2019年12月31日火曜日

第2296話 やっと出逢えたフラメンカ

ワイン会つながりの旧友と午餐。
舞台は最近、”棲みたい街”として
人気上昇中の足立区・北千住だ。
裏路地をぶらぶら歩いて店定めにいそしんだ末、
入店したのはスペイン・バル「ボケロナ」。
近くに同じスペイン・バル「ボケロン」があるが
似通った店名を持つ両者の相互関係は把握していない

「ボケロナ」と「ボケロン」。
数多あるタパスの代表格、
ボケロネス(カタクチイワシの酢漬け)が
名前の由来だろう。
イワシ亭、イワシ軒といったところか—。

カールスバーグの生とカヴァで乾杯。
メキシコ料理「ヒゲタコス」もこの生ビールだった。
北千住のラテン系料理屋では
カールスバーグが幅を利かせている。
つまみは当然、ボケロネス、そしてハモン・セラーノ

ピンクペッパーがアクセントのイワシは極上の味わい。
生ハムもいいがバゲットの提供にずいぶん時間がかかった。
ハム・ソーセージ・ベーコンなど豚肉加工品は
パンと一緒でないと美味しさ半減となる。

鶏白レバーのシェリー煮を追加して飲みものを切り替えた。
シェリー煮にはもちろんドライシェリーであろうヨ。
壁に掲げられたリストには
ポピュラーなティオ・ペペやサンデマンは見当たらないが
アモンティリャードがあってソレを—。
このコンビネーションは強力だ。

メニューにフラメンカエッグを発見。
別れたオンナに再会した気分になった。
おっと、そいつは前話で完結したのだった。
この6月の丸の内は「ビヤ&スパイス スーパードライ」。
やはり見つけて歓び勇み、注文したはいいけれど
ソースに不備があって提供にいたらず。
よって此度の対面に胸が弾み、心は躍った。

仏料理のラタトゥイユ、そのスペイン版がピストであり、
玉子を落とせば、ピスト・マンチェゴ(ラ・マンチャ風)。
単にマンチェゴと呼ぶと、
スペイン随一のチーズ、ケソ・マンチェゴを指す。

フラメンカエッグはそのゼイタク・ヴァージョン。
なるほど、ハモン・セラーノがたっぷり入っておった。
この料理に接するのはおよそ40年ぶり。
当時、働いていた芝公園のシティーホテルでは
パーティー料理としてフードボードを飾っていた。

いや、実にけっこう。
シェリーのグラスを重ねながら舌鼓を打つ二人である。
ちなみに料理名のフラメンカは
赤・緑・黄の鮮やかな色彩が
フラメンコダンサーの衣装を想起させるから―。

年の終りにあたってご挨拶。
本年も”生きる歓び”、多くの方々にお読みいただき、
ありがとうございました。
目の前に迫る新年がみなさんにとって
平穏で幸せなものとなりますように—。

「スペイン・バル ボケロナ」
 東京都足立区千住1-31-8
 03-3870-5868

2019年12月30日月曜日

第2295話 師走の玉ノ井 (その2)

「カトリカ」をあとにして、いろは通りに戻った。
食後のコーヒーでくつろぐために
立ち寄ったのは「玉ノ井カフェ」。
以前を言やあ、喫茶店とはまったく無縁の身、
それがどうしてこうなったのか
すでに幾たびも述べたので今話ではスルー。

”寺島・玉の井まちおこし委員会”が
墨田区の支援を受けながら運営するカフェは
小ざっぱりとして小粋な空間だ。
当方が荷風ブレンド、相方は玉ノ井ブレンド、
それぞれコーヒーをお願いした。
荷風のほうが深煎りで苦みが立っている。

先客・後客がまったくない貸し切り状態のひととき。
小柄なママさんが独りですべてをこなすが
少々、手持無沙汰の様子であった。
四半刻の滞空でおいとました。

その足で「ビッグ・エコー」へ。
この地は”ぬけられます”の陋巷、玉ノ井。
田舎の芝居小屋みたいな店は
大手カラオケボックスとして
他に類を見ない造作のノンビリ・カラだった。

