2024年5月14日火曜日

第3535話 ぶらり荒川線の旅 (その1)

都電荒川線、またの名を東京さくらトラム。
乗客になったとき、歓びを覚える路線だ。
その日の朝、ミントティーを飲みながら思った。
そうだ、今日はあの線の端から端まで
”ぶらり途中下車の旅”とまいろう。

自宅の前から都営バス・早稲田行きに乗る。
終点で降り、早めの昼めしで腹ごしらえ。
カレー南蛮そば発祥の「三朝庵」が閉じてから
早稲田で一番の日本そば屋「金城庵 本館」へ。

冷たいそば茶が供されたが
「君はあとで飲むからネ」
やさしくささやき、ドライ中瓶を通す。
200円チャージされたお通しは
見るからに出来合いのマカロニサラダ。
おおかた「肉のハナマサ」あたりだろうぜ。

周りは老若男女混ざっているが中若年が主流だ。
「お客様感謝フェア」とやらで 上かつ丼が
1230円  980円のサービス価格。
若者はほとんどそっちに走っている。

中退ながら一応、彼らの先輩にあたるオッサンは
珍しいハトシロール(350円)を麦酒の友とした。
ちょいと来ない間に「金城庵」は
シャレたものを出すようになったもんだ。

ハトシというのは海老のすり身を
パンに挟んで揚げた長崎名物。
長崎と言えば、和・漢・洋がコラボする、
卓袱(しっぽく)料理が代表、その流れだろう。

ハトシをエンジョイし、締めはもりそば。
そばはコシきわめて強くとも香りに乏しい。
つゆは町場のそば屋にしてはやや辛口。
そばもつゆも、まあ水準には達している。
熱いそば湯と温(ぬる)いそば茶を一緒に飲み、
荒川線の始発駅(終点でもある)・早稲田へ。

すぐ隣りの面影橋。
たもとに巨大なマンションがおっ勃って
もとい、おっ建って
昔日の面影など微塵もない。
こうして東京の町々は壊されてゆくんだ。

その一つ先の学習院下で下車。
石段を上がって千登勢橋から西島三重子が

♪ 電車と車が 並んで走る
  それを見下ろす 橋の上 ♪

と歌った景色で目を和ませ、
鬼子母神の参道を歩いて往った。

=つづく=

「金城庵 本館」
 東京都新宿区西早稲田1-18-15
 03-3203-4591