2012年2月14日火曜日

第251話 細魚と真梶木

だしぬけに問題です。
サブタイトルの「細魚と真梶木」は何と読むのでしょう。
これがスンナリ判った方は大したサカナ通ですな。

まっ、真梶木のほうはちょいと頭をひねれば
マカジキと読めますよネ。
ところが細魚のほうはちと厄介でしょう?
細い魚、白魚のような細い指の連想から
白魚の当て字なんて発想が浮かぶかもしれません。
正解はさより、これは針魚とも書きます。

浅草・馬道の「弁天山美家古寿司」では
サヨリを軽く〆、かたつむりの殻みたいにグルッと巻き、
淡い緋色のおぼろをカマせてにぎる。
これを口元に運ぶとき、訪れた春の歓びを実感したものだ。

サヨリは透明感のある身肉と裏腹に真っ黒な腹膜を持つ。
これは体内に取り込んだ植物性プランクトンが
太陽光に反応して光合成するのを防ぐためである。
酸素の気泡で消化器が膨満すると命取りになりかねない。
消化器保護のためにあらかじめ消火器の役割を担っているのだ。

昔から色白のくせに腹黒い美人を細魚のような女という。
そして腹黒毒婦に誘惑されるまま惹かれてしまい、
ついには溺れる男たちをサユリストならぬサヨリストと呼ぶ。
と、これは冗談。
いずれにしろ、食味のよいサカナであることに間違いはない。

一方のマカジキはきわめて珍しいサカナ。
漁獲量が少なく、なかなか市場に出回らない。
一般に流通しているのはほとんどメカジキである。
ソテーやグリルにはメカジキがよいが刺身は断然マカジキだ。
白っぽいメカジキに比べ、マカジキは赤身が濃い。
オレンジというか、ガーネットを帯びた色。
そのぶん鉄分の酸味が立ち、本マグロの赤身に似ている。

「美家古寿司」ではヅケや昆布〆で供され、
銚子沖で銛(もり)に突かれて仕留められたものは
突きん棒と呼ばれ、珍重される。
イタリアはシチリア島のマグロ漁と同じ漁法だ。

カジキ類は水中において最速のスピードで泳げる生物。
これはギネスブックにも記載されている。
鋭く突き出た口吻で獲物をしとめ、捕食する。
あんなんで突かれたら、たまらんだろうな。

ここでハナシは前回に戻ります。
鬼と夜叉にいたぶられ、ラーメン・餃子を恵まれ、
東上線に乗って帰路に下車したのは終点・池袋。
あとはヤサに戻って眠りこけるだけだが
ふと思い、東武デパート地下の食料品売場へ。
晩酌の肴を買い求めに立ち寄ったのだ。
一睡もしてないわりに、われながら元気だよまったく。

ここで見つけたのが細魚と真梶木であった。
下あごだけが発達した細魚、上あごだけが発達した真梶木。
まさしく好対照で世の中にはいろんなサカナがいるもんだ。

帰宅後、熱い風呂に入り3時間ほど仮眠して
アサヒビールと菊正・上撰で楽しい独酌。
”春浅し 隣りは何を する人ぞ”
てなもんや三度笠。
紅いマカジキ、白いサヨリ、
ともに繊細な旨みを持つ刺身とて
わが卓上はにわか”紅白舌合戦”の様相を呈した。

翌日の原稿を書き忘れたくらいなので
写真を撮るのも失念いたしました。