そのせいか「エコー」なら必ずあるハズのウイスキー、
サントリー知多がない。
置いてもオーダーが入らないんだろう。
そこを補ったのがスーパードライの生だ。
マイクそっちのけで3杯もやっつけちゃったヨ。

夕飯は近隣の町中華「興華楼」。
ここへ来るのは2008 年9月以来で
過去何回か訪れているが、いつも夏だった。
当店の冷やし中華はJ.C.の好物なり。

おやぁ、切盛りするのはオバちゃん二人だけだ。
オジさんが居た記憶があるんだけど、
すでに11年の歳月が流れている。
問い掛けるのも何だし、まっ、いいか。
ドライのグラスを合わせ、さっそくのニラレバ炒め。
本来はニラ&レバのみが理想で、もやしなど不要だが
シャキシャキ感よろしく、一定の役割をはたしていた。

続いて洋食メニューからポークソテーを。
ケチャップ主体のソースが
アカ抜けないものの、肉質はグッド。
付合わせはキャベツ&トマトにマカロニサラダ。
厨房のオバちゃん、頑張ってるなァ。
ビールにはとんかつが定番なれど、
たまのソテーは味わい深い。
独りだと食べ切る前に冷めてしまうソテーも
二人で挑めば、余計な心配は要らない。

ジャンボ宝くじじゃあるまいし、
師走の冷やし中華という選択肢はないから
懐かしさが隠し味のラーメンを締めとした。

「玉ノ井カフェ」
 東京都墨田区東向島5-27-4
 080-2107-1016

「興華楼」
 東京都墨田区東向島5-28-2
 03-3611-2671

2019年12月27日金曜日

第2294話 師走の玉ノ井 (その1)

霜月に都の西方、武蔵関&井荻を食べ飲み歩いた、
さんとも・O戸サンと二人忘年会。
舞台は永井荷風&滝田ゆうが綴り描いた旧寺島町。
ここは墨東、墨田区・玉ノ井だ。
気心の知れた人物との酌交は
せわしない師走の日々にゆとりをもたらす。

北千住で乗り換えた東武伊勢崎線、
通称・スカイツリーラインの東向島(旧玉ノ井)駅に
降り立ったのは数年ぶりのこと。
1987年に駅名が変更された経緯は
何度か書いたから省きたい。

玉ノ井のメインストリート、いろは通りから
ちょいと入ったイタめし屋「カトリカ」へ。
初老の夫婦が営むピッツァ&パスタの小さな店だ。
スーパードライの小瓶で年忘れの乾杯。
相方が択んだアンチョヴィのピッツァに続き、
当方がパスタを注文しようとした矢先、
壁に掲げられたボード、”本日の料理”に視線を奪われた。

真っ先に記された一品は”プンタレッタ”。
いや、わが目を疑ったネ。
そこからだいぶ下がって”うさぎの煮もの”にも瞠目した。
前者は明らかにプンタレッラの書き違いか勘違い。
イタリア料理のシェフとしては少々恥ずかしい。
後者にしても”煮もの”はあんまりだろう。
大根やかぼちゃじゃあるまいし、ここは煮込みとしたい。

知識の曖昧さ及び、センスのなさは
客のヘジテイションを誘うものの、
マイ・フェイヴァリットを
2皿並べて突きつけられたひにゃ抗うすべはない。
パスタなんか食ってる場合じゃなくなった。
訊ねると、すべての料理がランチタイムも提供可能。
歓び勇んだJ.C,、即刻オーダーに及んだ。

ピッツァは水準を超えていた。
ローマの冬の風物詩にして
ローマっ子が愛するプンタレッラのサラダは文句無し。
本場では中心部をていねいに細く裂いたりするが
当店は緑の葉まで丸ごと皿に乗せてきた。
いや、日本で極上の葉野菜をたっぷり食べられるとは—。
うさぎトマト煮も合格点。
チキンの肉質と似て異なる、
コニッリオ(仔うさぎ)の個性が引き出されていた。

