2014年8月25日月曜日

第910話 さいはてのスピリッツ (その3)

池袋が大塚を凌駕するようになったのは
山手線と赤羽線の分岐点として選ばれたことがすべて。
当初、鉄道省は現在の地下鉄丸の内線の新大塚駅付近に
新駅を設置するる予定だったが池袋に変更された。
西武池袋線と東武東上線の乗り入れも大きく寄与して
池袋は都内有数のメガステーションとなったわけだ。

「富久晴」をあとにして三業通りに足を踏み入れる。
往時の面影をそこかしこに残すストリート。
通りの中ほどにある「一松」は何回か訪れた。
行ったり来たりしてさんざ迷った挙句、
此度は「さんぺい」に白羽の矢を立てた。
初訪問である。

惹かれたのは店頭の品書きにあった、
新玉ねぎのスライスとめじまぐろの刺身。
新玉ねぎはみなさんご存知だろう。
めじは本まぐろの幼魚のこと。

本まぐろの中とろ・大とろに興味のないJ.C.は
もっぱら赤身を好んで食べている。
めじは赤身よりもっとあっさり、
身肌も赤に染まる前のピンク色だ。
夕方の買い物でスーパーを訪れる主婦ならば、
何度か目にしているのではなかろうか。
値段も親の本まぐろに比べてずっとお求めやすい。

「さんぺい」は細長いカウンターのみの小体な店だった。
「富久晴」ではキリンラガーの大瓶だったので
さっそくスーパードライの中ジョッキをお願い。
お通しに鱧(はも)のお通し、もとい、落としが出された。
葛で化粧を施された鱧はなかなかにオツ。
お出汁も上品、塩加減も淡い。
下世話な居酒屋のどうでもよい小鉢と違い、
これだけで期待が高まろうというものだ。

残念だったのは店外のボードにあった新玉ねぎが
店内のそれには見当たらなかったこと。
代わりというのでもないが、水茄子を所望した。
水気をたっぷり含んだ茄子は口中に涼感を運んでくれる。
いや、まことにけっこう。
余計な味付けを極力排しているところがよい。
鱧と茄子だけで中ジョッキを2杯飲んだ。

はて、お次は何を飲もうかな?
カウンターの目の前の調度品に
シーサーなんぞがあって沖縄チック。
ならば、泡盛があるだろうと思い、店主に訊ねる。
すると、ありました、ありました、
それもトンデモないヤツがっ!

=つづく=