2017年2月3日金曜日

第1551話 素晴らしき土曜日 (その5)

東京芸大のキャンパス内。
驚きのパンケーキ屋は「サクラ・バレット」といった。
パレットじゃなくてバレット、どうもよく判らんなァ。
でも、彼のアイデアにはアッパレ!の一票を投じたい。

もう一つの学食「キャッスル」には寄らず、正門を右に出た。
そこはすでに緑の上野恩賜公園。
足を踏み入れると、かなりの数の人だかりである。
黒っぽい服装の群衆が数十人、
みんながみんな黒いどんぶりを抱えていた。

おっと、そうか!
ホームレスだけじゃなさそうだが
経済的苦境にあえいでいる人々を助けるための
いわゆる炊き出しだネ、これは―。

こういうカタチの救済には
行政がもっと金を出してもいいと思う。
北欧並みの福利厚生とまでは願わねど、
せめて食事くらいは提供してあげましょうヨ。

どんぶりの中身は何だろう?
のぞくわけにはいかないけれど、
チラリ垣間見えたのは玉子焼きとホウレン草みたいな青物。
ふむ、ふむ、栄養バランスを考えてるんだネ。
ボリュームもけっこうありそうだった。

公園内にある大噴水のほとりで一休み。
だだっ広い広場の両サイドには
大型店舗の「STARBUCKS」と「PARK SIDE CAFE」。
いずれも満員御礼のご様子である。

ここでウンチクを一くさり。
今や世界最大のコーヒー・チェーンとなった「STARBUCKS」だが
店名の由来をご存じだろうか?

19世紀の米作家、ハーマン・メルヴィルの長篇大作に「白鯨」がある。
巨大な白いマッコウクジラ、モビー・ディックに片足を奪われ、
復讐に燃える捕鯨船長エイハブの片足、
もとい、片腕として活躍するコーヒー好きの一等航海士
彼こそががスターバックスなのだ。

血気にはやる老船長をいさめる知的な好人物ながら
ラストのクライマックスではふるさとに最愛の妻子を残したまま、
船長とともに海底へと消えてゆく。
イギリスの詩人、エドマンド・ブランデンは
英米文学における三大悲劇として
「嵐が丘」、「リア王」、そして「白鯨」を挙げている。

それにしてもコーヒー・チェーンの大成功は
このネーミングによるところが大きい。
一等航海士も草葉の陰ならぬ、
波間の底で歓んでいるかもしれない。

=つづく=