難点はただ一つ、切り盛りする夫婦から
温もりがまったく伝わってこないこと。
それどころか、”婦”からは冷たい風が吹いて来る。
初訪につき、一概に決めつけられないけれど、
料理はよくても客あしらいがあまりにお粗末。
お歳がお歳だけに大きな改善はもう見込めまい。
そこが残念な「カトリカ」でありました。

=つづく=

「カトリカ」
 東京都墨田区東向島5-26-5
 03-3618-6747 

2019年12月26日木曜日

第2293話 一皿に やっこ豚バラ カキフライ (その2)

台東区・入谷は鬼子母神近くの「キッチン R」。
目の前に拡がる大海原ならぬ、大皿原は迫力十分だ。
その全容を紹介してみよう。

カキフライ2個 w/タルタルソース 
豚バラ肉オニオンスタミナ焼き(けっこうな量)
冷やっこ 厚焼き玉子 赤ウインナー 
ケチャップ・スパ キャベツ繊切り

味噌汁(白菜・大根・もやし・わかめ)
ライス(大盛り)

食べ盛りの青少年なら楽勝だろうが
若いリーマンの胃袋にもじゅうぶん過ぎるほど。
したがってオッサンは悪戦苦闘もいいところだ。
絶対量が多いうえにスタミナ焼きが不デキ。
味噌汁を一吸いしたあと、箸をつけた豚バラだったが
完食をすぐにあきらめた。

ところがカキフライは期待以上。
粗めパン粉がカリッと揚がり、半生のカキは滋味たっぷり。
出来合いのタルタルは仕方ないとして
一流洋食店に遜色ない仕上がりだった。
華やかな相方陣によろめき、盛合せを択ん自分がうらめしい。
4個まとめのカキフライ定食が正解だったのだ。

アカ抜けないのは皿に同居する冷やっこ。
生姜&青ねぎ添えは評価できるが小鉢であるべきだろう。
ともあれ、そこそこのスペースでワンオペとなれば
洗いモノは増やせないし、目をつぶるしかないネ。

1切れの玉子焼きと1本のウインナーはご愛敬だが
子どもの頃から食べてきたモノはうれしい箸休め。
煮詰まり感否めぬ味噌汁にしたって
変色を避けるため、わかめは後入れだ。
センスはなくとも努力の様子がうかがえた。

結局、豚肉を4分の1ほど残し、あとは平らげた。
大盛り並みのライスはさらに増える中盛りまで無料。
大盛りとなって初めて40円。
殺人的ボリュームが予想される特盛りは+70円。
逆に少な目は-20円と芸がこまかい。

卓上にはウスターソース、醤油、ポン酢、使い切り辛子、
ドレッシング、タバスコ、胡麻塩、まだなんかあったな?
爪楊枝は袋入りで衛生を心がけている。

他客の注文を眺めていると、全メニューがボリューム過剰。
女子には相当キツいというか、ほとんどムリだ。
その証拠に10数名の先客、5名ほどの後客に
乙女の姿一人としてなく、女人禁制の男湯かここは—。

「キッチン R」
 東京都台東区北上野1-14-5
 03-6231-7995

2019年12月25日水曜日

第2292話 一皿に やっこ豚バラ カキフライ (その1)

アカデミックな上野のお山をそぞろ歩いた昼下がり。
両大師橋を渡り、スロープを下って下谷から入谷方面。
あまり自己主張することない、マイ・ストマックが
控えめに空腹を訴え始めた。
本日与えたのはミルクティー1杯のみ、さもありなん。

言問通りと昭和通りが交わる入谷交差点近くで
1軒の洋食屋を見つけた。
今までまったく気づかなかった「キッチン R」。
コレ、名前を隠したイニシャルじゃなくって正式名称だ。

店先のボードに記された、
カキフライ定食(960円)が足を止めたのだ。
ハイッ、今日のランチはかきフライで決まりっ!

