「エッ? アッ、息子さん?」
早く言ってヨ、気を揉んだじゃないかー。

接客に戻った彼女のあとに残された二人。
言葉を交わし始める。
「住まいはどちら?」
「中板橋判りますか?」
「エエ~ッ! 小学校に上がる前、
 東京へ出て来て初めて棲んだ町」
「エエ~ッ! そうだったんですか」

いや、驚いたな、ところが驚きは続く。
「職場は?」
「御徒町です、貴金属関係なんで」
「エエ~ッ! 週に一度は飲んでる町」
「そうなんスか」

「結婚はしてるの?」
「ええ、会社で知り合って」
「オフィス・ラブだネ」
「社内恋愛です」
日本語はきわめて堪能だ。

訊けばカミさんは台北生まれの台湾人。
可愛くて性格も好いそうだ。
まっ、御徒町という町には
才色兼備の素敵な日本女性は
少ないかもしれないな。

二人の会話は北京語一本で
日本語は全く話さない由。
上海男と台北女、
掛け合わせは悪くなさそうだ。

子宝に恵まれる日も遠くはあるまい。
するってえと、香蘭は婆ちゃんかー。
それもまたよし。

=おしまい=

「豫園飯店」
 東京都北区滝野川2-7-15
 03-5394-9951

2023年6月22日木曜日

第3302話 上海帰りのラン (その2)

その翌々日。
「豫園飯店」に再び、
J.C.オカザワの姿を見ることができた。
ん? ベツに見たくもない、ってか?
そういう方はどうぞ無視なすって先にお進み下され。

この日は八宝菜で半ライスをいただいた。
ビールは中瓶を2本。
以来、週に二度のペースで訪れ、
当店はJ.C.にとって
飛鳥山のブレイクルームとなりました。

ドーンとした料理は避けつつも
いろんなモノを試した。
その結果、イチ推しは焼餃子&肉シュウマイ。
どちらも花マルである。

店のスタッフと連絡先を交換することなど
まずないのだが彼女は違った。
名を香蘭という。
山口淑子こと、李香蘭と同じだ。
中国読みがシャンランなので
ランちゃんと呼んでいる。

彼女の母上が亡くなられた。
中国には日本の四十九日ならぬ、
六十四日というのがあるそうで
しばらく離日を余儀なくされた。

ある日、今週末に帰るので来週から店に出る。
電話が入り、その来週にさっそく出向いた。
やつれるでもなく元気な顔を見ることができた。

♪   船を見つめていた
  ハマのキャバレーにいた
  風の噂は リル
  上海帰りの リル リル ♪
  (作詞:東条寿三郎)

そこには上海帰りのリルならぬ、ランがいた。
13時を回っても立て混んでおり、
宴会兼相席用の大テーブルに着く。
いつものようにビールとシュウマイを通す。

一しきりしてやって来たランと
あれこれ言葉を交わしていたら
単身の男性客が目の前に着卓。
この日はかなり暑く、汗びっしょりだ。
生ビールをゴクゴク飲りだした。

=つづく=

2023年6月21日水曜日

第3301話 上海帰りのラン (その1)

今年の2月初旬だった。
友人とランチに訪れたのは
北区・飛鳥山の「豫園飯店」。
豫園は上海にある明代の庭園だ。
よって当店が上海料理専門店と知れる。

このときのお運びさんが素敵。
若くしてこの世を去った、
オールド・フレンドの面影を宿し、
心惹かれるところ少なからず。
以来、たびたび立ち寄っている。

昭和の日本のオバちゃんと
会話しているようで気持ちが安らぐのだ。
生まれは大陸の上海、
来日して20年になると言う。

初回は上海発祥の小籠包子、
海老チリ、上海焼きそばなどを分け合った。
包子を1個、失敗して皮を破ってしまい、
大事なスープを流しちまった。

料理は全体に繊細な薄味。
上海料理となると、
”紅焼”(ホンショウ)と呼ばれる、
醤油煮込みの印象が強いけれど、
イメージが変わった。

お運びさんに
「目が知り合いとよく似てるんだ。
 ちょっとマスクをずらして
 顔を見せてくれないかな?」
「イヤ、恥ずかしい」
厨房に逃げて行った。

それでもしばらくしたら舞い戻って
「ちょっとだけヨ」
なあんて
ドリフのカトちゃんみたいなセリフを吐き、
一瞬だけだが外してくれた。
思った通りに鼻筋、口元まで
よく似てるじゃないかー。

