2011年10月31日月曜日

第173話 気楽に入った「喜楽寿司」 (その2)

小田急線・経堂の「喜楽寿司」を初訪問。
季節は秋風立つ前の晩夏だった。
つまみを取らずににぎりで始めたのは
入店の際に1時間だけの滞在と制限されたためだ。

白身の取り揃えを訊ねたら真子がれいとの応答。
朝〆だろうか、身がコリッとくるけっこうな状態で
順調な滑り出しといえよう。

ここ数年、置く店が増えた金目鯛は脂がのっていた。
ナマだったけれど、金目は皮目を軽くあぶったほうがおいしい。
頑固な親方なら敬遠する鮨種なのは
昔の鮨屋に深海魚の出番はなかったからだろう。

ハートランドの生中をお替わり。
生に限らず瓶でもワリと好きな銘柄だ。
ラガー、クラシックラガー、一番搾り、
数あるキリンの製品ではもっとも好きなのがコレ。

秋刀魚には酢橘(すだち)が搾られた。
白身ならともかく、青背に酢橘は感心しない。
せいぜい新子(小肌の幼魚)どまりであろうよ。
ところが同じ秋刀魚でも塩焼きとなるとハナシは別。
焼き秋刀魚におろしと酢橘は不可欠だ。

赤貝はやや小ぶりで身の締まった良形。
津波で大打撃を受けた三陸モノの復活には
まだまだ時間が掛かると思われ、
おそらく九州は大分辺りの産だろうか。

芋焼酎・三岳(みたけ)のロックに切り替える。
これを飲むたびに
西浅草の「すし468」を思い起こすのはパブロフの犬現象か。

サイズのよい小肌は残念ながら少々生臭かった。
酢より塩が勝った〆具合が災いしたのかもしれない。
そういえばこの店は甘さを排した酢めしの酢も控えめ。

子ナシの蝦蛄もよいサイズ。
蝦蛄と渡世人は子ナシに限り、子持ちはいけない。
舌先を変えるため、漬け生姜に箸をのばしてみると、
酢めし同様に甘みナシ、これはこれでよいというか
酢めしはともかく、漬け生姜は甘味全廃が理想的かも。

まぐろの赤身は本まぐろだろうか?
まぐろ特有の酸味が立つもののコク味に欠け、
ばちまぐろだった可能性が高い。

ふっくらと煮含められた穴子はまずまず。
ただし、柔らかい煮穴子は好みじゃない。
沢煮をあぶり直すプリッとしたのがよい。

締めの玉子は出し巻だが砂糖と醤油を利かせたもの。
江戸と上方の折衷スタイルといったところ。

以上、にぎり9カン(玉子は酢めし抜き)に加え、
生ビール2杯と芋焼酎1杯で会計は6400円。
諭吉翁1枚で足りると踏んだが
ここまで安いとは思わなかった。
でも、つまみ抜きならこんなものかな。

世田谷の鮨屋としては佳店かもしれないけれど、
都心や下町ではそうもいくまい。
施すシゴト、揃えた種、どちらも真っ正直でちと退屈。
もう一ひねり、何か工夫がほしい。
遊びというか、戯れと呼ぶか、
そんなところに職人の色気がチラリとのぞくものなのだ。

「鮨処 喜楽」
 東京都世田谷区経堂1-12-12
 03-3428-3517