2022年2月11日金曜日

第2949話 あの夏の日から60年 (その1)

北風吹きぬく寒い昼に下町・深川へ。

本日のランチは江東区・牡丹の「キッチンまつむら」。

一昨年の師走に訪れた「ひまわり食堂」の隣りだ。

「ひまわり」はジイちゃん独りの営みだが

「まつむら」はオッちゃん独りの営みである。

 

入店した際、あまりの光景にのけぞった。

乱雑な散らかりに度肝を抜かれたのだ。

女手が無いと店って、こうなっちゃうんだヨ。

よほどこのままトンヅラしようと思ったが

テーブルに促されたら、そうもいかない。

 

ドライの中瓶を独酌していると、

隣卓のヤングカップルの料理が来た。

彼女はコロッケだかメンチだかが

乗っかったカレーライス。

彼氏はド迫力の3種盛合せ。

おそらくハンバーグ・生姜焼き・チキン南蛮だろう。

 

即刻、席を立って店をあとにした。

じゃないヨ、オッちゃんのもとへ。

「あの盛合せ見て怖気づいちゃったんだけど、

 何か一番量の少ない料理は?」

「ハンバーグだけってのがあるヨ」

「じゃ、ソレを半ライスでお願いします。

 あとビールもう1本ネ」

「あいヨ」

 

食べたいモン食べるんじゃなくて

最少のモン択ぶんだから

自分でも何やってんだか判らない。

そんなんなら外食の意味ねェだろ!ってか?

ハイ、ごもっとも。

 

とにかく注文は通した。

「ひまわり食堂」は喫茶店の居抜きだが

「キッチンまつむら」はモロにスナックの居抜き。

四人掛けと二人掛けが2卓づつ。

3席のカウンターは物置きを兼ねた待合席状態だ。

 

いずれにしろ似たような内装の2軒が

競合する洋食屋として並び立っている。

料理メニューまでクリソツだ。

週末のせいか14時を回ってもパラパラと客が現れる。

 

ハンバーグはカタチがユニーク。

一般的な円く平たいタイプではなく、

サカナみたいに流線形をしていた。

手っ取り早く言うと焼き芋形だネ。

手切りのキャベツが添えられ、

あとはわかめの味噌汁のみ。

 

カトラリー・バスケットにスプーン、

ナイフ&フォーク、そして塗り箸。

柔かいハンバーグにナイフは不要。

フォークを手に取った。

 

=つづく=