2011年5月10日火曜日

第49話 咬みつき亀におつき合い (その2)

湯島天神そばの「ビストロ タカ」で
ニジマスの燻製を食べ終えたところ。
大食いの友里はオードヴルを2皿も注文した。
何やら日帰り大阪出張のあおりで
朝から何も食べてなかったらしい。
相変わらずアホでんな。
仕事が遅いからメシ食う時間がなくなるのよね。
典型的なSD(仕事できない)人間だものな。
せっかく大阪くんだりまで行ったんだから
せめて新幹線の車内でタコ焼きでもつまめばよかろうに。
もっともタコがタコ食ってもシャレにならんか。

さてさて、当夜注文したプリフィクスには
スープも組込まれていた。
ポロねぎとじゃが芋のクリーム仕立てだが
何だかなァ、あまり感心しなかった。
ところが主菜の鴨もも肉のコンフィは上々のデキ。
もともと当たり外れのない料理ながら本日のベストはこれ。

そうそう、咬みつき亀・友里のブログであった。
あのような駄文・拙文を引用すると、
当ブログの品位がはなはだしく汚されるが
亀の愚昧ぶりを検証するためだ、仕方なく載せる。

 「下町」から友里が選んだビストロでありましたが、
 慣れない土地柄からの選択だったので結果は
       まったくの失敗
 料理の種類は少ないし(しかも欠品がいくつもあった)、
 ポーションも小さい。
 ワインの品揃えもイマイチで、そして肝心の
       料理も完全な期待はずれ
 週はじめとはいえ客が我々4名しかいなかった理由が
 わかった次第であります。
 しかしMSGてんこ盛りの焼きトン屋「忠弥」を

 向島の料亭若主人と共に絶賛する舌の持ち主で
 小食でもあるオカザワは
 久々の自称ビストロ料理が嬉しかったのか
       今までで最高の鴨コンフィ
 と喜んでおりましたから、
 誘った甲斐があったというものです。

バカだねまったく、湯島は下町じゃないよ。
これ一つとっても奴サンの無毛、
もとい、無知が知れようというものだ。

近所の魚屋で買って来た刺身に
混ぜモノいっぱいのチューブわさびを塗って食う輩が
MSG云々に言及した挙句、
いけしゃあしゃあと鮨屋評価をするんだから
何をか言わんや、である。
鮨屋の親方衆も到底浮かばれまい。

オマケに”今までで最高の鴨コンフィ”だと?
嘘八百もいい加減にしてほしい。
真実は”今夜はコンフィが一番”と
そうシェフに感想を述べただけのこと。
”生涯ベスト”と”その夜ベスト”は雲泥の差だろうよ。
ありもしないことの捏造は厳に謹んでもらいたいものだ。

そう言えば、つい最近も亀はブログで書いていた。
1勝もできないとコキオロした斎藤佑樹が
2勝したからといって舌の根も乾かぬうちに
10勝以上で新人王獲得だってサ。
バカだねまったく、恥知らずもいいところ。
こういう赤っ恥亀にはフレンチ・ビストロならぬ、
ハレンチ・スカトロのレッテルを貼り付けてやりたいぜ。

「ビストロ タカ」
 東京都文京区湯島2-33-1
 03-3836-9250

2011年5月9日月曜日

第48話 咬みつき亀におつき合い (その1)

薄髪の吸血鬼、またの名を的外れの咬みつき亀こと、
友里征耶が拙文垂れ流しの自身のブログで懲りもせず、
はなはだ五月蝿いことを書き連ねているとの報告を受けた。
誰かをけなしていないと生きてゆけない哀れな生き物は
まさしく五月のハエと揶揄するにふさわしい。

今しばらく泳がせておくつもりだったが(オイラは刑事か?)、
このところ俄かに周りがざわついてきてそうもいかなくなった。
何人もの読者の方が
「亀が言いたい放題ですよ、放っといていいんですか?」―
口々に心配してくださる。
どうせ構ってほしくて吠えてるものと知りつつも
つまらんブログをのぞいてみると、
やれやれ、原発の専門家気取りで勘違いの乱発をしておる。
ありゃあ、いったい何様かね?
話題にしちゃうと奴サンの思うツボなれど、
たまには相手をしてやってもいいかなという気になった。

