2014年8月6日水曜日

第897話 馬よアナタはウマかった! (その4)

徳川の時代となってほどなく、
世紀でいえば、17世紀中頃から
世界最大の性都に君臨し続けている吉原。
その入場ゲート、吉原大門の真正面で生ビールを飲んでいる。

桜鍋が名物の「土手あつみや」に集結した仲間が
おのおの選んだ小肴を分け合ってビールの合いの手としている。
いか塩辛に対する不満は昨日書いたが、
この塩辛、他のメンバーにはそこそこウケたから
まずまずのデキだったのかもしれない。

ここで悪評を一手に集めたのが和雄サンのオーダーした一鉢だった。
正式名称を失念したが、納豆だのオクラだのメカブだの、
隣りのトトロ、もとい山芋のトロロだの、
とにかくネバネバした素材を好みで何種か選び、
盛合わせで注文するシステム。

何をチョイスしたのか覚えていないけれど、
とにかく箸でグチャグチャに混ぜて味わう一鉢は
みなで分けるに不都合だし、何だか汚らしい。
本来、下町の小粋な飲み屋のレパートリーには
そぐわない無粋な品目なのだ。

酒を生ビールから麦焼酎に切り替える。
ボトルのラベルには”吉原大門”とあった。
ほう、そうきましたか。
もっとも、こういうのは近頃ひんぱんに目にする。

いよいよ馬肉の登場だ。
最初に馬刺し。
深紅の肉色もヌメヌメとなかなかに食欲をそそる。
添えものは新玉ねぎのスライスだった。

おろし生姜でいただくのだが
ここでJ.C.すかさず、ニンニクをお願いした。
薬味としてのニンニクが不可欠の刺身は
一に鰹、二に馬であろう。

続いては味噌仕立ての桜鍋だ。
牛肉のすき焼きのようにシツッコくないところがよい。
玉子焼きに使用される上質の玉子にくぐらせ、
口元に運べば、その口元が瞬時にほころぶ。
う~ん、いいねェ、桜肉は!
馬よアナタはウマかった!

そうしてこうしてお勘定は一人アタマ5千円。
一同、満足して大門をあとにする。
向かった先は観音裏ののスナック「N」だ。
生まれてこのかた、音楽にトンと興味のなかった東海林御大も
いつしかカラオケになじむようになった。
さだお&T子の歌う”銀恋”が夜の浅草に流れたのでした。
いや、変われば変わる物語。

=おしまい=

「土手あつみや」
 東京都台東区日本堤1-8-4
 03-3872-2274