瓶のドライがすすみにすすんで
お替わりのまたお替わり。
小皿のつまみがシュウのイツ。
繊切り浅漬け大根のサラダ風。
針生姜をあしらった若いザーサイ。
どちらも他店にはない味わいがあった。

会計時。
「また来るから、またマスクずらしてネ」
応えはなく、フン!とばかりに
ソッポを向かれたのでした。
やれやれ。

=つづく=

2023年6月20日火曜日

第3300話 鶴と初デート (その2)

「新宿中村屋」のB2「manna」。
相方の鶴チャンが即断したのは
ビーフシチュー&オムライスのコンビ。
こちらもおっとり構えちゃいられない。
優柔不断なオトコと思われたくないしネ。

そちらがそう来たら
こちらは王道のカレーでいくかー。
純インド式カレー(骨付きチキン)と
シーフードのハーフ&ハーフをー。

セットでのお願いはオードブル付き。
ドリンクも付いて生ビールの小グラスを選択。
これがキリンで苦いのなんのっ!
傍らのドライで洗い流す。

前菜は4種類が少しづつ。
にしんマリネ・カプレーゼ・棒棒鶏・
カリフラワー&ブロッコリのサラダ。
それぞれにしっかりと作られ、
おざなりなモノは一つもない。

カレーには薬味が6種も。
花らっきょ・ピクルス・粉チーズに
オニオン・マンゴー・レモンと
チャツネが3種。

こりゃやり過ぎだわ。
らっきょ・ピクルス・マンゴーチャツネで
モア・ザン・イナッフ。
策士、策に溺れて溺死寸前の様相を呈していた。

肝心のカレーも何だかなァ。
ハーフづつのため、味覚のバラけにつながったか
以前のほうが好かった気がする。
吟味しつくしたライスも
一般的なインディカ米でじゅうぶんなのにー。

相方のシチューがなかなか。
オムライスはオムレツのっけタイプ。
ケチャップ不使用のバターライスだった。

ビールの味を教えたおかげで
だいぶ飲めるようになったが
まだまだのみともの役目は荷が重い。
しばらくの間、
月に一度のたべともでいてもらおう。

いつもお世話になっているからと
プレゼントをいただいた。
木綿のハンカチーフである。
鶴の恩返しに応えて
旅立つとするかな?
東へと向かう列車でー。

「新宿中村屋 manna」
 東京都新宿区新宿3-26-13
 新宿中村屋ビルB2F 
 03-5362-7501

2023年6月19日月曜日

第3299話 鶴と初デート (その1)

読者は覚えておらりょうか?
あれは去年の11月。
錦糸町の行きつけ、
vivo daily stand」の止まり木に
舞い降りた一羽の白鶴をー。

それからしばらく、再び錦糸町でバッタリ。
以来、何度か喫茶店でビールを飲む仲にー。
母上の介護のため、
なかなか家を空けられない彼女。
いつも2時間ほど談笑するばかりだった。

それが此度ランチの機会に恵まれた。 
鶴と初デートである。
「銀座辺りでいかが?」ー気遣ってこう向けると
「新宿がいいわ」 ー意想外の応えが返って来た。
「エッ、新宿?」  

銀座と新宿、女性に選択を委ねたら
十中八九、いや十人が十人銀座であろう。
珍しいな、鶴は天然記念物だったのか?
いずれにせよ、彼女は慶応ではなく、
早稲田派だったのだ。

いいでしょう、いいでしょう、
お供いたしましょう。
いつものジャーマン・パブってワケにもいかんし、
それなりの店を択ばにゃならん。

「中村屋でどうだろう?」
「けっこうネ」  
お眼鏡にかなった様子だ。
地下2階のレストラン「manna」に
予約の電話を入れたら予約不可。
それほどお待たせしないとのことで現地集合。

「中村屋」は十数年ぶりである。
改装後はは初めてである。
新宿通りから地下に降りると
店頭に順番を待つ、
客用の椅子がホールの四辺にずら~り。
並んでいるのは6名ほど。
先着していた彼女の隣りに腰をすべらせた。

電話の応対通りに
10分と待たずにご案内。
さすがに「新宿中村屋」、客あしらいが丁寧だ。
二人掛けに通されてドライのグラスを合わせていたら
四人掛けが空いて、そちらに移動を促された。

メニューは実に多彩。
カレーを中心とした洋食が主体ながら
中華モノも豊富に揃う。
「これはジックリ慎重に択ばないとネ」
「私もう決めちゃった」
「ハァ!?」

=つづく=

2023年6月16日金曜日

第3298話 麻布の海南鶏飯(その2)

