2017年2月21日火曜日

第1563話 素晴らしき土曜日 (その17)

「異邦人」が流れるなか、ニラ饅頭が湯気を立てて運ばれた。
よほど腹がすいていたのか、
箸先で小分けにするひまもあらばこそ、そのままパクリとやる。
 
「ア~ッチッチ!」―いや、熱いのなんのって!
火傷まではいかなくとも舌と唇にダメージを負った。
がっつく不作法者にロクなことはない。
ともかくもエビスの中ジョッキとともに
二つの饅頭を食了した。

2杯目の生を頼んでおいて
さらに菜譜の吟味に入る。
実はニラ饅頭と最後まで競ったのは割包(クワパオ)だった。
割包とは何ぞや?
蒸したパンに豚の角煮をはさみ込んだ、
いわゆるチャイニーズバーガーのことである。

聞くところによると
中国本土よりも台湾で人気の高い食べものらしい。
何でも12月の或る日の忘年会においては
定番なのだそうだ。

興味深々なれど、
いくらなんでも饅頭のあとにバーガーはあらへんやろ。
糖質の取り過ぎちゃうやろか?
よって二品目の候補から外す。

そこで好物のモツ類から選ぶことにした。
ここでも最後まで競り合った料理が二皿。
かたや豚ハツの生姜風味、
こなた豚耳のフレンチマスタードである。
滋味の深さではハツ、食感の小気味よさでは耳だろう。

迷った末に決め手となったのはフレンチマスタード。
中華でフレンチマスタードはきわめて珍しい。
意表を衝かれるとともに
試してみたい・・・そんな好奇心が頭をもたげた。

2杯目のジョッキがカラになる頃、
切りきざまれた豚耳がやって来た。
冷蔵庫から取り出されたばかりなのか
冷え冷え状態だった。
冷たすぎて味がよく判らん。
マスタードの風味しか感じない。

こりゃしばらく放置して常温に戻したほうがいいな・・・
そう思ったことである。
常温つながりからついでに紹興酒を常温で所望した。

  ♪   嫌われてしまったの 愛する人に
     捨てられてしまったの 紙クズみたいに  ♪

聞き覚えのある歌声が流れてきた。

=つづく=