2011年10月28日金曜日

第172話 気楽に入った「喜楽寿司」 (その1)

都内23区で高級住宅地の代名詞は
世田谷区ということになろう。
田園調布を擁する大田区は地域によってピンキリ、
というより田園調布だけが飛び抜けており、
東急多摩川線や京浜急行の沿線は庶民的だ。

高級感漂う世田谷区だが、こと旨い店となれば、
急に旗色が悪くなり、23区では劣等区の一つ。
”食の不毛地帯”とまでは言わないけれど、
遠方からの訪問に値する処はきわめて限定されてしまう。

ここでは料理自慢の奥様たちが腕をふるい、
自宅で家族団らん、ご馳走を召し上がっているのであろう。
小田急小田原線・経堂の駅前から南下してゆく商店街に
「喜楽寿司」という、地元の人気を集める店がある。
経堂には梅丘に本拠を構える、
「美登利寿司」系列の店舗が2軒あり、こちらも人気だ。

大衆鮨店の雄、「美登利寿司」といえば、
何と言っても銀座コリドー街の長蛇の列がつとに有名。
あれはコリドー街というロケーションが図に当たったのだネ。
メインストリートの銀座通りや晴海通りじゃ、
とてもとてもああはいかない。
客のほうが恥ずかしがって行列なんかできゃしません。
どこの誰かに見られないとも限らないし・・・。

さて、「喜楽寿司」である。
商店街を歩いて行ったら
デカい看板が遠くからやけに目立つ。
鮨屋としてあまり趣味のよいものではない。
ところが店先は一転してすっきりとした佇まい。
傍らの簡素な品書きボードには

 おまかせ握り
  八個     3000円
  十二個    4600円
 おまかせコース
          8600円
             税別


とあった。

敷居をまたいだのは18時前だったろうか。
ぶらりと気楽に立ち寄ったので
当然のことながら予約はしていない。
店主に「1時間ほどでしたら・・・」―
そう言われてニッコリうなずいた。

つけ台の先客は奥に中年女性の二人連れ。
手前に若い男性客が独り。
キリン・ハートランドの生中と一緒に
突き出しの枝豆が運ばれる。
当夜は遠出の帰りなのでホッとひと息。
店主にはお好みのにぎりで始めることを伝えた。

=つづく=