2013年8月30日金曜日

第654話 変わらぬ味と変わった味 (その1)

昔ながらの町の中華屋さんがめっきり減った。
さびしいねェ。
昭和30年代はどんなに場末の小さな町でも
必ず1軒や2軒は細々と暖簾を掲げていたものだ。
日本そば屋にあまり変化がないのと対照的に
中華そば屋は絶滅の道まっしぐらの感がある。

あの時代の中華屋のメニューはまずラーメンとワンタン。
それからタンメン・もやしそば・ワンタンメン・チャーシューメン・五目そば。
注文する客をめったに見なかった天津メンも古くからあった。
逆に広東メン、いわゆるうま煮そばは
中華丼の麺バージョンといった位置付けなのだが
提供する店はほとんどなかったと記憶している。

麺類以外ではチャーハンと中華丼、野菜炒めにニラレバ炒め。
餃子を食べた記憶がまったくないのはどうしたことだろう。
オリンピック前の東京に餃子はまだ普及していなかったんだネ。

そのぶん焼売が幅をきかせていた。
中華屋以外に町の精肉店でも焼売はおなじみのレパートリー。
上にポツンと一つ、グリーンピースが乗っかっていたっけ。
挽き肉少な目で玉ねぎやツナギの多いヤツだった。
なつかしいなァ、食べたいねェ。

肉屋といえば当時は焼売・マカロニサラダ・野菜サラダが
揚げもの以外の三大惣菜だった。
野菜サラダは当世のポテトサラダのことで昔はこう呼んだのだ。
今でも古い店は野菜サラダで通しているところが少なくない。

散歩に出掛ける機会の多い谷根千に気に入りの中華屋2軒。
1軒は千駄木は三崎坂(さんさきざか)の「砺波」。
店主が富山県・砺波の出身で確か女将さんも同郷のハズ。
このオバちゃんの接客がとてもすがすがしい。

もう1軒は根津・善光寺坂の「中華オトメ」。
もともと「オトメパン」なるパン屋だったのを
先代が中華料理店へと急ハンドルを切った由。
世の中には思い切ったことをする人がいるもんだ。
どんな着想からパン屋を中華屋に変身させたのか?
機会があったら訊ねてみたい。
そのままパン屋を続けていたなら昭和の香り漂う、
J.C.好みのレトロな店として残っていたことだろう。
そう思うと非常に残念。

昔ながらのパン屋というのも激減している。
ブラジャーのパットみたいな甘食(あましょく)をトンと見掛けないし、
三つ島(みつじま)なんか、すでに化石だもんねェ。

=つづく=

2013年8月29日木曜日

第653話 羊の串にかぶりつく (その2)

神田の明神下ならぬガード下にいる。
中国東北地方の料理を供する「味坊」である。
中国ではシルクロードに続く西域地方で羊肉はもっとも重要な食材。
ところが東北地方でも盛んに食べられている。
いや、首都・北京でも人気が高いのだ。

有名なのは涮羊肉(シュワンヤンロウ)と呼ばれるしゃぶしゃぶ。
都内には多くの専門店ができつつあり、
ジンギスカンとは一味違う美味しさを求める日本人が増えている。
羊肉しゃぶしゃぶ専門ではないが
神田錦町の「龍水楼」がさきがけ的存在だろう。

「味坊」の看板メニュー、羊肉串にはスパイスの中でも
もっとも個性的な香りを持つクミンがふんだんに使われる。
あとは岩塩・チリパウダー・白胡麻だ。
ここへ来たら忘れてはならじの必食科目である。

羊の肉にかぶりついたあと、
注文したのはこれまた羊モノのラム入り焼き餃子。
豚と羊の合挽き肉を餃子の餡にしている。
じゅうぶんに水準をクリアしているが
もっと羊肉に主張させてもよいのではないか、といった印象。

餃子を頼んだ時点では、あと2~3品追加することで
意見の一致を見ていたにもかかわらず、
お互いそれはちょいと無謀ではないかと思い始めた。
賢明である。
流れに乗って、その勢いで行け行けドンドンは
この歳になったら厳に慎まなければいけない。

となれば、締めは麺類で、という運びになった。
炒麺か湯麺か、それが問題だ、と言いたいところなれど、
この夜の場合、まったく問題にならんのですわ。
何となれば、このBuddy from Michinoku、
そばでもうどんでも熱いつゆがないと食わんのですわ。
したがってハナからJ.C.に選択権はありまっしぇん。

Buddyが指差したのは塩ラーメン。
おう、味噌ラーメン(あったかな?)じゃなくってよかったぜ。
でもネ、塩ラーメンってヤツは外すとひどい目にあうんだヨ。
外す場合はほとんど化学の力に頼りすぎ。
あればっかりはもうどうにもならない。

ここまで食べてきた料理はそれぞれによかったから
よもやNGやOBはなかろうが
かといって大船に乗ってるわけにもいかない。
佳品の到着を祈るばかりだ。

ワインのボトルが空いた頃に登場した塩ラーメン。
おもむろにスープを一口すすって早くも指パッチン!
今度は麺を一箸たぐってパッチンをもう一丁!
こいつはスゲェや、スープも麺も大好きなタイプで
叉焼・支那竹・青菜のバランスもよく、
これは羊肉串を食っちまったかも?
相方Buddyもにっかりと笑っている。

再訪したらもちろん羊肉をいただくが塩ラーメンも必食だネ、こりゃ。
いや、次回は醤油ラーメンを試さにゃなるまい。
思いは乱れるなァ。
接客や雰囲気に多少の難はあろうとも
「味坊」は本当にいいお店です。

「味坊」
 東京都千代田区鍛冶町2-11-20
 03-5296-3386

2013年8月28日水曜日

第652話 羊の串にかぶりつく (その1)

JR山手線・神田駅のガード下に
東北料理を食べさせる店があると聞き、心惹かれた。
東北といってもみちのくではなくて中華人民共和国の東北地方。
旧満州ということになる。

そういえば「週刊現代」の巻末ページに
「人に教えたくなる店 私のベスト3」というコラムがあり、
作家の角田光代サンが推奨していたっけ。
店の名は「味坊」。
これじゃ名が体を表していないし、第一、あまりに素っ気ない。

東北つながりで宮城県から上京してきたのみともと連れ立って訪れた。
サッポロ黒ラベルで乾杯し、
最初にオーダーしたのがフライドポテトと叉焼と香菜を合わせた一品。
これには別盛りで香菜を1皿お願いする。
タイ語でパクチー、英語はコリアンダー、スペイン語ならシラントロ。
フレンチはコリアンドル、イタリアンはコリアンドロ、じゃあコリアンは?
そう訊かれてもそこまでは知らない。

肝心の料理だが、別段、相性がよいとも思えない3種の食材が
妙にシンクロナイズして相乗効果を発揮する。
ビヤホールへ行っても、まずフライドポテトを頼むことなどないのに
ポテト好きの相方に合わせたおかげでご利益(りやく)を賜った。
いや、驚きましたネ。

そして目当ての羊肉串。
これはラム肉の串焼き、いわゆるバーベキューだ。
5本で1000円が10本だとかなり割安の1600円。
しかし10本はいくらラム好きの二人でも荷が重すぎる。
ほかの料理が入らなくなっちゃうヨ。
ここはおとなしく2本半づついただくこととした。

紹興酒と迷った挙句、今宵の決断は赤ワイン。
だって案内されたテーブルがワインケースの真ん前なんだもの。
ワインは一律1ボトル2500円で客が手に取って選ぶシステム。
ケースのそばは便利だけれど、
ほかの客が入れ替わりやって来てちょいとばかりうっとうしい。