J.C.がシンガポールに暮らしたのは
1983年4月から’87年2月。
その間、幾度ハイナネーズ・チキンライスを
食したことだろう。

そう、中国のたまり醤油を用いる、
ダークソースのことであった。
赴任中はほぼずっと、
このソースをダックソースと信じて疑わなかった。

何だってまたチキンのソースが
ダック(アヒル)なんだヨと、
不思議でならなかった。
これがダークと知ったのはNYに移る寸前のこと。

何でこうなるの?
すべてはシングリッシュの成せる業であった
彼らの発音は音楽用語でいう、
スタッカートが強烈過ぎる。

例えば、He told me.
これが連中にかかると、
ヒッ トッ ニッ と来たもんだ。
ダークがダックと聞こえるのも致し方なし。
てなワケでした。

あっさりとしていながら
旨みじゅうぶんのチキンスープが
胃の腑に染み渡る。

しっとりと柔らかく蒸された鶏ムネ肉を
まずジンジャーソースでー。
うん、いいねェ、旨いなァ。

最近は都内のシンガポール・レストランで
盛んに揚げバージョンを見受けるが
昔はあんなの無かった。
言わせて貰えば邪道の極みで
揚げチキはケンタに任せとけっての!

隣りに初老の夫婦が着卓。
見るからに近隣の裕福な人たちだ。
ご婦人が殿方に
「うわァ、何でビールがこんなに高いの?」
ドキッとしたJ.C.、2本目をガマンする。

それにしてもこの暗い店内で
細かい字を読めたもんだな。
年恰好はJ.C.とあまり変わらんぜ。

接客女性が勧めるライスのお替わりを辞退し、
美味しく食べ終えてのお勘定は1990円也。
鶏飯1000円に対して小瓶が990円だとサ。
こりゃあ、高いや。
隣りのご婦人には
もっと早く言ってほしかった。

「海南鶏飯食堂 麻布本店」
 東京都港区六本木6-11-16
 03-5474-3200

2023年6月15日木曜日

第3297話 麻布の海南鶏飯(その1)

上野御徒町から都営大江戸線を
グルッと回って麻布十番。
20年ほど前に大江戸線とメトロ南北線が
相次いで開通する前は陸の孤島と揶揄されていた。
今でも六本木の谷底のままだが
J.C.はこの街が好き、六本木よりずっと。

目抜き通りをほぼ抜けて
地番が麻布から六本木に代わる。
此処に古くからある「海南鶏飯食堂」へ。
地下鉄の開通当初だったから
20年ぶりくらいになる。

清々しいテラス席はカップル専用。
単身客やグループは薄暗い店内へ、
着卓してメニューを手に取ると、
暗くて文字が読めないヨ。

メニューを手に立ち上がったら接客の女性。
「どうかなさいましたか?」
「いや、暗すぎて見えないんだ」
「アッ、どうもすみません」
「いいの、いいの、最近目がかすむんだ」
「大変ですネ」

テラスの順番待ち用椅子に腰掛け、
シンガポールの国民食、
海南鶏飯(ハイナンジーファン)にする。
メニューをチェックするまでもなかったが
一応、ココナッツチキン・カレーと迷ったんだ。

でも、ここのところカレー続きだったもんで
「黙って読んでりゃ調子に乗りやがって
 いい加減にせい!」ー
そんな読者の声が聞こえて取りやめ。

ビールは生がキリン、瓶はタイガー。
懐かしのタイガーの小瓶を。
シンガポールの二大ビールメーカー、
タイガーはよく見るが
アンカーに出逢うことはまずない。
それが不思議。
42
東南アジア諸国のビールはいずれも
口当たりさわやかにしてノド越しもスッキリ。
あんな暑い所で重たいタイプは飲めやしないヨ。
久しぶりに飲むタイガーは快適だった。

運ばれたプレートはハッとするほどに美しい。
炒飯のように丸いカタチのインディカ米。
その脇にはこんもりと香菜(パクチー)。

そして3種のソースは
オレンジ色のチリ、
オフ・ホワイトのジンジャー、
チョコレート色のダーク。
絵の具のパレットのように色鮮やか。
このダークソースには思い出が深いのだ。

=つづく=

2023年6月14日水曜日

第3296話 インドカレーはカレーの大御所

ここしばらくカレーを食べ続けている。
スリランカ、べトナム、タイと
それこそ浴びるようにー。
さすればそろそろ大御所、
インドカレーに登場してもらおう。

J.C.が東京で一番好きなのは
文京区・湯島の「デリー」。
インド&パキスタンを謳ってはいるがネ。
しかしながら当欄で何度も取り上げているため、
此度は千代田区・旧連雀町の「トプカ」にしてみた。
雨降りの一日でもあることだし・・・。

