2015年5月26日火曜日

第1106話 何処よりも此処を愛す (その10)

苦手な花、ジャスミン香る町々を越えて浅草を目指す。
4月下旬のとある夕べは根岸・入谷を通ってエンコの街に入った。
「神谷バー」の店先で待ち合わせた今宵の相方は
新しい友人のO戸サンである。
直前に慶事のあった彼女のお祝いを兼ねて
この月2度目の「弁天山」訪問である。

予約の18時半に10分ほど遅れ、つけ台に着いた。
この夜は六代目襲名が決まっているY下D輔クンと
六代目女将としてすでに活躍中のN川A子サンから
丁重なご挨拶をいただいた。

A子サンは五代目のご息女。
他家へ嫁がれて2児(3児だったかな?)の母となっているが、
通い女将を続けられている由。
日に日に数年前に急逝された先代女将に似てこられて
血は争えぬものを実感させてくれる。

D輔クンは「美家古」子飼いの二番手で
四半世紀を超える修業を積んできた。
伝統のシゴトと味覚が無事引き継がれることが決定し、
ご贔屓、ファン、サポーター、すべてひっくるめて
歓ばしいかぎりではないか。

ビールのグラスを合わせると、定番の北寄貝のヒモ酢がやって来る。
今宵のお相手はそこそこの呑み助、楽しい夜になりそうだ。
いつの頃からか品書きにつまみの欄ができている。
せっかくなので煮だことぬたをお願いした。

たこはいわゆる桜煮。
番茶で煮たのだろうか、柔らかい仕上がり。
その中から深いコク味が立ち上ってくる。
赤貝のヒモと長ねぎのぬたは赤味噌仕立て。
料理屋のそれよりもそこは鮨屋、インパクトが強い。
上方ではなくモロに江戸を主張している。
日本酒が欲しくなったが、あいやまだまだ、ここは我慢の一手だ。

互いの近況を語り合いつつもわがマナコは
目前の鮨種ケースに貼りついたまま動かない。
いや、右から左、左から右と動いてる、動いてる。
何から何へ、どのように征服していこうか・・・このことである。
とは言うものの、打順はほぼ固定されてはおるんですわ。
それでもそのときどきの相方の好みなんぞも考慮しながら
最終決定することを心掛けてもいるのだ。

1番バッターは不動の平目昆布〆。
コレ以外で始めたことはないんじゃないかな?
念のために28年前からつけ始めたフード・ダイアリーを
もちろんすべてじゃないけど、
チェックしたらば、毎度トップに打席に入るの平コブくんであった。

=つづく=