選んだのはドイツのシュペートブルグンダー。
いかめしい名前ながらなんのことはない、ピノ・ノワールである。
ドイツの気候は寒冷にすぎ、カベルネ系では塩梅が悪いのだ。
このワインがかぶりついた羊肉にピタリと寄り添った。
満洲料理にドイツワインかァ・・・。
思いもよらぬコンビがハーモニーを奏でてくれたヨ。
いいじゃん、いいじゃん、このお店。
こうなると素っ気ない店名すら気にならなくなってくる。

芋も豚も羊も食った。
羊はあと1~2本づつイケちゃいそうだ。
10本にしときゃあよかったかな?
いや、いや、それではのちのち禍根を残す、これでいいのサ。
さて、さて、再びメニューの吟味に入ったわれわれである。

=つづく=

2013年8月27日火曜日

第651話 八月の油蝉 (その2)

愛猫・プッチが窓越しに雀をながめていた日。
そこから何日か経過した。
とはいえ、まだ八月もど真ん中の暑い午後であった。

所用を済ませて帰宅すると、
ドアの前に一匹の蝉が腹を見せている。
亡骸(なきがら)かと思ったら
かすかにうごめいているじゃないか。
ムカデやゴキブリならいやだが
蝉は子どもの頃から好きな昆虫、迷わずつまみ上げた。

やや小型の油蝉はいきなりつままれて
癪にさわったのかジージーと鳴きだした。
おう、おう、けっこう元気でないの。
これならあと一日、二日は生き延びるかもしれない。
今夜あたりがヤマかな?  
って、オイラは蝉の主治医かヨ。

もう飛ぶことはできまい、さすれば自然界に帰しても無意味だ。
家に持ちかえって(目の前のドアの向こうだがネ)、
末期の水代わりにトマトかきゅうりの汁でも与えようか?
無駄と知りつつもジージーと騒ぐヤツをあえて拉致、
もとい、看護する破目に陥ったのでした。

偽善者を装ってみたものの、しょせん悪玉、
実は悪企みがあったのだった。
フッフッフ、これJ.C.、そちもなかなかのワルよのォ。
もしもこの蝉を引き合わせたら
当家の化け猫、もとい、バカ猫はどんな反応を示すだろうか?

このことであった。
ジャレついて一緒に遊ぶのか、あるいは惨酷にいたぶるのか、
はたまた怖れおののき尻尾を巻いて逃げ出すのか・・・
いやはや興味津々である。

でもって世紀のご対面。
ムムッ、しばらくじっとみつめていた愛猫はやがて
小当たりに当たり始めた
ありゃりゃ、ひっくり返しちゃったヨ

まさにこのとき、脳裏をよぎったのは石川啄木の短歌であった。

 東海の小島の磯の白砂に
         われ泣きぬれて蟹とたはむる

ひるがえってわが家の目の前の光景は

 東京の小部屋の床の板の間に
         猫泣きぬれず蝉とたはむる

すると驚くなかれ、今わの際の油蝉が反応し始めた。
鳴くだけでなく、パサパサと羽ばたいたりもしている。
バカ猫はタジタジで、飛ばれるとだらしなく後ずさり。
羽を広げた八月の油蝉

蝉の最後のひと踏ん張りにいたく感動したJ.C.、
ベランダから瀕死の油蝉を解き放ってやった。
すると奴サン、パタパタと向かいのマンションにまっしぐら。
命の果ての一っ飛びを見たJ.C.とプッチ、
何やら心に熱いものがこみ上げて
これからの人生、どんな艱難辛苦が待ち受けていようとも
二人一緒に生きていこうナと、固く誓い合ったのでした。
やれやれ。

2013年8月26日月曜日

第650話 八月の油蝉 (その1)

ある朝早く、快適な目覚めを迎えた。
珍しくも飼い猫のプッチが”めしよこせコール”を怠ったからだ。
耳元でニャア、ニャアとやられたひにゃ、
おちおち寝ちゃいられないんだな、これが。

名前を呼んでも応えがない。
また家出でもしたんかいなと、胸騒ぎを覚えて起きだした。
すると、いました、いました、
独りベランダ越しに外を眺めていやがった。
視線の先には1羽の雀
ふ~ん、雀かい。
何年か前、門前仲町の富岡八幡宮の裏手で
雀をくわえた野良猫を見たことがあった。
捕らえられたばかりの雀はまだ猫の口元で羽をパタパタやっていた。
あれにゃ驚きましたネ、超リアルだったもの。
猫ってのはすばしっこいから
ねずみだけでなく雀まで捕まえるんだねェ。

そうこうするうち、陽にあたって気持ちよくなったのだろう。
ひっくり返って居眠りを始めやがった。
おい、リラックスしすぎだろうヨ
実に平和な朝のひとときである。
思わず口ずさんだのは

 ♪  あなたの面影 だきしめながら
   目ざめる朝の 私は幸福よ
   愛してみて 愛してみて
   はじめて わかるのね
   あなたのもとへ 届けたい
   やわらかい 朝のくちづけ ♪
      (作詞:有馬三恵子)

好きだなァ、伊東ゆかりの「朝のくちづけ」。
さっそくyou tubeで聴きながらコレを書いている。
もう真夜中なんだけどネ。

この人はなんともいえずに艶のある声をしている。
ちょっと甘ったれて男心をくすぐるような声音。
見てくれだって、もういいお歳なのにじゅうぶんかわゆい。
なんかデビュー当時のティーンエイジよりも今のほうが素敵だ。

これは女性歌手にとってきわめて稀有なことではなかろうか。
いや、歌手に限らず女優でもスポーツ選手でも一般人でも
まことに珍しい現象と言わねばならない。
つい先日、寅さんの町・柴又の駅で電車を待っていたら
1枚のポスターが目にとまった。
どれどれ、オヤ、この秋、下町で彼女のコンサートが開かれる。
生で聴いたことがないから思い切って出掛けてみようかな。

おっと、ウチの猫のハナシだった。
小一時間もするとヤツは目覚めた。
雀に刺激されたものか、遊びの相手を求めてジャレついてくる。
眠っていたハンターの血が騒ぎ始めたんだネ。

=つづく=

2013年8月23日金曜日

第649話 みんなウナギが好きなのサ (その2)

あ~あ、やんなっちゃった!
いえネ、再び薄髪(はくはつ)の吸血鬼、
もとい、咬みつき亀のことである。
判っちゃいるけど、つい口車に乗せられて
またもや客寄せに協力しちまった。
これじゃ、亀の思う壷じゃないの。

名古屋在住の先輩、S崎サンからはこんなお叱りを受けた。
「あの手の生きものとはつき合わんほうがいいぜ。
 人間が堕落するゾ。
 悪貨は良貨を駆逐するって言うだろ!」―だってサ。
ハイ、ごもっともです。
まさかグレシャムの法則が飛び出すとは思わなんだが・・・。

オンナと言えば、あのデバ亀、つまらん浮気に走ったものの、
その道に疎いせいで対処が未熟なものだから
とうとう発覚してしまい、果ては逆三行半(みくだりはん)を突きつけられて
あえなく離婚の憂き目をみることと相成った。
おのが愚行を少しは省みろっての、バカタレがっ!
まったくもって五十過ぎてからオンナ遊びを覚えるとロクなことはない。
人生において無知は悲劇を呼び込む。