5年ぶりにやって来た。
印度と欧州の両刀使いは入口で前払い。
メニューが多いうえに盛合わせも豊富だから
慣れない客は相当にまごつく。
ここは一考あられたし。
客の利便を一顧だにしてないヨ。

サッポロ赤星大瓶(750円)と
盛合わせD(1650円)を購入)。
Dの内容はインドポークカレーと
バターチキンである。
すべてのカレーにかき玉コンソメが付く。

インドポークは当店最辛で5年前には
コイツのフルポーションを頼んでしまい四苦八苦。
ヒーハー、ヒーハーと完食に往生したっけ。
何せ、砕いた赤唐辛子が鬼のように入ってるんだ。

一方のバターチキンはマイルドなんだが
そのぶんパンチ力に欠ける。
福神漬け&ラッキョウの助けを借りながら食べ進む。
ラッキョウがデカくてカジリ音が
ポリポリじゃなくバリバリだ。

インドポークのの辛さに耐え、
バターチキンにもの足りなさを感じつつ食了。
食後感は・・・何だかなァ。
ジャポニカ米が力不足だし、
カレーそのものも以前の方が好かったような。

それに純粋なインド料理に
ポークとビーフは用いられない。
どうやら店の選択を間違えたようだ。
割高感も否めないしネ。

最近のカレー行脚を振り返ると、
本郷三丁目のタイレストラン、
「ガパオ専門店」が断トツの1位。
あのゲーン・キョウワン(グリーンカレー)は
お世辞抜きにすばらしい。

やはりカレーは神田より本郷。
日大と東大ほどの差があった。
いえ、日大もいいんだけどネ。
真理子も頑張ってることだし・・・。

「トプカ」
 東京都千代田区神田須田町1-11
 03-3255-0707

2023年6月13日火曜日

第3295話  奈良漬に つい誘われて

そうこうするうち、時刻は14時に近づいた。
ルミエール商店街から裏道の「しげきん」へ。
父親と娘の切盛りに早くも先客が1名。

ドライの中ジョッキを2杯即注したいところだが
渇きを訴えているようで
みっともないから思いとどまる。
それでも1杯目の着卓と同時に
お替わりを通していた。

毎度のことながら生き返りやした。
品書きボードを見上げ、スズキ昆布〆をお願い。
”鈴木クン”は死後硬直が完全に解け、
弾力が失われているものの悪くはない。

先刻のミートソースのスパゲッティが
少なめだったせいもあり、まだ何かいけそうだ。
3杯目とともにかき揚げを所望。 
ほお~、包丁を握る父親ではなく、
お運び兼洗い場担当の娘が種を揚げ油に落とした。

だいじょうぶかな?  心配無用であった。
きちんと揚がって出て来た。
ほとんど玉ねぎ、あとにんじん。
厚みはなくともかなりのサイズ。
バカでかいというより、
だだっ広いというのが当たっている。

パートだろうか?
オバちゃんが二人出勤して来た。
いや、一人は店主の妻にして
娘の母かもしれないな。

かき揚げを食べ終える頃、
娘がにっこり笑って
「よろしかったらどうぞ!」ー
差し出した小皿には奈良漬が2切れ。
「おう、これはありがたいネ」
奈良漬は好きなんだ。

生ビール3杯で切り上げるつもりが
奈良漬につい誘われた。
「冷酒の銘柄は何かな?」
娘、振り向いて応える。
「日本盛ですが・・・」
「じゃ、奥の方でよく冷えてるヤツ1本」
「はァい、判りましたァ」

おっ、ずいぶん辛口だな。
300mlのボトルを確かめたら
しっかり”辛口”と明記されておった。
合いの手が甘い奈良漬だから余計に辛く感じる。

「やっぱりお酒、お好きなんですネ」
「いや、そうでもないけど、
 奈良漬につい誘われちゃったヨ」
「アハッ!」
「商売が上手だこと」
「アハハハ!」

どこまでも平和な新小岩の昼下がり。
店のそばには平和橋通りが走っております。

「しげきん」
 東京都葛飾区新小岩1-30-8
 03-5662-8536

2023年6月12日月曜日

第3294話 赤茄子と書いて とまとと読ませる

おのれの気まぐれには困ってしまう。
この日もそうだった。
家をわりと早く出たため、
予定はメトロ千代田線で金町に行き、
そこから一駅歩いて柴又を目指すというもの。

