2017年2月14日火曜日

第1558話 素晴らしき土曜日 (その12)

JR山手線・御徒町駅のガード下、
「味の笛」の2階で独り飲んでいる。
禁煙席と喫煙席の境目あたりだ。
隣りで競馬新聞に見入っているオジさんが
ふかした煙草のけむりがプカ~リ、プカ~リ。

冷たい北雪の味わいは舌の上に粉雪が舞っているよう。
この銘酒に初めて出会ったのはマンハッタンのトライベッカ。
ロバート・デ・ニーロが出資する和食レストラン「Nobu」だった。
以前、当ブログで紹介したが
デンゼル・ワシントンとたまたま隣り同士になったのが
この店のカウンターだった。
新聞を拡げて読みやがって鬱陶しいアンちゃんだぜ、
そう思ったことである。

コクよりもキレに主眼をおいた北雪は好きな酒。
ところが良き合いの手となってくれるハズ、
そう期待した、ヘチマがアカンかった。
見た目の色合い、漬け粕の塩梅、
ともにけっこうながら、いけなかったのは食感である。

奈良漬の白瓜のパリパリ感まではのぞまぬが
歯触りが悪すぎやしたネ。
何と表現したらよろしかろう。
フルーツの砂糖漬けみたいな噛み心地なのだ。
パリパリせずにズリズリする感じ。
あらためて見つめ直すと
薄切りのドライ・マンゴーに見えないこともない。

1300年の歴史を誇る奈良漬は白瓜が絶対の主力。
あとは、きゅうり、豆西瓜、生姜、守口大根といった布陣だが
糸瓜は入っていない。
やはり漬物には向かないものと思われる。
って、ゆうかぁ、もともと美味しいモンじゃないんだろうな。
旨かったら鍋洗いや人洗いに
その身を落とすことはなかったろうし・・・。

つまみに鰻の肝焼きを一串。
ついでに酒も同じ新潟の麒麟山に移行する。
肝はまぁまぁ、麒麟は旨し。
そういえば、麒麟山を初めて飲んだのは
同じ上野のおでん屋「大凧」だった。
もう14年も以前のことである。

いいくら加減に酔いが回ってきたので
この店はこれにて打ち止め。
外へ出ると西空が暮れなずんでいる。
広小路から仲通りを経て不忍池へ。
ほとりをたどり、目指すは根津の日本そば屋だ。

=つづく=

「味の笛本店」
 東京都台東区上野5丁目20-10
 03-3837-5828