エッ、三行半って何だ? ってか?
もともとは夫が妻の家族に出した離別状のことで
離婚の宣言と妻の再婚許可が
3行半の文章にしたためられたんざんす。

おっと、ハゲちょろけた亀なんぞに構ってられない、
昨日のつづき、つづき、西浅草の「鍋茶屋」である。
ビールのあとは一同、菊正の樽酒に切り替えた。
合いの手はうなぎ肝焼き(一人1本限定)と焼き鳥(もも肉&モツ)だ。
いやはや、旨いんだな、これがっ!
うな肝はもとより、専門外の焼き鳥だって下手な専門店より上だもの。
ちょいと遅れて来た鳥わさだけは珍しく不出来。
熱の通り過ぎでパサついてしまっていた。

そうしてお待ちかねのうな重と相成った。
「鍋茶屋」は2500円のお重一本勝負。
他店のように松・竹・梅だとか、上・特上だとか、
まだるっこしい仕分けが成されていない。
さすが下町・浅草、鯔背(いなせ)だねェ。
あまりの潔さに福沢諭吉の「学問のすゝめ」を思い出す。
 天は鰻の上に鰻を造らず 鰻の下に鰻を造らず

実は注文の際にJ.C.がすゝめたのは
都内ではこの店だけで食べられるうなぎちらし。
鮨屋のちらしのように酢めしの上にうなぎを乗せたもので
珍しいからぜひ!と強調してみたが
「じゃ、それを1人前だけ取ってみんなで味見しよう」―
東海林御大の鶴の一声であった。
そうだよネ、みんな熱々ごはんのうな重が好きなんだよネ。

大勢でうなぎを食べるのは数年ぶりのこと。
とにもかくにもみなさん喜色満面である。
笑う門(かど)にはラッキー・カム・カム、よかった、よかった。

「鍋茶屋」
 東京都台東区西浅草3-16-3
 03-3844-3337

2013年8月22日木曜日

第648話 みんなウナギが好きなのサ (その1)

週刊誌を開けば必ず連載にブチ当たる東海林さだお御大と
「キン肉マン」に実名で登場する中野和雄先輩。
このお二人をを囲む会は2、3ヶ月にいっぺん開催される。
男性はJ.C.を加えて3名、相対する女性もほとんどの場合3名だ。
いつも3対3の「パンチ・デ・デート」状態なのである。
何が起こるってワケじゃないけどヨッ!

開催地は決まって下町、それもほぼ浅草に限定されている。
女郎衆と落合う前にビール好きの野郎どもは零次会に集結するのが常。
河岸は「神谷バー」だったり、「正直ビヤホール」だったりだ。
此度は六区ブロードウェイ裏手の立飲み「安兵衛」へ赴いた。

オジさん3人、気持ちよく生ビールで乾杯したが
店内にタチの悪い酔漢が一人居やがった。
不幸中の幸いでシツコくからんでくるほどでもなかったから
適当にいなして熟女たちの待つ会場へと移動する。
今宵の舞台は浅草一のうなぎ屋「鍋茶屋」だ。

浅草で名の通るうなぎ屋は「前川」、「色川」、「初小川」の”三川”に
「やっ古」、「小柳」、「川松」といった店々である。
でもネ、でもですヨ、J.C.が愛するのはビューホテル近くの「鍋茶屋」。
とにかく料理・接客・雰囲気・値段と、四拍子揃って非の打ち所ナシ。

宵い闇せまれば悩みははてなし。
6人合わせて380歳超えが小上がりの座布団に居座った。
オトコは胡坐、オンナは正座である。
メンバーの表情をそれとなくうかがうと、
心なしかみなさんウキウキしている。
なぜだろう? なぜかしら?
答えは簡単、みんなウナギが好きなのサ。
殊にここ数年、日常的には食えなくなった高級魚だからネ。

「鍋茶屋」がエラいのは第一にそのお通し。
あざとい居酒屋チェーンのように
有無を言わせずゴミみたいな小鉢をオッツケて
金数百円也をせしめるような悪行は絶対に犯さない。
下町の食べもの屋には他所にない矜持がある。

ビールや酒を注文すると女将サンすかさず、
「お通しはいかがいたしましょうか?」―
お伺いを立ててくれるのだ。
値段を忘れたけど、たぶん300円くらいだったと思う。

この廉価なお通しが実にすばらしい。
たこ・〆さば・かまぼこ・玉子焼き、それぞれ真っ当なのが1切れづつ。
お替わりしたいくらいのものである。
世の居酒屋サンよ、一度でいいからここのお通しを食べてみて
わがフリ見直しておくれでないかい?
自分とこの駄作はもう恥ずかしくて金輪際出せなくなるぜヨ。

=つづく=

2013年8月21日水曜日

第647話 真夏の夜の動物園 動物園こそわが楽園 Vol.7

エルヴィス・プレスリーの「ダブル・トラブル」じゃござんせんが
トラブルにトラブルが重なってアップが大幅に遅れ、
ご迷惑をおかけしました、どうもすみません。

今日は”動物園こそわが楽園”シリーズの第7弾まいります。
今年も恒例の”真夏の夜の動物園”が恩賜上野動物園で催された。
年間パスポートを購入した昨年から
このイベントを楽しみにするようになった。

今年は8月10日から18日まで9日間の開催。
普段17時閉園(入場は16時まで)のところ、
3時間延長して20時閉園(入場は19時まで)になる。
夜は外出の機会が減る子どもたちも
この期間中は親に連れられ、大挙してやって来る。
彼らにしてみたら千載一遇の夜遊びのチャンスだ。
氷柱に集まる子どもたち
この企画は実によいですヨ。
昭和の時代ならともかく近頃は年々、
真っ当なビヤガーデンが東京から消えてゆく。
そんなご時勢に”真夏の夜の動物園”は
都内屈指ののビヤガーデンとしての役割をはたしてくれる。

すぐそばの「精養軒」には申し訳ないが
J.C.は夜の動物園のビヤガーデンになびいてしまう。
本格的な料理がないのでフードメニューは大したことない代わり、
持込みフリーというのがこたえられない。
食べものの調達には松坂屋があるからネ。
アルコールは生ビールのみ

J.C.の肥掛けで、もとい、声掛けで今回集結したのは7名。
西園のテラス、鵜の池のほとりに陣取った。
昔に比べてカワウの数が減り、ペリカンなんぞも羽を休める池だ。
不忍池は3つに分かれており、鵜の池、ボート池、蓮池と呼ばれる。
カワウの数が少なくなった鵜の池は
近年、蓮池並みに蓮が密生するようになった。
この時期は桃色の花が咲きほころんでいる。
ところで新潟県・柏崎の蓮池サン夫婦は元気なのだろうか?

おのおの持ち寄った酒とつまみをやりながら2時間ほど過ごした。
動物を観るよりも酒を飲むのが主眼の夜のことだ。
動物たちにしたって年に一度の催しにとまどうことしきりであったろう。
いつもと勝手が違う状況下のペンギン
閉園に30分以上を残し、Zooをあとにした。

ハナシは突然、時空を飛び、1997年の香川県・高松市。
ニューヨークから出張がらみの一時帰国で
仕事を済ませたあとの休暇中だった。
岡山市在住ののみともとともに
源平の古戦場・屋島に立ち寄り、続いて高松に入った。
1軒目の和食店で大きく外し、ふてくされて街を散策していると、
いきなり目に飛び込んだ袖看板は「夜のどうぶつえん」。
二人、顔を見合わせて思わず吹き出しましたネ。

通り過ぎようとしたJ.C.の袖を引き、
興味を示した相方に拉致されるように入店した”どうぶつえん”。
薄暗い中でうごめいていたのは何頭かのどうぶつたちだった。
もしも灯りを点けたなら、どうぶつがお化けに変身必至だったろう。
でも、この店は歌舞伎町あたりのアコギな店ではけっしてない。
むしろれっきとした優良店である。
だって看板に偽りがこれっぽっちもないんだから。
聞くところによれば
おかまショーがウリの「ニュー夜のどうぶつえん」として今も健在らしい。
どうぶつとおかまかァ・・・、J.C.はどうぶつ派だネ、ゼッタイ。

2013年8月20日火曜日

第646話 もしもし亀よ 友里よ!