実際に綾瀬ー亀有ー金町ー松戸間は
千代田線ではなくJR常磐線の各駅扱いだがネ。
詳細は省くけれど、この間は運賃が割高となり、
利用者による訴訟問題にまで発展している。

それはそれとして
千駄木から乗った電車は綾瀬どまりだった。
綾瀬のプラットフォームで
後続の我孫子(あびこ)行きを待っているとき、
またもや気まぐれ心につまづいた。

柴又やめて新小岩にしよう。
綾瀬の改札を抜け、新小岩行きのバスに乗った。
目当ての立ち飲み酒場「しげきん」は14時開店。
まだ13時である。

南口のルミエール商店街を流してゆく。
昨日は京急蒲田のあとす、
今日は新小岩のルミエール。
アーケードの連荘と相成った。

何か軽いものをと物色していて
昭和チックな喫茶店に遭遇。
この商店街で最も古い1軒と思われた。
店名は「赤茄子」なのにロゴは真っ赤なトマト。
初老の店主独りきりの切盛りだ。

ミートソースを通しながら
「ビールはないでしょ?」
「ハイ、ありません」
「それじゃアイス・レモンティーを」

溶き玉子・玉ねぎ・わかめの中華風スープが供された。
妙な感じだが不味くはない。
そのぶんミートソースがちょいと不出来。
出来合いのレトルトみたいで相当緩い。
タバスコは出て来たがパルメザンはナシ。

帰宅後、検索してみたら
赤茄子はトマトと訓じ、店名は「とまと」の由。
ここでJ.C.、ハタと思い当たる。
以前、ホテルの中国レストランで働いたとき、
中国語の料理名を覚えたのだが
確かトマトは中国語で”番茄”。
トマトと茄子は同じ仲間なのだ。

赤茄子をとまとと読ませるからには店主、
中国語の素養があるに違いない。
おそらく喫茶店を開く前に
中華の料理人だったのでは?
どうりでミートソースが
いただけないワケでした。

「赤茄子(とまと)」
 東京都江戸川区松島3-14-8
 03-3651-1007

2023年6月9日金曜日

第3293話 京急蒲田のアーケード

都営浅草線を泉岳寺で
京浜急行の特急列車に乗り換えた。
今日の狙iいは大田区・梅屋敷の洋食屋だが
特急は停まらないので一つ先の京急蒲田下車。

各駅停車で戻ってもいいが歩くことにする。
駅の改札は一箇所、ホームをずいぶん歩いた。
それも梅屋敷とは逆の雑色方面へ。
駅舎を出るとそこには
アーケードの商店街が口を開けていた。
”あすと”なる名前が付いている。

気まぐれなJ.C.ここでコロリと予定変更。
この商店街には界隈で人気の定食屋があるのだ。
「井戸屋」に来たのは
前回のラグビーW杯の最中だったから4年前。

単身客はみな奥の厨房前カウンターへ。
店頭のボードにあった、
日替わりサービス定食(700円)を通した、
おかずは子持ちかれい煮付けとハムカツだ。

此処のビールは確かキリンだったな。
お運びのオネバさんに確認したら
やはり瓶も生もキリン。
苦みが薄めの生をお願いした。

大田区も南へ下って蒲田ともなると
六郷川(多摩川の最下流)のすぐそば。
川の向こうの生麦にはキリンの大工場が控える。
よってこの辺りはキリンのテリトリーなのだ。

値段が値段なのにそこそこのサイズの煮がれい。
小型のハムカツはハムではなく、
よくありがちなソーセージ。
千キャベの脇には春雨サラダも添えてあった。

あとは桜大根&緑のキューちゃん風に
油揚げ&キャベツの味噌汁。
すばらしくはなくとも実直な定食である。
この商店街は若者好みのガッツリ系が目立つが
年配者にはちとキツい。
よって当店がオッサンたちの需要を
一手に満たしている。

生をもう1杯いただき、お勘定は1780円也。
アーケードを抜けたらJR蒲田駅に通ずる道筋。
カンカン照りにつき、バスに乗ろうか電車にしよかー。

日本最初の歌う映画スター、
高田浩吉の「大江戸出世小唄」を
口ずさみながら歩いてゆく。

♪   土手の柳は 風まかせ
  好きなあの子は 口まかせ  ♪

今日も成り行きまかせのJ.C.でした。

「食事女 井戸屋」
 東京都大田区蒲田4-5-7
 03-3739-4316

2023年6月8日木曜日

第3292話 板橋の佳店 再び

隔月の食事会がほぼ定例化した六人会。
此度の舞台は板橋区・小茂根の和食店「樽見」。
最寄りはメトロ有楽町線・小竹向原だ。
何度もうかがっているが10年ほどご無沙汰した。

