2014年5月22日木曜日

第843話 若大将の影の魅力 (その1)

ちょいとばかり作話の引きずり。

監督・成瀬巳喜男は「乱れる」を撮ったおよそ4年後。
遺作となる「乱れ雲」を世に送った。
脚本は松山善三から山田信夫に変わっている。
音楽も世界に名立たる武満徹を迎えている。

ただし、キャスティングは
ヒロインこそ高峰秀子から司葉子にバトンが渡されているが
相手役は同じ加山雄三。
ほかに両作品に出演している俳優は
浜美枝・草笛光子・浦辺粂子・十朱久雄・藤木悠・佐田豊と、
かなりのダブりを見せている。

どちらも加山が年上の女に恋をするメロドラマ。
ストーリーも酷似している。
なぜ、成瀬はリメイクともいえる2本目を撮ったのだろうか。

まず第一に、本人がこの自作に自信を持っていたし、
気に入りの一本でもあったのだろう。
第二に画面を白黒からカラーに変更し、
ヒロインを地方都市の女から都会の女に据え直したかったのではないか。

司の夫は加山の車にはねられ、事故死する通産省官僚。
演ずるのは土屋嘉男である。
司と土屋の夫婦となると、黒澤明の「用心棒」が思い起こされる。
あのときの司の美貌の極みは海外でも語り草となった。

おそらく成瀬は可愛いタイプの高峰から
美しいタイプの司にスイッチして気に入りの作品をもう一度、
世に問いかけたかったのだろう。
黒澤が「用心棒」のあとに「椿三十郎」を手がけたように―。
ただし、こちらは男の映画だがネ。

さて、今話の主役は加山雄三。
加山といえば、誰しもが若大将をイメージしよう。
ところがJ.C.は多数派に与しない。
”若大将シリーズ”より、成瀬の2本や
黒澤の2本(用心棒と赤ひげ)が好きだ。
このように加山雄三という俳優は光と影の二面性を持つ。

ちょうどデビュー間もない裕次郎がそうだった。
「嵐を呼ぶ男」、「風速四十米」のアクション映画の影に
「乳母車」、「陽のあたる坂道」、「若い人」などの文芸作品があった。
そして加山にも裕次郎にも大きな音楽の世界があった。

加山の音楽の絶頂期は1965年からの3~4年間。
今も結婚式の披露宴で歌い継がれる「お嫁においで」が
リリースされた’66年6月には
来日中のビートルズを訪ね、
ヒルトンホテル(現 ザ・キャピトルホテル東急)で
会食をともにする機会にも恵まれている。
誰が仕掛けたのか、そんな幸運もあったんだねェ。

=つづく=