読者の方々から一報、二報、三報と入った。
また”亀野郎”が吠えてるから
一喝して黙らせちゃってくれとのお達しだ。
そう、飲食業界の嫌われ者、”薄髪の咬みつき亀”こと、
友里征耶が懲りずにしゃしゃり出てきたのである。

嫌々ながらヤツのブログを開いてみると、
おう、おう、また派手にやってくれてるじゃないの。
 http://tomosato.net/weblog
おヒマな方はこの8月17日付けをのぞいてくだされ。

書くネタがなくなると、ああだ、こうだと
騒ぎ出すのはいつものクセでマッチポンプもいいところ。
読者の中には
「あの手の痴れ者は放っておくに越したことはない、
 亀だけに放し飼いに捨ておきなさいな」―
ありがたいお言葉を掛けてくださる方もあるが
完全無視では無慈悲にすぎるので
つい、つい、かまってやることになる。
この甘やかしがつけ上がらせの素と判っちゃいるけれど・・・。

味の素(MSG)云々発言にも驚いた。
以前、亀との会食中に話題がわさびに及んだ。
何でも亀は自宅で食べる刺身には
チューブわさびを愛用してるんだと―。
愛用品の中にどれほどの化合物が混入されているのか
本人、判って使っているのかネ、ったく。
自分のボケ舌をカモフラージュするために
他人に吼えまくるMSG攻撃、
いい歳こいてそろそろおのれの愚かさに気づいてもらいたい。

こんなこともあった。
小さいなりにも生わさびを添えてくるそば居酒屋チェーンがあり、
鮨屋ですら粉わさ、ニセわさが目立つ今日び、
見上げた心がけだとJ.C.が評価したらば
咬みつき亀が咬みついて曰く、
「あんなそば屋の小さい生わさび、
 根っ子ばかりで食えたもんじゃない!」―
これにはしばらくの間、空いた口がふさがらなかった。
5年ものにせよ、7年ものにせよ、いかに立派なわさびでも
わさびは根っ子なんだヨ、バカがっ!

噺家の林家木久扇に瓜二つの容姿のせいで
からっきしオンナにモテない劣等感から
性格がネジりにネジ曲がってしまった友里。
ペンネームは”友”人たちから
お前の行動を見てると、つくづくお”里”が知れるなァ、
との箴言が相次いだところから生まれたそうな。
さもありなんて。

毎晩、安酒のJ.C.に対し、自分は高級ワインを飲んでると
鼻高々の友里にあえて聞かせておきたい。

 大海の 水を飲んでも 鰯は鰯
 泥水飲んでも 鯉は鯉

お判りかな? 亀鰯くんヨッ!

2013年8月19日月曜日

第645話 だんだんよくなる玉子焼き (その2)

それにしてもいつの世も玉子は物価の優等生。
近所のスーパーでは10個入りが200円前後で買える。
赤玉は200円を超えることが多いが、白玉は200円以下だもの。
安いし、旨いし、栄養価は高いし、胃の消化はいいし、
料理のヴァリエーションは広いし、
こんなにありがたいヤツはほかにいないや。
家庭の主婦の絶大な味方だろう。

それはそうと昨日は麻雀教室のあと、
マスターとママと3人で本郷の中華屋へ赴いた。
この店はいずれまた紹介することもあろうが
ここの支那麺がサイコーなのだ。

麺は麺として小籠包や焼き餃子やチーズ春巻をつまみに
生ビールと紹興酒を飲んだ。
なぜか昨夜はゆで玉子が無料で食べ放題。
いやしきわれら3人、ロハをいいことに
1人2個ずつ食っちまった、いい歳ぶっこいて―。

おっと、ゆで玉子じゃなくて玉子焼きのハナシ。
自宅でもときどき作る玉子焼きとオムレツがなかなか上手くいかない。
自分で言うのもなんだがビーフステーキやポークソテーは大得意。
ところが玉チャンだけは実に厄介な鬼門であった。

いつぞやは大安売りの小玉を大量に買い込み、
試作に次ぐ試作に励んではみたものの、
満足のいく結果は得られなかった。
熱いフライパンに油を引いて溶き玉子をザッと流したら
菜箸(さいばし)でチャチャチャッとかき混ぜ、
フライパンを持つ左手の手首を
箸を持つ右手でトントンとたたいては形を整えてゆく。
ホテルで洋朝食のビュッフェを食べるときなど、
オムレツを焼くコックさんの手元をつぶさに眺め、
研究に余念がないのだが、ちっとも上達しない。

ところが石の上にも三年、ようやく良形が焼けるようになった。
やはり手首の返しがポイントだ。
つい先日も醤油・砂糖・日本酒にきざみねぎを混ぜ込んで
和風オムレツとシャレてみた。
故・池波正太郎翁が好みそうな味付けである。

これがわりかし上手に仕上がった。
なのでご覧にいれましょう。
くだらねェ写真を載せるな!なんて言わないでネ。
使用した玉子は2個 

よお~く冷やした菊正宗と一緒にやったらまことにけっこう。
大いに気をよくして次回はオムライスに挑もうと思う。
それもタンポポ・オムライスなんかじゃなくて
薄焼き玉子でチキンライスをピシッと包むヤツをネ。
とはいっても初回は失敗するだろうな、きっと―。

2013年8月16日金曜日

第644話 だんだんよくなる玉子焼き (その1)

 巨人 大鵬 玉子焼き  
初めて耳にしたのは小学生の頃だったかな?
誰が言い出したものか、
事実、当時の子どもたちには三者三様、大人気であった。

ところがヘソ曲がりのJ.C.は少々趣きを異にしていた。
 巨人 オムレツ 房錦  
これがおのれのフェイヴァリット。
読者の中に褐色の弾丸・房錦を覚えて
あるいはご存じの方がおられようか。
ほとんどおられまい。

房錦の最高位は関脇どまり。
典型的な押し相撲は白色の弾丸・富士錦と並び称せられたものだ。
房錦は通好みの力士だった。
人気の秘密は横綱・大鵬に滅法強かったこと。
いつの世にも判官びいきはいるもので
大鵬を倒したときなどはやんやの喝采を浴びていた。
それもたびたびネ。

玉子焼きの代わりにオムレツ好きというのもキザなガキである。
第一、子どもらしさがない。
でも、好きなものは好きなんだから致し方ない。
炒めた挽き肉と玉ねぎを包み込んだオムレツは
それこそ物心ついたときからの大好物。
母親の言うことには雨が降ろうが槍が降ろうが
このオムレツが食卓に並んでいると、いつもゴキゲンだった由、
その偏愛ぶりは相当のものだったらしい。

実は玉子焼きもオムレツに負けず劣らずの好物ではあった。
ただし、こちらは遠足や運動会の弁当のおかずとしてだ。
玉子焼きは冷めてもイケるがオムレツは焼き立てに限る。

玉子焼きといえば、真っ当な鮨屋で玉子を頼まぬことはまずない。
たまに飲み過ぎて忘れることがあるにせよ、
ヒカリものの小肌、煮ものの穴子とともに
”必食アイテム御三家”であることにいささかの陰りもない。

