2017年2月28日火曜日

第1568話 ある日旅立ち (その2)

午前10時の上野駅。
いまだ行くあて定まらぬ旅の始まりである。
「小洞天」の焼きそばをブラ下げて
駅構内のコンビニで缶ビールを調達し、
準備万端、さあて何処サ行くべか・・・。

JR東日本各線の発車時刻を告げる電光掲示板を見上げた。
茨城の土浦、栃木の宇都宮、群馬の高崎、静岡の熱海と
在来線ですら何処へでも行けちゃうゾ。

 ♪ 上野は俺らの 心の駅だ ♪

かつて主に東北地方から
集団就職で上京した金の卵(死語ですネ)たちには
上野は確かに心の駅であった。
それが今、行く先を探し求めるJ.C.にとっては
ドラえもんのどこでもドアに匹敵するのだ。

時季も時季だし、多少なりとも暖かそうな場所がいい。
季節的要因を考慮して
乗り込んだのは上野東京ラインの熱海行きだった。

ちなみに上野東京ラインとは
単に上野と東京を結ぶ短距離電車ではない。
2年前に開業した東北本線ほか各線と
東海道線を結ぶ相互直通運転のことである。
もっとも首都圏在住の人は先刻ご承知でしょうがネ。

車内は意外に混んでいた。
すぐに缶ビールをプシュッとやりたかったが
とてもそんな状況にない。
第一、席が確保できないんだもの。
場末の立ち飲み酒場じゃあるまいし、
あまりみっともないマネはできない。

東京駅で乗客がごっそり降りたので着席。
それも飲食しやすいボックス席である。
ただし、向こう二席に片隣り、
見知らぬ人たちに包囲されている。

こいつは焼きそばはおろか、
ビールすら飲める雰囲気じゃないぜ。
夜汽車ならともかく昼前からいい歳こいたオッサンが
人目もはばからずグビグビ飲ってたんじゃ、
若いモンに示しがつかないしネ。

いや、マイッたな。
この様子だと品川を過ぎるまではムリだろう。
いや、横浜あたりまで待たずばなるまいて。
急ぐ旅でもないし、まっ、いいか。

=つづく=