よほど友だち(特に女性の)がいないのだろう、
電話を掛けて来て晩メシにつき合ってくれというから
それもよかろうと、湯島天神の石段を上ったのは
小雨パラつく肌寒い夕暮れのことであった。
以前はときどき食事会を開いたF元・M松両女史にも声を掛け、
4人で卓を囲んだのは界隈で評判の「ビストロ タカ」だ。

こういった場所では好みのビールにはまずありつけない。
御徒町のスタンドバーに立ち寄り、
生ビールを1杯、クイ~ッと飲ってきた。
思惑通り、店にあったのはプレミアム・モルツ。
CMで頑張る永チャンと結子には悪いけど、
プレモルはいささかリッチ過ぎるのよね。
好みの生ビールを飲んだことだし、珍しくギネスを所望した。
ワインは白がリュリー、赤はカオールとボーヌに決定。
4人で3本は適量であろう。

メニューを開くときわめて限定的でガッカリ。
なおかつ欠品があったりして
選択&構築の楽しみを奪われたも同然だ。
これは大きなマイナス要因。
駄目もとでメニュー以外の料理の有無を訊ねると、
前菜用に自家製ニジマスの燻製があるという。
ふ~ん、ニジマスかァ、アユかヤマメだとよかったのになァ、
でなことを考えつつもお願いしてみた。

はたしてサラダ仕立てで登場したニジマスのスモークは
淡白ながらもさわやかな味わいがあった。
それより驚いたのは
うっすらとサーモンピンクに色づいていたことだ。
はは~ん、これはいわゆるサーモントラウトというヤツだな。
甲殻類の成分を含む飼料を与えられ、
海洋上で養殖されるニジマスは身肉が色づき、
体長1メートルにも達すると聞いたことがある。
キングサーモンのように脂のノリはなくとも
アッサリしていていいじゃないか、
舌に柑橘の酸味を感じながら、そう思った。

=つづく=

2011年5月6日金曜日

第47話 わさび茶漬け2種 男やもめのキッチン Vol.1

今日は”男やもめのキッチン”シリーズ第1回。
禁断を破って男子、厨房に入れども、
なるったけ手を抜いて手間ひま掛けずに
旨いもんを作って食べようという試みである。

ずいぶん古いハナシで恐縮ながら、
新婚時代の小林旭は
新妻・ひばりが丸一日掛けて作る手料理を
待ちくたびれて音を上げたそうだ。
読者も一度や二度は経験がおありでしょう。
恋人に愛情のこもった手料理を振舞われるのは
ありがたき幸せなれど、
ビール飲み飲み待ってるうちに、すっかり出来上がってしまい、
ついうたた寝の挙句の果てが、いつの間にやら白河夜舟、
なんてことがネ。

今回作るのは2種類のわさび茶漬け。
それでは参りましょう。

用意する食材は
 本わさび・山わさび・・・それぞれ1本
 醤油・日本酒・・・適宜
 白飯・・・お好きなだけ(できれば炊き立てが望ましい)
 煎茶・・・お好きなだけ(白湯でも構わない)

茶漬けを食べる前日に本わさびの茎を
マッチ棒ほどの千切りにし、
醤油と日本酒、同割りの漬け汁に漬けておく。
こうしておけば数ヶ月は平気で持つ。
わさび本体は大き目の容器に水を張り、
チャポンと落として冷蔵庫にキープ。

山わさびは仏語でレフォール、英語でホースラディッシュ。
同じく前日に丸1本をすりおろし、
やはり醤油・日本酒を同割りにして
おろした山わさびにたっぷりと掛け回し、冷蔵庫にキープ。
これも1~2ヶ月はラクに持つので重宝する。
いか刺しやあじのタタキなんかにはピッタリ。

炊き立てのごはんの上に茎わさびの醤油漬けを乗せ、
そのまた上におろし立ての本わさびをチョコン。
塩気が足りないから醤油を数滴垂らし、
あとは熱い煎茶を掛けて召し上がれ。
二膳目はおろした山わさびの醤油漬けを乗せ、
こちらは醤油っ気じゅうぶんにつき、
煎茶を掛けてサーラサラ、である。