J.C.は関西風の出し巻きを好まず、
白身や海老のすり身と合わせて焼くカステラ風が好き。
何たって鮨屋における江戸前シゴトの極みの一つがこれだ。
よく、つけ台に着いたと思ったら
ビールと同時に玉子を所望する客を見受けるが
こちらは逆に野暮天の極みだ。
にぎりをいきなり中とろや大とろで始めるに等しい。
お里が知れるというものだ。

他人様(ひとさま)の所業をとやかく言うのも無粋だが
鮨屋においては鮨屋における流儀と作法があってしかるべき、
みっともない真似はしないに越したことはない。
ものを食うときにはその人の品性があからさまに現れるからねェ。

=つづく=

2013年8月15日木曜日

第643話 塀の外の飽きない面々 (その3)

御徒町の鮨屋でウミヘビらしきものを食したら
今度は小菅(こすげ)の拘置所裏のお堀で
ウミヘビらしきものに出くわした。
あいや、くわばら、くわばら。

淡水で泳いでいるのだからウミヘビではない。
かといって猛毒を持つマムシでもなさそうだ。
帰宅後、調べてみると、日本には6種類ほどのヘビがいた。
一般的なのはシマヘビでこれは人畜無害。
一番大きいアオダイショウは危難が及ぶと木に登って逃げるそうだ。
逆にヤマカガシは水に飛び込んで逃げるらしい。
となれば、目撃したのはヤマカガシか?
いや、のんきなことは言っていられない、
ヤマカガシは毒ヘビで咬まれたらあの世に直行もあるという。
あいや、再び、くわばら、くわばら。

なおも調べると地球上にいるヘビのほとんは泳げるんだと―。
ヘビにカナヅチはいないみたいだ。
カナヘビってのはいるが、あれはヘビじゃなくてトカゲの仲間。
どうやら見掛けたのはシマヘビの可能性が高い。
さして広くもない掘割周辺にかくも多彩な生きものが生息していた。
いや、驚き、桃の木、山椒の木であった。

広大な土地に立つ、壮大な建物の表側に廻る。
面会者用の門が閉ざされているということは
日曜日の面会はNGなのか?
門前に「池田屋差入店」というのがあった。
ふ~ん、差入れ専門の店があるんだねェ。
だけど1軒だけじゃ、差入れされる受刑者も飽きちゃうだろうに―。
並びにはカフェ&ダイニング「アイ アイ」なんて店があった。
カラオケもOKらしい。
いったい誰が歌いに来るのかネ。

界隈を散策していたら、これまた珍しい看板に遭遇した。
なんと、”保釈金保証協会”だとヨ。
いやはや、世の中にゃさまざまな”協会”があるものよのォ。
いい機会だから”協会”にも”教会”にも無縁のわが身を省みる。
今のところ、お縄を頂戴するほどの罪を犯したことはないが
塀の中と外の”境界”に立ち、
思いが散りぢりに乱れたのは”今日かい?”、なんちって。
何もないけど、飽きないや小菅は!

小菅の町を過ぎ、荒川土手に出た。
このクソ暑いのに野球少年が白球を追いかけている。
応援に駆けつけたママたちは一様に日傘をさしている。
傘のおかげで陽射しはさえぎれても
吹きすさぶ風に舞い上がる、
土けむりと砂ぼこりはいかんともしがたい。

荒川越しに西空を見れば、青空にポッカリ浮かぶ白い雲。
すれ違った自転車のオジさんに訊いてみた。
「北千住に行くにはあっちとこっちと
 どっちの橋を渡ったら近いでしょうか?」
「う~ん、ちょうど中間だから好きなほうを渡ったら・・・」
「アッ、そうですか? そうですよねェ、いや、どうも、どうも・・・」
青空の下の日曜日は、どこまでものどかであった。

=おしまい=

2013年8月14日水曜日

第642話 塀の外の飽きない面々 (その2)

ある日曜日の午後、東京拘置所の裏手にいた。
受刑者の面会ではない。
真夏の散歩の一環であり、炎天下を歩いてやって来た。
ジャンニ・モランディ、あるいはカトリーヌ・スパークではないが
「太陽の下の~才」といったところか。
ハハ、古いネ、J.C.も。
われながらこりゃ相当なお歳だわ。

ウィキペディアに頼ると、東京拘置所は以下の通りであった。

 法務省東京矯正管区に属する拘置所。
 通称「東拘(とうこう)」だが
 所在地である「小菅」と呼ばれることが多い。
 全国に8箇所(東京・立川・名古屋・京都・大阪・神戸・広島・福岡)ある
 拘置所の一つであり、松戸拘置支所を所管する。
 収容定員は約3000名。
 刑事被告人を収容する施設では、日本最大の規模を持つ。

以前、千葉県・松戸市に長いこと棲んだのに
拘置支所の存在はちっとも知らなかった。
もともと千葉刑務所の所管だったものが
この5月に東京拘置所に移管されたそうだ。

堀の前にたたずめば、景色は10年前とまったく同じ。
水面(みなも)に真っ黒な真鯉が群れ泳いでいる。
変わったのは環境が整備され、堀の周りにデッキが配されたことのみ。
歩けば木の床が足裏に心地よい。

デッキに立つとエサをもらえると思ったのか鯉が集まってくる。
真鯉に混じって緋鯉の姿も見える。
寄ってはこないが、かなりの数の亀も生息していた。
ただし、ことごとく頭の横に朱色のスポットが入ったアカミミガメだ。
小ちゃい頃はミドリガメと呼ばれて
子どものペットとして可愛がられたものが
大きくなって醜くなって手に余り、
大量に投棄された結果、もたらされたのがこの惨状である。
おのれのペットを棄てる人間は犬畜生にも劣る輩、いつの日か天罰が下ろう。

デッキを西に進んでゆくと、掘割にツガイのカルガモが現れた。
人でも動物でも円満な夫婦は傍目にもほほえましい。
相当数のムクドリが茂みから出たり入ったりしている。
狭い区域ながらけっこう野鳥が棲みついてるんだなァ。
キジバト(ヤマバト)が1羽、草むらに舞い下りた。
通常ペアでいることの多い鳥だが、なぜか単身だ。

水面を細い生きものが泳いでいた。
ウナギかと思ったら、なんと蛇、それも2匹である。
堀は淡水だからウミヘビではなさそうだ。
遠目で定かではないがヤケに白っぽい。
白い蛇は神の使いじゃないか。
次から次へと現れる面々に動物好きはまったく飽きない昼下がり。

=つづく=

2013年8月13日火曜日

第641話 塀の外の飽きない面々 (その1)

たら子つながりで、造り醤油屋から大衆鮨店に流れたが
此度はウミヘビつながりで鮨屋から刑務所へ移ってみたい。
いや、正しくは拘置所で
べつにJ.C.が入所したわけではないけどネ。

その日は日曜日。
墓参がらみでこの5月に偶然見つけた、
「綾瀬飯店」のシンプルにして奥の深いラーメンがまた恋しくなった。
一杯のラーメンのために乗り込む地下鉄・千代田線である。

初訪問ではガラガラの店内に
その行く末を案じたものだが
この日はすべての卓が守備よく埋まっていた。
とは言っても四人掛けに一人のテーブルもあって
満員御礼にはほど遠い。

ラーメン以外ののメニューも試してみたいと思いつつ、
結局は薬局、ラーメンを注文しちゃうのだ。
近所にあれば昼めしに晩酌に
ちょくちょくおジャマしてさまざまな料理を楽しめるのになァ。

うん、やはりここのラーメンは卓抜至極。
普段は小松菜の青ミが、この日は珍しくほうれん草だった。
元来、これが中華そばのどんぶりを飾る
レギュラーの一員であるハズ。
なのに近年はほうれん草は庶民の味方でなくなった。
けっこうな値段だもの。
草葉の陰でセーラーマンのポパイも嘆いているに違いない。
いや、彼はまだ生きているのかな?

