2011年10月25日火曜日

第169話 甲斐の国にも桂川 (その1)

 ♪  苦しめないで ああ責めないで
   わかれのつらさ 知りながら
   遠い日は二度と帰らない
           夕やみの桂川 
             (作詞:林春生)


1970年代に”京都演歌”のスペシャリストだった渚ゆう子。
彼女のヒット曲第2弾、「京都慕情」のエンディングである。
何せ、古都・京都を舞台にした持ち歌が
10曲以上もあるのだからオタクもオタク、大オタクだ。
もちろん、そこにはレコード会社の戦略があるけれど・・・。

かつて好きだった、いや、
今でも好きな渚ゆう子のマイ・ベストスリーは
① 長崎慕情
② さいはて慕情
③ 雨の日のブルース


最大のヒットとなった「京都の恋」がもれているのは
およそ2年後にリリースされた小柳ルミ子の
「京のにわか雨」がさらなる佳曲で
多少なりともワリを食った感否めず。

ベストツーの「さいはて慕情」は
たまたまルミ子もカバーしており、ゆう子に負けず劣らずの熱唱。
二人の歌声から伝わって来るのは
ルミ子が恋を逃れる女ならば、ゆう子は恋に溺れた女である。

ベストワンの「長崎慕情」は
「京都の恋」・「京都慕情」に続くベンチャーズの作曲。
マイナーからメジャー、またマイナーへと転調がすばらしく、
名曲「長崎の鐘」の影響をモロに受けているのだろうが
これはこれで見事な出来映えと言えよう。
日本人の心の琴線にふれるメロディーは
とても外国人がコンポーズしたものとは思えず、
彼らの度重なる来日がダテではなかったことを裏付ける。

ここでいきなり、小さな旅の話に転調。
ある日、思い立って山梨県・大月市を訪ねた。
信州方面に向かう途中、通過することはあっても
大月の地に足をつけるのは初めてのこと。
降り立ったのは大月の1つ手前、猿橋だった。

駅から歩くこと20分弱、
日本に現存する唯一の刎橋(はねばし)、猿橋に到着した。
刎ねるという稀有な文字は
”首を刎ねる”のケース以外にほとんど使われない。
そのせいか日本三奇橋の1つに数えられている。

両たもとから刎ね木が刎ね出して橋を支える

屋根が付いているのは雨水による腐食を防ぐため。
言われてみれば、確かに変わった架橋スタイルではある。

その先には水道橋が架けられ、今も稼働中だった。

八ツ橋発電所の第一水路橋

なかなかの奇観である。
下をのぞくと渓谷は深く、渓流は早い。
高所恐怖症にはちとキビシい眺めがそこにあった。
流れは山中湖を水源とする桂川。
エッ? 桂川?
甲斐の国にも桂川が流れていたのだ。

=つづく=