2014年8月20日水曜日

第907話 利休鼠のよもぎ切り

 ♪ 雪の白樺並木 夕日がはえる
   走れトロイカほがらかに 鈴の音高く
   走れトロイカほがらかに 鈴の音高く ♪
       (訳詞:楽団<カチューシャ>)

ロシア民謡の「トロイカ」。
ちなみに、楽団<カチューシャ>は第二次大戦後、
ハバロフスク地区に抑留された日本人捕虜による楽団。
原曲は金持ちに恋人を奪われた、
トロイカ(三頭立て馬車)の 馭者(ぎょしゃ)にまつわる悲しい歌だが
カチューシャのメンバーが間違えて
他の曲の歌詞を訳してしまったらしい。

さて、日本人の耳になじみの深い「トロイカ」。
今回、訪ねたのは歌詞の中にある”白樺並木”である。
といっても雪化粧の並木道ではなく、
2ヶ月ほど前に紹介した日本そば店「白樺」だ。

前回はイベリコ豚の肉せいろと小えび5本の天丼による、
ランチのCセットをいただいた。
その際、壁に見とめた1枚の貼り紙がずっと気になっていた。
 
 丹沢山麓よもぎ使用 よもぎ切りそば 670円

この一品である。
忘れ去ること能わず、舞い戻ったのだ。

よもぎとなると第一感は寅さん映画でおなじみ、
柴又は帝釈天参道の草だんご。
当地の団子屋は千葉県産を使っているらしい。
江戸川の向こう岸も千葉県・矢切だが
もっと遠くから調達しているようだ。

そういえば、寅さんのおばちゃんが映画の中で嘆いていたっけ。
「こんなもん、昔は江戸川の土手でいっくらでも採れたのにねェ」
べつに団子屋が乱獲したわけでもなかろうに
自然界は刻一刻と変遷していくんだなァ。

ヨモギは食用や薬用以外にお灸のもぐさとしても
人類に効用を与えてくれている。
欧州にもヨモギの仲間のニガヨモギが
各種リキュールの原料になっている。
一番有名なのがフランスのアブサン。
ただし、この酒、薬用酒としての効能よりも、
アルコール中毒者を大量に産み出したことで悪名が高い。
フランス政府など長いこと、製造禁止令を出していたくらいだ。

運ばれたよもぎ切りはかくの如し。
草団子よりも緑がくすんでいる
茶人・千利休が好んだ色に緑を帯びたねずみ色、
そう、利休鼠があるが、その色に限りなく近い。

嗅いでみても香りがそれほど立ち上ってくるわけではない。
食してもよもぎがその味を主張するでもない。
マイルドと言えばそれまでだが変わりそばなら
しそ切り、あるいはゆず切りに一日の長があるように思われた。

「白樺」
 東京都葛飾区東金町3-17-12
 03-3607-3684