食べ終えて表に出たらギラギラと太陽がいっぱい。
それでも気温は30度そこそこだろう。
まだまだ猛暑日には届かない。
常人はいざしらず、暑いの大好き人間にとっては
絶好の散歩日和りであるまいか。

取りあえず北千住あたりまで踏破しようかの。
綾瀬川を渡り、小菅の町に入った。
小菅といったら第一に東京拘置所である。
住民の方々にはまことに申し訳ないが
ほかには何もない退屈な町だ。

あれは10年も前だったか、界隈を散策したことがあった。
拘置所の裏手に淀んだ水をたたえた小さな掘割りがあり、
不忍池みたいに真鯉が泳いでいたっけ。
時間のせいか日当たりが悪く、ちょいと不気味な感じがしたものだ。

渡河してしばらく、その掘割りに行き当たった。
戦国の世以来、日本の城の濠は敵の侵入を防いできたが
ここのは脱獄防止に一役買っているのだろうか?
さした幅もないからそうではあるまい。

=つづく=

「綾瀬飯店」
 東京都足立区綾瀬2-23-20
 03-3603-9948
 

2013年8月12日月曜日

第640話 魔がさして御徒町 (その6)

「鯛という名のマンボウ アナゴという名のウミヘビ」は
吾妻博勝著(普遊舎ブラック新書)。
いやはや、ものすごいタイトルですな。

御徒町の「かっぱ寿司」で異様なアナゴに遭遇し、
帰宅後くだんの書をひもといた。
記憶が確かなら廉価な回転寿司では
日本近海で漁獲されるマアナゴの代わりに
ペルー沖で獲れるマルアナゴを供するという。

当該ページを開いて
あゝ、やっぱりな・・・であった。
抜粋して紹介したい。

回転寿司「アナゴ」はチリ産「ウミヘビ」

 回転寿司の中にはマアナゴと称してマルアナゴを使う店がある。
 調べてみるとマルアナゴは遠くペルー沖で漁獲したものを
 現地で煮アナゴに加工後、冷凍輸入したものだ。
 日本人好みに醤油味で甘めに加工されているが
 加工技術、漁獲法を指導したのは日本の漁業会社だ。
 
 マアナゴはウナギ目アナゴ科だが
 マルアナゴはウナギ目でもウミヘビ科に属するウミヘビである。
 マルアナゴという和名が誕生したのは1989年。
 命名したのは日本の高名な魚類学者だ。
 その和名に水産関係者が小躍りし、
 ウミヘビがアナゴとして堂々と流通するようになった。
 客はアナゴを食べているつもりだが、
 実際はウミヘビに舌鼓を打っている。

 マルアナゴを使っているのは回転寿司だけではない。
 高級寿司店が使うことはまずあり得ないが
 料金を安めに抑えている大衆的な寿司店の中には
 何年も前から使っているところがある。

 人の噂はこわい。
 目の前のアナゴがウミヘビとわかれば、
 子ども連れの家族客や女性客は寄りつかなくなる。
 だから店が仕入れるマアナゴがマルアナゴとわかっているのは
 店主だけであり、ほかの従業員には知らされない。
 それは会社の命運を握る企業秘密のようなものだ。

J.C.が御徒町で食べたアナゴがウミヘビだった確証はない。
だが、アレは絶対にマアナゴではない。
それだけは名誉に賭けて断言できる。
さすればマルアナゴだった可能性が限りなく100%に近づくのだ。

とここまで書いて、念のために調べてみたら
俗に言う毒を持つウミヘビとウナギ目ウミヘビ科はまったく別の生きもの。
英語のスネーク・イールを直訳した結果、こう命名されたものと思われる。
それにしてもウミヘビと決め付けた吾妻サンもお人が悪いや。
したがって子ども連れも女性客も大衆店のアナゴを敬遠するに及ばない。
でもネ、でもですヨ、おっそろしく不味かったんだな、アレがっ!

=おしまい=

2013年8月9日金曜日

第639話 魔がさして御徒町 (その5)

御徒町は「かっぱ寿司1号店」での昼食も大詰め。
最後のにぎり2カンは煮ものである。
穴子・ハマグリ・アワビ・シャコといった面々だ。
タコも一応煮ものにくくられるが
重要な位置を占めるほどの存在感はない。
すでに食べたことだしネ。

目の前のガラスケースの上に穴子が山積みになっている。
大雑把に数えると、2カンづつとして50人前はあろうか。
人気の鮨種なのだろう。
アナゴは江戸前鮨における煮ものの代表格、
相手にとって不足ナシ、無条件でアナゴをお願いする。

先刻、マグロブツのヅケのしずくを飛ばした職人に訊かれた。
「アナゴは塩、ツメ、どちらで?」
「そうですネ、ツメで」
やり取りが交わされる間にもあちこちで「アナゴ!」の声が挙がる。
その頻度たるやマグロに遜色ないくらいだ。

アナゴってこんなに人気があったかな?
ひょっとしたらウナギが高騰したために
その代用として庶民が目を向け始めたのかも・・・。
さもありなんて、両者の価格差は5倍くらいあるんだから。

大瓶のビールが空き、追加すべきかしばし悩む。
昼からバカスカ飲むのは傍目にもみっともないのでこらえた。
当初の予定の豚かつならビールはナシ、
ここはこれでヨシとしよう。

そんな心の葛藤などお構いなく、
大トリのアナゴは小皿に乗ってやって来た。
一目で身の厚さが判る。
箸でつまんでパクリとやった。
咀嚼すること10秒ほど、強烈な違和感に見舞われた。
ぬぬっ、コイツはアナゴじゃないゾ!
長いこと鮨を食べ続けてきて初めて出逢う味だ。
形容しがたい臭みが口中から鼻腔に抜ける。
嚥下するのに一苦労した。

コレはいったい何なんだ?
記憶の糸をたどって行き着いたのが以前読んだ1冊の本。
とても2カンは食べられず、1カン小皿に残しての勘定は1680也。
魔がさしたとはいえ、後悔の念が帰宅するまであとを引く。

書架から抜き取った1冊の新書は”食”だけでなく、
”裏の社会”にも詳しい、吾妻博勝サンという方が著した、
「鯛という名のマンボウ アナゴという名のウミヘビ」である。
インパクトの強いタイトルに惹かれて即買い求めたのは
6年前の秋であった。

=つづく=

「かっぱ寿司1号店」
 東京都台東区上野4-1-10
 03-3831-0872

2013年8月8日木曜日

第638話 魔がさして御徒町 (その4)

その日の正午前、御徒町は「かっぱ寿司1号店」にいた。
スジッぽいマグロブツと粉わさびに
多少なりともストレスを感じていた。
それでも暖簾をくぐった以上、前進あるのみだ。

壁の貼り紙に開店から夜8時までにぎりはすべて半額とあった。
手元のメニューの値段表記は1カン分だから
半額ということは2カンでその値段になる寸法。
8時以降は存ぜぬが、この時間の注文は2カンづつだった。
久しぶりのミニマム2カン鮨である。

皮切りは小肌。
確か130円か150円じゃなかったかな・・・もちろん2カンでネ。
箸でつまんでパクリとやった。
おっ、悪くないじゃん、そこそこイケるじゃん。
予想を上回る小肌クンであった。

