2017年2月15日水曜日

第1559話 素晴らしき土曜日 (その13)

不忍池の水面には
北の国から飛来した水鳥が羽を休めている。
年々、その数を減らしているように感じるのは
気のせいだろうか―。

公園を出てやって来たのはそば屋の「新ふじ」。
ここのもりそばは気に入りなのだ。
しなやかなコシとなめらかなノド越しが
快適なそば自体もさることながら
ほどよい甘みをたたえたつゆが好もしい。

J.C.は中学生時代、板橋区・弥生町に住んでいた。
最寄りの駅は東武東上線・中板橋。
最寄りの商店街は下頭橋通り。
その通りに「満留賀」なる、
ごくフツーの町場のそば屋があった。
そこのそばつゆにそっくりな「新ふじ」のソレ。
懐かしみが拍車をかけて、好きだなァ。

「新ふじ」にはもり以外にも楽しみがある。
その第一は滋味あふれるもつ煮込み。
赤と白、二種類の味噌を合わせたものだろう、
煮汁のコク味が最大の魅力となっている。
豚の白もつの煮え具合もバッチリ、
ビールにも日本酒にも恰好の合いの手だ。

加えてアッサリ塩味のニラ玉がさりげなく美味しい。
ほどよい陽光を浴びたニラが柔らかい。
絡んだ炒り玉とのバランスよろしく、シンプリー・テイスティ。
これまたビール・日本酒を選ばぬ佳品である。

ついでに言えば、ビールが中瓶のほかに
大瓶があるのがうれしい。
中瓶だとあまり飲んだ気がしない。
自宅の冷蔵庫には缶しか眠っていないから
大瓶から注ぐビールには格別な醍醐味がある。

さて、さて、久々の「新ふじ」である。
暖簾をくぐり、引き戸を開けて敷居をまたいだ。
すると・・・ややっ、目の前の光景に立ち尽くす自分がいた。
店内は満員御礼のご盛況にて空卓は一つとしてない。
土曜日のことで客たちの仕掛けが普段より早目なのだろう。

中で立ち待つのも間抜けなハナシだし、
すでに陽が落ちた外には寒風が立ち始めている。
まさに内憂外患を身をもって知る破目に陥った。
ここまで来た末の肩透かしはツラいものがある。

ほかに順番待ちの人影はナシ。
10分も経てば席にありつけるハズ。
でもネ、これは天からのお告げと受け止めて
ビールも煮込みももりそばも脳裏からワイプアウト。
不忍通りを根津の交差点方面に北上して行った。

=つづく=