2013年7月25日木曜日

第628話 下町へべれけ道中 (その2)

下町・森下はしご酒、その1軒目。
意気揚々と暖簾をくぐったのは「はやふね食堂」だ。
いまだに信じられないのだが
巷間、齢九十を超えたと伝わる大女将が元気、ゲンキ。
うれしいことに壁の品書きも相変わらず安い、ヤスイ。
あえて不満を言えば、ビールがキリンラガーしかないことのみだ。

店は近所のオッサンたちで七分の入り。
いかにも町の大衆食堂といった空間に身を置いたP子は
珍しそうに店内を見渡している。
「おい、おい、あんまりキョロキョロすんなヨ、みっともないからサ」
「うん、判った、そうだよネ?」
「ああ、そうだヨ、そういうことだヨ」

ビールの旨い季節の到来に大瓶がまたたく間に2本空いた。
好みの銘柄でなくとも旨いものはやはり旨い。
菊正の冷たいのに移行する。
なじみの深い1合瓶だ。
やれ純米だ、ほれ大吟醸だと気取った酒より、
昔ながらのこういうのが好き。
エッ? 耳タコだ! ってか?
ハイ、はい、判りました、今日は多くを語りません。

いつも通りに突き出しはきゅうりと大根葉のぬか漬け。
これが悪くない。
単品で頼むと盛りがよくなるうえにたった30円也。
ただ同然の値付けに驚くばかりなりけり。

相棒が所望したのは、わかめ酢と牛もつ煮込み。
無難なすべり出しと言えよう。
それにしてもわがのみともには男女を問わず煮込み好きが多い。
J.C.が選んだのはたら子のちょい焼きと里芋煮。
たら子は自宅でもちょくちょく食べる。
里芋もときどき食べたくなるけれど、
独り暮らしに袋売りは多すぎてどうにもならない。
まれにじゃが芋の1個売りを見掛けても里芋は見たことないなァ。

冷や酒の追加とともに天ぷら盛合わせをお願い。
内容は海老・小あじ・いんげん・さつま芋。
小あじといってもそこそこのサイズが2枚入りだ。
同じ森下の天ぷら屋「満る善」には遠く及ばぬものの、
大衆食堂のそれとしてはじゅうぶんに合格点を与えられる。

ふと周りを見ると、いつの間にかほぼ満席のご盛況。
安さとくつろぎの空間はそれだけで大衆を引き寄せる。
くだんの女将は非常連客のわれわれにも気さくに応対。
機を見ては隣りに腰掛け、世間話に花を咲かせる。

そろそろ河岸を替えねば―。
あらかじめ決めてあった隣り町・菊川の「みたかや酒場」へ向かう。
大衆食堂のあとは大衆酒場、われら二人、はしご酒の王道をゆく。

=つづく=

「はやふね食堂」
 東京都江東区森下3-3-3
 03-3633-3230