2014年11月13日木曜日

第968話 まぐろづくしの折詰 (その1)

その夜は葛飾区・亀有で軽く飲んでいた。
お開き早めにつき、2軒目は必須。
隣りの綾瀬に移動するか、も一つ先の北千住、
あるいはさらにその先の町屋だろうか、ちと迷った。

結局、落としどころは北千住。
何となれば立ち寄りついでに
駅前の丸井デパート地下にある食遊館にて
買い物を済ませる腹積りがあったのだ。

調達すべきはサンドイッチ用のハムと葉野菜とハーブ、
それにつぼ鯛か鰰(ハタハタ)の一夜干しあたり。
必買の食材を揃えたあとで
何気なしに鮮魚売場とその脇の鮨コーナーをのぞくと、
目に入ったのがコレ。
まぐろづくしの折詰 
商品名は”まぐろ食べ比べ鮨”。
にぎり鮨の折はたまに買うことがある。
見逃せないスポーツイベントがTV中継される夜など、
観ながら晩酌の友とするためだ。

当夜はさようなスポーツもなく、単にスルーすれば済むこと。
ところが看過できなかった。
ここで多くの読者はこう思われるかもしれない。
(ハハ~ン、20%オフに目がくらみやがったな!)と―。
いや、マイッたな。
ご指摘の思惑がまったくなかったとは言わないけれど、
ポイントはそこにございません。

何より惹かれたのは”さびぬき”、実にこれなんですわ。
刺身ならともかくも
真っ当なまぐろのにぎりを自宅で食べるのは簡単ではない。
なぜならテイクアウト可能なにぎりは
ほとんどが粉かニセのわさびを使う。
よしんば生わさびがカマされていてもキが抜けたり、
まぐろの脂っ気に犯されたりして
わさび本来の機能を失ってしまうからだ。

さび抜きにぎりにはなかなか遭遇しないのが実情。
J.C.しばし考える人となった。
千住に来たからには
「大はし」の肉豆腐、「永見」の千寿揚げ、「加賀屋」のもつ煮込み鍋、
「葵」のさんま塩焼き、「徳多和良」の白身お造り、
「ボケロン」のボケロネス(ひしこいわしの酢漬け)、
選択肢の広さは半端ではないのだ。

思いを整理するため、あらためて店内を一周したくらい。
さび抜きまぐろづくしは一折しかなかったから
逡巡してる間に売れたら売れたでそれもよし、
あきらめがつき、決心もつくからネ。

舞い戻ってみたら、その一折はそのままそこにありました。

=つづく=