屋号「樽見」を目にすると
オートマティカリーに連想するのは
映画「飢餓海峡」。
水上勉の原作は未読ながら
内田吐夢がメガホンをとった映画は何度も観た。

主演の両優、三國廉太郎と左幸子の存在感に圧倒される。
三國扮する殺人犯、犬飼多吉が後年、
京都・舞鶴で名を遂げ、財を成して樽見京一郎を名乗る。
よって「樽見」に来ると三國の顔がまぶたに浮かぶのだ。

食の不毛地帯、板橋区にあって「樽見」は稀有な存在。
おそらく区内随一の飲食店ではなかろうか?
食材の質が極めて高く、包丁も鋭い。
下ごしらえ、味付けともに申し分がない。

かつて利用した際はいつも多人数でおジャマし、
河豚か毛蟹を愛でることが多かった。
J.C.の要望により、
幹事が毛蟹を打診してくれたのだが
目が飛び出るほどに超高価。
諦めざるを得なかった。

よって今宵の主役は刺し盛りである。
あとは各自、思い思いの一品料理を
ランダムに通していった。
かなりの品数に達したため、
わが注文は水茄子だけにとどめおいた。

刺し盛りの内容は
真鯛・真あじ・〆さば・中とろ・
甘海老・つぶ貝・するめいかなど。
あと何かあったかもしれないが
記憶の範囲を超えている。

そのあとは料理が次から次へと運ばれ来た。
鳥から揚げ・チキンサラダ・生ハムサラダと
普段、自分ではまず頼まない品々のオンパレード。
一同の食欲には恐れ入る。

生ビールから冷酒にチェンジ。
麒麟山・久保田千寿・酔鯨と継いで
いや、ずいぶん飲んだな。

締めは日本一の太さと柔らかさを誇る伊勢うどん。
日本各地からお伊勢参りに訪れる、
参拝客の疲れた胃袋を慮ったヤワヤワうどんだ。
さほど美味しいものでもないが
霊験あらたかにしてご利益もあろう。
会計は一人アタマ8千円でありました。

「魚菜酒房 樽見」 
 東京都板橋区小茂根1-10-17
 03-3959-0885

2023年6月7日水曜日

第3291話 雨の午後 過小評価を改めた

雨の日は遠出をしない。
遠くへ行ってもその町を歩き回れないからネ。
バスにも乗らない。
常にメトロ千代田線の一本勝負である。

いったん地下に潜ってしまえば
乗り換えもさほどわずらわしくないが滅多にしない。
よって行く先は限られる。
北千住の飲み屋ストリート、メトロ町屋の駅ビル、
神田連雀町の旧市街、有楽町&日比谷のガード下。
そんなところだ。

この日は北千住。
3カ月前にも訪れた居酒屋「幸楽」である。
入口に傘をさして客を呼び込む、
オネエさんは毎度の光景。

オーダーを取ってくれるのはポッチャリした新人。
どうも手元がおぼつかない。
日本語もたどたどしい。

「ワタシ、日本語がまだちょっと・・・」
「いいヨ、いいヨ、ゆっくりで」
「ありがとござます」
「どこから来たの?」
「ベトナムです」
「エッ、じゃあ女の子はみんなベトナム?」
「そです」

わりとみんなおとなしいから中華系ではないと
踏んでいたがベトナムだったかー。
ミャンマー辺りだと思ってた。
ドライの大瓶をポチャにお願いした。

本日のオススメボードにキジハタ刺しがあり、
小躍りしながら即注。
しばらくして焼きとんのレバとシロをタレでー。
キジハタにはわさびのほかに紅葉おろし&ポン酢。
これがうれしい。

焼きとんも殊にシロがバツのグン。
下茹でジャストでクニュクニュ感がすばらしい。
此処の焼きとんってこんなに旨かったっけ。
タレがちょいと緩いけど、コレにはコレでいいかも?

