2014年5月27日火曜日

第846話 上野着午前1時 (その1)

土曜の夜であった。
といってもすでに日曜だが、深夜の上野駅に着いた。
乗って来たのは常磐線。
その夜は所用に追われてまだ酒を飲んでいない。
まっすぐ帰宅する気にもなれず、ノガミの街をさまよう。

ノガミって何だ?  ってか?
まっ、そのスジの隠語ですがネ、
上野をひっくり返して野上、それをノガミと読むわけ。

新宿のジュクと池袋のブクロは誰でも察しがつくけれど、
ノガミは少々ひねりが利いている。
もっとひねったのが浅草のエンコ。
高倉健の”昭和残侠伝シリーズ”にはたびたび登場する言葉だが
何で浅草がエンコなの?  その疑問、ごもっとも。

実は浅草公園から来てるんですネ。
公園をひっくり返して園公。
えんこうがエンコとなったのでした。
さすれば、上野だって上野公園なんですけれど、
こちらはエンコとは呼びません。

さて、真夜中の上野駅界隈だ。
夜の浅いエンコに比して、ノガミの夜は深い。
24時間営業の飲み屋も少なくない。
とりあえず、アメ横近辺を流してみた。

大箱にして客の出入りの激しい「もつ焼き 大統領」はすでに閉店。
その向かいの「一力」が暖簾を掲げていた。
時間も時間だし、あちこち物色している余裕はない。
数ヶ月前に訪れたときの印象も悪いものではなかった。
よってすんなり入店。

テーブル席はいっぱい。
日本人のアンちゃんと外国人の中年女性。
あるいは外国人のグループがにぎやかに会話を交わしていた。
当方はカウンターに席を見つけておとなしくおさまった。

あらら、数席となりに卓上で寝込んじまった輩が1名。
これはちょっとやそっとでは目覚めそうにない。
深々と寝ている。
店のスタッフ、といっても中国人のオネエちゃんばかりだが
べつに気にとめるふうでもなく、そのままうっちゃっている。

サッポロの中ジョッキがあっというまにノドの奥に消えていった。
旨い! 文句ナシに旨い!
本日のおすすめに蛍いか刺しがある。
ゆがいたそれは珍しくもないが生の刺身は希少価値が高い。
さっそくお願いしたのではあった。

=つづく=