その代わり、箸休めの漬け生姜がいただけない。
モロにクスリ臭さが口中に拡がった。
あわててグラスのビールをグイッと。
ジンジャーよ、さようなら、もうお会いすることはないでしょう。

お次は一番安いタコにした。
サバも同値であったがヒカリものは小肌だけでじゅうぶん。
タコはまあ、まあの及第点、産地は西アフリカのモーリタニアだろうな。
生の北海道産水ダコもいたけれど、水ダコはにぎりに向かない。

”スジ金入り”のブツのせいでマグロは食う気になれないし、
鮨種のケースを見回して、真正面にいたたら子に目がとまる。
つい最近、「アナタはたら子派? 明太派?」で扱ったおかげもあろう。
昼めしどきだし、たら子のおむすびのつもりで食っちゃおう。
海苔で巻かれた軍艦だろうし。

ところがここで外した。
予想通りに軍艦巻きで登場したものの、肝心のたら子がふにゃり。
真子自体はそれなりのサイズなのに中身の粒が細かすぎる。
未熟卵とは言わないまでもこれでは舌がたら子の醍醐味を感知しない。
たら子は粒々がイノチだぜ。

ことここに至り、大衆鮨店を選んだ自分を責め始める。
まっ、何かのはずみでたまたま魔がさしたと思えばいいか―。
精神の安定には気持ちの切り替えが何よりも大事です。

当日の夜は日本そば屋で小宴会。
真っ当な酒と料理が待っている。
夜をより楽しむためにも腹八分目にしておこう。
すでに6カン食べたからラスト2カンで切上げよう。

J.C.の場合、鮨屋におジャマして
ヒカリものと煮ものを食べずして会計に及ぶことはまずない。
この2点を試さずして職人の力量は推し量れない。
そこで最後のチョイスは煮ものからということになる。

=つづく=

2013年8月7日水曜日

第637話 魔がさして御徒町 (その3)

♪  合羽からげて 三度笠
  どこを塒(ねぐら)の 渡り鳥
  愚痴じゃなけれど この俺にゃ
  帰る瀬もない
  伊豆の下田の 灯が恋し  ♪
     (作詞:清水みのる)

本日の幕開けは三波春夫の「雪の渡り鳥」にござんす。

てなわけで飛び込んだのが「かっぱ寿司1号店」だった。
歌とどうつながるんだ! ってか?
へへ、出だしの”合羽(かっぱ)”、
それだけのお粗末にござんす。
もっとも鮨屋のほうの”かっぱ”は”河童”だろうがネ。

店内は両サイドにつけ台が備え付けられ、
広さのわりにキャパはそこそこ。
腰を落ち着けたのは左側の真ん中あたり。
両脇との間隔が狭くてきゅうくつだ。
まっ、大衆店につき、あまり文句は言えない。

「お飲みものは?」―こう訊かれたら
鮨屋に来て飲まないわけにはいきません。
取りあえずビールの大瓶をお願いした。
するとビールの到着前に置かれたのがマグロブツのヅケ。
それも突き出しにしちゃあ相当な量だ。
職人さんが一つかみ、皿の上にザバッと盛ったから
漬け込み汁がランチョンマットにパッと飛び散った。

(オイ、オイ、ちと乱暴じゃないかい?)
口には出さず、言葉を飲み込み、胸ポケットのティッシュで拭う。
やれ、やれ、いきなり拭き掃除かヨ。
職人に悪気はないのだが、こういう雑なシゴトは嫌いだ。
仕方ないなァ、入店した以上、腹をくくるしかないってこった。

ビールは好きな銘柄で一安心。
ところがブツには大不満、かなりのスジッぽさである。
物事のスジを通すのはいいがマグロのスジは通してほしくない。
量も量だし、これで300円は取られるんだろうな・・・いや、500円か?
鮨屋にせよ、居酒屋にせよ、
突き出し、お通しの悪しき慣習は日本特有のもの、
外国人には受け入れられまい。

おまけにわさびを添えてくれなかった。
すかさず所望したものの、
わさびくらい言われなくてもスッと出しておくれヨ。
当然のことながら、わさびは”粉”で久々のご対面だ。
つけ台の下に収めた「吉池」のレジ袋には生わさびが入っている。
”生”があるのに”粉”で食わなきゃならない不条理ヨ。
このコンフリクト、
「異邦人」のアルベール・カミユなら判ってくれるでしょう。

=つづく=

2013年8月6日火曜日

第636話 魔がさして御徒町 (その2)

ランチタイム@御徒町。
さて、何をいただくとしましょうかの? 
頭の中をよぎったのは日本そばの「吉仙」と町の中華屋「民華」。
しかし、両店ともに昭和通りを渡らねばならない。
ちと億劫だ。
本格カレーの「デリー」と支那麺の「我流竹子」は
中央通りを越えなければいけない。
これも面倒くさい。
一番近いのはナンデモ屋の「御徒町食堂」だが
そこだとビールを抜いてのんびり長居をしてしまいそう。

ひらめいたのが豚かつ「まんぷく」。
アメ横のハズレの小店はカウンターのみ、ほんの数席しかない。
やや早めの時間帯につき、並ぶこともなかろう。
この時期だからかきフライはないけれど、
王道のロースカツでいったろうじゃないか。
昼めしに豚かつは少々重いが
なあに半ライスにすりゃあ、それで済むことヨ。

進路が確定したら足取りは軽い。
裏路地にひっそりとたたずむ店舗に到着すると、
出迎えてくれたのはなんと、「本日定休日」の札だった。
あちゃあ、マイッたな。
まっ、べつに豚かつに固執するわけじゃなし、
こうなりゃ一から出直しである。

界隈の路地を何本か行ったり来たり。
すると道の両サイドに同じ店名の鮨屋が2軒あった。
大衆的な「かっぱ寿司」だ。
あとで調べたら1号店と2号店だった。

バブル期以降、たとえそのバブルが弾けようとも
高額になった鮨屋の値段は元へ戻ることがない。
庶民が気軽に使える場所ではなくなった。
そこで見逃せないスポーツ中継があるときなど、
よくお世話になるのが持ち帰り専門店やデパ地下のにぎり鮨。
食卓に酒と折詰めを並べてテレビジョンに相対するわけだ。
中には下手な鮨屋よりレベルが高いところもある。
その際、専門店はすぐ調製してくれるからよいが
デパ地下の難点は”さび抜き”がきわめて少ないこと。
やはり真っ当な鮨は生わさびで食べたいものなのだ。

外食時は5回を1回に削ってでも美味しい鮨にめぐり逢いたい。
したがって回転寿司や大衆鮨店に入ることはまずない。
不味いカレーライスや中華そばは食えるが
不味い鮨だけは食えないからネ。
目の前の「かっぱ寿司」を外からのぞくとかなりの混雑ぶり。
これだけ客が入っているからにはさぞ安くて旨いに違いない。

この日は目当ての店にフラレて気が急いていたのだろう。
手っ取り早いところで手を打とうと思っていたフシがある。
魔がさすのはこんなときなんでしょうな。

=つづく=

2013年8月5日月曜日

第635話 魔がさして御徒町 (その1)

前回(先週金曜)の当ブログを読まれた、
福井県在住のK池サンからお問い合わせ。

 2.5腹(5本)って、どういうことですの?

