2011年10月26日水曜日

第170話 甲斐の国にも桂川 (その2)

山梨県・大月市は猿橋にて桂川を見下ろしている。
桂川といえばピンとくるのは京都の淀川水系河川だが
ここ山梨にも甲斐の山々の間を縫うようにして流れていた。
神奈川県に入ると、その名を相模川と変え、
”砂まじりの茅ヶ崎”辺りで相模湾に注ぐのだ。

行楽シーズン真っ盛り、
十月の週末なのに観光客はまばらであった。

橋上に人影は見えない

猿橋が初めて架橋されたのは7世紀という説があるが
現在の橋は27年前に架け替えられたもの。
橋自体の長さも水面からの高さも30メートルなのだそうだ。

橋の南詰に1軒の日本そば屋を見とめた。
という言い方は語弊があり、
実は東京を離れる前にインターネットで調査済み。
そば屋の存在はすでに認識していた。
屋号を「大黒屋」といい、手打ちそばが自慢とのこと。

国定忠治ゆかりの忠治そば(1100円)を所望する。
凶状持ちの忠治がこの「大黒屋」にしばらく逗留したらしい。
それに因んだメニューはかくの如し。

もりそばに桜肉の竜田揚げが添えてある

忠治は馬肉を好んだのだろうか。
いずれにしろ珍妙な組合せだ。

見た目の冴えない竜田揚げはそれなりの味で悪くはない。
かといって鳥や鯨に勝ることもない。
さすれば馬肉で頑張ることもなかろうに―。

そんなことより困ってしまうのは、そばとつゆそのもの。
そばにコシも香りもなく、手打ちを供する意味がない。
そこいらのスーパーで買える茹で麺とほとんど変わらんぞ。
超ド級の甘さのつゆにはお手上げ状態だ。
おまけに薬味はニセわさびと雀の涙ほどの大根おろし。
つゆの中に申し訳程度の三つ葉と白髪ねぎが
空しく浮き沈みしていた。
まったくもって隣県の信州そばとは雲泥の差であった。

観光スポットに旨いものナシ。
格言は今も生きており、永遠に変わらないのかもしれない。
店のHPによるとオススメは冷たいそばで
大量のそばをいっぺんに茹でることを避けているそうだが
そういう次元の問題ではあるまい。
ダメなものはどう茹でようとダメ。

気を取り直して会計を済ませ、はて、どうしたものだろう。
薄曇りの比較的しのぎやすい日、大月まで歩いてみようか。
調べによると、大月にはチャーシューの旨い食堂がある。
そこで飲る一杯を楽しみに進路を真西に取った。

=つづく=

「大黒屋」
 山梨県大月市猿橋町猿橋55
 0554-22-1626