サイドの香の物には奈良漬か山ごぼうが理想的。
たくあんと福神漬けはよしたほうがいい。
せっかくのわさび茶漬けに気品がなくなる。

好みで針海苔やもみ海苔をあしらってもよいし、
これだけじゃもの足りないと感じる向きは
おぼろ昆布の吸い物を煎茶代わりに用いても美味。
昆布とわさびはなかなかの相性を見せる。
ほかに釜揚げのしらすや白魚、
あるいは桜海老を加えれば、
優雅な彩り、風雅な味わいが約束されようというものである。

2011年5月5日木曜日

第46話 ときどき観たい小津映画

小津安二郎の映画は相当数観ている。
ただし、タイトル、ストーリー、キャスティング、
いずれも似通った作品が多いため、
アレ? あのシーンはいったいどの映画だったっけ?
思い浮かべるたびに、こんな症状に見舞われてしまう。
彼が自分のスタイルを確立したのは
巷間伝わるように1949年の「晩春」以降であろう。

小津の作品中、どれか1本と問われると、
間髪置かずに「東京暮色」と応えている。
封切られたのは1957年4月30日。
スカイツリーどころか、東京タワーすら完成していない。
長嶋茂雄はまだ神宮球場の六大学だし、
正田美智子さまもまだ宮城入りを果たしていない。
もっとも皇太子妃殿下が住まうのは
皇居ではなく赤坂御所のほうだ。

ところでなぜ「東京暮色」が好きなんだろう。
映画でん、食べものでん、好きなものは好き、
取り立てた理由など用意せずとも構わぬが
気になるので連休中に観直し、分析してみた。
浮かび上がった理由を
大小、重軽にこだわりなく列挙する。

① 小津映画としては異色、独特の暗さが全編を支配している
② 大好きな有馬稲子が主役の一翼を担っている
③ 日本酒を飲むシーンが多く、観ていて酒が飲みたくなる
④ 小料理屋・うなぎ屋・中華屋・鮨屋、なじみの店が目白押し
⑤ 狂言回しとして唯一の明るいキャラ、杉村春子が効果的
⑥ 常に良き父親の笠智衆が悲しい過去を背負っている
⑦ 田中春男と須賀不二男、二人の脇役がそれぞれに抜の群
⑧ 雀荘を営む夫婦、中村伸郎と山田五十鈴の呼吸が絶の妙
⑨ 小料理屋「小松」の女将・浦辺粂子が的矢の牡蠣を自慢する

といったところであろうか。
⑨番は蛇足で、単にJ.C.も的矢の牡蠣に目がないだけ。
小津自身も若い頃を過ごした三重の地には
ひとかたならぬ愛着を持っていたことが偲ばれる。
しかし半世紀以上も前から
的矢の牡蠣が東京に運ばれていたのにはびっくり。

こうしてみると小津映画の不動のヒロイン、
原節子だけがちょいとばかり、はてなマーク。
この作品に彼女は不要、使ってほしくなかった。
さすればよりいっそう異色感が際立ったのに・・・。

黒澤映画でおなじみの藤原釜足が店主に扮する、
「珍々軒」の立て看板に目が釘付けになった。
有馬稲子の行きつけの、しがない町の中華屋である。
昭和32年当時の物価が計り知れるので一部を紹介しよう。

 ワンタン・・45円      中華そば・・50円
 チャンポン・・70円     もやしそば・・80円
 叉焼麺・・80円       揚げ焼きそば・・100円
 五目そば・・100円      シューマイライス・・80円

なぜか炒飯が見当たらない。
もやしそばがチャンポンより高く、
叉焼麺と同値というのもヘンだ。

うなぎと中華が大好きな小津は
たびたび銀幕にも好物を登場させている。
熱烈に観たくなるというのではないけれど、
たまに観たくなるのが小津作品の不可思議な魅力である。

2011年5月4日水曜日

第45話 ツツジと生菓子

連休2日目は板橋に遠征。
友人の I 﨑家において
月例で開かれるドライスイミング大会に参戦だ。
ドライスイミングとは何ぞや?
乾いた水泳、水のないスイミング、
実は麻雀のことなんですね。
東南アジアのシンガポール特有の言い回しで
雀牌をかき回す手の動きが
平泳ぎに似ているところからきている。