福岡みやげの釣り子めんたいこのことである。
俗に言われる明太子やたら子の1腹は実は半腹なんですネ。
切れ子はべつとしてちゃんとした腹子は
尻尾のほうでつながって対(つい)になってるでしょ?
サカナの真子は対(ペア)で1腹なんです。

これに関しては誤解している人がほとんどだと思われる。
「男はつらいよ」シリーズで寅さんが
朝食のリクエストをオバちゃんにするとき、
「あとはたら子の1腹もあれば、ほかには何にも要らないヨ」―
という名ゼリフがあるが、あれは間違い。
納豆やら焼き海苔やら生玉子もあるのに
いくらなんでもたら子1腹は食えんでしょ。
寅さんも山田監督もこれはご存じなかったようだ。
ただ、二人とも明太ではなく、
たら子派だということは想像に難くない。

何だ、まだサカナの卵を引きずってんのか! 
いえ、いえ、読者のご質問にお答えしたまででござんす。
でもものはついで、たら子つながりでいきたいと思いやす。

あれは先週半ばだった。
ちょうど「アナタはどちら派?」の真っ最中である。
その日の昼めしどきは御徒町をフラフラ。
例によってどこで何を食おうかな・・・である。

御徒町となれば上野山下、広小路、
湯島の天神下あたりも圏内だ。
腹を満たしてくれる候補の店は枚挙にいとまがない。
サカナのデパート「吉池」で買い物を済ませたことだし、
アメ横方面へと春日通りを横断した。

何を買い込んだんだ!  ってか?
その日は生わさび、わさび漬け、わさびのり、
加えてエイ(カスベ)の切り身を買いやした。
目当てはわさび三兄弟なれど、
大好物のエイに遭遇したら看過できゃしません。
J.C.にとって、エイは「いとしのエリー」ならぬ、
「いとしのエイ」なんざんす。

1パックは500円(100グラム=150円)に届かなかった。
この庶民価格がコヤツのまたいいところだ。
パックには3切れ入っており、
2切れはムニエルをブール・ノワゼット(焦がしバター)で。
残りの1切れは煮付けて実山椒を散らし、有馬煮風に。
これは以前、写真入りで紹介したことがある。
どちらも旨いのなんのって。

おっと、また脇道にそれてしまった。
昼めし、昼めし、それもたら子がらみのネ。
と、ここまで来てスペースが尽き、以下次話ということで。

=つづく=

2013年8月2日金曜日

第634話 アナタはたら子派? 明太派? (その4)

オイ、オイ、たかが魚卵一つでずいぶん引っ張るねェ。
そう、きましたか? いや、ごもっとも。
そろそろ切上げますから、もう少々おつき合いのほどを。

ところで昨日、
読者のO見サンからかようなメールをいただいた。

 本日のブログ拝読しました。
 一般的にAB型の人は、
 デリケートな体質で分析力が強い傾向があります。
 AB型の友人・知人たちは
 刺激の強い辛い食べ物が苦手なようです。

ということでした。
実際の統計には説得力があります。
それにしてもO見サン、どうしてJ.C.の血液型をご存知なのかな?
以前お会いしたときにそんなハナシが出たのかもしれない。

さて、明太子を片手に現れたのは
みちのくののみとも・R子であった。
部下たちを数人引き連れ、九州へ研修旅行に行った帰りとのこと。
福岡・佐賀・熊本と周り、
みやげは福岡県糟屋郡にある「椒房庵」の釣り子めんたいこ。
ほかにも親会社・久原本家のたまり醤油やウスターソースなど、
いろいろと買い込んできてくれた。

この会社のスローガンは
 モノ言わぬモノに モノ言わす モノづくり
フム、ふむ、なかなかのモノですな。
くだんの釣り子めんたいこのパッケージにはこうあった。

 椒房庵の「釣り子めんたいこ」は、11月から2月にかけて
 北海道檜山地区で水揚げされるスケソウダラの卵が原料です。
 それも、今では少なくなった”はえ縄漁”で、
 名人といわれる漁師さんが一匹一匹釣り揚げたものです。
 競りが終わってすぐに取り出される卵の中から、
 ほどよく熟した”真子”と呼ばれる卵だけを選び、
 新鮮なうちに塩漬けし冷凍します。
 その後、福岡へ運ばれた卵を必要なだけ解凍し、
 特製の辛子たれに漬け込み
 じっくり味を含ませた後、余分なたれを切り
 いちばん食べ頃を見計らってお届けしております。

よく冷やした菊正・上撰でやってみた。
チリのシャルドネでもやってみた。
博多ラーメンの店に置いてあるソレとは次元が違うな。
ホテルの和朝食にチョコンと添えられるアレともまったく異なる。
明太子特有のイヤァ~なクドさがほとんどない。
2.5腹(5本)あったので一両日で1腹いただき、
残りは冷凍庫にてしばらく眠れる庫(くら)の美味。

食後感はとてもよかった。
これなら酒の肴、めしの友、どちらでもイケる。
でもネ、のみともには悪いけど、J.C.はやっぱりたら子派なんざんす。
「椒房庵」がたら子の製造も始めたら、また買ってきておくれヨな。

=おしまい=

「椒房庵 久原本家(くばらほんけ)」
 福岡県糟屋郡久山町猪野1442
 092-976-2000

2013年8月1日木曜日

第633話 アナタはたら子派? 明太派? (その3)

引き続き吉幾三のCDを聴きながら書いている。
わが家には2枚の在庫があり、
「吉幾三全曲集・酒よ」(1988年)と
「吉幾三全曲集・酔歌」(1990年)だ。
それぞれにヒットした「雪国」、「海峡」、「酒よ」の3曲は
両方に収録されてダブッてしまっている。

それはそれとして、たら子と明太子である。
「アナタはどちら派?」の問いは
ちょいとおこがましいが、ある種のリトマス試験紙なのだ。
その回答によって得られる情報は
回答者を単に薄口派、濃口派に分類するだけにとどまらない。

自説で恐縮ながら
味覚力において、たら子派は明太派に先立っている。
あるいは化学調味料に対して、より敏感ともいえる。
気になるのは現代の若者の間で
明太子大好き人間が激増していること。

そんなご時世に
「わたし、明太子は苦手ですけど、たら子は好きです」―
こんなことをささやいてくれた若い娘がいた。
器量は大したことなくても、より可愛く見えたのは言うまでもない。
思わず抱きしめてやりたくなったが
スケベ親父じゃないから握手するにとどめた。

今の若者も捨てたもんじゃないな・・・素直な実感であった。
ところが、ところがですヨ、
続いて可愛いたら子唇からもれた言葉は
予想だにしない強烈な肩透かし。
哀れJ.C.、黒房下にもんどり打って転げ落ちた。
「だってわたし、辛いの苦手なんですもの」―
けっ! たったそれだけの理由かよ!
オマケにダメ押しのひとこと。
「カレーもバーモントカレーが好きなんです」―
勝手にしなさい! りんごと蜂蜜ネ? たあんと召し上がれ。
駄目だぜ、今の若者は!

まあ、明太子派には刺激的な辛味に惹かれている向きもあろう。
たら子派=敏感、明太派=鈍感と決めつけてるワケじゃないから
明太派におかれましてはあまりガッカリしないでください。
塩じゃけだって甘塩派・中辛派・辛口派と分かれるワケだし・・・。

かく言うJ.C.も薄口一辺倒ではない。
鮨屋の穴子は塩や煮切りより煮詰めで食べたい。
豚カツもヒレよりロースを好む。
あまり飲まないコーヒーだって
アメリカンよりエスプレッソに傾く。
ただし、ビールは濃厚なエビスやプレモルよりも
淡麗なスーパードライや黒ラベルが好きですけどネ。

ところがある日、そんなオトコの目の前に
辛子明太子をブラ下げて現れたオンナがひとりいた。

=つづく=