2015年3月19日木曜日

第1058話 なんとなくエスニック (その4)

千石の「TAWARA」でスペシャル・ダンパウを待っている。
前話で紹介したおすすめメニューのうち、最高値のディッシュだ。
それにしても「TAWARA」なる店名、ミャンマー語だろうか?
なんとなく日本語の”俵”を連想させるものがある。
あとで調べたら、はたして「俵」であった。

ビールの中瓶が残り少なくなってきた頃、
待望のダンパウがやって来た。
サイドに3点セットを従えている。
ルックスはチキン・ビリヤニそっくり
長粒米はその一粒ひとつぶが存在感を示し、
われこそはインディカ米なるゾ、と訴えているかの如し。

インドのビリヤニ、インドネシアのナシゴレン、シンガポールの海南鶏飯、
インディカ米を使った米料理はJ.C.の大好物なのだ。
こちらが3点セット
野菜スープに干し海老風味のチリ、
それにキャベツのサラダ。
キャベツにはナンプラー(魚醤)が振りかかっている。
ミャンマーではこの魚醤を、ンガンピャーイェーという。
まったくもってミャンマー語の難解さにはお手上げである。

何はともあれ、ライスを一匙口元に運ぶ。
ウ~ン、想像した通りの味と食感。
日本の誇るコシヒカリやひとめぼれとは別世界の美味だネ、こりゃ。

ここで突然、ハナシは40年前に飛ぶ。
1975年当時、J.C.は二人の仲間ともども
ロンドンで小さな食堂兼雀荘を営んでいた。
日本人の学生やビジネスマン相手の細々としたミニクラブだったが
将棋好きの英国人や麻雀好きの中国人が出入りしたりもしていた。

そんな中の一人にインドネシア人のイワンがいた。
イワンと聞けばトルストイの「イワンの馬鹿」が第一感。
ロシアの男子名を連想させる。
しかるに彼はインドネシア人であった。

ウマが合ったというか、J.C.にとっては最初で最後のインドネシア人の友だ。
そう、そう、連れ立ってピカデリー・サーカスだったかな?
いや、レスター・スクエアかもしれない、とにかく一緒に
高倉健とロバート・ミッチャムの「ザ・ヤクザ」を観に行ったっけ・・・。
ラストの健さんには異常に興奮していたネ。

そのイワンにわがクラブの炒飯を振舞ったことがあったが
ほんの一匙、二匙で投げ出されてしまった。
ライスがスティッキー(ねばねばしている)で
とても食べられたもんじゃないんだと―。
その一件を思い出させたスペシャル・ダンパウであった。

ディッシュの主役ともいえるチキンに手をつける。
スプーン&フォークを入れるとホロホロに崩れた。
ビリヤニのそれよりも柔らかい。
フレンチのロティ(ロースト)でもなく、
アメリカ的なフライドチキンでもなく、
ましてや和風の照り焼きでもない。
ブイヨンで煮たのだろうが
これはコレでほどほどに美味しくいただけましたとサ。

=おしまい=

「TAWARA(俵) RESTAURANT」
 東京都文京区本駒込6-5-1
 03-6902-1080