2024年2月2日金曜日

第3463話 この空間に夜まで居たい (その2)

尾山台の「オー・ボン・ヴュー・タン」。
卓上のリストをおもむろに取った。
えっ、ええ~っ! こいつは驚いた。
ピノー・デ・シャラントがあるじゃないかー。

日本人でこの酒を知っている方はあまりいまい。
かく書くJ.C.も長いことお目にかかっていない。
最後に飲んだのはいつだっけ?
今世紀でないことは確かだ。
パリかなァ? いや、NY だったかもしれない。

ワインが未成熟なうちにコニャックを足し、
発酵を止めて甘味を残す手法を用いる、
酒精強化ワインである。
アルコール度数は17度が一般的で
欧州だと赤やロゼも流通するが
日本ではほとんど白になる。

クイッ! 懐かしい味が舌に拡がった。
色合いは白とロゼの中間、
いわゆるオレンジワインに近い。
グラスに顔を近づけたらアルコール分が
揮発するのか、目にしみるものがあった。

すぐに飲み干し、もう1杯いこう。
いや、こういうものはガブガブ飲むものではない。
カテゴリーはデザートワインだからネ。
再びリストに見入った。

せっかくこの空間に身を置いているのだ。
今日は、アラ・フランセーズでまいろう。
ペルノーをいってみようじゃないかー。
ちょいと待てヨ、オニイ(オジイ)さん。
リコリス(甘草)を加えたリカールがいいな。

それらはアニス香る酒、パスティス。
”偽物” や ”もどき” を意味する、
パスティーシュ由来の言葉で
製造禁止になったアブサンの代替品として生まれ、
パイやパスタも語源を同じくするらしい。

水割りを所望すると、
クラッシュド・アイス入りの水差しが運ばれた。
オー! これこそ「オー・ボン」の魅力だ。
こんな供し方は銀座のバーでもしやしない。
しかも酒の値段は銀座の3分の1と来たもんだ。

尾山台にプチ・パリがあった。
この空間に夜まで残ってグラスを傾けたい。
もっとも夕方には閉店しちゃうんだけどネ。
それでも
Je suis heureux(わたしはシアワセ)でした。

なんだかビールが飲みたくなり、
前回同様、牛めし屋に立ち寄り、
中瓶を空けて帰宅の途に着いたのでした。

「オー・ボン・ヴュー・タン」
 東京都世田谷区等々力2-1-3
 03-3703-8428