戦いすんで日が暮れて恒例の宴会が始まった。
宴もたけなわで話題が突然、根津神社のつつじ祭りに及んだ。
4月初旬から5月5日まで、祭りが谷根千の人気を独占する。
ただでさえ、広くもない町に老若男女が入り乱れ、
咲き乱れるツツジを愛でるのである。
美しさを絶賛する友人の意見を尊重して翌日出掛けていった。

今まで何度か訪れているがいつもサラッと通り過ぎるのみで
「つつじ苑」なる丘の存在に気づいていなかった。
入園料は200円、へェ~ッ、有料だとも知らなんだ。
ほう、なるほどネ、
小高い丘に上ってみれば絶景なり、絶景なり。

遠くに赤い鳥居が連なっている

色鮮やかなツツジがさまざまに咲き誇るなか、
可憐な一株に目がとまった。

淡い緋色のカエデツツジ

屋台も何軒か、賑わいに彩りを添えている。

若者はのしいかなんて食べるのかな?

最近の屋台の新顔は肉巻きおにぎり。
昔の人間は聞いただけ、見ただけで、げんなりしてしまう。
今年は震災の影響で都民が遠出を控えているため、
都内、あるいは近場の景勝地が人気を集めているという。

神社の北側、根津裏門坂に抜けて坂を上ると、
すぐ右手に菓子鋪「一炉庵」が現れる。
茶会の席になくてはならない上生菓子が評判の老舗だ。
何度も店先を通っているが初めて引き戸を引いてみた。

この季節は何といっても粽(ちまき)と柏餅。
粽は一束ねの販売につき、バラ買いのできる柏餅を購入。
 白餅・こしあん 薄紅餅・みそあん 草餅・つぶあん
以上3種類から、こしあんとつぶあんを1つずつ。
せっかくの初訪問、名代の生菓子を買わぬ手はなかろう。
ケースには色とりどりにおよそ10種類。
普段は迷うところながら意外と早く決断してこちらも2つ買った。

端午(赤)&かぶと(黒)

食べるのがもったいない? 
トンデモないこって、食べるのがとても楽しみだ。
いざ食してみると、柏餅もかぶとたちもまことにけっこう。

デパ地下に出店なんかしないし、お取り寄せも不可能、
ここに来なければ手に入らない。
東京のみやげにしたって、こういうものこそ最適ではないか。
東京ばな奈にうらみはないが、あんなモンはどこでも買える。
真心のこもった手みやげだけが人の心に響くのだ。
ちなみに漱石の「吾輩は猫である」のモデルは
往時、この店にいた猫である。

「一炉庵」
 東京都文京区向丘2-14-9
 03-3823-1365

2011年5月3日火曜日

第44話 白金 四の橋 主菜はウズラ (その2)

白金・四の橋「ラビラント」でメニュー吟味の真っ最中。
余談ながら四の橋はなじみ浅からぬ街である。
一時期、友人が棲んでいたのでちょくちょく遊びに来た。
あれから一昔、10年も経っちまったんだなァ・・・。
月日は流れ、人は年齢を重ねる。
このことを苦にしていたら人類は生きていけない。

おっとそんなことより大切なのは
これから食べる料理の品定めであろうよ。
明日を生きるためにも今宵を食べねばならぬ。
「ラビラント」の必食アイテムは
何を差し置いてもツガニのビスク。
四万十川の清流に育まれた蟹のポタージュは
花の都広しといえどもここだけのもの。
余計なことを考えず、ストレートに味わいたい。
あとは前後に前菜と主菜を配すればそれで済む。
春の宵、迷った末に絞り込んだ候補は下記の通り。

前菜
 漁師風サラダ 甲殻類のドレッシングソース
 仏産エスカルゴとリ・ド・ヴォーのパイ仕立て
 伊豆の葉わさびと丹波産仔猪の網焼き サラダ仕立て
 馬肉のタルタル トラディショネル

主菜
 春のアサリのマリニエール(500g)・・こんなに食えるか!
 丹波産仔猪と筍の煮込み
 ドンブ産ウズラの黒米詰め 大根のテュイル仕立て
 仔牛フィレ肉のパイ包み焼き フランボワーズソース

