2020年10月12日月曜日

第2500話 巣鴨では猫と鰯と胡瓜漬け (その3)

「巣鴨ときわ食堂」の総本山、右奥の窓際で
道往く人々を眺めながら飲んでいる。
都内に数多ある「ときわ」の中にあって
此処の料理が他に抜きん出ているわけではない。
 
では何故にJ.C.が当店を愛用するのかというと、
理由はただ一点に尽きる。
 
=ミニ盛りできます=
 
壁に貼り出された、この一筆がすべて。
冷奴・しらすおろし・ポテトサラダ・まぐろ刺身の小サイズ。
揚げ物だって、かき・あじ・海老フライ・串カツが
1個、1枚、1本からオーダー可能なのだ。
 
五十路に足を踏み入れて以来、
”食”より”飲”に傾倒するようになった。
つまみさえあれば、主食抜きでも構いやしない。
美味少量を愛する今日この頃。
かといって、アル中ハイマーでもないし、予備軍でもない。
自省を込めてわが身を咎めると、姦淫ならぬ、貫飲罪かな。
缶チューハイはめったに飲まないから缶酎罪には問われまい。
 
この日は揚げ出し豆腐と鶏の唐揚げ、ともにミニを通した。
3ピースの絹ごし豆腐は出汁が、ちと濃いがビールの良き友。
2ピースの唐揚げはコロモがガシガシで、これは不出来。
ふと思いつき、魚介フライ用のタルタルソースを所望する。
自家製のタルタルは別売りで70円。
これにてお手製チキン南蛮の出来上がりなり。
 
大瓶をもう1本空け、勘定は2千円。
地蔵通りを往ったり来たりして「魚公」に戻る。
目の前のバス停から乗り込み、帰宅した。
 
さっそく仕込みに取り掛かる。
小真鰯は一瞬、天ぷら&フライが脳裏をよぎったものの、
6匹すべて尾頭・ヒレワタを外し、酢〆にした。
酢は京都・三条の千鳥酢だ。
 
片身2枚のホウボウは
それぞれ2~3切れづつ刺身におろし、
残りの片身は昆布〆、もう片方はバタ焼きにして
その夜のうちに舌鼓を打つ。
チリ産の廉価なシャルドネを合わせると、
先刻に引き続き、またもやシアワセなひととき到来。
 
鰯はまず翌日、オニオンスライスとたっぷりのディル、
ピンクペッパー数粒にサワークリーム少々を駆使し、
ロシアのニシン料理、セリョートカを模してバッチグー。
3日目にはおろし立てのわさび醤油でやったが
う~ん、行司、迷いうちわの末、和風に軍配を挙げた。
 
ホウボウ昆布〆も3日目が美味しさのピーク。
菊正の樽酒とともに味わう。
日続く酒と美味の日々。
若くはないこの頃、何も恐くはないけれど
 

♪ ただサカナのおいしさが 恐かった ♪

 

かぐや姫の歌声が頭の中の水槽を回遊し始めたのでした。

 

=おしまい=
 
「巣鴨ときわ食堂 本店」
 東京都豊島区巣鴨3-14-20
  03-3917-7617
 
「魚公」
 東京都豊島区巣鴨1-19-9
  03-3941-2087