2014年11月7日金曜日

第964話 昔ながらの天丼 (その2)

日本の誇る(誰も誇りはしないか?)ファーストフード、
五大どんぶりのハナシのつづき。

J.C.の好むのは第一に天丼である。
なぜか?
あらためて考えてみてハタと思い当たった。
どんぶりという名の狭い宇宙にあって
そのヴァリュエーションという意味では
他のどんぶりの追随を許さぬものがあるからだ。

親子・うなぎ・鉄火の各丼は
最初から最後までずっと同じ味、
めりはりというものがまったくない。
かつ丼の場合はまだマシで
とんかつ部分と玉子部分では味も食感も違うし、
豚肉の部分に限っても赤身・脂身の変化がある。

どんぶりモノはそれ自体が完全な一食であって
せいぜい味噌椀と香の物がつくくらい。
他の副菜とはまず無縁だ。
だからこそ変化がほしい。
天丼の親戚にかき揚げ丼があるが
わが身を振り返ると注文した記憶がほとんどない。
かき揚げでは鉄火や親子と変わらないからだ。

ではどんな天丼が理想かと問われれば、こう応えましょう。
キス・メゴチ・穴子がそれぞれ1尾づつ。
彩りに青唐が1本あってもいいかな。
そば屋の天丼のように大海老2本というのはどうもねェ。

そもそも江戸前の天丼は
江戸湾(東京湾)に揚がった小魚だけをその食材とするもの。
陸(おか)から収穫された野菜類は使わないのが本筋である。
しかも切り身は使用しない。
1尾丸ごとが暗黙の諒解となっている。
唯一の例外はイカなのだが、まあ、イカは魚ではないからネ。

これは察するに江戸の武士が
斬り身に繋がる切り身を嫌ったためではなかろうか。
うなぎにしても関東の背開き、
上方の腹開きという違いがあるくらいだ。

ずいぶんとプロローグが長くなったが
江戸前の天丼が食べたくなって浅草へ出向いた。
かれこれふた月も以前のことであるけれど―。

浅草の天丼となれば、有名どころでは
「大黒家」、「三定」、「葵丸進」が一応、御三家。
ほかには値が相当張るが、豪華絢爛な江戸前天丼を誇る「まさる」。
三兄弟がそれぞれ別経営する「いせや」。
この三店は吉原・千束・蔵前と
浅草の中心を微妙に外れるところがきわめて面白い。

あとはそうですねェ・・・。
週末休みを利用してちと思い浮かべてみまッス。

=つづく=