選んだのは、わさび葉と網焼き猪のサラダ仕立て。
そしてウズラのロティの黒米詰めだ。
猪はなかなか食べられないから
外食時、殊にフレンチやイタリアンでは積極的に注文する。
フォワグラならぬ黒米詰めのウズラも
なあに、ウズラ本体が滋味たっぷり、
あえてガチョウの肝の助けを借りずとも楽しめる。 

いざ食してみて、どちらも及第点。
素材の持ち味が素直に発揮されていた。
ところが、そのあとがイケなかった。
一体全体、いつ、どこからやって来たのか、
呼吸の合わないメートルのあざとさ、ここに極まれり。
フロマージュは彼の顔を立てて少しずつお願いしたのに
ちゃんこ鍋の具材さながらテンコ盛りで運ばれた。
そのチャージは推して識るべし。
イタリア人なら「マンマ・ミーア!」と天を仰ぐところであろう。

今さら愚痴は言うまい、嘆くまい。
おのれの心に言ってきかせたところで、さらに追討ち。
またもや、どっさりオッツケられたデセールがヒドかった。
時代遅れの甘味は大きいばかりで女性軍もお手上げ。
どうやら今まで評価の高かった店に
とうとうサヨナラを告げる日が来たようだ。
かくして佳店は客を失ってゆく。
サビし~い!

「ラビラント」
 東京都港区白金3-2-7
 03-5420-3584

2011年5月2日月曜日

第43話 白金 四の橋 主菜はウズラ (その1)

ウズラには目がないズラ・・・。

街でフレンチや焼き鳥屋を見かけると、
メニューにウズラの料理を探すのさ、
あなた(あるホテルのシェフ)に教わってから・・・。

 ♪ 街でベージュのコートを見かけると
      指にルビーのリングを探すののさ
                あなたを失ってから ♪

ちょうど30年前のレコ大受賞曲みたいなもんで
ウズラを見かけたら最後、
ほとんどちゅうちょなく注文してしまう。
ハトやキジやシギやヤマウズラ、
はてはイワジャコなんかも好きだが
一番はウズラかもしれない。

敬愛する高峰デコちゃんの大好物であったがため、
彼女の結婚披露宴でもふるまわれたウズラのフォワグラ詰めは
先ごろ銀座の「ル・シズィエム・サンス」で堪能した。
今度はフォワグラこそ詰まっていないものの、
フランスはドンブ産の上等なウズラのロティ(ロースト)に
白金は四の橋で出食わした。

下町ックな商店街に異彩を放つフレンチビストロは
界隈で知らぬ人とてない「ラビラント」。
店名はフランス語で”迷宮”の意味だから
ここに入店することを”迷宮入り”と言う、
かどうかは保証の限りではない。

当夜は此度の大震災に襲われた宮城県・登米市から
震災後初めて上京してきたN堂女史を
励まそうと企画された夕食会だった。
宮城の中心都市、杜の都・仙台では
和食はともかくも本格的なフレンチやイタリアンは
いまだ復旧の途にあるそうで
なかなか口に入らないとのこと。
彼女のリクエストもフレンチであったのだ。

「ラビラント」はアラカルト・メニューにこだわり続ける店。
多種多彩な料理の数々が大きな魅力となっている。
近所の人気店「ラ・シェット・ブランシュ」の料理が
ホンの数皿に絞り込まれているのとは実に対照的である。
客にとってどちらがよいのか、あらためて指摘するまでもない。
ちなみに「ラ・シェット・ブランシュ」の向かいには
その名も「うずら」なる和食店がある。
ただし主として鯨肉を扱い、ウズラは見たことがない。

集結したのは総勢5名。
シャンパーニュ派2名、生ビール派3名に分かれ、
主賓の無事を祝ってグラスを合わせた。
そうしておいて各自、メニューの吟味に没頭する。
これは迷いますよ。
本当に迷路に迷い込んだが如くですよ。
もしも自分に胃袋が3つあったなら、
なんて突飛な発想が浮かんでくる始末。
はて、どうしたものでござろう。

=つづく=