2015年11月12日木曜日

第1228話 昼はうな肝 夜は鳥肝 (その2)

代々木上原のうなぎ店「鮒与」にちなんで
「文豪の味を食べる」は古賀政男の稿のつづき。

店内は実に質素と言うか、はっきり言わせてもらうと殺風景。
うなぎの寝床風に細長く156人は入れそうだが先客はいなかった。
一見して出前中心の商いだと知れる。
それを裏付けるようにほどなく出前注文の電話が鳴った。
壁には棟方志功の大弁財天の版画が掛かっている。

品書きはいたってシンプル。
箸袋に「うなぎ専門」と記されている通り、
酒の肴も肝焼きと中骨の唐揚げ(各300円)があるだけだ。
 
ビールはキリンとエビス。
キリンを頼むと、おっそろしく冷えたクラシックラガーの中瓶が登場した。
一緒に運ばれた突き出し代わりが旨い。
きゅうり古漬けと大根浅漬けをきざみ合わせただけなのに
お替わりしたくなるほどのもの多少の化調には目をつぶった。

間もなく焼き上がった肝焼きにも言葉を失う。
ギュッと打ち込まれた肝が串にミッシリとまとわり付くところを
紀州備長炭でミディアムレアにあぶられ、身もだえしたくなるほどの美味。
ほのかな苦味が香ばしく、
鳥のハツを思わせるプリッとした食感も快く、あわてて二本追加する。
結局、一人で三本やっつけたからその晩うつ伏せで寝たら
翌朝、体が持ち上がるかもしれないので仰向けに寝た。

日本酒を飲みたいと思ったが
ここは我慢してうな重に直行。
中(1800円)や上(2200円)には見向きもせずに
並(1400円)をお願いした。
 
蓋を開けると相当小ぶりなうなぎが一匹分整列していた。
まだ幼魚と成魚の中間という感じで
穴子ならばめそっ子、本まぐろならめじまぐろに匹敵しよう。
これを”めじうなぎ”とは呼ぶまいが
余計な脂肪分が蓄えられる前のデリケートな美味しさが際立つ。

固めに炊かれたごはんも言うことなし。
お椀にたっぷり張られた肝吸い(100円)には
三つ葉が散って柚子皮が一片。
今度は薄切りではないきゅうり&大根ぬか漬けが
うな重を支える恰好の脇役となっていた。

さすがに昭和の音楽界の大御所はよい店をご存知だった。
ほかにうなぎ屋の見当たらぬ上原界隈とは言え、
「鮒与」一軒で事はじゅうぶんに足りるというもの。
こんな名店を持つ近所の人たちを
うらやむどころか、ねたましく思えてきた。

ということでありました。
 
=つづく=