イワシ天ぷらを追注し、ホッピー白に移行する。
前回のハゼ天も好かったが
今日のイワシもなかなかだ。
ここで判ったことに厨房で揚げているのも
ベトナム人のオニイさん。
穴子天、どぜう唐揚げなども器用に揚げている。

(中)をお替りし、先刻のシロを忘れられずにもう1本。
ついでにタン元を、こちらは塩だ。
おかげで今日も楽しい雨の午後となった。
今まで過小評価していた「幸楽」の格上げ決定。
来れば立ち寄る(晴れの日も)ことにする。
北千住のブレイク・ルームとなりました、めでたし。

「幸楽」
 東京都足立区千住2-62
 03-3882-6456

2023年6月6日火曜日

第3290話 仲間を誘って 夜の「専門店」

読者は覚えておらりょうか?
2カ月あまり前に紹介した、
本郷三丁目のタイ料理店のことをー。

その名も奇妙な「ガパオ専門店」。
グリーンカレーとジャスミンライスの
コンビネーションに魅了され、
その後、何回か利用させてもらった。

いつか夜に赴き、いろんな料理を味わいたいと
機会をうかがっていたところ、念願がかなった。
パンの専門家、通称P子から声が掛かったのだ。
J.C.オススメの店が希望とあって
飛んで火に入る夏の虫、即断即決であった。

面子はいつもの顔ぶれ。
カレーの達人、O野チャンと
今回は旦那を追ってアラバマに赴任した、
M央の代わりにP子の元同量、Mき。
19時の終結である。

生ビールやらハイボールやらで
ジョッキとグラスを合わせた。
それにしても此処の大ジョッキはバカデカい。
浅草の「神谷バー」並みだ。
そのぶん中ジョッキは小さく大の半量以下。

最初に通したのはソムタム(青パパジヤのサラダ)、
ポーク串焼き、チェンマイ・ソーセージ。
粗挽きのソーセージがとても好い。

注文外の生春巻きが供された。
タイ人のお運びさん曰く、
「予約してくれたのでサービスです」
うん、良い店だネ。

大ジョッキを2杯空け、
ハーブ入りのタイ・ウイスキー、
メコンのハイボールに切り替えた。

ヤムウンセン(春雨サラダ)と
パッタイ(タイ焼きそば)を追加する。
パッタイに使用される、
クイティオ(米麺)のノビやかな歯ざわりが
口中に快感を呼び込む。

当店の締めはもちろんジャスミンライス。
相棒は当然カレーだ。
グリーンとマッサマンのつもりだったが
O野チャンはマッサマンの甘みが苦手。
プーパッポン(蟹と玉子)にした。
すると蟹が珍しくもソフトシェル・クラブだった。

結局は薬局、「ガパオ専門店」に来ておいて
ガパオを食べるヒマがありませんでした。

「ガパオ専門店」
 東京都文京区本郷3- 30-7
 03-3868-0370

2023年6月5日月曜日

第3289話 みんな大好き ねぎせいろ (その2)

明治32年(1899)創業の「翁庵」。
敬愛する池波正太郎翁が贔屓にした、
旧神田連雀町「まつや」を
コンパクトにしたような空缶にくつろいでいる。

2枚の色紙であった。
誰が記したものか
字を読めない不良品が多いなか、珍しく読めた。

東京のおそばらしい
おそばだと思います
   土井善晴

本当はラーメンよりも
そばが好き
   林家木久扇

アッサリとした短文ながら
二人の個性がシッカリ伝わる名文ですネ。
山田クン、ザブトン1枚づつ。

そしてねぎせいろの後半戦に突入。
最初からずっと思っていたのだが
当店のそばはヤケに長い。
10年ほど前から他店でも感じているが
ここのは特に長い。

製麺機が改良されたせいかな?
箸を高々と持ち上げても事足りず、
2度ほど立ち上がってしまったヨ。
子どもみたいで恥ずかしいから
中腰にとどめておいたがネ。

あらためて店内を見渡しながらそば湯をすする。
ボーッとしてたら妙なことを思い出した。
もう10年以上も前のことだが
上野のお山の東京文化会館脇にあるカフェで
オペラのプリシアター。

支払いの際にカード類をぶちまけてしまった。
財布を持つ習慣のないJ.C.は
パンツの右の前ポケットに5千円以下の札と小銭。
尻ポケットに数枚の万札。
二つに折りたたんだ札の間に各種カード挟み込む。

それをバラバラとまいたのだ。
すべて回収したつもりが
目の前の滑車付きカウンターの下に
1枚だけ滑り込んだらしい。

翌日、AMEXから当社のカードが上野警察に
届いているのでピックアップせよとの電話。
無事事なきを得て退出する際、
「翁庵」の出前と玄関ですれ違った。
出前板の上には二つの丼がー。

