2015年5月5日火曜日

第1091話 ニシンは春を告げる魚 (その2)

最近は従来のめんどくさがり屋に磨きが掛かり、
もとい、拍車が掛かってしまい、トンと自炊をしなくなった。
殊に晩メシに限っては月に1度か2度に激減している。
 
けれどもその夜は特別だった。
三浦・八重樫・村田のボクシング、
トリプル・ファイトを見逃すわけにはいかない。
でもって、台東区・御徒町の「吉池」に出向いたわけだ。
 
真子がれいの刺身は即断で購入した。
それもすでに切り分けられたものではなく、
まぐろでいうところのサク状態を―。
愛用の包丁を片手に半分は薄造りに捌いてポン酢おろし、
残りはこころもち厚めに切ってわさび醤油で賞味するつもりなのだ。
 
問題は吟味に入った、目の前のニシンである。
 
  あれからニシンは どこへ行ったやら  
 
いるじゃないのサ、ちゃあんとここに―。
もっとも昔に比べて漁獲量はわが自炊に等しく激減の憂き目をみている。
はるか昔は北海道ではなく富山湾あたりに
群が押し寄せていたのだそうだ。
 
さて、1尾づつパックされたのがおよそ十数匹。
つぶさに見てみると、大量に捕獲されるイワシと違い、
ニシンはサイズのバラつきが激しい。
個体差が著しいのだ。
ということは成魚も若魚も同じ海域を回遊していることになる。
 
出会ったのはとにかく目の覚めるような素晴らしいニシン。
肌は銀色、ニシンの色よ、なのである。
十数パックを入念に吟味した。
 ぷっくりと肥っていたのは3尾のみ。
ラップが掛かっているから触診はしかねたが蛇の道は蛇、
長年の経験上、それなりの目利きは養ってきたつもりだ。
 
 3尾のうち2尾はおそらくオスで腹に白子を抱えているハズ。
残り1尾はメスだから数の子がギッシリ詰まっているに相違ない。
ニシンに限っては白子も数の子も大好き。
ここは迷いに迷ったが食感重視で数の子を選択する。

両サイドに軽く切れ目を入れ、
粗塩をしてから小1時間ほどおき、
日本酒を振りかけてじんわりと焼き始めた。
こればかりは火元を離れられない。
焼き過ぎたら一巻の終わりである。

焼き上がりに目を配りながら
平目の薄造りで始めた晩酌@キッチンでありました。

=つづく=