13時を回っているのに、けっこうな客入りである。
ザッと数えたらカウンター5席にテーブル16席。
これを四十代くらいの男性がたった独りでさばいている。
接客・調理・会計、ぜえ~んぶ独りきり。
この時間でこの様子だからピークの12-13時は
てんてこ舞いどころか死にもの狂いであろうヨ。

スゴいね~!
エンプロイヤーならいいけれど、
エンプロイイーだったら
セブンイレブン並み(もちろん本部)の超ブラック企業だぜ。

カキフライ定食は4個付けと明記されている。
ほかにカキフライ盛合せ定食(1060円)があり、
ハンバーグ、豚スタミナ焼き、おろし豚しゃぶ、メンチカツ、
エビフライ、アジフライ、ハムカツ、チキン南蛮などと、
組合わせるシステムだが

”相方によりカキフライの個数が変わります”

とあった。
へェ~、面白いなァ。
豚肉のスタミナ焼き(ニンニク風味)とのコンビでお願いする。
はて、カキは何個で来るのやら? こりゃ、楽しみだ。

孤軍奮闘の男性が運んでくれたお冷やからレモンが香る。
ときどき遭遇するが、お冷やにレモンは好みでない。
おっと、グラスの底にスライスが1枚沈んでいる。
原価はバカにならないだろうに—。
まさか、使い回しってことはないよなァ、
余計な心配までしちまうヨ。

はたして盛合せのカキフライは2個。
そうかァ、3個は欲しかったが、まっ、順当だろう。
それよりも副菜の陣容が半端じゃない。
豪華絢爛と言うか、満艦飾と呼ぼうか、
ワンプレートにすべて一緒盛りで
ワンチームを形成していたのでした。

=つづく=

2019年12月24日火曜日

第2291話 或る日突然 (その3)

28年前の羽田空港。
せっかく届いたパスポートだったが
搭乗予定のJAL便には間に合わなかった。
それでもシンガポール航空の夜便に
エクストラチャージなしで乗ることができた。
利用者にとってありがたい航空会社間の連携は
今も続いているのだろうか?

話題は互いの近況、そして昔ばなし。
ニューヨーク時代は共通の友人が多かったから
彼女は今こうしてる、彼はどうやらこうやら
話の種がつきることはない。

「牛タン いろ葉」にほど近い「磯平」へ河岸替え。
竹鶴のハイボールで二度目の乾杯だ。
つまみは本わさび添えとあった、
まぐろ刺しを眉ツバながら通すと、案の定、似非わさび。
もともと信じちゃいないから腹も立たない。

ハイボールのお替わりとともにとんぺい焼きを追加。
小麦粉を使わずに豚肉と玉子で仕上げる、
一種のお好み焼き風オムレツは
腹にたまらないぶん、酒の友にはピッタリ。
通常は薄切りの豚バラだが
「磯平」は厚切りのロースを使用。
とんぺい焼きとポークピカタの中間、てな感じだ。

満席に近づいて店内が騒がしくなってきた。
どこか静かな場所を探すため、
東小路&平和小路をブラブラと行ったり来たり。
大井町きっての盛り場も日曜ともなればうら寂しい。

呼び込みにツラれてスナックだかラウンジだか、
よく判らぬ「R」なる店に入り、
先客ゼロで無人のカウンターへ。
角瓶のロックはちとキツいから炭酸をもらった。

女の子は二人ともフロム・コンティネント。
あとから来たママも同様だ。
面白くも何ともどころか
ハッキリ言ってロクでもない店なれど、
放ったらかしにしてくれるのが、むしろありがたい。

四半世紀を超えて相みる二人。
空白を取り戻しに行こうとは思わぬが、
若い頃とはまた違ったつき合い方もあろう。
少なくともこれから長きに渡って酌交を重ねる、
強力な手駒が1枚増えたことは確かだ。

この日は奇しくも12月8日。
戦争よりも平和を愛するJ.C.、
ここで西施の顰(ひそ)みならぬ、
万智の短歌に倣い、締めくくりに一首。

ときを超え別れた女と逢ったから12月8日は再会記念日

=おしまい=

「磯平」
 東京都品川区南大井5-2-7
 03-6433-2527