まごうこと無きかつ丼だ。
へえ~ッ、映画みたいなことがsるもんだ。
感心することしきりであった、
ちなみに取調室の定番、かつ丼は森繁の主演映画、
「警察日記」がその始まりとされている。

「翁庵」
 東京都台東区東上野3-39-8
 03-3831-2660

2023年6月2日金曜日

第3288話 みんな大好き ねぎせいろ (その1)

天気予報は雨なのに薄陽の射す昼下がり。
夜の買い物があるため、御徒町へ。
その前に上野でランチだ。

上野警察署のはす向かい、
クラシカルな喫茶店「古城」に着いたら
TV局の撮影とやらで一時閉店。
すぐそばの日本そば「翁庵」に迂回した。
およそ20年ぶりの訪れである。

いつの間にやら食券制が導入されて
女将らしき女性が帳場に独り。
銘柄を確かめた上で黒ラベルの中瓶と
当店きっての人気商品、ねぎせいろを購入。
合わせて1500円のお支払い。

20年前もねぎせいろだったが
なぜそう呼ぶのか、いまだに判らない。
確かに南蛮カット(縦切り)の長ねぎはたっぷり。
でも主役はつゆの真ん中にドボンと
落とし込まれたイカゲソのかき揚げなのだ。
これが南蛮ねぎだけだったら
誰も注文しないだろう。

久しぶりに見る当店のそばは緑がかっていた。
クロレラでも練り込まれているのかな?
見た瞬間に江利チエミのパンチのある、
歌声が聴こえてきた。

♪   雨はふるふる
  城ヶ島の磯に
  利休鼠の
  雨がふる  ♪
  (北原白秋)

千利休がが好んだ利休鼠は
薄っすら緑を帯びた鼠色。
茶の湯の道を究めた達人にいかにもふさわしい。

多くの女性歌手がカバーしている、
「城ヶ島の雨」だが美空ひばりよりも
島倉千代子よりも断然、江利チエミが好き。
彼女の芸域の広さに舌を巻く。

利休鼠をたぐり寄せる。
池之端の行きつけには及ばぬものの、
歯ざわり、のど越し、ともにけっこう。
食べ出しのつゆがしょっぱい。
食べ進むうちに薄まるがネ。

人気のゲソかき揚げは別段、
デキが良いとも思えず、
ごくフツーの美味しさ。
着いたテーブルの真横に2枚の色紙を見とめた。

=つづく=

2023年6月1日木曜日

第3287話 うな丼 何と四種類

わが家の近くには
鰻屋がザッと数えて5軒もある。
当然、すべて制覇したが馴染みではない。
その中で道灌山下の「稲毛屋」だけは
たびたび利用している。
昼にうな丼を食べるよりも
晩にうな串を合いの手に飲むことが多い。

しばらく無沙汰をしちゃったな。
気づいて調べてみたら、その間8年。
シャボン玉ホリデーの植木等じゃないけど
「こりゃまた失礼しましたァ!!
千秋楽を控えた昼に出掛けた。

ドライの中瓶でノドチンコを潤しながら
品書きに目を通す。
おお、そうだった、此処にはうな丼だけで
四種類もあるのだった。

5月末まで中骨を油で揚げた、
骨せんべいサービス期間中。
川魚特有の臭みを感じてあまり好まないが
粉山椒と生醤油の助けを借りて数本かじった。

うな丼・和風うな丼・関西風・白焼き丼。
一律1980円の昼限定サービス価格である。
それほどの違いはないが、それなりにエラい。
和風には焼き海苔とアサツキ。
関西風は蒸しの過程を省いて
言わば焼き魚ライスのうなぎバージョン。

東京ではあまりお目にかからない関西風をお願い。
タレの掛かりの少ないごはんの上に
上半身が横たわっていた。
少食のJ.C.にはうってつけのサイズだ。
粉山椒を振り、シモのほうから箸をつけた。

うっ、うまい・・・というほどではないな。
水準には達しているものの、
年の瀬に食べた墨田区・石原は
「川勇」の2300円に軍配である。

添えられたのは
ワカメの味噌椀と大根の浅漬け。
これが肝吸いと奈良漬、
あるいは山ごぼうだったらなァ・・・
というのは見果てぬ夢、高望みに過ぎない。

肝は無くともせめて吸い物にして欲しい。
値段が値段だから付くだけマシ。
そう言う向きもござろうが
うな丼に味噌汁は無粋の極み。
花のお江戸の食文化が泣く。
おっと、今日のうなぎは関西風でした。

「稲毛屋」
 東京都文京区千駄木3-49-4
 03-3822-3495