2014年3月7日金曜日

第789話 ウーマン・シェフの里帰り (その2)

不デキな小肌の生臭みを生ビールで流し去り、
20年来ののみともと浅草ビューホテルのルームで合体、
もとい、ロビーで合流したのだった。

向かったのは、すし屋横丁の「三岩」。
庶民的な酒場には天ぷらもあれば寿司もある。
典型的な古き良き浅草の飲み処兼食べ処なのだ。

この街に”三”と名のつく店はいくつかあって
天ぷらの「三定」、ふぐの「三角」、同じくふぐの「三浦屋」、
お好み焼きの「三島屋」といった面々。
まっ、極めつきは”三社祭”なんですけどネ。

さて、あらためて「三岩」。
店の前をゆきすぎても
この店の歴史や伝統をつかみとることはできない。
それなりの店構えに立派な暖簾が出てるんだけれどなァ。

瓶ビールで乾杯し、つまみはにしん酢とキス天ぷら。
このにしん酢が他店では見掛けぬ逸品だ。

 ♪  あれからニシンは どこへ行ったやら
   オタモイ岬の ニシン御殿も
   今じゃさびれて オンボロロ
   オンボロボロロー
   かわらぬものは 古代文字
   わたしゃ涙で 娘ざかりの 夢を見る ♪
           (作詞:なかにし礼)

北原ミレイの「石狩挽歌」。
この歌を初めてパチンコ屋で聴いたときは度肝を抜かれたが
往時は豊漁のにしんで御殿が建ったんだねェ。

そのにしんの酢の物は
先刻の小肌とは似ても似つかぬ良品計画にて文句ナシ。
ふっくら揚がったキス天にも及第点を進呈。

冷え込む夜につき、身体を温めるものがほしい。
さすれば鍋だが、たらちり、かき鍋、鳥鍋と並ぶなか、
K美子のリクエストはかきであった。
「三岩」のかき鍋は土手仕立てだ。
それも八丁味噌に甘みを加えたヤツ。

八丁味噌は三州・岡崎が本場の豆味噌。
岡崎・名古屋間は50キロと離れていないから
ご幼少のみぎりにK美子もお世話になったことだろう。
嫌いであるハズがない。

ニューヨークでは口にできぬものとして
さらしくじら・しそ白魚・数の子おかかなどの小品を追加する。
店がヒマだったせいもあり、
店主と女将を交えた会話に花が咲く。
この人情味があるからこそ
”浅草飲み”がヤミツキになっちゃうんだヨ、きっとネ。

=つづく=

「三岩」
 東京都台東区浅草1-8-4
 03-3844-8632