2015年5月29日金曜日

第1109話 何処よりも此処を愛す (その13)

浅草の「弁天山美家古寿司」にO戸サンと二人。
にぎりの7カン目をいただいたところである。
互いにお腹を空かせて美食の都、
もとい、「美家古」を訪れたので
鍋のこげ飯をたもとに隠すこともなく、
二人の”空腹にぎり旅”はなおも続く。

8番打者は飛車的存在の穴子だ。
まずは魚体のシモを煮切りでお願い。
この美味については先述した通り、重複はしない。

9番に持って来たのが煮いか。
五代目は「するめいかの煮いかでございます」―
そう、ひとこと添えて相方の前に着地させた。
悲しからずや、江戸以来のこの種は
平成の鮨屋からほとんど消え去ったのが現実。

ここ数年、真いかなどと、
以前には聞き覚えのなかったイカが巷にあふれている。
しかし、何のことはない、
真いかはするめいかの別称、というか新称だ。
干しするめとの混同を避ける意味合いもあろうが
廉価なイカに高級感を与える、
あざとい作為が見え隠れしないでもない。

野球なら9番打者で打ち止めとなるところ、
われわれ腹っぺらしの旅は終わらない。
10番は穴子のカミを煮つめでやる。
そう、常に穴子だけは必食の2カンなり。

当夜は穴子を続けてやらず、
あえてあいだに煮いかをはさんでみた。
初めての試みなれど、これはこれで目先が変わってよろしい。

11番はまぐろ中とろのづけ。
往時、づけはといえば、赤身一辺倒だったが
近頃は中とろにも一仕事施すようになった。
中とろもまた、づけにしたほうがベター。

O戸サンに双方の違いを味わってもらうため、12番は赤身のづけ。
順番的にあべこべになったものの、彼女のほほはゆるみっ放しだ。
それにしてもよく食べるぞなもし。

燗酒の徳利は3本目を数えている。
銘柄は大関。
甘口ではなくとも菊正より甘めだ。
本まぐろと出会い、大関がいっそう輝きを増す。
穴子との相性だってけしてわるくはないが
穴子には冷たいビールがよりいっそう合うのです。

=つづく=